Page-Lmemo Magic story of Broom rider 2nd Part-B. 
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箒乗りの 魔法の話 その二
 パートB 鳥のように、そして揺れる心…



 翌日の放課後、漫研部部室。
 スケッチブックを広げ、設計図らしき物をしたためている希亜を、後ろから軍畑が覗いている。
「何スかそれ?」
「今度作ろうと思っている箒のイメージスケッチですよ〜。 時々上を飛んでいる、前進翼の飛行機を参考にしてみようと思うんです」
 そこに書かれているのは、カナードと前進翼付きの箒だった。
「いま使っている奴に羽をつけたんスね」
「ええ〜、そう言う感じでデザインしていますから」
「いつごろ出来そうッスか?」
「早ければ1か月ぐらいですねぇ」
 言いつつ鉛筆を走らせてゆく希亜。 指先の描く軌跡は、個々のパーツのデザインを始めていた。
 

 時間も経ち、そろそろ漫研の部員たちも一人また一人帰り始めた頃。
「希亜、今日の分の備品補充終わったか?」
「ええ、終わってますよぉ」
「ほな、今は何描いとるんや?」
「新しく作る箒のシステムデザインです〜、安全係数を出来るだけ高めた物にしようと思ってますぅ」
 由宇がのぞき込んだ希亜のスケッチブックには、色々な表や注意書きが結構びっしりと書かれている。 それを見て彼女はため息混じりに。
「希亜ぁ、ここは漫研やねんけどなぁ」
「ですから、それをまとめて作品にしようかと思ってます」
「ほな、次のコミパには間に合うんやな?」
「箒の出来次第ですねぇ」
 由宇はくいっと人差し指で眼鏡を持ち上げ、息を軽く吸うと。
「間に合わせるんや! いつもいつも人様の手伝いばかりやっとらんと、ちゃんと作品を仕上げてみい!」
「うう〜、それを言われると…」
 現在あたためている作品がいくつか在るだけに、全く反論できない希亜。 その彼に由宇は、わざとらしくさめざめと泣きながら。
「アっちゃんから預かっているこっちの身にもなってみい。 夜もおちおち寝られへんわ」
 ちらちらと希亜の方を見ながら、彼女は言った。 アっちゃんというのは関西時代から交友のある希亜の姉の事であり、元々は彼女を通して希亜を知ったのだった。
「そう言えば、オイラも弥雨那ちゃんの作品見てみたいッス」
「すばるも、希亜君の漫画読んでみたいですの〜」
「軍畑さんに御影さんまで…」
「ほな、そーゆう訳や。 次のコミパには間に合わせるんやで〜 サークル
"Witch`s broom"、"きー君"で応募しとくからな」
「とほほ…」
(ペンネームまで間違いなくチェックされているのねぇ)
 そう嘆きながらも、頭の中でスケジューリングを再構成する希亜だった。
(工期の圧縮か… できるのかなぁ)
 

 同日下校時刻後、校門前。
「ではパパ、また明日」
「ああ」
 リムジンのドアが閉まりゆっくりと走り出す、走って行くリムジンにとりあえず手を振る朔。
 しばらくそうしていたが、背後に気配を感じた… オブラートに包んだ悪寒のようなものと共に、糸の切れたような緊張感をもつ気配が…
「いま帰りですか?」
「なんだお前か…」
 振り返りもせずに悠朔はそう返す。
「いっしょに帰りませんか?」
「まぁ、断る理由もない」
 歩き出した朔の隣に付き、静かに付いて歩く希亜。
 特に会話もなく、二人は歩きはじめた。 だからといって険悪な雰囲気でもない。
 希亜自身は相手の様子を視覚以外の全てで感じつつ、朔は特に思いつく会話もなく、ただ言葉だけがそこに存在していないだけで、二人の足どりは軽く、そして静かであった。

 丘を下り交差点の赤信号で二人は立ち止まった。
 朔はふと希亜を視界の中に入れ、彼が綾芽と同学年だと言う事を口実に口を開いた。
「そう言えば、お前は綾芽と同じ学年だったな」
 視界の中の希亜、彼の性格は温厚でお人好し。ただ一点、寂しさが好きと言う項目をのぞいては、ほぼ理解しているつもりだった。 なぜならば朔自身は寂しさを嫌っていたから。
「ええ」
 打てば響く、そんな快いタイミングで返ってくる返事に気をよくした朔は、質問を続ける。
「授業中、どうだ?」
(どうだ… 何を?)
 希亜は反射的にそう考えると同時に、言葉の端からわずかに溢れてくる朔の心情を予測し、とりあえず質問に答える。
「授業態度ですか? それなら特に問題ないと思いますが…」
「そうか、では「親ばかですね」
 素っ気なく放たれた希亜の言葉に、図星であることに気づくと同時に絶句する朔。
「でも、そういうお前さんも嫌いではありませんよ。 とりあえず彼女には、前に向かって行ってくれないとね。 そのためのバックアップなら、手伝ってもかまいませんよ〜」
 朔の瞳の向こうの何かを、いつも通りの眠たげな眼差しで、静かに見つめながら希亜はそう言葉を続けた。
 ある意味言いたいことをほぼ言われ、怒りよりも先に疲れを感じる朔。 彼自身、希亜に力がないことは認めつつも、数少ない良識派である希亜の人格と、お人好しだが冷たく相手を評価する性格を、信頼に価するレベルで評価していたと言う面があるからだが。
 信号が青に変わったと同時に二人は横断歩道を渡る。
 歩きながら朔のリアクションを待つ希亜と、傍らにいる希亜に何らかの違和感を感じる朔。
「なあ、お前〜…」
(言いたいことを、飲んだのかな?)
 一度言葉を区切った朔にそう思った希亜は、そのまま朔の言葉を待つ。
「…やっぱりお人好しだな」
「そう見えますか」
「ああ、だから寮まで乗せろ。 箒なら早く着くだろう?」
「ゆーさくさんそれは無精だよ」
 言いながらペンダントになっているRising Arrowを取り出す希亜。
「ゆーさくと言うな」
 しっかりと希亜がRising Arrowを取り出すことを確認して、軽く小突く朔。
 だが彼は、
「むぅ〜…」
 そう唸ったまま、痛みのあまりそのまま蹲っていた。
「あ… 悪い」
 しばらくその場に蹲る少年と、それを見て若干狼狽えつつも、少年が立ち上がるのを待つ白衣の少年の姿があった。
 クリティカルヒットとはえてしてこういう物なのかもしれない…
 

 夜、寮の軍畑&希亜の部屋。
「取りあえずは、これで良いでしょう」
 メールの送信終了を確認してそう言った希亜は、深くイスにもたれかかる。
 ぼぉーっと天井を見ていると、これからの事が頭の中で整理し切れていないことに気づき、エディタを立ち上げ思いついた順番に打ち込んで行く。
 バラバラに書き込まれた様々な用件、それを幾つか関連性のあるまとまりに分け、それに項目名をつけて行く。
 結局大別すると、箒制作と綾芽さんの事、この2件に落ち着いた。
「対応策としては。 箒の方はパーツの制作と組立空間の確保で、綾芽さんの方は情報収集ですか…」
 情報収集と言っても、希亜はその手のプロではないし、今回の件ではあまり人を頼りにしようとは思ってはいなかった。 なにより希亜は他人の言葉よりも、自分が感じたことを優先する傾向があるからだが。
(確かに綾芽さんは格好から言っても人の目を引く… ……………? いや引かないかも)
 性格や経験傾向を散布図にしたらトーンなってしまいそうなリーフ学園では、綾芽の経歴も性格も、トーンの中の一つの点でしかない、という思考が希亜の頭の中をよぎる。
(ではなんで私は、あの人のことを気にかけるのだろうか〜? それとも、心の方向性の純粋さに惹かれたのでしょうか… 私が魔術を知って失ったものを、憧憬としてとらえているんでしょうか…)
「契約かな〜 と思っているのかな〜」
 男性ではあっても、希亜は魔女の系譜であることに誇りを持っている。 交わした契約を守るのは重要なことだとも。
 無意識のうちに綾芽に関する件を、契約と同等の重要事項にあげていた事に気づいた希亜だが。
「だからと言って、やろうとしている事に、変わりはないな」
 そう言って、窓の外に見える月に目をやる。
 だが…
「む〜〜〜〜〜」
 思わず綾芽の姿が月に浮かび、唸ってしまう希亜だった。
 
 
 

 数日後の朝、寮の食堂。
「あ、おはようです」
「ああ、おはよう」
 挨拶だけを交わして、朔は希亜の前の席に着いた。 目の前の希亜の朝食を見るとベーコンエッグにトースト、そしてレモンティーを今ゆっくりとすすっている。
 自分の朝食を見る。 味噌汁に目玉焼きと茶碗につがれたご飯…
(なぜ?)
 とりあえず辺りを見渡す、自分と同じ味噌汁に目玉焼きと茶碗につがれたご飯…、疑問に思い質問をぶつけてみることにした。
「何でお前のは、私のと違うんだ?」
「ん〜。 新しいメニューの試食なんです」
 ゆっくりのんびりとそう答えて、希亜はベーコンエッグをトーストに乗せ、やはりのんびりと口に運ぶ。 よく見ると、希亜の目の下にクマができている。
(徹夜でもしていたのか? ま、自分と他人が同じであることなど、愚者の思考だな)
 そんなことを思考の端に乗せながら、視線を自分の味噌汁へと落としたままに、
「ところで…」
 言いかけて、思わず言葉を区切る。
「どう、しました?」
 ゆっくりと返事を返す希亜。 相手はただ、こちらをゆっくりと見つめているにすぎない。
(どうも、やりづらいな)
「食べないと、冷めますよ〜」
「お前… それ、素だよな」
「? ええ、そうですけど〜」
 きょとんとして、何を当たり前なことを、とでも言いそうな表情で希亜はそう言った。
(そうだよ、こいつはこういう奴だったよ!)
 そう頭の中で思いつつ、
「そう言えばお前、箒を作るらしいな」
「ええ、耳が早いですね。 さすがです」
「いや、由宇… 管理人がふれ回っているんでな」
 朔の言葉に希亜は一瞬げんなりした表情を浮かべ、次いで視線を朔から逸らした。
(思うところでもあるか?)
 そう思いつつも、朔は言葉に出さずに希亜のリアクションを待つ。
「フレームと外装パーツの物理的整形が、私では出来ないので… どうしたらいいでしょうか?」
「工作部とかに頼んでみたらどうだ?」
「工作部?」
「おいおい、工作部を知らないのか?」
「あまり気にした事がありませんでしたから…」
 ぽりぽりと頬をかきながらそう答える希亜に、朔は少々呆れつつも説明を始めるのだった。
 

 お昼休み。
「いつもの事だが、何でお前がここにいるんだ?」
 校舎の屋上で綾芽が来るのを待っていた朔は。 隣に降り立った希亜にそう言った。
「まぁそう言わずに、せっかくお茶を入れてきましたから」
 そう言って希亜はバスケットからコップを取り出す、と言ってもアウトドア用の物なのかコップはステンレスの物だった。
「飲んでみて下さい」
「じゃ早く注げ」
「ええ」
 そそくさと同じくステンレスのティーポットからコップへと注ぎ、朔に手渡した。
 コップを受け取った朔は、それが二重構造の物だと気づきつつ口を付けた。
「どうですか?」
「少し苦いな」
「あう」
 ふと視線をティーポットの方へと向ける。 その朔の視線を読みとったのか希亜は、
「ええ、このティーポットも二重構造ですよ」
 求めてもいない説明をするのだった。

「パパー!」
 そう元気よく声を上げて綾芽がこちらに駆けてくる。
「こんにちわ、綾芽さん」
「こんにちわ希亜君」
「ええ。 いつものようにお茶を用意してきました、食後にどうです?」
「ありがとう。 パパ、はいお弁当」
「ああ」
 無骨に受け取る朔だが、希亜から見ればその表情は喜んでいるようにしか見えなかった。
「そう言えば、綾香さんは来られるのですか?」
「うん、もう少ししたらママも来るよ」
 程なく綾香が姿を現し、続いて芹香が屋上に出てきた。
「あれは、来栖川芹香さんですね」
「うん、今日は芹香さんのお弁当も作ったから」
 芹香と綾香は何かを話しながら、こちらに向かって歩いてくる。
「ハイドラントさんとか来ませんね」
「ここにいる」
「え?」
 振り返った希亜の視線の先には、朔と向き合ったまま無言のハイドラントの姿があった。
「コップ足りるかな…」
 そんな希亜の言葉に朔は改めて「お節介め」と、そう思うのだった。
 

「ところで綾芽、希亜君とはどういう関係なの?」
 昼食も一段落したところで、綾香は傍らにいる綾芽にそう質問した。 芹香の視線も綾芽に向けられている。
 ここの所、結構綾芽と希亜は会っている。 希亜自身が綾芽をどう思っているか、聞かれれば答えるだろうが、希亜自身からは語ろうとはしない。
 だが、綾香がこうして質問するのだ、希亜が綾芽と交友を交わしていること自体は知っているのだろう。
 結局綾芽は希亜の方を少し見てから答えるのだった。
「うーん、私のこと心配してくれる、弟みたいな感じかなぁ」
(それは、『どういう関係』じゃなくて〜、『どう思っているか』の答えだよぉ)
 そんなつっこみを心の中で思っていた希亜に朔は、
「お前は綾芽のことをどう思っているんだ?」
と、そんな質問をしていた。
 当の希亜は、自前のお茶を一啜りしてから答えるのだった。
「そですね、 …ちょっと背伸びをしたい感じの妹。 ですねぇ」
「なるほどねぇ」
 希亜の返答に、綾香はくすくすと笑みを浮かべ、朔は目を細め、そして綾芽は、
「妹って酷いなぁ、希亜君」
「私は残酷な人間ですからね」
 綾芽が口を膨らませているのを見ながらに、そう返した希亜の顔は笑っていた。
 そんな傍らでハイドラントは静かにその様子を見ているのだった。
 
 
 

 翌日放課後、工作部部室前。
「来てしまいました…」
 少々どころかかなり不安だった。 なぜならば希亜の持つ箒作りの技術は、グエンディーナ系のマジックアイテムを作る技術、早い話が魔法の範疇に属する技術だからだ。
 とは言え、フレームと外装のパーツの制作方法は、工業製品を作る方法と変わらないと言えた。 朔とその点でも相談したからこそここにいるのだが…
「どうしたものかな」
 お門違いだと少し思いつつも、設計図を描いたスケッチブックを持ち直し、とりあえずノックするのだった。
「箒の部品なんて言って、通じるかなぁ〜」
 ぼやきながら戸を開き、
「すいません、箒のパーツの制作をお願いしたいんですけどぉって …あれ?」
 中には、と言っても見渡せる範囲には誰もいない。
(留守なんでしょうかぁ…)
「あの、工作部に何かご用でしょうか?」
「はい… あれ?」
 後ろからかけられた子供のような声に振り返り、視界の下端に引っかかるように入っている髪の毛に気付き下を向く。
「っと、工作部の方ですか?」
「はい」
 なにか荷物の入った段ボールを抱えこちらを見上げている、小型のあえて言えばマルチタイプに似ているHMは答えた。
「作って欲しい物があるんで、その相談に来たのですが…」
「では入って待っててください」
「はい」
 ちびまる、後でそう分かったのだが彼女の後に続いて工作部部室に入る。
 中を見渡す、奥には色々な工作道具が結構バラバラとおいてあるが、手前側はきちんと片付けられていた。
 ちびまるは、そこにある椅子の一つを指さして、
「腰掛けてお待ち下さい」
 そう言ってペコリと頭を下げ、部屋の隅に段ボール箱を置いて急いで部屋を飛び出していった。
「あ… やれやれ」
 ため息のようにそう呟き、とりあえずとばかりにちびまるの指さしていた椅子に腰掛け、スケッチブックを開く。
 書かれているのは、外装パーツとメインフレームに主翼の設計図と概念図、どのページにも色々と注意書きが書き加えられている。 この辺りの書き方は、家で唯一の工学系科学者の父親に教わっていた。
 ぱらぱらとページをめくっていると、廊下を歩く足音が耳に入った、程なく戸は開き、
「お待たせしました」
 聞き慣れたイントネーションの言葉に視線を移す、入って来たのは先程のちびまると、お下げの上級生。
 あまり気にすることもなく、
「漫研の弥雨那希亜です」
 ぺこりと頭を下げながら自己紹介をした。
「工作部の保科智子や、早速やけど何を作って欲しいん?」
 関西弁系の、しかも実家の方ではよく聞くタイプのイントネーションに、希亜は神戸の方の人なのかなと思いつつ、
「この、スケッチブックに書いてある物なんですが…」
 相手のイントネーションにつられるように、希亜のイントネーションも神戸訛りになる。
 一瞬その事に知子の表情が鋭くなるが、良く聞けば自然な神戸訛りである事に気付いたのか、視線をスケッチぶっに移した。
「見せてみ」
 希亜はスケッチブックを相手に見えるように開き。
「こういう物を作って欲しいんですけど、どのくらいかかります?」
「どれどれ」
 保科はスケッチブックを手に取りページをめくってゆく。
 スケッチブックであるにもかかわらず、そこには三面図を基本としたパーツの設計図がきれいに書かれていた。
「ところで、これは何や?」
「名前は付けていないんですが、空飛ぶ箒です」
「箒?」
 一瞬、部屋が静かになった。
 智子は目を疑った、目の前に広げたパーツの全体像は、主翼こそ別パーツだが、カナードを持った前進翼の模型の飛行機にも見えたからだ。
「ひとつ、いつも使っている箒をお見せしましょうか…」
 そう言って希亜は、金属で作られた箒のオブジェのような姿のRising Arrowを、元の姿に戻した、同時に二つの淡い光の泡で跡を描きながら宙をくるくると舞う二つの光源が飛び出していた。
「悪いけど、今回はおとなしくしててね〜」
 慌てるでもなくそう言った希亜の言葉が分かったのか、その二つの光源は既に元の姿になっているRising Arrowに吸い込まれるように入って行った。
「な、何やの今の?」
「対宇宙用デバイス、くるるんとぐるるんです。 名前は私の師が付けたんですけどね」
「さよか…」
 とりあえず智子はずれた眼鏡を直し、希亜の横に浮いている彼が箒と言った物に目を向けた。 それからスケッチブックをぱらぱらとめくる。
「ダイキャストでええんか? それにこれ、何処にもビスなんかの留め具が書かれてへんけど、ほんまにええん?」
「はい、そう言うのは全てこちらで処理しますので」
「なら、後はどんな材料で作るんや?」
「本当なら、軽金属とかで軽くて丈夫な方がいいんやけど、ファインセラミックス系とかの方も…」
「結構パーツ多いなぁ、パーツによって必要な強度が違ごうてくるけど、その辺の計算は?」
「一応父に簡単な強度計算を依頼しただけですから… それは、最後の方に書いてあるんで」
 ぱらぱらとスケッチブックをめくり、該当するページを探す智子。
「あ、これやな。 …推定最大定格出力H−2のメインを参照、って何やのこれ?」
 智子は目を疑った、そこに書かれているのは非常識なまでの強度要求だったからだ。
「そこじゃありません、その次のページです」
「次?」
 ページをめくると、表題らしき物が赤で強度計算最終案と書かれている。
「今度は… まぁ、そこそこまともやな。 安全最大速度460K/hとした場合か… ほなこのデータで見積もり取ってみてそれから話を詰めよう思うんやけど、ええか?」
「はい、お願いします」
「ほな、そーやな明後日にでもまた来てーな。 強度計算も含めていろいろ見積もってみるさかいに」
「はい、よろしくお願いします」
 

 部室棟前の自販機コーナー。
「よかったのでしょうか…」
 希亜はため息のように呟く。
 あの場でくるるんとぐるるんを見せる必要性はあまりなかったのだが、こちらの手を幾つか見せる事によって信頼してもらおうと当時は考えていたのだが、考え直すとあまり有効な手段ではなかったとそう思うのだった。
「明日行って断られたら、何処に依頼しましょう…」
 手元の缶コーヒーの残りを飲み干し、
「その時は、その時ですね」
 つぶやき、空き缶を捨てて、その場から離れた。

 部室棟の階段をふよふよと昇ろうとした時だった。
「希亜君」
 呼ばれて振り返る希亜、視線の先には緋袴姿の、いわゆる巫女装束のよく知る人物がいた。
「綾芽さん、どうしました〜?」
「これから芹香さんの所に行くの、希亜君は?」
「部室に戻ろうと考えてた所です〜」
「ふうん。 そうだ、希亜君も来ない?」
「別にかまいませんが、なぜです?」
「良いから良いから、おねーさんに任せなさい」
(いや… 『おねーさん』って同級生じゃないですか〜 私ってそんなに幼く見えるはず無いんだけどな…)
 結局希亜は、綾芽に押し切られる形でオカ研に向かうのだった。
 

 オカ研。
「芹香さん、いらっしゃいますか?」
 戸を開け開口一番に綾芽はそう言っていた。 彼女はそのまま中に入ると、くるりと向きを変え希亜に手招きしつつ、
「希亜君も入っておいで」
 まるで子供でも相手にするかのように、そう言った。
「んでは、おじゃまします」
 入ったはいいが所在ない希亜、オカ研の入部届けをもらった件から以来、近寄りづらくなっていたせいがあったからだ。
 そんな希亜の様子に気が付いた綾芽は、
「どうしたの?」
「まぁ、ちょっと…」
「緊張しなくてもいいのに…」
 綾芽はふと、以前家で希亜の話をしたときに、芹香が希亜にオカ件の入部届けを渡していた話を思い出した。
「そう言えば希亜君、オカ件に入部するの?」
「え?」
 一瞬思考が真っ白になる希亜。 彼にとっては、綾芽からそれを言われるとは思っても見なかったからだ。
「どうして?」
「芹香さんから、直接聞いたんだけど。 希亜君がオカ件の入部届けを受け取ったって」
「そですか。 まぁ良いでしょう、知られても困ることではありませんし」
「もう捨てちゃった?」
「いえ、ありますよ。 たしか財布の中に…」
 言いながら制服の内ポケットから財布を取り出し、そこから入部届けを取り出した。
「なんだ、ちゃんと書き込んであるじゃない」
「ええ、まぁ…」
 言いよどむ希亜。
「後は出すだけで…」
 希亜の手から入部届けを取ろうとした綾芽だが、希亜はしっかりとそれを持ち、放そうとはしない。
「これは私のことですから〜」
「…ごめん」
「いえ〜、出さないのは兼部する事に対して踏ん切りがつかないからです」
「そうなんだ」
「え? 残念です、って」
 綾芽の口調が突然伝聞系に変わったので、綾芽の視線の先、ほぼ背後に。 つまり希亜は振り返った。
「あ、来栖川芹香さん。 …聞いていましたか」
 コクコク
 綾芽は芹香の隣に来ると通訳を始めた。 その辺りの以心伝心的なところは仲の良さの現れなのだろう。
「えっとね。 残念です、会長もまた絵を描いてほしいと言っていたのですがって」
「む〜、もう少し時間をいただけますか、次に来るときにはどちらかを決めてきますから」
「お待ちしていますって」
「いえ〜、ご迷惑おかけしています」
「えっ? ご用は何ですかって? 迎えに来るから待っててほしいって、ママから。 うんじゃあママの所に戻るね」
 くるりと向きを変え部室の入り口へと向かう綾芽、その彼女を追って希亜も部屋を出ようとした。
「んにゃ?」
 呼ばれたような気がして芹香の方を振り返る希亜。
「あ、後で屋上ですか? OKですよぉ」
 それだけ返事をして、希亜も綾芽の後を追う様にしてオカ研から出ていくのだった。
 

「良い風ですね〜」
 夕刻、紅に染まった空が群青から闇へと移りゆくこの時刻、希亜は部室棟の屋上にいた。
 制服だけでは少し寒いせいもあり、希亜曰く「魔法使いの姿」で静かにそこに佇ん
でいる。
 あれからすぐに綾芽と別れ、漫研の部室を経由してここに来ていた。 もちろん先ほど約束した芹香を待つためである。
「しかし、何の話なんでしょうか…」
 考えたところで、予測がつくわけでもなく。
「そう言えば綾芽さんと仲良かったですねぇ、どうしてなんでしょうか」
 思考の方向を変えたところで、いくつかの想像が広がれど、答えが出るわけでもなく。
「まぁ、良いでしょう」
 ともかく、相手が来るまで待つことにした。 頭上に広がる空に思いを馳せながら。
 

 屋上の戸が開かれる音が耳に入った、振り返った希亜はそれが待ち人だと感じ、元向いていた方に振り向くと。
「ごめん、待ち人が来たからもう行くね」
 そう言った希亜の周りを、一瞬強く風が吹きそして静かになった。
 歩み寄ってくる芹香の方へと、希亜はいつもの通りゆるりと歩き出す、そして丁度屋上の真ん中あたりで二人は立ち止まった。
「魔法を使っていたんですか?」
 芹香の声がはっきりと聞こえる、もちろん希亜は答える。
「はい、精霊と語る魔法を使っています。 …あ、副作用が大きいのは知っていますよね」
 コクリと頷く芹香、一呼吸置いて彼女は話し始めた。
「最近綾芽と親しくしているようですが」
「ええ、間違いではありません」
「なぜですか?」
 けっこう自分と同質の瞳なんだなと思いながら、いつも通り相手の瞳の向こうを、つまり芹香の瞳の向こうをのぞき込むような視線のままに希亜は答える。
「この魔法は、相手が私に伝えようとしている事柄が、はっきりすればするほど、私に伝わりやすくなります。 以前綾芽さんが、多分誤解を避けるためだと思うんですが、ご自分のことを私に説明してくれたのです、 その時に私はこの魔法を用いていました。 でも、これ以上はご想像にお任せしたいのですが〜」
「綾芽とは同情で接しているのですか?」
 思わず目を細める希亜。 同時に芹香の言葉に、鋭いモノとその根にある何か、とりわけ希亜自身はあまり形容したくないものを感じていた。
「…情がないわけではありません、でも私の友人のためにでもありますし。 …なりより乗りかかった船ですから。」
 最後の言葉を言い切った希亜は、視線が芹香からそれていることに気付き、芹香の視線に乗せるように元に戻した。 だがそこにあったのは芹香の微笑、たぶん魔法を使っていないと分からない程度の微かな笑みだった。
「…えっとぉ、何かおかしな事言いましたっけぇ」
「いえ。 綾芽は、弥雨那さんにはどう見えますか?」
「そですねぇ… あの人は自分のアイデンティティーに欠落を抱えています。 それが理由でどうしようもなく不安な時間を送ることもあるでしょうが、あの人は今はもう孤独じゃない、それを知っていてほしいですね。 まぁ、いい人ですよ。 たぶん、今は少し背伸びをしたい年頃なんでしょうけれど…」
「よく見ているんですね」
「あう…、まぁ気になる人ですから。 それに一緒にいると楽しいんです、心が」
 そう言いきった希亜の視線の先、芹香の表情は淡く憧憬を含んでいたように、希亜には見えた。
 

 希亜と芹香が話している、その場所に近づく人物がいた。
 それは芹香が出てきた反対の出入り口から出て来て、辺りを見渡し二人を見つけると、まっすぐに二人の所へと駆け出した。
「綾芽」
「そですね」
 芹香の言葉に、希亜は振り返りもせず、緋袴姿の綾芽が駆け寄ってくるのを感じていた。
「芹香さん、もうすぐママがくるから」
「分かりました」
「希亜君、もしかして勧誘されていたの?」
 訪ねた綾芽に希亜は内心で安心していた。 綾芽には悪いが、まだ希亜は自分自身がやろうとしていることを知られたくない、そう考えたからだ。
「いえ、魔女同士の語らいですから、秘密です…」
 楽しそうに希亜は答えていた。
「そうなんだ」
 ちょっと残念そうな綾芽の表情、たぶん少し隠した希亜の言葉の真意は伝わっていないだろう事は、希亜にも芹香にも見て取れた、が。
「…って、希亜君は男の子でしょ?」
 男の子と言われたショックを受ける希亜は。
「あ〜… では、私はこの辺りで〜」
 そう言って希亜は二人にペコリと頭を下げ。 マントを翻すわけでもなく、ただふわりと向きを変えて、綾芽が出てきた出入り口の方へとふよふよと飛んで行った。
「変な希亜…」
 突然脱力した希亜にそう言った綾芽、ふと芹香の方を見る。
「な、何で笑ってるのー?」
 淡く仄かに笑みを浮かべる芹香の瞳は、こちらに気付いた目の前の綾芽から、行ってしまった希亜の背を追った。
 
 
 

 翌日放課後。
「どうしましょう…」
 兼部するべきかどうかを秤に掛けたまま、とぼとぼと廊下を歩く希亜。 漫研に行こうとするが、その足どりは重い。
 他にも、綾芽に対して抱き始めた感情に戸惑う自分や、工作部に依頼した箒の件でいろいろと思い悩んでいた。
 人間そうそう多くの悩みを同時に抱える事など出来るはずもなく、悩み事と心配事でもう少しでパンクしそうなまま、とぼとぼと廊下を歩いていた。
 だからだろうか、後ろからかけられた声にも気が付かなかったのは…
 ポンと肩をたたかれて、ようやく振り向いた希亜の視界には。
「どうかしたか?」
 そう言って、静かに見下ろす悠朔の姿があった。
 朔の視線の先の希亜は、一度視線を外して、再び視線を合わせて。
「ええ、少し…」
 そう言った。 明らかに希亜は何かを隠している。 朔はそれ確信しつつも、それに触れようともせずに。
「家まで、送ってくれないか?」
 まるで何もなかったかのように、そしていつも通りに言いきった。
「…分かりました。 行きましょうか」
 返事まで若干の間があったが、希亜はそう答え。
「とりあえず、外に行きますか」
 そう言っていつものように、ふよふよと浮いたまま廊下を進み始めるのだった。
 

 20分ぐらいだろうか、超音速で飛び続けた二人は、真下にある九鬼神社に向けて降下中だった。
「あれ、はじめさんですよね〜」
 希亜に言われるままに、朔は神社の方へと視線を向けた。
 自分の双子の姉はじめが境内を掃除している。
「ああ、間違いない」
 朔の、姉を見つめる視線が深みを増す。
 そんな事に気付くこともなく、希亜は箒をぐんぐんと降下させ、はじめの前にふわりと静止する。 そして、すっと降り立つ朔とゆっくりと降りる希亜。
「あら、希亜君いらっしゃい。 お帰り朔」
「どうも、お邪魔します〜」
「ただいま」
 はじめの言葉にいつも通り返す希亜。 短く答えた朔はそのまま社務所の奥にある自宅の方へと歩いてゆく。
「あらあら、希亜君ゆっくりしていってね」
 行ってしまった朔の後ろ姿から、目の前の魔法使いの少年に視線を向けそう言ったはじめに希亜は。
「はい。 でもま〜暇なんで、掃除手伝いますね」
 そう言って勝手知ったる友の家らしく、掃除用具入れへと歩いて行く。 まぁ希亜は元々のお人好しから、かなり無意識での行動ではあったが。

 竹箒で二人が境内を掃く、巫女さんと魔法使いが。 後にふと窓からそれを目にしていた悠朔は、それぞれにしっくりとした格好だなと、後日語っていた。
「この時期って、何もないんですね? お祭りとかも」
「そうね、秋祭りにはまだ早いし」
「お祭りって好きなんですよ、賑やかでもどこか寂しいところが」
「ふーん、そういう楽しみ方をするのって珍しいと思うよ」
「よく言われます〜。 彼には理解しがたいって言われましたけどぉ」
「朔ちゃんは、そういうの苦手だから」
 会話の中、自分より大きく柔らかいはじめの物腰を快く感じる希亜は、
(こんな風な人物になりたいな)
 そんな事を頭の片隅に、浮かべるのだった。
 しばらくして掃除を終えた二人は家の方へと歩いて行く。
「希亜君、何か悩んでいる事あるの?」
「少し…」
「ふうん」
 二人は家の中へと入る。
 そのまま台所に通された希亜、ふとはじめを見ると、彼女は何気ない仕草のままにお茶を入れ始めていた。
 急須から湯飲みにお茶が注がれる、向かい合うように座ったはじめが希亜の方に向き直り。
「良かったら話してみてくれないかな? 悩み事。 迷える子羊に道を示すのもお仕事だから」
「あ〜う〜… 神社ってキリスト教だったんだ…」
 困惑しながら、そんな事を呟く希亜にはじめは笑いながら、
「朔ちゃんの数少ない友達だもん、大事にしても罰は当たらないわ」
「友達ですか…」
 答えながら、心の中では肯定と同時に否定する希亜。
「うん、…で話してくれるかな?」
「そですね」
 それだけ言って希亜は注がれたお茶を一啜りし、口を開いた。
「私に人を好きになる事が出来るのかなと、そう思ったんです」
「ふーん」
 はじめは希亜の言葉を促すようにそう言い、静かに希亜の言葉を待つ。
 

 静かに階段から下りてきた朔が台所へと足を進めようとした時、姉であるはじめと希亜の声が耳に入って来た。
「うん、朔ちゃんと綾香さんの子供だって言っている子ね」
「私は多分、綾芽さんの事が好きです。 でも私は人の心を食らって生きる魔女の系譜の人間です、そんな私が人を愛する資格なんて無いと、どうしても考えてしまうんです」
「そうなんだ」
 思わず立ち止まっていた、聞こえてくるはじめの声は、希亜から自然に言葉を引き出すような、優しい口調だった。
「自分に自信がないからかもしれません、私はあの人ほど強くはない…」
 希亜の声が途切れた。
 出て行くのなら今だろうと思った矢先。
「弟さんと同じで、心はとても美味しいんです、私は多分あの二人の心に寄生する害虫なんでしょうね」
「害虫なら、朔ちゃんが駆除してくれるわ、あの子だって綾芽ちゃんの事大事に思ってるから。 だから希亜君は少なくとも害虫じゃないわよ」
「そう言う考え方もありますね」
「それに、あなたのお母さんだって立派にあなたを生んで育てたんでしょ? だったら、愛情とは別に考えて良いんじゃない、魔女の系譜である事は」
「あ」
「若いって良いわね」
「あう」
 思わず朔は「姉さん、あなたも十分若いって」と心の中でツッコミを入れる。
「さて、ご飯食べて行くでしょ? 作るから待っていてね」
 終わってしまったやりとりを立ち聞きしてしまった為、ばつが悪くなったのか取りあえずこの場から離れる朔だった。
 

 夜の空の中、寮への帰り。
「どうした?」
 夜空を静かに飛ぶ箒の上で悠朔は、希亜にそう訪ねていた。
「いえ。 なんでもないですよ〜」
 いつもの間延びした声が帰ってくる。 だが、朔の予想に反して希亜の言葉が続けられる。
「お前さんは、綾芽さんのことをどう思ってますか?」
「? どうした急に」
「いえ、少しきついことを言ってしまいそうなので…」
「別に構わん、お前の言葉はいつもそうだからな」
「では、遠慮なく」
「…少しは遠慮してくれ」
「あ… そですね〜。 では先ほどの質問ですが、返事をお願いします」
 朔は黙り込んだまま返事をしない。
 希亜も特にそのことを気にかけるでもなく静かにしている、それは返事が返ってこないことを信じているでもなく、その逆でもなく。
 希亜なりに相手を知り尽くしていたために、ただ静かにしていたのだった。
 しばらくして、朔の口が開く。
「多分、お前が思っている通りだろう」
「そですか… 想いは何よりも強い、それがたとえ誰の物であろうとも。」
 そう言って希亜はこの箒の上に立ち上がる。 箒の舳先を向いたままなので、朔には背を向けたままではある。
「綾芽さんは未来から来ました、そして音声魔術をかなりのレベルで修得しています。 他にも列べるべき事項はありますが、仮に綾芽さんの行える事、言っている事がすべて真に彼女の歴史だとすれば… 何者かが時間に干渉までしてこの時の流れの中に送り込んだと。 そしてそんなことが出来るモノは…」
「数は限られるな」
「そして、この仮説の行きつく先には多分、お前さんの不甲斐なさが大きく関わっているんでしょうね〜」
「…どーしてそうなる?」
「だって仮説を追ってゆくとぉ、綾芽さんはお前さんと綾香さんの子供なんでしょ? だから出来ちゃった後何時の時点か分からないけれどお前さんはぁ、綾香さんはともかくとしても、綾芽さんを守ることは出来なかったと、そう言うことになるのでは? あれ? ゆーさくさん?」
 振り返った希亜の視界には、どよーんと暗いオーラをまとっている朔の姿があった。
「うすうすそう思っていたさ、でもなんで… 今! 言う事がある!?」
 そう強く訴える朔だが、希亜はそんな事は全く意に介さずに言葉を続ける。
「そしてもう一つ、この仮説を追ってゆくと… 綾芽さんはかなり幼い時期に事に遭遇している。 それは音声魔術の……… あれ? 音声魔術って綾芽さんのレベルになるには、結構かかりますよね?」
「だろうな」
「まぁ… 今のが、私の頭の中にある仮説の中でも、かなり最悪に近い予測です」
「ぐはぁ!! まだ他にも最悪に近い仮説があるのか?」
「まぁ、いくつか…」
 頬をぽりぽりとかきながら、静かに前を向く希亜。
 朔はこれらの事を今まで何度考えただろうか、その度に自分の手の長さを痛いほど実感した。 一人を好む故に何をするにしても戦力的にも孤立気味であり決め手に欠ける現状。 何かあった時に頼れる存在も、人格的には自分と同様かなりの問題を抱えている。
 袋小路を感じつつも、少なくとも自分なりに努力をしているつもりだ。
 そこまで考えて、ふと目の前で立っている人物に視線を移した。 その相手は静かにそして自然に微笑みを浮かべたまま口を開く。
「私の脚は、お前さんより長いかもしれません。 なれど私の手はお前さんのそれにお呼びも付かないほどに短いですよ。 それでよければ、私はお前さんと同じ時を行く友人でありたいと思います」
「……… ! お前、綾芽のこと好きか?」
「なぁっ、何を急にぃ〜!」
 慌てる希亜を楽しそうに見つめながら、朔は思考を深く沈めてゆくのだった。
(少しはましになったな… まぁ、本当にお前がその気なら、それもいいさ)
 

 深夜、寮上空50m。
「う〜ん、今日は色々ありましたね… まぁこの時間の流れの先のモノかどうかは私も判断出来なかったから、説明を省いたのですが、かえってゆーさくさんに対して不必要な攻撃になってしまいました。 内圧崩壊型なゆーさくさんの事ですから、少しは内圧を下げるように持っていかないと… とは言え、私なんかより遙かにタフなんですけどね〜」
 そのまま、街の夜景を遠くに見つめながら、再び希亜は口を開いた。
「普通は、失ってしまった幸せには気づく物なんですけどぉ。 もしかしたらお前さんは、幸せを失っても気付けない人、なのかもしれませんね…」
 しばらくの沈黙の後、線のように細い月を見上げながら、静かに焼酎を口に含む。 アルコールが広がる直前、その一瞬の間にわずかに広がる味わいを楽しむ、がそのままアルコールに流されてゆく味わい。
「効く効くぅ。 む〜〜〜〜〜〜〜っ」
 そのまましばらくアルコールにもだえている希亜、手元の酒瓶のラベルには"百年の孤独"と書かれていた。
「美味しいんですけどぉ、効きますねぇ42度は〜」
 すっかりほろ酔いになってしまったまま、月を見上げる。
 ふと脳裏に浮かぶ、朔の言葉と綾芽の顔。
 思わずはじめの言葉を思い出す。
「私はぁ、好きでいていいんでしょうかぁ? …む〜〜〜〜〜〜」
 ぼんやりと細い月を見上げながら、彼はしばらく考え込んでいた。
 
 
 

 翌日、昼休み。
 授業も終わり生徒達が講義室から出て行く。
 希亜もお茶を用意して綾芽と朔のお昼に参加しようと思いつつ、自分の教科書やノートを鞄にしまい込み、席を立ってその場から離れようとした矢先、声が掛けられた。
「ちょっと良いかな?」
 声は女性、声からは特におかしな雰囲気は受けない、それだけ判断して希亜は声を掛けてきた人物に向き直り、視線を向けた。
「あなたが、弥雨那希亜君よね?」
「はい、そうですが〜」
 何か、と言葉を続けようとして止めた。 相手の雰囲気が第三者を見る目から、第二者を見る目に微妙に変わったからだ、見かけは具体的に何が変わったという訳でもないのだが、希亜自身はそう感じていた。
「ふーん、ティーナの言うとおりの人ね」
「自称、魔女の系譜の魔法使いをやってます〜。 名前は先ほどの通り」
 取りあえず自己紹介をする希亜。
「あ、いつもティーナ達がお世話になってます、赤十字美加香です」
 ペコリと頭を下げる仕草は、希亜の目からも可愛いと思えるものだった。
「ええと、マルティーナとはどういう関係ですか?」
「開発者です、もっとも私一人だけと言うには語弊があるんですけど…」
 言葉を濁した美加香の表情を感じつつ希亜は質問を続けた。
「なるほど〜。 んで、何か用があったのではないですか?」
「あ、忘れてました。 工作部からなんですけど、見積もりとか終わりましたから、今日の放課後に部室の方に来て下さい」
「分かりました、では放課後に」
 軽く会釈をして、会話を打ち切ったつもりの希亜だが。
「それと、あの設計図なんですけど、どうやって組み立てるんですか?」
 美加香は興味津々という感じで質問をぶつけてきた。
「どうやってとは?」
「どこにも留め具になる物が書かれていなかったから」
「魔法です」
 にべもなく答える希亜は、そのまま言葉を続ける。
「私の使っている箒の一部で採用されている方法で、内部を完全にブラックボックス化してしまいます。 同時にそれは、組み上げてしまうと内部のメンテナンスが物理的には行えないと言う事になります、他にも多々ありますが取りあえずそれが最大の特徴と呼べるでしょう。 あ名前はフルクローズド工法と言います」
「そうなんだ、良かったらその方法今度教えてくれない?」
 ただ探求と興味、それだけの欲求に希亜は。
「OKですよ、ですがそろそろお昼にしたいので、これで…」
 ふわりと浮き上がった希亜は、美加香にペコリと頭を下げ、窓から講義室を出て行った。
「あー、聞きたい事いっぱいあったのに、今度会ったら拉致ってゆっくりと話をしようかなー」
 割と物騒な事を言いつつ、既に人のまばらな講義室から美加香も出て行くのだった。
 

 同昼休み、屋上。
 朔の前まで来た綾芽は、いつも通りにお弁当を朔に渡そうとしたまま、朔に疑問をぶつけていた。
「あれ? 希亜君は」
 言われて初めて朔は、全くオブラートに包んだような悪寒を覚えていない事に気付きつつ言葉を返す。
「まだ来ていないが、心配か?」
「えっと、なんて言うのかな。 あ、あの子が何か悪い事していないか心配で…」
「ふぅん、そんなに慌てて、しかも楽しそうに言っても説得力無いわよ、綾芽」
「マ、ママっ!」
 いつの間にか綾芽の背後で聞いていた綾香に驚く綾芽。
「しかし、あいつならやりかねないだろうな」
 真面目に答える朔。
「しれっとした顔で?」
 綾香も普通に返す。
「いや、楽しそうにだ」
「あー、なるほど魔女の系譜なのね」
「そう言う事だ」
 もちろん朔と綾香は冗談を言っているに過ぎない。
「じゃあ綾芽は希亜君をちゃんと見張っておかないと、ね?」
「う、うん」
 そんな会話の後、希亜が来るまでにはいつものメンバーが集まっていた。
 とは言えさっきの綾香と朔の会話について、綾芽と朔には一抹の不安はあったのだが…
 

 放課後、工作部部室前。
 昼休みに赤十字美加香から、見積もりの結果が出たので放課後に来て欲しい、と言われて。 そのまま授業が終わって真っ直ぐに工作部部室に向かっていた。
 因みに希亜は彼女が自分から名乗り出るまで彼女の存在を知らなかったし、また彼女が工作部に在籍している事自体も知らなかった。
「少し気が重いな」
 少しためらって希亜は工作部の扉に手を掛け、
「昨日見積も…「いらっしゃいませ弥雨那 希亜様ですね」
 開くと同時に声を発した希亜だったが、入り口のすぐそばで控えていたちびまるの元気な声にかき消されてしまった。
 思わず呆然としてしまう希亜。
「あの…」
「あ、はい」
「弥雨那希亜様ですよね?」
「はい…」
 ある意味、工作部の玄関先での間抜けなやりとり、部屋の中からはクスクスと笑い声が聞こえる。
 ともかく、中に通されいすに座る。
「少々お待ち下さい」
 ちびまるがそう言い、ペコリと頭を下げる。
(どうなのかな… ここまで小さくて思考系のデバイスに負担かけないんだろうか)
 ちびまるを見て、そんな事をぼんやりと考えながら。 希亜は待つのだった。

「弥雨那さん?」
 希亜が工作部に渡していたスケッチブックを片手に、美加香はぼんやりとちび丸を見つめている希亜に声を掛けたのだが、返事はなかった。
「あのー、どうしかましたか?」
 美加香が希亜の目の前で手を振り、ようやく希亜が気付く。
「あ… ども」
「何か考え事でも?」
「いえ、物が物だけに作ってくれるかどうか心配で、最悪ここでの製作は諦める事も考えているんです」
「その事やけどな、一応は二つ強度計算をしてみたんや」
 馴染みの神戸のイントネーションを持つ言葉が掛けられた、希亜がその方向を見上げ、言葉を返す。
「二つ? あっ」
「そうや、もう一つは推定最大定格出力H−2のメインって奴や」
「いやいや大変だったよ、まぁどっちもデータが詳細に書いてあったから何とかなったけど」
 いつの間にか菅生誠治もこの場にいて、先日行われた苦労を述べている。
 希亜はただその様子に圧倒されるだけだった。
「あの〜、クライアントを置いて行ってますけど…」
 美加香に指摘されて、思わず自分たちの世界に入っていた智子と誠治が、ばつの悪そうな顔で希亜の方を見る。
「おかまいなく。 で、どうなりますか?」
 希亜はそれらを気にするでもなく言った。
「どちらも設計図通りに作る分には問題ないんです」
「それは良かった」
 希亜は手短にそう言い、相手が言いたいだろう言葉を待つ。
「だがどうやって組み立てるんだい?」
「魔法です。 ほとんどの部分についてはフルクローズドって工法で作るんです、命名は曾祖父なんですけどね。 まぁ詳細は伏せておきますけど」
 のほほんとそう言う希亜。
「その工法、今度教えてくださいね?」
「良いですけど…」
 美加香の再びの申し出に答えようとした希亜は、その工法が魔法に頼る事に思わず語尾を濁したが、そのまま言葉を続けた。
「…魔法にかなり頼るので、分かるのであれば。 と言う条件が付きますが」
「大丈夫や、美加香は魔法にも精通しとる」
「なんや、それなら説明する分には話は早いわ」
「関西弁?」
 安堵して思わずこぼれた地元の言葉に、智子の鋭い指摘が飛ぶ。
「ええ、実家は神戸ですけど、それが何か?」
「ウチも神戸なんや」
「あ、なるほど」
「この美加香も神戸出身なんやけど、なんや神戸言葉に愛想尽かしてもうてな…」
「はぁ、でもそれは人それぞれの処世術ってやつじゃないんですか? それに、私も生粋の関西人ではありませんから」
「そうなんか?」
「ええ、本題に戻ってもらえませんか? 余談はその後でゆっくりと出来ますでしょうし」
「材質については…」
 その後下校時刻付近まで、協議から無駄話まで色々と詰めた。
 希亜本人としては、工学系専門用語に3割ほどしか付いてゆけず、有意義ではあったが疲れてげんなりとして、部室棟を後にした。
 
 
 

 翌日お昼過ぎ、校舎屋上。
「あれ? オカ研の入部届け…」
 ベンチに深く腰掛け、ふと探ったポケットの中から出てきたそれを広げていた。
 その紙には既に必要な事項が全て記入済になっている。 だがそれは、入るか否かと言う思考をとりあえず棚に上げて記入しただけであって、希亜自身は漫研との兼部に若干の抵抗を感じ、現時点では迷っているのが現状だった。
「オカ研に相談に行ってみましょうか… その方が、魔法的に安定した空間を確保しやすいかな〜、師に相談するという手もあるし、どうしたものかなぁ」
 眼鏡を外しハンカチでほこりを拭きとる、そのまま眼鏡をかけようともせずに思考を広げていった。

 かなり集中して考えていたのだろうか、近づく緋袴姿の同級生すら認識できないほどに、彼は深く思考の空に溶け込んでいた。
「何を考えているの? 希亜君」
 だから、そう呼ばれても反応できないでいた。
「希亜君?」
「…!」
 ようやく側に誰かが居ることに気付き、振り返る希亜。 目の前に誰かがいるのだが、それが誰だかうまく見えないらしく目を凝らす。
 そんな希亜の動作に綾芽は。
「眼鏡、かけないの?」
 そう言った。
「綾芽さん…」
 ようやく相手に気付いた希亜は、眼鏡をかけながら綾芽を見上げる。
「ねえパパ見なかった?」
「ゆーさくさんなら、今日は朝以外見てないですよ〜。 探してみますか?」
「ううん、帰る前に挨拶しようと思っただけだから」
「そですか。 私ももう出ますから、下までご一緒してもいいですか〜?」
「いいよ」
 返事を聞いた希亜は、ふわりとベンチから立ち上がり、忘れ物がないか辺りを見渡すと、綾芽の方へと振り返り。
「行きましょうか〜?」
「うん」
 二人はそうしてこの場から歩き出す。

 しばらく会話はなかった。
 希亜の方は、隣を歩く人物に対して妙に意識する事が多くなり、最近になってからは目を合わせるのをためらっていることもあったりした。
 特に聞きたい事がある訳でもなかった、あの時に受け取った様々な思いが、様々な質問の返答になっていたからだ。
 だから希亜は、隣を歩く人物を視界以外で感じつつ階段の傾斜に沿ってゆっくりと飛行していた。
 綾芽の方は、少し前に知り合ってから何かと側にいることが多い、その容姿と物腰とどことなく散在する危うさからつい年下のように接してしまう同級生。
 そして、多分自分自身よりも自分の心を知っている人物…
 聞きたい事は多分いろいろある、でもそれが上手く言葉にならなかった。
 結局二人とも何を話して良いのか困っていた。
 階段を下りる足音は一つ、一人はふよふよと滑るように宙を降りているから。
 その希亜の様子が気になったのか綾芽は口を開いた。
「希亜君、階段ぐらい自分の脚で歩いたら?」
「心配しなくてもぉ、最低限の体力はありますから〜」
「………」
「まぁ、そんなに心配していませんし〜、大丈夫ですよ体育はちゃんと出ているわけですから」
 

 中庭。
「参ったな…」
 そんな呟きを 白衣を着た少年悠朔は呟く。
 猫のゴーストを誘おうとして、右手につままれている小魚。
「せっかく好物が手に入ったというのに…」
 いろいろと現れそうな所を回ったが、一向に現れないゴーストに、そろそろ帰ろうかと思い小魚をしまい込み視線を上に上げる。
「あれは綾芽。 と希亜」
 一階の廊下を歩く彼らを、特に希亜と綾芽が一書にいる事に、何となくではあったが、朔の脳裏に不安がよぎった。
 それは、自称魔女の系譜の魔法使いであるという人物が綾芽の側にいるからだけではなく、
 心を既に握られているようなリアルな錯覚に陥れられた相手が綾芽の側にいるだけではなく、
 一人の男が自称娘だと行って慕ってくる人物の側にいるからだけではなく、
 『あなたの心はとても美味しい』と楽しそうに言った希亜が側にいるからではなく、 他にも思考にならない心配や懸念が形もなさず、それでいて決定的な理由にもならず、
 ただ漠然と混沌と、そしてリアルに不安を感じていた。
(彼奴の事だ、もし下手に綾芽の事を傷つけるような事になったら…)
 そうはっきりと思考した時には、もう朔は走り出していた。
 

 校舎一階。
「ところで… あれ? 綾香さんですね」
「あ、本当だ。 ママー!!」
 希亜に指摘されて廊下の向こうに綾香の姿を見つけた綾芽は、そう言いつつ駆け出した。 希亜もその後をふよふよと付いて行く。
「綾芽、ゆーさくは見つかったの?」
「ううんママ、パパは見つからなかったの」
 駆け寄りながら返事を返す綾芽に遅れて、希亜が続く。
「こんにちは、綾香さん」
「あら、こんにちは。 綾芽、そろそろ帰りましょうか」
「うんママ。 希亜君また明日」
「はいな」
 去って行く二人に、手を振る希亜。 とりあえず手短な出口に向かおうと振り返ったところで、
「あ、ゆーさくさん」
 物陰からこちらを伺っていた白衣の寮生、朔の姿があった。 彼はそのままこちらに出てくると。
「ゆーさくと言うな! それより綾芽に何か言わなかったか?」
 朔の刺すような視線が希亜に突き刺さるが、希亜はそれを気にすることもなく。
「特には〜」
 朔の目の奥をのぞき込むような視線のままに、いつも通りに糸の切れたような緊張感のままに言った。
「ならいい」
 素っ気なく返し立ち去ろうとした朔は、何か思い出したように振り返り。
「あいつを傷つけるようなことがあったら…」
 その朔の口調に、彼に余裕がないと同時に一途に真剣な様相を感じた希亜は、それを小気味良く感ていた。 だからだろうか、希亜の表情がやや楽しそうに微笑んでいるのを見取った朔は、言葉を止め。
「…何がおかしい」
「悪いんですけど、この件においては。 今、彼女の心にメスを入れるようなまねはしませんよ〜。 だって今は効果がないでしょうから」
 朔の視線が一瞬泳ぐのを見て、希亜は朔に背を向け。
「まぁ、好きなんでしょうね。 私も…」
 小さく呟いて、そのままやや早めにではあるが、ふよふよとこの場から離れて行く希亜。 そのまま離れていく希亜を見て悠朔は、
「……逃げるなよ」
 やや呆れるように、やはり小さく呟いた言葉であったが、希亜はその呟きに反応するようにピタリと止まった。
 静寂が二人の時間をよぎる。
 そして、朔がニヤリと笑みを浮かべるのと、希亜が肩を落とすのは全く同時だった。
 無論してやったりの朔と、止まってしまった事に深く敗北感を感じている希亜。
 だがこの二人にとっては、こんな事は日常のお約束である訳で…。 しばらくすると、やはり二人同時に何事もなかったかのようにこの場から離れて行くのだった。
 
 
 

 翌日夕刻、部室棟。
「じゃあ、お先に」
「ほななー」
 鞄を片手に漫研を後にした希亜、その彼の脳裏には制作中の箒の事でほぼ全てが埋められていた。
「オカ研に向かってみますか…」
 ふよふよと宙を漂いながらオカ研へと向かう。

 夕暮れの朱に空気まで染められた廊下を進む。
 そろそろ本格的に取りかからないと、工程が大幅に遅れてしまうのは目に見えていた。
 現時点では内部パーツだけが個々に出来上がろうとしている状態で、それを包み込む内部のボックスも、箒のフレームも浮遊する主翼も、外部パーツとして工作部に発注中なので全く出来上がっていないとも言える状態だった。
 工作部の方からはまだ何の知らせも届いていないのが、希亜をじわじわと焦らせていた。
 だがオカ研の戸の前でどうしようか考える暇もなく、その戸は中から開けられた。
「あ」
 思わず以前感じた感覚、オカ研会長の物だと気付く。
 少し前まで部長だと思っていたのだが、数日前に"会長"と呼ばれていることを知ったのだった。
(なんか、怒っているような感じを受けるのですが…)
 取る物も取りあえず魔法を使う、精霊や意識体と話すための魔法を。
「ちょっと!、どうして絵を飾ってくれないの?」
 いきなり怒鳴られた希亜。
 希亜の目の前には、以前に会って絵を描いた人物がいた、どうもかなりご立腹のようだが。
 キョトンとしたままの希亜にさらに言葉は浴びせられた。
「こっちは首を長くして待っているって言うのに」
「はぁ〜」
 脱力と安堵の混じった希亜の声にその人物は。
「…元気、ないのね」
「はい。 ちょっと悩み事がある物ですから」
「そう、取りあえず絵を飾ってくれないかな」
「絵ですか、漫研に置いてありますから、取りに行きますけど…」
「じゃ、ついて行くから」
 希亜は「でわ」とばかりに足を踏み出す。
「右足と右手が同時に出てるよ…」
「…そう、みたいですね」
 ようやく気付いた希亜は歩くことを諦めたのか、そのままふわりと浮き上がる。
「元気ないぞ、どうしたの?」
「ちょっと悩んでいることがありまして、そのせいですから〜」
「人には言えないことなの?」
「そう言うわけではないんですけどぉ。 あまり人に言うことではありません、ましてや他人のプライベートなことに触れる事項もありますから」
 二人は部室棟の階段を下りる、もうすく漫研の部室だ、もっとも普通には端から見れば希亜一人なのだが。
「そう言えば自称"魔法使い"なのよね、 ええと…」
「希亜でいいですよ、それに自称なら"魔女の系譜の"を付けて下さいね」
「…魔女の系譜ねぇ」
「曾祖母がグエンディーナの人でして、まあ"音速の箒乗り"でもいいんですけどねぇ」
「ふうん」
 漫研部室の前に戻った希亜は、そのまま戸を空け中に入る。
「忘れ物を取りに来ました」
 何人かが希亜に反応を示すが、すぐに元の作業に戻る。 希亜はそのまま部屋の隅に置いてある絵を取りに歩いてゆく。
「なんか、静かな部屋ね」
「まぁ漫研ですからね〜」
 悠長に答えつつ、丁寧に包装されている絵を手に取り、名前とメモ書きを確認する。
「この絵ですね。 じゃ、行きましょう」
 そそくさと部屋を出ようとする希亜の後を、同じように付いて行く。
「そんなに急がなくてもいいじゃない」
「でも、あまり邪魔をしたくありませんから」
 部屋を出た二人、希亜はまっすぐにオカ件に向かっていた、会長はその後をついて行く。
「希亜だっけ?」
「ええ」
「芹香から聞いたわよ、入部するかどうかまだ迷ってるんだって?」
「ええ、兼部するのがちょっと… まぁそれだけなんですけどね」
「別に幽霊部員でも良いのに」
「私、漫研では備品の管理しているんですよ。 ですから、オカ研に行っても完全に片手間になってしまいますから」
「そう言うことを気に病んでるの?」
「ええ」
「律儀というか、細かいというか、小心者というか… 好きなときに寄ればいいのよ、うちの部活はそう言う物なんだから」
「え? でも神海さんは何かあった時は集まりは良いって言ってしたよ」
「みんな野次馬根性なのよ」
「あぁ、そういう側面も…」
「…どうしたのよ」
「いえ、たまに寄らせていただける程度で良いなら。 入っても良いかなと思いまして」
「本当に?」
「ええ、まぁ…」
「何よ」
「実は… 箒を組み立てるのに、魔法的に安定した空間が必要なんです。 実家にも、私の曾祖母の家にもそう言う部屋はありませんし、困っていた所なんです」
「ふうん、どのくらい安定していればいいの?」
「そうですね… 簡単に言えば超クリーンルームぐらいは欲しいですね」
「それって少しの魔力も想いすらも干渉できない様にするの?」
「いえ、少しの魔力も想いも外部から介入できない空間、部屋です。 作業工程上は中で魔法を使用しますから、魔力自体存在できない空間ではだめなんです」
「そう… 芹香に相談してみたら? …って、今まで相談しなかったの?」
「ええ、何となく顔を合わせづらくて…」
「…それも、部活に入るかどうかを考えていたから。 なんて言わないわよね?」
 無言の希亜。
「…マジ?」
「あ…、あはははは…」
「律儀というか、細かいというか、小心者というか…」
「あ、入部届け渡しときますね」
 そんなやりとりのうちに二人はオカ研の前まで来ていた。
「さ、入るわよ」
「…ええ」
 戸に手を掛けて中に入る。
「あ…」
 即座に何人かの視線と興味が集まってくるのを感じた。 ただ見られているというのであれば、慣れているので気にはしなかったかもしれない。 だが、何か視線に乗る色がいつもの物とは違う事を感じてしまった。
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと…」
「その絵は、あそこに飾って」
 すっと指を指す会長、それは前に示された場所と全く同じ場所を示していた。
「分かりました」
 その壁の前まで行き、しまわれたままの絵を掲げ、
「高さはこのくらいで良いですか?」
「もうちょっと上」
「こんな物ですか?」
「そうね、そこにお願い」
「はいな」
 軽く返事をして作業に入る。
 その間も、幾つかの色の乗る視線が希亜に向けられているのを感じていた。
 程なく作業も終わり、壁に絵は掛けられた。
 その日は時間も遅く、オカ研のメンバーもあまりいなかった事もあり、紹介は明日に延期された。
 
 
 

 翌昼、校舎屋上。
「そうだ、希亜君オカ研に入ったんだって?」
 綾芽の言葉を静かに肯定する希亜。
「芹香さん喜んでたよ」
「へえ〜」
 希亜にはいまいち来栖川芹香が喜ぶ理由が分からなかったが、社交辞令なんだろうと聞き流した。
「これで、少しは箒の製作に進展が見られますよ」
 そう言って二学期になってめっきり枯れた誰かさんが実家の縁側でお茶を啜るような感じで、希亜は紅茶をすする。
「パパみたい…」
「あの人は、今チョット見失っているだけですよ」
 希亜は自分の願望を混ぜ、言葉を返した。
「そうなの?」
「幸せな時間はそうまで長くは続かない、なぜならば人間の心は貪欲だから、いつの間にかその幸せに気づけなくなり、もっと強い刺激を求めてしまうから…」
 寂しそうに呟く希亜、だが直後背後から低い朔の声が届く。
「ほぉ…」
「あ、パパっ!」
「いたのは知っています」
「…お前なぁ」
 思わず胃の辺りを押さえる朔。
「まぁ、お昼にしますか」
 そう言って希亜はバスケットからバゲットを取り出しかじりつくのだった。
 

 放課後。
「希亜君!」
「…どうしたんですか?」
 実のところ、放課後になった直後に綾芽に声を掛けられたのは初めての事だった。
「オカ研に行くんでしょ?」
「ええ」
「…逃げたりしない?」
「必要がなければね〜」
「し、心配だから、お姉さんが付いて行ってあげる」
「そですか」
 言葉を返しながら、希亜はクスリと笑みを浮かべていた。
「な、なによぉ」
「いえ、行きましょうか」
 立ち上がり歩き出す希亜を慌てて追いかける綾芽。
「どうして笑うの?」
「言っても良いんですか?」
「知りたい」
「恥ずかしいからって、言葉を偽っていると、そのうち心まで偽る事になりますよ」
(本当は、偽った言葉を心にしてしまいますよ、なんですけどね)
 思わず立ち止まる綾芽に、希亜も立ち止まり綾芽に言葉の続きを告げる。
「だから、あまり偽る事は止めた方が良いです、じゃないと私みたいなひねくれた人物になりますよ」
「ううっ、考えとく」
「では、行きましょうか〜」
 

 オカ研。
「失礼しまぁ〜す」
 緊張感のかけらもない、いつもののほほんとした声で希亜は戸を開き入って行く。
 入り口付近で座っていた東西が希亜の方へと顔を向け、
「ああ希亜君、待っていたよ」
「どうも、存在率は結構希薄になりそうですけど、よろしくお願いしますね」
 そうのほほんと言って、希亜は辺りを見渡す。
「……まだ、来られていないのですね」
「ん? もう少ししたら全員来るよ、逢魔が時の方が楽だからって会長が言ってた、と副部長が」
「なるほど」
「それまではゆっくりしてくれるといいよ」
「ではイス借りますね」
 そう言って希亜は空いているイスを二つ引っ張り出し。
「綾芽さん、どうぞ」
 手でどうぞとジェスチャーをしつつ、未だ入り口付近に立っている綾芽に言った。
「あ、うん。 ありがとう希亜君」
「気にしなくいて良いですよぉ」
 何でもないように答える希亜も綾芽が座ったのを見て座る、鞄を膝の上に置き中を見た。
「何か持ってきたの?」
「いろいろです〜」
 夕焼けの朱に染められた空気が部屋の中へゆっくりと流れ込み始める。 希亜にもゆっくりと空気の質が変わるのが感じられた。
 思えば会長とはいつもそんな時にしか会っていなかった。
 初めは物憂げにただ独りで、夕焼けの朱に染まりはじめた廊下で外を見ていた。
 どちらからという訳でもなく、会話になり、そして絵を描いた。
 その絵は先日部屋の隅に掲げられた、かなり古い制服を着ている人物、昔のここの生徒だったらしい。
 いずれはその人物も人の心を霧散させて行くのかと、そんな事を綾芽ととりとめのない会話を交わしながら、ぼんやりと考えていた…

 入り口の戸が開く。 入ってくるのは二人、副部長の来栖川芹香と会長と呼ばれる存在。
 魔法を使っていない希亜には、会長がそこに存在している事までしか分からなかった。
 すっと、芹香の手がその会長の存在を強く感じる方にのばされる。
 その手に突然一枚の紙が現れた、幽世がら現世に渡されたそれは、以前希亜が会長に提出した入部届けだった。
「では、みんニャそろった所で新入部員の紹介を始めるニャ」
 芹香の足元から、いつの間にかそこにいた黒猫、エーデルハイドがそう呼びかける。
 芹香はエーデルハイドを抱き上げ、何かを語りかける。
「ニャん度か出入りしているから知っている人もいると思うけど、漫研の倉庫番の弥雨那希亜君ニャ」
(漫研の倉庫番って、私そんな風に思われてたんですね…)
 思わず脱力する希亜。
「あーー、ごめん。 これって私が芹香さんに吹き込んだの」
 小声でそう言う綾芽に希亜は小さく、
「ぐっすん」
 そう返した。
「じゃ、自己紹介をしてもらうニャ」
 エーデルハイドがそう言った、自然と視線が希亜に集まる。
「シクシク」
 だが当の希亜は、うつむいていた。
「あー、希亜君、希亜君ってば」
「ニャ? どうかしたのかニャ?」
 慌てる綾芽と、戸惑うエーデルハイド。
 だが希亜はうつむいたまま、ふわりと立ち上がり。
「ええ、漫研の備品管理係の希亜弥雨那です、希亜と呼んで下さい」
 とそこまで言って、恨みがましく死んだ魚のような視線を綾芽に送った。
「はうっ」
 ハッキリ言って結構怖い。
 綾芽の反応を見て、希亜は視線を元に戻し。
「基本的には、漫研の方にいますがちょくちょく調べ物に寄らせていただきますのでよろしくお願いしますね〜。 ええと、超音速の箒乗りとか、魔女の系譜の魔法使いとか自称してます」
「専門分野は何ですかー?」
「飛ぶ事です」
 質問にそう簡潔に答え、言葉を続ける。
「私の力は、全てそらへと向いているようなんですよ。 それを飛ぶ事、その記憶や想いに触れる事とかは結構簡単に出来るんですけど〜。 普通に魔法を使うのは、かなり苦手なんです」
「グエンディーナの魔法使いじゃないのかい? 希亜君」
「あ〜、神海さん。 説明が面倒だから黙っておこうと思ったのにぃ」
「…おいおい」
 どこからともなくはいるツッコミに神海は苦笑して。
「ま、ここなら誰も驚かないさ」
「そですね」
 ここという言葉がどこを指しているのかを考える必要も感じずに、希亜は言葉を返していた。
 グエンディーナ系の魔法使いは希亜を含め学園界隈では三人が確認されていた、もちろん後の二人はグエンディーナの姫君達である。
 実際には、疑わしき人物を含めると取りあえずはあと二人ほど増えるらしいのだが、それはまだ別のお話である。
「正確にはグエンディーナの生粋の魔法ではないんです。 私の家系に伝わるのは、グエンディーナの魔法と魔女と呼ばれる者達が培った知恵ですから、それらが融合したもの、と考えて下さい。 …とすると、魔女の系譜にあるグエンディーナ系の超音速の箒乗り、と言う事になるのかな?」
「それって長すぎない?」
「ですよね」
 綾芽に指摘されて苦笑いを浮かべる希亜。
「所で、具体的にはどんな魔法を使えるんだい?」
「あ〜、今のところ使えるのは精霊と語る魔法の暴走版と〜、暴走版インスタントヴィジョンですね〜」
 思いっきり質問者から目をそらして答える希亜。
「暴走版?」
「普通の魔法を使うと、どうも暴走してしまうんです。 ですから師からは、暴走する場合に少しでも危険な魔法の使用を禁止されています」
「なるほどね」
 それからしばらく、とりとめのない質問や会話が続き、日も暮れ、ほどよい所でお開きになった。
 

 夜。 来栖川邸、芹香の部屋。
「姉さん、ちょっと良いかしら? 話したい事があるんだけど」
 言いながら、入り口のドアから、姉の前まで歩いてくる綾香。
「あの子をオカ研に入れる必要があったのかどうか? …ってまぁそれが聞きたいんだけど」
 芹香は静かに綾香にソファに座るように促し、カップへとティーポットから紅茶を注ぐ。
「…あの娘の事が心配だから、出来るだけ手の届く所に置きたかったって… 姉さん、それはやりすぎじゃないかしら」
 今度は、自分用のカップに紅茶を注ぐ芹香。
「…あの子は、自らを魔女の系譜の者としています。 だから不安なのでしょうね?」
 いつものように芹香の言葉を確認するように呟いた後、綾香はまじまじと目の前にいる、魔女と称される姉を見ていた。
「姉さんは… そう言う心当たりあるの?」
 特に表情を変えず、芹香は言葉を紡ぐ。
「…恋をすると言う事は、とてもつよい意志が必要です、そしてつよい意志は、狂気にもなりかねない。 あの子が魔女であるというのなら、なおさらです…  でも、それは多分、気にし過ぎているだけだと思うわ。 どうしてかって? あの人間嫌いのあいつが信頼しているのよ。 ま、もっとも本人は否定するでしょうけどね」
 芹香は深く頷き、
「え? お母さんの目をしていますって、からかわないでよ。 そうすると姉さんは伯母さんじゃない」
「複雑です。 ってまぁ、可愛い事には変わらないんだけどね」
 コクコク。
 会話が一段落して、お互いにカップに口を付けた。
 ややあって、ドアがノックされる。
「おじゃまします。 あママ、やっぱりこっちにいたんだ」
 綾芽は綾香がいるのを確認すると、嬉しそうに駆け寄る。
「どうしたの? 綾芽」
「ううん、お休みの挨拶」
「そう、お休みなさい。 良い夢を見られると良いね」
「うん! お休みなさいママ、お休みなさい芹香さん」
 二人にそう言ってぱたぱたと綾芽は部屋から出て行った。
 戸が閉まる音が部屋に広がる。
 それからまた、二三言葉を交わし、柱時計が時を告げたところで綾香は席を立った。
「あたしもそろそろ寝るわ、お休み姉さん」
 
 
 

 数日後、放課後初等部の外れ。
 南さんに頼まれて荷物を初等部の職員室に届けた帰りに、多数の小学生に囲まれていた。
 希亜曰く「魔法使いの正装」で、自慢の箒であるRising Arrowではなく、それ以前から使っていた、普通の空飛ぶ箒の天津丸で飛んできた事が、初等部の生徒達の好奇心を煽ってしまった訳で…
 現在、好奇心旺盛な低学年のお子様達に囲まれていた。
 持ち前ののんびりした性格が祟ったのか、丁寧にお子様達の質問に答えて行く。 まだ子供の心にはメスになってしまうような部分は避けて…
 

 初等部へと歩く緋袴の少女、ふとその視界に初等部低学年の子供達に囲まれている、魔法使いの姿をした人物が入って来た。
 すぐにそれが希亜君だと分かり、そのままその場へ近づき声を掛けた。
「珍しいね、希亜君がこんな所にいるなんて」
「あ、綾芽ねーちゃん」
「こんにちわ、みんな」
 綾芽はそう言ってみんなに挨拶すると、希亜の隣に座り込んだ。
「何を話していたの?」
「私が皆の質問に答えていたんですよぉ」
「ふうん」
 ふと希亜の目を見て、綾芽は安心していた。 いつものようにのほほんと、それでいてとても優しい目をしていたから。
 その瞳が自分に向けられる。
「ところで、綾芽さんは?」
「あ、うん。 ママが部活終わるまでの暇つぶし」
「そですか」
「ねぇ、乗せてあげたら?」
「え!?」
 そんな素っ頓狂な声を上げつつ、綾芽を見る希亜。
「うん!」
 その希亜に楽しそうに笑みを返す綾芽。
「ええ〜!」
 そして、悲鳴のような希亜の声が広がっていた。

 結局、その場にいた全員を一通り乗せて、丁度良い時間になっていた。
「ばいばーい」
 去って行く子供達に、力無く手を振る希亜。
 安全性の問題から、Rising Arrowに乗せていた。 そのRising Arrowも今はペンダントになっている。
「疲れたぁ…」
 そう言って希亜は、夕焼けに彩られた落ち葉の絨毯にふわりと腰を下ろす。
 希亜にとっては子供は壊れ物だった、心も体も無垢と無知とを併せ持ちなおかつそれが狂気ではない存在、だから最大限に安全性に配慮して飛行した。 それが気疲れを起こしたのだろう。
「お疲れ様」
 コクリと希亜の頭が動く。
 落ち葉に優しく触れる風が辺りを流れて行く。
「心地良い、風ですね〜」
「うん」
 ややあって希亜は、側で彼を見下ろしていた綾芽を見上げ、
「行きますか?」
「うん」
 再び浮き上がった希亜は、ふわりとばかりに持ってきていた箒の天津丸に腰掛ける。
 そして綾芽の方へと手を伸ばし、
「乗りませんか?」
「え?」
「綾芽さんも、ね?」
「いいよぉ」
 笑いながらごまかすようにそう返す綾芽に希亜は、
「そですか」
 そう短く返し、舳先を高等部の方へと向け。
「では行きましょうか?」
「うん」

 歩き出した綾芽がふと口を開く。
「ねぇ、今箒を作っているって本当?」
「ええ」
「ふぅん、どんなの?」
「空を泳ぐように飛ぶ事の出来る箒です、飛行特性としてはロケットよりも航空機に近くなります」
「そうなんだ」
「出来上がったら、一番に空に招待したいのですが…」
「うーん、いいよ。 お姉さんが一番始めに乗ってあげる」
「分かりました」
 
 
 

 翌日夕刻、オカ研部室。
 既に漫研の備品の管理作業を終えて、ここに来ていた。
 先日入部して以来、ここに来たのはまだ2回目であった。
 何かの製作を本にするという作業は、結構時間がかかり、調べ物をすると言う作業手順までなかなか到達出来なかったのである。
 改めてみる蔵書の数はすごいのだが…、実際問題として希亜に必要なデータが乗っているような書物は、2冊ほどが見つけられただけだった。
 "宇宙機の航空力学"と"音速の巨人機達"である。
 オカルト研究部で何でこんな本がと言う指摘もないでもないが、現実にあったので希亜はよしとしている。
「調べ物かい?」
 声を掛けられて顔を上げる、トリプルGがそこに何か本を片手に佇んでいた。
「ええ」
「…音速の巨人機達?、そっちは…」
 希亜の手元に開かれている本を見て、疑問に思ったのだろうか。
「良ければ、何を調べているのか教えてもらえるかな」
「第一宇宙速度未満の、極超音速巡航時から速度ゼロ時までの、それぞれの最適フィールドパターンとか、ですね。 因みにこっちは"宇宙機の航空力学"って本です〜」
「な…、なるほど、所で宇宙機ってなんだい?」
「宇宙機ですか、スペースシャトルご存じですよね?」
「ああ」
「あれみたいなものです、この分類で行くと宇宙船は大気圏突入は出来ないんですよ」
「ふーん」
 取りあえずは納得したのか、彼はまた元の自分の調べ物に戻っていった。

 希亜の持っている自慢の箒"Rising Arrow"は、彼自身が「これはただのブースターで…」と言っているとおりに、自身の出力で力任せにぶっ飛んで行くタイプの飛行形式を取る。
 実のところそれ自体は飛翔体であり、定格最大出力が月ロケットのサターン5型ロケットの1段目と同等の出力を持つブースターでしかなく、箒の能力で強化されているとは言え、浮遊も含めて機動は全て希亜自身が行っており、機動には空気の密度など全く必要はないのだ。
 それに対して、今回希亜が作ろうとしているのは、航空機であった。 空力で機動する、自身の力で超音速巡航も可能な魔法側からの航空機に対するアプローチ、そんな物だった。
 空力データは、軍用の最新鋭機でもない限り探せば出てくるもので、色々と集まっていた。
 実際の所、自身が浮遊してしまえば飛翔体のような飛び方をするのだが、機動という側面から考えると航空機に近いのだった。
 現在希亜が思考しているフィールドパターンは、超音速から速度ゼロ時までの物である。 第一宇宙速度未満の極超音速巡航は参考程度にとどめていた。
 もし、この箒でそこまでの速度を出すのなら、分類上は宇宙機になり、当初の目的である航空機から逸脱してしまうのだった。 例え、次の目的がそれを超える宇宙機的な箒を作る事だとしても…
 発生するフィールドは全部で6つのフィールドが融合するものであり。 構成は主翼の左右2つ、本体その物に1つ、本体下部のオプションサイトに1つ、本体前部に1つ、搭乗者生存用に1つである。
 それぞれに役目が違うので一概には言えないが、敢えて形容するのならば航空機の機体その物と言えよう。
 これらのフィールドを速度や、搭乗者、装着オプション、機動に応じて生き物のように変化させて行く必要があった。
 おおよそのパターンは既に出来上がっており、今日来たのはそのパターン検証作業の1つであった。
 持ってきていたスケブにどんどん必要なデータを描き込んで行く、端から見ると漫画か何かの設定を書いているようにも見えた。
 時刻が夕刻になり、窓から入ってくる日差しが夕焼けに染められる頃、ようやく作業が一段落した。
「さて、これでフィールドに関してはおおよそOKですねぇ」
 ふと、気配を感じた。 といっても周囲に気を配っている訳でも魔法を使っている訳でもないので、ごく至近。 それも隣と言える距離にだ。
 その気配も、何か不確定な二つの像が重なっているような感じを受けた。
 視線をその方向に持って行く、目の前には一匹の黒猫、種類は分からない、名前はエーデルハイド。
「どうしたの?」
 希亜の質問にエーデルハイドは答えず、ぷいっときびすを返して去って行った。
「そう…」
 ちょっとしたデジャビュを感じつつ、希亜はただそれだけを呟き、持ってきていた二冊の本を本棚に戻すべく立ち上がるのだった。
「クラム元気かな」
 ふと実家で飼っている、曾祖母と同じ名を持つ、青みがかったグレーの毛並みを持つシャム猫を思い出した。 何故か希亜と曾祖母に良くなつき、でも気まぐれを多分に持つ猫だ。 だからだろう、きびすを返して去ったエーデルハイドとだぶったのは…
「たまには、会いに行こうかな…」
 特に迷う事はなかった、どうせ時間的距離にして数十分の距離であったから。
 

 部室棟前。
「あれ? 希亜君」
「綾芽さん。 芹香さん待ちですか〜?」
「うん」
「もう少ししたら降りてくると思いますよ〜、先ほど帰り支度をしていましたから…」
「そうなんだ」
 いつものように緋袴姿の綾芽、視線は浮いている分希亜の方が高い。
 紅く染まる空の下、静かに慕っている人物を待つ、よく知っているはずの人物。
 やや高めにくくられたポニーテール。
 素っ気なく、だがよく着こなされた緋袴姿。
 どことなく優しげで、やや精悍さがある瞳。
 携帯やハンカチの入っている袖。
 ママと呼ぶ人物よりは幾分か控えめな胸。
 そして、とても気高く、狂おしいほどに美しい魂の姿。
 そんな雑多な物が全て吹き飛ぶくらいに、夕焼けの朱に彩られた空気と共に、幽玄に浮かび上がるかのような錯覚を持って、希亜の視覚に綾芽は存在していた。
 完璧な一枚の絵画のように、幽玄に浮かび上がる力強さと、同じくらいの儚さをもって、綾芽は存在していた。
「…希亜君? 何か付いてる?」
 希亜の視線に、思わず自分の姿を確認しながら問いかける綾芽。
 ふと、魅入っていたのに気が付いた希亜は、呆けるように答える。
「…いえ、特には〜。 ちょっと考え事を」
「ふーん、私の方を見て考え事するなんて、何を考えていたのかな? 希亜君」
「えっと…」
 思わず言葉に詰まる、「見とれてました」との言葉は、恥ずかしくて飲み込んでいた。
「何見てたのー?」
 つんつんと、赤面している希亜のおでこを突っつきながら、楽しそうに問いかける。
「…言わないとダメ?」
「知りたいなー」
 楽しそうに言うその言葉に、希亜は綾芽から視線を外す。
「教えて?」
「何て言うかその… 魅入られてました。 とっても儚くて、でも力強いその姿に」
 

 すぐ側の校舎内の物陰。
(何をしているんだ俺は?)
 目の前のあまりにもベタな展開に、朔は出るに出られなくなっていた。
(前にもこんなことあったな…)
 仕方なく、校舎へと戻ろうと振り返る…
「おい、何をしている」
 小声で問いかける、目の前には綾香と芹香が同じように様子をうかがっていた。
「だって、興味あるじゃない?」
 コクコク。
「しかし、趣味が悪くないか?」
「でも、関係者だし」
 コクコク。
(いいのか? まぁ、いいか…)
 流されるままに観念した朔は、再び意識を二人の方へともどす。
 

「「あの」」
 二人の声がハモる。
「あ、何? 希亜君」
「…えっとですね、私これから実家に戻りますから。 今日はこれでさよならです」
「そ、そうなんだ」
「はい、また明日。 綾芽さん」
「またね、希亜君」
 

 続、物陰。
「案外早く終わったわね」
「まぁ、希亜だからな」
 諦めにも似たような朔の言葉、
「でも、もっと盛り上がっても良いんじゃない? え? あの子はまだ迷っているから、それは期待しすぎです? そうかしら」
 遠く空の彼方より爆発音が僅かに聞こえた。
 それを聞いて希亜が行ってしまった事を実感した朔は、
「じゃ、俺はここで」
 そう小声で言ってこの場から離れようとした。
「あれ? パパにママに芹香さん… 何してるの?」
 壁にぴったりとくっついていた芹香と綾香、低い姿勢で振り返っている朔。 傍目にも隠れていましたと言わんばかりだった。
 風が… 綾芽と、三人の間を吹き抜けていったのは、気のせいではなかった。
 
 
 

 数日後昼時、校舎屋上。
 長椅子にもたれながら空を見上げる、膝の上に青みがかったグレーの毛並みを持つシャム猫を抱いて…
 猫の名前はクラム、希亜の曾祖母と同じ名前で、浅葱色の首輪に陶器製のコロコロとなる鈴を付けている。
「今日は、綾芽さん見なかったな〜」
 時間割と取っている授業の関係上そんな日があるのだが、今日はその日ではなかった。
「どうしたんでしょうかね〜?」
 心配ではあるが、悠朔の様子もいつも通りだったので、特に気にとめてはいなかった。
 クラムは先ほどからずっと、希亜の膝の上で丸くなっている。
 先日、希亜が帰宅した際に思いっきり飛びつかれ、それ以来離れてくれなくなってしまい、仕方なく連れてきてしまっていた。 風呂好きなので、清潔なのが救いといえば救いなのだが…
 そのクラムの耳がぴくりと動き、頭を持ち上げ一鳴きした。
「ん? どうしたクラム」
「なー」
 希亜がそのシャム猫の視線を追う。
「あれ? 芹香さん」
 ゆっくりとこっちに歩いてくる。
 秋とは言え、昼の日差しに明るく染められた黒髪がたゆたうように揺れる。
 膝の上のクラムは一度のびをすると、また膝の上で丸くなった。
「ごゆっくり」
 クラムにそう言って希亜は、そのまま視線を芹香に合わせる。
 目の前まで来た彼女は、静かに止まり。
「綾芽が風邪を引いてしまいました? …あら〜」
 ある意味間抜けな声が屋上に霧散していった。
 

 夕刻。
「…良いんですか?」
「良いのよ。 ね?セバスチャン」
 運転しているセバスチャンは不承不承に、
「綾芽様のご学友だから仕方なく乗せて…「はいはい」
 長くなりそうなセバスチャンの声を、あっさりと遮る綾香。
 リムジンは初めての希亜は車に酔っていた、吐き気こそ無いのだが、襲ってくる頭痛に静かに耐えていた。
「どうした?」
「…あう、ちょっと…」
「そうか」
「なー」
 実のところあまり余裕はないのだが、こちらに注意を向けて一鳴きしたクラムの頭にそっと手を乗せて、
「大丈夫だよ」
 そんな猫とのやりとりをしている希亜から、朔は窓の外に視線を移した。
 夕暮れの中、まだ色付いていない照葉樹の並木道をリムジンは走っていた。
 

 来栖川邸内。
 ようやく目的の部屋の前に着いた、朔もここに来るのは初めてだった。
 部屋の中に入ろうとノックする綾香から、ふと希亜の方に目をやる。 手に何故かひまわりの花束を持って、肩の上に猫を乗せている、猫の方もさも当然というふうに乗っている。
「おい」
「何ですか?」
「何で猫を肩の上に乗せている」
「クラムが乗りたそうにしていたから、乗せたんですけど〜」
「なー」
 さも当然とばかりに返答する一人と一匹。
 朔は諦めるように視線を外した、次いで視界に入ってきたのは、開いた扉の向こうの純和風の綾芽の部屋だった。
 完全洋風建築のこの屋敷に対応して、玄関とも言える履き物を脱ぐ為のスペースが設けられており、衝立で申し訳程度に仕切られた畳敷きと板張りの室内、ここから見える範囲で言えば上品なのだがとても質素なデザインの部屋と言えた。
 綾芽は奥の衝立の向こうらしく、衝立の端から敷いてある蒲団の端が見えていた。
「…から症状については問題ありません、明日には回復する見込みです」
 綾香が部屋に入ってすぐの場所で、ここから見えない誰かと綾芽の症状について話している。
 クイクイッ。
「ん?」
 袖を引っ張る感触に振り向く。
「入っても大丈夫です?」
 コクコク。
「んでは」
 するりと希亜が部屋に入ろうとした。
 途端何かとぶつかる音と二人分の声が聞こえた。
「う〜、…大丈夫ですか?」
「はい大丈夫です、こちらこそ失礼しました弥雨那希亜様」
 希亜が謝っているのは、希亜の飼い猫クラムを抱えたセリオタイプのHMだった。
 その様子からどうやら彼女とぶつかったらしい、部屋に合わせたように和服を着ているのを見ると綾芽専属なのだろうか。
「名前を?」
「はい、綾芽様から良く伺っております」
「あーーーーーーっ!」
 突然衝立の向こうから綾芽の叫ぶような声が聞こえた、次いで何かぶつぶつと言っている声のかけらが希亜の耳にも届く。
 希亜は、クラムをHMから受け取り、優しく胸に抱きかかえ靴を脱ぎ部屋に上がった。
 朔もそれに続いて部屋に上がる。
「どうしたの綾芽、急に大きな声なんか出して」
 綾香が部屋の奥へと進みながら声を掛ける。
「だってー」
 そんな衝立の向こうのやりとりを聞かずか希亜は、
「季節外れなんですけど、これを生けていただけないでしょうか」
 そう言ってHMに、持って来ていたひまわりの花束を渡す。
「畏まりました」
 希亜は、たまにこういう季節はずれの物を用意してくる。 もっとも彼の行動範囲が一般のそれと比べるも無く広い事を考えると、別段不思議ではないのだが。
「お願いしますね」
 ペコリと頭を下げる希亜。
「行くぞ」
「ええ」

 希亜が入って行くと、畳の上に敷かれた布団から身を起こしていた綾芽の視線とぶつかった。
 視線の先の彼女は、寝間着なのだろうか白い着物のような物を着ていた、顔が少し赤い以外には咳き込む様子もないので、別段酷い状態ではないようだ。
「こんばんわ、綾芽さん」
「う、うん。 いらっしゃい」
「お姉さんの様子を見に来ましたよ〜」
 そう言ってのほほんとしたままに綾芽の側まで来ると、クラムを抱きかかえたままふわりと座り込んだ。
「元気そうだな」
「うん、心配掛けてごめんパパ」
「…本当は嬉しいんじゃないんですか?」
 恐らく朔の心には希薄な存在である感情を呼び起こすように、言葉を希亜は選んだ。
「え?」
「それはですね〜、この人頼モゴモゴ…」
 いきなり悠朔に口をふさがれる希亜、だがそれでも何かを話そうとしている。
「パパっ」
「お前というやつは…」
「ぷはっ、しかし最近反応が鋭くなりましたね〜」
「…お前とのつきあいで慣れた…」
「そですか」
 諦めるように答えた朔に、満足げに言う希亜。 その様子に綾芽はクスリと笑う。
「綾芽様、希亜様よりお預かりした花はこちらに生けておきます」
 そう言ってHMはひまわりの花束を大きな白い花瓶に生けた。
「うん、お願い」
 と返事を返して生けられたひまわりを見る。
「…ひまわり?」
「はい、早く元気になって下さいね」
「なー」
 

 夜、来栖川邸綾芽の部屋。
 あれから比較的早く、パパと希亜君は二人は寮へと帰っていった。
 夕食時に部屋にやってきたママと一緒に夕食を済ませて、薬を飲み、しばらく横になっていた。
 ふと気付くと、傍らにはいつの間にか専属になっていた和服を着たセリオがいた。
 彼女はこちらに気付いたのだろうか体温計を取りだし、
「綾芽様、熱を…」
「うん」
 体温計を受け取り脇の下に入れる。
 ふと見回した部屋に見慣れない物があった、白く大きな花瓶に生けられたひまわりの花束。
 ひまわりにしてはあまり大きくない花が、静かに花ビンに生けられている。 勿論それが希亜君が持って来てくれた物だとすぐに気付いたが、やはりどことなく違和感があった、部屋に溶けこまないとでも言うのだろうか…
「ねぇ、何でひまわりを持ってきたんだろう、希亜君は」
「綾芽様に早く元気になってほしいと、そう思われたと思いますが」
「そうだね、早く元気になって…「ちゃんと面倒を見てあげませんと」
「うん」
 それから再び睡魔が訪れるまでの間、綾芽はこちらを向いているひまわりの花を今日の出来事を重ねるように、ぼうっと見つめていた。
 
 

 同刻、寮の屋上。
「希亜、何でひまわりを用意したんだ?」
 そう質問して、彼の用意した日本酒を口に含みながら返事を待つ。
「…ひまわりの花言葉を〜、知ってますか?」
 口の中の酒を飲み込み、
「そうか、だいたい分かったような気がする」
 そう言って朔は空になったコップに酒を注ぐ。
 実際に朔がひまわりの花言葉を知っている訳ではなく、希亜が綾芽に何を求めて接しているのかを知っているような気がする、だからだいたいの見当が付く。 と言う程度の物なのだが、少なくとも希亜が綾芽をぞんざいに扱う事はそうそうないと、彼自身信じていたかったからなのだろう。
「そですか」
 希亜はそれだけ言って、満足そうに御猪口に口を付けた。
 シャム猫のクラムは、相変わらず希亜の膝の上で丸くなっていた。
 
 
 

 翌日、お昼の校舎屋上。
「希亜君、昨日はお見舞いありがとう」
「い〜え」
 何て言う事はないというよりも、当たり前ですと言わんばかりに希亜は返す。
「聞きたいんだけど、何でひまわりを持ってきたの?」
 全く何も分からない、そんな風に聞いてきた綾芽に、希亜は二三度瞬きをした。
「…どうしたの? 希亜君」
「…あ〜、いえ、ちょっと。 私の代わりに、ね」
「ふーん」
 いまいち要領を得ないのだろうか、綾芽は曖昧に答える。
 取りあえず希亜は空を見上げた、雲はいつも通りに流れている、視界一杯に広がる白と碧と淡いみずいろのハーモニー。
 そんな空の景色とは別に、思いっきり現実逃避したい今日この頃だった。
「なーお」
 膝の上のクラムの鳴き声も、希亜には空しく聞こえていた。
 
 
 

登場人物(B-Part・登場順)
 軍畑 鋼
 御影 すばる
 猪名川 由宇
 悠 綾芽
 悠 朔
 来栖川 綾香
 来栖川 芹香
 ハイドラント
 ちびまる
 保科 智子
 悠 はじめ
 赤十字 美加香
 菅生 誠治
 (正式名称不明)オカ研会長
 東西
 エーデルハイド
 神海
 トリプルG
 クラム(飼い猫は登場人物じゃないって(笑))

===+++===
アイテム(B-Part・登場順)
百年の孤独(実在)
 店ではまず買えません(笑) アルコールは42度。
 焼酎でありながら、味わい深くしつこさはなく、香りも極上である。
 この味を知ってしまったら、もう後には引けない(笑)

天津丸
 小さな頃に希亜の作り出した箒、全長1.8mで低速低空航行用である。
 希亜にとっては自転車代わりだった、ゆっくり飛ぶ時はこっちを使う事が多い。

宇宙機の航空力学
 シャトル、主にリフティングボディー機の航空力学についての本。

音速の巨人機達
 超音速爆撃機や超音速旅客機、空中射出機の進化などについて書かれている、また何故かサンダーバード一号等、空想科学の物も載っている。

月ロケットのサターン5型ロケットの1段目(ってアイテムじゃないし(笑))
 一段目の推力は3469.3tになる、二段目までを使用して低軌道におよそ100トンの物を運ぶ事が出来る。
 Rising Arrowをフルで使用すると圧死するのはこのデータが元。
 気を付けようねあんまり大きな数値を出すと、色々苦労するから(笑)

ひまわり
 花言葉は、崇拝、敬慕、愛慕、憧れ、あなたを見つめる、あなたはすばらしい、高慢、光輝。

和服セリオ(登場人物かな…(笑))
 趣味です(笑)。
 個人的には、和服割烹着なおっとりとしたセリオがお気に入り。
 ああ… 趣味だなー


ものかきしまぷ(う)のArea へ戻る Cパートへ

Ende