ようこそ。このセクションは、TRPGサイト【RI財団(RI-Fondation)】の中のシャドウランを扱うセクションです。
90年代に英語版Shadowrun 2nd Edition(SR2)が日本に翻訳されてから、このゲームを巡る状況には変遷があります。
当時SR2の翻訳権を得たのは富士見書房、翻訳したのはグループSNE。まだ『ドラゴンマガジン』にソードワールドを初めTRPGの記事があり、その後潰れたものの『RPGドラゴン』という季刊の雑誌もあった時代です。
展開する媒体やドラゴンマガジンの読者層を考えれば、日本語版は独自展開とせざるを得なかった事情もあります。ドラゴンブックのリプレイ集にも日本語版独自のファン層が集まる一方で、広大極まりない第六世界の深奥の魅力を知るコアな英語版ユーザーからは、非常に貧弱に見える面もありました。
日本での展開シリーズは97年に終了し、その後もファンサイドでシャドウランは遊ばれ続けていました。同人会でもコミケに必ず本を出す固定サークルがあり、日本のネット上でもサイトは幾つか存在していました。
当時はまだインターネットもホームページも普及し始めた頃。日本のネット上のTRPG界もまだまだ黎明期にあり、blogもSNSも凝ったWebシステムもまだありません。現在のようなITリテラシーも一般的なネチケットも確立していない時代です。誰でも情報を発信できるというWebの長所は、同時に誰でも批評家になれるという諸刃の剣を備えています。日本語版の悪口や互いの中傷、シアトル派vs東京派の両派閥の存在などは、古参のゲーマーなら覚えている話です。
これには2つの側面があります。
まず英語版ユーザーや濃いゲーマーから見れば。日本語版で紹介されたのはシステム面でも背景世界においても、広大極まりない覚醒世界のごくごく一部でしかありませんでした。
アメリカの考えるエキゾチックな異国、サイバーパンクの悪の象徴であったはずの日本帝国が何故か冒険の舞台に。中途半端に英語版設定の一部だけを取り入れ、全体的に貧弱さが目立つオリジナルの“東京”とやらが日本のユーザーにはSNE様御提供の唯一の真実として受け入れられる。あまりにファンジンの出来がよくてオフィシャル設定に取り入れられたドイツと比べてこの差はなんだ? ちゃらちゃらしたライトな雑誌がメイン展開になり、流行りのリプレイというやつがここにも侵蝕を始める。シャーマンの女とパンツの短いフィジカルアデプトの女の子に萌えろっていうのか? オレ基準でランナーに認定できるのはぎりぎり紫雲ぐらいなもんだぜ? 『シャドウランがよく分かる本』が全然よく分からないのはぬぁぜだ?
そして骨を抜かれてよい子のゲームになったシャドウランが、日本語しか読めないライトなユーザにはこれが真実として受け入れられていく。ブルシット、これは、ネオ・アナーキストに対する思想統制か?
……濃いユーザーであればあるほど、感情的にもこんな風に思ってしまうのは頷けるところもあります。
一方、逆の立場に立ってみれば。日本に住んで日本語を使って生活し遊んでいる我々日本のTRPGユーザーの中で、英語ができて英語版のゲームに手を出す人はそう多くないというか、一部の熱心なファンに限られます。
また展開媒体や雑誌、日本でこれから独自のファンを拡大していくことを考えれば、ターゲットの読者層を想定して合わせた対応をしていくのは頷ける話でしょう。
海外産のゲームにはルールの重さや文章の言い回し、文化的な背景の差異やビジュアルセンスの差異など、日本人には馴染みにくい面があるのは事実です。例えば貴方のお手元にSR4があったとして、両手に拳銃を構えているガンスリンガー・アデプトの牙の生えたオークの女の子のイラストに萌えられるでしょうか? いやまあ燃え萌えでその上香港ノワールも大好きならオッケイですが、なかなか難しい場合もあるわけです。
また、比較的ライトなシステムで十分楽しく遊んでいる人たちから見れば、そういう濃いゲーマーというのは単なる「近付きたくないコワイ人」に見える面もあります。先人から学びつつ自分たち独自で楽しみを追求したい若い世代から見れば、業界の悪口なり昔はえがった発言ばかりする先輩というのは導師どころか老害でしかないわけです。
そして、SR4が今度出るという話題で色々な人に昔の話を聞くと……より下の世代(現在学生〜20代の社会人など)には、「あのリプレイが好きでした」「あのリプレイでシャドウランを知りました」という声がけっこうあるんですね。
面白い。世界が砕け散り、確かなものなど何一つない第六世界と同様、物事には常に複数の側面があるわけです。
当サイトは中立の立場を取ってきましたが、そのような経緯のあったこの海外生まれの骨太ゲーム。
海の向こうでは98年に 3rd Edition が登場、しかし発売元ゲーム会社の FASA が2001年に倒産して営業停止、WizKids社が所有権を買収し、3rd Editionの展開は欧米では続行しドイツの FanPro 社に引継ぎ。
日本ではサポートの停止と共に徐々に下火になり、一部の熱心なファンは遊び続けたものの、ほとんど過去のゲームと化していきました。
かのブルース・スターリング先生が宣言したようにSF小説の分野でもサイバーパンク・ムーブメントは終結し、近未来ものであればシャドウランを受け継ぎ、より遊びやすく進化し、日本人の嗜好に合うように変化していった国産TRPGが存在します。シャドウランは、ゲーム歴の長い古参ゲーマーが不朽の名作や懐かしい作品として上げるゲーム、サークルの先輩が知っているゲーム、同ジャンルの後発のゲームから偉大な先輩として紹介されるゲームだったのです。
余談ですが当サイトでも、他のTRPGシステムにより人気があったこと、リソースを集中する必要があったことなどから、好きな方々には申し訳ありませんがシャドウランのセクションはWeb上にコンテンツは残しているものの更新停止、事実上の開店休業状態が続いていました。
……そして時は過ぎ、ネットの世界も日本のTRPG界も大きく変わりました。ビジュアルは日本人の嗜好に合ったライト系のイラストが多くなり、索引完備の読みやすいルールブックも当たり前になり、ファン層もライトノベルやアニメ層と共通することが多くなりました。かつては腕に覚えのあるベテランゲーマーというと洋ゲーのひとつやふたつは手を出したものですが、今はそうでもなくなっています。好きな作品の再現性を高めたゲームも多くなり、汎用ルールとしてはGURPSの次に今度はスタンダードRPGシステムが勢力を拡大しつつあります。
そんな頃、2005年秋にShadourun 4th Edition が同じく FanPro からゲーム内世界の舞台を2070年に一新して登場。現実世界で2006年の夏、来年に日本語版登場の大ニュースが。そして2007年6月に、いよいよ装いも新たにSR4日本語版が登場したのです。
グループSNEに代わりSR4を担当するのは、1stの頃から熱心なファンとしても知られていたスザク・ゲームズの朱鷺田祐介氏。
古い話で若い方には恐縮ですが、朱鷺田氏が未訳時代からシャドウランの熱烈なファンだったのは古参ゲーマーには有名な話です。
当時のホビージャパンの『RPGマガジン』の記事やTRPG関連書籍(‥‥ドラゴンブックの『ダンジョン・シネマティーク』やアスキーの『粋なゲーマー養成講座』etc)にもちらちらと愛のこもった説明が出てきました。
氏のデザインしたTRPG、古いところでは『パラダイス・フリートRPG』や『深淵』にもシステム面でシャドウランを参考にした部分があるのは、古参ゲーマーなら知っているネタです。
(作成済みのアーキタイプ制キャラや、判定の成功度によるダメージ増加、接近戦での反撃の可能性や腕のリーチの長い種族がいる、『ブルーローズ』の背景設定情報のコメントがシャドウ・トーク風...etc)
紆余曲折いろいろあったゲームが10年の時を経て、初版の頃から愛していたデザイナー自らの手で日本語になって蘇る‥‥となると、なかなかこうしみじみとするものがあります。
かくしてシャドウランは我らの元に帰ってきました。2007年6月の発売前後から、ネット上でも主にblog系で記事が増加し、動きが起こっています。SR2の時代を懐かしみつつ手に取る人も、初めて手に取る人も。翻訳前からバリバリ遊んでいる人も、PDF版の私家版シート類公開などもありました。
また、恐らくSR2の時代で現役で遊んでいた世代の方なのでしょう、「10年後の今になって読んでみるとやっぱりルールが重い」等という感想が多いのも興味深いですね。(何を隠そう、筆者もその一人なのですが!www)
いずれにせよ、近年も様々な作品やサプリメントが出続けている国産ゲームにはない骨太な重厚さを備えたこの作品が、この日本で日本語で読めるようになったのです。
例えばもしも貴方がSRと同様の近未来、サイバーパンク物でいえば……その後日本での主流となった『トーキョーN◎VA』のユーザーであるなら。偉大な先人であるこのゲームに触れるのは貴重な体験です。
N◎VAの背景世界であるニューロエイジで、日本の上空に巨大衛星があったり、北米連合の大統領が竜だったり、アウトフィッツで同名のものが幾つかあるのは、全てこのシャドウランへのリスペクト(オマージュ、パロディ、真似、イメージソース、好きな言葉を入れましょう)です。
日本人の嗜好に合うよう、N◎VAがSRからどう進化していったか。同時にその過程で何を失っていったのか。兄貴分のこのゲームを通じて押さえておくのは、貴方のゲームライフをきっと豊かにしてくれることでしょう。
という訳で。新規コンテンツが何もないのが申し訳ないですが、SR4日本語版の復活を記念して、当サイトのシャドウランのセクションもリニューアルしました。
恥ずかしい話ですが何事にも最初はありまして、このセクションのページの多くは、1998年が始まる日に開設した【RI財団(RI-Foundation)】の初期に作られたものばかりです。後になって見てみればHTMLのソースコード的にもかなり汚いものでした。
今回は完全におそうじを行い、全てにCSSを適用して、ビジュアル面を一新しました。リプレイにはタイトルロゴがつき、過去の時代に役立った英語版資料の解説のページではその後の世界設定の変遷も反映しています。(英語名詞のカタカナ読みがSR4と一部違うのはご容赦ください。) RSSリーダー全盛のご時勢ですが、リンクページも年代別に整理しました。
再び、新規コンテンツがないのが申し訳ありませんが、気が向いたら何か載ったり更新履歴のはてなダイアリー Rのつく財団入り口に何か記事が載ったりするかもしれません。
さあ! SR4日本語版が遂に登場したのは西暦2007年。マヤ文明の神秘の暦に記されし約定の時まであと4年です。VITASとUGEが世界を覆い、2011年のクリスマスにはグレート・ドラゴンが富士山に現れます。第六世界の幕開けを最初に知る栄誉を得るのは――我らが日本帝国。
現実が未来に追いついた21世紀の現代に目を向ければ、予兆はそこかしこに現れています。
80年代に夢想されたさらりまんの俸給奴隷による北米支配はなされませんでしたが、ソニー帝国は健在です。現実では一旦は覇を唱えたマイクロソフト帝国が今やGoogleを筆頭とするネット系新世代企業の激しい追撃を受けているのは、来るべきマトリックスの時代の煌きを、フチの灰の中から不死鳥のように蘇るネオネット社の躍進を暗示しているのかもしれません。アウトプットの質はどうあれ豊富な人的資源を背景に成長を続ける中国には、いずれ偉大なる竜の遺産を受け取る五行公司の母体の企業がもう生まれているのかもしれません。
既に電子マネーやオンライン決済は一般化し、駅の改札をカードで通れる時代になりました。より小さく、より高性能になっていく携帯電話と電車の中でも遊べるゲーム機は、いずれサイバーデッキやコムリンク並みの力を得るでしょう。
2070年代の世界にあまねく普遍しているRFIDの無線タグ技術も、いま世界中で研究が進んでいます。
ユーザーレビューとおすすめ商品がポップアップするamazonが、無数の線で人と人が繋がっていくSNSが、世界中の場所を探せるようになった検索エンジンが、Web2.0の先にある来たるべき電脳世界の革命を、ワイヤレス・マトリックスの時代を暗示しています。CIAとNSAの極秘の長期計画書には、もしかしたら既にエコー・ミラージュ部隊の草案が含まれているのかもしれません。WindowsとXbox用のゲームとしてもシャドウランがマイクロソフトから出るのも、2007年に登場した次世代型新幹線N700系にネット接続環境が予定されているのも、なぜかNHK教育でワイヤレス・マトリックス時代を思わすアニメ『電脳コイル』が放映中なのも、これらも全てが何か深遠なる予兆なのかもしれません。
覚醒世界の2070年は、我々の住む現実の先にあります。
ようこそシャドウランへ。貴方の影が、エキサイティングな夜を過ごしますように。
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