恐怖の忘年会


 そのトラバンドは、バンマスがとにかくいろいろな仕事を取ってくるのである。その中で最も情けなかったのが、忘年会だった。

 12月の夕方、我々は神奈川県中央部のとあるホテルに集合した。これからある会社の忘年パーティーである。3管4リズムであるから、パーティーにしてはそこそこ立派なバンドだ。

 しかし、ギャラは安い(^^; まあ、遊んでいるよりはもらえるだけマシか、ということで受けたのだった。

 そのホテルには使えるピアノがなかったのか、電子ピアノをバンマスが用意しておいてくれた。このような楽器を持っていると、ぐっと仕事の幅が広くなるのであろう。しかし、当時の電子ピアノは現在のものとはまったく違う代物であった。なんせクラヴィノーヴァなど影も形も無い頃である。早い話、Blaster Keyboardなのだ。とにかく、自分で持ってこない以上、ピアニストは出されたピアノに文句を言えない。

 セッティングのあとサウンド・チェックをし、しけた弁当を食べると、仕事の始まりだった。

 乾杯の後、BGMをだらだらと小一時間演奏する。普段のハコ仕事以上に聴いている人なんていないのだ。こちらも気ままに、ちょっと暴れつつも、演奏を続けた。

 その後、何人かの歌伴である。事前の打合せによると、すでに人選は終わっているとのことで、つまり「社内の歌自慢の競演」であった。さすがにそれほどダメな人はいなくて、つつがなく終了である。

 そして、最後は社長の歌である。これが軍歌(^^; いやあ、これには参りました。1曲目で完全に調子にのり、その後はメドレーであった。5〜6曲ではきかなかったのではないだろうか。

 だいたい軍歌の伴奏なんてのは、全くつまらない。その上、出てくるコードは4つぐらいで、テンションはご法度。キーこそ違うがこれの順列組み合わせでできているのだ。であるから、譜面を見ているのだが、ちょっと気を抜くとどこをやっているのか判らなくなるのである。ベーシストも同じ状態であるから、そちらを100%信用することもできない。

 そして何より、その異様な雰囲気である。拳をふりながら絶唱状態の社長の前で、社員が真っ赤な顔で声を張り上げているのである。これは恐ろしい光景であった。  それを見ながら、手持ちぶさたなラッパ吹きやサックス吹きは笑いを堪えているのである。

 現在もあの会社は忘年会をやっているのであろうか? 年末になると思い出すシーンである。


Music by IKO-IKO