そこは森から森へずーーっと車で入ったところである。
そこへ行くため、アミールの家族とわたしたち親子は、自動車に自転車、14インチのテレビ、布団、プロフ(ウズベキスタンの炊き込みご飯)を作るお鍋、野菜、肉、お菓子にジュース、飲み水、それにビールやウォトカなどの家財道具を積み込んだ。
途中の食料品店でパンやパター、果物までも買い込んでいた。
舗装された道は切れ、森が続いてモスクワから2時間半。
白樺の木立、松の森、そして楢の木などが混じるとっても深い森の中、拓かれてまだ15年しか経っていないダーチャの村がそこにはあった。
その日は寒くて凍えるほど。
木造の素敵なダーチャについてすぐにした事は、森に入って、枯木立を切り出すこと。そして斧でヨイショと、薪作り。
ダーチャの居間には煉瓦で造られたペチカがしつらえられている。誰もいなかったダーチャは冷え切っていた。煉瓦を触ってみると冷たい固い感触が返ってくる。
家の中でも吐く息が白くなる。
森に囲まれたダーチャの空気はよく冷えたミネラル・ウォーターのように美味しくスッキリしている。
ただ、それでは、生活は出来ない。
割られた薪はすぐにダーチャに運び込まれ、ペチカの中でガンガン焚かれた。
ぐんぐん部屋の中は暖まってくる。空気が人のいる優しい温かさに包まれていく。
アミールの妻、アイーダはすぐに子どもたちに命じて、森の中へと水汲みに行かせた。
大きな寸胴のお鍋とポットの中につぎつぎと森からの水は注ぎ込まれ、ペチカの上ですぐにわいていく。
大きなアイーダの手は、片っ端から持ってきた肉を手際良く切っていく。野菜は賽の目に切られ、ダーチャ用の器に盛られる。
上の娘たちはアイーダとわたしの手伝いに余念が無い。
薪を運び込む事、ほうきで床を掃く事、窓枠の内側にある棚に持って来たものを、揃えていく。ベッド作りも大切な仕事。
一階の2部屋の一つはドゥニャンとヘンヘンのために、そして別の部屋はそれぞれの下の娘のため。2階の一つは上のむすめたちとペットである猫のバクスのための布団が運び込まれた。もう一つの大きいベッドのある部屋は、アミールとアイーダのため。
寒い夜に備えて風が吹き込まないよう分厚い冬用のコートが窓に張られた。
大切なのは、家の真ん中にあるペチカからやってくる暖気で部屋をどんどん暖める事、ペチカの上では夕餉のいい香りが立ち上りはじめる。
年はかのいかない子どもたちは、ダーチャの庭に生えている草や小猫のバクスと遊びはじめる。外は寒いが赤いほっぺをして、元気に声をあげている。
なかなか暮れない夕闇がようやく暮れなずむ頃、停電している事が分かった。
ろうそくの炎の前で、くちくなったお腹を抱えて、濃いお茶を飲む。
ペチカの暖のお蔭で、うつらうつらとした柔らかな空気が私たちを包む。ペチカの窓を開けると、炎の明かりが顔を照らす。
なんて!!なんて素敵なんだろう!!
まるで、3匹の熊の話のようではないか。
その夜、わたしたちは深夜2時頃までペチカの周りを囲いながら、談笑していた。
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