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---------------Japan On the Globe(146)  国際派日本人養成講座
        _/_/         
         _/         The Globe Now: 対中ODAの7不思議
        _/
  _/   _/    軍事力増強に使われ、民間ビジネスに転用され、
   _/_/      それでいてまったく感謝されない不思議なODA
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■1.不思議その1:軍事力増強に使われるODA■

     中国の建国50年を祝う軍事パレードが、昨年10月1日、
    北京で行われた。長距離弾道ミサイルの東風31号や中距離弾
    道ミサイルの東風21号など核戦力の主力兵器が大型トレーラ
    ーに搭載され、パレードに加わった。
    
     これらの新鋭大型兵器は、すべて高速道路を使って北京市内
    に持ち込まれたものであるが、中国の高速道路は軍事機能をも
    備えている。たとえば中国国防報の記事は、江蘇省の南京・上
    海高速道路が軍の装甲兵団の演習によく使われることを伝え、
    同兵団長が「二百キロ離れた地点に大規模な軍隊を三時間で配
    置することはかつては夢だったが、いまは高速道路により可能
    になった」と感慨を述べた、と報じている。
    
     さらに輸送だけでなく、この南京・上海高速道路は中央分離
    区分を即時撤去して爆撃機などの滑走路に、沿道の駐車場は軍
    用ヘリ昇降場に、それぞれ転用できる構造になっているという。

     こういう防衛努力自体はありふれたものだが、不思議なのは、
    これらの高速道路建設に日本の政府開発援助(ODA)が使わ
    れているという点だ。日本政府は中国側の国家高速道路整備計
    画に全面協力する形で2000年度分までを含めてこれまでに合計
    9件延べ1200キロの高速道路建設に総額2千億円近くのO
    DAを供与した。日本政府はさらに輸銀を通じての中国への公
    的資金供与でも3件の高速道路建設に総額約5百億円を提供し
    てきた。

     パレードで披露された核ミサイルの標的には日本も含まれて
    いるが、このように自らを危険を増大させるような戦力増強に
    協力するとは、不思議きわまりない。[1]

■2.不思議その2:民間ビジネスに転用されるODA■

     本年2月1日、これまで国家重点プロジェクトとして建設と
    整備を進めてきた北京の国際空港が「北京首都国際空港株式会
    社(BCIAC)」として香港証券取引所に上場し、株式を公
    開した。フランスの「パリ空港社」は公開された株全体の29
    %を買い、BCIACの大株主となった。同社は北京空港管理
    の業務を受託する契約を結んでいる。
    
     これ自体は我が国でもよく行われる民営化だが、不思議なの
    は、この空港の99年9月に完成したばかりの新ターミナルに
    は、総工費1200億円のうち日本の公的資金援助3百億円が
    投入されているという点だ。
    
     円借款とは言え、金利2.6%、返済30年うち10年は据
    え置きと贈与度の高い資金提供で、中国側が調達する分の建設
    資金金利14%とは比べものにならない。
    
     日本国民の税金が、中国政府と外国株主の収益事業のために
    使われている訳で、ODAの「民間の個別企業には直接、供与
    しないという原則」を明確に踏みにじったものだ。
    
     中国政府は、この民営化について、日本側に公式の通告や協
    議はまったくしていなかった。実際のODA業務にあたった北
    京の日本大使館や国際協力銀行の関係者たちは「当惑」し、
    「異例の注意の申し入れ」をすることとなった、と伝えられて
    いる。[2]
    
     しかし、その後も4百億円のODA供与で建設された上海の
    国際空港も近く株式会社化される見通しが2月16日に明らか
    にされ[3]、さらには63億円の援助で建設された武漢の天河
    空港、310億円で火力発電所と港湾インフラが建設された上
    海宝山製鉄所、日本の国際協力銀行の公的援助資金約300億
    円が求められている広州国際空港−などの民間企業化の計画が
    進んでいるという。[4]

     商魂たくましい中国政府には、日本側役人の「当惑」や「注
    意」など、「蛙の面に水」なのではないか?

■3.不思議その3:援助国を援助するODA■

     日本から中国への経済援助は年間2千億円、総額では3兆円
    ほどを供与しているが、その一方で中国はアジアやアフリカの
    諸外国に独自の援助供与を続けている。
    
     最近では、モンゴルの首相の訪中時に無償で3千万元(約4
    億5千万円)の経済援助を提供することを公式に発表している。
    ここ一年ほどの間の公式発表だけでも中国政府は(1)ガーナ
    への6百万ドル無償援助(経済発展の費用)(2)カンボジア
    への150万ドル援助(軍隊の武装解除の費用など)(3)バ
    ングラデシュへの37万ドルの無償援助(洪水被害対策の経費
    など)(4)ジンバブエへの無償経済援助(5)ユーゴスラビ
    アへの無償人道援助(6)コートジボワールへの低利有償経済
    援助−などを供与した。[5]
    
     特にカンボジアやバングラデシュなどへの援助は、東南アジ
    アや南アジアでの中国の影響力拡大につながる。またアフリカ
    諸国への人道援助なども、国連での発言権強化に効果がある。
    
     他国に援助できるほど余裕のある国に、なぜ我が国が援助し
    なければならないのか、実に不思議である。

■4.不思議その4:ムダに使われるODA■

     1999年9月、中国の建国五十周年記念にあわせてオープンし
    た北京地下鉄二号線は総工費約9百億円のうち、日本のODA
    有償(円借款)2百億円が投入された。天安門西駅から東へ約
    12キロ、合計11駅の同線は、構内やプラットホームも電光
    標示板などを駆使した近代的デザインで、空間もゆったりとし
    た豪華なつくりとなっている。
    
     ところが、開設当初からこの新線は利用客がほとんどなく、
    そのこと自体が北京市民の間でも話題となっていた。産経新聞
    の記者が、平日の午後7時過ぎのラッシュアワーに乗って見た
    所、定員1500人の6両編成で、全車両あわせて乗客は10
    人ほどだった。2号線沿いの大通りは、各種公共バスが頻繁に
    走り、その料金も地下鉄の半分というから、当然の話だ。
    
     また中国では近年大豊作が続き、食糧も余剰が出て、備蓄増
    加と価格下落のために、中央政府が食糧減産を目指すという動
    きが伝えられている。そうした中で、日本から貧困地域の食糧
    増産のために、昨年は13億2千万円、今年は12億3千万円
    と無償援助が続けられている。中国政府から援助継続の要請が
    あったとはいえ、なんとも奇異な感じがぬぐえない。
    
     市場経済を導入しつつあるとは言え、中国の行政はいまだに
    共産主義体制のままだ。その要請をそのまま聞いていたら、官
    僚的計画経済の非効率をそのまま助長するだけだろう。

■5.不思議その5:感謝されないODA■

     2項で紹介した北京空港ターミナルの国内線出発ロビーのチ
    ェックインカウンター背後には、縦3メートル、横8メートル
    の大きなパネルが掲示されており、そこには左肩に中国語で
    「日本政府はこのターミナルの建設の一部に円借款を提供し
    た」と書かれ、右下には援助を担当した機関の「日本国際協力
    銀行」の名が明記されている。

     不思議なことに、中国側が日本からの援助受け入れの事実を
    公共の場で明示するのを許すことは日本の対中ODA供与二十
    年の歴史でも初めてだという。しかも、このパネルは中国側が
    作ったものではなく、日本側が費用を負担して作り、掲示する
    のを中国側が認めたというのが実態で、表示には中国側の感謝
    を表す言葉はまったくない。[6]
    
     98年11月、日本のODA21億円で完成した南京母子保
    健センターの開所式に谷野大使が出たところ、日本の援助の事
    実は中国側代表の祝辞でも、センターの建設記念碑文でも一切、
    言及されず、ショックを受けたそうである。合計二百億円もの
    ODA資金が供与されてきた前述の北京市の地下鉄建設など日
    本の援助の事実は市民のだれも知らないという。また中国政府
    の中では「ODAは日本が当然払うべき戦時賠償の代替」とい
    う受け止め方も公然と語られている。[7]
    
     日本大使館側は、「援助を従来どおりに続けるには中国側で
    の報道による認知や感謝の広がりが不可欠だ」と訴えているよ
    うだが、日本国民の援助意思の冷却に対して、中国政府ではな
    く日本政府がその防止策を中国側に向かって訴えるているのだ
    から、話が逆ではないか。[8]

■6.不思議その6:ODAは宗主国への朝貢?■

    「(二階運輸相が率いた五千人の訪中観光団の北京での式典
    で)江沢民閣下から日中友好を重視するという趣旨のお言葉を
    賜り、日本国民一同、感激いたしております。いままた重ねて
    お礼を申し上げます」
    
    「閣下から賜ったトキがまた子を産みましたが、名前をつける
    にあたり、閣下のご意見があれば承りたいと存じます」

     5月末に自民党・野中幹事長が、森新首相の名代として、冬
    柴鉄三・公明党幹事長、野田毅・保守党幹事長とともに、北京
    を訪れ、江沢民主席との会談で語ったと伝えられている言葉だ。
    
     我々日本国国民の何人が、江沢民の「日中友好を重視する趣
    旨のお言葉」に感激したのだろうか? 「閣下から賜ったト
    キ」の名前まで、「江沢民閣下から賜る」べきものなのか? 
    まるで属国が宗主国に対する態度のようだ。日本が過去20年、
    総額3兆円もの規模で与えてきたODAとは、実は宗主国中国
    に対する朝貢なのだろうか?

■7.日本側の反発にあわてた中国政府■

     さすがに、こうした摩訶不思議な対中ODAは、日本でも批
    判的な議論が高まっており、一昨年来日した江沢民主席の執拗
    な歴史認識批判と謝罪要求をきっかけに、11年連続で軍事費
    増大を続け、核ミサイル装備や有人宇宙船打上げまで進める中
    国にODAの必要があるのか、という意見が出ている。
    
     日本政府もこれを受けて五年一括供与だった対中援助方式を、
    来年度から単年度方式に改め、日中関係の状況がただちに反映
    するようにした。
    
     中国政府も日本側のこの動きにはあわてたようだ。本年1月
    には、日本からの経済援助20周年を記念して、北京で中国政
    府主催で初の“感謝の式典”を開いた。5月20日の日中観光
    交流使節団約5千人を迎えた北京の人民大会堂での記念式典で
    は、中国側は江沢民国家主席と胡錦濤同副主席が同時に出席す
    る異例の歓迎ぶりを示した。
    
     森喜朗首相の「神の国」などの発言に関しても、従来ならこ
    の種の発言を真っ先に糾弾する中国当局も、日本国内での論議
    を伝える地味な「客観報道」にとどまり、非難キャンペーンな
    どまったく展開していない。
    
     この中国政府の驚くべき変わり身の早さは、逆に中国側が日
    本からの援助をいかにあてにしているかを示している。従来の
    中国政府の対日批判は、日本側が誠意ある謝罪をしてこなかっ
    たからだ、という見方があったが、それは間違いであることが
    これらの事実から明らかになった。対日批判は、日本から援助
    を引き出すテコであり、それが通用しなくなったので、今度は
    急に対日批判をやめて下手に出たという訳である。

■8.不思議その7:少額でも感謝感激雨あられの草の根援助■

     貴州省紫雲県水塘鎮。住民は少数民族のミャオ族とプイ族で
    ある。粗末な丸太と板とワラで組み立てた小屋に貧しい農民た
    ちが住んでいる。一人当たり平均年収は300元(約4500
    円)。上水道も皆無だったので、住民は乾期には遠くまで取水
    に出るほかなかった。水質も悪く、伝染病がよく発生した。
    
     ここの3つの山村に日本が99年3月、920万円ほどのささ
    やかなODAを贈り、その資金で小さいながらコンクリートの
    貯水槽を二カ所と、五十六の集落に向けた導水パイプを新設し
    た。住民5千人と家畜2500頭の生存のための水源が確保さ
    れ、水質が向上した。
    
     日本ODA視察団が現地を訪問してみると、集落の老若男女
    が総出でずらりと並び、タイコやカネをたたいて歓迎と感謝を
    表した。カラフルな民族衣装をまとい、メークアップまでした
    少女たちが笑顔で踊り回る。初老の農婦は「日本の援助に感謝
    します」とはっきり述べた。
    
    「以前は乾期には一時間以上も歩いて水を取りにいかなければ
    ならなかったのに、いまでは家の前の水道管から水が出ます」。
    中年の男性が小屋の前の水道パイプの蛇口をひねり、実際に水
    を出してみせた。
    
     日本政府が最近力を入れ始めた草の根援助には地方の当局や
    住民から「感謝感激が雨あられのごとく述べられる」(谷野作
    太郎大使)という。これが、援助の真の姿であろう。[7]
    
     しかし、98年でみると、草の根援助は合計71件で5億5千
    万円、対中ODA総額約2千億円の0.3%にも達しない。と
    いうことは、援助額を今の30%以下の550億円に大幅縮小
    しても、このような草の根援助が7千件ほども出来るというこ
    とである。援助地域への効用と我が国のイメージアップは計り
    知れない。
    
     もちろん、軍用高速道路一件で数百億円というような大口案
    件に比べれば、膨大な手間ひまがかかる。しかしわずか数十億
    円も出せば、数百人の援助企画要員を抱えられる。これらの人
    々が、中国の僻地まで入り込み、そこの住民の悩み苦しみを良
    く把握して、きめ細かな草の根援助をしていけば、本当の心の
    交流が生まれるだろう。日中双方の国益から考えても、今の摩
    訶不思議なODAは根底から考え直すべきである。
    
■リンク■
a. JOG(004) 中国の軍事力増強に貢献する日本の経済援助
   核ミサイルや兵力を迅速に移動するためには、鉄道、幹線道路
  などの輸送網、通信網の整備が不可欠で、その部分の強化に日本
  のODAが使われている可能性がある。

b. JOG(066) 江沢民の憂鬱
   何としても日本の経済援助は必要だがプラス・カードは何もな
  い、という江沢民が唯一持っていたのが、「歴史認識」というマ
  イナス・カードだった。

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 「日本の対中援助 軍事力“下支え”」、産経新聞、H11.10.08
    東京朝刊 4頁 国際2面
2. 「北京の国際空港 『ODA施設』が株式会社化」、産経新聞、
    H12.02.03 東京朝刊 5頁 国際面
3. 「日本ODA400億円供与 上海国際空港も上場へ」、
    産経新聞、H12.02.17 東京朝刊 4頁 国際2面
4. 「日本のODAで建設した公共施設 中国なお株式会社化」、
    産経新聞、H12.05.10 東京朝刊 1頁 総合1面
5. 「日本のODA、年2000億円受けながら中国一方で独自援助」
    産経新聞、H11.11.10 東京朝刊 4頁 国際2面
6. 「北京空港ターミナル 日本のODA供与掲示 公共の場で明示
    初の許可」、産経新聞、H12.04.12 東京朝刊 7頁 国際面
7. 「対中三兆円援助の光と影(上)」、産経新聞、H11.10.17
    東京朝刊 4頁 国際2面
8. 「対中三兆円援助の光と影(下)」、産経新聞、H11.10.19
    東京朝刊 5頁 国際面

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「The Globe Now: 対中ODAの7不思議」について
                           SAKURAさん(中国在住 29才)より

     毎回、非常にためになる内容で、たのしみにして読んでいま
    す。前回の「対中ODA」の中で、(ガラガラと報じられた)
    北京の新地下鉄について。

     先月6月から全線開通となりました。記者の方が乗った当時
    は、街の真ん中(ちょっと西)の西単駅が、まだ不通だった頃
    の事だと思います。環線になっている地下鉄1号線を、東西に
    横切るように走る2号線(復八線)の、真ん中がつながってい
    なかったのですから、利用客も非常にすくなかったのです。人
    々はつながっている一号線に乗るか、地上のバスを利用してい
    ました。記者の方は気付かなかったのでしょうか?中国人に一
    言聞けばわかるのに。今では、平日の昼に乗っても、座る場所
    がないくらい大盛況です(笑)。週末も買い物客が西単へ、王
    府井へと利用するため、大変混んでいます。

■ 編集長・伊勢雅臣より

     最新情報ありがとうございました。謹んで訂正させていただ
    きます。

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