市川オペラ振興会「妖精ヴィッリ」「ジャンニ・スキッキ」
昨年「つばめ」日本初演を実現させた市川オペラ振興会が、今年もプッチーニの滅多に上演されない作品「妖精ヴィッリ」を上演するというので期待して出かけた。
CDなんかはあまり聴かない方なので、実は「妖精ヴィッリ」についてはプッチーニのオペラ第1作ということ以上は何も知識は持ち合わせていなかった。アリアのひとつも知らなかった。なので、まずは作品の感想からだが、音楽はプッチーニらしく心地よかったものの、ストーリーが非常に単純で、正直なところおもしろい話ではなかった。しかも構成が不思議な感じで、後期の作品のように全体としてのまとまりにも欠けるような感じがした。耳触りはいいが、毎年観たくなるほどではない、というのが作品の感想。
私は関東や関西の市民オペラ・地域オペラをあちこち聴きまわっているが、市川オペラ振興会はその中でもトップクラスのオペラだと思う。何よりも音楽的に(感動的とまではいかなくても)満足できる水準でなければならないが、今回も「妖精ヴィッリ」には田口興輔、「ジャンニ・スキッキ」には稲垣俊也などを配している上に、オケもプロのニューフィル千葉がピットに入っているので物足りなさは全くなかった。合唱はアマだが、キャストやオケがプロだとその影響を受けるのか、なかなか美しくまとまっていた。
音楽的な完成度からみると他にも満足できる市民オペラはあるのだが、オペラ好きとしては更におもしろい演出を望むところになる。これについても今回の「ジャンニ・スキッキ」は喜劇ながらも地獄墜ちで終わらせ、一見不釣り合いな「妖精ヴィッリ」との演出上の統一感が図られていた。
少ない予算の市民オペラで舞台装置をどう処理するかも、そのオペラの水準のひとつだと思うが、単純だが効果的な照明の力もあって、全然質素さは感じられなかった。
私がここのオペラをトップクラスだと思うのは、これらの要素に加え、演目の選び方。日本では滅多に取り上げられない作品(しかも珍品や新作ではなく、一度は観てみたいと思われる作品)を、敢えて上演する姿勢が頼もしくなってくる。これらを満たす市民オペラは、関東では藤沢と市川ぐらいではないかと思う。(関西では堺と、市民オペラではないが豊中のザ・カレッジ・オペラハウスがクリアしていると思う。)
どんなに舞台がすばらしくても客層のレベルがそれに追いつかないのが市民オペラの宿命だが、今年の市川オペラは昨年より観客のお行儀が幾分良くなっているような気がした。
(9月19日 市川市文化会館)
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