新国立劇場「なりゆき泥棒」

 ドアをいくつか置いただけの舞台装置なんてものはそんなに珍しくもないのだが、ドアの色とは思えない鮮やかな蛍光色のドアが並んでいる舞台は初めてだ。背景も床も透き通るような青空でいっぱいにした中にカラフルなドアを配して、見た目だけでこれがオペラの舞台だと言われると、まさかロッシーニの舞台なんて思いもよらず、現代の新作の公演としか思えないような雰囲気である。しかし、この舞台でロッシーニのオペラが始まると、意外にすんなりなじんでしまう。そういえば何年か前の東京二期会の「チェネレントラ」も童話の絵本のような楽しい舞台装置だった。そもそもロッシーニの喜劇は音楽も台詞も奇想天外なのだから、それをそのままイメージしていけば結構キテレツな舞台でも全然大丈夫なのかもしれない。

 演出の恵川智美は、私は実のところ知らなかった。てっきり演劇の演出家かと思っていたのだが、プロフィールを見ると、出身は演劇でも最近はいろんなオペラの演出を手掛けていた。だから最初は説明的な演出になるのかなと勝手に予想していたのだが、実際にはロッシーニの音楽に即した、オペラとしてはきわめてスムーズな演出であった。喜劇だからといって積極的に客席の笑いをとるというスタンスではなく、このオペラをすでに知っている人にとっても十分楽しくなるような演出である。確かにカミナリ役のような演技だけの助演を入れるのは、オペラ的ではないかもしれなかったが、装置も含めた全体感からすると浮いてしまうこともなく、オペラに入りこんでいたと思う。

 小劇場なので、ムリなく歌うキャストに大きな不満が出てこないのはいつものこと。あとはどれだけ楽しく演じてくれるかであるが、それも十分であった。

 ロッシーニの本質とは関係ないことで、以前に同じ小劇場シリーズの「幸せな間違い」の時にも感じたことだが、タイトルがもう少しおもしろいものにならなかったのだろうかと思う。ロッシーニの頃はタイトルで客を呼ぼうなんてことは思いもよらなかったのかもしれないが、今の日本では結構重要な客寄せのポイントとなるような気がするのだが。もちろんオペラ好きにとっては関係ないが、オペラも観る、とか、最近オペラを観出した、という人にとってはタイトルも大事だと思う。「道を踏み外した女」なんてことでは、オペラ好き以外までガンガン客が入ることにはならないと思う。今回の「なりゆき泥棒」もそういう意味で変なタイトルに入るのではないだろうか。私が別のタイトル案を考えようと思うが、「群盗」の時にも別タイトルを考えて不評だったので、今回はいいタイトルが思いついても公表しない。

(2002年9月15日 新国立劇場小劇場)

戻る