神奈川芸術フェスティバル「ちゃんちき」
オペラアンケートで「團伊玖磨の作品の中で一番好きなものは?」という質問があったとするならば、それはオペラ好きへの質問としても極めてマニアックな質問であるかもしれないのだが、私は「ちゃんちき」だと答える。(ちなみに、二番目は「建・TAKERU」である。)團さんの代表作のように扱われている「夕鶴」は、私が感ずるには團さんの本質を突いているようには思えないので、日本オペラの代表作とはいえても、團伊玖磨の代表作ではないと思っている。逆に「ひかりごけ」になると、あまりに音楽もテーマも強烈すぎて、一般受けはしないように思う。そういったなかで、「ちゃんちき」については、音楽は他作品より格段に聴き心地が良く、登場人物もキツネとカワウソしか出てこない素朴さに包み込みながら、親から子の自立と人間による自然破壊という社会性をわかりやすく伝えている。(芸術作品は表面的な美しさにとらわれて内包されているメッセージがわかりづらいこともあるが、「ちゃんちき」は一回観るだけで不思議とその訴えていることがわかる。)この作品の社会的な本質は、時代も国も問わないものであるし、しかもそれを動物だけで表現しているのあるのだから、外国でも十分に通用する作品だと思う。(実際、二期会のヨーロッパ公演で上演されたが。)「夕鶴」が日本的なものとして外国に受け入れられることとは違って、「ちゃんちき」は普遍的な問題を愉快に扱った作品として受け入れられると思う。
今回の公演は、加藤直演出であったが、やや社会性の表現に傾いていたように思えた。演出というより、舞台装置(串田和美)のためだったかもしれない。もう少し自然の中での出来事という雰囲気を出させた方が、社会性も生きてくるのではと感じた。
一方、キャストはすべて良かった。特に勝部太は、團作品には欠かせない存在のようで、役にぴったりだった。子狐を演じた鵜木絵里も動きが若々しく、舞台を楽しくしていた。それから、東京オペラシンガーズ、コーロ・カロス、横浜シティ合唱団の合同の合唱も良かった。そこまで力強くなくても、と思うぐらいよく響いていた。指揮の佐藤功太郎はいつもの通り、作品そのものを生かした無難なところ。全体として音楽は大満足だが、演出が少々違うと感じた公演だった。
あと「聴耳頭巾」と「楊貴妃」を舞台で観れば、團さんのオペラは全部制覇するなとマニアックな野望を考えていたが、もっとよく考えれば新作が出てくることだってあるのだから、全部制覇なんてことはまだまだ先だとわかって楽しくなってきた。
(12月10日 神奈川県民ホール)
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