1999年8月8日(日)

モスクワは今、とっても淋しい。あてのない人以外は皆ダーチャに行ったり、結構安い保養所へ行ったりして我が家の知り合い(ロシア人)はモスクワを留守にしている。
これがロシアの人たちの夏の休暇の最終段階、大詰めとも言うべきものなんだろう。
外国に出る人もいる、ソチなど黒海沿岸のリゾート地で休養する人たちもいる。
近場のドーム・アディッハ(休息の家)で3食付きの休日を何日も楽しむ人たちもいる。その休息の家は何と3食付きで一日一人100ルーブル。
ドゥニャンたちも行けば・・・と、誘われたが、朝からきっとカーシャ(オート・ミール)が出るだろうと踏んで敬遠。

だけど、だれもいなくなったモスクワは淋しい。
アルメニアの友達のリーナもアルメニアでバカンスを楽しんでいる。大家さんたちもダーチャだし。キューバの友達も黒海に行ってる。
古くからの知り合いのモスクワ大学の先生は自動車で北欧行きを楽しんでいるはずだし。ヘンヘンの先生は今ごろ、イタリアでピサの斜塔をみているやもしれん。


ふ〜〜。


侘びしいなぁ。

やっぱし、どうしてもパリくらいに行っておけば良かった。エール・フランスで一人モスクワ・パリ往復175ドルっていうのがあったのになぁ。

いや、それよりもモスクワ近郊の町々を訪ねる旅をするはずであったではないか!




で、もって、ドゥニャンたちは当てもなく、まずはモスクワの中心街トベールスカヤ(モスクワの銀座)のクラブ・ハウスというレストランでお食事をした。
ロブスターのポタージュはルイユ以外はとってもおいしかった。だってルイユだと思ってたっぷりポタージュに入れると、それはただのパプリカ入りのマヨネーズだったりするんだもの。
でもボリュームが・・・。メインのお魚を残したくらい。

子どもたちもそれぞれ自分でメニューを選んでいた。


さて、お腹がいっぱいになって、まだまだ時間はある。今日はやっと半分過ぎただけだ。

これから、どうする??


ん〜〜。


森にドライブにでも行こうよ。

モスクワの大環状線を出て1時間くらい。ダーチャ街を抜けたところ。そこは広い広い野っぱらで、森が遠くの方に見える。

一昔前だったら、許可なしにこんなところへ来られるべくもなかったのにね。第一、地図がモスクワ市内環状線のところできっちり切れていて、それ以降は薄緑にべた塗りしてあるだけ。どんなことになってるのか、特別に許可をもらえる当てもないドゥニャンたちは、ただただ、森がだだっ広く拡がり、コルホーズやソフォーズがズ・ズイっと連なっていると想像していたものなのだが・・。

実は色んな町や村が森の切れ目に点在していたし、モスクワ近郊にはダーチャ街も多かったのだ。



大きな道路を外れて、森の狭い道をぐんぐんは行っていくと延々と広がる野原があった。
「あ〜〜〜。いい気持ちそう!走りたいな。」
と、びーびー。
じゃあ、そろそろここにマドンナちゃんを止めようか。
そうしようそうしよう!


大草原が目の前にあって何も邪魔するものもない。
「ねえ、ドゥニャン、運転の練習、ここなら出来るよ。やってみる?」と、ヘンヘン。

「いいねぇ。」

やってみたのはいいけれど、アクセルの踏む加減が分からず、急激に猛烈に激烈な音を立ててエンジンが回転する。
「違う!!そっと踏むんだってば。そぅっとだよ。そんなに踏むと160キロくらいの速さで動くよ。」
「えっ、自動車ってそんなに簡単に早く動くように出来てんの。へえぇえ。」
「ほら、左端のペダルを踏んで、ギアを1に入れ替えて、右端のアクセルをゆっくり踏むんだ。真ん中のペダルがブレーキだからね。」
「ヘイヘイ。それくらいわかります。」

グィ、ギュゥィ〜ン。ギュゥウウ。


つんのめりながらマドンナは急に動き出す。
「アクセルの足の力を抜くんだ。そんな、そんなに思いっきり踏まないの!!ぎょえ〜〜〜!!ドゥニャン・・・・」

「でも、動いてるジャン!!はぁはっははは・・・」
地面は草に覆われているから、でこぼこが見えない。もっとすんなりとしたところかと思いきや。

ドタンバタン、ガッチャン・ドッチン。

マドンナは飛び跳ねている。


「ドゥニャン!お願いだ。真ん中のペダル、ブレーキを踏んでくれ!」
ヘンヘンはギアを入れ替えて、急にマドンナが止まった。


なぁんだ。ドゥニャンでもうごくじゃあない。運転って簡単だねぇ。
「もっとしようかな。運転。」

「やめてくれ。マドンナが壊れる。」


さて、なんなやびーびーとジョーチリンリンの草原のお散歩も終わったことだし・・・。
帰ろうね。



ところが、只では済まないところがここロシア。


なんたって、ドゥニャンが運転した後のマドンナがご機嫌がいいはずがない。

15分ばかり経った頃、
「おっ・おかしい。エンジンの温度が異常に上がっているんだ。普段なら90度くらいのはずなのに今130度もある。これではオーバー・ヒートしてエンジンがいかれてしまう。どうしよう。ちょっと見てくる。冷却液が足りないのかも・・。ドゥニャンの運転でこぼれてしまったのかもしれない。」

「どう?冷却液、ちゃんとある?」

「いや、あるんだ。それがむしろ増えているくらいなんだ。」

「はぁ。そんな・・・。減りこそすれ、ふえることなんてあるの???」
「だから、おかしいんだよ。」
冷却液の蓋を開けてみるとぐつぐつと煮えたぎっている。


「どうしよう・・・。前みたいにうまい具合に近くに修理屋さんもなさそうだし・・・。あ〜〜〜、なんてことになっちゃったんだ。」


と、辺りを見回してみると、向かい側に布団や枕を売っているトラックが止まっているではないか。頼んでみると、見てあげるという。
ヘンヘンもその枕売りのお兄ちゃんやおじさんと一緒にバンパーの中を覗いていると、エンジンの熱気を外に送り出すファンのベルトが外れていることを発見。ヘンヘン、エライ!!
おじさんはトラックからおもむろに自動車修理の七つ道具を持ってきて、ちゃんと修理をしてくださいました。

その時、ドゥニャンが何をしていたかというと、もちろん、お買い物。
ちょうど欲しかった枕を2つ買いました。

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