よって このデータが本編である「黙示録 エヴァンゲリオン」に合致しなくとも
当方は一切の責任を負わないものとする
今回はしまぷ(う)がジェノアさんと朝霧君の深淵を語るべく・・・
ま こまかいことはこの辺りにして・・・
行ってみよぉーっ!
それぞれの日常 或いは平和な日々
「朝霧と ジェノアと」
彼は立ちつくしていた
その手は血にまみれ その足下には先ほどまで握っていた血肉の付いたナイフが転がっていた
その耳には彼の好きな娘が叫んだ 彼を拒絶する声が離れなかった
その碧眼には彼を見て おびえ逃げる好きな娘の姿が焼き付いていた
彼の背後には体を自らの血に染めた 人間だった肉塊が二つ存在していた
「? 目が覚めたのね」
病院だろうか看護婦さんがベッドに横たわっている僕の方をのぞき込んでいる
「なんで 僕はこんな所にいるの?」
「気を失って倒れていたのよ」
「気を・・・」
ふと手を見る こわばってうまく動かせない 爪の間に赤い物が ・・・ 血だ
「あ(そうだ) ああ(僕は 僕は) あ ああううあ(人を殺したんだ・・・ ) ああ・・・」
「ちょっと 大丈夫? ねえボク? っ先生」
あれ 父さん母さん お医者さんまで いつの間に入ってきたのかな?
「たけお 気がついたの?」
心配そうなお母さんの表情に僕はただ
「かあさん ひーちゃんは 無事なの?」
お母さんは崩れるように僕を強く抱きしめる
「ねえ? ひーちゃんは?」
「大丈夫 大丈夫よ裕美ちゃんは」
涙声? ないているの?
「そう よかった(でも もう良いんだ 嫌われちゃったから・・・ 良いんだ 無事なだけで・・・)」
「たけお 泣いているの」
僕は泣いていた 自分の感情を抑えることもせずに 泣いていた でも 心は静かだった
「・・・ ん(なにか 嫌な夢を見ていたようだ・・・ 思い出せないな)」
気づくと彼は自分の左手を見ていた
(この手は 血にまみれている か・・・ どこかで読んだような話だな・・・)
ふと見上げた時計は午前4時半を指している
「はぁ(何か嫌な夢を見たときは 早起きをしてしまうようだな)」
そのまま 身体を起こしベッドから降り机の上のパソコンに電源を入れる それが立ち上がるのを待つこともなく浴室へと寝室から出ていった
「時間もあることだし ゆっくり湯船につかるか」
そんな声が風呂場から聞こえた
山辺中学
校門から彼は入って来た 時間は早くまだ校内に人の気配は少なかった
もちろんこんな時間に来ている人間などそうそういるはずもなくクラスは無人 そして彼は自分の席に着くと登校中に練った物書きの案をノートパソコンを広げ入力するのだった
同時刻寮にて
「ん・・・」
目覚まし時計を止め彼女は寝ぼけ眼のままにベッドからその身を起こす
「なうぅー・・・」
そんな寝言に近い言葉を言いながら ほとんど閉じた瞳でずるずるとベッドから身を乗り出し着ている物を順次脱ぎながら半分眠りの世界のままに風呂場に入って行く 熱いシャワーを浴びてまず醒めない目を覚ますために・・・ 叫び声か聞こえるどうやら間違って水を浴びたらしい・・・
既に食事を終え 制服に着替えた彼女はその腰まで届くしなやかな金髪を櫛で解きながらリビングにおいてある大きな表示板を持つデジタル時計で時間を確認する 午前7時58分
玄関で靴を履く 最近慣れたその習慣に日本を感じながら寮の部屋を出た 寮から駅へと照葉樹の並木道を歩く
駅に着く ネルフ職員の流れとは逆にホームに止まっていた電車の中へ
「お早うございます ジェノアさん」
「あ・・・ お早うマユミさん」
挨拶を交わし 彼女はマユミの隣に座り
「そう言えば・・・ この前 教えてくれたNovel-LibraryのMasterのaddressが・・・ ええと」
何か言いにくそうにしているのを察してか先に答えるマユミ
「朝霧君よ」
言われて一瞬動作が止まり
「really!・・・ あ(日本語使わないと・・・)」
「ええ」
ジェノアのリアクションを見て楽しそうに答えるマユミ 絶句している彼女の中で 小柄で妙に暗いタケオのイメージが がらがらと音を立てて崩れて行く
「お早うマユミ・・・ ってジェノア どうしたの固まったままで」
言いながらマリエがジェノアの隣に座る
「それが 朝霧君のノベルライブラリーの事を話したら」
「ああ あのネルフ専用のネット上の図書館ね でどうなったの?」
発射ベルが鳴り 駆け込み乗車で乗り込んできた者がいた アキだ
「アキ 遅いよ」
「ごめんごめん」
いつもの登校風景とでも言うのだろうか
程なく復活したジェノアは目の前で交わされているとりとめのない会話に混じるのだった 会話の内容は紆余曲折しながらタケオのノベルライブラリーを経て 彼の書いた作品についての話題となっていた
「所で タケオの話ってどこに上げてあるのか知ってる?」
結局 誰もそのことについて答えられなかった
で 山辺中学2−A教室
廊下側最後尾の席 ノートパソコンを机の中にしまい込み机にうつぶせになっている
「タケオ?」
「居眠りしてる・・・」
「起こそうか?」
「でも 無理に起こして 大丈夫でしょうか?」
マユミの言葉の後 当の本人はむくりと起きあがり 自分の席の周りを囲んでいるジェノア・アキ・マリエ・マユミの四人に顔とその眠そうな視線を向け
「・・・ どうした?」
そう言った
「朝霧君 小説書いていますよね?」
「ああ 書いているけど? それが?」
「書いた物はどこに上げてるの?」
「それは 秘密」
「ええーーっ」
女子四人からあがる不満の声
「タケオ hintは?」
「ヒントはそうだな・・・ 私が持っているペンネームを当てればいい 私のペンネームは一つだけだからね それに山岸さんは私の作品を読んだことがあるはずだよ ・・・ヒントはそれだけ 正解者には実家から送ってきたお蕎麦をプレゼントしようただし回答権は一人一回 期限は一週間後の今日の正午まで どうかな?」
「正解者が出なかった場合は?」
「出題そのものがなかったこととする」
「それって 正解者が出なかったら 正解がわからないと言うことですか?」
「そう じゃがんばって」
彼は再び机に突っ伏してしまう
さっそく彼女達はマユミに今まで読んだデータの作者名を一覧を作らせる事になり その事を彼は耳に届く音で確認するのだった
「せいっ」
発せられる気合が訓練の途中だと告げる 視線の先では タケオとトウジが戦っている・・・ ダメージコントロールをしながらも攻撃を食らう回数の多いタケオ
「ああ あの二人ね 朝霧君の戦い方が危険だから鈴原君や大和君ぐらいしか戦わせられないのよ それよりもジェノアさん」
「はい」
「あなたの実力を見たいわ さっそくだけど そうね樺山さんお願いするわ」
「はい 教官」
教官達から少し離れてアキとワタシは向かい合う
「アキさん」
「始めましょ ジェノアさん」
「・・・ ええ」
両者がそれぞれに構える
「初めて」
その声に反応し動き始めたのはアキだった
(体が動く アキさんの動きに呼応するように でもそれではだめ もっと速く ・・・これ以上・・・)
「どうした朝霧?」
鈴原は朝霧が距離をとり構えを解き視線を外した事にそう言い 視線の先を追う
「どう思う?」
「ジェノアの事か 気になるなんてタケオも隅におけんな」
「動きと視線が合っていない」
「ほうか? それならタケオも同じやないか」
「・・・ そうか」
いつのまにかこの場にいた誰もが二人の試合を見つめている
だが試合のほうはあっさりと終わった 汗で滑ったのかバランスを崩したジェノアに アキの突き込むような蹴りがあたる直前で・・・
「勝負あったわね アキさんもう良いわ」
「はい教官 ジェノアさん立てる?」
そう言って手を差し出すアキ
「うん 大丈夫」
そう言い 彼女は差し出された手に触れる事もなく立ち上がった
そこまで確認して朝霧は
「続けようか」
鈴原にそう言われるまで目を閉じ沈黙を守っていた
夕刻 技術部三課
「失礼します」
「おお坊主 今日はどうした?」
「秋山さん お聞きしたいことが?」
「ここで か?」
「構いませんが」
「分かった で なんだ?」
「ジェノア・ニルヴァーノの事なのですが」
「・・・ 坊主 熱があるのか?」
そんな秋山の冷やかしを聞き流して 彼は続ける
「日常時の彼女の行動は 前の施設でも今のような 比較的他人を避けるような物だったのですか? 少し異常ではないかと思うのですが 私が見たところ他人との接触を拒んでいると言うよりも 何か感情と欲求を持て余している様に見えるのですが」
「・・・ 好きなのか? ジェノア・ニルヴァーノの事が」
真顔の秋山に言われて
「・・・ そうかもしれません 少なくとも嫌いになる理由はないのですから」
「そうか 分かったその件については後日もう一度来い」
「分かりました・・・ ところで大野さんは?」
「ああ 今日は早退したよ 昨日から徹夜だったらしくてな」
「そうですか では失礼します」
「またな 坊主」
数日後・・・
(ワタシ なんでこんな所にいるんだろう・・・ もっと・・・)
彼女は訓練の後 商店街にある小物店に来ていた
「ねえ Genoua どうこれ?」
マナがジェノアに並んでいた小物を持ち上げ見せるが
「・・・」
無反応 少なくともこんな彼女の姿を見たことのないマナは 不思議に思い強く呼びかける
「どうしたのGenoua ねえ!」
「えっ?」
「どうしたの? ぼーっとして」
(ワタシ なんで? あ マナさん ここは?)
「だから どうこれ?」
ジェノアの視線にマナの持つ小物 筆立てだろうか が入ってくる
「ちょっと使いにくそうですね」
何とか感想を述べた彼女は
「外で待ってます」
そう言って店の入り口の方へ行ってしまった
SDADから流れるFinal Take offを聞きながら地上行きの電車に揺られる 不意に誰かに呼ばれる助けを求められているかのようなそんな感覚をおぼえ 時間に余裕がある事を理由にし いつもより一駅前で降りた
ゲートを通り抜け商店街へ出る 4ヶ月ぶりだろうか彼が商店街を訪れるのは スパニッシュ調にアレンジされたFireTripperが流れているSDADをそのままにアーケードの中を人の流れより速く自分のペースで歩く どうも朝霧はあまり人混みが好きな方ではないらしい その間も何かに呼ばれるソレは未だ彼に届いていた 足は自然とその方向に向く
「・・・ん?」
一瞬 その感覚にノイズが走り
「タケオ」
呼ばれて振り返る 彼を呼んだのは委員長 ヒカリだった 平静を装っているがその口調がトラブルがあったと告げる
「どうした洞木」
「ジェノアさん 見なかった?」
「Genoua Nilvanaか 見ていないが」
「そう ありがとう」
そのまま彼女は朝霧が言葉を発する間も与えず離れていった
「まさかな(・・・さて どうかな? 何かが呼んでいること自体は事実だろうが・・・)」
離れていったヒカリに固執することもなく彼はその場から歩き出した SDADを止めウエストポーチにしまい込みアンテナを高く上げるかのように意識をとぎすまし 入ってくるその感覚に呼ばれるままに歩く
商店街から裏通りへと通り抜ける
(この感覚 まさか裕美じゃないよな・・・)
そんな不安を抱き 彼は走り出した 失ってはならないモノを失わない為に
そしてその足取りは 呼ばれるままに公園に入る
「ワタシは・・・」
思考がまとまらない 解れた糸のように 思考や感情がカオスを作り出しているように
「何を考えるべきか」それすら今のジェノアの心には存在し得なかった
こうなったきっかけすら 彼女の空間には存在できないでいたのだから
「・・・」
彼女は公園にあるペンギンの大きな滑り台の上に座り その視線は空へ向けられていた 星が瞬き始めた空に
「な・・・(あれは?)」
ペンギンの大きな滑り台の上に 一人の少女 周りにその輝きを分け与えるような金髪 間違うはずはない
「Genoua Nilvana・・・」
朝霧は立ち止まり 彼女の様子を見る 彼女はじっと空を見上げたまま まるで銅像のように そして先ほどから続いていたあの感覚は彼女のいる方に強く感じる
(・・・ どうしようか この感じは彼女からの物だ ・・・ まあ 声をかけてみるか それからだな)
朝霧は彼女の正面にまわり
「どうした こんな所で」
そう声をかけた
「・・・ タケオ どうして こんな所に?」
「え?(参ったな まさか君が呼んでいたとは答えられないし・・・ いや それもまた手段か) ああ 気分転換に散歩していたところだ と言いたいが・・・ 大丈夫か?」
「・・・ 何が 『大丈夫』なの?」
「このような人気の少ない公園のその様なところで空を見上げているのだ 普通は何かあったと思うべきだろう」
彼女は滑り台を滑り降り 立ち上がって彼の方を見
「大丈夫です 何でもないですから」
相手を拒絶するような視線が朝霧に向けられる が その言葉に彼は真っ直ぐに相手の瞳をのぞき込むようにして
「そうか ならば良い だがその心の内を分かってもらえる相手を見つけておくことだな それから洞木がお前のことを捜している 商店街の方にいるはずだ 行ってやれ」
そう言って視線を外し いつもの本屋の方へ行くべくその場から離れて行った
夜 寮の朝霧の部屋
彼はダイニングのテーブルの上につっぷしていた 横には書きかけの小説を映し出すパソコンと飲みかけのほうじ茶が未だ湯気を上げている
「だめだぁー 考えがまとまらないぃーーー」
(頭から・・・ 離れん あいつのことが・・・ 裕美 僕はどうしたら良いんだ?)
しばらく悩んでいた彼は 先ほど目を通した秋山課長からもらったデータを思いだす
(確かに インパクト以降両親のいない子供は多いし それらに対する援助も在る・・・ いや社会的なことは関係ないな 問題は私がどうすれば良いかだ ・・・ それも違うかもしれないな ・・・ ああ 頭から離れない ・・・ !これって ひょっとして恋か?)
結局 自分の考えに コキーン とばかりに固まってしまう朝霧がいる 側では未だ飲みかけのほうじ茶が湯気を上げていた
翌日 朝 学校にて
少し遅れ気味に登校した 寝不足の朝霧が席に着き しばしの惰眠をむさぼろうとしたときだった
「朝霧君」
呼ばれて振り返ると 山岸がいた
「どうした 山岸」
「次の休み時間 開けておいてもらえますか?」
穏やかだが 鋭さを感じる声に 朝霧は
「分かった」
そう答え 机にうつぶせになる
「屋上で待っています」
そう朝霧に言い 彼女が離れて行く
(なにか私に言うべき事があるようだな・・・)
結局 授業もあまり手に着かないままに一時限目が終わった 山岸が教室から出た少し後に彼も教室を出る
(さて 何が在るやら・・・)
階段を上りきり 屋上への戸を開け 屋上へと出る
「朝霧君」
「少し 遅れたか?」
「いいえ」
「そうか では用件を聞こう」
「ジェノアさんに 昨日何を言ったの?」
「ん? 先ほどの時限では特におかしいとは思わなかったが 何かあったのか? いや これでは質問に質問を返してしまうな昨日は・・・」
朝霧は記憶に残っている限りの昨日の公園での出来事を話す
「と 言うわけだが 昨日その後 彼女に何かあったのか?」
「・・・ 泣いていたわ」
思わず 目を細める朝霧
「何か言っていたか?」
彼女は若干ためらった後
「『あんな奴に何が分かるの』って」
「そうか 『あんな奴か』・・・ 一つ頼めるか?山岸 私が頼んでも一蹴されるだろうからな」
「何をですか?」
「後でメールで送るものを 彼女に読ませてやってくれないか」
「・・・ どうして?」
「『その胸に抱くは』を読んだことがあるだろう 貴女は」
「ええ 浅葱 桜さんの話でしょ たしか最後にヒロインが死んでしまう・・・」
「そう あれが私だ あの話は私を知ってもらうのには実に良く書けたと思うよ」
そう言いきった後で 山岸が驚くよりも先に大声を上げる朝霧
「ああーーーーーーーーーーっ ・・・自分で 言ってしまった・・・」
肩をがっくりと落としたまま視線を山岸に戻し
「蕎麦 どうする?」
「いただきます」
「分かった頼むよ」
「ええ でも浅葱 桜なんて 朝霧君には似合わないと思いますし それに何であんな悲しい話が書けるのですか?」
一度山岸から視線を外した朝霧は 再び視線を戻し
「言っても信じないだろうが『その胸に抱くは』は実話だ それに 結構気に入っているんだがなその名前・・・ 用件はそれだけかな?」
「ええ」
「そうか・・・」
そう言って彼は逃げるように屋上を後にした 階段を下りるさなか
「散り逝くも 咲くも桜の在る姿 か・・・」
そうつぶやいていた
山岸が教室に戻りメールを確認すると朝霧から一つのブックデータを付属したメールが届いていた それは『その胸に抱くは』のトゥルーバージョンとメールに書かれている 彼女は一度朝霧の方を見てジェノアのいる女子の話の中に入って行った
昼休み
食事を終え 教室の後ろ側の窓から外を見上げる朝霧
(私は 何をしているのだ? あれはあいつの問題だというのに 私は関与してしまった・・・ 裕美 お前ならどう考えたかな・・・ いや 裕美なら 考えるよりも先に行動しているか ・・・そうだな私もそれに習うか)
自らの考えに失笑する朝霧 彼の視線には流れて行く雲のみが映っていた
「朝霧君 ちょっと良い?」
声をかけられ振り返ったその先には洞木の姿が 何か憤慨しているようにも見えた
「ああ 構わないが・・・ ここでは問題が?」
「ええ そうね着いてきて」
「分かった」
言われるままについて行く朝霧 クラスメイトの視線が向けられる
校舎裏に着くとそこに数名の女子がいる 惣流・樺山・帆足・山岸そして朝霧をここまで連れてきた洞木 そのうち惣流・帆足・洞木の三人は朝霧の事を鋭く睨み付ける 山岸は朝霧に何か言いたそうにしているが彼は彼女の言葉を遮るように
「何用か?!」
彼女たちから若干の距離を置いていた彼はそう言った すぐに惣流が
「ジェノアを泣かせたのはあんたね」
「結果的にはな」
「責任 取ってもらうわよ」
惣流が手を握りしめるのを視線も動かさずに視認した朝霧は
「理由はそれだけか?」
彼女らは朝霧の言葉に一瞬耳を疑う
「何よ」
「それだけの理由で私に手を挙げるというのか? 惣流 ・・・もしそれだけの理由で私に手を挙げるのならば 死を覚悟してからにしろ それにこんな事をしても喜ばないだろうな あいつは」
真っ直ぐに惣流の瞳をのぞき込むようにして 脅しなどではなく冷酷に真実を告げる朝霧 惣流の握られた拳は震えたまま打ち出されることはなかった
「朝霧君・・・」
「なんだい?」
「なぜ そこまでにジェノアさんにこだわるのですか?」
「そうだな・・・」
山岸の質問に取りあえずそう答え 朝霧は返答する言葉を静かに紡ぎ 恥ずかしがるでもなく語り始める
「そうだな 結果的には一目惚れ そう言って差し支えはないだろうな・・・
だが 今あいつは環境の変化から受けるとまどいと 何か過去のことが共鳴したのか 非常に不安定に見える 誰かが支えてやらねば自ら瓦解するやもしれん ・・・対抗策としてはあいつが不安をうち明けられるほどに心を通わせた人物が必要だ もっとも私が支える必要はない 残念だが 出来るならば同性の方が望ましいだろうな・・・ とは言え 相手の心を受け入れると言うことは 自らの心が傷つくことも受け入れなければならない それだけは知っておいてほしい それに 私は あいつの心の平安が得られるのならば 結果は問わん」
彼は言い終えた この場にいたみんなが薄々感づいていたことらしく誰も返答しようとしない
(ここまで大胆に言えるとはな 裕美に感謝するべきかもしれん・・・ さて)
ポケットから鉄道時計を取り出し 時間を確認し
「そろそろ時間だ 先に行っているぞ」
そう言って 来た方とは逆の方へと進み 校舎の角を折れようとした時 それは視界に入った
「Genoua・・・」
思わず言葉が漏れる朝霧 背後の女子も驚いている
「聞いていたのか?」
コクン と頷く彼女の瞳をのぞき込むように朝霧は続ける
「では『その胸に抱くは』は読んだ?」
「読みました」
「そうか・・・ では改めて言うよ 私で良ければ 私に君を守らせてくれ 君が望むなら 私の心を 差し出そう」
恥ずかしがるでもなく そう言い切った朝霧にジェノアは
「でも ワタシなんか・・・」
「Genoua Nilvana 君でなくては嫌だ」
「ワタシの事を心配してくれるの?」
「ああ」
「でも 裕美さ・・・」
「裕美が生きていても 私は同じ事をしただろう もし『放っておいた』なんて知れた方が恐怖だよ だが気になるのならば裕美のことは後で話そう」
思わず言葉途中で切ってしまったジェノアに 平然とそして当然とばかりに返す朝霧 若干の沈黙の後
「出来れば 返事を聞かせてもらえないかな?」
まるで何者もおそれていないかの様に じっとジェノアの返事を待つ朝霧に彼女は
「お願いします」
そう返事をした
翌日 通学路にて
朝霧が鞄を二つ持ちジェノアと共に坂を上っている 彼女の表情は吹っ切れたように晴れ晴れとしていた
「ねえ タケオ」
「ん?」
「ありがとう 昨日は私の話を受け止めてくれて それにあなたにとって辛いことまで話させてしまって」
「いいよ 確かに彼女は死んだけど 私がおぼえている限り記憶の中に生き続けるのだから」
「・・・」
「あ 何か変なこと言ったかな?」
「ううん かっこいいなって そう思っただけ それにワタシにも そうしてくれるのかなって思って」
「出来れば失いたくないんだけど もしそうなったときは そうするよ」
「・・・安心して これでもワタシ100歳まで生きるから」
「うーん それだと私の方が生きてるかな?」
「男性の方が早く死ぬんだよ がんばってね」
「努力します・・・」
二人は校門をくぐり校舎へ
この後男子と女子の双方から質問攻めにあうのだが 付け加えておくと碇の姿は朝の時点では確認できなかった どうも遅刻したらしい・・・
数日後の日曜日 昼前・・・
「用具はこれでよし」
胸の部分にかわいくPYOPYOとアップリケされた 萌葱色のエプロン姿の朝霧の目の前には 大量の蕎麦がおかれている因みにこのエプロンは彼の母親が送った物だ
何でこんなに蕎麦があるのかと言えば 結局 便乗者が出て山岸一人ではなく寮のメンバーで蕎麦を食べることになったのだった
結局送ってもらった蕎麦を全て消費することになって 思わず朝霧がため息をついていると
「お待たせしました・・・ どうしたんです? ため息なんかついて」
そう言ってジェノアも家庭科で使うエプロン姿で寮の食堂の厨房の方に入ってくる
「私もこの蕎麦は好きなんだよ でもせっかくいっぱい送ってもらったのに全部無くなるんだもんなぁー・・・」
「ぼやかない ぼやかない ワタシは何をしたらいいの?」
「えっと・・・ じゃあジェノアには取りあえずお茶の方をお願いします お茶の葉はそっちにおいてあるから ・・・ いれ方分かる?」
「大丈夫です」
「じゃ お願いしますね」
そう言って視線をふと大釜・・・ とでも言うような大きな鍋の方へ移す 先ほど火に掛けたばかりなのでまだ水である それを確認した彼は食器棚から汁碗を取り出し食堂のテーブルに並べてゆく
「まだ 早かったでしょうか?」
振り返ると山岸が 食堂の入り口から顔を覗かせるようにしていた
「そうだね まだかなり早いよ 出来れば人数の確認をお願いしたいのだけど・・・ いるでしょイレギュラーが・・・ 例えば惣流とか洞木 あと・・・鈴原辺りもそうなんじゃないかな? お願いできますか?」
「霧島さんもいらっしゃってますよ」
「そうか とすると・・・ 霧島・大和・ムサシ・惣流・如月・帆足・鈴原・相田・浅利・洞木・樺山・山岸と私とジェノアさらに枝黒で15名・・・ と予測しているのだが あとイレギュラーとして碇・葛城と言ったところか・・・ 布吹らは今日は街へ出ているから来ることはないだろうしな (しかし小畑が大の蕎麦嫌いだとは知らなかったな まあアレルギーではないだろうから 蕎麦饅頭あたりでも送ったら反応が楽しいだろうけど・・・)」
「じゃあ 確認してきますね」
「悪いな お茶でもいれて待ってるよ」
そう言って 離れて行く山岸に手を振る朝霧
「タケオっ」
「なんだい?」
振り返る朝霧 ちょっと憤慨しているジェノア 彼女は朝霧の手首を鷲掴みにすると調理場の方へと引っ張って行く 引きずられるように後を着いて行く朝霧の表情は楽しそうだった
半時後・・・
「ジェノア 出来れば君にも蕎麦を味わってほしいのだけど・・・」
「タケオの手伝いがしたいです」
朝霧は変な日本語だなと思いながら
「ではやり方はそうめんを作るときと同じです お願いできますか?」
「もちろん」
程なく第一陣というべき蕎麦が茹であがる 鍋一杯に茹でている蕎麦を次々と流水が注がれているざるの中にすくい上げては放り込む朝霧 ジェノアはそれを大量の水で熱を奪いよけいなぬめりを洗い落とす 朝霧は次に茹でる蕎麦を釜にほぐしいれた後すぐに 彼女の隣でざるの代わりの平皿を並べて行く
「タケオ」
ジェノアは朝霧の名前を呼び視線を合わせる 彼はそれに頷くことで答えた 盛りつけが始まる 彼女が盛りつけた皿をトレーに乗せ代わりに別の皿を用意する ぴったりと合った息とでも言うのだろうか 次々とトレーは盛りつけられた皿で埋まった
二人でトレーをテーブルに運ぶ 一皿辺り約半人分の蕎麦が盛られていた ざるがなかった苦肉の策だがそれはほとんどわんこ蕎麦である
それらとは別に朝霧は離れたテーブルで待っている寮の管理人の枝黒さんに三皿の蕎麦を置く
「枝黒さん 私の実家から送ってきた蕎麦です つゆの方もそば屋を営んでいる親戚に分けて持った物です どうぞ」
彼はつゆの中に用意された薬味を入れながらに聞き
「蕎麦か美味しそうだな ・・・いただきます」
彼は箸を延ばし つゆを少々麺につけ蕎麦をすすった
「朝霧君」
「はい(なんか 失敗したかな?・・・)」
「良い物をありがとう」
「喜んでいただければ それ以上のことはありません お変わりが必要であればご自由にどうぞ」
内心どきどき物の朝霧はそう言って彼のテーブルから離れた
テーブルを見渡すジェノアはタケオに言われて誰が来ているかを確認する
「マナさんに アスカさんに マリエさんに ミズキさんに アキさんに 大和君に ムサシ君に 鈴原君に 相田君に 浅利君に 碇君に 枝黒さん」
ふとマナが食べる手を止めて
「ねえ ジェノアは食べないの?」
「え? ワタシは後でタケオと食べるから」
そう答えると さらにマナは
「二人っきりで?」
「・・・ええ・・・」
答えはしたがほのかに顔が赤くなっているのが分かるジェノアだった
第二陣が茹であがる頃になって どこからか嗅ぎつけたのか秋山と葛城が入ってきた
「坊主 あとで大野もくる用意してやってくれ」
「朝霧君 五人前用意してね」
それぞれの言葉に返事をし
「どうも 時間がたつと予測を越えてしまうようだな・・・」
「タケオがお昼時に作るからよ」
ふと時間を確認する 調理中ということもあり鉄道時計ではなく壁掛け時計で
「ほんとに お昼だな・・・」
自分たちの蕎麦が残っているか 非常に不安になった朝霧だった
結局 大好評であったものの二人は蕎麦にありつくことは出来なかった・・・
「ジェノア 今から片づけが終わったら地上に上がろう 美味しいそば屋を見つけてあるから」
「はい ・・・あ ワタシが奢りますね」
「しかし・・・」
「タケオの財布の残額ぐらい知ってます ですからワタシが」
「じゃあ お願いしますね」
「ええ」
もうすぐ夏休みがやってくる一学期最後の日曜日のことだった
一人の青年が花束を持って山奥の小さな寺の墓地にやってきていた
そして一つの墓の手前で立ち止まり 墓の前に歩み寄り 彼はその周りの雑草を取り 墓をきれいにして 持ってきた花束を生け 手を合わせた
長い沈黙だけがあった 木々が風にそよぐ音と蝉の声だけが沈黙に広がっていた
その終焉に涙を拭うと 儚くほほえむ彼は 墓の前から静かに立ち去る その墓の碑には幼いながらも彼が愛した人の名が刻まれていた
END
でジェノアさんのことですが
彼女作ったのは良いのですがどうも性格粗造が上手くできなかったみたいで 彼女には申し訳ありませんです 結局 私が書きやすい人物朝霧君の非保護者 あいや恋人として動かすことに決めました
また彼女は故あって心を許した朝霧にいろいろな面で甘えます 彼はその理由を知っているため 可能な限りその甘えにつきあいます 勿論無理なことは無理といいますし 時には叱りつけたり 諭したりもします
さらに二人の関係は
優しく風が吹く草原で朝霧の膝枕にジェノアが頭を置いて幸せそうに寝息を立てている と言ったイメージで書いたつもりです
枝黒さんの書き方どうでしょうか・・・