よって このデータが本編である「黙示録 エヴァンゲリオン」に合致しなくとも
当方は一切の責任を負わないものとする
それによって受けるショックなどにも当方は一切の責任を負わないものとする
今回もしまぷ(う)がジェノアさんと朝霧君の深淵を語るべく・・・
ま こまかいことはこの辺りにして・・・
行ってみよぉーっ!
二人の日常 或いは平穏な日々
例えばこんな なつやすみ 後編・・・
空港で借りた車から降りる
燦々と照りつける太陽 その光りにとけ込むような白い教会
一組のカップルが教会から現れる 待ち受ける人々に祝福されて
新郎の顔は霞んでよく見えないが 新婦の方は紛れもなくあの人だった
私はその様子を人の輪の縁で見守っているようだ
あの人は 今までに見たことの無いような笑みを見せていた
私も自然と笑みを浮かべていた
あの人がブーケを投げる
とても高く 投げられたそれは
私に降り注ぐ日の光を遮り
私に命中した
そして あの人は気付いた 私がここにいる事に
私は落ちたブーケを拾おうともせずに あの人に手を振る
あの人も手振ってくれているのが見えると
私は身を翻し 時間を確認してから止めてあった車に乗り
空港に向かった
もう かける言葉は見つからなかったから・・・
朝 朝霧の部屋
数週間ぶりに見た夢に
「やれやれ・・・」
頭をかきながら夢を思い返し 思考を自らの混沌の中に沈めた朝霧は そんな感想を呟き 部屋は再び沈黙に包まれた
昼前 朝霧の部屋の電話が鳴る
部屋の隅々まで広がる音
6回コールした後
『はい こちら0xxx-xxxx-xxxxの内線番号xxxxです ご用の方は発信音の後 メッセージをどうぞ』
お約束な発信音の後
『模型店ヘリオスのナッキャです 浅葱君? いないの? しょうがないなぁ 例の物スペースとれたから また連絡して』
そして 電話が切れた
「そうか・・・ また忙しくなるか」
隣の図書館と化している部屋の ネットから切り離されたサーバの前に朝霧はいた
「それはそうとして コンポーネント型ネットワーク形成ウイルスか 作ってみる価値はありそうだな」
彼はサーバーの状態を映すいくつものパネルを前にキーを叩き続ける
ふとその指が止まる
「もう一台PCが必要か いやネットワークが必要だな・・・ 大野さんに見繕って貰うとするかな」
呟きプログラム仕様を思いつく限り書き込んで行く朝霧だった
それからしばらくして 玄関のホーンが鳴る
データをセーブしログアウトして 玄関に急ぎ 戸を開けた
「大和か どうした」
「遊びに来た」
「そうか」
あっさりとしたやりとりのあと二人は部屋の中へ だがしばらくして二人は部屋から出て行くと 地上へと寮を後にするのだった
夕刻 技術部三課
「失礼します」
「おう浅葱 まだ例の雑誌の発売日じゃないぞ」
「いえ 大野さん 今日は相談がありまして」
「PC関係だろうな」
「ええ ネットワーク上で動作するプログラムを作ろうと思いまして その相談に」
「そうかそうか よしよし」
「で これがだいたいの仕様書です」
大野にプリントアウトしたネットワークの仕様書を差し出す 受け取り目を通す大野
「浅葱」
「はい」
「結構金かかるぞ?」
「ですから 大野さんに相談しているんですが」
「今忙しいからなぁ 少し時間がかかるがそれでもいいのか?」
「ええ 時間の方は構いません お忙しいところを割いていただいているのですから」
「分かった」
「ではよろしくお願いしますね」
一礼をして朝霧は部屋を後にした
「やれやれ 本気か浅葱は・・・」
大野は秋山から回ってきたメモを引き出しの中から取り出し確認した
浅葱が作ろうとしている物の本質がなにかそこには書かれていた
「まあ 分別はある奴だから大丈夫だと思うが・・・ 使えるな これは」
保安部二課 モニタールーム
技術部三課を出て行く坊主の姿を映し出しているモニタから視線を戻し
「あの坊主がな ・・・今にして思えばあの時の坊主の瞳の色も そう言う事だったんだな」
そう感想を述べ ファイルを 作戦課に提出する書類を閉じた
その中には"その胸に抱くは"のトゥルーバージョンも含まれていた・・・
ふと坊主が自己の様相を指して言った言葉を思い出し 声にしてみる
「Broken Heart か ・・・いや今はBroken Heartsだな・・・」
数日後 登校日前日 昼
「♪〜 傷つく事は怖くない だけど決して強くない 〜」
そんな歌を歌いながら 朝霧は自分の部屋の台所で腕を振るっていた メニューは鍋焼きうどんである
既に白菜や水菜等の野菜類 衣を多めにして揚げた南京やサヨリなどの揚げ物類 等の具の用意が出来ており後はそれぞれに煮込むだけとなっていた
「そろそろ いい頃かな」
呟きつつ時間を確認し 具などをのせた土鍋を火にかける
「♪〜 夢のかけらに 想いをのせ 遙かに放つは 希望
懐かしい日々の思い出も今は もうなんの意味もなさない
培った知識でさえ今より先の 未来に希望も放てはしない
崩れ行く大地 朽ち果て行くそら もう誰にも 止められない
時が閉じる その前に ただ一つの願いを抱いて
奇跡よりも ただ一つの 願いを込めたその想いを
何も届かぬ遠くへと ただ放ちたいだけ
時の魔法を見せてくれ 全てが滅ぶその前に
時の魔法を見せてくれ だれもが信じたその夢を
何も届かぬ遙か遠く 彼方へと解き放て 今 〜」
しっかりとTVサイズよろしくカットされた曲を歌い終えると 火を止め蓋をした
ふと 浮かれている自分に気付く
「こんなに・・・ あの人と在るのが うれしいのかな」
呟き 鍋をテーブルに持ってくる 冷蔵庫でよく冷えた麦茶を取り出し 湯気の立つ鍋焼きうどんに箸を延ばすのだった
食事もその片づけも終わり ネットワークから切断した自分の部屋のパソコンに向かっていると 来客を告げるホーンが鳴らされた 彼は作業していた物を全て保存しソフトを終了させるよう操作して 玄関に急ぐ
「はい いらっしゃいジェノア」
彼女のみに向けられる 作り物ではない朝霧の仄かな笑み 彼女はその笑みを快く感じそのまま彼の部屋に入って行く
二人はダイニングのテーブルで向かい合って 夏休みの宿題をしている
集中しているのか特に会話はない
紙の上をペンが走る音と キーを打つ音だけが広がる部屋に 時間を知らせる電子音が響く
「もうこんな時間か」
「何時ですか?」
「3時だ 休憩にしようか」
「はい」
「では 桃でも出そう」
冷蔵庫から桃を取りだし水洗いし包丁を使って器用に皮をむいて行く朝霧
ジェノアは立ち上がり ふと視線を朝霧の部屋の方に向ける
朝霧の視界の端に 彼の部屋へと入って行くジェノアの姿が映るが 特に気にとめることなく彼は桃に包丁を入れる
彼女がこの朝霧の部屋に入るのは ダイニングまでは良くあることなのだが その奥の部屋に入るのは珍しい事だった もっとも今までに図書館以外の用件で朝霧の部屋の中に入った人間も結構少ないのだが・・・
木製の丈夫なハイベッド その下の机とパソコン 洋服ダンスに金庫 ハイベッドの下にもうけられた収納スペースに普段使わない物が置かれている
いろいろと部屋を見渡した後 ジェノアの視線は壁に掛けられた鉈と二振りの刀に向けられた
桃を剥き切り終え皿に盛りつけた朝霧が部屋に入ってくる 彼は壁に掛けられた彼の得物に視線を向けているジェノアに声をかける
「どうした?」
「タケオ 新しく買ったのですか?」
「いや 前からあるが」
「でも 刀が増えてます」
「ああ これか 模造刀と言って刃のない刀だよ 神無月と同寸同質量のね」
と 言いながらそこからそれを取りだす
「でもどうしてですか?」
「そうだな 自分を鍛えるためかな・・・ 前に来たときは修理に出していたからね」
刀を納めている袋を解き開き 刀の鞘まで引き下ろし 刀を少しばかり抜く
「あ これ神無月の方だ」
見ると普通ならば峰となる部分に刃が施されている
「あの これ・・・」
「ああ これはな」
言いつつ 鞘から抜き去る
逆反りの日本刀の姿
「祭器 神無月だと聞いている」
「祭器?」
「昔のことだからな 詳しいことは知らないが 邪を払い清めるのが目的だったようだ」
説明しながら朝霧は神無月をしまう
「さあ 桃を剥いた 食べようか」
「はい」
二人は部屋から出て行く 戸が閉められる
少しして とても高い鈴の音のような金属音が静かに部屋に広がった
翌日 登校日当日 朝
(あ 頭が痛い なんかふらふらする)
ベッドから降りたジェノアは 体の不調を感じつつも いつものごとく目を覚ますために シャワーを浴びるために 順次服を脱ぎながら浴室へと歩いて行っている つもりだった
「あ(なんで顔の横に床があるんだろう?)」
寝ぼけた声のままに言葉が発せられたが 自分が倒れたことにも気づいていない
もともと朝に弱いので 朝一にシャワーを浴びて目を覚ます彼女だが そんな事に気づけないほどに弱い訳ではない 普通は・・・
一秒 二秒・・・
意識がはっきりしないのを自覚した彼女は
辺りを見渡す
視界がはっきりしない・・・
立ち上がろうと体を動かしたとたん ふっと 視界がブラックアウトし
「たすけ て・・・」
そして 意識が閉じた
朝 野辺山中学 クラス2−A
「大丈夫か 朝霧」
「ああ 多分な」
そう大和に返事を返しつつも 両手で頭を押さえている朝霧 今朝地上行きの電車に乗ってから頭痛が止まらないのだ
「保健室に行って来た方が良いんじゃないのか?」
「そうだな そうする ・・・帰ってこなかったら荷物を頼む」
「ああ まかせろ」
「任せる」
そう言って 朝霧は立ち上がり ふらふらと教室から出て行った
「大丈夫かよ ほんとに」
ふらふらと廊下を階段へと進む
(サーバーのメンテの為 長時間作業していたのが悪かったのか? 原因はなんだ? 偏頭痛というのは嫌だな 頭痛薬は常備していないし・・・)
ふらふらした足取りのまま 階段を下りる朝霧に階下から上がってくる尾上が気付き 呼びかける
「・・君 朝・君」
(ひぃー 外界の音が頭に響くぅ ああ蝉の声までが敵なのね・・・)
脳髄まで彼女の声が達していないのか 階段を危なげに下りて行く朝霧
「朝霧 健夫君」
(はれ だれか 呼んでいるのか?)
踊り場で尾上の前を二三歩通り過ぎ やっと誰かが呼んでいることに気づき 振り向き瞳の焦点距離を合わせる
「あ (はう 振り返るのも辛い・・・ 尾 上?)」
「あ じゃありません」
「そんなに 声を 上げないで(ガンガンひびくから)」
いつもとは違う弱々しい口調に ようやく尾上は朝霧の異常に気づき
「どうしたの朝霧君」
「頭痛です 保健室に」
それだけ言葉を発し 朝霧は階段を再びくだりはじめる
尾上は朝霧のふらふらとしつつも比較的安定した足取りを見て 教室に向かった 久々の騒がしい教室へと
コンコン そんなノックとほぼ同時に戸が開き
「失礼します・・・」
「どうしたの浅葱君」
保険医の佐久間が片手で頭を押さえている朝霧に気付きいすから立ち上がる
「頭痛がひどくて」
「どんなふうに?」
「・・・ 形容しがたい 例えるならばジェットエンジンのエンジン音をもって 5.1chサラウンドで 直接脳髄に揺さぶりをかけるような ・・・感じです」
「そ そう」
かなり例外的な答えを返す朝霧に 佐久間はそう言うしかなかった
彼はそのままジオフロントに運ばれCTやMR等の検査をフルコースで受けるのだった
あれ?
そっか ワタシ気を失って
今日は学校に行かないと・・・
でも ここはどこ? それにワタシの身体が見えない どうして?
「ここは 私の記憶」
あなたは誰?
「私は あなたが知っている人 でも私はあなたを知らない」
どうして?
「・・・見て そして知って欲しいの・・・」
どうしてワタシが?
「あなたに 知っていて欲しいから ・・・あなたに送ります」
なに? これは
誰?
小さなの男の子・・・
あ あれは 猫? どうして死んだ猫を抱いているの 何がそんなに悲しいの 悲しいこともまだ分からないの?
瞳が この子がタケオ?
あ 一緒にいる 女の子は? だれ?
仲 いいんだ・・・
うらやましいな
軍人? 違う脱走兵か何か 正規の軍人じゃない こっちに来る
隠れるの? 逃げた方が
見つかった えっ 嫌っ 何を 離して っ ・・・
・・・紅い
血?
タケオ?
殺し た の?
タケオ 後ろ
・・・この子 震えている 怖いのね タケオが
タケオ もういいの
タケオ そう人ももう死んでいるの
タケオ やめて そんな何かにとりつかれたように壊すのは
もう その人達は 死んでいるの!
この子は 守られたんだから!
タケオ お願いやめて!
もういいのよ!
あなた血だらけじゃないの・・・
なにが そこまでさせるの?
ねえ 砕いていないで答えて
お願い
だから
タケオ・・・
優しい瞳・・・ でも
嫌っ そんな どうして? どうしてこの子は
・・・ そっか 怖かったんだ
だから 逃げ出したんだ
ここは
いつもタケオが座っている芦ノ湖の公園のベンチ タケオの隣に座っているのは誰?
この人 身体じゃない 心だけがここにいるんだ
この人もタケオも泣いている 心が悲鳴を上げているのが分かる
最後までこの人のことを見つめ続けていたのね タケオ
この人は・・・
「お願いがあります」
どこにいるの?
「あの人に ありがとうっ て伝えて 下さい」
・・・泣いているのね
「お願いです」
それは 自分で言うべき事よ
「そんな これ以上は・・・」
あ 待って
気がつくとジェノアは 病院のベッドの上にいた 夕日のものだろうか紅い日差しが静かに窓から差し込んでいた
「・・・・・・・・・・・・・・ ゆ め だったの?」
意識がはっきりしてくると 手に触れている何かと 足の方に何か覆い被さっているような重量感を感じ 身を起こして視線を向ける
「あ・・・ いてくれたんですね」
そこにはジェノアの右手に触れたまま寝息を立てている朝霧の姿があった
よく見ると入院患者用のガウンを着ている
「タケオ?」
「・・・ 後五分 四分三十秒でも良いから・・・ お休みなさい・・・」
寝言が聞こえる
「夢の中で寝るの? この人は」
無意識に微笑みを返し 朝霧の頭を優しく撫でる 前にタケオにそうしてもらったように・・・
しばらくしてノックのままに 看護婦が部屋に入ってきた ジェノアは朝霧の頭に手を置いたまま入ってきた看護婦を見ている その入ってきた看護婦はこの状況を見て
「あらあら 浅葱君たら」
「浅葱? 朝霧の間違いではないのですか?」
「あら いいのよ浅葱君で 彼の 朝霧君のペンネームだから」
「はぁ・・・」
「そろそろ 食事時なんだけど どうする? 二人とも検査結果に異常はなかったから退院許可降りてるけど」
ジェノアは視線を一度朝霧の方に向け しばらくは起きそうにないことを確認して
「・・・もう少し もう少しこのままいても 良いですか?」
「退院の方は 明日の朝になるけど いいの?」
「はい すみませんが お願いします」
「じゃ食事の方はこっちに運んでおくわね」
「はい すみません」
「じゃ ごゆっくり」
看護婦が出ていった後 ワタシは再びタケオの髪を優しく撫でる
部屋に広がるのは ただ彼の寝息だけだった
それからしばらくして
「ん あ・・・ ジェノア・・・ 気が付いたんだね」
言葉から安堵の表情が見て取れる朝霧をじっと見つめながら
「タケオ その 一緒に いてくれたんですね」
「初めからではないが 気が付いたときに一人だと寂しいだろ?」
「ありがとう ・・・でも寝ていたんですね」
「ごめん」
「じゃ その代わり」
ワタシはタケオの耳元で・・・
「いや しかしだな」
あからさまにうろたえるタケオ
「タケオはワタシの物なんでしょ?」
「はうぅーーーーー」
情けない声を上げるタケオを丁度背中から抱きしめる 決して大きくはないけど この背中が好き・・・
数日後 夕刻
技術部三課からの帰り 上りエレベーターを待っていた朝霧の前に 下りのエレベーターが止まった
「あ どうも」
降りてきた 赤木博士に反射的に挨拶をする朝霧 彼女はエレベーターの中の誰かに視線を向けた直後 朝霧に気付くなり
「あら 丁度良かったわ浅葱君 ちょっと良いかしら?」
「構いませんが なにかご用でしょうか? 赤木博士」
「シミュレーターの動作チェックしたいのだけど 頼まれてもらえるかしら?」
「構いませんが ・・・なにか 改良でもしたのですか?」
「ええ それから ついでに試作データのレポートも頼まれてくれる?」
「試作データと言うのは?」
「前に もっと強力な大砲はの要望から 試作データが上がったわ あとプログナイフの改良型もデータは用意してみたのよ」
「分かりました お受けします」
「そう じゃあシミュレータールームに20分後 お願いね」
「はい」
答えた朝霧の視線の先 赤木博士は部屋へと戻っていった
14分34秒後 シミュレータールーム
「あら 早かったわね もう少し待ってもらえる?」
朝霧が会釈をするよりも早く 赤木博士は言った
「はい」
「 っと それからもう一人被験者がいるから 浅葱君の良く知っている子よ」
「そうですか」
返事を返し壁際のベンチに腰を下ろす朝霧 程なくシミュレータールームの入り口が開くそこには
「お待たせし・・・ タケオ」
プラグスーツに身を包んだジェノア・ニルヴァーノの姿が 朝霧の顔を見ている
「どうした? 私の顔に何か付いているのかい?」
「いえ 隣良いですか?」
「ああ どうぞ」
「・・・? そう言えばジェノアはシンクロテストをしないんだったな だがどうしてプラグスーツを着ているんだ?」
「何でも 適格者の皆さんは今シンクロテスト中らしくて それでシンクロテスト経験が少しはあるワタシが代わりにと 赤木博士がおっしゃってました」
「そうか しかし・・・ よくサイズの合うプラグスーツがあったな」
「四号機関連で使っていた物です・・・ サイズを取ってからかなり経ちましたから その・・・ これ少しきついんです」
「なるほど では最後の と言う事かな」
「そうだと思います」
話し込んでいる二人に近づいてくる赤木博士
「そろそろ良いかしら」
「「はい」」
「今回のテストはシミュレーターのデバッグ作業を含んでいるから 考えられる限り全ての現象が起きるわ それと同時に全てのオプションを使用可能よ」
「全て ですか?」
「そう 全て・・・」
全てそう言われて しばし考える朝霧
「良いかしら 浅葱君」
「はい」
それから赤城博士は 今回での注意事項と用意したデータのレクチャーを二人に施すのだった
「・・・浅葱君はシミュレーターマシンで ジェノアさんはシミュレーションプラグでテストにのぞんで貰います」
「分かりました」
「タケオ 手加減はしないと・・・」
「無論 その代わり」
「はい」
「じゃあ ジェノアは用意したシュミレーションプラグの方へ 浅葱君はシミュレーションマシンで準備して」
「ジェノアさん こっちへ」
技術部の人に案内され 彼女は朝霧に手を振りこの場から離れて行く
「浅葱君」
「はい」
咎めるような言動ではなかったので 視線を赤城博士の方に向ける朝霧
「浅葱君にとってジェノアはどんな人なの?」
「守るべき主にして 私の心を託したmono ・・・ですね」
「そう」
戸惑ったような視線を向ける赤城博士に朝霧は
「では 私もシミュレーションマシンの方に移ります」
そう言って彼女の返事も待たずに 駆けだして行った
「あの子 本気かしら・・・」
シミュレーターに入り起動シーケンスを開始する シーケンス中に表示される現状を示す映像の後 視界が開く
「あれが 四号機か」
ケイジに固定された状態で隣に映し出されるEvangelion 四号機 朝霧がイフする物体の一つ・・・
「さて・・・」
全データウインドウを透過率70%に設定し一気に広げ 視認し 戦闘に必要なウインドウだけを残す・・・
「(状態 ノーマル)準備完了」
『少し待ってちょうだい ジェノアさんの方が未だ終わっていないから』
「了解」
朝霧は短くそう答えると 一度瞳を閉じる
どれくらい時間が経っただろうか 赤木博士の声が届く
『二人とも テストを始めるわよ』
そしてテストは始まった
赤木博士の話によると 今回のテストは シミュレーションシステムのヴァージョンアップ後のチェックと 二つの試作データのデータ取りが目的とのこと
予測以上に作業が早く進み 被験者を捜す前にヴァージョンアップ作業が終わったので 急遽被験者を捜そうと部屋を出たところで ジェノアと遭遇し 作戦課からの帰りしに朝霧に遭遇し それぞれに頼んだと言う事だった・・・
リフトが地上に到達し安全装置が解除される
彼女は表示される情報を元に タケオとの位置関係を調べ 兵装ビルから取り出したポジトロンカノンの固定具を外部装甲の形で腰部装甲に固定する
プラグの中の彼女はまるで新しいおもちゃを見つけた子供のようで・・・
二つ折りになっているポジトロンカノンを取り出す 二つ折りの状態でほぼEVAと同じ程の長さがあるそれを固定具のマウント部分に会わせ マウント完了の表示を待つ
「タケオ あなたの実力 どれほどの物なの?」
狂喜に歪む彼女の表情・・・
マウントされたポジトロンカノンを振り回すようにして二つ折りに折れていた砲身をのばし固定する EVAの左腕で脇に抱えるようにし EVAの右手でトリガーに指をかけ ノーマルチャンバーを装填しエネルギー注入を始める
彼女の視界がレーダーに映る愛しい人の駆る機体を・・・
ロックもせずに射線軸をタケオの機体に正確に合わせ 静かにEVA04はトリガーを引いた
表示されるいくつかの警告 と 発射の情報
のび行く光弾を見つめる蒼い瞳・・・
『むぅううう!!!!!!』
「凄いわね 彼女 ジェノア・ニルヴァーノ・・・」
「はい射線軸が完全に浅葱君のEVAの重心に向けられています」
即座にデータを検証した伊吹女史は
「ブロークンハーツとはよく言った物ね」
赤木博士の呟きを
「はい? 何かいいましたか先輩」
「いえ 独り言よ」
聞かなかったのは 幸いなのか・・・
「やってるわね」
このブースのメインモニタに映し出される戦闘の様子が視界に入ったのだろう
「ミサト 遅かったわね」
「ちょーっちね」
「でこれが 秋山君の言っていた二人ね」
「ええ」
「今一寸忙しいから あとで報告を聞くわ」
「そう じゃいつもどおりまわしておくわね」
「サンキュ 助かるわ」
そう言って 彼女はここから離れて行った
ダメージが表示される 得られるデータから導き出される攻撃オプションはデータよりパレットライフル
「どこから?」
兵装ビルの陰に隠れて様子をうかがう
ダメージ イエローゾーン・・・
始まって13秒で直撃こそ免れたもののポジトロンカノンの命中を食らい いきなり不利な朝霧だった
レーダーレンジ内の反応 皆無
要塞都市のレーダー網にも反応無し
「影か」
『そんなところに隠れていないで 出てきなさい タケオ』
彼女の・・・ ジェノア・ニルヴァーノの声は狂気に打ち震えているように聞こえた
「・・・ 断る」
全く冷静に返事を返しながら シミュレーターEVAのデータログから音データを取り出し方位を統一して検証する
『そう では仕方ありませんね』
やはり狂気に打ち震えるような声 ジェノアの声だ
開きっぱなしのパネルが エネルギー反応を捉えた 導き出される攻撃オプションはポジトロンカノン 距離7.4Km 方角は音データと一致・・・
「Chance?・・・」
呟く朝霧は 背後の兵装ビルの中身をリモートで確認する 大型のミサイルサイロ・・・
「はて さて」
ポジトロンライフルを構え 兵装ビルに隠れたままに飛び出す用意をしながら ポジトロンライフルとポジトロンカノンの出力比を頭の中で参照する
「そろそろかな・・・」
呟いた直後
『これでおしまいです』
狂気に震える彼女の発声と共に エネルギーの固まりが放たれた表示に反応し 朝霧のEVAはポジトロンカノンの方向の方へと高く飛び出る
「・・・」
着弾したポジトロンカノンのエネルギーはミサイルサイロを中心に大爆発を起こす 爆風にあおられるようにEVAは加速する そのままの速度で着地し一切の減速をせずに走り出す ポジトロンライフルを相手のEVA04に向けたままに
「遠いか・・・」
パネルにポジトロンカノンのエネルギー反応が検知される
『消えなさい』
彼女の声だという確認をパスして ポジトロンライフルをその砲口に向けて連射する ポジトロンカノン側の光弾の出力が弱かったのか 反れ合う光弾はそれぞれにあらぬ方向へとそれて行く
「このままに・・・」
二機の距離はどんどん縮まって行く だがいかんせん遠いようだ
「だめなのか?」
呟きの直後 予測通りにポジトロンカノンのエネルギー反応が現れる チャージ速度からラピッド・チャンバーと推測した
『おいで こっちに そう・・・』
望遠の先のEVA04がポジトロンカノンの砲口をこちらに合わせている
「狂気か ・・・なら酔狂だな どちらにしても狂をもって か・・・」
エネルギー反応が通常発射値に到達した
『終わりです!』
打ち出される光弾
「ふっ」
片手で背中のアンビリカル・ケーブルをつかみ 高く飛び上がる 直後先ほどまで朝霧のEVAが在った背後のビルにポジトロン・カノンの光弾が着弾した
『死になさい!』
飛び上がった朝霧のEVAへと 光弾が連続して打ち込まれる
「死ねるかぁ!」
ケーブルをリバースさせ空中で急停止をかける朝霧 とその彼のかるEVAの上を僅かに外れて行く光弾
『そう じゃぁ』
笑みを含んだジェノアの音声 彼女のEVAはポジトロンカノンをイジェクトしパレットライフルを構える
『蜂の巣にしてあげます』
「やはり(インダクションモードではなかったか・・・)」
着地した朝霧のEVAに 銃口が向けられ トリガーが引かれる 鈍い金属音が広がる・・・
『なっ!』
「ジャムったか? さて」
銃口からは数発の弾丸しか発射されなかったのを確認して 朝霧のEVAが動く
山裾のミサイルサイロが開き無数のミサイルが打ち出され ジェノアのEVAに向かう
『ちいぃっ』
たまらず防御態勢をとるジェノアだがミサイルは彼女のEVAの周囲で自爆する その意味に気が付いた彼女は
「計られた」
直後 鉈のような試作ナイフを逆手に構えた朝霧のEVAが突っ込んでくる
がここでチャンスを逃すジェノアでもない 彼女は至近距離でバズーカを撃ち込んだ
「zan!」
朝霧の気合いと共に真っ二つに斬られる バズーカの弾頭
『shit!』
流れてくるジェノアの声を聞き流しながら 彼のEVAは逆手に構えていた鉈のような試作ナイフを構え直す事もせず
「やれば できるものだな」
冷静に呟きながら 朝霧はそのままジェノアのEVAに襲いかかる
いくつかの攻防 執拗にそして無慈悲なまでに激しく攻撃する朝霧だが
元々ハリネズミのように武装していたジェノアはそれぞれの武器そのものを巧みに防具として使い捨て相手の攻撃を防ぐ
やりとりの中 ダメージがレッドゾーンに達したのを視界の端に捉えた朝霧は
「ここまでか ・・・では」
ボロボロになった試作ナイフを相手に投げつけ 一瞬の隙を誘い 相手と組み合う
現行命令のままに 彼は自爆シーケンスを作動させ 最終安全装置に手をかけ EVA04との通信回線を開き
「桜花は 好きか?」
『What's?』
自爆装置を発動させた
が・・・
「・・・ あれ?」
自爆の情報が入ってこない事に 思わず声を上げる朝霧
『先輩 浅葱君のEVA自爆プログラムに致命的なバグがあります』
そんな 外部からの伊吹女史の音声が 朝霧の脳髄に届いたのは7秒後だった とっくに朝霧のEVAは大破 沈黙している
「・・・・・・やれやれ」
無粋なシートに身体を預けるようにもたれかかり 彼はそう呟いていた
『二人とも お疲れさま それぞれに終了して』
赤木博士の声が耳に届く
『いろいろ無茶をしてくれたおかげで 修正個所がはっきりしたわ』
『これで また残業ですか・・・』
伊吹女史の呟きを最後に通信を閉じた
「しかし彼も 精神的には異常ね 戦っている間少しとは言えα波が出続けているなんて シンクロはしているし楽しんでいるようには見えないし 他に異常は全くないし やっぱり報告の通りなのね・・・」
「先輩?・・・」
「マヤ あの子の事知ってる?」
「浅葱君ですか?」
「ええ」
「少しは・・・ 図書館にはお世話になっていますし」
「じゃあ "その胸に抱くは"っていう話しを知っているかしら?」
「はい浅葱 桜さんの話ですね 幼い二人の切ない話でした 先輩も読んだんですか?」
共通の話題がもてるとでも思ったのだろうか 伊吹女史は嬉しそうだ
「あれ実話よ 浅葱 桜は 浅葱君のペンネームなの」
「は?・・・ 」
言われたことを もう一度自身の中で確認しなおし 彼女は問いかける
「先輩?」
「さっき 加持君から聞いたの」
「デバッグは大変そうだな」
シミュレーターから出てくるなり朝霧は呟いた 彼女の ジェノアのシミュレーションプラグはこの部屋とは別の部屋にあるので姿は見えない
「更衣室前で待っておくかな」
そんな事を呟きながら彼はシミュレーターマシンから 赤木博士や伊吹女史のいるコントロールブースへと足を進める
「あ 浅葱君・・・」
伊吹女史の戸惑ったような呼びかけに
「はい 何でしょうか」
彼女は恐る恐る まるで壊れ物でも扱うがごとく朝霧に尋ねる
「"その胸に抱くは"が 実話だって言うのは 本当なの」
「まさか あれそのものは実話ではありませんよ 後でデータを送ります プライベートアドレスで よろしいですね」
いつものことです とばかりに返事を返す朝霧に 伊吹女史からの言葉はなかった
「ところで赤木博士」
「なに? 浅葱君」
「レポートはどうしましょうか」
「そうね シミュレーターそのものに対するレポートと使ったナイフの試作データ あと使われたポジトロンカノンの試作データもお願いするわ」
「分かりました もうよろしいでしょうか?」
「ええ お疲れさま」
「では お先に失礼します」
結局 伊吹女史は 朝霧に声を掛けることができなかった
閉じてしまった扉に視線が向けられたままの伊吹女史に 赤木博士は
「ああいう子なのよ あの子は」
そう言って作業の指揮を始めるのだった
更衣室前の廊下に設けられた休憩室のベンチに静かに座って 最近購入した小型携帯端末のキーを叩いている朝霧
更衣室の扉はどちらも朝霧の背後にある 彼はアイディアを考える傍ら 目の前にある観葉植物の葉脈に沿って視線を走らせながら時間をつぶしていた
しばらくして 女子更衣室の戸が開き ジェノアが出てきた 彼女は朝霧がいることを確認して彼に近づく
が ふとその足が止まる LCL そして血の匂いを感じるときと同じ自分を思いだし その足がすくむ
(タケオに見られたんだ・・・ あんなワタシを・・・)
冷静に朝霧の性格から考えれば 一笑に伏すような事なのだが 今の彼女はそこまで冷静にはなれない
ましてや もし嫌われたら という状況が彼女の脳裏を駆けめぐる
足が 勝手に駆けだしていた
「ん? なにか急ぎの用でもあるのか? 困っていたようだが・・・」
そんな事を呟き 行ってしまったジェノアの後を追いかけるようにして 朝霧はこの場を後にした
深夜 朝霧の部屋
とても高い鈴の音のような金属音が静かに部屋に広がる 2度 3度と
静かに 部屋の中に広がる
その音を目覚ましにするように 朝霧の意識が起きる
「胸騒ぎがする」
そんな事を呟き横になっていた身を起こし ベッドから降り 時間を確認する
「2時半か」
やれやれ とでも言いたそうな呟きのままに彼は台所へ赴き 玄米茶を入れ 一人静かに啜る
「もう今日だが 朝になってから会いに行ってみるか」
あれからジェノアを探した朝霧だったが結局見つからず 時間も遅かったので途中で断念したのだ
もちろん彼女の部屋にも内線を掛けてみたが返事はなかった
そんな事を思い返しながら 湯飲みの中のお茶を半分ほど飲む
目が覚めてしまったので これからの時間をどうつぶそうか考えようとしていた
自らのカオスに沈めようとしていた思考に 突然 ノイズが走る
「ん? 誰だ?」
あげるべき悲鳴をあげられない そんな感情のノイズだった 以前にも感じたことがあるそれは
「ジェノア・・・」
ほぼ同時刻 ジェノアの部屋
朝霧とつきあい始めてからあつらえた真綿の掛け布団にくるまるようにして 彼女はベッドの上に座り込んだまま呟く
「タケオ」
呟くと 寂しさで心が震える
「・・・ タケオ(ワタシを守ると言ってくれた人)」
ベッドの上で足を抱えうつむいたまま
「ワタシ 馬鹿だ(どうして 怖かったんだろう)」
彼女は呟く
「なんで 逃げ出したんだろう」
涙声で
「電話にも 出なかったし」
鼻水を啜る音がする
「ワタシ馬鹿だ・・・(嫌われたよね ワタシ)」
呟いた後 そのまま彼女は泣き出した
「・・・ 普通なら 夜這いだな これは・・・ (やはり あの時に直接来るべきだったんだろうか それとも・・・)」
呟く朝霧 彼はそのまま呼び鈴を鳴らす
部屋の中と外にホーンの電子音が広がる
「・・・ 誰だろう」
ベッドから身を起こし 玄関へと歩き出す 途中鼻をかみ顔を洗って 泣いていたことが悟られないように
のぞき穴から外を見るが何も見えない 向こう側がふさがっているようだ
「誰がこんな事を」
少し怒気をはらんだ声で 玄関の戸を開けた
「私だ」
朝霧の声だと気が付くと体が震えた
「っ・・・」
反射的に逃げようとするジェノアの腕をつかみ引き寄せ・・・
(この身長差では・・・)
ほぼ頭一つ分の身長差に一瞬固まった朝霧 仕方なく押し倒すようにして彼女の身体を傾けさせその唇を奪った
しっかりと抱きしめられるジェノアは 逃げるように唇を離し
「嫌 離して」
「離さない だってあなたは泣いていたのだから そして 今も」
視線には複雑な色を浮かべるジェノアの瞳があった
抱きしめる力は一向に衰えない タケオと目があったまま 視線がはずせない・・・
怖がっている自分と 安心している自分がいるのが分かる
・・・妙に 冷静な自分に気付き
「嫌いに ならないの?」
聞いてみることにしました
「なにを?」
「だって 今日のテストの時に見みませんしたか ワタシの・・・」
「ああ それが?」
恐れることを知られない・・・ 違う 迷いのない眼差し タケオ・・・
「え? だって・・・ だから 見られたから嫌われるのが怖くて あの・・・」
「ばかもの」
優しくそう言ってワタシの唇を奪う
とろとろのキス
不安な気持ちも一緒に溶けて行く
どのくらい経ったろうか 唇が離れる
「落ち着いたかい」
「はい でも その・・・」
「ジェノアが私のことを嫌いにならない限り 私はジェノアの物だよ」
「タケオ・・・」
タケオに抱きついたまま 今はあふれ出す涙を止めることは出来ませんでした・・・
「落ち着いたかい?」
優しく訪ねるタケオにワタシは頷いて答える
「そろそろ寝ると良い 朝はまだ遠い」
言いながら ジェノアを立たせるが 彼女は朝霧のパジャマをしっかりとつかんで放さない
しばし無言の二人
「いっしょに いて下さい」
「あっ ああ・・・」
何となく分かっていることを言わせてしまった朝霧は罪悪感のままに
二人は玄関から奥の部屋へと入っていった
朝霧は自分の腕を枕にして あれからすぐに寝入ってしまったジェノアから視線を外し 天井を見上げる
(私は ジェノアが好きだ 出来るなら永遠に共にありたい この人のためならこの命も惜しくはない ・・・だが それは愛なのだろうか・・・)
視線がジェノアに戻る
(もしかしたら 私はただ 彼女の父親代わりなのかもしれん たしかに彼女の心を大切にそしてより強く在るようにと願っているのは事実だ)
「(数日前に見た夢のままに)引きずっているな あの夢を」
呟いた朝霧も瞳を閉じ しばしの惰眠をむさぼることにした
朝 ジェノアの部屋
「すー すー」
そんな 寝息のままに朝霧は寝ていた
それから 少し離れた場所で毛布にくるまったトウモロコシが あいや 緑の毛布にくるまったジェノアが寝ている
朝霧の位置は変わっていないが ジェノアの位置は朝霧に丁度足を向けるように毛布にくるまって寝ている
彼女が寝返りをうつ ともかくも静かな朝の光景だった
何かどたばたと音が聞こえる
「・・・うにぁ 何?」
「大丈夫?」
聞こえるはずのない音声に 彼女は目をゴシゴシとこすり二三度瞬きし 辺りの様子をうかがう
なぜか土足なままのアスカさんに帆足さん とアスカさんの足下に目を回して伸びているタケオ
・・・タケオ?
え?
「タケオ タケオさぁーん」
アスカが二の句を吐き出すよりも早く 彼女は朝霧を抱き上げる その彼の口が動き
「あ 紅い彗星が・・・」
そんな事を呟き 再び沈黙した朝霧だった
数分後
「ごめーん そんな事だとは知らずに・・・ ジェノア まだ怒ってる?」
そう誤る帆足だが 返されるジェノアの表情と視線は やっぱり別物・・・
後日帆足から聞いた話だが この時のジェノアの視線は柳刃包丁を握り 淡々とわたしを活け作りにする料理人の瞳だったという・・・
あれから朝霧をベッドに寝かせ ダイニングのテーブルで三人はコーヒーを飲んでいた
「でもねー 玄関の鍵が開いていて ジェノアが泣きながら寝ていたら 誰だって誤解するわよ」
その一言に 彼女は不意を付かれたかのような視線を向け
「え? ワタシ・・・ 泣いていたのですか?」
「でも アスカ ジェノアさん幸せそうな顔してたよ」
「・・・ そ そんな事より」
やってしまった行為なので 棚に上げるしかないアスカ
「ジェノア 怒ってる?」
恐る恐るジェノアを見上げる
「ひぃっ!」
彼女を見るジェノアの視線は 彼女を恐怖に突き落とすのに十分だったという
「泣いてたのに気が付かなかったのは 起きたときすぐに目をこすったから気が付かなかったんじゃない?」
「・・・ええ ワタシ 朝弱いですから(泣いていたのはたぶん・・・)」
「そう言えば このコーヒーブラックね」
「いつもは すぐにシャワーを浴びるんですけど」
「ところで・・・ ジェノアは朝霧君とどこまで進んでいるの? 知りたいな」
「え?」
「そうそう もしかして もうあげちゃったの?」
「はい? 何をですか」
楽しそうに振ったアスカに 真面目に返すジェノア
「だからぁ バージンよ」
「・・・ !」
一瞬戸惑ったような表情を見せるが すぐに顔を真っ赤にするジェノア
・・・「ジェノアが私のことを嫌いにならない限り 私はジェノアの物だよ」 って言われたときは嬉しかった
今のワタシでは 求められたら断らないかも知れません
でも それでも いいかな?・・・
(どうしようか マリエ・・・)
(そう言われてもねぇ?)
惚気て アッチへと逝ってしまっているジェノアに 視線で会話する二人
「昨日も ワタシを守ってくれた」
真面目にそう言うと 再び顔を赤らめて逝ってしまう
その人物を前にため息しか付けない二人
惣流は逃げるように視線を彼女の向こう 奥の部屋に寝ている朝霧の方に向けたが それがなんの解決にもならないことはよく分かっていた
その日 朝霧は昼からの訓練の最中に質問攻め(主に女子から)にあったという・・・
「やれやれ・・・ 」
呟く朝霧だったが
(しかし あの人に本気で求められたら どうしようか? 説得する自信 ないな・・・ まだ・・・)
「はぁーーーーーーーっ」
深くため息を付く 結構お堅い朝霧君だった
数日後 早朝
「むう・・・」
まだ薄暗い中 霧立ちこめる朝のジオフロント その端
「・・・」
寮からいくつか離れた地底湖の畔で
「二つの意味と 三つの思いを 一つの言の葉にのせて・・・」
その左手に握る一振りの刀を
「せいっ!」
目の前の虚空に向かい鮮やかに斬りつけた
「違うな・・・」
今彼の手に握られているのは 神無月そのものだった
「数えの方が 語呂が良いかな?」
今彼が何をしているかと言えば・・・
刀を虚空に斬りつけながら 彼が今書いている小説に使う良い語呂がないか考えているところなのである
しかも こんな早朝に・・・
いろんな意味で 危ない・・・
彼は刀の峰の部分を肩におくようにして 呟く
「がごめからのぞく空にむかい・・・」
握りなおして中段に構え
「一つの想いと 二つの意味と 三つの願いを・・・」
右手に握る鞘に その刀を納めながら
「ただひとつの 言の葉に重ね・・・」
後ほんの数寸で完全に鞘に収まろうかと言うところで 彼の手が止まる
「続かないな まあ良い・・・」
呟き 再び刀を抜く ゆっくりと・・・
相変わらず左手のみで握られる自身の身長に近い長さの神無月 と右手に握られるその鞘
そのまま彼は瞳を閉じ
「lin...」
一つの言葉を言い放つと同時に 自分の心の中に 小さな黒い闇のような染みを浮かべる
「...kai...」
その闇のような染みと 心の大きさを意識しつつ
「...zen」
言葉と共に静かにその染みのような闇を 一気に 心の隅々まで広げる・・・
再び彼の瞳が開かれる
(Image.approaching)
そして 彼はあたかも目の前に相手がいるかのように刀と鞘を構え 独り戦いを始めた・・・
その戦い方は まるで二振りの刀を持っているかの如く 朝霧は動く
朝霧は剣道・剣術の経験は皆無である ただ刃物の扱い 取り分け鉈の扱いに長けているだけで 刀で斬りつける事自体は自分の知っている物の切り方と 祖父からの知識を忠実にこなしているだけであった
(斬れぬ事を恐れぬ事・斬られることを恐れぬ事・空のままに真を以て心とすること)
ほぼ同時刻 地底湖の畔
「ふぁーーーーーっ」
誰も見ていないのを良いことに ちょっと抜けたようなあくびをするのは 相田だった
先ほどまで部屋で何かしていたのかはともかく 迷彩服を着たままの彼は
「いま 何か音が・・・ こっちだ」
好奇心のままに 何かを振るう音がする方向へと歩いていた
ノイズを感じた朝霧はゆっくりと動くのを止め 静かにその方向に向き直り かまえ直す
気配が 足音が 近づく
いつでも斬りつけられるように 同時に全てにとけ込むかのように意識を広げる
近づく 探求のノイズを発する物体・・・
「朝霧じゃないか どうしたんだよこんな時間に」
都市迷彩を施してある服を着た・・・ もちろんそんな奴は一人しかいない
「(やはり・・・)相田か」
そう言いながら意識を広げたままに相田に返し 神無月を鞘に納める
「朝霧 お前刀なんか持っていたのか?」
「ああ 見ての通りだ」
安心した相田がこちらに近づいてくる
「見せてくれよ」
「だめだ・・・ 代わりと言ってはなんだが そこに模造刀がある それならばかまわない」
「わかったよ」
お互いに性格を知っているためか あっさりとしたやりとりのまま 相田は木に立て掛けられている模造刀を手に取る
「思ったより軽いな」
「模造刀だから刃はないが ほぼ同じように作ってあるとのことだ あまりふざけたまねはするなよ 刃が無くとも人は傷つけれるからな」
「ああ 分かってるよ」
相田は模造刀 とは言っても神無月と同寸の物なので普通の刀のように簡単には抜けない それを何とか抜くと
「これ・・・ 逆刃?」
「いや 同じ様なものだが 逆反りの刀だ」
「何て言うんだ?」
「神無月」
「へえ 神無月かぁ」
同日昼過ぎ
第三新東京の東の山裾 芦ノ湖の畔の公園から比較的近く 元箱根へと続く幹線道路から一歩入ったところに模型店ヘリオスはある 縁なしの大きな丸いレンズが特長のOA機器用の眼鏡をかけたままの朝霧は 麻で出来た買い物袋を片手に店の中に入る
「今日は良く会うな 朝霧」
「なんやぁ お前もこないな所に来るんか」
「今日は 用があったからな」
店で物色している相田と 彼と共に来たのだろう鈴原にそう返し 朝霧はカウンターの方へと歩いて行く
二人の視線の先で朝霧は親しそうに赤毛の女性店長と話した後 戻って来た
「何か捜し物でもあったのか? 朝霧」
「いや そう言う訳ではない じゃな」
店から出ていく朝霧の背中に
「もう 用はおわったんやろか」
「さあ」
二人は呟いていた 二人は朝霧が隣りの家に入って行った事自体は知らないのだった
夕刻
話し込んでいる朝霧の携帯が突然鳴り始める
「ちょっと失礼」
そう言うと慌てずに電話に出る
「私だ ・・・ そうか分かった しばらくかかるがそちらに向かう じゃあ」
比較的短く澄ませた朝霧は
「すみません 呼ばれたので私は行きます」
「そうか よければ送って行くが?」
「 ・・・ では お言葉に甘えます」
「分かった 玄関前で待っていてくれ」
「はい」
朝霧は空になった麻袋を片手に玄関のほうへと歩いて行く
青い軽自動車が街を走る
「商店街の東の端辺りに お願いできますか?」
「了解」
助手席に乗る朝霧と運転するユウロス
ここ第三新東京市は傍目には溶岩台地の上にある都市だ なだらかな丘陵地であるそこは都市が出来る前はゴルフ場などの施設が広がっていたという そのなだらかな丘陵地を中心街の方へと伸びる道路を青い軽自動車は走っていた
取り留めのない会話を交わしている内に 車は商店街の東の端近くにある 大型の食料品店の駐車場に入った
「ああ 買い物でもしていこうと思ってね」
ユウロスは朝霧の方を見てそう言い 車を止めた
「あ」
そんな声を発した朝霧が シートベルトを外しながら外をじっと見ている
「ん?」
ユウロスも彼の視線の先を追う 彼の視線の先には金髪の女の子がこちらに向かってきているのが見えた 程なく朝霧はドアを開き車を降り
「お待たせ」
すく側まで来ている金髪の女の子にそう言った
「さて・・・」
私も とばかりにユウロスも車を降り ドアをロックする ふと女の子の方を見た 視線が・・・
「(うう 視線が痛い・・・ どうも敵意をもたれているような・・・)」
「紹介するよジェノア こちらユウロスさん 彼の奥さんは模型店を経営している」
女の子は一度視線を朝霧の方に戻し それからこちらに向け まるでなめ回すように私を見つめ・・・
「お 男の方なんですか?」
「良く言われます」
驚いているジェノアに平然と返すユウロス 慣れとは怖い物である
「こちらはジェノア・ニルヴァーノ 私の・・・」
口ごもった朝霧にジェノアとユウロスの視線が集まる
「(ううむ 正直に"主"と言ったら ジェノア傷つくだろうなぁ なれば・・・) 私のクラスメイトであり 心のよりどころだ (・・・まあ どちらも間違いではないが 卑怯だな 私は)」
「ほう・・・」
意外そうなユウロスの声を聞いてか聞かずか ジェノアは朝霧に抱きついている
「では お二人さん 私は買い物がある故」
そう言い 軽く会釈をして彼はこの場から離れて食料品店へと歩いて行く
「男の方なんですよね?」
ジェノが 歩いて行く特徴的な色を持つ人物 ユウロスの背中を見ながら呟く
「ああ 間違いない」
「でも どうして一緒に?」
「数日後に ノーススクウェアで所謂コミケがある その準備にね」
「コミケって なんですか?」
「それはね・・・」
朝霧は商店街の方へと歩きながらコミケについて話すのだった
「そうなんですか あタケオ こっちです」
ふと朝霧が見上げたアーケードには 近くの神社の盆踊りの日取りが大きく書かれている
「ふむ」
「タケオぉー」
「ああ 今行く」
ジェノアの後を追って店に入る
大きなサイズの服を専門で扱っているこの店の中を 先に入ったジェノアの方へと急ぐ
「はい タケオ」
思わず渡された服を受け取る朝霧
「タケオは どの色が良いですか?」
「そうだな・・・これを」
浅葱色の物を選びそう言った
「じゃあ下はこっちですね 帽子はこっちの方がいいかな」
ジェノアが選んでいる 服はかなり大きなサイズの物だ 不思議に思った朝霧は
「サイズが大きいのを いったいどうするんだい?」
朝霧の質問に 彼女は笑って返す
「まあいいか」
この事象の先にある状態を予測するのを止めた朝霧は 色々と服を見繕って動き回っているジェノアの側にいるのだった
そんなわけで
「お待たせしました タケオ」
レジで購入した衣服一式を紙袋に入れてもらったジェノアが 朝霧に駆け寄る
「ああ しかしそんなサイズの服をどうするつもりなんだ?」
「前から 思っていたのですが その タケオって背も低いですし かけている眼鏡がとってもキュートです ですから大きな服を着たらよく似合うんじゃないかと思って」
ジェノアの言葉に反射的に自分のその格好を想像してみる
「ううむ(記憶に引っかかる物があるな 何処かで見かけたような はて・・・)」
「あの」
何か考え込んでいるタケオに彼女はもう一度
「あの 着てもらえますか?」
「ああ 着るのは構わないけど」
「けど ですか」
「あいや 普段着にはちょっと向かないかなとな」
袋の中に視線を向けたまま答えた朝霧に ジェノアは苦笑しながら
「それはそうですよぉ でも着て見せて下さいね」
「分かった 所でジェノアは浴衣は持っているのか?」
「浴衣ですか? いえ」
「そうか では行こうか」
朝霧はそう言って進行方向を指さした
「はい でも何処へですか?」
「浴衣を買いに行こうと 思うのだが?」
「え?」
「似合うと思うよ ジェノアの浴衣姿」
二人は歩き出す 愛されることを知っている者と 愛することを知っている者が
夕食後 寮ジェノアの部屋
「タケオ 可愛い」
そんな事を言っている彼女の視線の先には 先ほどジェノアが購入した衣装一式を着た朝霧の姿があった
何度も折り返したぶかぶかのズボン 袖が長すぎて手がかろうじて姿を見せている上着 いつも通りに少しずれたようにかけているOA機器用の縁なしの大きな丸眼鏡 それに程良くずれたようにかぶさっている大きなベレー帽
一見して あどけない子供に見える朝霧の容姿と相まって 凶悪なほどに可愛い
その彼は うっとりして 少し危なげな目つきになっているジェノアの方を見る
二三日で出来ると言う事からジェノアの浴衣は今は仕立て中 朝顔の柄をあしらった生地の浴衣が出来る予定である 彼はその出来上がった浴衣を着た彼女の姿を思い浮かべていたのだった
そんな中 来客を知らせるホーンの音が 一回 二回・・・
「ジェノア 誰か来たようだが?」
「え? あ はい」
(誰でしょう)
そんなことを考えながら彼女は戸を開ける
「あ 今晩はジェノアさん」
「マユミさん どうなさったのですか?」
「あの こちらに朝霧君来てませんか?」
玄関先の声に 朝霧は奥の部屋から
「私に何か」
そう言って 姿を現す
「あ あ あ ・・・」
そう言って玄関先で朝霧を指さして固まっているマユミ
「あれ? どうしたのマユミ」
つい先ほど寮に戻り エレベーターから降りた所で彼女 帆足マリエはエレベーターホールを挟んでの隣人であるジェノアの部屋の前で 何かを指さしたまま固まっているマユミに気付き 声をかけたのだった
彼女はそのままジェノアの部屋の前まで来ると マユミの指さした先を見る
「あ 朝霧 君? なの?」
「うん」
平然と返す 朝霧はふと気付き
「そうか 先日 購入した書籍の中に山岸の注文の物があったな ジェノア 私は一度部屋に戻る すぐ返ってくるよ」
そう言って ジェノアの方を見る
「はい 待ってます」
そう明るく返したジェノアに裏手を振って 彼女の部屋から出て行った あの服装のままで
固まった山岸と ぶつぶつとつぶやき始めた帆足の横を通り抜けて である・・・
彼の部屋はここから一階下 二階の端にある エレベーターホールの隣にある階段を駆け下り 廊下を軽やかに走りぬけ 部屋の戸の鍵を開け中に入った
「ふむ」
靴を脱ぎ そう呟き 自室の隣 図書館となっている部屋の本棚から データに該当する一冊の本を取り出し 貸し出し帳に記載した
部屋を出て鍵を閉めたところだった
「誰!?」
強い口調で後ろから まるで咎めるように声が投げかけられた
(この声は 樺山か そうだな・・・)
相手に背中を向けたまま 朝霧は部屋のキーを袖の下に入れ
「なあに?」
そう 振り向きざまに しかも楽しいという感情を交えて言った
「じゃあ 僕は急ぐから」
立て続けに そう言って 彼女樺山アキの側を通り抜けようとした
「待って」
言葉と共に 服を捕まれる
振り返った朝霧
はたと目の前の子供が彼だと気が付いた樺山は
「って タケオ?」
尋ねた声は裏返っていた
「そうだよ」
思わず 彼の姿を凝視する樺山
普段の朝霧は視線に何か深さを感じるのだが 今の彼の瞳はただ無邪気に物事を楽しんでいる子供の物だった
「本当に あの 朝霧健夫なの?」
目の前の事象 つまり目の前の凶悪に可愛い格好をした あどけない表情での朝霧から あまりにも彼女が描いている朝霧像とのギャップに 再び混乱に陥ろうとする思考を 何とかしようと無意識に出た質問だったが
「違うかもな」
返ってきた答えは いつもの朝霧の物だった
戸惑った様子を見せた樺山に朝霧は
「もしかしたら ・・・いや まぁ良い」
そう言い残し すり抜けるように樺山から離れ 階段を駆け上がって行った
「いったい・・・」
何とかそう呟き 先ほどのほんの十数秒のやりとりを 記憶の中で整理しようとする樺山の姿が しばらくその場にあったという
朝霧がジェノアの部屋の前に来ると 開けっぱなしの玄関から声が聞こえる ジェノアと帆足と山岸の声だ
「おじゃまします」
そう言って彼はジェノアの部屋に入る 奥の部屋にいるらしく 話し声はそちらから聞こえてくる
ちょっと時間を戻す
取りあえず 玄関先で硬直されても困るのでジェノアは二人を招き入れ 朝霧があのような姿をしている訳を話した
そんな訳で・・・
「でも びっくりしました だって朝霧君普段あんなに柔和じゃないでしょう」
「本当 タケオがあんなにかわいいなんて 素行にだまされたわ」
「でもいい人ですよ あの人は 確かにいつもは 何かを観察しているような瞳をしていますけど ・・・あ」
ジェノアの視線の先に山岸と帆足の視線が集まる
「おまたせ」
三人の視線にじっと見られ言葉に詰まる朝霧
「(な なんなんだ いったい・・・)あー 山岸」
「はい」
返事をしたマユミは朝霧に向かって相変わらず可愛い物を見る目つきで見つめている
もちろん他の二人も同様に
再び三人の視線にしばらく固まった朝霧であったが 唐突に彼は目を閉じうつむき 被っていた大きなベレー帽を手に取ると
「たのむから そんな目で見つめないでよ」
その深く沈んだ言葉が三人の視線に乗る色を変えた が
「慣れてないんだから」
三人の笑い声が部屋に広がるのだった
技術部三課
「なあ 大野」
渡された書類に目を通しながら秋山がこぼす
「どうした 書類に不備でもあるか?」
「いや 坊主とその彼女のことだが もう少し何とかならないか?」
「何かあったのか?」
椅子を秋山の方に向け 書類を片手にしている彼を見上げる
「どうもな モニタールームから色々な声がな」
「知るか 給料分だと思えよ」
秋山が予測したとおりの答えが返ってくる
大野という人物は 仕事には厳しいタイプの人物であり 他人にもそれを強制するタイプだ
ここからは秋山の推論になるが 部下が坊主とその彼女とのやりとりを見てモニタールームでたびたび叫んでいるのである
とは言え大野に言わせてみれば それは仕事に対する姿勢がなっていないという事になるらしい だから彼 秋山はその手の返事が返ってくることを予測していたのだ
「俺は良いんだ だが課員達が」
「お前の部下だろ お前が管理するんだな」
「・・・分かったよ」
そう言って立ち去ろうとする彼の背中に
「上がったら飲もう」
そう言った大野に 秋山は後ろ手を振り奥の保安部二課の方へと去って行った
「まあ アドバイスぐらいはしてやらないとな」
呟き テーブルの上にあった缶の紅茶を口に含み しばし考えてから 飲み込むの大野だった
こう見えても この二人の共同・連携作業効率はとても高いのだ
翌日あの凶悪に可愛い姿の朝霧のスナップが技術部を中心に数枚出回るのだが 事の真相そのものは朝霧には伏せられていた・・・
数日後 朝 第三新東京北側 ノーススクウェア敷地内
台車に同人誌やディスクの詰まった段ボール箱を乗せて その催し物会場を朝霧が行く
ここは第三新東京での 大きな催し物を開催する為にもうけられたノーススクウェアと言う・・・ 平たく言ってみれば 今日は地方夏コミの会場だったのである
「これで最後です」
「ありがとう」
返事を返したのは 模型店ヘリオスの店主ナッキャさん 癖のないセミロングの赤毛に黒い瞳 ボーイッシュな格好と 控えめな胸と言うか・・・
「浅葱君 どこを見ているの?」
コンプレックスらしい 彼女曰く 男性に間違われることがあるとか
「あはははっ ・・・ところで ユウロスさんは?」
思わず笑ってごまかす朝霧
「あの人は昼から来るわ お弁当もってね」
「そうですか」
「なんでも ピッツァマルガリータと言うのを作って来る って聞いたんだけど 浅葱君知らない?」
「・・・ 代表的なイタリアンピザのことですよ」
「へぇ 博識ね」
「いえ 昨日テレビで放送してました」
「・・・ あらそうなの でもピザって焼きたてじゃないと美味しくないのよね あの人どうするつもりなんだろぅ」
ばつが悪そうに頬をぽりぽりと指先で掻きながら 彼女は自分の家のある方向をに視線を向けた
「・・・ まさかな」
「 なにが「まさか」なの?」
「いえ まさかとは思うんですが ここで焼くつもりじゃないかな と・・・」
「・・・そうかもねぇ」
そう言った彼女の表情は「あの人なら やりかねないわね」とでも言いたげなものだった
そして
「あの ナッキャさん 本当にこれを着るの?」
「あら 毎年のことでしょ」
「だけど どうしてこんな手の込んだ事するかなぁ」
「何が?」
「ただのコスプレじゃなくて ご丁寧に本物に近く作ってあるしそれにこれ金属繊維も入ってるじゃないですか」
「あの人が機能性重視で作ったの だって浅葱君髪型とか瞳の色も地のままでいいから このキャラのコスプレにしたのに」
「いや・・・ まあ・・・ 薄々は感づいていましたけど・・・ 私って売り子ですよね?」
「ええ コスプレはしてもらうけどね 着替えている間に売り物を並べておくから行ってらっしゃい」
ため息を付いて あきらめを表す朝霧だった 数分後着替えた朝霧が姿を現す 最近流行の格闘ゲームのキャラで だぶっとした忍び装束を着た朝霧によく似た容姿で 鎌とハンマーの付いた長柄の武器で戦うキャラ だと言っておこう
因みに ゲームのキャラの方の設定は死に神の息子である それらしく登場するのだが 前作まで親が出演しており今作では背景等に出演するにとどまっている もちろん武器は親の物と同じで 名前はハンマーサイスとか言うらしい
「はい」
笑顔のままにナッキャはハンマーサイスを朝霧に渡す
「・・・ 重いんですけど」
実際に鋼鉄で作ったようなと言うほどではないが・・・ 少なくともプラスチックや段ボールなどで形だけ作った訳ではないと考えるしかない重量がある
「リアリティーは重要でしょ?」
「模型じゃないんですから・・・」
「大丈夫よ 開催当局の許可は取ってあるから さすがに刃は施せなかったけど」
「はぁ・・・ 手回しの良いことで」
開会時間まで 未だかなりの時間があるのを良いことに 朝霧は
「失礼ですが お子さんはおられないんですか?」
唐突に出された質問に 少し戸惑ったナッキャ だが彼女は彼の瞳を見て 朝霧の隣に座ると ぽつぽつと話し始める
「私 子供産めなかったの」
朝霧の瞳が開くのを 見て自嘲気味に笑みを浮かべるナッキャ
「とても重い病気だったから 手術して それからだけど それまでは私 助かるなんて思わなかったから 子供なんて産めなくても 不自由には思わなかった」
朝霧の視線の先にある彼女の瞳は 遠くを とても遠くを見つめているようだった
「それからかな あの人 ・・・ユウロスを好きになったのは 色々あったけど結婚したわ でも欲張りなのかな 結婚したらとたんに子供が産みたくなって でも産めなくて ・・・それでもせめて子供が欲しくて 結局体外受精して代理出産してもらったの ・・・もう かなり昔のことだけどね」
寂しそうにそれでいてどこか懐かしそうに語る彼女の姿に 昔を思い出す老婆を見るように感じてしまう朝霧は
「その ごめんなさい ・・・私にはこれ以外の言葉は思いつかない だから ごめんなさい」
「いいのよ気を使わなくても それより今日はありがとう」
屈託のない そんな笑顔を向けられた朝霧は ほんの少し杞憂を感じつつ
「はい」
努めて明るく返事を返した
そんなこんなで お昼
「おまたせしました ピッツァマルガリータお届けに参りました」
「あ」
振り返った朝霧の視界には 空色の君 バルキリー・ディ・ハルシオーネさんの姿が
「あれ バル あの人は?」
「今 二つ目を焼いています」
「じゃ すぐ来るのね」
「はい さ どうぞ」
背後のテーブルにおかれたそれは サクサクのパリパリの生地に三色の具が乗っている しかもどうやら焼き上げてからほとんど時間が経っていないようだ
「はあ(いったいどうやって? まさか サークル用の駐車場で? でも器具は?)」
「正解だよ 浅葱君」
「なっ(読まれた?) ・・・あ ジェノア」
振り向いた視線の先の二人 一人は緑みの白髪を 一人は流れるような豪奢な金髪をたたえている ただ白髪の方は白と黒のコントラストをはっきりとさせた 法衣のようなマントのような服を身につけている
「途中で一緒になったんだ しかし浅葱君の彼女だとはなぁ」
「すみません わざわざ」
「気にしなくていい 一緒になったのは偶然だからな」
「本当に?」
「そのはずだがな ふむ・・・」
妻の質問にそう答えて真剣に悩み出すユウロスだった 後で聞いた話によると因果律計算を始めていたとかいなかったとか
「タケオ その 可愛いです」
「・・・ やっぱり?」
ジェノアは「かわいい」と言ったときの いつもの戸惑ったような言葉が返ってこなかった事に 少しばかり驚いたが
「さっきから 何回も言われてるから・・・」
との言葉に納得するのだった
「でも 正装して来るなんてどうしたの?」
「たまには こいつも着てやらないとな」
「そう・・・」
二人とも ピザをつまみながら話している
昼食も終わりまして
20分ほど前に売り物が完売してしまったので 暇になった朝霧はそのままユウロスの話を聞いていた
「木陰の大事と言うのはだな ・・・例えば樹を隠すには杜の中 人を隠すには街の中と言う具合に 隠す対象を類似品の中に紛れ込ませることを指すんだな」
「ほう・・・」
「応用としては うそを付くときには本当のことを少し混ぜておく と まあこんな所かな」
「は はあ(それ 何か違わない?)」
そんなふうに 忍者について説明しているユウロスに
「マスター お電話です」
とバルキリーが携帯電話をユウロスに差し出す
「はいもしもし お電話代わり ああ ナッキャ・・・ ・・・えっ 分かった今すぐに行くよ 悪いが留守番を頼むよ」
「はい 行ってらっしゃい」
ブースから出て行くユウロスとバルキリーに手を振り 椅子に座りなおす朝霧
売り切れの札を掲げた横で朝霧一人が視線を色々と走らせながら時間をつぶす
ブースの前を何人もの人が通り過ぎる
「あ 朝霧やないか?」
ふと 聞いたような壊れた関西弁のアクセントが耳に届く 視線を向けると 言葉の本人とカメラを持ったクラスメイト それに大和の姿があった
「タケオ だよな」
「ああ 間違いないぞ大和」
「こんな所で 何やってるんだよ」
「売り子だ もっとも用意した物は完売したがな しかし大和 お前が来るとは思わなかったぞ」
「いや こいつらがどうしてもって言うもんだからさ」
「そうか まぁ 深くは考えないでおくよ」
先ほどからパンフレットに目を落としていた相田が
「朝霧 ここってヘリオスクラフトのブースだよな」
「ああ 間違いないぞ 相田」
「じゃなんでお前がここにいるんだよ」
「必要があったからだ」
「・・・ いや そうじゃなくてさ どうしてお前がここにいるのかその経緯を教えてくれよ」
「なら 初めからそう言えばいい」
言いながら 朝霧はどこからともなく某炭酸飲料を模した飴を取りだし 人数分を相田に渡す
疲れた表情を浮かべる相田 他の二人は苦笑を浮かべている
「そうだな どこから話した物か・・・」
少し考え 飴玉をほおばり始めた三人に今回の経緯だけを朝霧は話すのだった
途中大和も少しばかりこのことに触れ朝霧の興味を引くこともあったが 彼の説明自体は淡々と続いた
「そうか じゃああの時は」
「ああ データを渡しに行ったところだ」
「ネットワークで送ればいいじゃないか」
「1.4ギガバイトをか?」
「なんでそんなにあるんだよ」
「主にベタの画像だからな あ 私はそれを加工しただけだ 元ネタはヘリオスクラフトの物だよ DVDだが1枚キープしている 見たければ後でな」
「そうか是非見せてくれよ それから朝霧 一枚良いか?」
「かまわん ・・・ポーズをとったほうかいいか?」
「頼むよ」
「分かった」
椅子から立ち上がり後ろに立て掛けてあるハンマーサイスの模造品を手に取り構える
「視線をこっちに そう」
相田がカメラのシヤッターを押す
「どないや」
鈴原ものぞき込む 相田のデジタルカメラの液晶ディスプレイに 先ほどの画像が映る
「ほう タケオもう一枚とってもらえ」
そう言ったのは大和だった
「ん?」
「どうしてだ?」
朝霧と相田のそんな返事に
「あの朝霧の方がはまると思ってな」
「ああ そうだよなぁ じゃあもう一枚 あの朝霧で」
「あの ねぇ・・・」
生返事を返し 朝霧は一度目を閉じる
「そうだな」
呟き 意識を広げる
意識を広げた分よけいに入ってくる思考ノイズをクリーニングし 思考に意識に静を創り出す
その意識を 前にいるカメラを構えた相田に幾重にも重ね
瞳を開き
構えた
飛び込み 一撃で片を付ける間合いで
「・・・」
訓練でも見せない朝霧の 全くの無彩色な瞳に 無言でシャッターを切る相田
「撮ったぞ朝霧」
そのままの格好で固まったままの相田の言葉に まったく反応しない朝霧に大和は
「見せて見ろよ」
と 強引に相田のカメラを取り上げる
「ああーー」
そんな声を上げ大和に取られたカメラを追って動いた相田と
「ふむ・・・」
朝霧がそう言って構えをといたのはほぼ同時だった その様子を見ていた鈴原だったが
「まぁ ええやろ」
彼はそう感想を述べ ようやく相田の手に戻ったデジタルカメラの液晶ディスプレイに映る画像に視線を向けるのだった
あれから程なく三人はここから離れていった 再び朝霧がちょこんと一人座っている
ブースの前を何人もの人が通り過ぎる
「タケオ はい」
後ろからの声と共に緑のラベルのお茶缶が差し出された 振り向いた朝霧は優しく尋ねる
「ジェノア 何処に行っていたんだい?」
「一通り会場を回ってみたんです」
言いながら彼女は空いていた椅子を持ってきて隣に座った
「そうか」
「あの 前から話そうと思っていたのですが?」
彼は渡された缶のプルタブを開け一口啜り
「良ければ 聞こう」
「はい 数日前に見た夢なのですが 気になることがありましたから」
「それは?」
ジェノアはその夢のことを話し始めた
一つ目の情景は 既に息も絶え 冷たくなった三匹の子猫を たかっているハエを追い払いながらも沈黙のままに見つめながら抱いている子供の事だった
二つ目の情景は おかっぱ頭の女の子と仲良く遊んでいる蒼い瞳の男の子 そしてその男の子はジェノアが以前見たアルバムの中の昔の朝霧にそっくりだった
三つ目の情景は 脱走兵と思わしき軍人らしき人物二人が夢を見ている自分を捕まえるところ
四つ目の情景は まるでそれしか知らない機械のように二人の脱走兵だった物体を 壊し引き裂き砕いている朝霧の姿 ふとその子の視線がこちらに向いた その視線からは狂気ではなく優しさしか感じられなかった そして 彼女は逃げ出した
最後の情景は 芦ノ湖の湖畔の公園でいつもタケオが座っているベンチだった そこにはタケオともう一つ 人だったモノが在った その子は 結局タケオに別れを言うことは出来なかったことを悔いていた
夢の話を話し終えたジェノアの視線が朝霧に向けられる 視線の先の彼はただじっと 握りしめた手を振るわせていた
「タケオ?」
「 ・・・そうか」
かろうじて そう返事をしたが 朝霧の思考は沈む 今まで一度も行ったことのない深さへと
ふと 温もりを感じる 闇しか存在しない思考の深淵で
(ひーちゃん・・・)
声に出すこともなく呟き
視界に映る未だに握られたままの手を見 ゆっくりと思考を浮上させる
「始めの子猫を抱いている情景 シーンだか・・・」
「はい」
「それは 私の性格の骨子を決定付けた事件だ その子の瞳は?」
「色までは見えませんでした でもこの前見せていただいた昔の写真にそっくりでした」
「そうか・・・ 裕美はあの時 私の方をじっと見つめていた 今となっては彼女が何を思っていたのか 知るすべは無い」
「・・・タケオ」
言葉とほぼ同時にジェノアが私の手に手を重ねてきた
「大丈夫だ 保証も確証も無いがな そう言えば私も先日夢を見たな」
「どんな夢でした?」
「あまり 良い夢では無かったよ 知りたいのか?」
「はい」
「分かった」
とりあえず缶のお茶を一口啜る朝霧
「何処か温かい所だった 燦々と降り注ぐ日の光の中 私の運転する車は白い教会の前で止まった そこから一組のカップルが教会から出てきた 人々に祝福されて カップルの男のほうは顔は分からなかった でも女性のほうは ジェノア あれはあなただった」
「え?」
「その女性が投げたブーケは 高く宙を舞い私に当たった そこで始めてその女性は私に気づいたんだ」
「気づいて どうしたんですか?」
「私は手を降ったよ そうしたら手を降り返していた 表情は見えなかったがな」
「そう ですか」
「夢から覚めたとき私は お前の親代わりを演じているだけなのかと思ってしまった」
「そうかも しれません でもワタシはタケオに親よりも・・・」
ジェノアの言葉を遮るように朝霧は続ける
「時々自信が無くなるんだ 私はジェノアを愛している だがそれは本当に愛なのかと 何か別のモノと勘違いをしてはいないかと・・・」
「タケオ・・・ 愛に形なんて無いんです タケオにはタケオの愛の形でワタシを包んで欲しい 少なくともワタシにはタケオが必要なんです」
今までじっと前を向いていた朝霧がジェノアの方へと振り向き
「ジェノア」
視線の先の彼女の表情は複雑な物だった
「これって わがままですよね」
「いや 確かにそうだな」
「ごめんなさい」
言葉を選ぶのに時間をかけた事を後悔しつつ 朝霧はジェノアの重ねられている手の手首を素早くそして優しく掴む 反射的に まるで怯えるように朝霧に目を向けてしまうジェノア 目を合わせる朝霧 彼女の瞳の向こうにあるものを見つめるように
「いや そうじゃないよジェノア あなたの言うとおり 私は私なりの方法でしかお前を愛するこが出来ない」
「はい」
「私は ジェノアを今まで この命を懸けるべき主 そして私の心を託したmonoとして見ていた」
「そんなの嫌です」
「分かっていた ・・・分かってはいた だが 今のあなたから私という要因が消えたら あなたは自壊しかねない ・・・だからも知れない もちろんそれ以外にも 私にも要因はある」
「タケオ・・・ タケオには ワタシは必要ではないのですか?」
「もちろん・・・ 私はあなたに心を託した だから あなたが消えてしまうことは 私の心が 消えてしまうことに等しい」
「そんな・・・」
「不器用な私だが これからも必要としてくれるかい?」
「はい ・・・タケオ」
「ん?」
「共に」
「ああ 共に時を行こう」
そのラブラブな雰囲気の後ろでは
「参ったなぁ・・・」
「そうね でも一段落したみたいよ」
その場から二人のほうへ歩き出し
「お二人さん そろそろ片づけを始めようか」
突然かけられた言葉に驚くジェノア ふと彼女が朝霧の方を見る 視線の先の彼は
「じゃあ 着替えてくるから」
と あの仄かな笑みを残して行ってしまった
翌日迎え盆 朝
ジオフロント内湖畔の木の陰
「となり 良いですか?」
「ああ どうぞ」
座って携帯端末のキーを叩いていた朝霧の横に座り込み もたれかかる
「あう」
そんな朝霧の声に
「重い ですか?」
「いや キーを打ち損じただけだ 気にするな」
実際問題 ジェノアがもたれかかってきたために利き腕を上手く動かせなかった辺りに原因があった
ジェノアはその事が分かっていたのか 離れると足を延ばして座っている朝霧の膝に頭を乗せるようにして横になり
「訓練まで 良いですか?」
「いいよ」
朝霧は 打ち損じた箇所を書き込むとデータを記録して携帯端末の電源を切り それをポシェットのような携帯端末用に市販されている鞄に入れた
ジェノアに視線を走らせると 彼女は無防備に横になって目を閉じている
無言のままに先ほどの鞄から扇子を取りだし 静かに広げ ゆっくりとしたペースでジェノアに向かって風を送るのだった
彼は知らなかった 彼女の寝起きがとてつもなく悪いことを・・・
再び登場しりーず
ポジトロンカノン・・・
もちろん しまぷ(う)お気に入りの長物 まぁEVAって肩にマウントできませんから腰に構えると様になる兵器って無いかなと探した次第
今回のは前回のデータ改良型でチャンバーと呼ぶ薬莢弾丸に当たる部分を取り替え可能 それぞれラピッドとノーマルとバスターという3タイプ用意
・ラピッドチャンバーは最大6バースト(1.8発毎秒)可能で 威力はポジトロンライフルの3.4倍程度
・ノーマルチャンバーは単発仕様で 威力はチャージに応じる 基準出力でポジトロンライフルの26倍程度
いずれのチャンバーもそれぞれのマガジンに7発ずつ納められている
・バスターチャンバーは上二つの光弾を発射する物ではなく 光線を発射するようにできている
本編ヤシマ作戦と同出力に耐える物で これは相対的に見てもかなりコスト高な物である
有効射程距離はMAGIのサポートにより約85Km 大気圏外を含むが命中率は低下する
ユウロス夫妻
今回模型店の名前をヘリオスに設定 ヘリオスは太陽圏より
小物一覧
SDAD
SDATの光ディスク版でいくつか在る音楽媒体の一つ 結構マイナー 朝霧はインパクト前のアニソンを良く聞く
小型携帯端末
B6版サイズの携帯情報端末でファイル容量は200M程度の物 ジェノアは本や新聞を読むのに使っていた
「PYOPYO」とプリンとされたエプロン
朝霧の母親が誕生日プレゼントとして送ってきたエプロン 朝霧自身も結構気に入っているようだ
設定として・・・
戦闘時の参照は大和君の逆
ある意味パワータイプで殺気いっぱいの大和君と
まあテクニカル(というか大和と比べれば という相対的なものの見方だが)で殺気の少ない朝霧君
彼の訓練時の戦闘には迷いがありますもちろん 訓練を重ねているので端から見て迷っていると分かるのは数名ですが
七秒事件が物語るように 当初はひどい物でした
基本的に 朝霧君は大和君に一対一の格闘訓練ではまず勝てません
おそらく両人共に本気で戦ったとしても朝霧君は勝利できないでしょう 両者の被害はともかくとして
所詮 戦艦と駆逐艦です せめて魚雷をスクリューに当てないとって・・・
本気の朝霧
朝霧本来の戦闘スタイルがこれ 完全に殺気や闘気と言ったものが消える まるで心のない機械のように・・・
一見容赦のない攻撃に見えるが必要に応じて致命傷を的確に避ける事が出来る
基本的に相手の感覚器官や 相手の動作に応じて発生する負荷のかかる部分をねらう
目や耳を一時的にでも機能不全にしたり 繰り出された腕の伸びきった瞬間に肘を打つ等 えげつない戦闘方法が多く
同時に全くの無慈悲な攻撃を繰り出し 必要であれば無感動にとどめを刺す・・・
それは相手に勝利することを目的とした格闘ではなく 相手を破壊することを目的とした行為な為である
非常戦闘時の朝霧
自身のダメージを全く廃して 戦闘する
異常に強力な自己催眠で運動能力を身体にかける負荷を無視して 行動する
推定全力運動時間は13秒 動き続けないとしても2分程度しか行動できない
また同じような異常に強力な自己催眠で自身の記憶を封じることも可能
例えば現在最愛のジェノアの事すら全て封印する事が可能
朝霧君の人格
朝霧君は二つの完全に分離していない人格を所有しています
一つは今の通常時の人格
一つは人生最初の殺人直前まで朝霧をなしていた人格 これは何か強いショックで引き起こされる可能性があります
後者の人格の特徴は「優しいままでは好きなものすら守れない」と言う過去2度にわたる経験がトラウマになっており
その為に 今の人格が 優しいと言われることを極端に嫌う理由になっている
この場合・・・
焦点の合わない瞳で 顔をくしゃくしゃにして泣きながら
「僕をいじめないでよ 優しくなんか無いんだから ・・・なんで どうして 優しさなんてあるんだよ・・・」
そんな事を呟いていた
Ex: