[トップページ] [平成10年下期一覧][Media Watch][070.14 朝日新聞の病理][221 北朝鮮][390 国防・安全保障
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_/_/   Japan On the Globe 国際派日本人養成講座(52)
_/_/            平成10年9月5日 発行部数:2,854
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_/_/      Media Watch: 今、そこにある危機
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_/_/           ■ 目 次 ■
_/_/      1.泰平の眠りをさますミサイル弾
_/_/      2.日経の念仏平和主義
_/_/      3.冷厳な国際政治を見据えた産経
_/_/      4.朝日の「やさしい」忠告
_/_/      5.朝日の「慎重」・「冷静」な報道とは
_/_/      6.輸出向けなら大丈夫?
_/_/      7.愚か者はどちらか?
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■1.泰平の眠りをさますミサイル弾■

 国際政治の現実をつきつけたという点で、今回の北朝鮮によるミ
サイル実験は、幕末の黒船に相当する。日本人が幕末に受けた衝撃
は、「泰平の眠りをさますじょうきせん(蒸気船)たった四はいで
夜も眠れず」という狂歌に窺える。

「夜も眠れず」というのは、こっけいだが、現代日本の状況から考
えると、黒船のつきつけた脅威に対して、国家の独立を守るべく、
鋭敏な危機感を働かせていたとも考えられる。

 今回のミサイル事件ではどうであろうか。「泰平の眠りをさます
ミサイル弾たった一発で夜も眠れず」というような危機感を我々は
抱いたのだろうか。新聞各紙の社説・報道を比較しつつ、考えてみ
たい。

■2.日経の念仏平和主義■

    ★日経 「北朝鮮ミサイル実験に強く抗議する」

     北朝鮮としては国際社会から追加の援助が欲しいところだ。 
    しかしいかなる理由があるにせよ、駆け引きのためにミサイ
    ル・カードや核カードを認めるわけにはいかない。大量破壊兵
    器を世界に拡散する行為も速やかに中止すべきだ。南北朝鮮・ 
    米中の「四カ国協議」を一刻も早く再開し、テーブルの上で平
    和的に朝鮮半島の諸問題を話し合ってほしい。[1]

「平和的に話し合ってほしい」というのは、多くの日本人の願いで
あるが、そうした声を素直に聞くような相手ではないからこそ、米、
韓、日がこれだけ手を焼いているのである。これでは「平和を唱え
ていれば平和になる」と信ずる「念仏平和主義」なのではないか。

■3.冷厳な国際政治を見据えた産経■

    ★産経 「由々しい事態に抗議する」

     核開発疑惑をテコとして軽水炉支援や重油供給を引き出した
    ことに続き、今度は「ミサイル・カード」を行使しようという
    のだろうが、”恫喝外交”を許すわけにはいかない。日本とし
    ては米国などと強調して、北朝鮮の”非常識”に抗議し、封じ
    込めていくべきだ。(中略)

     北朝鮮のミサイル発射実験は、日本の防衛体制や国民の国防
    意識がいかに無力、無防備であるか、改めて浮き彫りにした。 
    新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)に基づいて米軍へ
    の支援体制を整備しようとする周辺事態法などの関連法案も、
    この臨時国会で成立する見通しは立っていない。”平和ボケ”
    からの脱却が急務である。[2]

 北朝鮮の姿勢を”非常識な””恫喝外交”と規定し、核カードの
時に、アメをやって味をしめさせた事が、今回の「ミサイル・カー
ド」につながっている、との判断を示す。こういう相手は、外交圧
力で「封じ込め」ていくべきであり、さらに非常時に備えて、米軍
との支援体制を確立する法案の成立を急ぐべきだ、と主張している。 
北朝鮮という国の正体を見据えた情勢判断、一歩踏み込んだ政策提
言が他紙とは異なっている。

■4.朝日の「やさしい」忠告■

    ★朝日 ミサイル実験に抗議する

     北朝鮮の軍事優先の政策によって、ただでさえ危機的な状況
    にある北朝鮮の経済が圧迫される。国際的な支援も難しくなり、
    北朝鮮の国民の飢えがさえに深刻になることも予想される。 
    (中略)金正日氏は少なくとも国民を飢えさせない責任がある。 
    そのためには、外交姿勢を大きく転換しなければならない。[3]

 いつまでも突っ張っていると、国民が飢え死にするだけだから、
早く外交姿勢を「転換」して、国際社会に援助を求めなさい、とい
う「やさしい」忠告である。金正日がこういう忠告に耳を傾けるよ
うな人物なら、そもそも最大の経済援助を期待できる国の頭上にミ
サイルを撃ったりはしないはずだ。

 さらに朝日の社説がユニークなのは、この社説の結末である。

     ところで、北朝鮮のミサイル脅威などを理由に、政府は、米
    国との弾道ミサイル防衛構想に向け、一歩進んだ技術研究に踏
    み出そうとしている。
    
     しかし、その構想には実効性、巨額の予算、中国の警戒心な
    ど多くの問題がある。検討はあくまで慎重であるべきだ。
    
     弾道ミサイルは確かに脅威だが、その意図や実体を見極めな
    がら、「脅威」のレベルを下げる環境づくりに努めなければな
    らない。必要なのは冷静さである。

 「『脅威』のレベルを下げる環境作り」とは、まるで意味あいま
いな官僚用語だ。素直に考えれば、弾道ミサイル防衛構想でミサイ
ルを撃ち落す防衛体制を作ることが脅威のレベルを下げるはずなの
だが、朝日の論法から言えば、それは「中国の警戒心」を高めるの
で、反対なのだろう。この純粋な防衛兵器で他国への核攻撃力が減
殺されるから、中国が警戒心を高めるというのも、理解に苦しむ論
理なのだが。

 朝日の社説の特徴は「慎重」、「冷静」という言葉遣いに現れて
いる。防衛構想に反対なら、その理由を明確に述べて主張すべきな
のに、「慎重に」とか「冷静に」と言うのは、相手の議論が慎重・ 
冷静でない、と非難しているだけで、実質的な議論を封殺している
のである。旧社会党がPKO反対で見せた牛歩戦術と同じだ。

■5.朝日の「慎重」・「冷静」な報道とは■

 それでは朝日自身はどのように、「慎重・冷静」にその「実体や
意図を見極め」ているのか? 第2面に「ミサイル実験目的は輸出
か」と題した田岡俊次編集委員による署名記事を載せている。

    (前回のミサイル実験以来)五年三カ月の間、発射実験はして
    いなかった。新型ミサイルの開発には、少なくとも十回程度の
    発射実験をしないと量産、配備には移れないのが、常識だ。 
    (中略)

     ミサイル弾頭に使えるような小型で軽量の核爆弾を作るには
    相当な技術が必要だ。北朝鮮が核ミサイルを持つ公算はなお小
    さい。(中略)

     また、通常弾頭で効果をあげるためには高い精度が必要だが、
    テポドン1号の精度は低いと見られている。[3]

 等々、全10節の短い記事の5節も使って、繰り返しミサイルが
脅威でない事を説いている。これが朝日が「見極めた実体」なのだ
ろうが、ここで完全に欠落(あるいは隠蔽)しているのは、軍事的
威嚇とは、その可能性をちらるかせるだけで成り立つという、一般
国民にも理解できる常識である。

 人を脅して金を巻き上げるのには、拳銃をちらつかせるだけで良
い。演技さえうまければ、モデルガンでも良い。ちゃんと弾もでる
ぞ、とか、俺は腕がいいんだ、などということを実証する必要はな
い。

 この記事の論旨は、教室でナイフをちらつかせる生徒に対して、
あんなナイフでは人は殺せないから、それほど心配するな、と言っ
ているようなものである。これが朝日の「慎重さ」・「冷静さ」な
のだろう。

 北朝鮮は日本の予想以上の反発に驚いたのか、突然、ミサイルで
はなく、人工衛星打ち上げだと主張し始めた。万一それが事実であ
っても、今回の実験で、日本全域に対してミサイル攻撃できる能力
のあることを実証したのである。この事の政治的意味を無視しては、
慎重かつ冷静な分析とは言えない。

■6.輸出向けなら大丈夫?■

 さらにこの記事の結末は、興味深い。

     五年前の実験の際にはイランの調査団が訪朝中だったと言わ
    れ、ミサイル売り込みのため、能力をアピールするのが、実験
    の目的だったとの見方もあった。

     今回も、前回の実験の際と同様に外国人が訪朝中との説もあ
    り、輸出が実際の主目的とも考えうる。[3]

 遠い中東への輸出向けで、日本に対して発射されるものではない
から、安心しなさい、と言わんばかりの論調であるが、ミサイルの
輸出は、サンダルの輸出とは異なる。

 ミサイル輸出の持つ意味について、産経は次のような事実を指摘
して、分析している。本年4月にパキスタンが北朝鮮の「ノドン」 
の形状そのままのミサイル「ガウリ」の発射実験を行い、これまで
ミサイル開発の遅れのために保たれていたインド、パキスタンの関
係が一気に緊張し、これがインドが核実験に踏み切るきっかけにな
ったという。[2]

 ミサイルが輸出向けだと言うなら、こうした国際政治への影響を
考えなければならない。朝日の「冷静さ」「慎重さ」とは、こうし
た現実から目をそらせる「空想的平和主義」に過ぎないのではない
か?

■7.愚か者はどちらか?■

 翌日の「天声人語」では、「冷静さ」「慎重さ」とはうってかわ
った悲憤慷慨ぶりが目立った。

     日本には、隣国に対する過去の植民地支配を反省している人
    が多い。隣国が飢えに苦しんでいるいま、食料支援をと力を尽
    くしている人もたくさんいる。ミサイル発射は、そうした心を
    無視し、一方的に踏みにじる行為だ。そんなことをして何の益
    があるのだろう。愚かしいにも程がある。[4]

 「愚かしい」と言えば、先のインド、パキスタンの核実験の時に
も、朝日は「愚行の連鎖」などと大上段に振りかぶった大見出しを
つけていた。自分自身の「空想的平和主義」に従わない国を「愚か
者」と決めつけているわけである。

 何十年も空想的平和主義、念仏平和主義、一国平和主義に閉じこ
もって、現実の危機から目をそむけ、実質的な防衛論議は「冷静
に」「慎重に」と封殺し、自らの主義に従わない国は「愚か者」と
決めつける。

 頑固な愚か者はどちらだろうか。ミサイル一発だけでは「平和ボ
ケ」は治らなかったようだ。

[参考]
1. 日本経済新聞、10.09.01
2. 産経新聞、10.09.01
3. 朝日新聞、10.09.01
4. 朝日新聞、10.09.02
             
  

■ おたより: 大石 郁夫さんより

いつも毎週土曜日を楽しみに、愛読させてもらってます。
今日配信されたメールを見て、「やっぱりそうか!」と
手をたたいてしまいました。
実は私は最近ちょうど「竜馬が行く」を読んでて、北朝鮮の
ミサイルの話を聞いたとたん、これは黒船か!と思ったんです。
ホームページにもそのことに関するコラムを書いたんですけど、
あまり反響がなくて、みんなはどう考えてるんだろう・・・と
思っているときだったので、とても励まされました。
朝日新聞の話、笑ってしまいますね、というか悲しくなってきます。

■編集長より

ホームページを拝見しました。

 かつてドイツのビスマルクは、「その国の青年を見せてみよ。
さすらばその国の未来を占ってみせよう」と言いました。
日本の青年を見て、どのように占えるでしょうか。
みんな、そろそろ目を覚ましてもいい頃じゃないかなあ・・・。

 と言われる点、まことに同感です。
 大石さんのホームページをお勧めします。 


■ おたより:坂 地三さんより 
 毎週のJapan on the Globeを謹読。ありがとうございます。

 今般のミサイル発射の事前警告記事は8月22日産経新聞の
総合13にあります。

 国民の安全への警告は全紙から1日遅れてもなされるべきで、
事前警告記事を書いていない他新聞社は論評の資格さえない。
ニュースの責任を放棄していると私は考えます。

 追加記事を掲載の折りには、この視点も加えていただければ
幸いに存じます。

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