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 宇宙もの 短編
ハルバートD級軽空母 ユリシーズ

始めに…
 ここは衛星軌道上のとあるドック私は静かに発進を待っている
 私か? 私はこの船 ハルバートD級軽空母ユリシーズ もっとも20年前までは特務艦ユリシーズだったが
 そんな話はまあいい とりあえず現在は軽空母だ
 全長はたったの243.28m 現在の戦闘艦の平均全長は500m余りだから半分ほどしかない
 まあ主砲は特務艦時代のものがそのまま 前部上甲板に主砲塔が2つ全4門 こちらは威力に自信がある そんじょそこらの戦闘艦の主砲よりは遥かに強力だ
 それから私の腹をすっかり入れ替えて作ったのが艦載機のハンガー 艦載機は最大40機だが最近の平和続きで現在は18機 構成は最新鋭の汎用空間戦闘機 が10機 救急艇が4機 小型汎用輸送機が4機だ
 艦のエネルギーを支えるのは一つのジェネレーター これは作動しっぱなしの機関だ もっとも20年前の改造で一度止まったがな あとは独立した補助ジェ ネレーターが3つある 艦橋用と艦載機射出収容用と副砲用だ
 乗組員は100人余り
 さて そろそろ話をはじめよう
 

 その艦長は辺境の惑星の衛星軌道上にある 小さなドックを出港したのを確認して 狭い艦橋でのんきに話始めた
「宇宙空間の片隅にある 直系1万4千光年しかない小型の小宇宙に存在するユリノ星系 テラフォーミング中を含めた40余個の可住天体からなるこの星系は  現在少々の小競り合いはあるものの至って平和そのもの…」
 パイロットは艦長に言う
「艦長 コースを指定して下さい」
 艦長はのんきに話続ける
「であるからして 今回の命令はとある惑星付近によく出没するらしい海賊と思われるものをまあ一重に言えば殺ってしまおうというわけで…」
「艦長!」
 どなるパイロット
「はいっ!」
 驚く艦長
 パイロットは冷たく
「コースを指定して下さい」
「ない」
 パイロットの顔が歪む
「はぁ?」
「いやあ 目的地がこの惑星付近なもので…」
 艦長は申し訳無いという感じで言った
「艦長 偵察機を出しましょうか?」
「どーぞどーぞ」
 艦長の軽い返事をよそに 航空班長は数機の汎用空間戦闘機を偵察の任務につかせた 正確には索敵である
 数機の汎用空間戦闘機の射出を艦橋から見届けて
「さてと…」
 艦長は席を離れた
「どこへ行かれるのですか?艦長」
 ナビゲーターの声がかかる
「ちょっとトイレに…」
「すぐに戻って来て下さい」
 艦長は艦内を一路第一砲塔へ向かう

 第一砲塔では二人の砲手が世間話をしている
 そこへ幽霊のごとく現れ二人の背後に立っている艦長
 しばらく二人の話は続く
「よお」
「かっ艦長 いつの間に?」
「さっきからいたよ… ところで今回受けた命令知ってるかい?」
「はぁ 何でも海賊をどうとか」
「退治するわけだがその辺り適当にしてくれればいいよ」
「はぁ」
「そんじゃ」
 艦長は第一砲塔を後にした

 汎用空間戦闘機RDS−F2スプライトは私の汚いハンガーの中で唯一美しい存在である まるでデザインを優先したような機体の青と白のシンプルな 塗装は見る者の心をしばし魅了する
 高密度空間においても高機動性を保つことが可能で 慣性消去装置の小型化により希密度空間でのより無茶な行動が可能である 今頃はこの惑星の反対側を飛 んでいるだろう

 この惑星は表面を水素やヘリウムが厚い層をなしている
 汎用空間戦闘機スプライトは その惑星の軌道上をセンサードームを搭載し その目を光らせながら軽空母ユリシーズのある座標に近づきつつあった
 その様子はユリシーズの艦橋の航空班長の小さなコンソールのモニターに表示されている
 ナビゲーターは艦長が視覚に入ったので声をかけた
「艦長お帰りですか?」
 艦長はそっぽを向いて
「艦長お帰りですか?」
 あらぬ方向を眺める
「こっ このっ … 天誅ぅーーーー」
 ナビゲーターは叫びながら艦長をどこからともなく取り出したハリセンで艦長の顔面を
 スパァーーン
「おぉう!」
 艦長は叫んだ後ナビゲーターの方を向いて
「な 馴れ合いはいけないよ…」
「だっ 誰が馴れ合いだ 誰が」
 怒りに燃えているナビゲーター とそれを抑える航空班長
 その状況を知ってか知らずか パイロットは現在の第4惑星宙域からより恒星に近い第2惑星宙域へのコース計算をして…
「艦長 我が艦のレーダーが先程第2惑星宙域付近で航行物体を約2秒間キャッチしましたので 艦載機収容後その座標に移動します」
「どぉーぞぉー」
 艦長の軽い声が艦橋に響いた

 俗称 海賊船…
「よし そのままベースへ降下」
「了解 アジトに降りやす」
「アジトじゃねぇー ベースだベース」
 しばらくの沈黙の後
「ボス」
「ボスじゃない 艦長とよべ」
「はぁ艦長 第4惑星の衛星のレーダーが戦闘艦らしき物体をキャッチしました」
「なに? どこの船だ」
「いまデータを検索中です … 出ましたハルバートD級軽空母 共和国の船です」
「そうか 軽空母ごときひねりつぶしてくれるわ ベースに伝えろ対空砲撃に備えろと」
と 意気込む自称海賊船の艦長 そのよこで乗組員たちが
「しかし逃げるか隠れた方が後々利口なんじゃないのか?」
と 言った事など彼の耳には入らない

 数時間前に数機の汎用空間戦闘機スプライトを収容した軽空母ユリシーズ
「移動先座標まであと46分 艦長 そろそろ食事時では?」
 パイロットは艦長の方へ振り返る
 艦長は腕時計を見て
「まあそろそろ…」
 言った
「だめですよ いつ海賊が出てくるとも限らないのに」
 ナビゲーターに対し屁理屈を並べる艦長
「しかし 何で海賊と言うのだ空賊とか宇宙賊とか宙賊でもいいのではないのか?」
 拳を握り締めナビゲーターは
「くっ くぉーのぉー…」
 航空班長は必死でナビゲーターを抑える
「離せ 離せ」
 振りほどこうとするナビゲーター
「で 殿中でござる」
 必死に抑える航空班長
「のるな」
 バキッ
「おうっ」
 一撃のうちにのされる航空班長
「天誅ー」
 艦長に襲い掛かるナビゲーター
「ひぃいいいっ」
 艦橋から逃げる艦長
「何の騒ぎだ」
 艦橋から一歩出た所 艦長の目には整備班長の握り締めているスパナが写った
「ひぇえええーー」
 ナビゲーターを押しのけ艦長のいすの裏に隠れる艦長
「何だ サインをもらいに来たのに…」
 スパナを持っていたのとは逆の手で書類を艦長に渡す整備班長
 それを受け取り
「なに 補修部品の発注書か 全く平和だなぁー しかし… なんだ スプライトより一昔前のレインフルグの方が丈夫みたいだな まったく全部スプライトの 部品でやんの」
「まったくだ スプライトの部品はヤワで困る」
と 整備班長
 その艦長の後ろでナビゲーターを抑える航空班長
「こっ 堪えて 堪えて」
「せっ せめて一太刀」
  ゲシュッ
 またのされた航空班長
「天誅ぅーーーーーー」
 どこからともなく現れたハリセンを勢いよく艦長に向かって叩きつけるナビゲーター
 避けた艦長 響くハリセンの(パァーンッ)命中音
「こっ のっ 何のうらみがあるってんだぁーー」
 ナビゲーターを追いかける整備班長 いつしか二人は艦橋の外へ
 艦長は艦橋の扉を全てロックしてナビゲーターのいすに座り
「そんなにストレスが溜まるものかな?」とパイロットにふる艦長
 パイロットは
「さぁーて ね」
と 知らないという意思表示をした直後
「艦長 レーダーに反応」
「座標と状態を…」
「前方3400kに小型の人工物体が多数 データにありません」
 艦長は
「カメラで捕らえられるか?」
 ナビゲーターのブースを離れ艦長のいすに座った
「やってみます … パネルに出ます」
 見えるのは訳の分からぬ模様とその合間の砲台のようなものだけ
 艦長は一目見るなり
「降下」
 叫んだ
「了解」
 私は姿勢制御機関の推力により下方へ大きく移動した
「敵弾 第一波上方を抜けます」
 航空班長が慌ただしく叫んだ
「主砲発射用意 正面へ 後は任せる パイロット主砲発射後乱数運動」
 艦長が声を発した数秒後に四本の光線が暗い空間に軌跡を描いた
「全弾命中した模様」
「艦載機を出した方がよろしいんでないかな?」
「艦長 命令ですか?」
 航空班長が艦長にたずねた
「さあな … ただしカタパルトは使わない方がいいと思うが…」
 上下左右に大きくブレながら進んでいる私の両舷からほんの一瞬の静止の瞬間に3機づつ合計12機のスプライトが飛び立つ それらは静かに艦の前方へ飛び 立って行った
「艦長 前方に敵艦」
「敵艦の進路は?」
「目下後退中」
「馬鹿 相対速度は」
「0」
「距離は?」
「主砲限界射程の280kジャスト」
「そうか … 高角砲の砲弾が280k飛ぶのにかかる時間は?」
「10分以内に届きます が今撃てばスプライトに当たります」
「そんなことは分かっている 相手のエネルギー反応は?」
「変化ありません」
「うむ…・」

 通称海賊船…
「よく避けたな」
「ボス ばれたのでは…」
 ボカッ
「艦長と呼べ 艦長と  まったくうちの船員と来たら…」
「ボス 攻撃の(グエッ)… 準備が整いました 」
「今度ボスと言ったら 命はないと思え」
「ひぃいいいい」
「艦長 攻撃予定空域まであと2分で到達します」
「よし 総員砲雷撃戦用意」
「アイ サー」

 軽空母ユリーシーズの艦橋…
「艦長 じきに第2惑星のアステロイド空域に入ります」
 艦長は身を乗り出し
「あっ … アステロイドって 戦闘艦みたいな巨大なものが入ってもいいのか?」
 たずねた
「ここのアステロイドは大丈夫ですよ それに軽空母とはいえ 戦闘艦の装甲ですから」
 半ば笑って答えたパイロット
 その直後
「ちょっと 開けてぇーーーー」
と 艦橋の扉の外からナビゲーターの声が響いた
 艦長はシートに深く掛け
「第1級戦闘体制を…」
 静かに言った後に艦橋の扉のロックを解いた
「艦長ぉーー」
 襲い掛かるナビゲーター
 艦長はひるまずに
「第1級戦闘体制がかかっているぞ」
「くっ…」
 攻撃を中断したナビゲーター
 パイロットは艦長に
「第2惑星のアステロ《突然衝撃が艦橋を突き抜ける》ぐわぁっ…何だ?」
 シートに座り直しナビゲーターにたずねた
「痛たたたたっ」
 ナビゲーターはシートに座り
「周辺のアステロイドに人工物反応です」
「シールドは?」
 艦長はだれにともなく言った
「シールドに異常はありません 直接アンカーを装甲板に打ち込んで来ました」
「総員宇宙服着用 …くそっ」
 艦長は苛立ちをあらわにいそいそと宇宙服を着る
「艦長 宇宙服の着用は第1級戦闘体制に含まれていますが…」
「アステロイドへ砲撃 これ以上アンカーを打ち込ませるな」
 聞かずに叫ぶ艦長
「艦長 速度が落ちています」
「エンジン出力は?」
「104%」
「エンジン出力を抑制しろ 陸戦隊…」

 昔から 海賊船
 装甲板に数本の有線アンカーが打ち込まれた軽空母をスクリーンにて眺める 海賊船の自称艦長の表情はゆるんでいる
「敵までの距離は」
「主砲射程距離内の260k」
「よーし 主砲発射用意 目標敵軽空母 撃てぇー」

 軽空母ユリーシーズの艦橋
「敵弾来ます」
 叫ぶナビゲーター
 鈍い衝撃が艦橋を抜けた
「砲撃中止 敵艦へ向け両舷全速 シールド出力前方へ集中」
「了解」
 パイロットは短く言う
「艦長 死ぬ気ですか?」
 ナビゲーターの言葉を返すように艦長は言う
「俺が死ぬ?馬鹿を言うな パイロット カタパルトだけをぶつけろ」
「了解した」
「全員 ショックに備えるよう」

 ああ 海賊船
「艦長 お敵さん突っ込んで来ますぜ」
「なに」

 軽空母ユリーシーズの艦橋
 敵弾が飛び交う様子が一目で見渡せる 艦橋には時より命中の振動が伝わってくる
「敵艦まであと200」
 叫ぶナビゲーターの後ろで艦長は笑みを浮かべ言う
「主砲発射用意 フルパワーだ」

 海賊船
「かっ 回避ぃーー」
 叫ぶ艦長
「ううぉおおおーーーーーー」
 急いで舵輪を回す船員

 軽空母ユリーシーズの艦橋
「そうはいくかぁあ」
 パイロットが唸りを上げ ユリシーズのカタパルトが海賊船の右舷中央に食い込む
 激しいショックの最中
「撃てぇーー」
 艦長が叫ぶ
 主砲弾が海賊船を貫く
「全速回避っ」
 海賊船の爆発に巻き込まれるかどうかの辺りを吹っ飛ぶように後退する軽空母

 ………数週間後
「ばかものっ」
「ひぃっ」
「海賊船一隻に手間取りおって … だいたい何だこの報告書はっ」
「カタパルトの修理及び装甲板の取り替えにエンジンの修理等々…」
「馬鹿者っ これではオーバホールではないかっ」
「そのとーりであります」
「…一体誰がこんな奴を 艦長にしたんだっ…」
「誠に 遺憾であります」
「お前がいうな … … もういい(疲れた)行っていいぞ…」
「はぁ 失礼しました」
 艦長はこの部屋を出た
「艦長 はいっ」
「ありがとう」
 艦長はパイロットから帽子を受け取り右手にもった
「絞られましたね」
「ああ …」
 かたをすくめる艦長
 二人はしばらく無言で歩き
 この建物を出て軽空母の収まっているドックへとその足を進める
 二人はドック内のハルバート級軽空母ユリシーズを見上げた
「またしばらくは休暇か… それとも」
「それとも?」…

 それから数カ月後 私は修理を終え衛星軌道上のドックにてあの艦長のもと出港準備をしている 建造されて間もなく1世紀たつが どうやら廃艦には ならずに済みそうだ
…END


《資料集》

 ハルバート級軽空母ユリシーズ
20年前まで特務艦ユリシーズとして前線の監視にあたっていた
《主要目》
全長 243.28m 最大幅 未定m 最大高 未定m 推力 7G(加速度)
機動能力 4.6G 艦内動力 メインジェネレーター1基 サブジェネレーター3基
《主要兵装》
主砲 連装2基  高角砲 12.7cm連装36基(レールカノン方式)  魚雷射出口 2門
《航空目》
最大艦内搭載機数 40機
艦載機射出方式 マスドライバー方式カタパルト2基 簡易放出方式射出収納口6基
《備考》
ゼータガンダムに出てきたアーガマの様な形をしている 最も艦橋はへばりつくが如く低いけど

 ユリノ星系
直系1万4千光年しかない小型の小宇宙の片隅に存在する空間をさす

 テラフォーミング
地球型惑星を地球と同じ状態にする事 未来を過去と言うぐらいの時間が掛かる

 汎用空間戦闘機RDS−F2“スプライト"
まるでデザインを優先したような機体の青と白のシンプルな塗装を施している
高密度空間においても高機動性を保つことが可能
慣性消去装置の小型化により希密度空間でのより無茶な行動が可能
センサードーム等のオプションが豊富な機体である

 レインフルグ
しぶとさを全面に押し出した古い機体であるが現在においてもスプライトと引けを取らない
因に艦砲射撃の一発や二発程度は何のそのである

 第4惑星
木星型惑星でありメタン等の資源惑星でもある

 第2惑星
地球型惑星であるが恒星に近いのでテラフォーミングの対象外とされている

 木星型惑星
所謂非金属元素を成分に多量に含む惑星

 地球型惑星
所謂岩石などの金属元素を成分に多量に含む惑星

 宙域
平均的には惑星や要塞等から約1800光秒内の空間を指す(5億4千km)

 乱数運動
相手に自分の行動を予測されにくくするための動きかた

 砲雷撃戦
第二次世界大戦参照

 アンカー
船を空間に固定するためのもの 錨


《あとがき》
 この話はアニメの無責任艦長タイラーのTV版を全てみた上で触発されて書いてみたものである 言い換えれば私が感じた事を世界観も含めて構築し表現した 物である 個人的にはパロディーは嫌いなので(その世界観を頭にたたき込まないといけないから)こうなったわけである
 この話を読んで にやりと笑った人 ありがとう


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Ende