課外芸術鑑賞会と一般客

 オペラ公演に学校の団体が入ることがある。私の通っていた学校では歌舞伎公演しか観に行かなかったが、授業の一環でオペラが観れるなんてなんともうらやましい。

 ところが、実際にクラス全員や学年全員で観に行っても、本当に嬉しく感じるのはほんの数名で、大半の生徒にとっては退屈な時間にしか感じていない。若いうちはそんな退屈な時間がガマンできるわけがなく、ついついおしゃべりしたり、居眠りしたりしてしまう。生徒だけではない。先生だって、まじめに観劇しているのは音楽の先生とあと少しで、他は退屈そうにしている。私の高校時代の歌舞伎鑑賞会も同じようなもので、「眠たくなりますが、日本の伝統文化を知るのは大切なことです。」と前口上していた先生自身が、深い眠りに陥っていたのを覚えている。(数学の先生)

 一昨年だった思うが、千葉で藤原歌劇団が「トスカ」を上演した時は、教育委員会が主催していたのか、席の半分が学校の団体で、半分が一般客だった。しかも、団体と一般の席が混在していて、四方を学生服に囲まれた一般席もあった。この時の生徒たちはうるさかった。下原千恵子のトスカの声もかき消されて、耳をそばだてて聴く一般客もいた。あげくに指揮者(菊池彦典)がタクトを振りながら、客席を振り向いて「シーッ!」と叫んでしまった。さすがにうるさくなくなったが、小声のおしゃべりは絶えなかった。

 今年5月の新国立劇場の「魔笛」(5月10日)も、私の座った前の席が中学校の団体だった。これは「トスカ」の二の舞になるかもしれないぞ、と思ったが、いざ始まってみると全然物音がしない。全員居眠りかな、と思ったらそうではない。みんな舞台を観ているのだ。そのうち、男子生徒なんか身をのりだして観だした。行儀がよいとはいえないし、後ろに座っている私は観づらくなったのだが、なぜだか嫌になるどころか嬉しくなってきた。若いうちに半強制的にオペラに接せられて、うんざり思われるよりは、身をのりだすほどおもしろいと思われた方が、他の観客にとっても気持ちがよい。

もっとも、この二つの差は「トスカ」と「魔笛」の差かもしれない。

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