大分県県民オペラ協会東京公演「青の洞門」

 私は東京文化会館のロビーでそば粉が売られているのを初めて見た。「そば」ではなく「そば粉」である。他にもいろんな特産物を、ハッピを着た人たちが売っている。この光景は紛れもなく、デパートの8階催事場の「九州大分大物産展」である。一体自分は何をしにここに来たのかと思ってしまう。オペラを観に来たはずである。確かにプログラムも売っている。しかしプログラム売場もみんなハッピを着ている。私は、ハッピのとても似合う、いかにも農産物を売りそうなお姉さんから、オペラのプログラムを買い求めた。

 地方でのオペラ活動は私の最も気になることのひとつだし、新作オペラというのも大好きな方だし、原嘉壽子さんの作品も好きなので、今回の公演は個人的には外せなかった。しかも最安席が2千円である。大分県県民オペラ協会と地元自治体の公演を東京で行うのだから、ロビーでゆずジュースとかぐらいは売っているだろうと予想していたが、まさか物産展までやっているとは思わなかった。(館内放送でも物産展だとはっきり案内していた。)

 「青の洞門」は確か地理でも習ったような気がするし、観光ガイドなんかにも成立については載っているので史実は知っていたが、それを基に菊池寛が「恩讐の彼方に」という小説を作っていたことまでは知らなかった。小説はかなりフィクションになっていると思うが、オペラはこの小説を原作として台本が作られていた。3幕まであるが、休憩を入れても1時間半余りと、かなりコンパクトにまとめられていて、色恋も争いも出てこない地味な展開に飽きがくる前に終わるようになっていた。少し弱点を挙げれば、大分(地元ではホールの他に、青の洞門そのものでの野外公演もあったという)での上演を想定して作曲されたために、合唱の扱い方が制限されていてインパクトが小さい。これは児童合唱にも同じことがいえる。また、端役が多く、それが劇の展開に大きく食い込んでこない。合唱と脇役の影響力が小さいので主人公ひとりの物語のようになっていて、これでは小説よりも史実を題材にした方が近かったのでは、と思えるぐらいである。上演のための種々の制約があって仕方のないことだと思うが、原さんの音楽はとても劇的でわかりやすいので、もし台本からの改訂版ができれば、もっとおもしろくなって再演も増えてくるのではないかと思う。

 公演はオーケストラだけ東京の楽団で、あとは大分の人たちだけで占められている。キャストを見ると、本職は中学校の先生という人が多いが、結構みんな東京文化会館でふつうに歌えるのには驚いた。演技も全く自然である。合唱も児童合唱もそんなに人数は多くないが、よく歌えていた。演奏面でのレベルはかなり高いのではないだろうか。あとは地元でのオケがどれくらいなのかが気になるだけだ。

 ところでこの公演の観客はどんな人たちだったのだろうか。ふつうのオペラ好きだからといって行きそうにないし、大分出身だからといって行きそうにないし。それでも結構入っていて、しかもみんな真剣に聴いていた。まさか、地方オペラが好きで新作オペラが好きで原オペラが好きな人ばかりではないと思うのだが。

(2003年1月25日 東京文化会館)

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