保安官はカウボーイちゃうやろというツッコミを受けつつ、そりゃそうなんだが以下略という感じで、その後も黒人の出てくる西部劇を考え続けていた。我ながらしつこいね、どうも。1966年には『砦の29人』でシドニー・ポワチエが、同年の『プロフェッショナル』にはウディ・ストロードが、そして1962年の『荒野の3軍曹』ときて、サミー・デイヴィス Jr. に行き着いた。この『ハリウッドをカバンにつめて』は、彼がハリウッドの交友関係や映画について書いた超絶オモシロ本で、1980年に出版された。ある種、芸能界の暴露本でもあり、モナコでは国王の逆鱗に触れ発禁になった(うそ)。そういう部分も非常に面白いが、これは彼の映画に対する愛情と見識が溢れた書物になっている。映画ファンなら必ず読んでおきたい一冊だ。その中で、彼が西部劇について語った部分を引用する。
私はいつも、自分が昔風の西部の拳銃使いになった姿を夢に見て、何年間かそういう役をやらせてほしいと頼んだことがあった。撮影所の連中は黒人のカウボーイなどいるわけがないと思っていた。彼らは歴史の本を読んでいなかった。奴隷解放ののち、西部に黒人のカウボーイが大ぜい生まれた。映画史家たちはまた、南北戦争のときに黒人だけの連隊があったことを忘れている。事実、“生粋のアメリカ人だけのカウボーイ”は神話中の神話なのだ。十九世紀に西部の人々のほとんどは移民だった。エロール・フリンをカウボーイ映画に出演させようという企画があったとき、こんな声があがった。「どうしてアイルランド人がカウボーイをやれる」しかし、西部はヨーロッパのあらゆる国々からやって来た人々によって開拓されたのである。ビリー・ザ・キッドが最初に職業についたのは英国人の許でだった。黒人についても同じで、アメリカの鉄道の大部分は黒人が建設した。いずれ、このことを認める映画が作られるだろう。
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少ないながら、いくつか作られた黒人出演西部劇について言及していない理由はわからない。ただ、別の章で『ブレージングサドル』について、自分がやりたかった黒人のカウボーイジョークが面白いといった記述はあった。今回、全部読み直している時間がなかったので、他にもそういった記述はあるかもしれないのだが、いよいよ衰えつつある Eyegrep では発見できなかった。これは想像だが、そんなものでは全然不充分だと思っていたのではなかろうか。そして残念なことに、彼の満足がいくであろう映画は、いまだ作られていない。そこに金脈があるかどうかもわからない。もはやほとんど作られることのなくなった西部劇で、これから黒人のカウボーイが登場する可能性も、あまり高いとはいえないだろう。
ところで、今回名前をあげた本のうち、『荒野の3軍曹』だけ未見である。アメリカですらビデオ化されていない模様である。ぜひ、見てみたいのだが……。
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