1999年12月10日(金)

2・3日前の新聞に
ーあなたはどんな時に差別を感じるか。
というような記事が載っていた。

その中で今は掃除婦もしている大学の先生が答えていた。

職業によって差別があるということが始めて分かった。
ソ連時代は大学で教えていた、自分にもインテリとしての自負心があったが、それでは食べていけない時勢となってしまった。
仕方がなく食べていくために、他に見つけられる職もなく、こうして掃除婦となったが、掃除婦に対する人々の目は冷たい。
彼女は、掃除婦になった自分に対する目は、癩病患者か頭脳障害がある人を見るがごとしであるという。
(ただし、この癩病患者と言う言葉や頭脳障害の人々に対するロシア社会の差別意識がモロに出ていて、新聞に書かれるには適切な表現であるとは思えない。)
しかし、彼女が本来の自分の姿と社会の変化の狭間で苦しんでいるのがわかる。これも一重にロシアの国営のものであった機関でいまだに働いていると、極端に低い給料から起こるものである。生活しきれないほどの低い賃金。これがロシアの現時点の大きな社会問題である。

昨日、夜ジョーチリンリンをお散歩に連れて出た時も近所の綺麗な妙齢のお嬢さんに会って、立ち話をしていた。
彼女は医療事務の仕事をしている。毎日朝の9時から午後2時まで。
それで、一ヶ月の給料はたったの300ルーブル(1200円)。
予診をしたり、予防接種をする医者の給料は月に1000ルーブル(4000円)。
しかし、物価は結構高い。
パンが4ルーブルから6ルーブル。肉は安い所で1キロ7・80ルーブルはする。
野菜などもキャベツと葱を買うともう20ルーブルにはなる。もちろん人参、ビーツを買うと3・40ルーブルにはすぐになってしまう。
ガソリンは1リットル7ルーブル(28円)ロシア車の燃費、走行距離から考えると、それは日本の1リットル56円となる。
これでは、確かに一つの職業だけでは充分に生活は出来ない。

それで羽振りのいい商店のためのサンドイッチマン(ロシア語でもブッテルブロートと言う。それはまさしくサンドイッチという意味である。)になったり、或いは着ぐるみを来て凍てつく寒さの中で町中で立ち尽くす仕事(それが12時間で150ルーブルから200ルーブル。)を見つけてきたり、外人相手の運転手を雇うタクシー会社に就職したり、お手伝いさんとなったりして下働きをする事となる。


ロシアの人々を見ていると、働く時は本当によく働く。一つ二つの仕事を持って、それで文句も言わず、もくもくと働いているのである。
ロシア資本の普通庶民が使うお店(ソ連時代の国営商店だった所)に行くと、日本のスーパーマーケット形式ではないからお客から頼まれたものをいちいち売り子さんがその手で出してくる。それを量りにかける、キロ単位の金額表示が多いから、計算する。
その上それをビニール袋に入れてくれる。
それが一つの品物ではない。それ以上にガンガン、ロシア人は信じられないほどの量を買うのだ。遠慮も容赦もない。
商品を頼んでいるうちに、別のものも買いたくなる。それは人情というものだ。客はもう少し買い足したくなったものをまた注文する。
またぞろ、カウンターの中で売り子さんはお客の言ったものを取りに行く。しかもロシアで売っているものは品質の点では千差万別だから、いちいち文句を言われる、
「これじゃない、あっちのもっと新鮮なのをくれ!人参も大きすぎる。大きすぎる人参は味が薄くっていけないから、小さなピンとした新しいのを・・・ほらほら、左いや右側のほうがもっといいだろう。」
てな具合で、客のいる間中、客は遠慮しないし、売り子さんのことを慮るわけではないから翻弄されるわけである。
それでもまだまだ客足が途絶えない時には、どんどん同じようなことが起こる。
売り子さん達の忍耐力というのはどの程度にあるのか、ドゥニャンは心配している。
なかなかあんな風に、じっくりと客の言う事は聞けるものではない。笑顔やその他のサービスがなくなって当たり前だと思う。

その反面、西側資本のスーパーマーケットへ行くと、全く違った光景に驚かされる。レジ係は座ったまんま。客が商品を籠から出して、計算していただきたいんですけど・・・よろしいでしょうか、というような雰囲気がじんわりかもしだされている。
いらっしゃいませもありがとうございましたの挨拶もない。ただただ、レジを打つのみである。
いつぞや、スーパーで売っているビニール袋より品質のいい袋を何枚か持っていたら、一枚くれないかと、いわれた事があったが、愛想を受けたのはその時だけ。
ふと、ボーッとしていて、いつのまにか日本の慣習をついつい知らず知らず出してしまって、買い物した商品を籠の中に入れたまま、レジの人にそれを差し出した時のことだ。
「買い物したものは出しなさい!そして並べておくように・・・」
と、注意された。頭の中が日本モードになっているものだから、それにはカっとした。
どちらがお客様なんだい!!一体、お客様をなんと心得おる!!
胸の中はムカムカした。
「経済発展している日本では、レジ係の人が商品を出して計算するものよ!!これだから、ロシアのサービスは駄目だし、国際競争力がつかないのよ。」
と、悪態をついてはみたが、そこは暖簾に腕押し。全く何の結果も得られない。
レジのおばさんはドゥニャンが商品を籠から出して並べるまであくまで静かに待つ。

国営商店転じて商店となった店と外国資本のスーパーではこれだけの違いがある。
その上、給料もかなり違うのだろう。これを不平等と言わずになんと言うのであろうか。
ロシアの資本家は本当にいい目を見ている。なんせ人件費がとてつも安いのだから・・・。

昔の栄光を引き摺って(ソ連社会主義体制の計画経済・・・その失敗はここでは問わない事にしよう。)、人件費はただに等しいと思っている節がある。

何とかならないのだろうか。
この差、このギャップ。

もっと労働者は闘うべきだ。本当に労働者の国たらんとしたら、言論の自由を謳歌して、賃金アップ闘争をとことんやってもらいたい!
悪しき資本家と搾取される労働者の原理を忘れず、ゼネストでもなんでも大々的にやろうじゃないか!!

ガンバレ!ロシアの働かざるを得ない人達よ!





ロシアにも最低賃金法なるものがあるのだが、それも極端に抑えられている。(86ルーブルとか何とかラジオで言っていた。それは一日の最低賃金だと思われるが、昨日のお嬢さんの話ではそれも怪しくなって来ている。)

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