究極超人あ〜る

著者:ゆうきまさみ

初版:1986年2月15日

出版:小学館 少年サンデーコミックス全9巻

入手性:ワイド版なら新刊購入可

備考:光画ギャラリーは新書版のみ掲載?

ストーリー概略:
のんきでリベラルな校風の春風高校に、これまた野放図な「光画部」(いわゆる写真部)があった。
個性派揃いの部員・OB達が撮影旅行で出会った、轟天号(自転車)を操る学生服の謎の青年、R・田中一郎が転校してくる事になり、ドサクサにまぎれて光画部の部員にしてしまう。
ごはんがエネルギー源で、いつもまぬけな行動をぶっぱなす「あ〜る」は、実はロボットアンドロイドだった。それでも、些細な問題とばかりに気にせず続けられる学園コメディ…なんだろうか。

この作品、週間少年サンデーの昭和60年(1985年)34号から連載されたんだけど、この時期は、おいらがモロに高校生で写真部員だった時期とリンクしており、真の意味でのリアルタイム読者であり、思い入れ度合いなんぞ、そんじょそこらの”にわかファン”に負けるワケにはいかない。とは言え、思い入れが強すぎるとロクなことを書かないと思うので、程々に抑えてみよう。

「カメラ漫画」として紹介したものの、実質は学園漫画であり、写真部漫画と言った方が正しいと思う。当時の高校「写真部」というのは、活動が家発で写真芸術に目覚めている学校もあれば、ぬるま湯のような文化部として存在している学校もあり、作品世界も、おいらのいた写真部も後者に属するのである。

光画部とは名ばかりで、写真を撮っているシーンなんぞ殆ど無く、他の運動部からくすねてきた資材でスポーツに興じたり、宴会をしたり、撮影旅行の名目で海水浴。文化祭の展示に至っては過去の写真で水増し…。学校生活では、生徒会長選、文化祭、部存続の危機など。元々、ギャグ・コメディの類を説明するなんてのは愚かしい事なので、買えとは言わない。漫画喫茶でもいいので是非読んで頂きたい。高校時代にサエない写真部に在籍していた人間にとって、深い共感を得ることうけあいなのだ。

深い共感を受けた人間は、登場人物に自分の姿を投影しがちである。連載当時から、現在に至っても、同級生や知人に言われるんだが、おいらは「たわば先輩タイプ」なのだそうだ。本人だけが納得していない所をみると、ますますそうなんだろうなぁ、とか思ったり。おっと、自分のことは、このへんで切り上げておこう。

主人公のR・田中一郎は、世界征服を目的として、マッドサイエンティスト「成原成行」によって造られたアンドロイドである。が、本人に全くその自覚が無く、個性豊かな部員に囲まれて、まぬけながらも学校生活を謳歌している。さすがに学園漫画の常で、卒業が迫ってくると本来?のテーマであった世界征服が盛り上がってゆき、壮絶なラストを迎えてゆくのである。

一応「光画部」なので、数少ないながらもカメラが出てくるので紹介しておこう。キヤノンAE-1(推定)、キヤノンNewF-1、ニコンF3、マミヤプレス(6x9ホルダ付:推定)という感じ。肝心の主人公のカメラが「自作」という。オートフォーカスのためにシャッターを半押しすると、れぇざあ光線が飛び出す、物騒な代物である。

写真に関する薀蓄といえば…ファンにとっては語り尽くされたであろう感はあるが、念のため紹介しておく。

まずは使用するフイルムだが
「トライXで万全」
これを4号か5号で焼いてこそ味がでる

撮影の基本はこれだ!
「逆光は勝利」!
「世はなべて三分の一」!
「ピーカン不許可」!
「頭上の余白は敵だ」!

まぁ、写真をやっている読者でないとちっとも面白くないギャグなのである。しかし、最近はデジタルカメラが隆盛し、写真部員といっても写真の現像や引き伸ばしの経験が無い人には、トライXのギャグはわからんだろうなぁ。

トライXは、当時のコダックの定番モノクロフイルム(ISO400)である。指定のD-76現像をした場合、ネガが硬調に仕上がる傾向があり、本来は富士の印画紙の号数で言えば2号紙で焼くのが標準的と言える。ネオパンSSを使い、ミクロファイン現像を行うのであれば、確かに3号紙で焼くのが標準的であろう。D-76現像されたトライXを5号紙で焼くと…考えようによっては奇抜な映像表現になるはずである。しかし、あながち否定するものでもないと思う。

撮影の基本も、見事に偏っていて楽しい。この作品は、写真に限らずマニアックな笑いが随所に散りばめられているのである(「轟天号」という、自転車の名前一つとってもそうである)。近頃なら珍しくないけど、当時にしてみればメジャー誌がベクトル限定ギャグ?をよく許したなぁ、とか思ったり。

こうして写真の薀蓄をたれるのが、全9巻を通して第8巻、しかも第79話だけというのが意外である。作品世界では、意外に古いような錯覚を受けてしまうが、連載的には終盤の時期である。究極戦隊コウガマンより後の話と言えば、さらに意外感が増すかもしれない。

最終的に登場人物が多くなりすぎて収拾がつかない所もあったものの、作品的には時事ネタに目をつぶれば17年経過した現在でも十分に楽しめるものだと思う。1991年にビデオ化、2001年にDVD化された点が、この事を証明しているであろう。

ビデオ化の前に、イメージアルバムのCDが3枚出ており、山本正之御大の音楽もさることながら、その中に収録されているラジオドラマが極めて秀作なので、中古CD屋を回るといいかも知れない。


文書履歴
2003.01.30−アップ

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