The Quiet Masquerade

〜静かなる仮面舞踏会〜
Part.1】【Part.2】

Last Enlightened: 2001/09/22

Prepare, the Final Nights are near.

 ゴシック・パンクの世界には、元から世紀末の終末思想的なムードが含まれています。V:tMも同じです。父祖カインから遠く、意味ある13という数字の世代に当たる世紀末の血族たち。長老たちが語り、恐れる迫り来るゲヘナの伝説。
 では本当に1999年にWoD世界も滅んでしまったか――というとそれではホワイトウルフも商売にならないのですが、翻訳されたRevisedでも終末の予兆はあちこちに現れています。
 2ndではカマリリャ7氏族しか紹介されていなかったクランも、13氏族全てが揃いました。サバトに属する反マルカヴィアンのみが使っていた《発狂》の訓えも全マルカヴィアン固有のものになっています。
 そして、世界の展開でも、驚愕すべき事態がいくつも起きています。ロシアのブルーハたちを滅ぼし、君臨したノスフェラトゥのメトセラ、邪悪なババ・ヤーガも遂に滅ぼされました。版徒のヴァンパイアたちが独立を宣言したロサンゼルスをはじめとする版徒自由州は支那鬼――実際には東洋の鬼人たち――の襲撃を受けて壊滅しています。トレメール七人会議から脱退したゴラトリクスが率いていたサバトの反トレメールは、一夜のうちに全滅しました。魔術師たちの間で密かに流れる始祖トレメールの体の異変も真実のようです。アサマイトはトレメールの掛けた血の呪縛を打ち破り、北米のサバトの攻撃も激しさを増し、激戦の中でカマリリャはニューヨークを奪回しました。
 サバト内の戦闘集団と思われていた黒手団(ブラックハンド)。だが彼らを隠蓑に、カマリリャよりもサバトよりも遥か古代から、いにしえの策謀に従って計画を進めてきたトゥルー・ハンド(真なる手)の存在はファンたちを驚かせました。ですが、彼らの本拠地であった影の国の都エノクは冥界の主カロンの帰還により壊滅。残党たちの中にはゲヘナ・カルトのリーダーとなったものもいるといいます。
 狂えるアンテデルヴィアンの一人が復活し、ラヴノス氏族は一週間で壊滅。核にも耐えた始祖ラヴァナはテクノクラシーら複数勢力の軌道からの合同作戦でようやく滅ぼせたといいます。そして、空に何時の間にか現れた赤い星。人狼がアンセリオスと呼ぶこの赤妖星は幻視の力に近しい超自然の存在らにのみ輝いて見え、何かの悪しき凶兆を示しています。
 そんな中、カマリリャの7本の柱のひとつであったギャンレル氏族は突如カマリリャを脱退します。マルカヴィアンの幻視者達の予言通り、カマリリャは瓦解するのでしょうか? ヴァンパイアの長老たちが何世紀も前から恐れおののいてきたゲヘナの時が遂に到来したのでしょうか?
(事実、これらの事件はSTの判断で起こしても起こさなくてもいいし、ゲヘナの解釈も任せるとStoryteller Handbookには記述されています。もうゲヘナの時は来ているかもしれないのです。いや‥‥公式展開ではもう来ています。)

 これらの大事件は長らくファンに親しまれてきたWoDシリーズに変化をもたらす新展開として行われたものです。(そういう意味では、永遠の歓喜の街トーキョーN◎VAに日本軍が進駐してきたり、第六世界に威容を誇ったフチが2060年代に崩壊してしまったのと同じです。)
 ですが、これからWoDを始めようと思っている日本のユーザーにとっては、いささか面食らう展開でしょうね。もちろん世界は広いですから、こうした事件は起こっていない/起こっているかもしれないけど自分たちの史劇にはとりあえず関係しない とするのもよいでしょう。
 

Last Generation of Cainite

 ではゲヘナ近付く今、第13の世代の血族たちの為した子はどうなるのか――という疑問の答えは、『Time of Thin Blood』で明かされました。
 薄き血の子らである第14世代は訓え上限が4、15世代は3。體血は同じ10ですが、訓えや治癒に使えるのはそれぞれ8と6点のみ。血が薄い短所を取った14世代は體血の使用に倍が必要となり、抱擁の成功が20%に落ち、最後の15世代は抱擁自体が行えなくなります。
 その一方で彼らはカイン人の呪いから解放されつつあります。15世代になると日光のダメージは再生不能から致死に落ち、食物の摂取や、ダンピールの子を妊娠することもできるのです。そして、力弱き子らは《洞察(Insight)》という背景を取れば、夢の中で度々、闇の大戦に関する幻視を見ることとなります。
 14世代の半数と全ての15世代はケイティフです。大都市でその数は増大しています。何世紀も過ごしてきた年老いた血族たちにとっては、弱き子らの存在は無常感と終末の予感におののかせるに十分でしょう。空に赤き魔星が輝き、氏族の数が12となってしまった今、次は何が起こるのでしょうか。ノドの書の予言は成就するのでしょうか?

2nd to Revised, spread to whole world.

 今まで述べた通り、2nd EditionからRevisedに移行する中で様々な変化が起きています。ルールに関しては複数回行動の扱いや意志力判定の扱いなどが変わり、イラスト類も一新されました。(各クラン紹介のイラストの中の一部は、前より子供っぽくなったと米国でも悪く言われているようです)
 最大の変化は上に述べたように、テキストのあちこちに散りばめられているゲヘナの予兆でしょう。夜の貴族たちの織り成す華麗なる仮面舞踏会を期待していた人は、永劫に続く醜い権力争いにはげんなりするかもしれません。

 思うにV:tMが人気を博し、現実世界の鏡像であった背景世界がサプリメントの展開によってどんどんと広がり、もうひとつの歴史を持つ世界として明らかになるにつれ、「怪物を演じることにより浮き彫りになる、人間性とは何か」といった当初のテーマから若干のずれが生じているのではないでしょうか?
 実際、2ndのルールブックにはカマリリャの7大氏族しか掲載されておらず、この世界のほとんどのヴァンパイアがカマリリャに属しているかのように記述されています。サバトやアンコニュは本当に名前程度しか出てきません。
 Players Handbookで独立氏族や血脈がなんとなくオプション的に掲載され、サバトの暗い秘密が明かされ、各氏族の歴史や設定が公開され、新たな勢力が加わり様々な闘争が生まれ、他シリーズが展開し世界の闇が大きく広がってから、今の状況があります。(どうも、V:tMの基本的な形が整備される前の1stでは、サバトは本当にただの敵役でしかなかったとかなんとか。)
 アメリカやヨーロッパの西洋の吸血鬼といって我々が漠然とイメージできるヴァンパイアはだいたいカマリリャ7氏族で再現できますし、それ以外の氏族はエジプト神話の末裔や砂漠の民であったり、やはり後から加えられた感があります。
 不死者の歴史はカルタゴやローマから続き、中世の暗いヨーロッパを経て、新大陸発見の頃に欧州で優勢のカマリリャも敗北したサバトもアメリカに渡ってきたことになっています。どうも歴史の浅いアメリカという国の持つヨーロッパへの憧れのようなものも幾分見えますし、北米の先住民族系の中に既に血族がいてもいいはずですがあまり見当たりません。(サバトの血脈にいることはいるらしいのですが。)
 当時は奴隷を抱擁するのは汚らわしいとする習慣があったそうで、ブルハーの執行官セオ・ベル以外には、公式世界における黒人ヴァンパイアの有名NPCはあまり見かけません――これも見方によっては人種差別のように見えるかもしれません。
 後期になって明かされた真の黒手団を構成している面々も、ほぼ全てが中東系の血族です。WoD世界全体も後になって東洋が紹介されたり、2001年スカラベの年はエジプトがテーマになったりと、どうもアメリカ中心の世界が後になってから広げられた感があります。

 そうした広がった世界の中で厳しいジハドを戦っていくなら、一人のヴァンパイア個人の生き様や、一夜の血の糧に過ぎない人間一人への罪の意識は、大事の前の小事と軽視されて当然かもしれません。
 オフィシャルでもこの辺に少し考えがあるようで、最近は原点回帰や広がりすぎた設定の整合性を取る為に、幾つかの勢力が消されたりもしているようです。

 もちろん日本では翻訳された版をプレイすればいいのですから、前の版のことを気にする必要はありません。ただ、今までそうした経緯があったというのは気に留めておいてもよいでしょう。
 たとえルールブックに13氏族が並んでいても「この史劇ではカマリリャ7氏族限定でお願いね」とSTをやってくれる人が頼んできたら、それはしごくもっともな願いです。巻末に《啓発の道》が全て掲載されてはいても、あなたの分身となる血族は最初は人間性の道を選ぶのも、まっとうな選択です。
 

Weakness behind Darkness

 さて、誉めてばかりではいけませんのでしばらく目に付く欠点を幾つか述べることにしましょう。
 No Ruleとは銘打っていますが、V:tMには勿論システムは整備されています。ストーリーテラー・システムは数あるTRPGシステムの中ではベーシックな部類に入ります。(例えて言うとルーンクエストやクトゥルフを始めとするBasic Role Playingのシリーズのような感じですね。)
そしてキャラクターの受けるダメージも段階制、戦闘は真面目にやると実は割と死にやすいのです。特にRevisedからは射撃でなく接近戦でも、攻撃側の成功数-防御側の成功数をダメージ判定に足せるルールが追加されました。(これは危険なので使わないSTもいるそうです。特に、クリノス形態になると能力値がはねあがるワーウルフはかなり大変なことになります)
 戦闘系【訓え】のデフォルト、《瞬速》による複数回行動の解釈など、戦闘関係のルールでもいまいちはっきりしない部分がまだ残っているようですね。細かい処理も意外と多く、またイニシアチブ順に行動宣言してから実際の処理を行う二段処理、攻撃の成功数を鑑みてダメージでもう1回ダイスを振る二段処理は、時として盛り上がりや演出を阻害します。自分なりのハウスルール的なものを定めるのもよいかもしれません。
 『World of Darkness:Combat』と題した戦闘の追加ルール集もあり、これを使えば『GURPS・マーシャルアーツ』の如く流派の格闘動作を学ぶこともできるのですが、2nd対応となっており、Revisedには若干の工夫が必要となります。
「ヴァンパイアは葛藤するゲームなんだから戦闘しなきゃいいじゃん。だいたいカマリリャの掟の違反だよ」というのも正しくはあるのですが、戦闘用の訓えやルールもありますし、またWoDシリーズ全体を俯瞰すると、アクションがストーリーテリング・ゲームの重要な要素であるのも確かです。
 他にも山のようにあるサプリメントや他シリーズには、追加ルールや追加の【訓え】などが多数掲載されています。どんどん取り入れていくと、当然ではありますが整合性やバランスの問題、未整理の部分ががいろいろと出てくるようです。(バランスは、オフィシャル側は故意にあんまり考えていないような節があります。)
 マイナーな血脈など、プレイの幅を広げる様々な追加設定が出ていながら、スタンダードなプレイだとPCには使えずに、結局は知っていて楽しいだけのネタも沢山あります。

 そして、始祖カインに天上神と四大天使が下した同族争いの呪いについて。
血族達は考え方の違いからカマリリャとサバト、そして他のセクトに分かれて相争っています。13の氏族もそれぞれが過去の確執を引きずっています。さらにひとつの氏族の中でも権力や後継者を巡る争いがあります。一般的には結束が固いと言われるトレメール氏族も、実は内部には幾つもの秘密結社を抱え、サバトに離反した一派さえいます。
 その上、封建制度的なカマリリャの支配する街なら、圧政を敷く公子やその座を狙う参議など、様々な陰謀が渦巻いていることでしょう。
 ヴァンパイアは孤独を好み、陰謀によって夜の生の価値を見出す生き物だとは言われていますが、力を合わすことは不可能なのでしょうか。こんな中でどうやって夜を生きていけばよいのでしょう。ましてや物語を作らなければならないストーリーテラーは? TRPGセッションが成り立つのでしょうか? 「みんなで仲良くダンジョンに潜る」まで行かなくても、「立場や主義主張は違えどひとつの目的、ひとつの物語の為に一時的に協力する」ぐらいサイバーパンク物でも当然では?
 若いヴァンパイアたちが共通の目的のために一時的に結成する集まりを同胞――平たく言うとファンタジーRPGのパーティのようなもの――と呼びますが、これが不自然なものにならないよう、キャラクター作成の段階から協力しあえる要素が残るように調整せよと指針されています。この辺りを少し考えた方がよいかもしれません。始祖から遠く離れたカインの子らには、呪いは薄まっているかもしれません。
 実際、これはどうもV:tMの抱える主要な弱点だったようで、後のシリーズでは改善が見られます。
例えばワーウルフ・ジ・アポカリプス。ガイアの子として世界に散った13(ないし12)の人狼の部族は、例によって互いにいがみあっています。しかしそれでも人狼たちは何とかして協力し、ワームと戦わなければなりません。
 そしてガルゥは出生時の月相によって役割が決まっています。トリックスターのラガバッシュ、賢者シーアージ、裁定者のフィロドクス、ガリアルドの詩人にアーローンの戦士。混成部族からなるパックを作り、ひとつのトーテムの元に集い、彼らは戦いに挑みます。そうです。これも形は違いますが、パーティのようなものなのです。
 

Deep, Deep, Deep Secrets

 少しでもお読みになれば分かる通り、(そしてこのコンテンツを見るだけでも分かる通り、) V:tMや他WoDシリーズには独特の用語や解釈、深い深い設定が天にも届く山の如くたくさんあります。ワーウルフやメイジたちの言葉でも、まったく同じものを指している別々の呼び名があったり、東洋やテクノクラシーだとさらに言い方が違ったり‥‥。ルールブックやサプリメントも読み物風に記述されており、英語の原文に関しては独特の言い回しや普段用いない文章語、実在の単語からでっちあげた固有名詞が多数あります。
(これだけ深い設定を出しておいて「お前の世界なんだから好きに遊べ」というのもかなり矛盾していますね。/笑)
 そこから、PCたちが物語を演ずる世界には重みが生まれます。何百年もの時を超えて生きてきたヴァンパイアの長老達の台詞は重みがあるでしょうし、妖蛆との過酷な戦いを経てきたワーウルフの英雄には存在感があるでしょう。(もう終わりましたが)至天戦争をくぐり抜けてきたメイジたちもそれぞれの勢力が独特の哲学やイデオロギー、歴史を持っています。WoD世界の各勢力にはそれぞれ戦う理由があります。その辺りをわきまえている人間同士で遊べば、架空世界に生きていることを実感できる素晴らしいセッションができることでしょう。

 しかし、逆に言えばいわゆる「わかる人だけわかる」マニアネタが沢山あることになります。(本当に、死ぬほど沢山あります。) 覚えるべきことが多いのは未経験者にとっては非常に敷居を高くしているでしょう。それに、一定以上の英語力を持ち、原書の資料を何冊も買い漁る熱心なファンは、日本語版から始める人を含めた全体の中で決して多いわけではありません。
 皆さんも機会があったら、オフラインでWoDに詳しい人を観察してみましょう。一般人にはまったくもって意味不明な話を延々と続けていませんか?(笑) 自分の知っている正しい設定や解釈とやらをとうとうと偉そうに語り、押し付けてきませんか? 未訳ゲームマニア特有の欠点が特に多く見られます。
 確かに高度なテーマを持ったゲームですし、英語や他の語学や歴史や哲学や異国の文化や魔術史などなど勉強すれば深いプレイができるでしょう。でもそうしなければいけない訳ではありませんし、そうしている物知りな人間が偉く、そうでない人間が知的レベルが低いなんてことは断じてありません。TRPGを遊ぶ権利は全ての人間になければなりません。

 コンベンションで遊ぶ際にも、時間の限られた状況では説明に時間がかかる分ちと苦しいでしょうね。キャラクター作成は體血以外は全てポイント割り振りですから短時間で作れることは作れますが、ちゃちゃっと作ってちょちょっと遊ぶには不向きです。残念ながら決して万人向けのTRPGとは言えません。(もし「初心者向けの標準的なクランってどこですか」と聞かれたらどうしましょう。僕はきっと答えられません/笑)
 では何も覚えなくても遊べるように万人向けに敷居を低くさえすればそれでよいのか‥‥というと、それでは雰囲気もそがれてしまいますから難しいところですね。

 実際アメリカでも、D&Dなど古典的なRPGの好きな人などからは「上っ面だけきれいに飾り立てた所詮はええカッコしぃの設定ゲームだ」という意見もあるようです。確かにその通りです。はたから見たらヴァンパイアなんて浸ってるだけに見えるでしょう。ええそうです、V:tMは全員が呪われた吸血鬼になって浸るゲームです。でも、浸って何が悪いんですか?(笑)
 

To where, we set our Night?

 そして現在の日本語版状況での留意点は舞台の問題でしょう――翻訳されたRevisedには舞台の解説がなく、自分たちで作るか、未訳の資料を参考にしてクロニクル(史劇)を展開するしかありません。(実は2ndの巻末には、シカゴの近くにあるゲイリーという街のストーリーアイデア集のようなものがついていました)
 もちろんルールブックには自分たちに馴染みのある街を舞台にすればよいと書かれていますし、V:tMシリーズが人気を博し、展開が大々的になってから、街の設定は沢山出ています。(シカゴ、ワシントンD.C.、ニューヨーク、ロサンゼルス、ニューオーリンズ、ニューイングランド、モントリオール、ミルウォーキー、アメリカ以外ではドイツのベルリンなど。ワーウルフなど他のサプリメントではさらにあちこち。) 海外のファンサイドのウェブサイトでも、オリジナルのニューヨークやパリ設定などを見ることができます。
 アトリエ・サードの雑誌『TRPG:サプリ』誌では強大な力を持つメトセラの公子が治めるワシントンD.C.の抄訳が記事として2000年11月に記され、続いてはベルリンでした。これからも公式設定を幾つか紹介していく形式を取っていくそうです。

 では、我らが日本を舞台に、例えばトーキョー・バイ・ナイトの夜会を開きたいと思ったらどうすればいいのか?(東京に住んでいない方すいません)
 正確には『Wraith: The Oblivion』のサプリメントに属し、東洋特集のYear of Lotusの一環として出されたクロスオーバー用設定集『World of Darkness:Tokyo』が既に出ています。
 東京は様々な超自然の勢力がしのぎを削る激戦地区です。シルバー・ファングの遠縁に当たる誇り高き八犬の狼たちが京都のケルンを守り、東京の様子を窺っています。シェイプシフターの東洋の同族、変化妖怪たちもいます。チェンジリングに東洋のhsien(秘神)たち、大都会に張り巡らされた光の網を駆けるのはヴァーチャル・アデプトのメイジにテクノクラシーのヴォイド・エンジニア。ザイバツが巨大企業群の背後に潜み、霞ヶ関の摩天楼では政府直属の秘密機関ストライク・フォース・ゼロが化物狩りの出動命令を待っています。関ケ原の時代から生き続けている指導者を元に、東洋の吸血鬼である鬼人たちも日いずる国の帝都に暗躍し、超高層ビル街の中に秘せられた祭儀所からは、トレメールの魔術師たちが東京奪回の秘策を練っています。
 七人会議の極東進出計画の決定に基づき、かつてはロンドンで鳴らしたプレストン・ヴァリックというトレメール魔術師が先頭を切って東京掌握に乗り出しましたが、後ろ盾を失い、師オリヴァー・スレースを何者かに殺害された後は苦戦を余儀なくされているのです。また、少なくとも2グループのブルーハが西洋から侵入、また新たな死霊術を求めてジョヴァンニが六本木に根を下ろしたらしいという記述もあります。
 このように、東京はV:tMの舞台ではなく、WoDシリーズ全体の舞台なのです。遊ぶのは可能ではありますが、かなり賑やかになることでしょう。(また、V:tM以外の未訳ゲームも揃える必要があります。)
 ふつうにカマリリャの公子が治めている(表面上だけでも)少しは平穏な街を舞台にクロニクルをやりたいなら、公式設定の東京はあまり向いていません。

 もちろんWoDは遊ぶ人の為の世界です。公式設定に反して東京その他の大都市で、カマリリャやサバトの統治の元に鬼人でなく血族たちが住む街があることにすることだって可能です。
 しかし、この場合はゲームそのもののコンセプトと若干ずれが出てきます。遥か八百万の神々の時代からずっと続いてきた日本の歴史は、建国以前の歴史がないアメリカとは比べ物になりません。(いや、もちろん先住民族の方々はいますしW:tAには出てきますが。)
 閉ざされた島国として独特の文化を育んできたこの日本に、カタカナ名前のクランに属する吸血鬼がたくさんいて開国以前、キリスト教が伝わる遥か昔から操っていたというのもちょっとおかしな話です。メイジの敵役にあたるテクノクラシーの日本侵入も、幕府崩壊黒船来航後の文明開化あたりになっています。(どうもペリー自身がテクノクラシーだったようです)
それに名前の問題も出てくるでしょう。「ブルーハの剛志くん」や「トレアドールの琴美さん」ならまだ分かるかもしれませんが‥‥「ジョヴァンニ一族の田中さん」や「セトの信徒の大神さん」とかになると‥‥(笑)
 では『Kindred of the East』をプレイすればよいのか? というと翻訳される可能性は正式にゼロになりましたし、そこに描かれる鬼人は血族とは根本的に異なる存在です。一般に思い描くヴァンパイアがやりたいのならば、V:tMの方が向いているでしょうね。
 

In the End - Don't afraid, Feel the Immortal Life...

「彼は偉大な血族でした‥‥百年前までは。今では何も理解する事の出来ない、しようとしない過去にしがみつくのみの存在‥‥貴方は若く、力強い‥‥どうか私をこの牢獄から連れ出してください」
「姫君、その囚われの塔の名は時間と申すのでしょうか。しかし、それは全ての血族が囚われた塔のはず‥‥」

――クロニクル『霧笛に煙る炎』の一幕



 さて、伴奏のない仮面舞踏会についてしばし述べてきましたが、いかがだったでしょうか。このように、V:tMには一夜では語り尽くせない魅力と、そして実際に遊ぶには乗り越えるべき壁が幾つか存在します。
 そして――永遠の仮面舞踏会や抱擁、現代を舞台に永遠の呪われた生を過ごす血族――といったキーワードや、あの薔薇の花の添えられた素敵なルールブックの表紙に惹かれ、自分の中で自分なりのイメージを膨らませつつ実際にV:tMを初めて手に取ってみた方の中には、こう思った方もいるのではないでしょうか。

「確かにすごいゲームだけど、なんだか思ってた印象とちょっと違う」と。
(僕自身も最初に読んだ時そう思いました。)

 でも、そこで諦めることはありません。英語版の資料には、WoDはプレイする人のためのゲームであり、自分たちで好きに遊べと繰り返し繰り返し述べられています。別にクランが全部ない世界があろうが、第三世代が全員目覚めてストリートを闊歩してようがロスを舞台にタランティーノ・スタイルで二挺拳銃を撃ちまくろうがそれがお前のゲームなんだとさえ冗談めかして書かれています。正直言うとオフィシャルのシナリオはどこが耽美なのかさっぱり分かりません。でも、好きなように遊べばいいのです。
 It's your game. 黄金律はNo rule, Play Fun. 望み通りの仮面舞踏会を開きましょう。貴方が気に入り、表現したい要素を強調し、そう思わなかった要素にはスポットライトを当てなければいいのです。世界の闇は限りなく深い。ジハドの陰謀やゲヘナの到来は、貴方の史劇ではカメラが当たらないところで進んでいたのかもしれません。貴方が気の狂ったように細かい設定の数々を知っていなくても、それは抱擁されてからまだ幾らか若い貴方の分身も同じかもしれません。
 薔薇の一族が一堂に会する華やかな夜会も、美しき姫君と貴公子たちの舞い踊る耽美な舞踏会も、失われた愛に身を焦がして動かぬ胸に覚える痛みも、全て表現できる余地が史劇の中にあります。
 そして、ヴァンパイアは何よりもムードのゲームである――そして、そこに登場する人物達は(不死者であっても)真の命を吹き込まれた存在であり、ドットや数字から出来ているのではない、自分だけのヴァンパイアと物語を創造してくれ、ともよく主張されています。いつものTRPGセッションの時とは一味違う趣で、ストーリーテリング・ゲームに臨んでみてはいかがでしょうか。


 さあ、裁定者不在の不毛なルール論争やうわべだけの手軽なかっこよさの追求や小難しいRPG論は脇に置いて、しばし夜の彼方に想いを馳せてみましょう。歴史も現実も我々が住んでいるのと同じはずの、でも見えないところで何かが違う、もうひとつの世界。その闇がもう少し濃く、その裏に様々な見えざるものが蠢いている世界を。
 大都市には荘厳なゴシック調建築のビルが聳え立ち、四方から古めかしいガーゴイル像が夜の大都会に蔓延る悪徳を見下ろす。過去が眠る苔むした美術館と、古ぼけた教会と、危険なダンスクラブと、降りしきる陰鬱な雨。
 そこには数百年の時を超えた古の者達の策謀が秘せられ、サバトの影と迫り来るゲヘナの予兆とジハドの謎が闇の中に垣間見える。
 そして――夜の世界を統べるのはヴァンパイア。永遠の命と超常の力を持った夜の貴族達。人間の文明が始まる前から存在する彼らが世界の真の支配者であり、殺戮者の本性を仮面の奥に隠し、止まった時計の下で伴奏のない仮面舞踏会を続けてきた。
 一族の中では幾分若いとはいえ、貴方もその中の一人。夜の大気を感ずるその肌は死者のように蒼ざめ、もはやその口からは吐息が白くなることもない。心臓はその鼓動を永遠に止めて久しく、それでもなお失われた胸の高鳴りを求めている。
 大いなる始祖カインから十三の代を経た今となってもなお、幾千年の昔に四大天使がもたらした呪いは消えない。貴方は血をすすらねば生きていけず、時に見放された身として、永遠のもたらす孤独と狂気と永遠の闘争の中で生きていかなければならない。

 ――どうです、わくわくしてきませんか?


 呪われしカインの子として生きる苦悩をかみしめつつ、自分の中に残された人間の心を抱いて夜の世界に踊るのもよし。
 強大な力を持つ夜の君主として、定命の人間たちの間で闇の生を謳歌するもよし。
 果てしなく続く闇の聖戦の駒――あるいは年経た指し手として、永遠の闘争に身を投じるもよし。
 血族たちの歴史に隠された大いなる謎やゴルコンダへの道を求め、壮大なる探索行へと旅立つもよし。
 大丈夫。貴方は時から解放された身であり、夜はまだ続くのですから。


 ようこそ、ヴァンパイアの世界へ。仮面舞踏会への扉は開かれたばかりです。








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