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 短編 ユウロスの憂鬱

 ある実験の舞台として宇宙のある座標にあり 名の知られることのない星系 その第4惑星ガルバリアβは地球と同じような条件をもつ そこに人類その他を送り込み記憶を抹消・・・  それから幾年月 あえて西暦で言うならば699792年 宇宙では既に地球の名が伝説になりかけた頃のその星での話である
 時は魔法創成期と呼ばれた時代の終盤 マーカス大陸の新興国ミニア王国は建国100年余りの若い国家である 数年前のピロット3世の即位により産業革命以前の物理文明から徐々に魔法という力を象徴とし繁栄を誇り始めていた
 ここはミニア王国第2の都市ニラム の郊外にあるスイシの町 の外れからさらに少し距離のある所にある大きく枝を広げた広葉樹の大木の側にポツンと建っている一軒家 この時代のこの地方ではごく一般的なレンガ造りの屋根裏部屋付きの見かけも質素な家である 町の方向には見渡す限り草原が広がり その反対側には遥か彼方の雪をいただいた山々の麓まで続く樹海が広がっていた
 この家 玄関から入ると作りかけの機械類の散乱する広い部屋が全貌できる 部屋の奥の左隅には台所と風呂とトイレがあり その反対側の壁際には屋根裏部屋への階段が降りている その階段を昇るとこの家の主が書斎らしき場所でランプの明かりを頼りに紙に向かってペンを走らせていた 何か長い文章らしい彼が屋根につき出た出窓のほうを見ると外には数々の星が足早に瞬いていた
「このぶんだと明日は雨だな・・・」

 翌朝 朝食の後この家の主は昨夜書いていた原稿をカバンに詰め家を後にした シトシトと雨が降るなか この家の主は傘を差してスイシの町に向かった 背は160程度だろうか 傘の下に色白の肌 透き通るような緑色の目 首の後ろ辺りを白いリボンで括った腰まで伸びる緑みを帯びた白く長い髪 そして白いコートに長靴を履き静かに家を後にした

 スイシの町の郵便局にあの家の主は傘を畳んで入った
「おや 丁度いい所へ ユウロスさん手紙が来てます 雨で馬車の到着が遅れて・・・」
 若いすっきりとした服装の男性の職員があの家の主に一通の手紙を渡した
「どうも」
 その手紙を受け取ってカバンの中に入れた あの家の主の名はユウロス・ノジールと言う 彼はこの星を管理する職にあるが だれもこのことを知る由はない 彼は窓口の前までくるとカバンの中の厚みのある封筒を係の職員に渡し
「いくらですか?」
 尋ねたユウロスに係の職員は重さを量り宛て先を調べて答える「120ルーになります」
 ユウロスは財布を取り出しその額を払い郵便局を後にした 外はまだシトシトと雨が降り続いている

 人通りの少ない大通りを傘を差してゆっくりと歩く 小さな橋を渡った所で行きつけの喫茶店に入った
「ああ ユウロスいらっしゃい 何にする?」
 中年のマスターの声を聞き流しユウロスはカウンターの側のいすに座り
「いつもの」
 素っ気なく注文し 先程郵便局で受け取った手紙をカバンから取り出し封筒を開け中の手紙を取り出した
 言うなれば顎髭を生やした中年のオヤジことマスターとバロック調の空間に蓄音機が静かな音楽を流していることの不一致感?がユウロスにはうけたのらしい が・・・
 マスターはユウロスが手紙を読んでいる間 客のいない店内を一度見回し再びユウロスに視線を向け注文の品をユウロスの前に置き 一つ尋ねた
「ユウロス どうした?顔色がすぐれないようだが」
「なあマスター ユーリティア・ストラフィーネって・・・」
「うちの娘だがそれが・・・」
「まあ手紙を見てくれ」
 マスターはユウロスから手紙を受け取り 一通り読み
「おい ユウロスが博士だ なんて聞いてないぞ」
「言った覚えもないよ」
 ユウロスがマスターの手元からその手紙を取り戻し折り畳み封筒に入れたところでマスターが
「しかしユウロスがなぁー・・・」
 マスターの疑いの眼差しがユウロスに向けられる
「手紙が着くころには家に着いていると書いてある」
 蔑んだ眼差しでユウロスは砂糖を入れず紅茶をすすった
「親に挨拶もせずに行くとは・・・」
 ユウロスはポツリと
「この親にしてこの子ありか」
 殴られるユウロス
 しばらくして店を閉めマスターとユウロスは雨の降り続く中 一路ユウロスの家へ

 ユウロスの家の側の大きく枝を広げた広葉樹の大木の根元でユーリティア・ストラフィーネは大きなトランクに座ってユウロスの帰りを待っていた さすがにこの大木の根元にはこの程度の雨は落ちて来ないが
「へっくし」
 少し冷えるらしい
 しばらくしてユウロスとマスターは到着次第ユーリティアを見つけた
 場を借りて マスターの本名はジム・ストラフィーネと言う
「げっ 親父」
 ひるむユーリティア
「この 馬鹿息子」
ユーリティア&ユウロス「娘だってば」
 ジムはユーリティアを引きずって家路に・・・
「なんだぁー」
 ユウロスは呆然としてこの様子を見過ごした

 翌朝ユウロスは何者かによってたたき起こされる
「博士 起きて下さい」
「だれが?」
 ユウロスは布団に潜ったまま尋ねる
「あなたですよユウロス・ノジール」
「へっ」これは夢だ夢なんだ
と 現実逃避しかけたユウロスに対しユーリティアが布団を剥いだ
 そんなこんなでユーリティアの作った朝食を取りながらユウロスはユーリティアに質問をする
「さっき 君の荷物を見かけたが親父さん納得したのか?」
「ちょっと 説得を その・・・」
 濁すユーリティア
「そうか 今日は町まで行くとするかな」

 さて晴れた空の下 ユウロス一人で自作の前後輪サスペンション付きの自転車に乗りスイシの町へとペダルをこぐ
 途中ジムがユウロスの視野に入るなり近づいて来て
「ユウロス ユーリティアそっちに行ってないか?」
 ジムがユウロスを呼び止めた
「ああ 家にいるよ ・・・ それが・・・」
「あの野郎っ」
 言うなりユウロスの家へと走りだしたジム
「野郎って ユーリティアは女だぞ」自分の子供の性別を間違えるとは 情けない
 何も考えないで町へと自転車のペダルをこぐユウロス
 いいのかユウロス 家のほうはどうなる どうにもならないだろうな 全く・・・

 ユーリティアが大木の日陰の降りたユウロスの家の屋根の上で時間をつぶしていると
「こらぁー ユーリティア降りて来い」
 怒鳴るジム
「・・・・・・・・・・・・」
 返事がない
 実は ぐーぐーと寝ているユーリティアだった

 夕方頃ユウロスは自転車のカゴに数冊の本と紙とインクを乗せて大木の側の家へと帰って来た
「あら ・・・」
 ジムとユーリティアがユウロスの家の玄関の前で言い合いをしている
「全く 何を考えているのだか・・・」
 つぶやくユウロスはそのまま家に入り夕食の準備をするのであった 家の側の小さな畑で取って来た野菜を洗い まな板のうえで刻み始める しばらくして ポコポコと煮えるシチューのその香りは徐々に広がる それが丁度言い合いをしているジムとユーリティアの鼻をかすめる 二人は言い合いのまま食卓につき ユウロスが皿にシチューを入れて手渡すと いまだ言い合いのまま食べ始めるのであった
「とりあえず 食事中は喋らないように」
 ユウロスが言うが 二人は口の中のシチューを飲み込むと一言ずつ交替に言い合うという結果になった
 こうしてユウロスの短い平和の日々は終焉を遂げたのである

 あ さて あんなことがありまして 後日
 屋根裏部屋にユーリティアの悲鳴が・・・
「ひぃーー 全然分からなぁーい」
 嘆くユーリティア
「そうかなぁー」
 困るユウロス
「物理学に対する知識を詰めておかないと 後々困るよ」
「はぁーーー」ううっ 分かってはいるんだけども だけども・・・
 まるで人生について考えるように深くため息をつくユーリティア
「今日はこのぐらいにするかな」
 ユウロスは鬼のように複雑体系化した物理の分厚い本を閉じた
「やったぁー」
 心の底から喜ぶユーリティア
「じゃあ 何か昼飯作ってよ」
 ユウロスは分厚い物理の本を本棚に戻し屋根に上がりながら言い捨てた
「げっ・・・」はぁー 私料理苦手なのよね・・・
 階段を降り台所へと足取りの重いユーリティア
 ユウロスは屋根の上の大木の陰の木漏れ日で日なたぼっこ
「しかし ここ数日ずっと食事作ってもらってるなぁー」ユーリティアに悪い
と 思うユウロス
「ユウロスさん 郵便です」
 ユウロスは屋根の上に立ち上がり郵便配達人を見るなり
 飛び降りた
「わぁあああああっ」
 驚く郵便配達人を尻目に 地面すれすれでピタッと止まるユウロス
「サインだったね」
「・・・ いえ料金不足なので20ルーいただきます」
「あるかなぁー」
 ポケットに手を突っ込んで取り出す小銭
「18・19・20・21と あった」
 20ルー渡すユウロス
「どうも」
 手続きを終え去って行く郵便配達人を見送り小包を開けた 説明書としっかりとした木箱が入っている ひとまず説明書を読むユウロス
「ええと ・・・ ・・・ 」
 そのまま足元のしっかりした木箱を家の中に入れ クギを抜き蓋を開けた
「何の本ですか?」
 箱の中をのぞき込んだユーリティアが尋ねた
 ユウロスはユーリティアに説明書を渡し箱の中の分厚い本を取り出した
「はぁーーーーーー・・・ああああっ あーーーーーーーっ・・・」
 がっかりした声で唸るようにして本を持って屋根裏に上がるユウロス
 首をかしげながらユーリティアは再び台所へ・・・
「ユウロス 材料がほとんどないよ」
「しまったぁーーーー買い物に行くの忘れたぁーーーーー」
 呆然自失のユウロス
「仕方ない・・・ ユーリティア何が無い?」
「肉魚類全てと調味料が多々」
「おいおい・・・」
 と言いつつ台所に入り調味料の棚を調べ
「ひぃょえぇーーーー」
 叫ぶユウロス ほとんど全ての調味料が空になっていた・・・
「ユーリティア お前の料理はどこで習った」
「王都にあるカムシアスパイス専門店にいるいとこに・・・」
「なるほど・・・」
ユウロスはげんめつの顔を覆って台所を後にした

 数分後ユウロスとユーリティアはスイシの町へ向かっていたのだった
「どうしてそんなもので町へ?」ユーリティアはユウロスの乗る自転車を見て言った
「どうしてとは?」
「飛んで行けば速いじゃないですか それにわざわざ体力を使うことなんてないんじゃないですか?」
「お前 毎朝それで来てるんじゃぁー・・・」
と ユウロスはユーリティアの足元を見た
 数センチ程地面から離れた足が不気味だ・・・
「そうです」
 そっけなく答えるユーリティア
「世の中動いてんだな」
 この言葉を最後にユウロスはこれについて考えるのをやめた

 しばらくして緩やかな丘の頂上を越えた二人にスイシの町並みが目に写った
 ゆるやかな長い下り坂をゆっくりと下ると やがて辺りは畑が広がり目の前にスイシの町の検問所が現れる ユウロスは検問所に自転車を預け町の中へ そのまま噴水のある広場を通り過ぎ市場へと足を進める
「ところで ユーリティアもう帰ってもいいんだが・・・」
「はぁ でわまた明日」
「はいな」
 ユーリティアは市場の奥へと姿を消した それを見届けユウロスは香辛料の店パムへと足を進める 香辛料の店パムは市場の少し奥まった所にある間取りの小さな店だ 中は細長い店内に数十種の調味料や香辛料が一種類ずつガラス製の入れ物に入っている ユウロスは店員にほしい調味料を片っ端から述べ袋詰めにしてもらい 無論料金を払って香辛料の店パムを出た
「ユウロス・ノジールさんですね」
 ユウロスの後ろで一人の男の声が・・・
「いかにも 私はユウロス・ノジールだが 何か御用かな」
 調味料のたくさん入った紙袋を片手に抱えその男の声の方へ振り向こうとする
「おっと お互いを知らない方がよろしいかもしれませんよ」
「そうかもしれんな」
 ユウロスは振り向くのをやめ
「何のようだ」
「この手紙を・・・」
 ユウロスは顔の横に突き出された手紙を空いていた手に受け取った
「では また御会いしよう」
 声の主は人込みのなかへ
 ユウロスはその手紙を紙袋に突っ込み市場を通り抜け 小さな橋を渡った所の例の喫茶店に入った
「よう」
 ユウロスはマスターにあいさつをする
「よう じゃないぜユウロス」
「はぁ?」
「とりあえず 何にする?」
 商売の癖で聞いてしまうマスターのジムであった
「いつもの」
「はいよ ・・・ ところでユウロスうちの娘は?」
「まだ帰ってないか?」
「ああ」
「うーん 市場で別れたのだが」
 などと言いつつユウロスは紙袋の中のさっきの手紙を取り出した
「そうか・・・」
「まあ 心配することは無いよ」
 その手紙の封を切り読み始めるユウロス
「あいよ」
 マスターはユウロスの前にいつものメニューを置いた
 しばらく読んでいたユウロスは次第に怒りの感情を抱き始め・・・
「マスター しばらくこの町を離れるよ」
 言い終え無糖の紅茶を啜るユウロス
「ほう 娘の教育はどうなるんだ」
 パンを飲み込み
「いい機会だ 二人で世界旅行と洒落込もうかな」
「お前なぁー」
「行き先は?」
 ユーリティアの声が二人の耳に入った
「ここから西北西の方向7000キロぐらいの所」
 答えるユウロス
「と 言う事は海の向こうね 一度言ってみたかったんだぁー」
と 空想に浸るユーリティア
「許さん許さん許さん許さん 断じて許さん」
 大声を出して言い切るジム・ストラフィーネ それに対抗するユーリティア
「ケチ」
 そそくさとユウロスは食べ終えこの店を出 一路サス付きの自転車を置いた検問所へ

家に着いたユウロスは家の中を片付け散乱する機械類の中のを引っ掻き回し工具を取り出し 屋根裏部屋で白いコートを着てそのポケットの中に着替えなどを手当たり次第に一まとめにし それらを抱えて台所の床下の収納庫をスライドさせ地下室に降りた 収納庫とその蓋を閉じ暗く広い地下室でランプの明かりを頼りにユウロスはレトロでオールドで翼の長い飛行機の点検に移る<コBR>

「ユウロス ・・・ ユウロス」
 ユーリティアの声が頭上に聞こえる
 飛行機の点検を終え弾倉に弾丸を詰め込むユウロス
 ユーリティアが階段を上がり屋根裏部屋に入った頃
 ユウロスは外の広葉樹の大木の前にしばらく無言で立ち 静かに
「行ってくるよ」告げる
 目の前の広葉樹の大木は風にざわめいた ユウロスはゆっくりと家の中に入り 地下室へ その地下室の壁にあるハンドルを回すとゆっくりと地下室の天井の端がスロープの様に降りる ゆっくりと
 その間から入った光が迷彩色に塗装された飛行機を照らし出す
 ユーリティアが屋根裏からこの様子を発見し 屋根にへばり付いてじっと見ている
 降り切った地下室の天井のスロープを利用してユウロスは飛行機を表に出し また地下室に戻り急いで天井を閉め 飛行機に荷物を積み込み 家に鍵を掛けて 飛行機に乗った ベルトを締めエンジンを始動させスロットルを・・・

 舞い上がった飛行機はあの広葉樹の大木の上空を2回旋回して空のかなたに消えた

「しかし ・・・ 何か旋回終了時に機体が滑るなぁー」 ・・・ !
 ユウロスは宙返りを行うべく操縦桿を引く 一気に機体は翻り宙返りを終え自由落下を・・・
「ぎゃぁー」
 ユウロスのシートの後ろのトランクで耳をつんざく悲鳴が聞こえる
「やっぱり・・・」
 ユウロスは飛行機を安定させ
「ユーリティア これで・・・」
と ロープをポケットから取り出しトランクへ入れた
「すみません・・・」
 ユーリティアの情けない返事が帰って来た
 その日ははじめニラム市を迂回する形で飛行し そのままニラム市の西のある町の近くに夕暮れとともに降り立った ユウロスはその時に ずっとトランクに入っていた彼の妻ナッキャが昔着ていたパイロットスーツをユーリティアに渡し 後部座席を取り付け燃料の点検をして エンジンキーを抜き 主翼にシートを張って簡易テントにし夜を過ごした

 朝方 まだ日が昇らないうちにニラム市の西のある町の付近の丘を後にした
 雲の上に出たころユーリティアがユウロスに
「どこへ行くのですか?」
 答えるユウロス
「とりあえず この大陸の西海岸にあるカレーと言う小さな港に行って君の食料を調達しなければ」ユウロスが考えているころ
 ユーリティアが思い出したように
「ところで 去年この先のカレーの町近くに空軍の基地ができたの知ってます?」
「なにっ」
「・・・と言っても 飛行機の実験場なんですけどね・・・」
「まずいなぁー」
「何がですか?」
「この飛行機は はっきり言って 今のこの星の科学力では到底製作不可能な物だし・・・」
「そうだったんですか?」
「気がつかなかったか」
「はい」
「・・・・。」このまま雲が晴れない事を祈るか・・・
 迷彩色の飛行機は白い雲海の上を飛ぶ
 ユウロスはこのまま海まで出たいと願っているようだが
 ユーリティアは早く雲の間が開け地表を見降ろしたいと願っている
 どっちの願いがかなうか 全く 見物である・・・

 カレー王立空軍基地とは 名ばかりのだだっ広いなだらかな丘陵地帯にある倉庫群の事を指す・・・
 ここに来た空軍志望の将兵たちは皆がっくりとするのであった 魔法の力を利用して空へ飛び上がる事は容易いが いざ魔法と言う概念を切り離すと にっちもさっちも行かないのであった そして今日も停滞しきった飛行機に関する実験達が繰り返される・・・

 迷彩色の飛行機は雲海の上を軽快かつ静かに飛ぶ
 ユウロスは飛行機の燃料の残量を見た しっかりと残っている・・・
 私一人ならともかくユーリティアと言う荷物を背負っていては海の向こうへは行けない 何せ一番の問題は生理現象と言う生物から離せない問題でありなおかつ・・・
 そんなことを考えながらユウロスはともかく一度海に出ることにした2分ほど進み雲の下へ出るため操縦桿を倒した 雲に入った瞬間ガクンと揚力が吸い取られユーリティアが驚きににた悲鳴を上げる 雲は厚かった降りれば降りるほど辺りは暗くなりキャノピーに水滴が付き揚力が徐々にうせて行くのが分かった
 雲の下に出た 雨が視界を遮り何も見えないとりあえずユウロスは高度を下げ速度を落とした 高度計に目をやり高度を確認した直後ユーリティアが短く好奇心を持って叫んだ ユウロスはキャノピーの外を見回すそこには一隻の飛行船が上昇しつつあった ユウロスは無意識に操縦桿を無い力を絞って引いた 機体が垂直になると同時にフルスロットルにし一気に雲の中へ隠れた
 その時である ユウロスの脳裏に良策が浮かび上がったと同時に ユーリティアの脳裏には悪い予感が走った その直後ユウロスはスロットルを戻した
 そうユウロスの良策とは・・・
「ユーリティア 酔い止めの薬飲むか?・・・」
 ユウロスの心拍数が上がる
「何んですかそれ?」
「えっ・・・ ええと三半規管をマヒさせてだね・・・」
 さらに上がるユウロスの心拍数
「要するに何よ」
「気持ち悪くなって吐かないための薬だけど いる?」
「頂きます・・・」
 ユーリティアはユウロスから錠剤をもらい不審に思いながらも飲み込んだ
「っ・・・・・」大成功 いぇえーーーい
 数分後・・・
「あっ なんだか 眠くなって き・・・」
 ユウロスは後ろを振り向きユーリティアが寝たのを確認し
 強力睡眠薬の瓶を片手にガッツポーズをとるユウロス
 スロットルを入れ 最高速度へと加速し 航空図をみて進路を修正し風を切る音とエンジンの音を静かに楽しむ

 どの位飛んだだろうか辺りは背後から迫る夕焼けの赤が空を覆い尽くそうとしている・・・
「ふみゃあ・・・」
 猫を積み込んだ覚えはないと思いつつユウロスは後ろを振り向いた
「おはようです・・・」
 ユーリティアが目を擦りながらあくびをした
「やぁ おはよう・・・」
 戸惑うユウロス 実はまだ海の上を飛んでいる
「どうしたんです?」
「いや・・ なに・・ その・・・」
 焦る ユウロス
 そんなうちに 迷彩色の飛行機は雲の上に出るのであった・・・
「何か食べる?」
「何があるのですか?」
「さあ」
 操縦桿を固定しポケットをあさるユウロス
 ポケットの中から飴型強力睡眠薬を取り出し
「飴でもいかが?」
 一粒ユーリティアに渡した
「なんです これ?」
 ユウロスの心拍数が上がる
「いいから いいから」
「はぁー」
 口の中にいれるユーリティア
 数分後ユーリティアの寝息が聞こえて来たのは言うまでもない

 ユーリティアが気がつくと迷彩色の飛行機は夜の闇を飛んでいた
 ユウロスは何事もなかったのように操縦桿を握っている
「おはようです・・・」
 ユウロスの耳に入った声は寝ぼけている
 ユーリティアはキャノピーの外に目を向けた
 何か明るい点が遥か下方に見える
 その明るい点は徐々に大きくなりユーリティアのいる方向に真っすぐ突っ込んでくる
 ぶつかると思った瞬間
 飛行機が翻り明るい光球は空のかなたに消えた
「高射砲?」
 ユウロスは高度を上げる
 唸りをあげるエンジン 迷彩色の飛行機の近辺を絶え間無く光球が飛ぶ
 ユウロスはそれを正確に避ける
 しばらく飛行機は激しく回避運動をとっていたが光球が飛んで来なくなると姿勢が水平に安定した
「そろそろだな」
 ユウロスはつぶやいた
「何がですか?」
「それは見てのお楽しみ」
 ユウロスが前方の空を見ていると 赤い光が何か信号のように点滅している ユウロスはそれに答えるように消えていた飛行機のライトを一度点滅させた
 すると飛行機の前方の彼方に滑走路の誘導灯の光が一斉に灯ったのが見えた ユウロスはその滑走路へ降りるために高度を落とす しだいに滑走路は近く大きく見えてくる

 キュッ
 タイヤが滑走路に触れ 振動が二人に届きユーリティアが驚きの声を上げた
 ユウロスはスロットルを逆いっぱいに入れた 青白い光がエンジンの上下から前方に吹き出す
 暗い滑走路の端に飛行機が止まるとすぐ側の倉庫の扉が開きそこから光があふれ出す そこで一人の紳士らしき人物がランプをくるくると回している ユウロスはその方向へ飛行機をゆっくりと進め 倉庫の中へ飛行機を入れる
 ユウロスは飛行機が止まるとレバーを回しキャノピーを開ける
 ユーリティアはシートベルトを外して開いてゆくキャノピーに目をやる
 キャノピーが開ききると二人は飛行機を降りた
 さっきの紳士らしき人物が二人に近寄って来て
「ようこそユウロス殿 私執事のヴィルゼスと申します そちらは?・・・」
「ええと・・・」
 悩むユウロス 割り込むように
「博士の弟子ですわ」
 ユーリティアは言った
「・・・・。」そうだったのか・・・
「お弟子さんでしたか ではついて来てください」
 執事はいい終えるなり歩きだした
 倉庫を出て暗い通路に出た 二人は執事の後をついて行く
 その執事はユウロスと一定の間隔を常に保ちながら二人の前を歩いている
 ふとユウロスがユーリティアの足元を見る
「浮いてる・・・」やっぱり何か違う 違うんだぁ・・・
 そんなことを考えつつ ユウロスは執事の後を歩く

 暗い石作りの建物の中を それからしばらく進む すると巨大な扉の前に出た 執事はその巨大な扉の横についている小さなドアを開け
「どうぞこちらへ」とそのドアの中へ入って行った
 二人はそのドアを通り抜けた
 数本のロウソクが部屋の扉付近を薄暗く照らしだしている
「本来ならば その扉を開けるべきなのだが・・・ 錆び付いていて開かなくなっているのでな そちらの急遽設置したドアで我慢してもらうよ・・・ ユウロス・ノジール」
 低い声は暗い部屋の奥から響いてくる・・・
「まあ こちらへ美味い紅茶を入れよう」
 低い声が再び暗い部屋の奥から響いてきた
 ユウロスはその暗い部屋の奥へ闇の中にユーリティアの視界から消えた
「えっ ・・・ ちょっ ちょっと・・・」
 ユーリティアは執事の方を一度ちらっと見て ・・・ ユウロスの後を何かに追われるように走り出した

「この紅茶製法間違ってないか?」不味い・・・
 ユウロスが低い声の持ち主に話しかけているのがユーリティアの耳に入った
「そうか? 本のとうりにやってみたのだか・・・」間違ったつもりはないのだが
「その本を渡すときに言ったはずだよ これは地球での話だって・・・」この紅茶ウーロン茶かも・・・
「地球って何だ?」そうかな
「そうだな この星に良く似ている星のことさ・・・」ちゃんと発酵させた?
「ほう・・・」っ 自信が無い・・・
「気候が悪いんじゃないか?」馬鹿者
「そうかもしれんな・・・」がぁーーーん
 一瞬息を吸い込む音が聞こえた後っ
「ぎぃよえええええええーーーーーーーーーーーーーーーー・・・」
 ドサッ
 ユーリティアの絶叫が途絶え倒れ込む音が聞こえた どうやら気絶したらしい
「どうした」
「君の姿に驚いたんだよ・・・」
「そうか・・・」まっいたなぁー

 ユーリティアが気がつくと絵が一面に描かれた天井が視界にはっいった
 ふかふかのベッドを出て部屋を見渡すと・・・
「凄い・・・」
 一目で格調(及び値段)の高いと分かる家具などがユーリティアの周囲にズラリと並んでいる・・・
 大きな縦長の傷一つ無いガラス製の窓の向こうのテラスにユウロスが手摺りにもたれていた
 その緑みを帯びた白く長い髪が風になびいている
 ユーリティアがガラス製の窓を開けてテラスに出た 風が鳴っていて寒い
「やあ ここに来て下を見れば目が覚めるよ・・・」
 ユーリティアはユウロスの言うとうりテラスから下を見下ろす
「・・・・。」
 目をこするユーリティア
 ユーリティアの目には遥か下方の樹海かジャングルがただの緑のベタに見える・・・
「ここは海面から2800mの高さにあるサードキャッスルの最上階の客間・・・ 他に今の我が主の住むウスチィリムスク城とアラリスクの町 降りて来た滑走路 すべてがこの ヘル・テーブルと言う下界から2400m標高差のあるテーブルマウンテンの上にあります・・・」
 ユーリティアは声の方向を振り向き
「だれ?・・・」
 その声の主はユーリティアに青地に白のエプロンドレス姿で現れた
「私は シアネス・コアールこの屋敷でお客様の世話をさせてもらっています・・・」
 ユーリティアはユウロスがいつの間にかテラスから消えているのに気づき
「あれ博士は?・・・」どこへ消えたのかな?
「もう一人いらっしゃるんですか?」
「ユウロスって言うんだけどね・・・」
 男のくせに長髪で白髪だし変な奴だよ
 シアネスはユーリティアに駆け寄り
「こっ ここに来ているのですか?」
 ユーリティアがシアネスに何かを聞こうとした瞬間
 風の鳴る音がきえ 聞いたような声が二人の耳に届いた
「おおーーーい 助けてくれー」
 ユウロスの疲れた悲鳴が情けなく聞こえる
 ユーリティアがテラスから下をのぞき込むと・・・
 ユウロスが断崖絶壁がそのまま続くような建物の側面に突き出した飾りの槍に引っ掛かっている
「博士っ」
 ユーリティアは突然の状態により気が動転していた
 シアネスは部屋に入ったきり出て来ない
「おっ おおっ」
 ユウロスが次第に槍からずり落ちそうになる
 そして 風の鳴る音が再び聞こえ出した数秒後
 ユウロスは情けなく槍からずり落ちた
「きゃあーーーーーー」
 ユーリティア絶望の悲鳴
 どんどん小さくなるユウロスの後を何かが追った
「! そういえば飛べるんだったんだな・・・」
 今頃気づくユウロス そのまま体を大の字にしてスカイダイビングを楽しむ
 テラスではユーリティアが自分勝手にこれからの事を心配していた

 大の字になってスカイダイビングを楽しむユウロスの両手首と両足首にワイヤーが絡む
「なっ なんだぁー」
 思ったのもつかの間 ワイヤーが落下を止めるべく引かれる
「ぎょおぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
 ユウロスは下を向いていたので 両手首と両足首のワイヤーが全ての腕と足を引き上げる事によりその余力の数トンが一気に腰椎にかかったのだった・・・

 十数分後 数千mに及ぶ断崖絶壁の下
「大丈夫ですか?」ためだったりして・・・
「てっ 手加減は教えていたはずだぞ」ひぃーー 痛たたたっ
「すみません でも主がユウロスには手加減は必要ないと・・・」痛み止めの塗り薬が・・・
「あの野郎ぉー」あ あ痛たたっ
「それにしても丈夫ですね普通なら胴体が真っ二つに・・・」ぬりぬりっと
「お前さんでも大丈夫なはずだよ」ああっ っ塗り薬が冷たい こっ 凍ってる・・・
「はぁ」それは気化熱でしょう
「しかしあの状態なら腰の辺りにワイヤーを巻き付けるのが普通だろうに」でも 冷たいぃー・・・
「すみません ところでお願いしたいことがあるのですが・・・」ぬりのばし ぬりのばし
「なんだい?」あー 効いて来た 効いて来た
「オーバーホールお願いできますか?」ぬりぬりっと
「へっ?」あー効く効く
「だからオーバーホールです」ぬるのやめますよ
「そうか あれから2世紀か」ああ やめないでぇ
「そうです」頭 大丈夫?
「いいだろう 一度家に来なさい」やかましい
「ありがとうございます」しかし年よりくさいですね
「しかし 彼奴はなぜ私を呼んだのかな」そんなこといってるとオーバーホールしないぞ
「さあ それは・・・」ああ ごめんなさぁい もう体にガタが来て仕方がないんですぅ
「さて ・・・ 上に昇るかな」ユウロスは横になったまま服装を着直す
「ここからですか・・・」頭上を見上げるシアネス
 立ち上がるユウロス「ぐぅええええぇっ」はまた倒れた
「大丈夫ですか?」
「だーめだぁー」
 ユウロスは情けなく倒れたまま答えた
 さて ここはユウロスとシアネスのいる場所から垂直に2400mの距離にあるユーリティアのいるサードキャッスルの最上階のテラス・・・
「ユウロス殿は?」
 執事のヴィルセスがユーリティアに問う
「・・・・・」
 断崖絶壁の遥か下方を指すユーリティア
「そうですか しばらくお待ちくださいユーリティア様」
 そんなことを言いつつ断崖絶壁に身を投じるヴィルセス
! そういえば博士も魔法を 飛べるはず・・・
「でも 見たことない・・・」
 ユーリティアはテラスに深く跪いたまま考えていた

「何か来ます」
 シアネスは上を向く
「何が?」
 ユウロスは倒れたまま腰を両手で押さえながら聞いた
 黒い点はだんだん人の形になり
「執事のヴィルセスですわ」
「助かったな」
 ユウロスは倒れたまま動くたびに激痛の走る腰を押さえている
「どうしましたユウロス殿」
 ヴィルセスは倒れたまま腰を両手で押さえているユウロスに問う
「ちょっとあってな 腰を悪くしてしまった」あ痛たたたっ
「シアネス 運んで行けないのか?」
「はぁ それが動かすと痛がって」困ったなぁー
「参りましたねぇー」悩むヴィルセス
 ユウロスは痛みに腰をおさえる力が入る
「ところでヴィルセス 治癒魔法は使えないのか」
「残念ながら我々では・・・」
「そうか ・・・ とりあえず私の無事を上のユーリティアに知らせてくれ」
「分かりました」ヴィルセスは落ちるように上へと昇って行く
 その様子を見送るシアネス
「シアネス ガルスブリーズのリディアへのホットライン回線でリディアを呼び出してくれないか?」
「いいのですか・・・」
「仕方あるまい」
「分かりました」

 宇宙空間に浮かぶガルスブリーズのとある通路を大きなローズピンクの翼をいっぱいに広げて飛ぶリディアのポケベルが鳴った
「何かな?」
 リディアはポケベルを小さなポケットから取り出すとの表示画面を見て
「ユウロスが?・・・ 珍しい・・・」
 自分のハンガーへと急いだ

「リディアは反応した模様です」
「了解 それからホワイトバードMark2にファクターカーゴを着けてこちらに飛ばしてくれ」
「はい」

 ガルスブリーズのユウロスのハンガーでは白い機体のホワイトバードMark2のノーマルカーゴが外されほぼ同じ大きさ同じ色のファクターカーゴが接続され カタパルトアームによってカタパルトへ移動を開始した

「ホワイトバードMark2 カタパルトデッキに出ました」
「了解 後は到着を待つか・・・」
「さっきの 痛み止めの薬ぬります?」
「そうしてくれるとありがたいな」
「わかりました」あまり偉そうにすると ぬらないぞ
「・・・・・」それだけは お代官様っ
「しかし 腰椎がめちゃくちゃですねぇー」ぬりぬり
「まったく 私もしぶといものだ・・・」あー 効く効く
「じっとしてても痛いのかな」ぬりぬり
「かなり痛いよ ところでこの薬なに?」あー 極楽
「ポーション」ぬりぬり
「そら まぁ そーだけど・・・」変なものをぬられているようでいやだなぁ
「今の主が作った薬です」ぬりぬり
「げっ・・・・・・」ひぃよぉえええええええっ
「良く効くでしょう」ぬりぬり
「まあねえ・・・」うむー

「あのユウロスが負傷するとは・・・」一体何があったのだろうか・・・
 リディアはマイシップである300m級貨物船のブリッジでコース設定を終え 既にユウロスのいる惑星βの大気圏突入への軌道上にいた
「後方より小型艇接近 ホワイトバードMark2です」
 この貨物船の管理システムの言葉の後その姿が立体映像のメインパネルに現れた
「Mark2? 行き先は何処か?」
「ユウロスのいるらしき座標です」
「そうか・・・ 」
「ホワイトバードMark2が右舷を横切ります」
 始めは少し前からのアングルになっていたホワイトバードMark2が回転しいつの間にか後ろからのアングルになっていった
「映像はもういい」
 ブリッジからホワイトバードMark2の後ろ姿がぼやけ消えた

 さてユウロスはというと・・・
「薬が効いている間は大丈夫ですが 即効性の薬ですので効き目が切れるのが早いですよ」
 シアネスは立ち上がったユウロスに言い聞かせる
「しかし 早いところ上に行かねば・・・」
 立ち上がったユウロスは真っすぐ上に加速して行く が
「ああ やっぱり・・・」ユウロスはあのリンゴの様に落ちて来た
 落ちて来たユウロスを受け止めるシアネス
 絶句の状態で「痛い」と言えないユウロス
「だから言ったでしょ」
「・・・・・」面目次第もない・・・
「しかし 貴方みたいな人でも精神集中を妨げられるんですね」全く ぬり薬 ぬり薬
「・・・・・」なんか今一つ 力があがらないんだよなぁー
「おや ホワイトバードMark2が到着した様ですよ」ぬりぬりと
「だめだよとりあえずは リディアがくるのを待たないと・・・」あー 効く効く
「そうですか・・・」はぁーーー
「手が止まってるよ」ううっ 痛みがぁ
「はい ・・・」 ・・・ ぬりぬりと

 ここはヘル・テーブルの最高峰にそびえるウスチィリムスク城の姿が良く見える 人間も住むアラリスクの町の外れにある 魔王の農園 主に紅茶を栽培生産しているがまだ実用化には至っていないらしい その 農園の近くの紅茶の精製所らしき建物の中
「もう少し発酵してみてくれないかな?」
「もう少しですか」
「ああ ユウロスがそう言ったのでな」
「分かりました」
「頼むよ」魔王はこの建物を出た
 魔王はこのヘル・テーブルのある 神々の大地と呼ばれたテーブルマウンテンが乱立するこの地方の領主であり 今はこの高地の気候を利用して 紅茶の生産に力を入れている かつての強大な軍事力も既に無く 平和な毎日を送る一方で民衆にも信頼のあつい人物だったりもする・・・ 容姿は人間に近いが結構威圧感と恐怖感が伝わってくる
「魔王様」執事のヴィルセスが魔王の姿を見つけ出しそばに駆け寄り
「ユウロス様が 怪我をなされました」
「ふむ 心配には及ばん 彼奴は大丈夫だろう」
「はぁ・・・」
「それより 先月の結果報告書がまだなのだが・・・」
「書斎に置いてありませんでしたか?」
「うー ぬかったわぁーー」書斎に寄るのを忘れた・・・

 さて それからしばらくした ユウロスは
「ああーー」かなり楽になった
「そうですか」ぬりぬりと
 辺りが突然暗くなった
「おや?」ぬるのは止めないでね
「リディアの到着ですね」はいはい
 リディアの300m級貨物船は樹海のすぐ上空に停止した しばらくして そのハッチが開きリディアがその大きなローズピンクの翼を広げて舞い降りて来た 両手で黒いカバンを持っている
 ユウロスの倒れている近くに降り立つと翼を降りたたんだ
 ユウロスはリディアに苦笑いを浮かべる
「痛む? ユウロス」
「声に出ないほど・・・」
「どれ・・・」声でてるよ
 リディアは手でシアネスがぬり薬を塗っているユウロスの腰椎の辺りを触診する
「ほぉー ・・・ ふむ・・・ ユウロス早く治したい?」
「まあ そうなるなぁー」
「じゃあ じっとしてて」
 リディアは黒いカバンから木づちを取り出し振り上げる
 シアネスが極度の驚きのリアクションをした直後
 ユウロスの悲鳴と リディアの技と シアネスのリアクションがその場所を支配する・・・

「なにか聞こえなかったか?」
 魔王は先月の結果報告書に書斎にて目を通していた
「さぁ 私にはなんとも・・・」執事は答えた
「そうか」

 まだ打撲に痛む腰を押さえながらユウロスは飛び上がるリディアに手を振る
 大きなローズピンクの翼を広げて上昇気流に乗るようにリディアは貨物船の中に消えた
「さて ・・・ 行くかな」
 ユウロスは静かに体を宙に浮かせホワイトバードMark2のタラップの下に止まりかけると ユウロスの頭上のタラップが開きはじめ・・・

ゴンッ
「ぐえっ」
 落ちるユウロス
 受け止めるシアネス
「大丈夫ですか?」
「なんとか・・・」たんこぶがぁーーー

 ユーリティアがサードキャッスルのテラスで絶望の彼方に飛んでいると
「ユーリティア 入っておいでそこは寒いよ」
 暖炉に火を入れたユウロスはテラスのユーリティアに声をかけた
「博士 無事だったのですか」
 少し涙ぐんだ目でユウロスの顔を見つめるユーリティア
 赤面して てれるユウロス
 ユーリティアはユウロスに抱き着いた・・・
 ふと 腰の痛みと共に亡き妻の事を思い出してしまうユウロスであった

 さて翌朝 寝ぼけたユウロスのポケットから手紙が出て来た
「なんだ? おおっ」こっこれは
 ユーリティアがまだ寝ているのをよそに魔王の居城ウスチィリムスク城に向かう
 途中 アラリスクの町のメインストリートを走り抜けその外れにある魔王の農園の広い農道を横切り 今にも折れそうな高い絶壁の上に建つ荘厳なウスチィリムスク城 その絶壁のふもとにある高い城門を飛び越し 数人の衛兵を無視して何もない絶壁の外側の突起を足場にして一気に飛び駆け上がる

「さぁて 今日は何をしようか」
と 魔王が書斎で書類に目を通しながらウーロン茶らしき紅茶をすすっていると後ろに人の気配が・・・
「よぉ」
 窓から入って来たユウロスは魔王にあのユウロスをここに連れて来た手紙を渡した
「ほほう」
 魔王は歓喜してこの手紙を読み終えた
 笑う魔王 怒るユウロス
「これは私の字ではないぞ」
「へっ」
 ユウロスの顔が歪む
「ところで我が部下が お前と手合わせをしたいと申しておる」
「その話はまた後で・・・」
 ユウロスは大きな縦長のさっきのガラス窓を開けウスチィリムスク城から飛び降りた

 シアネスはユーリティアの眠る寝室に入って来るなり暖炉に火を入れた
「んにゃ」
 ユーリティアは薪の燃える音を聞いて目が覚めたようだ
 とそこへ帰って来るユウロスはシアネスにあの手紙を突き付けて
「シアネス・コアール お前だろぉー」
「はぁっ?」
 顔が引きつるシアネス
「いいか この手紙を出して一番 利益があるのはお前だろぉー」
 迫力のユウロス
「ど どうかなぁー」
「ふっふっふっ」オーバーホール
 迫力に押されるシアネス「・・・・・・」ああ 神様ぁーーー
 押すユウロス「・・・・」観念せい シアネス
 とそんな所に「その手紙この私が出したものです」と現れたのは執事のヴィルセス
「これか」ユウロスはヴィルセスに手紙を見せる
「そうです私が書いた物」と言いつつ手紙を破るヴィルセス
「・・・・・」あっ ちょちょっと・・・
「私がシアネスの書いた日記を見て 私の手紙を部下に届けさせました」
「そうか・・・」ああ なんだかややこしい
「私の日記を覗いたのですか?」
「すまん」逃げるようにその場を離れるヴィルセス・・・
「あれ ユウロス何処へ・・・」
 忍び足でその場を逃げようとしているユウロス
「ちょっとね・・・」
 逃げるユウロスは ほっとして一息ついているヴィルセスを通り過ぎサードキャッスルの外へ出た
「なんだかなぁーーーーー」
 ユウロスはサードキャッスルを背に歩き始めた 朝の日の光が目に眩しい
 魔王が今日の予定を立てるべく朝の散歩をしていると うつむいたユウロスが目の前から歩いてくる
「どうした 若いの」
「誰がだ 誰が」
 魔王はユウロスを指さす
「あのなぁ 私はお前程度より百倍は生きてるんだ」
「では5万年も・・・ ところで我が部下が お前と手合わせをしたいと申しておる と言ったのだがどうだろうか」
「場所と相手の強さは大丈夫だろうな」
「さぁ それは分からんな 場所はともかくとして・・・」
「よしっ 昼まで準備をして呼べ 相手をしてやる」
「偉そうに・・・」まったく
「ふん」うるさい

 そんな訳で屋外の観客収容人数5000人の石で出来ている野球場ぐらいの大きさの簡素な格闘場 その広いグランドに観客のまばらな観客席との間に結界が4重に張り巡らされている
 その中に漆黒の鎧を纏い武器の選択をするユウロスと しっかりと青い鎧を着込み重装備した騎士らしき者が刃渡り2m余りの大きな剣の柄を握っている
 ユウロスは結局ブーメランを選ぶ そのブーメランは金属製のブーメランだ
「とりあえず準備はいいぞ」
 ユウロスは観客席に設けられた特設スタンドに座る魔王に告げた
 その魔王の横にはアナウンサーらしき人物がマイクを片手に陣取っている
「ご場内の皆様に申し上げます 午後1時よりこの試合を開催致します なお試合中客席内での飲食はご遠慮いただきますので ご了承ください」
 1時まで あと6分 石造りのスタンドがヒューマノイドや魔物の観客で埋まる
「なんか 違う」あのやろう儲けようって魂胆だなぁー
と ユウロスの視界にシアネスとユーリティアが入った 二人は手を振っている
 そんなうちに 1時になるとアナウンスが・・・
「ではこれよりユウロス・ノジール対カッセル・ウッジ・フォッケンウルフの試合を行います ルールは特にありません 騎士道に則って審判の指示には従うこと 審判は旧第三帝国の総統 みんなも知ってる魔王様にやってもらいます なお 試合が始まりますので飲食はご遠慮ください」
 アナウンサーのアナウンスが終わると魔王は立ち上がり
「では試合を始めよう 両者握手でもしてくれ・・・」
 ユウロスは重装備のカッセルに近づき握手の手を差し伸べる
 カッセルは兜を脱ぎユウロスと握手し「あなたと戦えるとは光栄です」
「そうかなぁー」
 てれるなユウロス
 両者がグランドの上で間合いを取る
「さて・・・ 始めっ」
 魔王の声かグランドへ届いた

 カッセルはユウロスへと刃渡り2m余りの大きな剣を抜き構え軽やかに突進する
 ユウロスはカッセル振り下ろしの一撃目をブーメランで受け流しカッセルの後ろに回りカッセルから離れた カッセルから明らかに逃げるユウロス
「逃がすかっ」
 そのユウロス背中目がけてカッセルは刃渡り2m余りの大きな剣を降り投げた
 ユウロスは振り返りその場に止まり 回転しながら迫りくる剣の回転の中心点を裏拳で殴った 鋭い金属音の後 砕け散った刃渡り2m余りの大きな剣の残骸と殴った手を痛がるユウロスの姿があった
「なんと」
 カッセルは短い独り言をいい終える
「少しは 攻撃しないと失礼にあたるな」
 ユウロスはカッセルに攻撃せんとブーメランを投げ走り出す
 カッセルにブーメランがあたらんとした瞬間 ユウロスの背後で多数の金属音が響く
 ユウロスは半ば振り向きその様子を視認した 同時に破片が一斉にユウロスに向かって飛ぶ
「邪魔だ・・・」
 ユウロスは右手の掌を向かってくる破片に向け 叫ぶ 直後破片から掌の前に浮かぶ光球に光が吸い込まれ破片はすべてそのまま重力に任せ地に落ちた
 ユウロスが再びカッセルを視認しようと振り向いている間に カッセルは細身の剣でユウロスにきりかかろうとしていた ユウロスは右腕でカッセルの振り下ろす細身の剣を受け止めほほ笑む
「こんなものか?」
「言ったな」
 カッセルはユウロスの肉に食い込んだ剣を抜き間合いを取った
 ユウロスは一度カッセルの視界から消え 特設スタンドの魔王の隣のあいている椅子に座っていた
「よう 殺してもいいのか?」
「そうだな・・・ お前が非難されるが それでもよければ」
「そうか」
 ユウロスは魔王のいる特設スタンドからグランドに降りる
「逃げたかと思ったぞ」
 カッセルがユウロスをやじる ユウロスはカッセルの間合いまで無造作に近づき
「・・・ カッセルとか言ったな なぜ私と戦おうと思った」
「強い奴がいれば倒す それだけだ」
「愚かな・・・」
「何だと」
 斬りかかろうとモーションを起こしたカッセルは目の前からユウロスが消えるのを見 一瞬動作が止まった
「愚かな その程度で 私と本気でやりたいだと?」
 言葉を発したユウロスの左手はカッセルの首を後ろからつかみ持ち上げる
「ぐあっ くっ」
「身の・・・ 程を・・・ 知れっ!」
 ユウロスがカッセルの首を離し多とほぼ同時にグランドに爆発音のような大音響が響く
「 ・・・ あっ・・・ しまった 余分な衝撃波を中和するの 忘れたなぁー」まぁいいか
 そのユウロスの前のグランドの上には力つきたカッセルが落ちていた
 高らかにアナウンサーが勝利宣言するなか
「やはり 勝負にならんな」
 魔王はいい終えると結界を解き救護班を二人に向かわせた

「さてと」ユウロスは迷彩色の飛行機を分解してホワイトバードMark2に積み込み終えると ユーリティアとシアネスを先に乗せた
「また来るよな?」
「ああ シアネスを届けに・・・」
 ユウロスは魔王に答えホワイトバードMark2のタラップをのぼる しばらくしてタラップが収納され白い機体はゆっくりと垂直離陸し夕焼け空を旋回して東の空へ消えた
「行ったか・・・」
 魔王は また何かを考えているように滑走路を後にした

《ユウロスの憂鬱》は此処までです
正味総字数約37000字原稿用紙ならば47枚以上これが短編でいいのだろうか
なんて思いながら余白を埋める私は一体何

Ende