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                       ■本の評価は、☆☆☆☆☆満点
☆☆が水準作


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2001.12.30(日) 『笑う肉仮面』刊行!
・もぐらもちさんが、日記で、「帰去来殺人事件」削除問題を採り上げておられます。電話での紹介は、次善の策という気がしますが、もぐらもちさんの直接行動には、萌えました。
・山田風太郎ミステリー傑作選第9巻『笑う肉仮面』(少年編)送っていただく。ありがとうごさいます。「水葬館の魔術」「姿なき蝋人」「秘宝の墓場」「なぞの占い師」「摩天楼の少年探偵」「魔の探検」「魔人平家ガニ」「青雲寮の秘密」「黄金明王のひみつ」「冬眠人間(中学時代二年生版)」「暗黒迷宮党」「なぞの黒かげ」「冬眠人間」(少年クラブ版)「笑う肉仮面」の15編収録。
 この日下さんの企画がなければ、『笑う肉仮面』が文庫になるということもなかっただろう。おげまるさんの発掘がなければ、こんな分厚い一冊になるということもなかったろう。まさに、幻の彼方からの贈り物だ。



2001.12.28(金) 「帰去来」
・当掲示板でも、話題になっている光文社文庫ミステリー傑作選『十三角関係』の二刷りで、「帰去来殺人事件」が削除されている件で、光文社文庫編集部に手紙を出したら、ほとんど時間を置かず、編集部の方からメールで返信があった。(もし返信をいただける場合は、メールでくださいと書いておいた。)
・趣旨は、
○解題担当の日下三蔵氏と何度も話し合い、一刷り型に戻すことになった。
○既に、2刷り、3刷りが各3千部出ているが、読者の希望があれば取り替えることを考えている。
○内部チェックセクションがあるが、外圧も来ていないときに自己規制してしまったこと、恥じ入る。
 といったところ。編集の方の誠意が伝わってくるような文面でした。
・3刷りも、もう出ているとは知らなかったが、とりあえず、ほっとした。



2001.12.27(木) 歳末密告
・この期に及んで、飲み会が3日続くと、寄る年波には勝てない。ある店で、席についた店の娘と話していたら、その娘の父が同じ小学校の同期と知る。そんな莫迦な。みるみる白髪三千丈。俺は、君のお父さんと、手稲神社のお祭りで相撲をとったんだよ。
・間を縫って、親戚の葬儀。葬儀委員長が、故人は「二人の奥さんを設け」といったので、あせる。慌てて、「二人のお子さん」と、言い直してました。
・何を考えたか、パラサイト・関つぁんから、クリスマスカードが来る。珍しく癒し系の内容でありました。
・光文社文庫『十三角関係』から「帰去来殺人事件」が削除された件に関し、光文社に手紙を出してみる。
・TACさんから、多量の密告をいただく。いつも、ありがとうこざいます。
 「最近めっきり密室系の更新がないので寂しいかぎりですが」すみません。。。
 以下、引用させていただきます。
筑波耕一郎 『空白の逆転殺人』     栄光出版社  
山村美紗    「京都小犬土鈴殺人事件」 (カッパノベルス「京人形殺人事件」に所収)        (作者の得意パターンの一つ、部屋の鍵を外部から室内に入れるパターン)
山田正紀   『女囮捜査官5 味覚』   幻冬舎文庫
(被害者が、悲鳴を挙げたすぐ後に、絞殺死体として発見されるが、絞殺者は誰の眼にも止まらず、消えていた・・・。という消失ネタがあります。)
由良三郎   「勘違い」  (祥伝社文庫「殺人集中治療室」に所収)
 (「ミステリーを科学したら」中に述べている、医学的に正しい?青酸化合物の使い方を応用しています)
赤川次郎   「三毛猫ホームズのびっくり箱」 (角川文庫「三毛猫ホームズのびっくり箱」に所収)  (カーの某初期長編のトリックのパロディ?)
芦辺拓    『赤死病の館の殺人』 (カッパノベルス「赤死病の館の殺人」に所収)
法月倫太郎 「中国蝸牛の謎」   (講談社ノベルス「本格ミステリ01」に所収)
長谷川順子・田辺正幸 「暗号名 マトリューシュカ」
(光文社文庫「鮎川哲也監修 二階堂黎人編 新・本格推理01」に所収)
園田修一郎  「東京不思議DAY」
(光文社文庫「鮎川哲也監修 二階堂黎人編 新・本格推理01」に所収)
森村誠一   『黒魔術の女』 (角川文庫)
舞城王太郎  『煙か土か食い物』 (講談社ノベルス)
黒崎緑    「溺れる者久しからず」 (東京創元社「死人にグチなし」に所収)
 (1人の女性がプールに飛び込んだ後、プールからいつのまにか消えていた・・・。という消失ネタがあります。)


2001.12.24(月/祝)
・連休もいつも以上にあっという間にすぎ、正味72時間は、どこに消えたのか。脳幹の睡眠中枢が吸い取ってしまったのか。・恒例の「傑作ミステリーベスト10」を掲載している「週刊文春」。やっぱり「このミス」にも、「本格ミステリベスト10」にも、まったく登場しない、5位の「新本陣殺人事件」というのが、目立つよねえ。政宗九さんのところによると(12/21)、コメントしてるのは、弟子筋の人ばかりらしいけど、この話が本当なら、腹立たしい、というより、この抜け抜けとした感じは、なにやら可笑しくて仕方がない。この手があったか。密室物だろうし、ブックオフに転がってないか。・同じく、週刊文春「2001年さらば帰らぬ人よ」に山田風太郎の1p写真とコメントあり。
シンプル版リンク集をつくってみようかと思って着手するも、まだ全然仕掛り中。



2001.12.23(日) 『風々院風々風々居士』
茗荷丸さんの日記(12/22)によると、女子中学生の間で「ヤマフー」がブレイク。本当か。サイ君に話すと、何かの聞き間違いか、別な「ヤマフー」(同級生の山本文夫クンの略とか)としか考えられない、というのだが。昼休みの教室で、光文社文庫新刊奪い合いとか、「若菜ったら、クリスマスプレゼントにパパにおねだりして「忍法相伝73」の帯付きゲットしたってー」「えー、芳恵のところは、パパの会社が出入り業者にのオンデマンド印刷させて、『笑う肉仮面』を復刊させたしー」、「真希ったら、髭つきの頃の日下さんのプロマイドもってるのよー」「きい」とか、妄想は膨らんでいくのだが。あり得んか。
・サイ君のところにクリスマスブレゼントが届いて羨ましい。S山家から手作りベーコンとか、山美女からkashibaさんのところで知って面白かったという「刑事ぶたぶた」とか。俺の所には、なにもないぞ。
・そういえば、扶桑社文庫の戴きもの。ありがとうこざいます。昭和ミステリ秘宝時代編。半村良『どぶどろ』、戸板康二『小説江戸歌舞伎秘話』どちらも、面白そう。
『風々院風々風々居士 山田風太郎に聞く』(筑摩書房/01.11) 
 聞き手は、森まゆみ。「彷書月刊」、「東京人」、筑摩書房「明治小説全集」単行本版に収められた「自著を語る」の各インタヴューを収録。作者逝去による緊急出版の色合いが濃い。「彷書月刊」のロングインタヴューは、初読だが、風太郎自身にたしなめられたほど、逐語的なインタヴューになっており、会話の呼吸、息づかいのようなものが伝わってきて、読者も風太郎翁の闊達な座談に加わっているような気持ちになる。若いときの奥さんに似ているという森まゆみがインタヴューイに気に入られたのも大きいか。「明治小説舞台うら」の方は、風太郎氏の体調が思わしくなく、自作を語りたがらない、執筆当時の記憶が曖昧になっているせいもあって、聞き手の苦労が伝わってくる。体調のせいでインタヴューが終わるところは、痛々しい。晩年のインタヴューは、内容的なダブリが多いのは、いかんともしがたいか。
○密室系リスト
 『死の殻』追加。




2001.12.21(金) 『斧』
・「ジャーロ6月号」泡坂妻夫、乱歩邸の土蔵探訪記。乱歩が奇術和本の相当なコレクターだと初めて知る。乱歩邸で奇術に浸るミステリ作家、また良し。ついでに、今年、泡坂妻夫『大江戸奇術』(平凡新書)という本が出ているのを知る。野村宏平「ミステリーファンのための古書店ガイド(関西編)」前回に引き続き、またしても、古本屋探訪熱を刺激する。古本屋それ自体が小説や映画などと同じ、、ひとつの作品であり、文化なのであるという主張は、目からウロコ。
・新刊チェックリスト『最上階の殺人』の満足度がC。一体誰の満足度なのだ。責任者出てこい。大体この作品の紹介に、「愉快」「痛快」という言葉が出てくるのに、なぜC?「佳品」「ホラーの秀作」「圧巻なのはその語り口」などと書かれる作品も、Cというのも意味不明。。帯をそのまま写したたようなものから、評者の個性を出した評まで、紹介レベルのバラ付きも差がありすぎる。
・『斧』 ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫/01.3('97)) ☆☆☆★
 カバー裏に曰く、「ハイスミスやトンプスンに比肩する戦慄のノワール」とあるが、ノワールという感じはしない。ウェストレイクらしい、ソフィストケートされたブラックコメディである。製紙会社の管理職だったエヴァリーがリストラされて2年。すぐに見つかると思った就職口には同じくリストラにあった専門職が殺到して自分の出番は廻ってこない。自分が再就職できないのは、あいつらのせいだとばかり、奇計を用いて求職者たちの履歴書を入手。自分の最大のライヴァルになりそうな6人の男を一人一人殺しはじめる。どうにも、日本の現状と重ねて、身につまされる話である。作中の登場人物がいうには、原始社会では赤ん坊を口減らしとして山に捨てる。昔のエスキモーは、もう世話を出来ない年寄りを氷の破片の上に乗せて殺す。「でも、これは精力の絶頂にある脂の乗りきった一番生産的な人間を捨てる初めての社会ですよ」。
 仕事に自信を持ち、幸せな家庭生活を送っていた典型的な中産階級が脱輪してしまうところから生じる落差が、主人公の確信犯的な殺人に伴う悲喜劇を誘発する。標的の6人の描き分け、工夫された殺しのシーン(戦慄のシーンも多い)、カウンセリングや家族の犯罪などのいかにもなネタや文明批評めいた軽口を配合して快調に展開する殺人劇は、読者の戦慄とサスペンスと微苦笑を約束する。




12月18日(木) 惜しみなく圭吉は奪う 
・「ジャーロ」購入
・(続きです)
 大阪圭吉のセンスの良さとは、何か。それは、戦前には稀な非凡な作品の論理性であったり、炭坑、海運、捕鯨などの、あるいは当時のプロレタリア文学の題材を思わせる舞台設定のリアリズムと本格の融合といったものが挙がるだろう。しかし、ここで書くのは、少し違うこと。
 「大百貨注文者」と「人間燈台」を続けて読むと、片やユーモア編、片や怪奇譚ともいうべき作品であるにもかかわらず、奇妙に共通の肌触りを感じる。発想の元が同じに感じるのだ。
 「大百貨注文者」は、一種の暗号ものなのだが、ここでは、社長宅に集う人間そのものが、暗号を表現する記号になっている。暗号作成者の頭の中では、ポマードの好男子もマネキン嬢も、名探偵役の大月弁護士さえも、その人間としての属性が捨象され、記号としてのみ自らの世界に奉仕する。それゆえ、事件の真相は、平面が突如として立体化したような驚きを伴うのだ。
 「人間燈台」も本質的には同じ発想に基づく。物語の前段で作者が主人公の息子政太郎に与えてきた、出来のいい、しっかりした孝行息子という人としての属性は、結末において根こそぎ剥ぎ取られる。政太郎は、命懸けの跳躍により、ただの「質量」に還元されてしまう。「人間燈台」になったことではなく、人間存在が質量にのみに還元されてしまうところに、驚きの感覚が発生する。ここで、試みられていることは、「人間椅子」「人間腸詰」といった、幻想や妖美の追及とは別のものである。あるいは、経文や算盤が暗号だった謎解きよりも、遥かに高い跳躍のように感じられる。
 この人=物の感覚は、どこかで聞きかじった−今では流行らないかもしれない−「デペイズマン」(転置)という言葉を思い出させる。本来は、「故郷から追放すること、本来あるべきところから別のところへ移すこと、それにより異和を生じさせること」の意で、シュルレアリストたちの制作を説明する概念のひとつである由。「本来あるべき場所から物やイメージを移し、別の場所に配置すること、そこから生じる驚異」の意で用いられ、有名な「ミシンとコウモリ傘との、解剖台のうえでの偶然の出会い」のように異質なもの相互の偶然の出会いをもたらす。偶然の出会いといえば、「雪解け」では冒頭から登場が予告され続けた意外なものが過去と現在を出逢わせる一種のタイムマシーンとして機能するし、「カンカン虫殺人事件」では、やはり予期せぬものが二つの死体を結びつけていた。これもデペイズマンの一種には違いない。法廷が別の何かに変貌してしまう「あやつり裁判」は、この端的な例かもしれない。
 が、もっと注目したいのは、「異質な出会い」よりも、その前段、「故郷から追放すること」の方、事物(「大百貨注文者」や「人間燈台」でいえば人間)のもつ属性の一点のみを残して、後はすべて剥奪をしてしまうことの苛酷なまでの大胆さである。理知と残酷さとユーモアが入り交じったような剥奪。圭吉ミステリの一種のセンスオブワンダーのある部分は、ここから派生している。大阪圭吉は、意図せずとも、このデペイズマンの技法の名手であったのだ。
 無論ミステリにおけるデペイズマンは、大阪圭吉の専売特許ではない。「赤毛連盟」で、読者が驚くのは、赤毛の男を募って百科事典の書き物をさせるという奇妙な行為が単に主人公の「空間移動」のためだけだったという、事柄の本質が剥奪されてしまう一点であり、一種のおかしみ、いわゆる「奇妙な味」もそこから発生してるのではないか。「犬が吼えなかった」ことが事件だというホームズのレトリックの面白さは、「犬の存在」という事柄の本質が素抜かれてしまうことの面白さではないか。「偶然の出逢い」を目的に自動書記を用いたシュルレアリストたちとその対極にあるような周到な構築に努める探偵作家が同じ効果を目指していたかもしれないと考えるのは、なにやら面白い。
 「予想もしない一点残し」は、大阪圭吉の他の作品にも共通する要素でもあったかもしれない。「とむらい機関車」では、「連続豚轢死事件」に犯人が要求したものは、ただ「事件」であることのみである。「三狂人」では、「脳味噌つめ替え」という狂気の犯行から狂気そのものが剥奪される。「抗鬼」の連続殺人事件の奧に露出するものは、まったく予期し得ないものであった。
 事物の意外な「一点」を何に絞り込むか、あるいは「一点」を何を隠すかは、論理ではなく、着想のセンス、想像の跳躍力の問題である。「人間燈台」の政太郎の如き、一度限りの果断なる跳躍、それを支える周到な構築力こそが、大阪圭吉のミステリ作家としての優れた資質なのである。
 大阪圭吉は、停車場が、中でも上野駅が好きだったという。(「停車場狂い」)日がな停車場で旅の途上にある雑踏する人々を眺め、移動する列車の屋根に季節外れの雪に亢奮する青年の眼差しは、「故郷から追放すること、本来あるべきところから別のところへ移すこと」に長けていた作家にふさわしいといえないか。



12月17日(月) 『とむらい機関車』『銀座幽霊』から
・リンクしただけではなんなので、近所の古本屋に会ったあすなひろし『サマーフィールド』(サンコミックス)を買ってみる。1000円也。隣りにあったのは、2000円。安いのか高いのか。全編外国を舞台にしたの少女マンガ短編集だが、一目惚れから始まり、多くの場合は決定的な別離で終わる。季節の移ろいの中で綴られる悲愁の感情は胸を打つ。
・『とむらい機関車』『銀座幽霊』(創元推理文庫/01.10)から 
 既読の国書版『とむらい機関車』所収作品と「花束の虫」以外の4作品。
「カンカン虫殺人事件」 カンカン虫とは、造船所で修繕など行う労働者のことをそう呼ぶらしい。死体移動に工夫が見られる一編。青山喬介もスマートだ。
「雪解け」 北海道舞台に金鉱探しの男が起こした殺人を描く倒叙物。犯人の計略が瓦解する結末の連続する絵づくりが見事で、これくらいラストが決まった倒叙物も珍しいだろう。
「大百貨注文者」 社長からの奇妙な注文を受けて続々と家に集う商売人たち。軽妙なユーモア編ながらミステリの魂も注入されている。
「人間燈台」 嵐の夜、一人燈台の留守を守っていたはずの息子の姿は消え失せて。これまた、本格魂をもった怪奇編というか。
 大阪圭吉の作品は、センスがいいといわれる。(ex.「戦前の日本にこんなセンスのいい本格があるとは、奇跡です。」by法月綸太郎)現代感覚の持ち主であるとことは間違いないところだが、この大阪啓吉のセンスの良さの正体とは、一体何か。(続く)



12月16日(月) 『死の殻』
・以前、横溝本を分けて貰ったせいか、創元推理倶楽部秋田分科会から、「横溝本第4弾」のお知らせが来た。原稿締切が来年の6月ということなので、発刊はそれ以降になるのだろうが、また、超分厚いものになりそうだ。
『死の殻』 N・ブレイク(創元推理文庫/'01.10('36)) ☆☆☆☆ 
 噂に違わぬ出来のいいフーダニット。『野獣死すべし』以前の最重要作という評も十分頷ける。伝説的な飛行士で、今は、英国の片田舎に隠棲している、ファーガス・オブライエンの元に、殺害予告が届いた。復讐の日は、クリスマス。私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズは、一癖も二癖もある招待客の中で、護衛役を引き受けるが、雪の密室状況の中で犯人に出し抜かれてしまう。続けざまに、従僕が重傷を負い、容疑者と見込まれた人物も毒殺される。ナイジェルの推理は、ただ一人を指名するようだったが、それは、彼の感情とは真っ向対立するものだった。
 フーダニットの形式としては、珍しくない型かもしれないが、単線的に進めば失敗しそうな題材を、性格分析を基軸にして、ミスリードや細かなアイデアを積み上げ肉付けし、終章で悲劇的な復讐劇の顛末を浮上させる作者の手並みは鮮やか。全体に漂う何かしっくりこない感じは、終章ですべて解消させられ、文学的暗喩が荘重なオーケストレーションの厚みをさらに増している。この作品におけるナイジェルという探偵役の「存在の意味」も、かなり先鋭的なものだろう。作者の故郷であるアイルランドも重要な役割を果たしており、その意味でも、興味深い。



12月15日(土) 『サムスン島の犯罪』
・『本の雑誌』1月号、ユリイカ増刊『総力特集 ジェイムズ・エルロイ』(昨年12月。買い逃し)、島田荘司責任編集『21世紀本格』(カッパノベルス)購入。
・『本の雑誌』の今号から、猟奇の鉄人の新連載発進。軽妙な文章でミステリ系古本のニッチを穿つ趣向。今回は、恐るべきポケミスの醜聞が明かされる。毎号楽しみだ。
『サムスン島の謎』 A・ガーヴ(HPB/'54) ☆☆☆ 
 連日の雪に取り囲まれていると、春・風光明媚・海上の島などという単語が、恋しくなる。本書は、そんな雪国読者の欲求不満を満たしてくれる風光明媚ミステリ。
 少壮歴史学者のジョン・レイヴァレイは、春の休暇を利用して、趣味の遺跡発掘を行うために、イギリスの観光地シリイ諸島に向かう。諸島は、歴史始まって以来という所得税問題に揺れ、イギリス本土からは、大勢の新聞記者が取材に来ていたが、その中に若く美しい人妻オリヴィアが混じっていた。ふとした偶然により、レイヴァレイとオリヴィアは、無人島で一夜を明かすことになる。新聞記者であるオリヴィアの夫が、二人にあらぬ疑いをかけ、殴りかかった際に、崖から転落。レイヴァレイは、殺人容疑をかけられしまうのだが…。という粗筋を書くと、結末まで一直線に見えてきそうだが、レイヴァレイの友人が繰り出す推理により、事件の様相は一変。レイヴァレイは、ガーヴお得意の決定不能のサスペンスに身悶えることになる。砂州や洞窟など舞台となった地域の特徴的な自然を事件にうまく絡めているのが、いかにもガーヴらしい。表面は雪山、内面は活火山だったか、ヒッチコック好みのクールビューティ、オリヴィアの肖像もグッド。後味爽やかな佳作だ。 



12月13日(木) 
・昨日まで、3日続けての大雪になってしまった。千歳空港は、2日続けて徹夜組が出たとか。
・アクセス解析をみてると、なかなか面白い。「栗良平」「の検索から、パラサイト・関のコーナーに飛んできた人がいる。「トルコ風呂/スレイ」の検索から飛んできた来た人も。飛んできた人は、がっくり来ただろうな。
・「このミス」購入。霞流一『スティームタイガーの死走』が4位!、山田風太郎『天狗岬殺人事件』が7位!、『忍法創世期』が20位。どうだ、わしのいったとおりだろう。(いってない、いってない)快挙です。「追悼 山田風太郎」で6p。山田正紀の文が激越です。よく言ったともいえる。
・バカミスコーナーでも「山田風太郎センセー昇天カーニヴァル」2p。
・喜国雅彦『古本探偵の冒険』(双葉社)。大手の書店でみつからない。群馬に入っていて、札幌に入っていないわけはない(失礼)と思って、レジで訊いてみる。検索をかけてみると、入荷しているようなのだが、お姉さんが2人がかりで書棚を探しているが、見つからない。そのエッセイコーナーは、もう探したよ。結局随分、時間がかかってアサッテの方角からもってくる。まだ書棚に並べてなかったとのこと。この装幀では、並んでいても、そうと気づかなかったかもしれない。戦前の翻訳探偵小説のような堅牢な箱入り。装幀も雰囲気出しまくり。検印あり。これで、T蔵書印が押してあれば、なお吉だったか。




12月10日(月) もう一人の来訪者
・大雪。太郎の家にどっとこむ。
・日曜日、プロバイダーから、ホームページ・アクセス分析サービスを月150円で始めたというメールをもらって、面白そうなので、やってみる。なるほど。実訪問人員や、どのリンクから辿ってきている人か多いのかわかって、なかなか面白い。想像どおり「ミステリ系更新されてますリンク」からのアクセスが大半だったのだが、kashibaさんのリンク集から6、フクさん、黒白さんのリンク集からそれぞれ3のアクセスがあってちょっと驚く。これ1日だけの傾向かもしれないが、リンク集から実際に飛ぶ人は、あんまりいないと思っていたのだが。強力なリンクに入れていただいて、ありがとうこざいます。YAHOOから12もあったのにも、やや驚く。
・というわけで、ちょっと無理目に更新をしています。
・彷書月刊12月号掲載の古本小説大賞の特別奨励賞受賞作、恩田雅和「来訪者の足あと」が、そのタイトルのとおり、前にWat's Newで取り上げた永井荷風「来訪者」の平井呈一と並ぶもう一人のモデル、猪場毅を扱っている。ラジオ局勤務の「私」は、新聞で、かつて一度だけ会ったことのある、教育長・山村の死を知る。私は、かつて、勤務地の歴史研究サークルで、戦前に「南紀芸術」なる豪華な執筆陣の同人誌があったことを知り、その編集人「猪場毅」が荷風の弟子であったことにも興味をもった。私は、猪場の消息をよく知っているという山村を尋ねる。山村は、学生時代に東京で晩年の猪場に世話になっていたのだ。私は、「断腸亭日乗」と「来訪者」を読み、熱にうかされたように猪場のことを調べ廻るが、いつしか20年の時が経ち、ほぼすべてを忘れかけていた頃、山村の「猪場毅異聞」なるエッセイを目にして、20年の無音を詫びた矢先の急死であった。私は、山村の死の真相を知り、後悔の念に囚われる。といったあら筋。おそらく猪場毅に関する部分は、ほぼ実話なのだろう。文字通り「異聞」であって、なんらかの真実が明らかになるというものでないところは、小説の読み方としては、邪道かもしれないが、やや残念。「来訪者」のモデル問題に関しては、「自分のことを二人に分けて書いている」という 、猪場のセリフが出てくるのが気になった。




12月8日(土)
・「本格ミステリベスト10」(原書房)購入。もうこんな季節か。今年は、例年にもまして、並んでいるタイトルと、距離感が遠い。後半は、出ている本のタイトルも押さえられなくなってきたもんなあ。嵐山薫さん、市川尚吾さん、INOさん、大矢博子さん、片桐裕恵さん、ともさん、フクさん、政宗九さん、松本楽志さん・・ネットの新刊読みが大挙登場。読んでない常連より、読んでる新参。絶対これ、これ。霞流一氏は、専業になったんですね。
・併せて「絶対ミステリーが好き!」(ぶんか社)購入。若年層の本格ミステリ好き向けムックだが、14pの山風追悼特集がある。貫井徳郎エッセイに石井女王が登場している。
・巨大掲示板プロレスコーナーでも話題になっている、ミスター高橋『流血の魔術、最強の演技』(講談社)読了。副題は、「すべてのプロレスはショーである」一般人は、そんなこと当たり前だろう、といかもしれないが、これまで決定的証拠が出てこなかっただけに、新日本プロレスで2万試合を裁いた元レフリーの著書となると重たいよなあ。プロレスの試合の結末は、すべて決まっているというシュート活字派なるものが出てきて数年、ネットでもケツ決め前提のプロレス観が当たり前のようになってきたところへ、アメプロの後を追うようなカミングアウト。この本に関するプロレスファンの感想など読んでいるとフィクションとは何か、という気になってくる。プロレスはどこへ向かうのか。



12月5日(水) あすなひろし 
あなたは、あすなひろしという漫画家を知っているか。「彼の真価が世間に知られていない。それは僕にとって地を転げ回りたいほどの悔しさだ。」と、みなもと太郎にいわしめ、アシスタントだった高信太郎が「1枚ごとに命を削って描いていた」という、プロが尊敬する伝説の漫画家。今年の3月に 60歳で亡くなったこの漫画家の信じられない程美しい、初期の珠玉の作品は、まだどれひとつ、単行本化されていない、という。この漫画家の遺族の了解を得た公式追悼サイトが、ここだ。追悼サイトという位置付けに加えて、原画・掲載誌等の発掘呼びかけと所有者との連絡、情報収集などをもうひとつの目的として進めていくという。掲示板も完備。さあ、あなたも、この伝説の漫画家のプロフィールに触れてみよう。
 と、実は、私、この漫画家はほとんど知らないのだ。大プッシュするのは、後輩にして当掲示板でおなじみ下北沢の隙間ネットウォッチャー、たかはし@梅丘が建てたサイトからなのである。まあ、覗いてやってくださいまし。掲示板業務も、いそいそと、こなしてますな。
・掲示板といえば、昨日の末永さんの書込みで気が付いた次第なのだが、昨日で、掲示板設置1周年なのですね。今日までの書込数をざっと数えてみたら、1033。1000書込みは、誰だったんでしょう。スレッド形式なので、まとめレスがつけられないせいもあるが、「あなたまリンク」にもないのに、大勢遊びにきていただき、ありがとうございます。今後とも、ご贔屓に。当初は、スレッド形式での使用など思いもよらなかったものな。テルミン関係が2割を超えているというのが凄い。
・金、土に買った本でも、書いておこう。
 金 HMM1月号、野崎六助『これがミステリガイドだ!」(創元ライブラリ)、「ミステリ・データブック」(ハヤカワミステリ文庫/半分以上がミステリ文庫の目録という、恐るべき本。創元のやつなら喜んで買うのだが)
 土 「ユリイカ」「ミュージックマガジン」「彷書月刊」(末永さんのエッセイは、戦後初の発禁本を扱い
、その意外な影響について考察している)、「「新趣味」傑作選」(光文社文庫)、ウールリッチ「マンハッタン・ラブソング」(新樹社)、芦辺拓「グラン・ギニョール城」(原書房)、西村京太郎「焦げた密室」(幻冬舎/幻の処女作)、イアン・ワトスン「オルガスマシン」(コアマガジン/内容の過激さゆえに、英語圏では発売未定のサイバー・ポルノ?)、瀬戸川猛資「シネマ免許皆伝」「シネマ古今集」(新書館)。本買いで癒されるか。