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■■ Japan On the Globe(438)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

         Media Watch: 情報鎖国で戦う記者たち
                     〜 中国のメディア・コントロール(上)
                 全世界で不当に監禁・投獄されている記者の
                およそ三分の一は中国政府によるもの。
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■1.「こんな大事件は外国なら絶対にトップニュースなのに」■

     2002年9月14日の早朝、南京市郊外の湯山鎮で、約4〜5
    百人の学生と出稼ぎ労働者が、中央市場の路地にある飲食店
    「和盛園」の作った焼きパンやゴマ団子などを食べて、中毒症
    状にかかり、死者が続出した。

     しかし、中央テレビ局がこの14日の重大ニュースとして発
    表したのは、次のような内容だった。

    ・再就職会議が全国に大反響。レイオフ労働者が総書記の思い
      やりに感激。
    ・大陸ファッション祭が楽しく和やかな雰囲気のうちに閉幕。

     悪いニュースも少しはあったが、それは「9・11事件の捜
    査で逮捕されたヨルダン人学生が米政府を告発」といった外国
    に関するものであった。

     1日半ほど経って、この事件がインターネットで広まり始め
    ると、さすがに怒りの声があがった。

         人命がいちばん大切なんだぞ! こんな大事件は外国な
        ら絶対にトップニュースなのに、中テレ(中央テレビ)が
        ノーコメントとは。[1,p224]

     中国共産党にとって都合の悪い出来事は報道されない。この
    徹底した報道統制ぶりを見れば、次の評価も納得できるだろう。

         2002年10月、本部をパリに置く「国境なき記者団」が
        全世界の報道の自由度ランキングを初めて発表した。合計
        139の国と地域によるランキングで、中国大陸と北朝鮮
        はそれぞれ138位と139位にランクされた。2003年
        10月20日に再び公表されたランキングでは、168カ
        国のなかで北朝鮮は最下位、中国は下から6番目であった。
        [1,p88]

■2.世界で最も多くのジャーナリストを監禁、投獄している国■
        
     この厳格な報道統制の中で、多くのジャーナリストが戦いを
    続けている。

         中国は4年連続で世界で最も多くのジャーナリストを不
        当に監禁、投獄している国である。その数は全世界で不当
        に監禁、投獄されているジャーナリストのおよそ三分の一
        にあたる。(ジャーナリスト保護委員会(CJP)2003年
        レポート)[1,p232]

     監禁や投獄だけではない。国外に亡命したジャーナリストも
    少なくない。『中国の嘘 メディア・コントロールの実態』
    [1]を発表した何清漣もその一人である。構造腐敗の問題を現
    場感覚でとりあげた『現代化の落とし穴』がベストセラーとな
    ると、国家安全部門の監視化におかれて、身の危険を感じたた
    め、2001年6月、監視の隙をついて、アメリカへの出国に成功
    した。現在はニューヨーク市立大学などで学級生活を送るかた
    わら、対中批判の言論活動を展開している。

     この『中国の嘘』に登場する多くのジャーナリストたちの戦
    いぶりを見ると、その無私の正義感に心打たれるとともに、報
    道の自由が健全な国家社会の実現に不可欠であることを改めて
    知ることができる。

■3.「腐敗プロジェクト」■

     高勤栄(男性、1955年生まれ)は、新華社山西支社で『記者
    観察』誌の担当をしていた。1997年、山西省運城地区の農民か
    ら、同地の灌水事業がペテンそのものの「腐敗プロジェクト」
    だと聞きつけ、調査に入った。

     運城地区政府の報告では、このプロジェクトは累計2億85
    百万元(約120億円)を投資し、約180万畝(約687平方
    キロ)の土地にスプリンクラーを設置して灌水できるようにし
    た、との事だった。

     高勤栄は、一年あまりをかけて、運城地区の7、8県を駆け
    めぐり、多くのスプリンクラー用貯水池を観察した。

         貯水池に取水管はあるければ、管が地面に突き刺さって
        いて、これを抜いてみると管の入り口を木の杭がふさいで
        いるんですよ。これでどうやって貯水できるんでしょう。
        まったくのでたらめなんですよ。もっとひどいのは、池に
        出水管がほとんど見あたらなかったことです。つまり、完
        全な見せかけ工事なわけです。[1,p241]

     地元の農婦は「貯水池を作ったけど、使ったこともないし、
    何の役にもたってないんですよ!」と語った。また地方政府の
    幹部への現場説明会のために、農民達が駆り出されて、6日間
    で貯水池を作れと命令されたこともあるという。

■4.「調査・処分せよ」■

     高勤栄は記者としての社会的責任感と義憤に駆られて、この
    腐敗プロジェクトを暴く記事を書き、『人民日報』に送った。
    この記事は1998年5月27日の『人民日報』の「読者の投稿」
    に掲載され、中国国内の多くの新聞やテレビで紹介された。

     世論の圧力を受けて、中央規律検査委員会は山西省当局に
    「調査・処分せよ」と指示した。中国の慣例では、汚職・腐敗
    の告発は、告発された当事者に回され、調査・処分が任される。

     12月4日の夜、北京に滞在していた高勤栄は、暗がりで数
    人の男に取り巻かれた。彼は両腕を縛られて、車で山西省の運
    城まで連れ戻され、拘置所に入れられた。身柄を拘束してから、
    罪状を探す手口だった。翌年4月28日、運城市人民検査院は
    高勤栄を「収賄罪、詐欺罪、売春斡旋罪」で起訴した。

■5.「政治犯については非政治化して処理せよ」■

     起訴状の「売春斡旋罪」の項で「1996年6月、・・・被告人
    は電話で明生と呼ばれる人物(基本的状況は不詳)と連絡を取
    り、ひとりの売春婦(基本的状況は不詳)を呼んだ」としてい
    る。客も、売春婦も明らかにされずに、高勤栄が斡旋をしたと
    して訴えられたのである。判決は懲役12年だった。いくつか
    の新聞や雑誌が、この冤罪の真相を公表しようとしたが、当局
    からの警告で制止された。

     不幸中の幸いは、地区委員会書記が「見せかけのプロジェク
    トを推進し、・・・党と人民に巨大な損失をもたらしました」
    と自己批判した点である。偽スプリンクラーの見せかけを隠し
    通せなくなったのだろう。しかし、別件で刑を受けている高勤
    栄は今も山西省晋中監獄で服役中である。

     1994年に江沢民は上海で秘密指示を下達している。「政治犯
    については非政治化して処理せよ」。それまでは中国共産党政
    権の思想・言論統制に従わない者は「反革命罪」として摘発し
    てきた。しかし、これではいかにも共産党独裁の実態が丸見え
    なので、政治犯に対しては非政治的な刑事犯罪、たとえば、売
    春、詐欺、汚職などの罪で処理せよ、という趣旨である。そし
    て、それが無理な場合は「国家機密漏洩罪、政府転覆陰謀罪、
    国家安全危害罪」を適用せよ、とされた。

     それだけ報道統制が隠蔽され、巧妙になった。高勤栄のケー
    スは、この方針に忠実に従ったものである。

■6.記者たちの受難■

    [1]には、高勤栄のような正義感に燃えた記者の受難がいくつ
    も紹介されている。

     香港の『文匯報』の東北駐在事務所主任・姜維平は、1998年
    からペンネームを使って遼寧省の最高指導者たちの汚職・腐敗
    を暴露する記事を書き始めた。瀋陽市副市長がマカオでの賭博
    で公金4千万元(約6億円)をすった、とか、大慶市長が公金
    で29人の愛人のためのアパートを購入していた、等々。国家
    安全部は香港でのスパイを使って、これらの記事の執筆者が姜
    維平であることをつきとめ、2000年12月に彼を密かに逮捕し、
    1年あまりの秘密裏の拘禁の後、「海外への国家機密不法提供
    罪」などの罪状で、懲役8年の実刑判決を下した。

     2000年7月、江西省の雑誌『農村発展論叢』社・副社長の桂
    暁埼*は、『農民負担軽減工作ハンドブック』を出版した。農
    民が地方政府から「労務奉仕」という名の強制労働や、教育資
    金などという名目での金銭巻き上げの被害を受けていることか
    ら、それらを規制するために中央政府や省政府が過去に出した
    法規をまとめたものだった。農民達がこのハンドブックを元に
    合法的な「農民負担軽減工作」をする事を恐れた当局は、この
    本を買った農民達を脅して回収し、桂暁埼を停職・審査の処分
    とした。その情報を得た桂暁埼は、第2の高勤栄になることを
    恐れて、江西省外に逃亡し、今も流浪の身となっている。
    (* 「埼」は、原文では土偏の代わりに王偏)

     西安の『各界導報』の記者・馮剣*侠が、2002年1月15日、
    人里離れた所で、死体で発見された。馮剣侠は地方政府の暗黒
    面を暴露する多くの記事を書いていた。喉を深くえぐられてい
    たが、公安当局は早々に自殺と断定し、不審に思った各紙の記
    者数名が公安局に取材に出向いた所、公安科長はこう言った。
    「私に言えることは、自殺だったということだけだ。メディア
    がこれ以上騒ぐなら、君たち個々にも圧力がかかることになる
    ぞ」。その後、この事件はいっさい、報道されなくなった。
    (* 「剣」は原文では金偏)

    「世界で最も多くのジャーナリストを不当に監禁、投獄してい
    る国」では、こういう報道統制、言論弾圧がごく日常的に起き
    ているのである。
    
■7.暴力による取材妨害■

     記者たちの受難は、取材の段階から始まっている。多くの記
    者が暴力によって、取材を妨害されている。

     2001年12月30日、江西省万載県の爆竹工場で爆発事故が
    起こり、建物はすべて倒壊、周囲数百メートルまで焦土となっ
    た。現地では厳重な交通管制が敷かれ、警察車両と救急車以外
    はすべての車両が現地に近づけなくなった。各検問所では警官
    が配備され、記者の現場への立ち入りを禁止した。駆けつけた
    『中国青年報』の記者2名は撮影機材を奪われ、地面に押し倒
    されたあげく、派出所に連行された。その後、万載県は、死亡
    者は9名だけだったと言い張り、後に14名と訂正した。

     2002年1月5日、山東省の『済南時報』などの記者3名が、
    礼陽県泗店鎮西孟村に向かった。村の支部書記が汚職にまみれ、
    私設監獄を作り、村人たちを拷問しているという訴えがあった
    からだ。しかし、ほどなく7、8台のパトカーがサイレンを鳴
    らしながら追いかけてきて、三人を県の宣伝部に連行した。そ
    こで10数名の私服警官から、殴る蹴るの暴行を受け、一人は
    頭部を強打されて重傷を負った。夜の12時過ぎに『済南時報』
    の特別チームが到着して、3人はようやく解放された。

     ある人が、新聞で報道された記者への暴行事件を調べたとこ
    ろ、2000年9月から12月の3ヶ月間だけで、中国全土で9件
    もあった。11月8日は、中国政府が記者の権益を保護する
    「記者デー」であるが、ちょうど、この前日にも広州市郊外の
    靴工場が起こった大火災を取材しようとした記者4名が、工場
    の息のかかった連中に恐喝され、暴行を受ける、という事件が
    発生している。

■8.「糧道を断つ」■

     本年1月下旬、『中国青年報』の付属紙『冰点週刊』は、共
    産党中央宣伝部から停刊処分を受けた。原因は同紙の1月11
    日付に掲載された中山大学の袁偉時教授による中国の歴史教科
    書批判論文だった。論文は清朝末期の義和団事件などを例に、
    愛国主義を高揚するため、史実に反し、中国人の誤った行為ま
    で正当化していると指摘、歴史への反省なくして現代化できな
    いと主張した。党側は、論文を「史実をねじ曲げ、中国人民の
    感情を傷つけた」として、同紙の停刊を命じた。

     しかし、この処分は、国際社会で言論弾圧として大きく報道
    され、それに驚いた胡錦濤政権は、同紙編集長らを左遷しただ
    けにとどめた。これは以前とみると考えられないほど軽い処分
    である。[2]

     なぜ新聞や雑誌の停刊処置くらいで、国際社会が騒ぐのか、
    胡錦濤政権には分からなかったろう。これまでの中国で停刊の
    処置を受けた新聞・雑誌は数知れない。[1]の著者・何清漣の
    関連だけでも、以下のケースがある。

    ・今日中国出版社は何清漣の『現代化の落とし穴』を出版した
      ため、1995年に登録を取り消され、営業停止処分となった。
      同書の企画者と担当編集者は、文化方面での仕事につけなく
      なった。

    ・『書屋』誌は2000年3月号に何清漣の論文を掲載したため粛
      清された。編集長と編集部スタッフは全員解職された。

    ・2001年初めに漓江出版社は何清漣の文集『我々はなおも星空
      を仰ぎ見ている』を出版したため、中央宣伝部により営業停
      止処分を受けた。

     このように、新聞・雑誌の停刊処分、あるいは新聞社・出版
    社の営業停止処分によって「糧道を断つ」戦法も、報道統制の
    有力な手段なのである。
      
■9.「日本政府もメディアを指導すべきだ」■

     本年1月初めに日中両政府の局長級による非公式協議が北京
    で開かれた。朝日新聞は、これを論評する社説の中でこう述べ
    た。[3]

         協議のなかで、日本のメディアが中国の否定的な面ばか
        りを報じると中国側が不満を示した。「良い報道がなされ
        るよう中国はメディアを指導している。日本政府も指導す
        べきだ」と述べたという。
        
     政府がメディアを監督して、「良い報道」がなされるよう
    「指導」するのが中国の「常識」なのだ。そして、その「指導」
    とは記者を投獄したり、新聞を停刊処分にしたりする事を含ん
    でいる。

         日本の一部のメディアに、眉をひそめるような感情的な
        中国攻撃があるのは事実だ。もっと前向きな報道が増える
        よう良好な関係にすべきだというなら大賛成だが、政府が
        メディアを「指導」することは民主国家では許されない。

         中国でも環境汚染などで当局を批判する報道が出てきた。
        自由な言論は民主主義の根幹であることを改めて指摘して
        おきたい。

     至極もっともな指摘ではある。しかし、中国で身の危険を顧
    みずにこの「指導」と戦っている記者たちにとっては、報道の
    自由の保障されている日本で、中国の「指導」のお先棒担ぎを
    してきた朝日新聞がこんなお説教をしても、偽善としか映らな
    いのではないか。[a,b,c]
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(042) 中国の友人
    中国代表部の意向が直接秋岡氏に伝わり、朝日新聞社がそれ
   に従うという風潮が生まれていた。 
b. JOG(044) 虚に吠えたマスコミ 
    朝日は、中国抗議のガセネタを提供し、それが誤報と判明して
   からも、明確に否定することなく、問題を煽り続けた。
c. JOG(179) 3度目のお先棒担ぎ
    歴史教科書つぶしに奔走する「中国の友人」たちの無法ぶり
   は、真の日中友好を阻害している。 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 何清漣『中国の嘘 恐るべきメディア・コントロールの実態』★★★
   扶桑社、H17
2. 産経新聞「『氷点』停刊 焦国標元北京大助教授に聞く」
   H18.03.03
3. 朝日新聞「(社説)日中対話 政治家の姿を見たい」
   H18.01.11

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■「情報鎖国で戦う記者たち」に寄せられたおたより

                                         「Yutaka」さんより
     中国の報道統制を論じる場合、日本人は無意識のうちに中国
    も他の先進諸国と同様の歴史や価値観を持っていると考え勝ち
    ですが、冷静に振り返って見ると、中国は真の意味での近代国
    家を経験したことがなく、古代封建制の清朝から内乱を経て一
    気に外見だけは近代的国家となったと言う事情があります。

     一方わが国は明治維新以来百数十年に亘り議会制民主主義
    (天皇制も立憲君主制であり中国の王朝などとは次元が異なる)
    を取ってきており、当然のことながら、言論には 言論で対応
    すると言うことが全国民の常識となっています。中国要人のマ
    スコミを指導する 云々と言う発言が端無くも中国の前近代的
    強権主義の体質を露呈したものと思います。

     共産主義国家を標榜したソ連と中国がいずれも情報統制に見
    られる強権的な体質を色濃く持っていたのは、必ずしも共産主
    義思想の産物ではなく、両国が真の意味でも国民国家を経験す
    ることなく、絶対王政から共産国家へ移行したことと無関係で
    はないと考えます。この両国は極めて後進的であるにも関わら
    ず、国土が大きく人口も多く、例え外面的 とは言え強大な軍
    事力を有していることで言わば大きな顔をして国際社会で発言
    をしていますが、本来その資格はないのではないでしょうか?

■ 編集長・伊勢雅臣より

     言論や報道の自由の概念を持たない中世国家が、最新のテク
    ノロジーを駆使して、言論弾圧をしています。 

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