知り合いの新聞記者が、スターリンの通訳をしていた人を訪ねて、ブルガリアまで行ってきた。
ロシア人であるその通訳は一時、日ソ国交回復時(1956年)の外務次官であるほどの有能吏だったが、今は、連れ合いの故郷・ブルガリアで隠遁し、余生を静かに送っているらしい。
ブルガリアでは、色々と美味しい葡萄酒などを、食事ごとにたしなみ、大量の肉と野菜の後に、とても甘い(ロシアの甘いものも相当に甘いが、その比ではないくらい甘い・・・いや、素朴に甘い。)デザート。もちろん、ブルガリア・ヨーグルトなどもたらふく食べてきたのであろう。
彼は食事の安さに驚いていた。
1食、2人でちゃんとしたレストランでコースを食べて9ドル!
ロシアでも、スタローバヤという大衆食堂では、1食、町中で250円。大学の食堂や図書館の食堂では、125円という安さではあるが・・・それは、スタローバヤならではのこと。れっきとしたレストランでは、ビジネスランチにだいたい一人10ドルはかかる。
まあ、この際、こんなことは余談なのだ。
彼はブルガリアからわざわざお土産を持って帰ってきてくれたのである!!
凄いことである!!
いや、別に土産が凄いわけではない。ブルガリア・ワインとねっとりとした変哲もない強烈に甘いお菓子なのだから。
凄いのは、その袋だった。
図柄はロシアの国旗をリボンに見立て、それを彩ったタイタニック号が、まさに沈まんとしている横で、かの有名なフランスのシャンパーニュ・ブリュットが、シュッパーっと栓を抜かれたところが描かれているのである。
なぞ解きはここから始まる。
ブルガリアの人々には長年の支配国であったロシアへの恨みがある。タイタニック号がロシア国旗と沈んで行く。そこでは、ロシアよ、タイタニック号とでも、とっとと一緒に滅びてしまえ!!とでも、言っているようだ。
それをブリュットでも豪勢に抜いて、ブルガリア国民が大喜びして祝おうとしているだけなんて、思っちゃいけない。
それだけでは済ましきれない、まだなお且つ表現不可能なほどのロシアへの恨みつらみが彼らの中で渦巻いている。
実は、ロシア語で、アニ ブリュットというのは、奴等は嘘をつく。
つまり、奴等はうそつきだ。と、いう意味となるのである。
うそつきのロシアはタイタニック号と一緒に滅んでしまえ、ばか野郎!!
ザマアミロだ!!シャンペンでも抜いて祝ってやるぜ!!
うそつき野郎!!
ブルガリア国民の思い入れたっぷりの手の込んだ袋なのである。
うーーーーんん。敵もサルモノ。(いや、ブルガリアは敵ではないが・・・)
ロシア国民よ。
モーチィィと大国意識を捨てて、地道に経済復興を達成させていただけませんか。
どうか、そうでないと、うちの子どもたちの大好きなロシアが馬鹿にされているではありませんか。
困るんです。わたし・・・。
なんで、ドゥニャンが困るのか。
ドゥニャンは、ロシアが嫌いである。ロシアが嫌われたら嬉しいはずだ。
だが、なんとなく面白くない。
う〜〜〜〜〜ん。複雑怪奇なブリュットの秘密であった。
次へ
モスクワ日記の表紙へ
ホームへ戻る