ここ3・4日気温がマイナス10度を上がることはない。
今朝などはマイナス17度だった。
外は冷凍庫の世界なのだ。
道路ではっている氷の上を歩いても、決して心配はない。底の方にたまった水の中に長靴もろともジャブンなんてことにはならない。つまり、絶対に割れないということだ。
ドゥニャンはことごとく全部の氷の上を歩いてみたが、この立派な体躯を以ってしても氷を割るということは出来なかった。思いっきり氷の上でジャンプしても頑丈そのもの。びくともしない。
ロシアにおいては唯一無二の安心感を与えてくれるものだといって差し支えない。
ところでマイナス15度の中をルイノック(市場)へ出かけた。
ロシアの冬は酢漬けキャベツに明け、酢漬けキャベツに暮れる。どうしても食べなくてはならない!!
買ったのはいいが、キャベツは天然シャーベット。大きな樽の中からおもむろにオバサンがシャーベットを袋に入れてくれる。もちろん、乱雑に入れるものだから、シャーベットは袋の外にも付いている。
手が濡れるではないか。それは困る。この寒い中、濡れるということは凍えるに等しい。と、思われる方も多いのではあるまいか。
いやいや、シャーベットはシャーベットのまま、くっついて離れないのである。そのままの状態で宅までやって来てくれる。結局、何の変化もない。
サラダオイルも装いが変った。いや、パッケージが変ったのではない。凍って半透明になり色も濃くドロっとしているのだ。あれではドレッシングが作れるかどうか心配だ。
ルイノックではピーマンがあまりにも新鮮ででピンとお肌が張り、色艶が見事なので娘のお弁当にでもと思い買いたくなった。モチロン買った。
家に帰って、しばらくピーマンの存在を忘れきっていた。夕食の段取りにキッチンに入ってピーマンの袋をおもむろに開けてピーマンを冷蔵庫に入れようと一つ持つと、クタ〜と元気なくぺしゃんこになっているではないか。思わず、ルイノックのおばちゃん、いんちきして悪くなっているのも入れたんだ!!と腹が立った。
と、さわるピーマンすべてがクタ〜のペチョペチョ。1キロものあの元気なピーマンは幻だったのか。ピーマンの中の氷となっていた水分が物理の法則に従ってお水になってしまった結果だったのだ。
ドゥニャンは見目の悪いそのピーマンを食べてしまうかどうか、今思案中である。
マイナス10度の世界では、野菜を買うとき、細心の注意が要るということを肝に銘じた。
しかしながら、ルイノックの野菜売りのおばちゃんたちは元気そのものだ。大きな厚手のオーバーを着込んで膨れ上がっているその上から薄汚いエプロンをかけている。一日中、冷凍庫の中で素手でシャーベットを触っているではないか。
さぞや、ホッカイロが必要なことであろう。でも、そんなに便利なものがここロシアに売っているわけがない。ある店に行くと金属を溶かすバーナーで暖を取っていた。やることが徹底していて気持ちがいい。
夫の吐く息にはもちろん水分が混じっている。夫は鼻の下にむさくるしい髭を蓄えているのであるが、その髭についた水が、凍ってしまい、固体と化している。さわるとパラパラと落ちてくる。なかなかオツなものである。
実にモスクワの冬はいさぎが良い。なかなかドゥニャン一家向けである。
次へ
モスクワ日記の表紙へ
ホームへ戻る