東京二期会「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

 ハンス・ザックスは、オペラの中に出てくる人物としては、マルシャリンの次に好きなのだが、なかなか日本ではお目にかかることができず、私は今回が2回目である。前回はというと、もう10年位前になると思うが、ベルリン・ドイツ・オペラの来日公演であった。当時高知県で仕事をしていた私は、どうしても「マイスタージンガー」を舞台で観たくて、しかも仕事が忙しい中、東京までワーグナーだとどうしても1泊以上にならざるをえず、休みの都合も分からないので、1枚はムダになるとは知りつつも、日を分けて2枚チケットを取った。そこまでして行ったのだが、大きく期待したほどのおもしろさはなく、別の日に期待せずに行った「トリスタン」の方が感動したりしたのであった。

 おそらく、ザックスの人物像の奥行きが私が思っていたほど感じ取られなかったからだと思う。私がそれまで知っていて基準にしていたザックスは、それよりさらに昔の学生の頃、ベルリン国立歌劇場の来日公演が教育テレビで放映され、それを録画して何度も繰り返し見たテオ・アダムのザックスであった。(ペーター・シュライヤーがダーヴィッド。)今にして思えば、エヴァを妻にしようかと思い誤るには少々老境の域に入りかけていたかもしれないが、人間的な奥行きと味わいがあって、オペラ・ビギナーの私の心をとらえてしまっていたのであった。

 それで今回やっと2回目の舞台鑑賞だったのだが、正直なところ、ベルリン・ドイツ・オペラの来日公演の時よりはおもしろかった。まず舞台が明るく楽しい。「マイスタージンガー」はこうでなければ、長時間を耐えられない。モネ劇場のプロダクションで、第1幕なんかちょっと形容しがたい不思議な舞台装置だが、人物の動きや歌唱によって違和感のない物語に引き込まれていき、舞台装置なんか関係なくなってくる。2幕、3幕になると分かりやすい舞台装置となり、最後の場面は劇場全体を使って祝祭性を極め、あっという間に6時間が過ぎてしまった。何より最後まですばらしく歌い通したキャストがとても良かった。ザックスをはじめ登場人物それぞれの性格がよく表現されていた。オーケストラがもう少しワーグナーっぽく響いてくれれば完璧だったのだけど、国内団体の公演としては最高だった思う。

 ちなみに東京二期会のワーグナー公演には50分休憩というのが1回入る。普段から休憩はなるべく外に出て気を紛らわすのが好きなので、今回は向かいの西洋美術館に入ろうかと企んだのだが、もう夕方で閉館していた。残念ながら次回挑戦である。いつの日か、東京文化会館の休憩時間に上野動物園でパンダを見るのが夢である。

(2002年7月27日 東京文化会館)

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