ボランティアスタッフによるフリーバッティング(選手が打撃投手)などという、やってる人しか楽しくなさそうな企画をやっている。が、一見打てなさそうなウグイス嬢の人が全球ミートするなど、意外な一面が見れて面白い。
別に有名人など呼ばなくても、普通の人達が十分面白い。地域とは言い換えれば「普通の人達」だ。独立リーグという、それ自体が不確かなものが、「地域密着」を模索しながらの2年目を迎えた。
四国アイランドリーグの最も大きな変革は、各チームが法人として独立し、文字通り「球団」になった事だろう。単に試合を観ている分にはどうでも良い事かもしれないが、大事な事だ。組織として自立していなければ独自の活動もしづらいし、リーグに対してモノも言えない。最初はリーグ運営会社であるIBLJの出資だが、各地元から出資を募れるようになる下地にはなる。
さて阿波踊りも終わった徳島の街はいかにも「祭りのあと」といった心地良い脱力感を湛えていた。質素なホテルのフロントでおばさんの「観光で?」の問いに「アイランドリーグを観に」と答えると「それはそれは」と笑っていた。
コンパクトな蔵本球場。体育館内蔵なのがユニーク。
この「それはそれは」という反応がアイランドリーグの存在感というものをいかにも簡潔に表している、と思う。具体的にどういう事かと言われると困る。「それはそれは(笑)」なのである。
そんな感じの(笑)アイランドリーグを阿波踊りにも匹敵する存在にすべく試行錯誤。今年から前後期制とし、メリハリをつけるなど、色々考えている。初年度2位の徳島インディゴソックスは今年は前後期共最下位を走る。選手が大幅に入れ替わった事が大きく影響しているわけだが、この辺も独立リーグというものの不確かさを象徴している。そんな中で最初からチームの中核として活躍する山田大二郎選手による「君が代」斉唱。色々やるのも良いがさすがにこれは勇み足だった。
「君が代」は難しい歌だ。技能も声量も「歌手」というよりはほとんど「声楽家」の領域と言って良い。それを歌唱訓練などした事もないであろう野球選手に、一応300人程の観客の前で、しかもアカペラで歌わせるのはほとんど拷問だろう。「さざれ石」のあたりで声が裏返り、いきなり転調。歌としてはすでに破綻。静まりかえった蔵本球場に響き渡る絶叫。起立したまま笑いを堪える観客数名。
インディゴソックスのマスコット。なかなか秀逸なデザインでは。
笑っては失礼なのかもしれないが、怒るよりはマシだろう。笑う人はいても怒る人はいない。わずか2年かそこらで独立リーグは「そういう空気」を作り、その中でいつものように試合がはじまった。そして弱いチームのセオリーのようにエラーと四球絡みで高知ファイティングドッグスに先制点を許す(先発の左腕渡辺の暴投による)。高知には強いイメージがあり、徳島には品が良いイメージがある上に実際弱いのでこのまま勝負が決まってしまいそうな気がするが、二回は三者凡退に抑える。先頭六番中村の打席で2-2からボールと判定された際どい球をストライクと思い込みボール回しをはじめてしまうのが何となく独立リーグ情緒。
前期優勝の高知相手に早目に反撃しないとどんどん分が悪くなり、試合は決まってしまう。「締め切り」は三回あたりだろうか。こっちは二回で締め切られる、ある企画に必死に頭を使っているところなのだが。
その企画というのは徳島インディゴソックスの「キャッチフレーズ」を考えよう、というもの。観客からそれぞれフレーズを考えてもらい、その中から主催者が優秀な作品を選び、発表するというもの。その締め切りが二回なのだ。
カネと太鼓の応援スタイル。
「〜なきゃソンソン」だの、阿波踊りのステレオタイプがどうしても頭から離れず、自分のイメージ貧困さ加減に一瞬落ち込む。「同じ阿呆なら」っていい加減阿波踊りから離れろとセルフ突っ込み。で結局阿波踊りをネタにしたものを書いて箱に入れた。同じ阿波踊りネタでも地元の人ならもっとディティールを考え込んだものを作るだろう。結果発表を楽しみに待つ事にする。こんな風に、観客が無意識に頑張ってしまう企画というのはなかなか考えたな、と感心した次第。
インディゴソックスも一応「締め切り」に間に合った。三回に同点タイムリーを打ったのはグレアム義季サイモン。実は大学から一応知っている選手だ。大学選手権で関東学院大のスタメンに名前があったので、大学野球でカタカナは珍しいなと、何となく覚えていた、そんな選手とまったく別のどこかで何となく遭遇するのが世の中の狭さか。
僕は四国では徳島が何となく一番好きなのと、知っている選手がいたので少し親近感が沸いたところで、それこそ知らない選手だらけの高知に一気に突き放されるのはキツい。六番中村が片手でセンター前タイムリー1点の後七番小山田の右中間3ラン。今の徳島の勢いからすると勝負あったという感じ。以後徳島は六回までノーヒット。ファンからするとまったく楽しくない内容だ。
インディゴソックスのカラーは鮮やかな「藍」。
そんな徳島をヤジりもせず暖かく応援するスタイルはカネ、太鼓(ドラムではない)で三三七拍子。何となく僕が野球を観はじめた頃のプロ野球を思い出す。当時の「応援団」は外野ではなく内野に陣取り、旗を振ったり鳴り物を鳴らしたりしていた。その「チン、ドン」と「ピッピッ」という笛の音による三三七拍子が当時の「応援」のスタンダードで、大体どのチームも似たようなものなのであまりそれぞれの個性というものはなかった。今思うと野暮ったいが、妙にノスタルジックだ。
なのは良いが、なぜこの徳島でそのような光景を見るのだろう。今風の応援スタイルに関する情報が届かないとは思えない。その中であえてレトロなスタイルを選んでいるのだろうか。しかし考えてみれば「応援」という習慣のない人達がいきなり「応援」をしようとすると、最近の応援がどうのという事よりも「日本人の遺伝子にある方」を無意識に選んでしまうのかもしれない。
さらに徳島のカラーはチームの愛称にもなっている「藍」が鮮やかだ。「チームカラー」としては4チームの中でもっとも求心力を持っていると思う。地域の特産が「カラー」に直接結びついている強みだろう。
藍...Indigo。
そうだ、すごく良いキャッチフレーズを思い付いた。
...って遅えよ!
今日の観衆389人。
歯がゆさを噛みしめながら五回終了、キャッチフレーズコンテストの当選者発表。1位だけは何となく納得。確かに地元の人にしか書けないディティールが盛り込まれていた。しかし元ネタは阿波踊りだった。
観客は389人。しかし雰囲気が良いので閑散とした感じではない。インターバルでは選手がスタンドで飲み物を売っている。ファンのおじさんと握手。「がんばれよ」と声をかけられていた。
一番山口がひっかけてピッチャーゴロも、処理にもたつきセーフ。こういうプレーが多い。グレアムにはボール先行も、四球は少ない高梨。予想通り来たストライクをボテボテも渋く三遊間を抜く。そして松原の、低目をすくい上げ何とか打った犠牲フライで八回、1点返した徳島。しかし反撃はここまで。
特に悔しそうなファンはいない。そこが独立リーグのいいところ、と言いたいところだが、「悔しさ」も味わう事ではじめて「地域に根付く」のではないか。そのためには、負けて悔しいとファンが思えるくらい、リーグ戦のレベルが上がって、価値が上がる事が必要だと思う。
球場前でファンと選手の軽い交流。去年見たのと同じ光景の中で、野球のレベルは地道に上がる。これからレベルも上げて、規模も広げていきたい。しかし規模を広げると負担も増える。これからそんなジレンマが待っている。
そんな途上で僕も何か足跡みたいなものを残したいと思うので、ボランティアの人に声をかけようかと思うが...。
「あの、すごく良いキャッチフレーズを思い付いたんですけど」
...間抜けなのでやめておこう。(2006.9)
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