スタニスラフスキー&ネミーロヴィッチ=ダンチェンコ劇場 カルメン


2000年6月30日(金)

配役
カルメン:マリーナ・プルデンスカヤ、
ドン・ホセ:ミハイル・ウルソフ、
エスカミーリョ:エフゲェニィ・ポリカニン、
ミカエラ:イリーナ・アルカディエヴナ、
ツニガ:ロマン・ウルィビン、
モラレス:イーゴリ・モロゾフ、
ファスキタ:オリガ・ルツェフ−テルノフスカヤ、
メルセデス:ナタリヤ・ヴラディミロフスカヤ、
ダンカイロ:ヴァレリー・ミキツキー、
レメンダド:ヴィクトル・モイセイキン、
リリアス−パスティアの主人:アレクサンドル・ダマショーフ、
売り子たち:ヴィクトリヤ・エキーモヴァ、エレーナ・テレシェンコ、オリガ・シャポシュニコヴァ、マクシム・キリーロフ、パ−ヴェル・チョズギヤン

指揮:ボルフ・ガレーリク

演出:アレクサンドル・ティチェリ

美術:ヴラディーミル・アレーフィエフ

原作:プロスペル・メリメ


初演以来、一年ちょいぶりにみるダンチェンコのカルメン。
スペインの雰囲気は全くないが、そうして評価するよりも、ビゼーが残した芸術を抽象化して、
みごとにロシア版カルメンを作ったことを賞賛すべきだろう。

時代設定は必ずしもはっきりしてなく、第一幕のたばこ工場にはたらく女工たちは、帝政末期にもみえるけれど、
簡素な服装ながら、よくみると皆かなり清潔で、帰りには仕事着からきれいな服に着替えている。自転車で通勤している
ところをあわせると現在の日本のようでもある。
第二幕で登場するエスカミーリヨは、お付きの者のはべらせ方や恰幅のよさがまさに新ロシア人。
違和感が強いのは第四幕の闘牛見物のひとたち。貴族やお金のあるブルジョワという設定だろうが、マイフェアレディーのイライザが、
目一杯おしゃれをしてヘンリー・ヒギンズ宅をはじめて訪れる場面を想像してしまった。

カルメンは長い金髪のロシア美人。
すらっとした長身なのに、身体全体が楽器になりきっており、よく声がでること!
オペラファンにいわせれば、演技が全くダメだったり、豊かなヴォリュームの一本調子で、歌にカルメンらしい陰翳や毒がなかったりと、
いろいろ文句がでるだろう。でも、たっぷりとした音色とその姿がそうした欠点を補って余りある。
第四幕では(エスカミリオにプレゼントされた)ぴしっとしたスーツに
ハイヒールをきめたOLといういでたちなので、もう少し冷たさがあれば、、現代ロシアのカルメンはこうしたものよ、と主張するに十分だったろう。

ホセはころっとした体格のうえ、なさけなさそうな性格を体現したような歌手だが、歌は悪くなかった。
ヴォリュームは普通だが、十分。ときどきかすれて声がでてこない時もあったけれど、状況にあわせて音色を使い分け、感情を移入していたので、
調子のよいところでは、テノールの醍醐味もかなり味わえた。

ミカエラは、ピアノ〜メゾピアノの時、まるでささやいているようで、音がホールまで届いてこない。声がでない人なのかというと、
フォルテを聞くとそうでもなく、ビブラードも幅広く、またやや声質が地味で、なかなかの歌手。

繰り返しになるが、これはロシアに移しかえたカルメン。
ビゼーのオペラをやろうとしたけど、ひとやお金や芸術的能力の関係でロシア的になってしまったのでなく、 この劇場の実力と、
きかせどころの多いビゼーの曲を聴衆に味わってもらうべく、歌手、舞台装置を上手につかった芸術作品。オーケストラはいつも
ながら金属的な響きで柔らかさに欠けてはいたけれど、ビゼーの音楽も十分楽しめたし、第一幕の序曲なんかは、かなり気合が
入っていて、それだけ聞いて帰ったとしても後で思い出したくなるような演奏。

前日が前日だっただけに、見に行ってよかったという余韻がたっぷり残るいい舞台。

こうした舞台を毎日上演していることを考えると、ロシアはなんと豊かな国か、と思わずにはいられない。しかも安い。二階中央四列で120円!これは日本の感覚で500円くらいだろうか。ダンチェンコは会場がさほど大きくないので、全体がみわたせるメリットもあり二階(ベリエタージュ)の中央(席番号20〜60)がベスト。段々になっているので、平土間(パルテール)のように前の人が邪魔になることは全くない。






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