9月17日(火)
へんへんですが、ちょっとおじゃまします。
モスクワで生活する日本人には、大使館員、マスコミ関係、民間企業の駐在員、研究者、留学生などがいる。このうち前3者と後2者の間には大きな溝がある。
前者は「モスクワへなんか行きたくなーい。けど、仕方がないから行きましょう。その代わりに十分な手当て(ハッキリいうと金)を保証してね」ということで優雅な外国生活を送ることになる。
お手伝いさんや運転手を雇い、家賃は無料(10年前の留学時、在モスクワ日本大使館で「小使い」という言葉がまだ生きていることを知り、時代錯誤なところだなぁと驚いたことがあった)。そのうえ給料が日本の3倍(もっと多い?)という生活が待っている。民間企業だと、引越し代金もすべて会社もちなので、自腹ならとても高くて運べない量の家財を運んでくる※
さらに会社によっては2ヶ月に一度ずつくらい、日本食配達制度があり、これまた無料で送ってもらえる。交遊範囲はほぼ日本人に限られ、ブルジョワ、あるいは貴族生活である。
後者はロシアの研究という目的で「自発的」に来ているが、ヴィザの手配から住居探し、荷物の運送、居住登録などすべて自分でしなければならない。これらの手続きは生活上、当然のことではあるが、ことがロシアなので結構骨が折れるしお金もかかる。
大部分が前者に属するモスクワ在住の日本人の人たちは、物質的に恵まれて余裕があるせいかとても親切な人が多い(後者の人たちが不親切という意味ではありません。念のため)。日本から送った荷物の運送を頼んだ会社が倒産したので何人かの人に相談すると、またたく間にモスクワにある日本の別の運送会社を知っている人を紹介してくれたり、すべてを放っぽり屯ずらした日本人社員の居所(日本に帰っていた!)を探しだしたりしてくれた。
ところが逆も真なりで、「天狗さん」になる人も中にはいる。大使館の「親切さ」は有名だし、ちょっと高い(一泊100ドル以上もする)けど、クレムリンの前に位置し交通の便がいいので多くの旅行者が利用する「インツーリストホテル」を「あんな安宿は危険だからやめた方がいい」と教えてくれたのはNhテレビの特派員である。同じ運送会社に荷物を頼んだK通信のY夫婦もまさにこのタイプであった。
彼らも同じ時期に送ったことがわかったので、一緒に協力してなんとか荷物を届けてもらえるよう交渉しようと思い連絡をとると、こちらの話しを全く聞かないで、一方的にロシアの悪口をたらたら愚痴る。タイミングを見計らいこちらの用件を言おうとすると、
「いま忙しいのであとにしてください。あとでこちらから連絡しますから」
と言ったきり。一度も返事をくれなかった。
荷物がようやく税関を通過した日(9月16日)、あいにく私たちには夕方から出かける用事があったのでその旨を運送会社のロシア人スタッフに伝えると、
「出かける前に届けるから心配しないで」
との返事だったが待てどくらせど荷物は来ない。
先にY宅に荷物が届けているのかと思い、電話をかけるといつもながらの
「いま忙しいので・・・」
どうやらいま荷物を家にいれているところらしい。でも、家を出かけなければならない時間はもう30分もすぎている。いろいろ考えた末、もう一度おそるおそる電話をし
「すみませんが・・・。ロシア人スタッフにかわってもらえませんか?」
「いま忙しいからあとからにしてくださいって言ってるでしょ」
たしかに荷物を運んでいる最中で、この時は本当に忙しかったのだろう。でもこちらもこれ以上遅れられない。
「では申し訳ありませんが、できれば今日でかけるので10時以降まで家にいないと伝えていただけないでしょうか?」
「わかりました」
ガチャン!。
翌日運送会社から電話があり、
「どうして昨日家にいなかったのですか?」
「いや、電話でお知らせしたじゃないですか。」
「あっ!」
Y宅と家とは姓が同じで、まちがってあっちに先に荷物が運ばれたのであった。この点ではロシア人スタッフのことは責められないし、私に非があった。
「留守にするって電話で伝えたほかにも、Yさんを通じて10時まで家にいないって伝えたはずですが」
「そんなことちっとも聞いてません。」
Yさんにもう一度電話をすると
「お宅のために私がそこまでする義務も必要もないので。では」
けんもほろろとはこのことを言うのか。
待ちにまった待望の荷物は翌日届けられることになったが、運送会社にはお金が全く残ってないということで一晩分の荷物の保管料および翌日配達のためのトラック手配と運転手雇用の料
金がこちらの負担となったことはいうまでもない。
犬養道子がどこかで書いていた一文を思い出した。
「日本でサラリーマン生活してる人が駐在員になってお手伝いさんを雇ったりすると、とんでもないことになる」。
お金では買えない、人間の品性が問われるということであろう。前からうすうす聞いていたことではあったが、海外で「大使館員、マスコミ関係者」
として赴任している人と接する場合、「親切型」か「天狗型」か、見分けることが重要だといまさらながらさとった。
※モスクワ日本大使館員に対する、あきらかにその業務にみあわない好待遇について、2001年6月22日、産経新聞モスクワ支局長斉藤勉が具体的な数字をあげた記事を書いたのでそちらも参照のこと。
2001年11月24日、読売新聞はモスクワ日本大使館新築のために100億円が使われるという記事を書いています。
いずれにしても、それにみあった外交をおこなうのならば理由はつくでしょうが、大使館の窓口業務なんて市役所と同じ仕事をしてるだけなのになんでこんなに待遇が違うのか。これは人事院の怠慢をも示している。
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