[高 松]

街のなるべく華やかな部分を切り取ってみた。

 独立リーグとは変な呼び方ではあるが、だいたいその競技の最高峰とされる団体に対して「無関係である」という意味で使われる。なので日本の野球の場合、NPBに対して「独立」したリーグという意味となる。
 その存在自体は昔から知ってはいたが、それが具体的に何であるかを知ったのはアメリカ野球の「独立リーグ」をリポートしたある紀行番組を観た時だったと思う。
 メジャーリーグの試合と比べてすべてがスケールダウンしているのが、逆に地元の人達の「俺達のチーム」感を強めているように感じた。華やかさはないが、ファンにとってすべてが身近で、選手は有名人というよりは「仲間」のようなもので、メジャーと比してエンターテイメントとは呼べないまでも、彼らにとってはエンターテイメント以上の存在...。
 それを羨ましいと思ったのは、日本にそれに相当するものがあるようで無いからだった。だが、メジャーリーグの情報を日本人が普通に享受し、あちらのスポーツ情報が日常となった現在、日本でもいつかは誰かがそんな事を考えるだろう、という期待はあった。


オリーブスタジアム。後にネーミングライツ売却により「サーパススタジアム」。

 かくして03年シーズン途中にしてブルーウェーブの監督を解任された石毛宏典の行動は早かった。翌04年、球界再編騒動の最中に石毛は四国において独立野球リーグを運営する会社を設立する事をぶち上げた。日本で初の(厳密には国民リーグとかマスターズリーグとかがあるが)独立プロ野球リーグ「四国アイランドリーグ」の誕生である。
 で、初年度も終わりに近づいた10月の高松。結論から言うと最初こそ大いに注目されたものの1年目から赤字となった。確かに地元の人達が温めてきたものではなく、言ってみれば降ってわいたような話。他にも要因は色々とあるが、決して悲観したものではないと思わせたのは、来た人達が楽しそうに応援している事だ。一人二人が楽しめれば、その輪を百人千人に広げる事ができる(逆も然り)。今日の観衆はたぶん300人いないと思うが、独立リーグがあって、それを楽しめる事自体が僕には十分羨ましく思えた。プロ野球が日常である東京の人間がなぜそんな事を言うか?それは独立リーグには独立リーグにしかない魅力があるからだ。
 今現在アイランドリーグのレベルは、社会人クラブチームの強い方と大体いい勝負だろう。そうしたチームが一応3桁の観客を集めるのも、独立リーグというものの潜在的な可能性を表していると思う。


香川と言えばやっぱりこれか。こんなシンプルな一杯でもOK。

 では独立リーグの可能性とは何か。淡々と進む試合に、序盤、特に大きな見せ場というか、凄いと言わせるシーンはない。今のところは実業団より格下の独立リーグ。それをお金を払って観る価値があるかどうかは個々の価値観による。可能性とはその価値をつくり、広げる事で、内野前列に陣取る、少数も良い雰囲気の香川オリーブガイナーズファンは言わばデフォルトとして与えられた「タネ銭」のようなものだと思う。そして彼らを楽しませる事がその運用だ。
 中心人物とおぼしき人が「○○選手の打球が飛ぶ先は〜」と言うと他の人達は「レフトスタンドレフトスタンドレフトスタンド〜」(右打者の場合)と3回連呼する。応援スタイルというほどのものではないのだろうが、応援するひとつの対象の下に人が集まると、必然的に「内輪の合言葉」みたいな、何か些細なオリジナリティみたいなものを出そうという動きが出る。その根っこには、出来たばかりのチーム同様、その応援も独自のものとして育てたいという希望がある。「運用」とはその希望をサポートする事で、それは野球のレベルと同じ位大事な事ではないかと思う。


オリーブガイナーズ応援団。応援慣れしていない様子も新鮮。

 野球のレベルはと言うと、同じレベルのチーム同士なので、あまりアラは出ない。ただ凄い投手とか、凄い打者とか、凄いプレーがない事は「雰囲気」でわかったりする。ちなみに徳島インディゴソックスのユニホームの色が鮮やかで凄く良い。地元の特産である「藍」の色。チームの愛称になるだけあって主張というか誇りを感じる。同じように各チームの愛称にはそれぞれの地域性が盛り込まれているのだが、ユニホームのデザインが4チーム共同じフォーマットであるのがやや不満か。象徴的なのは、各チームがリーグ運営会社の一部署的な存在である事。それぞれが独立した法人格を持つ球団となるのは来シーズンからとなる。
 開始40分でもう三回を終わろうとしている。早く進行すれば良いというものではないが、四球連発でダラダラした試合は結構辛いので、それよりは余程良い。
 三振、ゴロアウト、フライやライナーのアウトが淡々と重なり、何か選手個人の高度なポテンシャルみたいなものを見せるでもなく、本当に淡々と進行する。香川の八番山木戸が三回にレフトの頭を越える二塁打を打ったのが試合初のヒットなのだが、ファンの喜び方が何というかNPB的でない。説明するのが難しいのだが、普段のプロ野球でのファンのヒットに対する反応が「点が入る可能性があるから喜んでいる」なのに対し、彼らのそれは「選手への祝福」みたいに感じられるのだ。この走者がホームに生還するか否かに関係なく、それは素晴らしい事だ...的な。


手作りの選手紹介。

 確かに「地元のチームを応援する習慣」を得た彼らの喜びは、単に勝ち負けを超えたものなのだろうとは考えられる。だがそれは反面、勝つ事の価値がまだ希薄である、つまり独立リーグというものの認知が安定していない事を表しているなどといった見方にもつながるような気がする。この走者は一番井吉がコツンと当ててレフト前に落としたタイムリーでキレイに生還する。そしてすぐさま五番松原の、高目を叩きつけ一塁線を抜くタイムリーで追いつく徳島。なんだか「模範試合」でも見ているような感じだ。意外と激しいのは、香川の橋本、徳島の渡辺という両先発投手が果敢に内角を攻める投球を展開しているところ。そこが試合に緊張感をもたらしているように思う。
 今のところ「海のものとも...」などと言われる独立リーグ。そこに集まるのは大学や社会人のトップクラスに及ばない層の選手だ。だが、大学や社会人よりも優れているのは正に「野球を仕事に」できるところ。野球に時間を費やす事を是とできるところだろう。いいところを見せたい、という意欲はもっと上のレベルでプレーする選手にも負けていない。そして、その意欲が独立リーグというものを発展させる。先取点で香川ファンのバンザイが秋の夕空に響く。数こそ少ないが彼らはその草創期を共にした生き証人であり、それは巨人ファンにも阪神ファンにも真似のできない稀有な経験なのではないだろうか。


風景ごと羨ましい。

 それはそうと「いい加減点取れ」という空気。徳島の渡辺はぼちぼち変化球にタイミングを合わされてきたみたいだ。果敢に攻めるインコースも六番米田にすくい上げられレフト前。捕手はこの試合慣れない様子で走者を警戒。七番上ノ下はチェンジアップっぽい球をレフトに。これはギリギリのフェアでレフトがちょっともたついている間に1点勝ち越し。今日の雰囲気からすると重い1点だ。
 割と小刻みに継投する香川(先発を4回2/3で代えた)。抑えの松尾はなかなか速い。力で後続を抑え込む。最後をクローザーが締めるというフォーマットがNPBっぽい雰囲気を出してくれる。香川が逃げきった。
 初年度の順位は1位から高知、徳島、香川、愛媛となった。翌年から2シーズン制を取り入れるなど、試行錯誤がはじまる事になる。
 オリーブスタジアムの周辺は夜になるとかなり暗い。そんな場所でここだけが明るく、試合後も選手とファンのささやかな交流で小さく賑わっている。地元の「プロ野球」チームを応援する文化が、こんな静かな場所にも入ってきた。山間にポツリと灯るカクテル光線が、企業チームの縮小が止まらない球界の土台事情の中、それを立て直す隙をうかがうかすかな光に見えた。
 08年に九州の2球団を加え、09年現在リーグはまだ続いている。長崎セインツが経営難に陥る傍ら、独立採算に移行しようという球団も現れ、一進一退しながら頑張っている。(2005.10)

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