去年の初来日時のレポートで「最初で最後の来日なのは間違いない」なんて私は書いていましたが、なんとジョアン爺さんは本当に2年連続で日本に来てしまいました。しかも今回は大阪で2回、東京で4回公演という日本ツアー。去年の来日時には日本の聴衆に感動し、「日本の田舎に家を買って住もう」とまで言っていた(笑)そうですが、本当に日本が気に入ってくれたようです。
私が観に行ったのは東京公演3日目、3連休の真ん中という絶好の日でした。昼間は横浜で遊んでいたら、交通機関のトラブルに巻き込まれ、国際フォーラムに到着したのは開演時間の17時ギリギリ。ジョアン・ジルベルトと言えば、開演時間が大幅に遅れることで有名(悪名高い?)ですが、今回の日本ツアーは全般的に遅れは少なかった模様。この日も席に着いてから、ロビーにパンフレットを買いに戻ろうかと思ったら、「アーティストは既に会場に到着しており、開演の準備をしております」というアナウンスが。パンフは終演後に買うことにして、着席して開演を待つことにしました。例によって会場内の空調は切られていましたが、外は肌寒いくらいの気温だったので、丁度よかったですね。蒸し暑くはなかったです。
開演のブザーが鳴ったのは17時10分。場内がシーンと静まりかえります。そして、ジョアン本人の登場は17時17分。わずか17分の遅刻とは、早い、早すぎるよ(笑)。去年の横浜公演と違って、PAアシスタントも一緒にステージに出てきて、ボーカルとギターのマイクの位置を調整します。
1曲目は“Nao Vou Pra
Casa”(僕は家へは戻らない)。スゲーよ、1曲目からジョアンは絶好調だ。マイク調整の成果もあり、PAサウンドも文句無し。
本人の演奏はもちろん、観客も素晴らしい。演奏中は話し声はもちろん、物音一つたてず、曲が終わると同時に割れんばかりの大拍手。そして、ジョアンが次の曲を弾こうとする瞬間に拍手もピタっと止まる。去年に比べると、客席には上品そうな若い女性も目立ち、客層が広がった印象を受けました。ハゲ度は確実に下がりましたね(笑)。去年の伝説的な来日公演のおかげで、ボサノヴァ・リスナーの幅が広がったのでしょうか?
去年は「奇跡の初来日」で、私も舞い上がっていた(笑)のですが、今年は2度目のライブ体験ということもあり、落ち着いて聴くことができました。生き神様ジョアンとはいえ、冷静な視点でみると、年齢による衰えはありますよね、やっぱり。ギターのフレットを押さえる力が弱っているのか、弦がビビることが結構ありました。あと、後半はチューニングもちょっと怪しかったような? 去年は細かくチューニングを直しながら演奏していたような気がするんですが、音感が衰えてしまって、細かい音程があまり気にならなくなってしまったのかなぁ?
今回の日本ツアーはDVD化されるという噂がありますが、ジョアン本人が演奏のクオリティにダメ出ししなければいいんだけど・・・。
ジョアンの来日公演と言えば、名物は「本番中のフリーズ」。
去年、私が観た横浜公演で史上初のフリーズが発生し、20分間動かなくなってしまいました。体調不良かとスタッフも観客も心配しましたが、本人は日本の聴衆の素晴らしさに感動し、一人一人に感謝を捧げていたそうです。常識的なコンサートではあり得ない光景ですな(笑)。
もちろん、今年もフリーズはありました。開演から約1時間経った18時25分、観客の拍手の中、ジョアンが動かなくなりました。1分、2分経っても動かない。5分くらいすると、係員が場内を動き回り、観客に「拍手やめてください! 本人の演奏が始まりませんよ〜」と注意して回ります。あのままだと、ジョアンはずっと観客の拍手に聴き入ってしまうから、いつまで経っても演奏が再開しないのは分かるんだけどさ、いや〜「拍手をやめろ」なんて言われるコンサート、初めての体験だよ(笑)。
万雷の拍手の中では係員の注意が観客全員に徹底されるはずもなく、しばらくは拍手は続きました。しかし、徐々に拍手は小さくなっていき、ついに場内は静寂に戻ります。すると、ジョアンが顔を上げ、「ジャポン、云々〜」と一言話します。ポルトガル語でMCされてもサッパリ分かりませんが、日本の観客に対する感謝だったのは間違いないでしょう。再び拍手が起こると、ジョアンがようやくギターを構えます。時間は18時32分。今回のフリーズは短めで7分間でした。
フリーズから目覚めた後の1曲目は“A
Felicidade”。十分に休息をとったせいか(笑)、声もギターも張りがあって、この日ベストの演奏だったのではないかと私は思います。
そして、本編終盤は“Samba de Uma Nota
So”“Desafinado”“Chega de Saudade”の必殺の3連発。70過ぎの爺さんと40年以上前の楽曲だというのに、この瑞々しさはなんだろう。これこそ音楽の奇跡だよなぁ。
しかし、観客に礼をした後、舞台袖にトボトボと歩いていく姿は、確実にオジイサンだ(笑)。本編終了は20時20分。
去年のアンコールでは、袖に引っ込んだらすぐに舞台に戻ってきた記憶がありますが、今回は数分間待たされました。そして、アンコールは5曲。最後の曲はやはり“Garota de Ipanema”(イパネマの娘)でした。終演は20時45分。
この日はトータルで2時間半近い熱演でしたが、翌日の最終公演では4時間近く演奏し、さらに日本のために作った新曲まで披露したとか。ジョアンは本当に日本の観客を愛しているのですね。その中の一人に自分がいたことは本当に光栄です。
ボサノヴァとジョアンを世界で一番愛している日本の観客と、日本の観客を世界で一番愛しているジョアン・ジルベルト。美しい関係ですよ。
もちろん、ジョアンにはまだまだ歌い続けてほしいけど、年齢的に言って寿命が来るまでそう遠くはない。出来ることなら、晩年は大好きな日本に住んで、多くのファンの愛情を感じながら安らかに過ごしてくれたら、なんて願うのはわがままというものだろうか。
来年も待ってるよ、ジョアン。