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______ ■ December '18〜 February 2019 ■_
 

 さまざまな分野での進歩目覚ましい現代医療ですが、それらはまた同時にいくつかの課題も抱えています。そのうちのひとつ「薬剤耐性菌」が、いま我が国のみならず世界的に大問題となっています。

 あらゆる生物にとっての外敵微生物のなかで「細菌」に対抗できる薬剤「抗菌剤」を私たち人類が手に入れてから、実はまだ百年と少ししか経っていません。 ときは1900年代初頭、世界中で結核をはじめとした各種感染症が猛威をふるっていた時代にサルファ剤やペニシリンといった抗菌剤が発見・発明され使われ 始めると、人々はその絶大な効果に驚嘆しました。そして二度の世界大戦後には製薬業界をも巻き込んで爆発的勢いで医療界を席巻していきました。その恩恵を 受けた人々は数知れず、それまで落命していたような患者さんたちが数多く救われたのはまぎれもない事実です。

 しかしそこに大きな落とし穴がありました。それは細菌と我々との戦いがイタチごっことなりどんどんエスカレートしてしまったのです。難敵の細菌に対して 強力な抗菌剤が開発されるたび、またそれに打ち勝つ細菌が生まれだし、その繰り返しでとうとう地球上のどんな抗菌剤も一切効かない最強の細菌すなわち「薬 剤耐性菌」が生まれてしまいました。どうやら人類と細菌の戦いは、自然界を背景にした細菌側に利がありそうです。薬剤耐性菌による重篤な感染症に対して医 療側は為す術なしの窮地に陥りかねませんから、こちら側の手の内をさらすような抗菌剤の濫用を日頃から極力避けておくべきなのです。

 いま世界の医療界が協力してこの問題に真剣に取り組み始めています。我が国でも厚労省から【薬剤耐性対策アクションプラン2016】が発表され抗菌剤の 適正使用がひろく呼びかけられています。なかでも重要なのがいわゆる「風邪」患者さんへの処方です。風邪・感冒にともなう諸症状の大半はウイルス感染に対 する生体側の反応と考えられておりそれらには当然のことながら抗菌薬は無効です。但し、当初ウイルス感染症のように診られても経過によって肺炎やその他の 細菌感染症の可能性もでてきかねず、非常に難しく悩ましい選択を迫られる場合もあります。だからこそ「闇雲に抗菌剤を使わないこと」の正当性を患者さん方 によくご理解いただきたいのです。またどんな風邪薬・感冒薬であっても、それらはあくまで対症療法であって根本的な治療薬ではないことも併せてご理解くだ さい。この分野での私たちの敵は大自然です。医師と患者さん方の強力タッグで不利な戦いをなんとか勝ち抜いて参りましょう。
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大西内科クリニック