[土 浦]

土浦市営球場の外野後方に霞ヶ浦。理想的な環境。

 東京六大学リーグは閉鎖的で、東都大学リーグは開放的だというイメージを一方的に抱いている人はいる。しかし永らく新規加盟を受け付けていないという点では東都も閉鎖的だと言える。
 そんな中で06年、首都大学リーグが1975年の玉川大学以来の「新規参入」を受け入れた事は少なくとも僕には新鮮な驚きだった。理由は31年ぶりの新加盟である事と、東京新大学リーグが割と良く新規参入を受け入れているのに良く首都が...という思いからなのだが、加盟する側にしてみれば、加盟するなら言っては何だが東京新大学よりは首都が良いのではないか。
 それと、ずっと7チームだった首都大学の二部リーグがようやく偶数になるという事でひそかにスッキリしているアマチュア野球ファンは少なくない気がする。


一度倒壊したというバックネット。可視性は高そうだ。

 06年春から新規加盟したのは高崎市の創造学園大学。音楽とか芸術とかの学校らしい。設立は2004年。加盟して間もないチームだが学校が「強化クラブ」としているだけに部員の数は一部校並みにある。しかし選手の出身高校を見ると群馬、埼玉等地元の結構有力校が多く、全国から有力選手を集めるとまではいかないようだが、「九州学院高」という選手も一人いる。
 こういう意欲的な「新しい血」が入ってくるとトントン拍子に一部昇格、という雰囲気を感じるが加盟から3季は最下位。昨秋ようやく5位に浮上した。
 さて首都大学二部リーグは今日開幕。新規加盟で8チームとなったため、一部リーグよりも早く開幕しなければらない。
 首都大学二部リーグにはなじみの深い土浦市営球場。昔台風でバックネットが倒壊したというのは野球場界では結構有名な話だが、改修で外野は拡張された。ただ全体的にどれほど変わったかと言うと、ボロさは昔のままだ。


拡張された外野。

 相手は伝統校の独協大。一瞬だけ一部リーグにいた事があった気がする。新興と伝統というコントラストが面白い。
 東都に劣らぬ戦国の首都開幕。この緊張感に、桜に彩られた湖畔の土浦市営球場はあまりにアンバランスだ。選手が気合を入れているそばで遊覧船のアナウンスが聴こえてきたりする。新興チームらしく応援も賑やかにやってたりするのかなと思いきや、無し。静かな開幕。先発の右腕田中は低目にズバッと、先頭打者を三振。そう言えばブルペンで捕手がこの田中を「いいっすよー」とか言いながら乗せていた。初回を4人0点に抑えるが、ストレートの四球を1つ出し、つまりそういうタイプの投手ですよという自己紹介みたいな出だしだった。
 開幕で投げるという事は彼がエース的な存在という事だろう。ちなみに三年生。そもそも加盟3年目なので四年生がいない。つまり一年生の時から先輩ばかりのチームを相手に、特に1年目は一年生だけで戦ってきたんだなと思うと、もう2年早くこのチームを追いかけていれば良かったと少し思う。


もっと学生呼んで盛り上げれば良いのだが。

 二回も4人0点で抑えるが、二塁打を1本打たれる。どうも3ボールになると欠点が露呈する、よくあるタイプの投手らしい。カーブかスライダーかわからないが、変化球でストライクを取れるのは心強い。
 カウントを不利にしない。不利にするくらいなら勝負をかける。カウント1-2(ストライクが先の表記で)から、ワンバウンドの球を空振り三振。ここからは何の球かわからないが、打者がストライクと思って振ったからには何か変化球だろう。死球を一つ出すが、次は2-2からストレート空振り。1-2からセカンドゴロ。打者を手玉に取っている。て言うか相手を見下して投げている感じ。この回も4人で終了。一年生の時はこの田中、どんな投球をしていたのか。新チームで、たぶんエースで、相手は上級生のチームばかりで。既存の学校に進学した選手にはできない経験をしてきたんだろうな、と思いを巡らしたくなる。
 独協大は昨秋3位。創造学園大からは2勝している。通常のシステムでは勝ち点を奪っているわけだが、二部リーグでは同一カードが3試合にならないための工夫か、勝ちを1ポイント、引き分けを0.5ポイントとし、もっとも多いポイントを獲得したチームを優勝としている。これだと「カード」という意識が薄れそうな気がするが、気分的には、勝てば初の対独大協勝ち点奪取に王手というわけで、現場は結構そういう意識があるんじゃないかと察する。先取点が入ればさぞ盛り上がるだろうところで一死一、三塁、三番レフト平林、スクイズするも投手の前に打球が上がる。よくある失敗。しかしスクイズだから三塁ランナーも飛び出している。先取点のチャンスが潰れた三回裏。


「水と緑と歴史のまち」だそう。

 エースっぽい投手というのは、性格的に味方打線が振るわない時ほど奮い立ち、更に人間ができていると味方がチャンスを潰したりした後は「どんまい」と背中で語らんばかりに気合を込めるものだと思う。田中は思い通りの球を投げる事ができている感じ。四回はフルカウントからスライダーを振らせて三振。変化球でストライクが取れると投球の幅が全然違う。この回初の三者凡退。
 このオフの間に両校に何があったのかは知らないが、何か力関係が逆転しているような、創造学園大に勝てるオーラというか雰囲気を感じるのだった。三年目にようやく「チーム」として完成されてきたという事だろうか。
 四番生田目のゴロをショートがスタンドにまで飛んで来る悪送球。打者二塁へ。五番木嶋送って六番山口。まずはスクイズをやってくるか?というところ。正直にやるか?それも良いが、「色々やってみたくなる」という何か余裕を感じる攻め。こちらがスクイズをやるやらないに関係なく相手はそれを警戒する。その警戒心を利用して何をやるか?答えは「ホームスチール」。スクイズを匂わせ、ウエストを誘う。思惑通り投手がウエストしてきた隙に生田目本塁突入。ありがちなオチかもしれないがホームスチールというものを生で観る事はあまりないので結構感動する。待望の1点。学生を動員してスタンドを埋めてやったらさぞ沸くシーンだろう。更に2点追加した四回裏。


「チーム」がなくならない事を祈る。

 ブルペンではまたさっきの捕手が田中を乗せている「めちゃキレてますよ〜」。五回も六回も「ガス抜き」を織り交ぜるかのように4人で終わらせる田中。確かにキレているかも。ワンバウンドの変化球で空振り三振を取るくらいだから。
 七回八回、三者凡退。七回裏はレフトの好返球に阻まれたが、「もう1点」を取りに来た。九回、完投勝利なるか。
 独協大打線は3ボールまで持っていければしめたものなのに、なかなか持っていけない。3つ目のボールを選ぶ余裕がないのか打てる球が来たら振っている感じ。これも田中の術中にハマっているという事だろうか。しかしようやくヒットだけで二死満塁のチャンスを作る。代打金田一(たぶん)、カウント2-2。平行カウントとは言うが、追い詰められている。だから今日の傾向通り、ひっかけボテボテのサードゴロ...をこぼし1点。「終わんないよ〜」と独協大ベンチ。
 最後に格上の貫録を見せて...という気もしたが、最後はカーンと良い音を出すも風向きが逆、レフトフライで終了。
 普通に強かったこの新興チーム。首都大学リーグに入っただけの事はある...筈だったのだが、経営母体の堀越学園(あの芸能人が通う堀越学園とは別物らしい)が経営不振に陥り、2012年文科省から解散命令が出されるかどうかという事態になっている。現在野球部は普通にリーグ戦を戦っているようだが、試合の前に選手が集められて...という光景を想像するといたたまれなくなる。選手の多くは他校で、また別の形で野球を続けるのだろうが、自分たちが作ってきた「チーム」はなくなってしまうからだ。それを思うとこの静かな開幕戦もとても貴重なものに思えてくる。
 田中伸幸投手は2010年信濃グランセローズに入団したが、同年自主退団している。(2008.4)

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