2003年10月3日(金)
指揮:アレクサンドル・コプィロフ
振付:フレデリク・アシュトン
演出:アレクサンドル・グラント
美術:オスバート・ランカスター
18世紀末ごろ作られたという最古のバレエともいわれている作品で、1789年7月1日初演(ボルドー)という記録がある。
が、それは作曲者不詳の版で、他に今回みたエロール作曲(1828年11月27日初演、パリ)、エルテル作曲(1864年11月7日、ベルリン)のものと全部で3つあるようだ。
演出は定評のあるアシュトン版。
日本では「リーズの結婚」、ロシアでは「無益な用心」と訳されているが、フランス語の原題(La Fille mal gardee)は「ちゃんと監視されていない娘」というほどの意味。転じて「気ままな娘」という意味もあるようだ。
筋はバレエによくありがちな若い男女の恋をめぐるたわいもない話で、それはボリショイ、特に今のメンバーにぴったりはまる演出。
のんびりとした、ある意味では退屈な田舎生活でのひとこまでおこる一騒動。
「朝になりました」ということでにわとりの格好に扮したバレリーナたちがばたばたと動き回るところから喜劇が暗示される。
主役のリーズを踊るのはカプツォーヴァ。題名にもかかわらず、人を疑うことを知らず無心にただただコーラスを愛するという愛らしい田舎の箱入り娘を好演。
家ではお母さんに守られながら、外ではコーラスと一緒にいられればそれだけで嬉しく、ほのかな恋心を暖めている。でもアランと無理に結婚させようとするところではお母さんに反旗を翻し、まあるくおさまればいいなと夢見るその無垢さがカプツォーヴァのバレエにとてもよくあっている。
それに対しコーラスを演じるバローティンはカプツォーヴァとのいいカップルぶりを示しているが、演出のせいもあってやや控えめ。
話の上ではリーズとコーラスが主役ということになるけれど、バレエの上での実質的な主役はシモーヌ。
リーズの母親であるシモーヌをボリショイのキャラクター第一人者ペトゥホーフが演じて悪かろうはずがない。
女装した上に、ただ金持ちだというだけの理由で娘が好きでもなんでもない公証人の息子(しかも頭が少々いかれている)とくっつけようという、設定からして笑ってしまうなかで、期待に十分以上にこたえてくれた。
コーラスと会わせないために鍵をかけてリーズを家にとじこめて、そのくせ自分は居眠りしてしまうという単純なシーンでも、うたたね最中のしぐさや目を覚ますタイミングなど絶妙。
別の場面でのタップダンスなど、これがバレエの公演であることを忘れさせるほど堂にいっていた。
コミカルな配役としては公証人の息子でアレンも脇の主役ともいうべき役どころ。今回はこれまたキャラクターの雄であるヤーニン。
頭が弱いが人のいいという役どころをうまくつかんだ好演であったが、もう一歩先が欲しかった。というか、ペトゥホーフの前では誰をもってきても影が薄くなるのは仕方がないかとも思え、それほどペトゥホーフが光っていた。
はじめて、しかも一回しか見ていないので、細かい部分などうまく追えなかったが、コミカルバレエを軽い作品として軽視することなく、身体による人間の心理劇として白鳥やジゼルと同じレヴェルのバレエとして見せてしまうのはさすがだし、熱いバレエと並んでキャラクターの活躍するこうした作品もボリショイの得意とするところだし、十八番(おはこ)であると思う。
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