関連作品一覧表 へ戻る もどる / いんたぁみっしょん そのいち つづきへ / いんたぁみっしょん そのに

Act Two "り・あんりありすてぃく でいず"
 

 人も老いる 今が今のままに続く訳がないように 人もまた今のままであることは在り得ない
 だが それでも ある種の人物は老いることに耐えきれず不死を不老を求める
 それらの放つ問いに答えられる物などいるはずもないままに それを得た命は生み出された
 その命に注がれたのは 人間の全ての負の感情と一滴の優しさだったのかもしれない
 


 朝霧は部屋でネットからダウンした「地球史W」を読んでいた そのブックデータは現在から遙か未来である西暦2500年から4500年の地球の歴史が人間の心の視点からとても生々しくつづられていた またそのブックデータの冒頭の部分には「この星も地球と言う名前を持った」と書かれている
 ブックデータとしてはきわめて大きい860M程のそのファイルサイズには驚いたが 彼の所持しているサーバーも専用線で接続されているため作業をしながらではあるが ダウン自体はそう時間もかからずに終わった ただ実際にそれを読むには躊躇われたがとりあえず見てみようと言うことで現在に至っていた
「さすがに使徒の記述はないな」
 そんな感想を述べながら3012年付近の記述を読んでいた
 ふと時計を見ると10時を回っている 彼は立ち上がり玄関を出て掲げてある札を「開館中」から「今日はおしまい」に裏返し 結局彼はUPされていない地球史Vをのぞいた地球史のTとUをダウンロード開始したまま布団に入った
 

翌日 シミュレーター訓練中
「援護を」
「了解」
 答えると同時にポジトロン・ライフルを 使徒に撃ち込む
 激しく大地を叩くスコールをその反応に巻き込み 光弾は使徒の姿勢を崩し表層を焼き払う
「もらったぁ」
 視線の先では雄叫びと共に振り下ろされるスマッシュ・ホーク
 手元のデータではポジトロン・ライフルのエネルギー残量は残弾にして1.4発 実質残弾1発 冷却状態は良好 次弾発射可能 そんな思考の直後 視線の先の使徒が自爆した

 一瞬真っ白になるスクリーン

 それが激しいノイズによるモノクロの砂嵐の様な映像に変わったと思った直後
 "WARRING WARRING.  A HUGE ENERGY POINT IS APPROACHING FAST."そんなゴシック体の文字が緑と赤の点滅を繰り返し
「コントロール 応答を」
 返事はない
 スクリーンは切り替わりシミュレーション前のブリーフィング画面になっている だが普通なら架空の使徒が映し出されるそこには 真っ黒なシルエットのみの人の姿を模した物が映っていた
「コントロール 応答を」
 やはり返事はないのを確認し シミュレーターに入っている全員に向けて呼びかける
「朝霧だ 今 何が映っている?」
「余興じゃないのか?」
 大和の声の後何人かの声か届いた
「大和 悪いが私のは外部と連絡が取れなくなっている 代わりに取ってくれ」
「ああ 分かった」
 パネルに映る大和が外部と連絡を取ろうと呼びかける
 が
「悪りい 俺のも故障みたいだ」
 結局 全員外部とは連絡が取れなくなっていた それ以上に外へのハッチが全くびくともしないのである
『ブリーフィングを始めます』
 声がして スクリーンに現れたのは尾上マイだった
『今回の敵性体は サイズ自体はエヴァと同じ それ以上のデータはありません 以上です』
 他のクラスメイトが尾上に必死に話しかけるが 彼女は何の反応も見せずに画面外に消えた 代わりに葛城ミサトが現れる
『ちょっち特別なプログラムを走らせているけど いつも通りリラックスしてシミュレーションしてね』
(違和感がある・・・ まだ・・・)
『では 作戦を説明するわ・・・』
 スクリーンで彼女は それぞれのエヴァに指示を出す
『・・・ 朝霧君はポジトロン・カノンで支援して』
「了解」
 短く返した彼の脳裏はノイズだらけだった

 スクリーンがケージの様子を映し出す そして程なく地上へと打ち出される・・・
 地上へと続く その中を彼は ポジトロン・カノンのデータを広げ確認しながら エヴァのモニタを可視光線に加えて赤・紫外線のデータを重ねて表示させた

 疑問や違和感は目の前の酔狂の度合いと秤に掛け 重かった酔狂の方を優先した 比べたのはリスク・・・

 地上に出る 敵性体との接触まで推定時間4分 確認を終えたポジトロン・カノンのデータを閉じ 彼は指示されたとおりの兵装ビルからそれを取り出した 先ほどの説明でポジトロン・カノンと言っていた兵器を装甲に追加された専用マウントに接続し半ば抱え込む様に構えた 程なく二つ折りになっていた砲身がつながる エヴァ自身の身長の2倍を越える長さがあるようだ ふと視界の端に開いたパネルでは赤城博士が説明を始めようとしていた
『データに目を通したわね いい 基本的に扱い方はポジトロン・ライフルとあまり変わらないわ ただしそのサイズと放熱板に注意して破損すると連射性能が落ちるわ 分かっていると思うけどビルにぶつけないように 以上よ』
「了解した」

(前衛は帆足と如月 中衛は相田と大和 後衛が私 後三名がどうか分からぬが 少なくともシミュレーターに入っているメンバーは先ほどと同じだろうな)
『タケオ 変だと思わないのか?』
 相田からの通信に彼は
「おかしいと思うがな だが差し当たって生命の危機ではない 取りあえずは用意された余興を楽しもう この向こうに何があるかを な (しかし これがただの訓練なら一時間は説教だな・・・)」
『分かったよ 来るぞ 見えた』
 視線をスクリーンに向ける ピンポイントでズームする
 人型の常闇が神々しいまでに光を放つ翼をはためかせるような姿
(どこかで見たような・・・)
 こちらに向かっている 推定速度130Km/h
 インダクションモードにて射線軸をあわせると同時に 敵性体のデータを広げる
 "計測不能"それがデータをひろげた行動の答えだった 使徒であれば何らかの物理的事象に触れることから結果に関わらず計測そのものは可能であった だが今回の敵性体は"計測不能"なのだ
「葛城殿の苦労が 分からんでもないな」
 呟く朝霧 既に敵性体の重心と思われる位置を射線軸に捉えている
(何処で見たかな?)
 記憶の図書館から該当データの検索を始める 答えが出たようだ
「(J.NのHome Pageだったな 名前はSIVAだったはずだ 仮にデータがあの通りだとすれば厄介だな ・・・日向殿)やってくれる・・・」
 前衛のエヴァが敵性体の着地の瞬間を とダッシュをかける パレットライフルを装備している中衛が援護射撃をかける 朝霧は射撃体制には入らない 射線軸上にダッシュをかけたエヴァがいるからだ
 仕方なく射撃ポイントを変える 長大なポジトロン・カノンを左に抱えたまま 少し背を低くして移動する
(設定のサイズは頭頂高24m位だったはずだ 装備は外から見える分には基本的に大剣のみ バトルモードに入ると機体が一切のエネルギーを吸収する 常闇か)
 程なく視界にペンギンの滑り台のある公園が入った 周囲にはそう高い建物はない 同時に確認していた戦闘状況を聞き流すように敵性体に射線軸を合わせる
「いかんな・・・」
 朝霧に言わせるとエヴァは肩に不必要な突起部分があるため大型の兵装の場合人間のような取り回しには向かないらしい
 敵性体は前衛と中衛の攻撃をなにか大きな剣のような物でしのいでいる
 ポジトロン・カノンは射線軸がクリアーにならないため未だそのトリガーは引かれてない
「しかし・・・(新撰組や忍者の戦法のように接近戦による集団戦闘はどうも現在のエヴァでは無理のように見えるな・・・ まあもっともこんな大砲もあるのだし インフレーションマシンが何台もあるというのは考え物か・・・)」
『何 こいつ』
『タケオ 援護はどうした?』
「ロックしてはいる 射線軸上に重なっておいて援護とはな・・・ 如月 射線軸を開けよ 開いた直後に撃つ」
『了解』
 ズームとレーダーにおいて敵性体に注意を向け ポジトロン・カノンのチェック 射線軸クリア オールグリーンサイン
「発射」
 何の感情も感じられないフラットな声 朝霧のエヴァがポジトロン・カノンのトリガーを引く
 打ち出される眩しいまでもの光の筋 強烈な反動に思わず姿勢を崩しかける

 命中した・・・
 が動きが鈍る気配がしない
「エネルギーチャージに17秒 冷却に問題なし チャンバー内加圧正常 出力最大値へ 構いませんね?」
『ええ 構わないわ』
 違和感のままに赤城博士の了解を得る
 ズームの先では前衛のエヴァの攻撃を 氷かガラスを削りだしたような透明度の高い剣によってあしらっている姿が映る
「システムオールグリーン 放熱版展開 各機へ 本機は射撃体制に入る カウントゼロ時に射線軸を開けよ 射撃の延期は不可能だ(最大圧力では維持に2秒が限度か) 射撃まで11秒」
 腰を低く落とし前のめりにポジトロン・カノンを構える
(敵性体の表層に 何か傷があればそこから・・・ 反応ゼロのポイントしかないか では前回と同位置にセット)
「ぎりぎりで避けようと思うな その時は 共に薙ぎ払われるがいい カウント5 4」
(有効射程距離たかだか20 Km)
「3 2 1」
 前方近接戦闘をしていたエヴァが飛び退き開かれる射線軸
「・・・滅びを・・・」
 何の感情もこもらない声と共に引かれるトリガー

 光の筋が先ほどと同じ所へ まるで待っていたかのように敵性体はそれを受けた
 衝撃で背後の兵装ビルに打ち付けられた敵性体が前衛につけ込む隙を与えずに立ち上がる 常闇のままに
「むう」
 呟くなりポジトロンカノンの冷却をモニタしつつ 全センサーからの情報を読みとる
「各機へ通達 現在ポジトロン・カノンは冷却中 センサーよりダメージは読みとれず 冷却終了と共に引き続き牽制を行う」
(現時点での有効打撃なしと断定 敵性体の攻撃は現時点では近接格闘による物のみ 背後に回るのも手段か)
「いかんな・・・」

夕刻 ネルフ内玄関ホール
 結局敵性体を倒すこともかなわず ほぼ一方的に全滅した 戦闘時間15分24秒
 朝霧にとって後味の悪い負け方だった
 至近距離で放った命中弾ごとポジトロン・カノンをまっぷたつにされ ナイフを取り出しつつ後ろに飛び退いた直後
 あれはそのまま踏み込みをつづけ 受け止めたナイフもろとも 朝霧のエヴァを右片口から袈裟懸けに斬りつけ 返す刃で同じ場所を逆袈裟に引き裂き 最後にまるですれ違うようにして横真一文字に断ち切られた
 自分のエヴァが破壊されたことが表示されノイズが走る その後は何事もなかったかのようにシミュレーター訓練は終わったのだった
 鮮やか と言えるまでもの立ち振る舞い そんな感想もあった
「ん?」
 ふと自分の鉄道時計とホールの壁に掛けてある時計を見比べる
「介入された そんな感じだな」
 呟いた朝霧の鉄道時計はホールの時計より約20分先を示している
(まさかな・・・ こんな事誰かに話したとて信じてもらえるわけではないだろう)
 そう思いつつ時計の針を現在時間にあわせ この場を離れた
 

翌日昼過ぎ 朝霧の部屋
「ん? 空き容量が足らないか・・・」
 悪夢のような悪い冗談のようで少なくとも彼にとっては現実だったシミュレーター訓練の記憶が脳の一部に常駐しているのを感じつつ
 彼は自室で電子図書館の機能を有するサーバーのバックアップを取るために新規データーをそのサーバーから自室のパソコンに取り出していたのだ それが全部で4.7Gに及ぶ地球史のブックデータの存在で全てを取り出すことが出来なくなっていた 結局余っていたディスクにその4.7Gのデータを移動させ バックアップ作業を始めるのであった

 通常ブックデータのファイルサイズは圧縮されたテキストデータや挿し絵やプログラム等によって左右される 通常大きくても5M程度であるが 開くときに使われるメモリサイズ等がファイルサイズにほとんど依存しないこともあり 中には100Mを越える物も存在する
 現在のデジタルブックデータとはHTMLなどのインターネット系の技術と昔からあるデジタルブックの規格から派生したもので WDBS(Worldwide Digital Book Standard)と呼ばれる規格により定められている
 通常は言語及びフォントフリーでフルカラー画像による規格であるWDBS Lv.2.1が使われる 他にMPEG2規格の映像と音声を追加したWDBS+ Lv.1.4という物もある
 発表後一時期は知名度の問題もありお蔵入りになりかけた物であるが ある雑誌に紹介されてからは関連ソフトが全てフリーだったこともあり世界中に爆発的に広まった 資源的側面も後押ししていたのだから・・・

 技術部お下がりのDVD−Rが問題なく動作していることを確認して 彼は図書館となっている部屋から出てダイニングにある時計に目をやる 3時半を指していた
 ダイニングのテーブルに学校指定のノートパソコンを開きネットに接続する ブラウザとメーラーを走らせる操作をし お茶を入れる いくつかある葉っぱの種類からほうじ茶を選び急須に入れお湯を注ぐ お盆と愛用の湯飲みを用意し 湯飲みに注ぐ頃にはその独特の香りが部屋に広がっていた
 パソコンに向かうが特に到着メールもなく珍しい事に宿題もなかった為か カレンダーを確認し 彼は外に掛けてある「開館中」の札を裏返し 部屋に鍵を掛けて 寮から出ていった

技術部三課 事務室
 技術部三課とはnervのハードソフトに関わらずコンピューターシステム全般のメンテナンスを手がけている 同じ部屋に諜報部二課があり 実際にはセキュリティー上の問題からこの二つの課がコンピューターシステムのメンテナンスをしている
 また朝霧のサーバーを設計立ち上げたのもこの課であった 相談した相手がたまたまこの課の人間だったこともあったのだが・・・
「失礼します」
 朝霧はノックしてこの部屋に入った 後ろ手に戸を閉めると
「そろそろ 来る頃だと思っていたよ 今月号入っているぞ」
 と磨りガラス製のついたての向こうから声を掛けられた 彼はそのまま部屋に入って行く
「すいません 毎月毎月」
 そう言いながら朝霧は技術部三課課長の席に座る男性の差し出す雑誌を手に取り 立ったままその雑誌を読み始めた この技術部三課課長が朝霧がサーバーの件でたまたま相談した相手だったのだ 名を大野 英秋(オオノ ヒデアキ)と言い パソコン好きがたたって現在の職場にいるような物であると 本人が豪語するほどのコンピューター好きである
 一項目読むと朝霧は三課課長に向かって
「大野さん おもしろい架空の歴史物が手に入ったんですけど読みます?」
 大野と呼ばれた男性はすぐに答える
「ダウンするから名前を教えてくれるかい 浅葱君」
「ええ 名前は『地球史』です全部で今のところ4.3Gぐらいありますけど どうします?」
「冗談だろぉ」
「いえ 事実ですよ 容量に見合った内容を保証しますよ」
 朝霧は記事を読みながら答えた 大野は朝霧が特に取り乱したふうもなく記事を読み続けているのを見て
「いつUPだ?」
「そうですね いまバックアップ中ですから 明日の夜です」
「そうか」
 扉を開く音が聞こえる 誰かがこの部屋に入ってきたようだ
「おう 坊主来ていたか」
 その声に朝霧は記事から視線を放し
「おじゃましてます 秋山さん」
 秋山 本名は秋山 孝一郎(アキヤマ コウイチロウ)は加持等の属する諜報部一課とは違い 二課に属している 諜報部二課の仕事は一課の外部に対するいわゆる実戦部隊ではなく 内部に対しての組織である彼自体の仕事はデスクワークが主であるがその指揮の正確さと緻密さと早さで定評があった また彼が最も得意なのは情報戦でありネルフに来る前には情報戦のプロとして主にヨーロッパ地域にてその名を馳せていたらしい が朝霧を前にした彼は朝霧を「坊主」と呼ぶタダの子供好きの青年であった
 

要塞都市郊外 某模型店奥
 彼は店の横にある家の玄関を開け
「ただいま」
「あ お帰りなさいませ」
 空色の瞳 空色の髪を持つ落ち着いた感じの女性が玄関まで彼を迎えに出る その後ろから煎餅を片手にややラフな服装の赤毛の女性が奥から出てくる
「お帰りユウロス 夕飯どうするの?」
「ま まだ作ってなかったの?」
「ごめん こんなに遅くなるなんて思わなかったから」
「おかしいな 電話したらディーが出たから彼に伝えてあるはずなのだが・・・」
「「えっ?」」
「マスター 今ディーさんは船の方にいるのですが」
「そうか 困ったな」
「じゃあ 外に食べに行こうよ」
「そうするか」
 

小一時間後 芦ノ湖の畔の公園
『〜 Oh きらめくオーラを Ah 銀の翼 映して 〜』
 朝霧は頭に今日のシミュレーター訓練というわだかまりを抱えたまま あの波打ち際に近いベンチに座りSDADを聞きながら空を見上げていた
『〜 さぁ 勇気と希望の旗 広げ Fly! 力の限り 〜』
 ふと辺りを見渡す 暗くて良くは分からないが少し離れたベンチに仲の良い女性同士だろうか二人が寄り添って座っている少ししてそこにいつか見たようなシルエットの人物が缶ジュースを抱えて来た
『〜 愛 安らぎ迎えた日は 愛 それを信じたい 〜』
 別に喧嘩をする訳でもなく仲良く座っている いい友人なのかなと そんなことを考えながらベンチから立ち上がり帰ろうとした その時彼の耳に言葉が入って来た「ユウロス」と 明らかにその場の人物をさして言っていたのだ
 朝霧はSDADを止め そのベンチに近づき
「今晩は」
「やあ 朝霧君 それとも浅葱さんと呼ぶべきかな?」
「な・・・」
 驚きのままに硬直する朝霧
「そんなに驚かなくても ちょっと調べれば分かることだからね」
 ユウロスの言葉に思い当たる節があったので納得する朝霧
「地球史の作者ですよね?」
「そうだ どうだいあの話は」
「そうですねとても面白いのですが どうやって造られたのですか? あれだけのデータを」
「その質問に答える前に 浅葱さん あの地球史のアドレスはある一定の人物しかたどり着けない様になっているのだが 貴方はどうしてそこに到着しましたか?」
「?」
 言われてから記憶の図書館を検索するが・・・ ない 記憶に全くないのである 関係する一番ふるいものは ダウンロードを既に開始しているのを見た所だった
「覚えていないのですか?」
 女性のような 中性的な声に
「残念ながら全く覚えていません 気がついたときには既にダウンを始めていましたから」
 ユウロスは苦笑しながら
「大変だったでしょう サイズが大きいですから」
「いえ 専用線を引き込んだサーバーですから そんなには」
「サーバーなんですか?」
「ええ ちょっとありましてね」
「そうですか あの話はあるコンピューターシュミレーションの結果なんですよ 一応地球消滅の36巻までありますけど おっと 名刺を作ってみたので一枚渡しておきますね」
 そう言ってユウロスは名刺を朝霧に差し出す 朝霧はそれを受け取った
「できれば 全てそろえたいですね」
「そうですか 分かりました用意しましょう ・・・しかし 中学生があまり遅くに出歩くものではないですよ」
「では続きはメールででも送ります 今日はこの辺りで 失礼しますね」
 朝霧は頭を下げ その場から離れた 名詞をポケットに入れ歩く 空を見上げるちょっと曇っていた

「いいのユウロス」
「何が?」
「あの子地球史を読んだんでしょ」
「ああ」
「じゃあ 何とかして情報が漏れるのを阻止しないと」
「その必要はない 彼は私によく似ているからな」
「はぁ?」

夜 朝霧の自室
 学校指定のノートパソコンをネットワークに接続しJ.NのHome Pageを開く ライブラリの中から一つの画像を含むページを開いた
「そう この絵だ SIVA シヴァ 聞いたことがあるな・・・ インドの方の神だったかな しかしよく似ていたな」
 開かれているページには羽ばたかんとばかりに光を放つ翼を広げ虚空を見上げる 鎧を纏った常闇ではなく純白の姿があった

「そう言えば 名刺を貰っていたな」
 ふと 思い出し ポケットから 取り出す
「名前とメールアドレスのみか 裏は・・・ パスコードねぇ」
 名刺の裏には鉛筆で書かれた平仮名で「ぱすこーど」とあり7文字の片仮名が無作為に書かれていた
「何のコードだ?」
 呟きながら メールが届いていないか確認する
 到着メール一件 ユウロス・ノジールからだった 視認しそのまま開く 本文は無し添付ファイルが一つ 実行型のファイル取り出し実行する
「ぱすこーどを指定の順番で入力して下さい か」
 名刺の裏側の片仮名を
「メ・ル・ス・ィ・デ・ィ・ー メルスィディー?・・・」
 入力し終えると画面にメッセージが出る
”このデータは極めて機密度の高い物です また対象である"浅葱 桜"殿以外に閲覧は不可能です”
「・・・。」
”Lv.0セキュリティーチェック完了 これより セキュリティーLV.5を空間に展開します”
「はい?」
”対象人物であるあなたを中心に半径2mの空間を外部から完全に遮断します 14次元の事象まで影響が及びますが・・・”
「ちょっと待て」
”はい”
「ん? 会話が成立してるな」
”そのようになってますが”
「・・・ まあいい 質問する気力が無くなった 危険がないのなら始めてくれ」
”分かりました あなたの言葉を借りるのであれば これよりあなたの時間に介入します”

 本来このパソコンに入ってはいない見たようなOSの上で走っているようなソフトは それまで朝霧の脳裏に蓄積された一連のわだかまりを解決するのに十分以上の情報があった その十分からはみ出した情報は 見事に朝霧の悩みの種となるのだったが・・・ またデータの中に彼が持っている神無月の物があったことに驚いた
 翌日彼の家に朝霧が赴いたのは言うまでもなく そこで一悶着あったのも言うまでもなく 一連の事象について朝霧は 以下のコメントを残している
「どんならん ねぇ?」
 とは言え 悩みの種であったデータは全て物書きのネタとしてしまったようだ

解説:ポジトロン・カノン
 参考にしたのはK・O・Gの二つ折りバスターランチャー
 ポジトロンライフルやポジトロンスナイパーライフルより大火力を目指した物でエネルギーをアンビリカルケーブルに頼る点等で他とは違う さすがに本編のヤシマ作戦ほどの出力は設計上野戦仕様のため不可能
 外観は大きな大砲であるがそれは本体を覆うカバーの部分であり実際には見た目ほどの重量はない 外部装甲の形でマウントが用意されている 通常は左側だけにあるマウントに接続し左手で押さえ右手でトリガーを引くのだが 朝霧は左利きなので左手のみで操っている 発射制御はマウントを通しインダクションモード データ的に行っているのでトリガーを引く必要はない
 
 
 



『そこで一悶着あったのも言うまでもなく』の中身 朝霧の独白による
 ユウロスの話しによれば 彼らが休暇と称して この星の存在する宇宙に浮上したのはこの星の一般歴である西暦では1975年とのことだ
 船の名は ええと しぇんべるびざんと とか言ったはずだ 信じられない事・・・ まあ そんな事は関係ないが 全長がなんでも1682kmあるそうだ 既に天体サイズの船らしい質量はもう大きすぎて覚えていない
 彼の概念的な説明によると宇宙・・・ 彼はそらと呼んでいるが それは有限にして無限の大きさをもつ次元という名の泡のようなものらしい 通常別の宇宙に行くにはその泡から次元的に抜け出さなくてはならないとか で彼の船はその他のそらとの行き来を可能にするものらしい しかしこんな話し誰も信じないよなぁ・・・

 彼らから言えば20世紀とは 既に神話の時代であり 24世紀までの地球文化圏黎明期の歴史的資料はかなりの部分が失われていたという 後に彼自身の発明により歴史上の空白を埋めていくこととなったと言っていた

 彼は今私達が在るこの時代が 彼のいるべき時代の存在するものとはかけ離れていた事に多少の戸惑いを見せたものの 元々歴史の編纂が仕事であるらしく一人の歴史家として 新たなる事象に喜びを隠せないようだ 話しによれば彼はもっと過去にさかのぼって過去の有名な作曲家の演奏を生で聞きに行ったらしい ただ現在に影響を与えないように計算するのに超無限大にも膨らむ因果律計算とかに時間が掛かるとかで頻繁にはゆけないらしい
 そう言えばCDの話になると彼は目を輝かせて前世紀のカラヤンという演奏家の事を目を輝かせて事細かに詳しく話してくれた なんでも74分になったのは彼のせいらしい 第九一曲分だとか・・・

 また ある時は私が訪ねると ヴァイオリンやピアノの調べを聞かせてくれた ヴァイオリンの音色は私が知っている限りもっとも鮮やかにかつ自然な響きを持っていた 悲しげな調べを弾き終えた彼に
「快い響き ずいぶん高価なものなのですね?」
と 訪ねたら
「ああ これ以上のものは 存在し得ないよ」
と笑って答えた もっとも彼の持つヴァイオリンがどんな名器であるかなど私には分かり得ないだろうが その演奏技術は私の知る限りプロとしても十分に通用すると思う


関連作品一覧表 へ戻る もどる / いんたぁみっしょん そのいち つづきへ / いんたぁみっしょん そのに

Ende