8月28日、下の娘の日本人学校の2学期の始業式だった。
転校初日の彼女はカチカチに緊張していた。前日、説明会で校長先生が転校生は皆の前で自己紹介と趣味や将来なりたいものをそれぞれ言おう、とおっしゃったから。
「なりたいものなんてないのになぁ。」
「だいじょうぶよ。よ〜くよ〜く考えてごらん。何かあるから。」
「でもサ。でもさ・・・・。」
なんだか、はっきりしない。
「だって、おもしろそうなもの、な〜んにもないんだもの。」
看護婦さん、学校の先生や絵描きさんとかとにかく漢字で書ける職業を選んで言わなければならないと思っていたのだ。
「そう。」
しばらく、じっと考えていた彼女は、
「しかたない!じゃあ、お花やさんって言っとこう。」
と、言う。
「うん、いいんじゃない。すてきよ。」
「でもサ、あのね。びーびーはね、ホントはね。」
「ン??ほんとうは、なりたいものがあるの?」
「ん、ん、(ほとんど、イ、イに聞こえるんですけど・・・。びーびーがとっても機嫌のいいときの返事。)」
「ふーせんやさあん!!!」
なるほど、彼女なりにカッコの良さを気にしてたんだ。
上の娘が1741番学校へ通い始めて、早1週間。
この国では送り迎えは必須の条件である。
経済状態の悪化は、人々の心を荒立たせる。
外国人と見ると金持ちだと思われて、誘拐されたり、お金を巻き取られたりする危険が高い。
もちろん、ロシア人の子どもであっても親はこどもを遠くへ一人でやったりなんかしない。(多くの子どもたちは親の送り迎えをしてもらっている。)
ともあれ、わたしにとっては、むすめの友達や学校のようすを見る絶好のチャンス。
金曜日は本来6時限の授業があったはずなのに、なぜか(むすめはなぜか???と今もいぶかっている。)4時限しかなかった。
お迎えが来ないと学校からは帰れない。
どうしよう・・・・と、思う間もなく10人ほどのクラスメートが彼女を囲んで、学校の食堂で遊び始めた。
ロシア語を解さないむすめとどうやって遊ぼうというのだろうか。
関係のあるものの名前を順番に言っていこう!と、いう話になったらしい。
皆が言っているロシア語の遊びにはついてはいけないが、むすめにはディズニー・キャラクターという強い味方がいるではないか。
「ナトゥメ、あなたの番よ。」
「ミニーマウス」
「ほら、次。」
「ミッキーマウス」
「ほら、次。」
「ぷるーと」
「ほら、次。」
「デゥーイ」「ルーイ」「エトセトラ・えとせとら・・・・」
出尽くしたろころで、
「セーラームーン」
「それ違う!!それ間違い!!!」
箸がこけても笑える乙女たち。(ロシアにお箸はないから、どんな風に彼女たちをひょうげんするのかしら?)
今度は、セーラームーンの絵を描いてみると皆、
「わたしにも。わたしにも」
の大合唱。
「もう、そろそろおかあさんが来るころだよ。」
と、外へ皆で出てきたときに、わたしがお迎えに参上。
いるわいるわ。女の子達が10人ほどこちらを向いて、ケラケラケラケラ笑っている。
茶色の目、青い目、グリーンやら、黒いの。
赤毛にブロンド、漆黒の毛。巻き毛にストレート。
どうも生っ粋のロシア人だけではないらしい。
「ねえ、みんな自分が何人だか、名前といっしょにおしえてよ。」
と、言うと、口々にわれこそはと、言い争うものだからうるさくって仕方がない。
だけど、チェチェン人、キルギス人、ダゲスタン人、ロシア人、アゼルバイジャンにユダヤ人。
9人の女の子のほとんどが違った民族だった。それぞれ、家庭の中では、自分たちの民族固有の言葉を喋っているらしい。バイリンガルは当たり前。トリリンガル、いやその上をいく子どもたちも多いのかしらねえ、と思わずため息をついてしまった。
7年生は5クラスあって、AクラスとBクラスが普通の文部省規定の授業をやっている。
V.G.Dクラスはそれぞれ、人文重点クラス、数学重点クラス、物理重点クラスに別れている。
それゆえに授業数も多く、土曜日が休みではない・・・。
(A.Bクラスはもちろん毎週土曜日は休養日であ〜る。)
実は土曜日が休みでないと知って、わたしたち親は本当にがっかりしたのだった。
土日が休めないというのはとってもしんどい。しんどすぎる。
むすめに休んでもいいんだよと、言ってやると、「行くよ」と、答える。再び、がっくり。
授業内容はかなり厳しい。
数学など毎回宿題が出るのだが、「見開き2ページの問題をやってくること!」
なんて、出題されると、小さい文字で盛りだくさんな計算が・・・実にモッコリとある。
むすめはその量の多さにヒーフー言いながらも、
「数学はいいんだ。わかるもん。」
いじましい限りである。
次回は感心した歴史の教科書について触れてみたいと思う。
今日はこの辺で・・・・。
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