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ガンバの冒険

原作 斎藤惇夫

 斎藤惇夫の原作『冒険者たち〜ガンバと15匹のなかまたち〜』は言わずと知れた児童文学のファンタジーの名作です。それを出崎統をはじめとするスタッフの手によってアニメ化されたのがアニメ『ガンバの冒険』です。
 原作ではガンバを含めて16匹いたネズミたちですが、アニメでは7匹に絞られています。しかしこれによって一匹一匹の個性がより鮮明になったような気がします。 16匹もいてはちょっと誰が誰だか把握しにくいですし、中には役割と特技はあるものの、あんまり個性の目立たないネズミもいましたから……。
 但し、数は減ったとは言え、原作の削られたネズミたちの性格も一部のキャラに反映されています。例えばアニメのボーボは喰いしんぼでガンバの親友で、いつもぼお〜っとしていて、更に穴掘りが得意だったりします。原作でのボーボ、マンプク、アナホリと三匹のキャラの特徴を併せ持っているんですね。
 イカサマなども足が速くてすばしっこい感じですので、原作のイダテンのイメージも入っていたような気がします。

 ガンバは世間知らずの町ネズミです。ちょっとした気紛れで海が見たくなって港へ出かけてきてヨイショやガクシャたち船乗りネズミたちと出会います。そしてそこにノロイ島から忠太が助けを求めてやってきたことがガンバたちの冒険物語の発端です。
 実際にノロイの恐ろしさを知っている船乗りネズミたちが忠太に背を向けるのを見てガンバは彼らを激しく罵り、自分だけでも一緒にノロイ島に行くと言います。
 よく言えば怖いもの知らず、悪く言えば世間知らずですね。しかし彼の幼い正義感は人生の酸いも甘いもなめつくした船乗りネズミたちの心を動かします。
 彼らにも本当は忠太たちを助けてやりたいという気持ちはあるんですよね。しかしノロイと戦っても勝てる見込みは全くなく、敢えて救援を求める忠太たちノロイ島の仲間たちを見捨てざるを得ない。そういう自分たちのふがいなさ、後ろめたさ、そこに忸怩たる思いがある訳で、ガンバの叫びは彼らの胸を鋭くえぐります。
 冷静に考えれば、ヨイショたちの選択は間違っていないですよね。たった数匹のネズミたちが救援に駆けつけたところで、むざむざ犬死にしにいくようなものです。
 しかしガンバにはそういう打算はありません。実際には単に世間知らずからくる無鉄砲さでしかないのですが、よくも悪くもガンバは純粋なのです。そこに若かりし日の自分たちの姿を重ねあわせて見たのかも知れません。

 そして死を覚悟した旅が始まります。(勿論、ガンバにはそんな覚悟はなく、単に英雄を気取ってるだけに過ぎないのですけど……。(^_^;))
 いうまでもなくイタチはネズミの天敵です。しかもノロイたちは群れをなし、ネズミたちを殺戮することに喜びを覚えるというとんでもない奴等です。普通に考えれば勝ち目がある訳ないのです。それでも旅立つ7匹の冒険者たち。
 かっこいいではないですか!(^_^)

 旅の途中のガンバと仲間たちは異様な程に明るいです。旅の途中ではさまざまな困難がガンバと仲間たちに襲いかかります。そして自分たちの目指す先には殆ど絶望的といってもよい戦いが待っている。それが判っているにも拘わらず、旅の途中の彼らは大変明るくて凄く生き生きとしています。
 何故彼らはあんなに明るいのか? ある種の開き直りとも取れなくはないですが、それだけではないような気がします。
 彼らネズミたちは例え死地に赴くことになるにせよ、ノロイという強大な敵との戦いという形で人生の明確な目標を見出したのだと思うのです。そしてそこに生きている実感のようなものを感じていたのではないでしょうか?
 細く長く生きるのも一つの生き方だとは思います。けれど人生に明確な目標を持ってそこに邁進する、例え行き先に破滅が待っていようとそれはある意味で凄く充実した時間なのではないかと思うのです。

 また島の仲間たちを心配してすぐに暗〜くなってしまう泣き虫の忠太、仲間たちの中で一番年下の忠太をみんなで励まそうとして、そして自分たち自身が持っている不安感を吹き飛ばしたいという気持ちもあって、出来るだけ明るく振る舞い、残された時間を出来るだけ充実させて凄そうとしていたとも考えられます。
 7匹のネズミたちはみな個性が強く、時には反発しあったり、ぶつかりあうこともありましたが、やはり共通の目的を持っていてまた旅の途中で、またノロイ島に到着してからも様々な困難に遭遇して力を合わせて乗り切っていくことにより、仲間たちの絆は強まっていきます。

 最終的には信じられないような物凄い幸運によって、ガンバたちはノロイを倒すことが出来た訳ですが、それもギリギリのところに追い詰められていたからこそ、窮鼠猫を噛むと言ったような智慧が生まれてきたのだと思います。彼らに残されたほんの僅かな希望、それを最大限に生かすことが出来たのは、一瞬一瞬を一生懸命に過ごすことによって得られた成果ではなかったかと思うのですね。

 ノロイというキャラクターもまたある意味で魅力的なキャラクターです。白く美しい毛並みをした巨大なイタチ、ネズミたちにとってはまさに“白い悪魔”そのものです。ノロイはネズミたちを殺し尽くしたいというような願望を持ってガンバたちに襲いかかります。普通食物連鎖とか野生動物の行動原理というと、お腹がいっぱいになれば、それで満足するものだと思いますし、間違っても殺戮自体を目的として行動することはあまりないと思うのですね。またイタチは群れなんか作りません。
 何故、ノロイがこのような行動を起こすに至ったか? それは物語中では語られていませんが、そういうことに想像を巡らすのも面白いかも知れません。

 アニメ版は元々は全52話になる予定だったそうですが、本放送の時、視聴率が振るわなかったとかで26話で終わることになってしまったそうです。そういう話を聞くとちょっと残念だったな、と、いう気持ちもあるんですが、でも26話というサイズはこの作品にちょうどよい長さだったんじゃないかと私などは思うんですよね。もし52話分作られていたとしたらどんな内容になっていたのか……、それも見てみたい気がしますけれども……。

 ガンバたちの冒険は子供の頃アニメで見て、また原作を読んだ時にもわくわくさせられましたし、大人になってからLDを購入してまた見直した時にもやはりこの作品は素晴らしいな、と再認識させられました。
 私にとって『ガンバの冒険』はとってもお気に入りな作品の一つです。


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