なつめたちの学校では第二外国語としてフランス語が6年生から始まる。
なつめにとってフランス語の授業はチンプンカンプン。
去年、成績がいいからと別の地区の学校から1741番校へ編入して来た8人ほどの仲間と週に2回の補習を受けることになった。
火曜日と木曜日の7時間目の授業が終わってから、40分間。
午後の3時に補習は終わる。
わたしが娘を迎えに行くと、学校の玄関はもう子どもたちの姿も少なく森閑としている。管理人のおじさんとちょっとした簡単な話をするだけで、いつも手持ちぶさたにわたしは待つ。
先生のガリーナ・ガリゴリエヴナはとても熱心な先生で、必ず時間内には終わらない。20分ほどの時間延長が常である。
でも親の気持ちとしては、昼食を3時まで食べていない娘を1分でも早く迎えに行ってやりたい。
ロシアの学校では、大体5時間から6時間の授業を一日に行う。5時間といっても12時20分、6時間なら1時30分に終わってしまう。その後のホームルームもないし、教室の掃除もない。子どもたちは朝8時20分に学校の始業を迎え、40分ずつの授業を受け、その間の10分間の休憩に教室移動をしたり、学校の食堂で売っているアイスクリームや飴玉を買ったり、ピザを食べたりする。
日本の学校では清掃の時間、無駄な休み時間や会が実に多い。朝の会から始まり、2・3時間目の間の20分の休憩、給食の用意と給食、その後の休み時間。授業が終わって帰るまでにまたまた学級会。
小学低学年でさえ、学校から帰ってくるのが、4時、5時前ということだって少なくない。
これでは、子どもたちには遊ぶ時間がない。
その点、ロシアの子どもたちは時間に恵まれている。1時頃に学校が終わってから、友達とのんびり談笑したり、お互いの家へ出かけていって遊んだりする。
例えば、7年生であるなつめの1週間の時間割は、
月曜日5時間、火曜日8時間(補習と共に普通の子どもたちは7時間)水曜日6時間、木曜日8時間、金曜日4時間、土曜日6時間といった風である。金曜日には12時前に学校が引けてしまう。日本の子どものように進学塾に行く子どももいないから、放課後は天国みたいな時間である。
最近、ロシアでも働かない女性が増えたとはいえ、お母さんが働いていて家にいない場合が多いから、時間の使い方は、子どもたちに委ねられる。母親の監視の目が少ないというのはいいことだと、ロシアの子どもを見ていて思う。
冬には小さな丘で毎日毎日そり滑り、夏になるとアパートの周りの交通量の少ない道路でローラーブレードをやったり、自転車遊びに興じたりしている。
学校が終わってからの校庭も子どもたちに完全に開放されている。そこでバスケットボールやサッカー、学校の遊具を使って鬼ごっこで遊んでいる。
2・3時にお昼ご飯を食べて、三々五々子どもたちは校庭に集まってくる。そして日の暮れるまで遊び興じる。子どもたちはよく体を動かす。とにかく行っときもじっとしている時がない。
日本のように家でテレビゲームにしがみついているという子は少ないのかもしれない。しかし、ロシアでも日本製のテレビゲームの普及は大きい。
今なら10時頃まで遊んでいる子どもたちを見かける。学校も門を閉じてしまうなんてセコイことはやらない。
さて、お母さんが働いていて、3ヶ月もの長い夏休みを子どもたちはどうするのだろうかと、不思議に思われる方もいるかもしれない。
そこはロシア!ちゃんとダーチャという素晴らしい天然の保養所が子どもたちには待っている。大体、母方か父方のおばあちゃんが夏の間、ダーチャにいて農作業をしている。子どもたちをそのおばあちゃんが面倒をみるのだ。そして近所の子どもたちと森へ行ったり、湖へいって北国の少ない太陽を満喫する毎日をおくる。子どもたちはよくお手伝いをする。おばあちゃんに言いつけられて、売りに来たミルク売りのところまで空瓶を持っていて、取りたての新鮮なミルクを持って帰ったり、鉢にたっぷりのカッテージチーズを買ってきたりする。きのこ採りにもお供をする。ビニールの袋を持って、白いきのこを見つけた時など得意になっていくらでも探そうとする。
ただ、森に入る時にはなにか被り物をしていなければならない。なぜかっていうと、ダニが頭に落ちてきて頭の中に住み着いちゃうかもしれないから。
もちろん、ダーチャのない子どもたちも大勢いる。ダーチャの嫌いな子どもだっているにいる。その子どもたちのために学校では、1ヶ月間のモスクワからそんなに離れていない村の施設でラーゲリというキャンプが催される。週末には親たちが子どもたちに美味しいものを差し入れに行くとは聞いているが、1ヶ月、食事付きで500ルーブル(2500円)。その値段は決してロシア人にとって高いものではない。
年嵩の子どもも小さいのも混じって共同生活をしちゃうのである。勉強の時間もあることはあるが、自然に入って、引率者に見守られながら、日々呑気に暮すのだ。
それが終わっても夏休み、モスクワに帰って来ても子どもたちは遊び場に事欠くことはない。集合アパートの周りにはどこに行っても、木々が植えられ空き地がいくらでもある。
野生のりんごのなる季節になると、りんご採りをする。美味しい木の実のなる木もある。小さな赤い実のなる木。すっぱいいたどり。
子どもたちにとってはそれらはみんな遊び道具だし、おやつにもなる。
大人の目からいたずらをしているのを隠してくれるのもそんな優しい木々たちの梢である。木に登ったり揺さぶって実を落としたり、ぶら下がったり、戦利品の量を競争したり。
なかなか退屈するどころではない。
あ〜〜あ。随分脱線してしまったけど、なつめは補習の授業だけではなく、本当の授業中のフランス語もちゃんとやってのけた。夏休みにはもっと上をめざすつもりらしい。やってもらおうじゃないの。
またまた、ハナシは変わるんだけど、先生のフランス語の発音の素晴らしさは抜群である。
それに優しさも特別級なんだってなつめは言っていた。