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---------------Japan On the Globe(137)  国際派日本人養成講座
        _/_/         
         _/          The Globe Now:金正日の共犯者
        _/
  _/   _/      核武装に突っ走る北朝鮮・金正日政権を育てた
   _/_/        責任はアメリカと日本にある。
-----------------------------------------H12.05.07  23,776部

■1.東京を火の海にできる■

     1993年1月、北朝鮮人民軍の大佐、康明道は出張で平壌から
    元山高速道路で江原道(カンウォンド)へ向かっていた。同乗
    していたのは、保衛大学時代の友人、沈玄燮(シムヒョンソブ、
    仮名)。沈は江原道ロケット(ミサイル)部隊の現役将校で、
    休暇が終わって、帰隊する所だった。
    
     沈はミサイル開発の状況をつぶさに知っていた。彼の話によ
    れば、北朝鮮はすでに長距離ミサイルであるノドン一号の開発
    を完了し、94年からは量産体制に入るということだった。
    
         東京を火の海にすることのできる大陸間弾道弾ミサイル
        もすでに配置してある。
        
     と彼は言った。深刻な経済状態をよく知っている康は、冗談
    半分に、「食糧も底をついている状態なのに、ロケットなんか
    作る金なんかありゃしないだろうよ」とわざとカマをかけてみ
    た。すると、彼は「そのうちわかるよ」と言って、にやりと笑
    った。
    
     2時間ほど走って、江原道法洞(ポプトン)展望台についた。
    沈は展望台の東側に康を連れて行き、自分の双眼鏡で、ある地
    点を見てみるように言った。康がのぞいてみると、巧妙にカモ
    フラージュされた銀色の物体が見えた。彼はたった一言いった。
    
         SSミサイルだよ。[1,p324]
    
■2.金日成・正日の核開発決心■

     康明道は、金日成の従兄弟で北朝鮮の総理を二度も務めた姜
    成山の娘婿と血筋も良く、人民武力部直属の保衛大学研究室長
    などエリートの道を歩んできた。韓国に亡命した後に著した文
    献[1]は、核ミサイル開発、国営偽ドル工場、ヘロイン密輸な
    ど、まさに北朝鮮高官しか知り得ない機密が明らかにされてお
    り、また様々なソースからの情報でも信頼性が高い、と確認さ
    れている。
    
     康明道によれば、金日成・正日親子が核開発を決心したのは、
    76年8月のポプラ事件であるという。板門店で米軍将校2人
    が北朝鮮軍兵士に殺害されたこの事件で、南北は戦争の一歩手
    前まで行った。しかし南には米軍の核兵器が千個もあるのに、
    北には一つもない。これではとても南には対抗できない、と金
    親子は危機意識を持った。
    
     ところがソ連はブレジネフ書記長の時までは、北の核開発を
    許さなかった。北朝鮮が核を持ったら、南北間の軍事的均衡が
    壊れ、ひいては米ソの緊張も高まる、という恐れからだった。
    「70年代を祖国統一の元年にする」ことをモットーとしてい
    た金日成はブレジネフの姿勢に激昂していた。
    
     82年に登場したアンドロポフ書記長は、レーガンの軍備拡
    張に対抗すべく、「あらゆる手段と方法を動員し、朝鮮民主主
    義人民共和国の宿願である統一を支援する」として、北朝鮮に
    対する核開発援助に乗り出し、70人におよぶ核技術者を送り
    込んだ。[1,p302-325]

■3.核兵器はすでに完成した■

     北朝鮮は1985年12月に核拡散防止条約(NPT)に調印し、
    ソ連から研究用小型原子炉二基を供給され、さらにプルトニウ
    ム生産のための核再処理工場の建設を開始した。
    
     93年3月、IAEA(国際原子力機関)は特別査察で、プ
    ルトニウムの組成、量で北朝鮮の報告とは「著しい相違」(I
    AEA)を見つけたため、寧辺近郊にある二つの核廃棄物貯蔵
    施設への特別査察を求めた。北朝鮮はこれを拒否し、NPT脱
    退を決定した。
    
     この頃、康明道は、寧辺の核施設を担当している国家保衛部
    の責任者から、「核兵器はすでに完成した。問題は、この局面
    をどのようにしのいで、目標の20個を作るかにかかっている。
    」との話を聞いている。
    
     同じく93年5月、北朝鮮は射程1千キロのノドン1号を日
    本海に向けて発射し、成功。冒頭で紹介したように、康明道が
    「ノドン1号の開発が完了した」と聞いたのは、この4ヶ月前
    にあたる。日本の国土の大半が射程距離に入った。
    
■4.米国クリントン政権の宥和政策■

     93年6月からのアメリカとの交渉で、NPT脱退は一応凍
    結されたが、北朝鮮は94年3月、IAEA代表による寧辺の
    核施設の査察を拒否、入国差し止めや国連代表達の身柄を拘束
    するなど、暴挙に出た。
    
     3月19日には板門店での南北対話実務者レベル会議の席上
    で、北朝鮮代表が「ここ(板門店)からソウルは遠くない。ソ
    ウルは火の海になるだろう」と発言し、南北会談は決裂した。
    
     国連での経済制裁決議採択は時間の問題とみられていたが、
    北朝鮮外務省高官は、「もし日本が国連の対北朝鮮経済制裁に
    参加したら、日本にははかり知れない災害がおよぶだろう」と
    恫喝した。

     米国クリントン政権は宥和政策をとることを決定し、94年
    10月北朝鮮との「合意枠組み」に到達した。黒鉛減速型原子
    炉と関連施設の活動の凍結、将来の解体と引き替えに、KED
    O(朝鮮半島エネルギー開発機構)を設立しての50億ドル以
    上と言われる軽水炉建設の資金援助、その完成までのアメリカ
    による毎年50万トンの重油供与、さらに人道的米援助を約束
    した。50億ドルのうち、10億ドルは日本が負担する。

     クリントン政権は、ヒットラーに対して宥和政策で増長させ、
    かえって第2次大戦を招いたイギリスのチェンバレン首相にな
    ぞらえて、共和党などから「現代のチェンバレン」と批判され
    た。

■5.オルブライト国務長官のうそ■

     98年4月、米国国防情報局(DIA)は、北朝鮮の核開発
    が依然として進められていることを極秘報告書にまとめた。そ
    れによると金倉里と泰川に秘密地下施設が作られ、ミサイル搭
    載用の核兵器の開発・生産が行なわれている。
    
     DIAは、韓国軍情報機関が金倉里から持ち出した土と水を
    分析し、プルトニウムの痕跡を検出した。また偵察衛星により
    起爆装置の実験が少なくとも3回は成功したこと、および、反
    応炉の防護壁用の部材が移送されている事を掴んでいる。
    [2,p42-84]
    
     しかし、米国国務省は、北朝鮮で核開発が続けられているこ
    とを認めたがらない。宥和政策による「合意枠組み」が失敗で
    あった事が明らかになってしまうからだ。
    
     98年7月、オルブライト国務長官は上院の財政委員会で、
    合意のおかげで「北朝鮮の危険な核兵器開発は凍結された」と
    語った。それまでにオルブライトは何度も、議会で同様の発言
    をしていた。[3,p164]
    
     8月、北朝鮮の核開発が続いているとのDIAのブリーフィ
    ングを受けて、怒った上院議員たちが問いつめると、オルブラ
    イトは、自分も7月までは知らなかった、と答えた。そこにD
    IAのヒューズ局長が「国務長官、それは正しくありません。
    」と割って入った。DIAは1年半も前から、この情報をオル
    ブライトに届けていたのだ。オルブライトは口をつぐんだ。
    
     金倉里の地下施設への米国調査団の立ち入り調査は、99年
    5月に行われたが、「施設全体は未完成で、地下には空の巨大
    なトンネルしかなかった」として、国務省はシロの判定を下し
    た。
    
     しかし、疑惑発覚後9ヶ月も経っており、核開発疑惑につな
    がるような建造物があったとしても、この間にすべて撤去でき
    たはず、と言われている。また監視カメラの設置や土壌、水の
    サンプル採取なども行われず、プルトニウムの抽出を行ってい
    るといわれる泰川は対象から外された。北朝鮮はこの調査の見
    返りとして60万トンの食糧支援をアメリカから受け取った。
    
■6.日本や米国に向けた核の砲口■
    
     98年8月31日、北朝鮮は三段式のテポドン改良型ロケッ
    トを打ち上げた。第一弾は日本海に、第二弾は日本上空を越え
    て太平洋三陸沖に、第三弾はアラスカ沖、射程6千キロの海上
    に到達した。旧ソ連の軍事技術者約200人が協力したと伝え
    られている。[a]
    
     DIAの報告書は次のように結論づけている。
    
        ・ 核燃料物質を長距離ミサイルの弾頭に装着し、核弾頭
           を実戦配備するまでに、3年はかからないであろう。
        ・ 北朝鮮はこのほかにも、生物・化学兵器の開発を進め
           ており、KEDO発足後もこれらの計画は進行中であ
           る。
        ・ このまま北朝鮮を放置した場合、21世紀初頭には、
           世界第五位の軍事大国が日本や米国に核の砲口を向け
           ることになり、東アジア情勢は激変する。われわれは
           なんとしてもこうした事態を食い止めなければならな
           い。
    
     ソ連が崩壊し、中国が解放政策に転じているのに、北朝鮮の
    みが独裁権力世襲に成功し、大国アメリカを引きずり回して、
    軽水炉建設援助や食料支援まで得ているのは、金正日の核武装
    戦略の"偉大な"成功と言える。何よりも対北朝鮮外交の失敗を
    認めたくないクリントン政権を共犯関係にひきずり込んだのは、
    天才的な手腕であった。この間、自国民が毎年100万人以上
    も餓死していていても、金正日の権力維持にとっては大した問
    題ではないようだ。[b]

■7.もう一人の共犯者■

     実は、北朝鮮の共犯者はもう一人いる。ソ連崩壊後、後ろ盾
    を失った北朝鮮がなぜ核開発やミサイル開発を続けてこられた
    か。日本からの資金と技術によってである。
    
     93年12月28日、羽田外相(当時)は、日本記者クラブ
    での会見で、内閣調査室から、朝鮮総連からの送金は年間20
    00億円規模という報告を受けている、と語った。当時の闇レ
    ートでは、1500億ウォンとなる。90年の北朝鮮国家予算
    350億ウォンの4倍以上である。
    
     朝鮮総連はなぜこれほど巨額の資金を作り出せたのか。脱税
    行為である。朝鮮商工会は、在日朝鮮人に代わって、税務署と
    の交渉を担当し、強硬な手段で浮かせた税金の一部を手数料と
    して受け取った。その額は、少ない時で一件2,3百万、多い
    ときは数千万という。93年に商工会は、所得税等3万6千件、
    法人税5500件の交渉を"解決"したという。[4,p100-115]
    
     しかし、バブル崩壊後は、総連系商工人も打撃を受け、脱税
    しようにも利益そのものが減少してしまった。かわりの手段が、
    朝鮮総連関連の土地・建物を担保に、実勢価格以上の不正融資
    を行い、送金額をひねり出すという手だ。
    
     不良債権で99年に経営破綻した朝銀大阪には、不正送金の
    疑惑が未解決のまま、3100億円の公的資金が投入された。
    さらに13の朝銀信用組合が破綻し、合計1兆円もの血税が投
    入される気配で、国会でも問題になっている。[5]

■8.ハイテク部品の70%は日本製■

     北朝鮮でミサイルのハイテク部品の購入を担当していた金秀
    幸(キムスヘン)が、韓国に亡命して語った所では、北朝鮮の
    弾道ミサイルに使用されているハイテク部品の「70%は日本
    のもの」だという。
    
     99年2月22日、参議院予算委員会の総括質問で鴻池祥肇
    参議員議員は、政府に次のように質した。
    
         ICチップは三菱電機、日立、日本電気、大手電機メー
        カーから部品をすべて購入した。特殊金属分析装置は清水
        工業、センサー関係は京セラから購入した。ノドンもテポ
        ドンも北朝鮮のものは電気と水だけであると豪語している
        ようです。こういったことを把握しておられますか?
        
     警察庁警備局長は、そのような報道は承知しており、北朝鮮
    への物資、技術等の不正な輸出に重大な関心を有している、と
    答えた。ちなみに、パキスタンのミサイル実験でも、北朝鮮を
    通じて、日本製部品が大量に使われた。これがインドとの核実
    験競争の引き金になった。[6,118-120]

     同じく韓国に亡命した林永宣・元北朝鮮軍事建設局中尉の証
    言では、建設工事に使う重量車も、80%は日産、日野、いす
    ずなどの日本製であり、部品が故障すれば、その写真と部品番
    号をFAXで朝鮮総連に連絡すれば、1ヶ月で定期船・万景峰
    号に乗せて届けられるという。[4,p357-359]

■9.チェンバレンとペイラントの責任は?■

    「ペイラントの自由」という言葉がある。ペイラントはオラン
    ダ商人で同胞がスペインに対して独立戦争を戦っているのに、
    「商売は自由」と主張して、敵国スペインに大量の武器弾薬を
    売って大儲けした。
    
     上記の日本メーカーが北朝鮮と知りつつ、ハイテク部品や車
    両を売っているわけではないが、国全体としては、核ミサイル
    で恫喝している相手に、わざわざその資金を与え、部品を買わ
    せているということになる。
    
     金正日政権という狂犬は、「現代のチェンバレン」クリント
    ン政権によって国際社会の目から隠されている間に、「現代の
    ペイラント」日本が餌を与えて育ててしまった。国際社会に対
    して、その責任はどうとるのか?

■リンク■
a. JOG(052) 今、そこにある危機
   北朝鮮のミサイル発射で、朝日の主張する「冷静さ」「慎重さ」とは?
b. JOG(072) 温室の隣の飢餓地獄
    人口2300万人の北朝鮮で、すでに3百万人の国民が餓死、
  病死したと推定されている。
c. JOG(087) 北朝鮮工作船を逃がした理由
   国内法に縛られて手が出せない自衛隊を後目に北朝鮮工作船は
  ゆうゆうと逃亡した。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 「北朝鮮の最高機密」★★、康明道、文春文庫、H10.11
2. 「暴走する国家北朝鮮」★★、西岡力、徳間文庫、H11.7
3. 「誰がテポドン開発を許したか」★、ビル・ガーツ、文芸春秋、
   H11.11
4. 「闇に挑む!」★★★、西岡力、徳間文庫、H10.9
5. 「朝銀信組を検査 「北」に不正送金の疑いも 13都県、不良
  債権実態解明へ」、産経新聞、H11.08.29
6. 「北朝鮮の『今』がわかる本」★★、佐藤勝巳、三笠書房、H11.8

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