=========== 卒業



僕の部屋にどらえもんが来てから、もう何年たったっけ?

こうして2階の窓から見える景色も、ずいぶん変わったよね。
去年は夏から落ち葉が降ってきちゃって、母さんがブツブツ言いながら玄関の掃除
してたっけ。
そうそう、あそこの火事で焼けちゃった家、まだ新しい家がたたないんだって。


....ねぇ、どらえもん。
僕の話、おこんないで聞いてくれる?

僕にとって、どらえもんはずっと、友達だった。
本当ならこれからもずっと、友達でいたかった。
だけど....

その4次元ポケットには、何でも入ってると思ってた。
いつだって、僕が望めば、夢を叶えてくれると思ってた。
だけど.... だけど....

出てくる道具はどれもこれも、うまくいかないものばかりだった。
説明だけ聞くといかにもスゴイ性能がありそうだったけど、実際にはひどい欠陥商
品が幾つもあったじゃないか。

なのにどらえもんったら、道具が欠陥商品なのを棚に上げて
「道具に頼る君が悪いんだ、弱いんだ」って、お説教ばっかして。
道具が勝手に暴走した時だって、僕が「助けて〜」って叫んでるのに、僕のこと放
ったらかして空の上で呆れてたじゃないか。

そんなに、僕が困る顔が見たかったの?
仲がいい振りして、僕のことバカにしてたとしか思えないよ。

もう、我慢できない!

「どらえもんなんて! 嘘八百もいいとこだ!!」

....ごめんよ、どらえもん。いくら何でも、800も嘘はつけないよね。
でも、1000の道具のうち、僕にとって役に立ったのは3分の1ぐらいだったん
だ。僕がどらえもんを信じていける、どうにかぎりぎりのサイサンラインでしか無
かったんだよ。

いいんだ。
僕が悪いんだ。僕が頼りなさすぎたんだ。
スネ夫やジャイアンにはいいようにされるし、できすぎ君みたいに賢くもない。
このままじゃ、静ちゃんを守れる僕にはなれない。
優しいだけじゃダメなんだ。

強くなりたいんだ。
僕自身がどらえもんになれるぐらいに。
僕がどらえもんになったら、せめて欠陥商品の修繕道具ぐらいは出せるよ。

そろそろ、どらえもんから卒業しないといけないみたいだね。
だからもう、こんな僕のそばになんか、いないでよ。
僕のことなんか忘れて、未来で、幸せに暮らしてよ。


....行っちゃった....  さようなら.... どらえもん。


この引き出し、もう二度と開けないからね。
もしも明日、またジャイアンにいじめられても、さ....