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4月3日  『発酵人間』(承前)
・落穂舎から目録。少年探偵物が結構載っている。今度おみせします。おげまるさん。
・e-book offHPのファンサイトリンクで当サイトをリンクしたとの連絡がある。ブックオフのネット販売版なのだが、山田風太郎で検索してみても、まだ15冊しか出てこない。日影丈吉は、ゼロ。まだ、これからですな。
・「発酵人間」続き。
●魔五郎氏東京に現る  東京CBSテレビの番組「恐怖の一夜」の「東京モルグ街の戦慄!」というタイトルの回に突如登場した発酵人間は、女優を絞殺。(ご丁寧に「九鬼魔五郎氏、東京に現わる!」と書いた巻紙をカメラに向かって垂らさなくてもいいのに)30分足らずの間に4人の男女を殺戮。さらには、アドバルーンに死体をくくりつけた破天荒な殺人を決行、都民を恐怖のどん底にたたき込む。
●魔五郎氏銀幕を行く  かつて、女優の妻に対する殺人未遂を犯し、今ではすっかり落魄した男優のところへ現れた発酵人間。男優に変わって復讐を遂げてやるというのだが。「人を憎むことだけに人生を送っている僕も、決して幸福な男ではない」と殊勝に漏らす人情家の発酵人間、人助けの巻。関係者に送りつけられる「人間醤油」というのが凄い。
●贋物  早くもネタづまりなのか、アニメシリーズによく出てくるような「贋物」編。発酵人間を名乗る連続殺人犯は、果たして本物なのか。ラストで絶対絶命の発酵人間は、空中に身を躍らせるが、ゴム風船のごとくふわふわと空中を泳いでいく。膨張係数の増加に比例して浮力が増大するので、発酵人間は空を飛べるらしい。
●魔五郎は俺だ! 内側から鍵が差し込んでいる部屋で母親と嬰児の死体が発見される。しかし、発見者の男が再度他の人間と連れだって部屋を訪ねると、鍵のかかった部屋から嬰児の死体は消失していた。この事件と発酵人間はどう関わっているのか。これ以上ないというアンフェアの書き方であり、密室トリック?もしょぼすぎるけれど、一応のミステリ編。途中、発酵人間が医者を訪れ、最近、身体に二つ別れて、別れた一方がヒューマンな行動をとるので困ると訴える辺りを読むと、頭のねじが2、3本飛びそうになる。
●貴様を殺す 謎の広告を見て指定の場所に呼び出された男が殺される。男は、魔五郎の先代を殺した関係者らしい。魔五郎を追う記者は、地下水道でとんでもない死体に遭遇する。記者達が唖然とするグロなフィナーレ。
 全編通して読んでも、なぜ復讐鬼の体が発酵体質になったのか、今一つ明らかならないし、この特異体質が物語にあまり生きてない。発酵人間の性格のブレは大きく、殺人の動機も一定しない。重要な役割を果たしそうな脇役は、どこかに置き忘れられる。後半は、発酵人間の仕業と見えて実は、というパターンが固定する。しかし、全編に漂うこの巧まざる、とほほ感は捨てがたい。底抜けジャンルミックスホラーとして、ごく一部の好事家のみにお薦めしたい怪作である。☆★
●リスト追加
 上記を追加


4月1日(日) 『発酵人間』
・昨日(31日)日に、7万アクセスに達しました。ありがとうこざいます。
・書き漏らしていましたが、MYSCON2への参加申込みが受け付けられました。参加される方は、よろしくお願いします。
・『発酵人間』 栗田信 ('58.10 雄文社) 図書館
 彩古さんの「古書の臍」の予告編で、名前を知るまで、この作者の名前は、聴いたことがなかった。「発酵人間」は、その筋では有名な作品らしい。おげまるさんに聴いたところでは、「BOOK MAN」のSF珍本特集で、有名になったのでは、とのこと。
 背表紙には、「新作長編怪奇小説」とある。カバーが凄い。顔が溶けだし、蝋のようなものが満面からしたたっている男。これが、「発酵人間」だ。
 そも、発酵人間とは何か。作者の説明を聞こう。
 「だが、私は知っている。九鬼魔五郎氏こそ、世にも恐るべき発酵人間であることを。勃然と体中に悪の華が発酵したとき、彼は稀代の殺戮魔と化す。海の彼方の人達は、彼のことを、復讐鬼ヨーグルトマンと呼んでいる」
 ううむ。ヨーグルトマン。アンパンマンの友達みたいな名前ではないか。
 以下、一話完結の連作形式のこの小説の章題に沿って。
●九鬼魔五郎氏の誕生 
 夜の勤行にいそしむ坊主が木魚をポクポク叩きながら、
「この世をはなれた坊主でさえも、へへ、木魚の割目で思い出すウ」
などと唱えていると、そこへ死体を抱えたせむし男の怪しい影。死体は、一週間前に不可解な死を遂げた九鬼魔五郎のものだった。魔五郎は、ヨギの行により、甦りを果たすのだが、この蘇生には深い因縁があった。
 大正大震災の翌年、山陰の山里では、山を挟んだ隣村と県道の誘致をめぐって激しい争奪戦を展開していた。しかし、誘致に積極的だった魔五郎の先代が没すると、急速に流れは傾き、県道は、隣村に敷設されることになる。その後、隣村はめざましく発展。電灯はつき、製材所も出来、生魚も食えるようになった。一方、誘致合戦に敗れた山里は寂れる一方で、隣村から「阿呆部落」などと呼ばれる屈辱を味わうことになる。実は、先代は、隣村の一派に謀殺されたことが判明し、魔五郎の憤怒は、彼を恐るべき復讐鬼、発酵人間に代える。
 甦った魔五郎は、父の謀殺者の一味を次々と血祭りにあげ、ていき、マスコミは熱狂するが、その行方は杳として知れず。
 そんなある日、東京の編集者の元に一通の手紙が届く。
「発酵人間東京に現る」
 (以下、次号ということで。後半に、密室犯罪も出てまいります。)



3月30日(金) 仰天!「ポップ1275の謎」小説
・送別会やら年度末業務も小休止で、やれやれ。HMM5月号を買って帰り、パラパラめくっているといやはや驚いた。
・昨年、拙サイトでも盛り上がった「ポップ1275」の謎そのものを題材にした長編小説がフランスで最近出版されたというのだ。これには、ガリマール社にまで問い合わせのメールを出した、マーヴ湊さんも仰天だろう。Round about Mystery●洋書案内(106p)のコーナーで、平岡敬氏が紹介されている。詳しくは、そちらを参照にしていただきたいのだが、パリの古本屋経営者ゴンドルのもとに、セリ・ノワールの創刊者であるデュアメルが訳した「ポップ1280」の仏訳題が「ポップ1275」になっている謎を探って欲しいという依頼が舞い込むという、とんでもない発端。調査を進めたゴンドルは、仏訳では、原作から2頁分が削除されていることを発見。削除された部分に描かれている人物は3人なので、残る2人を求めてゴンドルは、アメリカへ飛ぶ。という一種のメタフィクション的小説らしい。フランスにおけるトンプスン人気を改めて感じるとともに、小説から小説をつくるという手法が、このようなトリビアルな問題からも可能ということに驚かされる。むしろ、ポップ1275問題というのは、些細な問題ではなく、「ポップ1280」という小説の本質にまつわる結構奧深い問題なのかもしれない。考えてみれば、「ポップ1275」問題は、フランスの読者が一番不思議に思うはず、か。
・同レヴューには、「ポップ1275の謎」に関する平岡氏自身の考えも記されていて、これは、「黒人に魂はない」説。杉江氏の説と同じですね。「デュアメル流の手の込んだジョークではないか」と結んでいる。
・拙サイトの「ポップ1275の謎」関係部分を別ファイルにまとめてみたので、興味のある方は記憶を新たにしてみてください。



3月26日(火) 山田風太郎全集月報
・年度末で、さすがにドタバタ、ジタバタ。
・たかはし@梅ケ丘に「ミスター・テルミン」収録のスチュアート/ガスキン”Big Idea”を送ってもらう。ありがとうこざいます。ところが、コンポのCD挿入口がひっかかって開かない、パソコンのCDドライブでうまく認識されない、ということで、まだ聞けておりませぬ。
・笠井潔『ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?』(早川書房)購入。レジで2730円とかいわれて、びっくり。店を出てからカバーを剥がしてみたら、確かに2600円プラス税。本屋が1000円間違えたのかと思った。評論本ゆえ高いのか。
・最近、病棟に通っているサイ君から聴いた話。入院患者で、ほとんど口も聞けなかったおばあさんがいるのだが、病状が好転してきたのか、最近、どんどん話せるようになってきた。ただ、意識が混濁しているのか、呆けが入っているのか、話すことにトンチンカンな内容が多い。看護婦が話かける。
「○○さん、年はいくつ?」
「21歳」とおばあさん。
「へえー、○○さんって、私より若いんだ。じゃー、これからお嫁にいくんだね−」
そこに居た医者。「○○さんは、88歳でしょ。カルテにそう書いてある」
 21歳から88歳へウルトラスキップさせられた患者の心情いかばかりか。
・山田風太郎全集(講談社)に付いていた月報のことを少し。他作家によるエッセイ、高木彬光による連載エッセイ「風を視る」、山風連載エッセイ「風眼帖」というのが貴本フォーマット。
第1巻の月報エッセイは、「天才「風さん」」角田喜久雄。風太郎の二面性として、エビソードを幾つか披露。一緒に南紀に旅したとき、8ミリカメラを持参した山風は、カメラが故障したのに腹を立て、フィルムをひっぽりだし、部屋中をフィルムだらけにしてしまった。忍法帖全集が売れて、多額の借金を申し込んできたさる人が、山風に金を借りた後、「○○忍法帖」という本を出し、山風は憤激。ワンテンポ遅れて怒る姿になんともいえない親愛の情を感じる。忍法帖が売れ始めたとき、山風は、「10編は書きたい、10編書いたらやめる」といっていた。正直、10編は難しいのではと思っていたのだが、今では何十編になったことか。さすがに天才である。
第2巻は「風山人断想」中島河太郎。毎年7月には、桜ケ丘の坂を登って、風太郎宅を尋ねる。本人は、寝そべってばかりいたい口振りだが、海外旅行に日記を瞥見しても、毎日の献立や物の値段など好奇心の旺盛さ観察力には驚く。小説の影に隠れているが、随筆のファンである。巧まずして、勘所を押さえたものが多い。
・羊頭狗肉となってしまったが、以下続く。



3月23日(土) 『推理SFドラマの六○年』
・パラサイト・関更新。
・強烈な二日酔いで生きる屍状態。『コールサイン殺人事件』の前捌きとして、上野友夫『推理SFドラマの六○年』('86.1/六興出版社)を読んでみる。
・著者は、永年NHKラジオのディレクターを務めた人で、この本を上梓したときの肩書きは、NHKドラマ部チーフディレクター。川野京輔名義で、ミステリー他の著作も結構ある。一応、日本のラジオ放送が始まった1925年以来のラジオ・テレビの推理・SFドラマの歴史を扱っているが、NHK入社以来の現場ディレクターとしての体験史に重点が置かれている。宝石作家でもあった著者は、推理SFドラマの普及に情熱を燃やし、広島地方局の振り出しから幾多のラジオドラマを制作。テレビに娯楽の王座を奪われてからも、ラジオドラマに賭け続けてきた。松江放送局で巨大くらげ扱った矢野徹原作の「くらげ」を放送して、オーソン・ウェルズ「火星への侵入」事件のミニ版のような騒動を起こした話など、ドラマ制作にまつわる裏話が面白い。交遊のある作家も多彩で、ちょっとした戦後推理文壇裏面史のようにも、読むことができる。本多喜久夫(輪堂寺耀)との交遊もあって、出版企画の売り込みなどを依頼していたらしい。「推理作家が出来るまで」にも、登場してくるこの人物を「正直いって昔の大陸浪人、特務機関の工作員といった感じの怪人物」などと書いており、本題から外れ るものの、興味を引いた。著者には、「回想」という過去のエッセイを再録した私家版もあって、偶々古本屋で見つけて、読んだことがあるのだが、こちらの方も本書と重複する部分があるものの、なかなか興味深かった。
 中に昭和38年8月10日「テレビ指定席」で、山田風太郎「第三の裁き」が放送されている、とある。(脚本田村幸二、出演花沢徳衛、小林千登勢ほか)。この原作は、なんだろう。昭和32年にスタートしてたラジオドラマの長寿番組「日曜名作座」(森繁久弥、加藤道子の二人だけ出演)で、昭52年「幻燈辻馬車」、53年「警視庁草紙」、55年「地の果ての獄」がラジオドラマ化されているそうだ。




3月21日(木) 妖異金瓶梅ヴァリアント
・山風の傑作『妖異金瓶梅』譚に「人魚燈籠」というヴァリアントがあったというおげまるさんの大発見のお裾分けを味わってみる。
・まず、すっかり細部を忘れてしまっている「妖異金瓶梅」の一編「邪淫の烙印」を読んでみる。こんな話。
 西門慶が乳風呂に入って婦人連に体をなめさせるという、相変わらずの恥戯にふけっているところへ、応伯爵がふらりとやってくる。応伯爵の目を引いたのは、最近、西門家に逗留している大食(タージ)の国(現アラビア)の元王妃ゾオラ姫。金髪碧眼で雪のような肌をもつこの異国の王妃に、西門慶は、最近夢中になっており、夫人連は、面白くなく、姫君が西門慶に献上した末羅真珠の一個が紛失するという不穏な事件も発生している。そこへ王妃と行動を共にしているアル・ムタッツという異教(キリスト教)の僧が登場し、ゾオラ姫の姿を目にして、姫を強くなじる。ゾオラ姫の母は、姦通の罪により、天帝エホバの神の逆鱗に触れ、体に十字架の烙印が浮き出すという罰を受けている。姫もこれ以上淫靡の風に吹かれると、母親の二の舞になる、と。ムタッツは催眠術を用い、再び二人で伝導の姫の旅に出ることを承諾させるが、別れの宴の席上、末羅真珠が一瞬の暗黒の中で消え失せてしまう。西門慶は、夫人たちの検査を行うが真珠はどこからも出てこない。ゾオラ姫は、暗黒に慣れるためにずっと目をつぶっていた夫人(憑金宝)が怪しいと指摘し、憑金宝は自らの盗癖を告白するが、半ば は金蓮に示唆されたものだという。魔僧ムタッツは、罪悪を浄めると称して、熱した十字架を憑金宝の肌に当て、「邪淫の烙印」を押す。ところが、気分が悪くなって別室で休んでいたはずのゾアラ姫の背中にも同じ「邪淫の烙印」が生じていた。焼け跡をつくめような器具をもって部屋に出入りすることはまったく不可能だったばずなのに・・。ゾアラ姫の「邪淫の烙印」はやはり天帝の怒りに所産なのか。
 ストーリーが面白いので、長くなってしまった。
 で、「人魚燈籠」の方は、こんな話。
  西門慶が乳風呂に入って婦人連に体をなめさせるという、相変わらずの恥戯にふけっているところへ、応伯爵がふらりとやってくる。西門家では、最近贈られた天竺渡来の真珠2個のうち、1個が紛失するという事件が起こっており、西門慶は、夫人たちのいずれかが犯人だと睨んでいる。真珠の大きさを尋ねる応伯爵に対し、西門慶は、最近寵愛している夫人葛翠塀の美しい歯を見せ、その美貌を自慢する。夫人たちを交えた大真珠の鑑賞会の席で、一瞬の暗黒の中で消え失せてしまう。西門慶は、夫人たちの検査を行うが真珠はどこからも出てこない。応伯爵は、暗黒に慣れるために、ずっと目をつぶっていた夫人(葛翠塀)が怪しいと指摘し、葛翠塀は自らの犯行であることを告白するが、半ばは金蓮に示唆されたものだという。金蓮によれば、翠塀は、手代の股天錫といい仲になっており、駆落ちの費用を捻出するために、盗みを重ねていたらしい。西門慶の逆鱗に触れた翠塀と股天錫は、翠塀に釣り糸につながった釣り針を呑ませるという残酷な仕置きをした上で、二人を一巻に縛り、空井戸に吊す。金蓮は、翠塀の胃にひっかかった釣り針を抜き、二人を井戸から救出してみせるというのだが・ ・。
  冒頭のエピソードや真珠の盗難事件とその解明、盗難事件に金蓮が一枚加わっている点は、共通するのだが、本題ともいえる部分は、まったくの別物。「人魚燈籠」の方は、若干狙いがストレートすぎるきらいがあるのだが、「邪淫の烙印」は、真珠事件にも「将を射んとすれば」式のひねりを加えており、加えて中国を舞台にしたアラビアの切支丹登場という奇想や、神秘的な奇跡とその合理的解明、幻想的な結末を付加するなど、より巧緻なつくりになっている。「人魚燈籠」の出来に不満をもった作者が前半部分の真珠事件のエピソードだけを採用し、人物と後半部をまったく作り直してしまったという印象。「人魚燈籠」をジャンピングボードに、「邪淫の烙印」で高く飛んだ、とこんな感じを受ける。といって、「人魚燈籠」の出来はさほど不出来というわけではなく、後半部での奸計は、かなり強烈である。このまま捨ててしまうのには、惜しい話なのだが。あるいは、どこかで使われているのだろうか。山風拾遺集のような機会があれば、是非単行本化してほしい作品だ。
  二作の発表は、
○「人魚燈籠」 読物娯楽版 昭和30年4月号
○「邪淫の烙印」読切小説集 昭和31年5月号 
 「人魚〜」は、従来の書誌では、昭和29年に8作書かれた妖異金瓶梅シリーズが、昭和31年の「邪淫の烙印」で復帰するまで、空白となっていた昭和30年の作品であり、妖異金瓶梅の前半部と後半部をつなぐミッシング・リンク的な作品としても、おげまるさんの発見は貴重だろう。
 「人魚〜」で、応伯爵が西門慶に結婚話をもちかけるだけの金持ちの未亡人憑金宝が「邪淫〜」では主要登場人物となっている点や、「人魚〜」の主要人物、葛翠塀が「黒い乳房」(昭和32年)に(おそらくは)別人として登場している当たりも見逃せない。つぶさに見ていくと、色々な発見も出てくるかも知れない。完結まで、5年半を要した「妖異金瓶梅」の成立には、なかなか一筋縄でいかないところがあるように思う。



3月20日(火・祝) 
・MYSCONの日程が決まった模様ですね。
・『ジャーロ3』購入。山前氏のチェックリストで小倉餡を取り上げている。結構、好意的である。
・ようっぴさんからの「密告」。芦辺拓の<自治警モノ>の短編集『死体の冷めないうちに』収録「最もアンフェアな密室」、『推理短編六佳撰』(北村薫・宮部みゆき選、創元推理文庫)収録の那伽井聖「憧れの少年探偵団」を教えてもらいました。後者は、読んでるんだけどなあ(お約束)、本が出てこない(さらに)。ありがとうございました。
●リスト追加
芦辺拓「密室の鬼」、「フレンチ警部と雷鳴の城」、二階堂黎人「最高にして最良の密室」(「フレンチ〜」と「最高に〜」は関さんより)、柴田よしき『消える密室の殺人』
芦辺拓「疾駆するジョーカー」、太田忠司「罪なき人々vsウルトラマン」、折原一「本陣殺人計画」、霧舎巧「まだらの紐、再び」、鯨統一郎「閉じた空」、谺健二「五匹の猫」、二階堂黎人「泥具根博士の悪夢」、高木彬光「クレタ島の花嫁」(『密室殺人大百科(上) 魔を呼ぶ密室』より)
愛川晶「死への密室」、歌野晶午「夏の雪、冬のサンバ」、霞流一「らくだ殺人事件」、斉藤肇「答えのない密室」、柴田よしき「正太郎と田舎の事件」、柄刀一「時の結ぶ密室」、西澤保彦「チープ・トリック」((『密室殺人大百科(下) 時の呼ぶ密室』より)



3月18日(日) 『テルミン』
・アンダースン『ゴダールの冒険』、ボルヘス+カサーレス『ブストス=ドメックのクロニクル』(国書刊行会)購入。
・今年に入って初めて、道立図書館に行く。相変わらず、おげまるさんが、雑誌や少年物の単行本を拡げて調査に精励されている。
 妖異金瓶梅のヴァリアント「人魚燈籠」と、意外になかなか見つからなかった『長安日記』をいただき、ホクホク。帰りは、駅地下で、『「猟奇」傑作選』の過激なエッセイ話など、最近の話題あれこれ。また痛飲となる。
・帰ったら、サイ君の眼が腫れている。飲んで帰ったのがそんなに悲しいのかと思ったら「白い影」の最終回を観て涙が止まらないという。なんじゃそれ。
・『テルミン』 竹内正実('00.8/岳陽舎)
 副題は、「エーテル音楽と20世紀ロシアを生きた男」。テルミンとは、人間が接触しないで手をかざすだけで演奏できる不思議な楽器。ムーグシンセサイザーなどの電子楽器の元祖でもある。ポップミュージックの世界では、ビーチボーイズの「グッド・バイブレーション」やジミー・ヘイジの演奏で著名で、ヒッチコック映画の「白い恐怖」でも、使用されているらしい。最近日本でも再び脚光を浴び、コーネリアスや高野寛のアルパムでも使われているとか。この不思議な楽器が誕生したのは、1920年。発明したのは、本書の主人公、ロシアの科学者レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン。それにしても、このテルミンという男、数奇というにも数奇すぎる一生を送っている。その一端を書くと、
○テルミン家は、1244年アルビジョア十字軍に根絶させられたフランスの異端カタリ派(笠井潔の小説に出てくるやつ)末裔で、その祖先は、秘密裏に砦の地下から脱出した4人の信徒のうちの1人であるという伝説が残っている。
○テルミンは、電子技術の研究の過程で、楽器テルミンを発明。その功績でクレムリンに呼ばれ、レーニンと拝謁。レーニン自身も、テルミンを演奏したという。その後、テレビジョンの開発システムにも参画。
○ヨーロッパのコンサートで大成功収めたテルミンは、1927年アメリカへ渡る。テルミンの普及が目的だったが、科学者としての知識を生かした諜報活動の義務も課されていた。
○テルミンのコンサートには、アメリカの著名人が押しかけ、アインシュタインらチャップリンとも交遊を結ぶ。
○テルミンは会社を興し巨万の富を得、黒人のダンサーと再婚するが、1938年マンハッタンから突如として姿を消す。彼は、ロシアに引き戻され、スターリンの大粛正により、シベリアで強制労働に従事させられていた。
○科学者のみの収容所「シャラーシカ」に移送されたテルミンは、ベリアの指示の下、スターリン周辺の盗聴活動などに従事。
○年老いてからは極貧層の住む地区の市営共同住宅に寝起きし、モスクワ大学の一助手として、不遇な晩年を送っていたが、西側の招聘により各地でのコンサートを行い、90歳を超えたテルミンは、伝説の人として歓呼をもって迎えられた。
 200頁弱と小粒な本ながら、この天才科学者の一生を追って、読者の想像力をかき立てる力のこもったノンフィクションである。 




3月16日(金) 『日本ミステリーの100年』
・人事異動の時期を迎え、送別会やらお祝い会やら。
・フクさんのアンチャで、当掲示板のおげまるさんの発見が取り上げられている。確かにうちの掲示板は、見ずらいですよね。ミステリ系でも、ツリー状のところは、ほとんどない。字も小さいしなあ。開いたらすぐ書込みが眼に飛び込んでくるのが理想なのでありますが。そのうち、ログは残る普通の掲示板に乗り換えたい気持ちもあるが、面倒くさがりだからいつになるか。閲覧される方、書き込まれる方にはご不便かけますが、当面お許しを。
・掲示板で、おげまるさんの少年探偵物書誌のためのメモの充実が凄い。黒白さんも登場、ありがとうこざいます。情報お持ちの方は、なにか書き込んでいただければ、深甚なり。しかし、このパーティ参加は、むちゃむちゃハードルが高いような。日曜日午後図書館に行ってみます。(おげまるさん向け私信)
・山前譲『日本ミステリーの100年』(光文社文庫知恵の森文庫)
 著者遠影写真の話はインプット済みだったのだが、実物を見てやはり驚いてしまう。ミステリー史の観点から、20世紀を1年ごとに眺めていくというアイデア賞物の企画。乱歩の登場が1923年だから、その前史が長いのもうれしい。つらつら眺めていくと、明治の探偵小説ブームから始まって、落ち込みの時期や多少の退潮期はあるものの、ミステリは一貫して娯楽小説の王道として栄続けてきたことがよくわかる。取り上げられた本は約1000冊、1年ごとの10作のセレクト(特に近年の作品)には、著者の主張も垣間見え、常套的ではないおすすめ本のガイドブックの役割も果たす必携の書である。年間回顧に輪堂寺耀「十二人の抹殺者」や高木彬光「ぼくのヨーロッパ飛びある記」やらレアなところが飛び出すのも罪つくり。
  ちょっと気づいた点、80p渡辺啓助「愛慾埃及学」は、国書刊行会『聖悪魔』には収録されておらず、152p丘美丈二郎「左門谷」は、159p宮原龍雄「ニッポン海鷹」は、それぞれ『妖異百物語第二夜』(出版芸術社)、『絢爛たる殺人』(光文社文庫)に収録されており、155p宮原龍雄「不知火」は、『絢爛たる殺人』には収録されていない。



3月14日(水) 「山田風太郎ミステリー傑作選」発進
・おーかわさんに教えてもらった本、どれも面白そうじゃないですか。これらも、かもなまいはうす、か。
・kashibaさんからの戴き物、川野京輔『コールサイン殺人事件』(廣済堂)届く。読みたかった本。ありがとうこざいます。
・帰途、光文社文庫目当てで本屋へダッシュ。なぜか「閉ざされた浴室の死」が目についてしまう。
・出たっ。山田風太郎ミステリー傑作選T『眼中の悪魔』(本格編)、U『十三角関係』(名探偵編)。肉厚で、背文字もでかい。以下続刊で、V夜より他に聴くものもなし(サスペンス編)、W棺の中の悦楽(悽愴編)、X戦艦陸奥(戦争編)、Y天国荘奇譚(ユーモア編)、Z男性周期律(セックス&ナンセンス編)、[怪談部屋(怪奇編)、\笑う肉仮面(少年編)、]達磨峠の事件(補遺編)となるらしい。
 山風傑作選とは銘打っても、出版芸術社のコレクションと併せれば、実質的にはミステリ関係の全集となりそうな勢いなので、是非、9巻(補遺)、10巻(少年編)まで、もって欲しいところ。相当の作品が廣済堂文庫等で復刊したので、セールス的にはきついかもしれないが。さらに望めば、常に光文社文庫棚の一郭を占め続けていってほしいのだけれど。
・併せて、『幻の探偵雑誌6「猟奇」傑作選』(解説・霞流一)、『新・本格推理01』(いずれも、光文社文庫)購入。
●密室リスト追加 
小倉餡『桂侯爵邸の事件』(悩んだが、一応、帯に密室と書かれているから入れておく。エイディの本でも、ガードナー「美人コンテストの女王」が密室物として宣伝されたけど密室物ではないとして、リストに載せられているから、これでいいのだ。いいのか)、千里眼猛『閉ざされた浴室の死』(おーかわさんより)



3月13日(火) 『閉ざされた浴室の死』
・レスが滞っていてすみません。掲示板で、おげまるさんの少年探偵小説単行本書誌のためのメモ続々増殖中。凄いです。
・K文庫から目録届く。
・さあて、在野密室系第2夜。おーかわさんの掲示板で、おーかわ、葉山両氏に、当掲示板で須川さんに感想を求められた問題の本。かつて、拙サイトでこんなに感想が期待された本があったであろうか。
『密室殺人 閉ざされた浴室の死』 千里眼猛
 巻末の著者プロフィールに、「昭和29年に現在の工作機械のベアリング3点支持なるシリンダーの減点を考案。同時に真空ベアリングも考案。これは現在リニア列車の原点となる。」とある。大宇宙の研究のみならず、フロッピー発明のドクター中松もびっくり、リニア列車の生みの親でもありましたか。
著作に「春髷ドン阻止」「マル秘 認可」「完全犯罪 閉ざされた浴室の死(B型)」などがあるという。
「閉ざされた浴室の死」は、もう一冊あるのか。果たして「B型」とは、なにか。疑問がむら雲のように沸いてくる。それにしても、「春髷ドン」のセンスは、凄い。全盛期の横尾忠則が、戦前の浅草レヴューをポスターにしたかのような、言語感覚だ。
 帯は「″浴室に横たわる全裸の若い女性の死体″敏腕エージェントは、執念の捜査によって、。密室殺人と中国系マフィアの陰謀を暴く」まるで、高木彬光プラス馳星周ではないか。
 主人公は、保険会社の調査員、石橋天馬。年齢30歳。天知茂に似ていると人にはいわれる。新婚の石橋は、目覚めると新妻に抱きつき「イヤン。駄目、駄目、水掛けるわよ」「駄目よ。天様。昨夜二つも召し上がったじゃありませんの」などといわれながら愛を交わして、出勤。横山ノックに似た部長に歯科医の娘の浴室での毒殺(尻に毒針が刺さっていた)の謎の究明を命じられ、同僚の谷山とともに捜査に乗り出す。
 この捜査の描写が実に独特。ほとんど改行なしで、延々と綴られる捜査行に、作者は筆を惜しまない。子供の作文というのは、「朝起きました。それから、顔を洗いました。それから・・」と続いていき、先生から「退屈な日常生活がよく描かれています」などと褒められたりするものだが、作者は、図らずも、この子供の作文戦略を採用し、心理描写、場面転換などを排除することで、捜査の退屈さを描出するのに成功している。
 調査は、なぜか被害者の父親の戸籍調べから開始されるのだが、住所探し、インタヴュー、戸籍や履歴の全文引用とパターンが何度も何度も、繰り返され、しかも、独自のセンスの閃く文章で綴られていくから、読者は、ついにほぼ同じ旋律が繰り返し演奏されるミニマル音楽を聞いているようなトリップ感覚にまでたどり着く。作者は、省略という技法も排除しているため、筋に関係のない、食堂のテレビに写った相撲の取組が1頁にわたって描写されたりする。調査における読者の唯一の息抜きは、これも省略されることのない昼飯や晩飯の描写で、二人は、ハンバーグ定食、牛丼、コーヒー4回、寿司、鮭弁当、ビーフ、ステーキ2回、ホットドック、焼魚、持参した弁当2回、うなきの蒲焼き、カツカレーなどを飲食し、その度に(おいしい)という感想を漏らす。
 調査ま進展により、歯科医の父親が被害者の娘に手を出したことが判明し、父親が入れ替わっている!のではないかというとんでもない疑惑をはらみつつ、天馬による密室トリック解明に至る。トリック自体は、ちょっと面白い機械的なものだが、ここでも作者のスーパーリアリズム精神が発揮され、2章にわたって、微に入り、細をうがった実験の描写が繰り返される。
 我々が普段読んでいる小説は、なせ小説足り得ているのかという重い命題を突きつけてくる問題作といえよう。☆なし。 
   ×  ×  ×  ×
 と、そこへ、おーかわさんから密告のメールが。無断引用失礼。
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おーかわ@BNB%密告者です、こんばんは。

「閉ざされた浴室の死」では失礼いたしました、さぞかしお楽しみいただけた(=_= のではないかと思いますが(本当にご購入されるなんて…申し訳ございませんです)、調子にのって、ここ数年の自費出版の密室らしきモノを。はたしてこの内容紹介を読まれて密林の王者成田さんが無事でいられるでしょうか。楽しみです。

トカゲ屋敷の怪事件(日本図書刊行会)
小エビのチリソース殺人事件(風媒社出版)
ふたりの鍵(新風舎)

普通の密告も。
「スクールウォーズ」の馬場信浩さんが数冊執筆されているミステリのうち、
蒼い鳩殺人事件(カッパノベルス)は密室が出てくるようです。

おまけとして、葉山さんと共に絶句したゲテモノを。つまらない、とかそういう次元ではありませんでした。
南部牛追節殺人事件(日本図書出版会)

以上です、局長〜
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・ふっふっふ。密林の王者、暁に死す。次の事件は、どっちだ。




3月10日(土) 『桂侯爵邸の事件』 
・昨日、bk1より注文の2冊の不在票が入っており、本日到着。同じ日発送なのに、別便として梱包されている。
・文春文庫より、ウェストレイク『斧』('97)が「パルプ・ノワール2001」第1回配本として出た。帯には、「『シンプル・プラン』『ポップ1280』に比すべき戦慄のノワール」とあり、木村仁良解説では、「しいて言えば、風刺小説かブラック・コメディ」とある。だいぶん、印象が違うのだが。
・掲示板で話題?の在野の密室物、二連戦。まずは、小倉餡に挑戦。
『桂侯爵邸の事件』 小倉餡(鳥影社/00.12) ☆
 鳥影社の小説本は、大きな本屋では、たまに見るのだが、作者は聞いたことのない人ばかりで、作品は得体が知れない。以前、何冊か書いている人の不可能犯罪作品らしきものもあったのだが、そのときは、スルーしてしまった。挟み込まれている出版案内にも、この手の小説作品は載っていないから、持込み原稿を本人負担で単行本化するようなシステムになっているのだろうか。
 本書の帯は、「上流社会に交錯する禁断の愛/雪の朝の美少女の死。ころがっていた毒杯の謎。憧球室は果たして密室だったのか?」、帯裏「昭和四年の秋。学習院時代の旧友の依頼を受け、ふたりの美貌の青年が怪事件の再調査に乗り出した」まあ、そんな話である。
 事件というのは、桂侯爵邸の離れの憧球室で、侯爵家のお嬢様付き女中が毒死したという事件。現場は、厳重に施錠されているが、地下道で本宅とつながっており、本宅の地下道の入り口には、「本宅側から」南京錠がかけられていた。侵入者は、外れている南京錠を外側からかければ、容易に現場を封鎖ができるので、現場は、密室めいてはいるが密室とはいえない状況だった。事件は、自殺事件として処理されるが、桂家の当代の侯爵は、結婚を間近に控えた財閥令嬢の願いを聞き入れ、旧友の帝大・慶大の二人の学生に事件の再調査を依頼する。この二人の学生、以前は恋愛関係にあって、帝大の方が結婚して以来、絶交状態にあるという、なんともやおいテイストの設定で、作者の興味は、戦前の上流社会を舞台にした耽美の追求にあるらしいとわかってしまえば、ミステリとしての作品の出来も想像できようというもの。一応、謎解きの体裁をとっており、事件に関するディスカッションもされるのだが、外堀をきちんと埋めない思いつきの推理は、ポイントがずれているし、「降雪にもかかわらず、なぜ地下道を通っていないかのように犯人は偽装したか」という、この一点ともいうアイデアも、 ブレゼンテーションがまずく、ほとんど生きてこない。しかし、筆者にとって、最大の衝撃は、本書は密室物ではないということが結末でわかるという点である。これには、正直泣けた。
 文章は書き慣れている感じで、お話の方は、そこそこ読ませる。小倉餡は、プロのやおい作家の変名なのかもしれない。




3月8日(木) 女王、北都に出現す 
・女王さまと、札幌の古本屋廻りをご一緒する。「古本のためなら臓器も売る」発言で有名な、あの石井女王さまだ。 
 所用で行った旭川のついでに札幌に寄られるということで、半ば押し掛け気味に、案内役をかって出る。事前に地元の松橋さんから教えてもらった情報をお知らせしていたのも役に立ったか、旭川の戦果は上々で、既に宅急便で送ったということ。昼に、大通りのリーブルなにわで待ち合わせ。巨大なリュックを背負って女王さま登場。「いつも、山帰りといわれます」
 聞けば、既に午前中に手稲まで遠征してきたとのこと。「彩古さんやkashibaさんがいないから、安心して棚を見れるわー」と石井さんもご満悦の様子。
 円山方面からはじめ、西11丁目、狸小路、大通り・すすきの、北大周辺、北24条、北18条の古本屋を徘徊。女王の棚把握能力、動体視力も観察の対象だったのだが、さすがにライバルのいない札幌では横綱相撲。まったりと棚を眺めておられる。何冊か仕入れたところでは、すかさずリュックから麻の大きな袋を取り出すところはさすが。途中寄った喫茶店で、中野実「楽天夫人」と総戸斗明「殺意の回想」(クマブックス)をお土産がわりにお渡しする。
 目下の探求書のメインは、明朗系らしいので、春陽文庫の白背を見つけると、二人とも一瞬の緊張が走る。黒丸をみて「佐賀潜か」と一緒に口をついてのには笑ってしまった。それにつけても、明朗系の春陽文庫も、とんと最近みなくなった。
 女王様は、まったくサービス精神旺盛で、次々とレアなところを教えてくれる。教えてもらったり、拾ってもらったりしたのは、「ザイルの三人」(海外山岳小説短編集)(朋文堂)(メースンの短編入り)、青梅浩「企業内棄民」(双葉社ノベルス/作者は皆川博子の弟)、オーウェンス「夜霧のマンハッタン」(近映文庫)、「魔女も恋する」(集英社コバルト文庫)等。 御本人は、あまり数を買っていなかったようだが、(購入成果は、城昌幸「えぴきゅりあん」くらい?)それでも、リュックは次第に膨れ上がる。氷点下の気温、凍てつく路面の中での健脚には、ひたすら敬服。都合16軒、7時間に及ぶ古書店ツアーにご満足いただけたかどうか。
 道々気さくに話してくれるミステリ話、古本話、ミステリ系ネット諸氏の話は、辺境に住まう者にとって、まさに干天の慈雨。唯一の女王さまらしいところは、前の店で佐々木丸美を何冊か見逃したのに気づいて「きいい」となったところくらいか。
 案内人の配慮行き届かなく、最後は札幌駅のミスドで肉マンとコーヒーの夕食となり、空港へ向かう列車もギリギリ。明日は朝から古書市があると言う理由で!最終便で東京へ帰る女王さまは、リュックを背負い、麻袋をぶらさげ、小走りに駅構内を駆けていった。



2001.3.7(水) 『楽天夫人』
・山田風太郎『人間臨終図鑑T』(徳間文庫)購入。繰り返し拾い読みできる天下の奇書の初文庫化
でございます。
・bk1から2冊の発送通知。はええ。
・おーかわさんの掲示板で、密室作品を知らせることを密告と表現できることを知る。いいな、密告。知らせる人は、密告者。ダークで、なんかいいなあ。密室調査員は、国勢調査員みたいで軽いから、密告者に改称しようかな。でもって、密室系オフ会は、密会と。
・去年帯広で拾った中野実『楽天夫人』(昭和42・東方社)読了。朝鮮戦争講和、もく星号墜落、ヤミ枚、謀略なんて言葉が出てくるから、初刊は、もっと古そう。帯に「感動の長編名作」とあるが看板に偽りありで、新婚夫婦を主人公に、二重、三重のとり違えによる騒動を描いたお気楽コメディ。三角、四角のラヴ・アフェアをぬかりなく交えて、なかなか軽妙。フジテレビ連続放映中とあり、子供の頃、
観たような気もするぞ。なぜ、突然、中野実を引っ張り出したのかは、明日のココロだ。
・ああ、真鍋記者。



2001.3.6(火) 人間至るところに密室あり
・泡坂妻夫『比翼』(光文社)購入。久しぶりのオリジナルのミステリ短編集なのでは。ハードカバーなのは、「曽我佳城」効果か。
おーかわさんの掲示板で、『閉ざされた浴室の死密室殺人』という自費出版の密室物を教えて貰う。作者の名は、千里眼猛。インパクトありすぎ。頭の中を「千里眼猛」の名がぐるぐる廻る。bk1で調べた著者略歴は、
「昭和10年大阪府生まれ。鉄工所に勤める傍ら、定時制工業高校へ通学。機械工学、大宇宙の謎を研究しながら推理小説を書く。著書に「春髷ドン阻止」など。」 
うーむ。「大宇宙の謎」「春髷ドン阻止」あまりにも妖しいオーラが漂っているではないか。bk1なら24時間内発送だということなので(おそるべし)、行きがかり上、注文する。bk1初注文が「千里眼猛」の本とは、あまりにも自らが情けなくなってきたので、本屋で探して見つからなかった「テルミン」も併せて注文。予約本に注文を入れれば、送料無料らしいので、創元推理文庫の新刊予定「タイタス・タロウの事件簿」をさらに追加。ああ、思うツボだあ。キャッシュカードの選択で、何度やっても確認画面で別なカード種になってしまうので、手こずる。
・以前不可能犯罪物の渋いところを教えていただいたTACさんから、下記を教えていただので、引用させて貰います。
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黒崎 緑 『聖なる死の塔』(講談社文庫)
東野圭吾 『名探偵の呪縛』(講談社文庫)(パロディぽい作品ですが、2つの不可能犯罪がでてきます)
氷川 瓏 「殺し屋はだれだ」(ソノラマ文庫「殺人ゲームに挑戦」に所収)
日下圭介 「波がうたった死の詩」 (講談社文庫「鶯を呼ぶ少年」に所収) 
(本文中には「密室」の言葉は出てきませんが、現場状況は、まさしくクイーンや横溝のアノ作品のシチュエーションの海浜版です。)
笹沢佐保 『地下水脈』(集英社文庫)
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 またしても、御教示感謝いたします。とりあえず、「密室調査員」(兼仮収蔵庫)に収蔵の上探索します。
・おげまるさんの仰天情報、真鍋記者問題も採り上げたかったのだが、またしても明日のココロだ。
●リスト追加 
藤岡真『六色金神殺人事件』(宮澤さんより)



2001.3.5(月) 『六色金神殺人事件』
・ミステリ古本系の大物が本道来襲との報が。
『六色金神人事件』 藤岡真(徳間文庫/00.12) ☆☆☆ 
 ネットでかなり話題になった問題作。十分に堪能できた。 保険調査員・江面直美は、東北出張の帰り、吹雪に遭い小さな町に入り込む。雪のため電話は不通、道路は閉鎖と陸の孤島状態となったその町では、大規模な「六色金神祭」が開催されていた。そこで、次々と起こる不可思議な連続殺人・・。宇宙開闢から大和朝廷の成立までを綴ったといわれる秘書「六色金神伝紀」との関係と事件の関係とは。 主人公の遭遇する最初の殺人事件が、シンポジウムの会場の聴衆の一人が突然空中に浮き上がり、会場の壁にめり込むというのだから、度肝を抜かれる。続いて起こる事件も、空中で焼死する人間、数分前には元気だった人間が短時間で巨大な氷の中で凍死するなどなど、超不可能犯罪の連発。伝奇SFの枠組みでしか解決はないと思わせておきながら、ミステリとしての合理的な説明はつけられる。一発ネタに近いが、謎の解明の後も、二の矢、三の矢のアイデアを用意しており、安易な感じは全然ない。ある種のメタ・ミステリーといえなくもないが、フレーム間の人物の往還をスムーズなる点で、数ある叙述トリック作品より、エレガントな解法という印象を受ける。冒頭のプロローグ、終章の カットバックの繰り返しといった布石も、よく練られており、二転、三転する「伝紀」の解釈も、プロットによく呼応している。欲をいえば、二の矢、三の矢の謎解きにもう少しクリアな驚きが欲しかった気がするが、気合いのこもったスクリューボールとして、昨年の収穫に挙げたい作品だ。



2001.3.3(土) 『墜ちる人形』
・kashibaさんのところで、「立派」とか書かれている。うーむ。立派なのは、おげまるさんの研究ばかりで、他は「研究」とか「整理」とかというスタンスはありませんよう。いずれにしても、遊びでございます。小林文庫ゲストブック「敷居が高い?」問題。「敷居が高い」というのは、「不義理または不面目なことなどがあって、その人の家にいきにくい。敷居がまたげない」(広辞苑)という意味なので、ちょっとこの場合、適切な表現ではないのではないかなど、とピンボケ発言。
・柴田よしき『消える密室の殺人』購入。青木みやさんの「読者代表より」の一文が。
『墜ちる人形』 ヒルダ・ローレンス(小学館文庫00.1/'47) ☆☆☆
 相当以前『雪の上の血』が1冊紹介されたきりのヒルダ・ローレンスの本作品が出たときには、まったく驚かされた。本書は、『雪の上の血』にも登場するマンハッタンの私立探偵マイク・イースト物の第3作、シモンズが参画して編集されたペンギン版クラシックシリーズによって、バーディン『悪魔に食われろ青尾蠅』などと一緒に復刊された埋もれた名品という。
 舞台は、独身女性専用の寮「希望館」。同僚の紹介で、入居したデパートの売り子ルースは、入居した早々開かれた仮装パーティの夜、庭で死体となって発見される。他殺か自殺か。ルースの知り合いだった資産家の夫人の依頼で、マイク・イーストは、調査に乗り出すが・・。女子寮というと殿方(死語)の幻想も膨らみやすいところで、本書でも、男性が寮の内部を歩くときは「男性が通ります、男性が通ります」と連呼されるというほどの女の園なのだが、作者の筆にかかる女子寮は、あまり魅力的な場所ではない。管理に汲々とする責任者、不満のたまった使用人、自己中心的な寮の住人たちに向ける作者の視線は相当に辛辣である。舞台が舞台だけあって、相当数の人物が登場するにもかかわらず、書き分けられる登場人物たちはいずれも存在感十分で、皮肉のスパイスを効かせた筆致も精彩に富む。ルースが仮装パーティから抜け出して、やはり仮装をした犯人に追われるシーンは、華のあるサスペンスが横溢。物語は、第二の殴打事件を機に急展開し、犯人は誰かという興味を、なんとラスト一頁まで持続させるのだが、逆にそれゆえか、手掛かりはかなり希薄なものであり、犯人や被害者の行 動にもやや説明不足の感がするのは免れない。性格描写、二重丸、プロット、一つ丸といったところか。イーストに協力する金持ちの有閑老夫人コンビの活躍が楽しい。