2012年2月12日(日)
指揮:パーヴェル・ソローキン
演出:ユーリー・グリゴローヴィチ。 プティパ、イヴァノフ、ゴールスキー版の一部を利用
舞台装置:シモン・ヴィルサラッゼ(ヴィルサラッゼ死去にともなう舞台復元はマルガリータ・プロクディナ衣装復元はエレーナ・メルクロヴァ)
照明:ミハイル・ソコロフ
前半は何と言っても岩田守弘の存在が大きかった。演出的にも道化には見所がたくさんあるが、岩田が技術は全盛期のまま、さらに深みをました踊りをみせ、道化らしいおどけた場面と、アクロバティックな面を共に表現していたことで全体を引き締めていた。また、海外公演最終回でよくあるように、当日のみの即興的な演出もところどころあり(王子の友達と、花で遊ぶ場面や、2幕途中で皆に担がれて登場するところなど)、「踊れる演出家」という岩田のこれからを期待させるような踊りであった。
王子とロートバルトは、大きく高いジャンプを見せることもあり、確かな実力を感じさせるのだが、演技ということになると控えめかつ一貫性がなかった。特にロートバルトとのかけあいが通り一遍で、ロートバルトが王子を操るこの演出がさっぱり伝わってこなかった。正直、上の世代(ツィスカリッゼ、ウヴァーロフ、ベロゴロツェフ、イヴァノフ)との格の違いを見せつけられた感じで物足りなかった。
で、主役のルニキナ。様々な役を踊り、さまざまな人生経験を積んだからか、98年のジゼルとは別人になっていた。特にアダージョの後半からは腕の動きが生きている白鳥のようでプリセツカヤを思い起こさせ、バッチューのかすかな動きにはオデットの心を現す粉雪が舞うような叙情性を感じさせ、2幕への期待がすごく高まった。でも身体も腕も細すぎなのが致命的。どんなに表現力豊かに踊っても、あれでは、精神的な面からくるやせ形ではなく、単なる栄養失調にしか見えない。ただ、最後の最後、ロートバルトに殺される場面を、動きではなく「気」で十分に表現してたのはさすがプリマ。
今回の影の主役はオーケストラ。指揮者ソローキンはバレエに合わせるだけでなく、音楽でバレエを引っ張って行こうという意欲のある指揮者で、アッチェレランド、ルフトパウゼ、ルバートなどを駆使し、音楽による劇的な表現をバレエに盛り込もうとしている。そのため、前半ではオケの右と左(弦と管)でずれ、打楽器が店舗を早くしても弦がついていけないという場面が多々あった。だけど音楽が進むにつれ指揮者の意図がオケ全体に伝わったのか、ソローキンのよい面が生かされるようになった。ホールの音響ともよく溶け合い、木目の暖かさが持ち味のボリショイオケの特性が生かされ、モスクワの劇場の音とよく似たものになっていった。
全体としては、ボリショイの伝統を感じさせるどっしりとしたオーソドックスな公演というより、いろいろなハプニングを含むこれからを期待させる公演。ともあれ、予定とおり日本公演を実現してくれたボリショイに感謝の気持ちでいっぱい。兵庫県立芸術文化センター、1階n列25番で。
2008年〜2012年のボリショイ劇場へ行く
ボリショイ劇場の部屋へ行く