1998年 1月 3日(土)
今日はペンパルのスンヒョンちゃん(女性)と、そのお友達ジニョンさん(女性)に会う予定だ。スンヒョンちゃんは勤めていた会社を最近辞め、今はプータローをしている。そのため時間的余裕はあるようだった。今日は一日付き合ってくれるらしい。昨日と同じでチョンノ(鍾路)の「パパイス」の前で待ち合わせすることにしていた。
では、話に入る前に登場人物の紹介をしておこう。スンヒョンちゃんのフルネームは「ユ・スンヒョン」という。日本人の友達に紹介してもらった。その日本人の友達がジニョンさんのペンパルだったわけで、お互いの友達を紹介しあったかたちだ。僕は今でこそ、韓国人の知り合いも増えてきたのだが、紹介してもらった当時はソウルに知り合いがいなかったのだ。だからソウルに行ったときに、一緒にどこかに行ってくれる人を捜していたわけだ。当時スンヒョンちゃんは日本語を喋れなかったので、やりとりは韓国語で始まった。・・・正直言って、かなりの美人である。
一方、ジニョンさんとスンヒョンちゃんとの関係だが、会社の元同僚ということだ。ジニョンさんの方も、今は会社を辞めてしまったらしい。(1998年の春に会社の同僚と結婚されたそうです)
以前、スンヒョンちゃんとジニョンさんが二人で日本に旅行しに来たことがあったのだが、その時、前出の日本人の友人と二人で奈良や京都を案内してあげたことがあった。その件もあって、今回はソウルを案内してくれることになっていた。
すんひょん ソウル郊外に住んでいるチャーミングな女性 私のペンパルです。 |
じにょん インチョンに住む女性。すんひょんちゃんの友達。1998年結婚されたそうです。 |
昨日と同じく10分ほど前にパパイス前に到着する。待っていると、スンヒョンちゃんは時間前に現れた。よしよし。しかし、スンヒョンちゃんの話によると、ジニョンさんとまだ連絡が取れていないらしい。とりあえずピピ(ポケベル)を打つため電話のあるコピショプ(喫茶店)に入ることにした。(韓国語では「ポケベルを鳴らす」というのを「ピピル チダ:ピピを打つ」と言います)
店に入ってすぐにテーブルの電話からジニョンさんのピピを打つ。しばらくするとそのテーブルの電話が鳴った。ジニョンさんからだ。ピピに店の電話番号を入力して連絡を取り合うという、韓国スタイルの待ち合わせ方だ。ジニョンさんはすでにチョンノ近くにまで来ているらしい。コピショプの場所を教えると、しばらくして現れれた。
それから、コピショプで今日までの韓国旅行や最近のできごとなどの話に花が咲いた。この二人も久しぶりに会うらしく、最近の状況などを話し合っていた。話をしていく中でジニョンさんが僕にいくつか質問をしてきたのだが、その中に面白いものがあったので一つ紹介しておこう。
ジニョンさんの質問とは「日本人はお正月にお餅を食べて死ぬ人がいるらしいがなぜか?」というものだった。いきなりそう言われても、何が言いたいのかよく分からないと思う。順を追って解説していこう。
昨日、KBS(韓国の国営放送局)のニュースでこの事件(?)が内外ニュースの一つとして流されていた。何でこんなニュース流すんだろうと思いながら見ていたのだが、ジニョンさんも見ていたようだった。日本人にとっては当たり前なことのだが、韓国人にとっては今一つ理解しがたいようだ。
僕は「主にお年寄りたちが雑煮などを食べていて、もちが喉に引っかかり窒息死する」という説明をした。しかし、どうもこれがよく分からないらしい。というのも、韓国語の「トック」(通常、「もち」と訳される)と日本語の「もち」とは少しニュアンスが違うからだ。昨日、くりぐりさんからお土産でもらった韓国式「もち」を思い出して欲しい。これらは「もち米」ではなくて「うるち米」で作られていた。粘りけが全く違うのだ。トッポキ(街角などで売られているスティックタイプのもち)などを食べたことがある人は分かると思うが、「もち」と言うよりは「うどんの堅くて太いの」という感じだ。丸いタイプのものも、「和菓子」のもち、つまり「さくらもち」とか「かしわもち」に近い感じだ。ねばねばしていないのだ。そして一般的に小振りなのでのどに詰まるという感じはない。
日本語の「もち」を「トック」という韓国語に訳すために勘違いが起こるのだ。なまじ文化が似ている(僕はそうは思わないが)という認識があるため、こうした微妙な違いに気がつかなかったりする。韓国にも「トックッ」(もち汁?)という、無理に訳せば「お雑煮」と言えるものを正月に食べるようだが、やはり中身が違うのだ。表面的に見れば「韓国も正月にお雑煮を食べる」ということなのだが、中身は違う。何だか、日韓関係の縮図を見るような気がした。
今日までの日韓関係は、こういう事の繰り返しだったのではないかと思うことが多い。顔が似ているために習慣も似ていると錯覚してしまう・・・。実際、大ざっぱに言えば似ているとも言えるのだが、細かい点ではかなり違うのだ。そしてその小さな誤解の積み重ねが大きな溝になっていく・・・。アメリカやアフリカのように顔つきから違えば、文化も違って当たり前だという無意識の判断が働くのだろうが、日韓関係ではそれがうまくいかないのだ。この「ちょっとした違い」というのは、案外気になるものだ。歴史認識にしてもそうで、韓国人の主張は、日本が受け入れるかどうかは別にして、朝鮮文化的に考えると当たり前のことを言っていると思う。しかし、日本人的価値観からすると、少しズレているような気もする。要するに、「お互い」その「微妙なズレの存在」に気がつかないといけないわけだ。
「韓国も正月にお雑煮を食べる」という事実に、「あぁ、日本も韓国も同じなんだ」と早合点してしまう。話がそこで終われば「永遠に誤解したまま」になってしまうのだ。しかし具体的に話を進めていくうちに、「どうも話がかみ合わない」と気がつくだろうし、日本の「お雑煮」と「トックッ」はどうも違うらしいということに気がつくだろう。今僕らに求められているのは、こういう事なんだろうと思う。
韓国旅行をした人は異口同音に「街の雰囲気も日本によく似ていた」と発するのだが、たいていはそこで終わってしまっている。「でもやはり違う」のだ。しかし言葉の問題もあって、なかなか難しいのも事実だと思う。
さて、話も盛り上がっていたのだが、お腹も空いてきたのでお昼ご飯を食べに行くことにした。僕はスンヒョンちゃんたちに、「シルリムドン スンデ」とか「仁寺洞ハガリスジェビ」など、「地名某某」というような名物に行きたいとお願いしたら、
「じゃ、ムギョドン ナクチポックムに行きますか?」
と答えた。ムギョドンとは、仁寺洞とイスンシン像の間にある地域のことだ。ナクチポックムとは、たこをぶつ切りにしてコチュジャンをからめながら炒めたものだ。「たこ炒め」と訳すことが出来る。
「韓国人が辛いものを食べたくなったときに行くところです。辛いの大丈夫でしたっけ?」
もちろんOKだ。ここから歩いて10分とかからない。早速移動することにした。
ムギョドンに着くと、道沿いに「ナクチポックム」の店が見えた。様子から見てスンヒョンちゃんもジニョンさんも、詳しく知らないようで、どこに行けばいいのかうろうろしてしまった。結局、「元祖 ナクチポックム」(右写真)と書かれている店に入ることにした。
店は小汚い、普通の食堂だった。お客が一組しかいない。まだ昼飯には時間的に早いからか・・・。そう思ってイスにつく。そしてナクチポックムを3人前注文した。すると間もなくその「ナクチポックム」が山盛り状態で登場した。なかなか美味しいものだった。しかし、うわさ通りとても辛い。僕は韓国人の中に入ってもそん色ないほど辛いものには強いのだが、それでも辛かった。スンヒョンちゃんもジニョンさんも辛いようだった。韓国人がそうなんだから、これはとっても辛いのだ。
というのも、僕の舌は「韓国仕様」になってしまったため、僕の舌で「ほどよい辛さ」と思われるものでも、普通の日本人では「口に入れられない」というレベルだったりする。だから、辛さに関しては慎重にコメントせざるを得ない。
ひーひーいいながらなんとか平らげることが出来た。
メシを食ってしばらく休憩してから、今度は「テハンノ」(大学路)に行ってみることにした。ソウルへは10回目近くになるのだが、ここへはまだ行ったことがなかったのだ。
ムギョドンから歩いてチョンノまで戻り、そこからバスに乗ってテハンノまで移動した。僕はバス用プリペイドカードを利用して乗ったのだが、スンヒョンちゃんたちは驚いているようだった。旅行者でこれを持っている人は、あまりいないのかも知れない。しかし、機械にかざすだけで乗れるから大変便利だ。ソウルっ子はたいてい持っている。度数が高いので1回の旅行で使い切ることはないと思うが、何回も来るリピーターには便利なカードだと思う。
バスがテハンノに近づくにつれ、道のあちこちに「劇場」が見えてきた。テハンノは演劇の街なのだ。テハンノの中心地であるマロニエ広場に降りると、人が渦巻いていた。何か催し物があるらしい。模擬店のようなところに行って聞いてみると「演劇祭」が開催されているということだった。
マロニエ広場を抜けてぶらぶら歩いていると、あちこちで声をかけられる。みんな大学生のような若い人たちで、劇場に勧誘する人たちなのだ。どうやらテハンノにはいわゆる「小劇場」がたくさんあるらしい。今日は演劇祭があるからか、どの小劇場でも公演を行っているようだった。時間があれば見ていってもいいなと思ったのだが、どれくらい時間がかかるか分からないので、とりあえずパスすることにした。
しばらくぶらぶらしてテハンノの雰囲気を満喫したので、ちょっと休憩でもすることにした。コピショップに行ってもいいのだが芸がないので、「ビデオバン」に行くことにした。ビデオバンとは、カラオケボックスのような個室がたくさんあって、そこでビデオを見せてくれると言うサービスのことだ。日本ではこういうところはないと思うのだが、どうだろうか? 韓国人は時間をつぶしたりするのによく使うようだ。僕も今まで行ったことがなかったので、一度行ってみたいと思っていたのだ。因みに韓国でも「ビデオ」は「ビディオ」と発音する。「バン」は発音的には「bang」で、漢字で書くと「房」となる。「部屋」という意味だ。同じような言葉に「ノレバン」というのがある。「ノレ」とは「歌」という意味で、「歌の部屋」つまりカラオケボックスのことだ。
ビデオバンに入ると、日本のレンタルビデオ屋さんのようなスペースがあった。本棚にビデオがところ狭しと並べられているのだ。そこから見たいビデオを選ぶ。そしてそれを係員に渡すと部屋の番号を指定されるのだ。
とりあえず韓国映画が見たかったので、スンヒョンちゃんもジニョンさんも見たことがないのを選んでもらった。「ハレルヤ〜〜」という映画だ。(題名忘れた)その箱をお兄さんに渡すと、部屋に行くように促される。部屋へ行く廊下は薄暗く、まるでルームサロンのようだった。ビデオを見るために薄暗くしなければならないわけだが、これはなんということだ。部屋は廊下の両側にあり、一応、上の部分、ちょうど男性の目線のあたりから上が透明になっていて、部屋の中が見えるようになっている。しかし、雰囲気としては「個室喫茶」「サロン」だ。
部屋に入ると大きめのモニターが置かれていた。そして大きめのソファーが、部屋の真ん中にでんと置かれている。縦向きに寝っころがれるソファーだ。ベットと言ってもいい感じだ。これは全くもって怪しい。そのソファーに3人が、川の字になって寝転がるとビデオがついた。ビデオデッキがフロントにあって、選んだビデオを流してくれるようだ。映画方式ってことかな。
間もなくビデオが始まった。ビデオの内容は、高名な「神父」(牧師だったか?(^^;)が交通事故にあって亡くなってしまったのだが、たまたまその事故に居合わせた「詐欺師」が、その「神父」になりすまして教会に乗り込んでいき、数々の騒動を起こしたあげく、改心してつかまるという、コメディー映画だ。正直言って、僕の語学力では細かいところまではよく分からなかったのだが、結構面白い映画だった。僕はそう思っていたのだが、女性陣2人は「面白くなかった、ごめん」と言っていた。そんなもんだろうか?
因みにこのビデオバンだが、「恋人同士で来て、何もしないで帰るというのが本当に失礼」という感じの雰囲気だった。廊下から中が見えるとはいえ、日本なら間違いなく***しまうだろう。韓国人は貞操観念が強いからよく分からないが、こんな空間があるとは驚きだ。いや、日本人だからそう考えるのだろうか? 料金さえ安ければ、日本でも流行ることは間違いないだろう。問題は回転率とコストだろうと思う。しかし、他のビデオバンも同じようなものなんだろうか? もっと研究してみないといけない分野ではある。
さてビデオバンを出た3人は、ビリヤード場に向かった。またまたビリヤードをやってしまった。でも結構面白い。(^^;
ビリヤードを終えた3人はバスで再びチョンノに戻った。実は買い物をしたいと思っていたので、付き合ってもらうことにしたのだ。あたりはもう薄暗くなってきていた。
僕が買いたいと思っていたのは、最新流行のCDと韓国語の国語辞典(韓韓辞典とでもいうか・・・)だった。韓日も日韓も持っていたので、韓韓が前から欲しかったのだ。さっきの「お雑煮」件にもあるように、韓国語を韓国語で読むというのがやはり本当なんだろうと思う。それから、CDについてはスンヒョンちゃんやジニョンさんに選んでもらおうと思っていたのだ。僕自身が買いたいと思っていたのもあるが、流行のものは現地の人に聞くのがやはり一番だからだ。
チョンノに戻り、「ヨンプンムンゴ」(ヨンプン文庫)に行く。ここは大きな本屋さんで、CDも売っているのだ。
早速辞書売り場に行って、スンヒョンちゃんに国語辞典を選んでもらった。スンヒョンちゃんによると、辞書メーカーとして有名なところが何社かあるらしい。(名前を聞いたが忘れた)その中のひとつのハンディ版を購入することにした。巻末には英単語をハングル文字でどのように書くかという一覧表も載っている。インターネット用語などもありそうなので、これは便利だ。英語をハングル文字で書くと、例えば「インターネット」は「イントネッ」「ホームページ」は「ホムペイジ」となるのだが、この「ハングル文字→英語」という方向は、だいたい察しがつく。しかし「英語→ハングル文字」という方向になると、全くお手上げだ。日本人もはっきり言って大きなことは言えないのだが、なにしろ「マッカーサー」が「メガド」という表記になる国なのだ。予断を許さない。
辞書を購入したので、次はCDだ。キムゴンモの新作や、話題のSES、イ・ソラなどを購入した。
そのあと近所の中華料理屋に行って「チャジャンミョン」を食べる。ここでジニョンさんが帰っていった。
まだ少し時間があったので、スンヒョンちゃんと仁寺洞へ向かった。伝統茶の店に行くためだ。この通りには本当にたくさんの伝統茶の店がある。先日、くりぐりさんとかと一緒に行ったところなのだが、他にもいい店がたくさんあるようだ。しかし、時間帯がそうだったのか、どこに行っても満員だった。4軒目でやっと席を確保。落ち着くことが出来た。しかしその店はシッケとか韓国の伝統茶は置いてなくて、中国のお茶が専門のようだった。適当に頼んで飲んだ。
しばらく話をしたあと、夜の12時近くなってきたので別れることにした。プンダン新都市に向かうバスを見送ったあと、徒歩でカンファジャンヨグアンまで戻った。
今回の旅もなかなか楽しいものだった。付き合ってくれた皆さんに感謝の気持ちでいっぱいだ。また来よっと。
(全5話終了)