〜夜の力満ち〜
【Part.1】【Part.2】
Last Enlightened: 2001/09/22
夜の力満ちるもうひとつの世界。そこには多くの秘密と、多くの物語が眠っています。貴方を誘うささやきの声に、しばし耳を傾けてみましょう。
ここでは、一連のワールド・オヴ・ダークネス・シリーズの紹介をしていきます。
ホワイトウルフ社は90年代、この『ワールド・オヴ・ダークネス』(以下、略してWoD)という共通の世界を扱った一連のシリーズで成功を収めた米国のゲーム企業です。最初は小さなゲーム出版社だった同社は鬼才Mark Rein・Hagenを迎えて発表した『ヴァンパイア・ザ・マスカレード』が大ヒットし、その後も他社と段違いのビジュアル的なクォリティの高さ、深い設定やテーマを扱った大人の為のゲームを世に送り出してきました。今までとはまったく違った雰囲気のこのシリーズは米国でも、ゲーマーや吸血鬼、ゴシックを愛する人々に人気を博してきました。
製品の裏表紙にはいつも、Games for mature minds(成熟した大人の心を持った人のためのゲーム)と書かれています。『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の背表紙にも、吸血鬼は実在の存在ではないことがわざわざ但し書きされています。
WoDは深い設定に裏付けられた、現実を改変した歪んだ鏡像の如きもうひとつの世界です。扱っている内容も時には宗教問題や民族問題、ドラッグを初め子供には誤った認識を与えかねないものを多く含んでいます。そのため単純な年齢の問題ではなく、理解力ある大人の心を持ち、互いを尊重しつつ雰囲気あるゲームを行おうと指針されているわけです。
なお面白いことに、Adults Onlyのサプリメントを出す為にわざわざBLACK DOG GAME FACTORYという別名義の会社まで作っています。翻訳された『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』でいうと、サバトに属するツィミーシィ、そして中世に滅ぼされたバアリのクランブックが18禁です。
なおBLACK DOGは、『ワーウルフ:ジ・アポカリプス』の中では、妖蛆ワームの手先として活動するペンテックス社配下のRPG企業としてわざわざ詳細な設定まであります。これも向こうの人の好むジョークなのでしょう。
ストーリーテラー・シリーズに隠れがちですが、ホワイトウルフ社は他の作品も出しています。共通のストーリーテラー・システムを用い、WoDとはまったく関係のない未来世界を描いたSF-RPG『TRINITY』(トリニティ)。どうやら人気はいまいちのようです。他、今は撤退したようですがストーリーテラー・システムを用いた『STREET FIGHTER』も実は同社の作品です。現在はAtlas Gamesが権利を所有している中世の魔法使いを演じる『Ars Magica』(アルス・マギカ)は4th Editionですが、3rd Editionはホワイトウルフが発売元になっていました。
当時はホワイトウルフから半ば一方的に、アルス・マギカの世界をWoDとリンクさせる試みがあったようです。アルス・マギカの舞台は伝説が息づくMythic Europe。点在していた魔法体系をヘルメス理論のもとに統一した賢者ボニサグスらが創立した魔術師の統合体の物語なのですが、彼らの名こそ
ワールド・オヴ・ダークネスの世界観は『ゴシック・パンク』と呼ばれる雰囲気を根底においています。
ゴシックとは中世の建築様式のあのゴシック、ゴシックホラーのゴシックです。現代においてもなお、WoD世界の大都会には重苦しく荘厳な建物が立ち並び、四方を見張る不気味なガーゴイル像があり、陰鬱な雨が降り、深い影が落ち、虚無や倦怠、様々な負のイメージが存在します。
パンクはサイバーパンク達が魂に備えているあのパンクです。権力へ、様々な足枷への反抗、ブレークスルー、前進。レザーファッションに身を固めたヴァンパイアだっています。
そしてこの世界の夜はより暗く、闇はより深くなっています。人間たちの悪徳は増し、希望は消え去り、真に高潔な魂は貴重なものとなっています。
このゲームはホラーに近い部分もありますが、吸血鬼や人狼のような一般的に怪物とみなされる存在を演じ、悪の権化として振舞うわけではありません。WoD世界に単純で絶対的な善悪はほとんど存在しません。互いに憎しみ合い、争っている多くの勢力には、それぞれの歴史や考え方があり、戦う理由があります。真に邪悪な勢力はその中の一部です。サタン崇拝に堕落した吸血鬼の一族や異界から呼びだされた悪魔は出てきますが、天使や神の軍勢らしきものは存在はするらしいのですがほとんど出てきません。
そんな中で、大衆はどうあれ、PCとして生を得た人物たちは、自分の意志で、自分が自分であるために生き、問い続け、前に進んでゆかねばならないのです。
そして、闇深き世界だからこそ、WoD世界には輝くもの、貴重なものがあるのではないでしょうか。
それは夜の世界にさ迷う若き血族たちが心のどこかにまだ保っている、人間の心のかけらかもしれません。絶望的と分かっていてなお、妖蛆との戦いに身を投じるガルゥの気高い魂かもしれません。アセンション・ウォーが終結してもなお、未来へと向かって進もうとするメイジたちの強い意志かもしれません。影の国をさ迷うレイスが死してなお抱く強い念かもしれません。道が閉ざされて久しい妖精郷アルカディアに想いを馳せる、妖精たちの無垢な想いかもしれません。
そしてそれは――きっと貴方が自分で探し出すものなのでしょう。
さてこのゴシックパンクの雰囲気ですが、サイバーパンクの雰囲気を伝えるのが難しいのと同様、文字だと伝わりにくいものがあります。
翻訳された『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』や『ワーウルフ:ジ・アポカリプス』、そして未訳サプリメントを彩るたくさんのイラストや紙面がそれを伝えています。どうぞそちらを御覧下さい。異世界からの風を感じることができると思いますよ。
このゴシックパンクを根底に、各シリーズではそれぞれのテーマや雰囲気が強調されています。ヴァンパイアであれば重苦しい夜の大都会や華やかなで優雅な闇の生や血の呪いが表現されますし、ワーウルフならうって変わって野生の力強さや大自然の恵み、荒々しさなどがルールブック全編から伝わってきます。秘本めいたメイジは神秘主義とセンス・オヴ・ワンダーに満ち溢れています。東洋に行けばまた雰囲気はまた異なりますし、時には「ほんとにこれゴシックパンクなの?」と思うようなところもあります。(ついでに、ホワイトウルフの人々は例によってジャパニメーションが大好きでずいぶん影響を受けているようです。/笑)
実際のセッションでは表現しきれないところもありますし、あえて表現したくない要素や強調したい要素もあるでしょう。アメリカでもあまり気にせず遊んでいる人もいるようです。
そうした自分なりの要素や雰囲気を付け加える余地は十分にあります。大丈夫、It's your game! です。貴方だけのWoDを作り出しましょう。
そして、このセクションのコンテンツも雰囲気も、全てが正しいWoDというわけではありません。(鵜呑みにしない方が良いですよ‥‥)
翻訳された『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の巻末からは後書きがごっそり抜けていますが、WoD世界を構築する上で参考になった作品はルールブックやサプリメントで多く挙げられています。ちょっと映画を中心に挙げてみましょう。
ゴシックパンクの暗い街並みなら『飛翔伝説クロウ』やジョーカーが踊っていた頃の『バットマン』シリーズがそうです。不朽の名作『ブレードランナー』も勿論上がっています。大都市の狭間で不死者たちが剣一本で戦う『ハイランダー』も近いものがあります。(続編は抜かす、とV:tM 2ndの後書にあります/笑)
無音の白黒映画の『吸血鬼ノスフェラトゥ』はそのまま異様な外見を持ったノスフェラトゥ氏族の血族のイメージですし、他のドラキュラ作品も挙げられています。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』は先頭に挙げられており、アン・ライスの原作小説にはV:tMの多くの原型をその中に見ることができます。ジョン・ウー・スタイルでプレイするなら『フロム・ダスク・ティル・ドーン』もそうでしょう。
勿論『マトリックス』だって入ります。サプリメントの各章の引用には『ツイン・ピークス』に『X-ファイル』だって出てきます。他にも沢山あるでしょう。また、東洋の魔狩人を描いたサプリメント『Demon Hunter X』にはわざわざWoD, Annime-Styleと題し、ジャパニメーションが論じてあります。参考になるアニメも多数挙げられているのですが、原題が分からないものまでありました。(笑)
V:tMに始まるWoDシリーズ自体が、元は現実の歪んだ鏡像であり、世の既存の様々な作品のイメージを源泉としている部分もあり、完全オリジナルというわけではありません。(でも、モデルがあるのは国産TRPGにも多いですよね。)
当セクションのThe Quiet Masqueradeでも詳しく述べていますが、これらのシリーズは共通のストーリーテラー・システムを使用しています。10面ダイスをダイス・プールの数だけ振って成功数を数える方式です。ストーリーテリングを優先するためシステムによる制約はゆるやかであり、第一の黄金律として常にNo Ruleが提示されています。セッションを史劇(クロニクル)/物語(ストーリー)/章(チャプター)/場(シーン)で分類するなど、用語にも気を使っています。ストーリーテリングのテクニックについても、多くのページが割かれています。
『ストーリーテリング・ゲーム』と『ロール・プレイング・ゲーム』の間に根本的な違いはなく、むしろゲームに対する姿勢のようなものと考えてもよいでしょう。今までのRPGとは違う、一歩進んだ演劇指向であることを自ら名乗り、ビジュアルや雰囲気、設定を重視した作品群を出すことで、その姿勢を保ち続けているのです。
他のRPGでゲームマスターと呼ばれる人はストーリーテラー(Storyteller, 頭文字を取ってST)と呼びます。日本語では略してステラーやテラー、テーラーと呼ぶようです。
ワールド・オヴ・ダークネスはもうひとつの世界であり、関連する設定も各シリーズで大量に(本当に大量に)存在します。執筆に携わっている人も複数おり、当然矛盾も出てきます。
そして――サプリメントの多くで各勢力の立場から見た主観的な記述や、事実があいまいな読み物のスタイルを取っているホワイトウルフの作品では、わざとその矛盾を増長させている節があります。そう、ワールド・オヴ・ダークネスはあまりに広く、そこに隠された真実はひとつではないのです。
ヴァンパイアたちが信じる伝説では始祖カインは第一の街エノクを治め、子らの叛乱や大洪水など幾つかの物語があります。ワーウルフの伝承では有史以前の弱い人間たちが増えるのを恐れ、一定量以上に増えすぎた人間を人狼が狩っていたインペルギウムの過ちが語られます。そこに吸血鬼たちは出てきません。さらにメイジの世界設定を使用するなら、テクノクラシーの前身となったオーダー・オヴ・リーズンのメイジ達の啓蒙活動によって天動説が広く支持されるようになる以前は、この地球は平らだったかもしれない(!)、地球の周りに広がる宇宙はアンブラという異界をそう信じているに過ぎない(!)ことになります。
世界は一見ヴァンパイアが全て影から支配してきたかに見えますが、メイジ達も様々な活動をしており、ワーウルフ達も文明の始まる前から人間を導いてきており、どれが本当なのかすぐ分からなくなります。
こうした食い違いはあちこちに大量にあります。それが闇の奥に秘せられた真実を探す楽しみであり、世界の深さを実感する時でもあります。即物的なことを言うと、熱心なファンにとっては大量のサプリメントをわざわざ揃える理由にもなるのでしょう。(笑)
それでは、各シリーズの紹介を軽くしていきましょう。
『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』。最初に刊行されて人気を博し、他のシリーズが始まるきっかけになった旗艦的作品です。
主人公たちは現代社会の都市に生きるヴァンパイア。自らの中に潜む怪物の心と人間の心の狭間で揺れ動きながら、夜の世界の主として舞台に上ります。
代表作として前から有名な作品でしたが、2000年夏にアトリエ・サードから夢の翻訳が実現されました。詳しくは当セクションのThe Quiet Masqueradeの方を御覧下さい。
『ワーウルフ:ジ・アポカリプス』。続く二作目は対照的に荒野、伝説、原初の力といったものが題材になりました。
主人公は誇りを込め、自らをガルゥと呼ぶワーウルフ達。大地の母なるガイアの子、月の精霊ルナの力を備えた滅びゆく変身種族。赤妖星アンセリオス輝く今、黙示時の時は近く、スターゲイザーは西の盟友たちの元を去った。彼らは最後の希望として、12部族の確執を乗り越え、大地を汚し続ける妖蛆ワームと戦い続けなければならない‥‥
狼形態に変身でき、強い再生能力を持つワーウルフは数は少ないながらも、WoD世界の中でも最強の部類に入ります。ムーンブリッジと呼ばれる門や自分の力でアンブラ(Umbra, 影界)と呼ばれる異世界に入れるので、長距離の移動や他シリーズの舞台への登場も容易です。
ワームという明確な敵役が設定されているところから戦闘には一番重点が置かれ、またワーウルフ自身も悲劇的、英雄的な側面が強まっています。アメリカでも10代のファンに人気だとか。2000年12月に2nd Revisedが発売され、2001年夏にアトリエ・サードから翻訳されました。
『メイジ:ジ・アセンション』。主人公達は偽りのMagicではなく、意志の力で現実を改変できる本当のMagickを使う覚醒者たち。9つと1つの神秘のトラディションに属する彼らは、科学という名で呼ばれるようになった魔法を操り、世界の人々を合理主義に導いてきたテクノクラシーと戦ってきました。人類を新たな段階に昇華させるアセンション・ウォー(至天戦争)を。
最新のRevised版ではこのアセンション・ウォーがテクノクラシー側の勝利で終結しています。世界は科学を選んだのです。しかし世界は彼らの目指す進化を望まず、影界の深部に吹き荒れた嵐は双方の指導者との連絡を途絶えさせました。本当の勝利者はいなかったのです。
Revised版では、アセンションの意味の模索と、そしてより現実世界へとその手を伸ばし始めたマローダー/ネファンディという異界の力との戦いがメインになっています。『Guide to Technocracy』というサプリメントを使えばテクノクラシー側のPCも作成できます。
見所は魔法のルールです。トラディション・メイジたちはそれぞれ、位置/時間/生命といった9つのスフィアーを操る力を持っています。ルールブックに並ぶ決まりきった呪文を使うのではありません。効果は自分で考えるのです!
2002年にアトリエ・サードから翻訳が決定しました。
『レイス:ジ・オブリヴィオン』。WoD世界で死してなお、生者の国スキンランドに未練を残す者は、冥界の影の国シャドウランドをさ迷うレイスとなって留まります。彼らにも安息はありません。シャドウと呼ばれるもうひとつの人格の悪の囁きに屈することなく、彼らは死者の国で生きていかなくてはならないのです‥‥。
題材は死後の世界。関連製品も雰囲気そのまま、悪く言うと陰気にまとまっています。残念ながら上の主要3シリーズに比べると米国ではそれほど人気がなかったようで、下のシナリオによって背景設定そのものが消滅、サポート終了が宣言されてしまいました。
『End of Empire』などの最後の作品となるシナリオ群では冥界の主カロンが帰還。冥界には嵐が吹き荒れ、他シリーズにも大きな影響を及ぼす事件となったそうです。なお、第一次世界大戦末期が舞台のサプリメント『Wraith: The Great War』がRevisedルールに対応した事実上の3版に当たるようです。
『チェンジリング:ザ・ドリーミング』。影界にあり、今はもう現実世界と接点を閉ざされた妖精郷アルカディアに想いを馳せつつ、世から失われつつある人々の「夢」や「希望」を糧として生きる妖精たちの物語です。
ルールブックはフルカラー、シリーズ中唯一本当のおとぎ話が再現できるゲーム。妖精たちは人間の体を借りて生きており、他シリーズの存在に比べると弱いというか、根本的に別の次元の存在だとか。これも、他シリーズに比べると人気がいまいちだそうですが‥‥?
『ハンター:ザ・レコニング』。清算の年Year of Reckoningに遂に登場した第6のシリーズです。告知の声を聞き、闇から世界を操っていた存在に気付き、反撃を開始する人間たち。主人公はただの人間ですが、強い意志や信念の元に、吸血鬼や歩く死体達に立ち向かいます。ここまで来てようやく人間が主役の普通のゲーム登場というところでしょうか。サバイバルも重要で、割と『バイオ・ハザード』っぽい部分もあります。
様々な超常能力を持つ主人公達が怪物を次々と倒していく超伝奇アクション物なのか? との予想を裏切り、そこにあったのは世の類似作品の影響を受けていない、まったく新しいハンター物でした。その困惑もあるのか、他シリーズの今までの盛り上がりに比べると、完全な新作としての人気はまだまだこれからのようです。
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