抜かずに治す「歯並び」?

 非抜歯矯正について

 初診相談の時によく聞かれるんですが、できる場合もありますが、できない場合もあります。この方面の大家として有名なグリーンフィールド先生という人がいるんですが、その人でさえ「98.7%非抜歯で治療できた。」と言っているだけです。

 ちなみに、彼が治しているのは白人です。日本人ではありません。人種が全く違います。そのため歯の形や大きさ、頭の形(顎の奥行き)、美的感覚など違いがすごくあります。

白人 日本人
歯の形 前歯は平たく、普通サイズ 前歯は厚く、サイズも大きい事が多い
頭の形 長頭形

(顎の前後的な大きさに余裕がある。)

短頭形

(顎の前後的な大きさに余裕がない。)

美的感覚 出っ歯は嫌い。笑う時に歯茎が見えると気持ち悪い。八重歯はドラキュラの歯みたい。下あごの先が隆起していないと猿に見える。 左のことを容認する傾向がある。(最近は、違ってきておりますが。)

 矯正の講演会の宣伝文句で「驚異!98.7%が非抜歯治療!」なんていうコピーがありましたが、白人において無理に無理を重ねれば、できない数字じゃないんでしょうけど、日本人でそんな数字を出すのは不可能だと思います。理由は、上記の表のとおり。理屈から言って無理があります。たとえば...。

1.大臼歯の後方移動

  「奥歯を後ろに下げれば、歯を抜かずに済みます。」と言ったって、奥に下がる場所(奥行き)がなければ、絶対に無理です。後ろに壁があるのに、車をバックさせることができますか? 車がへこむか、壁が壊れるか、ですよね。無理なものは無理です。

 上顎骨であれば上顎結節(上顎の歯槽骨の一番後ろのふくらんだ部分)が、後方限界です。セファログラムを撮影していれば、一目瞭然です。

 下顎骨であれば、歯槽骨の水平部分です。これもセファログラムを撮影していれば、すぐにわかります。

 で、奥歯を後ろに下げている力は、結果的に反作用で前歯を前に押し出す力になり、前歯が突出してきます。出っ歯なら、より出っ歯になってきます。あるいは、その後ろの歯がよりへんてこりんな方向にはえてきたり、萌出障害を受けたりします。

2.歯列の拡大

 「歯のはえる場所を横に広げることによって獲得しましょう。」と言ったって、顎の幅は頬や唇など外側の筋肉と舌べろという内側の筋肉のバランスが整った所で安定しているわけですから、無理やり広げても、筋肉の力のバランスの取れている元の位置(治療前の位置)に戻ります。拡大治療というものは、ほとんどうまくゆきません。

 無理な非抜歯治療の結果はどうなるかと言いますと、

・口元が膨らんだ顔つきになる。

・治療期間が長くなる。(無理をすれば、当たり前)

・後戻りが多い。(歯は固定して終わりにする)

などですね。お金をかけて治療したのに後戻りしたら、何をしたかわかりませんね。

 「何がなんでも非抜歯治療。」ではなく、「無理のない治療のためには抜歯をする場合もある。」という認識で良いと私は考えております。

 本の形になっていたり、テレビ番組でやったから、「真実らしい。」ように感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、自分の金儲けのためにそういったメディアを利用(悪用?)する人間は一杯おります。

 

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