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#11470
バラージ 2024/11/17 18:41
南北朝への鎌倉史F 貞時の時代・完結編
いやはや、トランプ政権、組閣の時点から無茶苦茶な閣僚だらけに。予想はしてたけど予想以上というか、果たしてどうなることやら……。
貞時編、ようやくの最終回。
まず前回の追記ですが、『吾妻鏡』が編纂されたのが貞時得宗専制期(1293年〜1305年頃)で、編纂の中心となったのは太田時連・長井宗秀・金沢流北条顕時と推測されており、それぞれの父祖である三善康信(善信)・大江広元・北条実時の顕彰記事が『吾妻鏡』に多いのもそのためだと考えられているとのこと。
さて、1301年8月に執権の座を従弟(宗政の子)で妻の兄弟かつ娘婿の師時に譲り出家した貞時ですが、その後も得宗として寄合を主導し実権を握り続けます。貞時の出家に合わせて64歳の連署・大仏流北条宣時も出家。代わって60歳の政村流北条時村が連署に就任し、時村嫡孫で貞時のもう1人の娘婿の煕時も23歳で四番引付頭人に就任しています(時村嫡子で煕時の父為時は1286年死去)。翌1302年9月には貞時の5歳の嫡男菊寿丸が死去。貞時のもう1人の従弟(宗頼の子)の宗方は1302年に越訴頭人から再び四番引付頭人に任じられるも、1304年12月にはまたも引付頭人を辞任して侍所所司に就任。さらに上野国に配流された内管領の平宗綱に代わって「内ノ執権(内管領)」となっています。侍所所司や内管領はそれまで得宗被官(御内人)が就任してきた役職で、北条一族のしかも得宗家に近い宗方が就任するのは極めて異例。
さらに1302年1月には宣時嫡男で六波羅探題南方の宗宣が離任して鎌倉に帰還し、7月に顕時(1301年死去)の嫡男貞顕が後任として上洛。金沢流の六波羅探題就任は初のことで、貞顕が有能なだけでなく貞時の寵愛を受けていた証だとする見方もあるようです。兄達がいずれも時宗や貞時の偏諱を受けていないのに貞顕のみが貞時の偏諱を受けており、兄達を飛び越えて嫡男となっていることからもそれがうかがえます。また北方の普恩寺流北条基時も1303年10月に離任して、12月には常盤流北条時範(時茂の嫡男)が後任として京に上っています。なお時範は時村の外甥(姉妹の子)、貞顕は時村の姉妹の孫かつ時村の娘婿のため、両者の六波羅探題就任は時村の推薦によるものではないかとする説もあります。
そんな中、1305年4月から5月にかけて起こった謎の事件が嘉元の乱。なお、この「嘉元の乱」という用語が付けられたのはおそらくは近年で、コトバンクには事件を指す用語が存在せず、網野善彦『日本社会の歴史』(岩波新書、1997年)では「嘉元の五月騒動」という用語が付けられてました。
まず『鎌倉年代記』によると3月21日に貞時が山内亭に移り、次いで4月6日卯の刻(午前6時前後)に大地震が発生。10日午の刻(正午前後)に再び地震があり、さらに22日子の刻(午前0時前後)に貞時邸の隣家で火災が発生して貞時邸にも火が及び全焼。貞時は師時邸に移っています。
そして23日、子の刻に連署の時村が突如誅殺されるという事件が発生。時村の館が武士たちに襲撃されて炎上・焼失し50人あまりが討たれましたが、孫の煕時は脱出したのかそれとももともとそこにはいなかったのか無事でした。『春日若宮神主祐春記』には「貞時の下知」と書かれているとのことですが、『嘉元三年雑記』によると27日に六波羅探題に届いた御教書にはすでに「時村は誤って誅された」と書かれていたとのこと。鎌倉からの飛脚が5月7日に到着したとする正親町三条実躬の日記『実躬卿記』5月8日条にも鎌倉からの情報として、時村誅殺は貞時の所存ではなかったのか5月2日には沙汰が下り討手の武士12人(うち少なくとも半数が御内人。なお『鎌倉年代記』では1人が逃亡したため11人)が斬首されたが、時村誅殺は宗方の下知だったとの風聞が流れたと記されてます。そのため4日には貞時が身を寄せていた師時邸で対応を評定していたところ、宗方が師時邸まで押しかけてきたため佐々木時清を派遣してしばらく来ないようにと言い含めたが、宗方と時清が押し問答の末に斬り合いとなり両者絶命したとのこと。宗方邸も攻撃されて火をかけられ全焼したそうです。『鎌倉年代記』では宗宣と宇都宮貞綱が宗方邸へ攻め寄せようとしていたところへ、貞時のいる師時邸の騒ぎを聞きつけた宗方がやってきたが時清に討たれ、宗方の被官も所々で誅伐されたとあり、『武家年代記』には時清が討死したことが記されてます。『実躬卿記』が載せる関東御教書には、宗方が陰謀の企みによって誅伐されたと記されているとのこと。
「陰謀」の具体的な内容については『保暦間記』にしか記載がなく、それによると宗方は師時に超越された(師時が執権となった)ことを無念に思い、もともと心猛々しく驕りの心もあったため師時を滅ぼそうと企んだ。時村が師時と共に執権連署となっており、時村の孫の煕時も貞時の娘婿となっていたため、まず時村を討ち、その後師時と煕時も討とうと多くの人と語らったとしています。しかし師時が標的なら時村を先に討つのは不自然だし、その後師時・煕時を討とうとした形跡もありません。またそのようなことを貞時が承認するはずもなく、到底信じ難い記述です。これに対して実は時村誅殺の首謀者は貞時で、すでに外戚や御内人を制圧していた貞時が北条氏庶流をも強い制圧下に置こうとして軍事動員のできる侍所所司の宗方に命じ北条氏長老の時村を討たせ、誤って誅殺したとして討手の御内人らを犠牲にして事を収めようとしたが、下知をしたのは宗方だとの風聞が巻き起こり自らの右腕とも言える宗方を切り捨てざるを得なくなったとする説も出されています。実際、宗方は自ら希望して引付頭人から越訴頭人に転任し、また本来なら御内人が任じられる侍所所司や内管領にもなるなど、一貫して形式的に高い地位よりも実質的に重要な役職に希望して就いていることから貞時の忠実な股肱だったと考えられるとの見解もあり、だとすると事件の構造は二月騒動に近いと言えます。宗方が貞時のいる師時邸の騒動を知っても挙兵などせず、わざわざ師時邸に推参しようとしているのも、事態の成り行きに困惑した宗方が貞時に直接会って話したいと考えたとも思えます。実躬はかつて六波羅探題として在京していた宗方について「当時随分賢者の聞こえ有り」としており、その死を「不便不便」とも記しています。
一方、殺された連署の時村は六波羅探題だった頃に強訴防御で僧兵を殺傷した武士が幕府に流罪に処された時にも時宗に抗議しているほど気骨のある人物で、時宗死後の平頼綱も敬遠して東下や連署就任をたびたび妨害しているくらいですから、貞時に対しても言うべきことは言う姿勢だったと考えられ、人望もある一門の長老として貞時には煙たい存在だったんではないでしょうか。しかも時村の父政村は子福者でそのため閨閥も広く、前記の通り執権師時や六波羅探題北方の時範は外甥(姉妹の子)、南方の貞顕は姉妹の孫でなおかつ時村の娘婿であり、前六波羅探題の基時も姉妹の孫であるなど、幕政全般に対する影響力も大きかったものと思われます。そのような目の上の瘤とも言える時村を貞時が排除しようにも大義名分がなく、そのため誤殺という方便で始末しようとしたものの御内人や御家人が幕閣の命令もないまま誅伐を行うなど無理があり、また実際に直接的には侍所所司の宗方の下知があったからこそ武士たちも時村邸を襲撃したのだと思われます。そしてそのような疑惑に対する北条氏庶流や人身御供にされた御内人らの疑念と反発は予想以上に強く、貞時としては宗方1人が貞時の名を騙って行った独断ということにしてしまうより他になかったとすれば話の筋は通ります。なお六波羅探題も前記の通り北方南方ともに時村の縁者だったことや、時村誅殺の理由が皆目わからないため大騒動となり極度の緊張状態になったようです。南方の貞顕は幼少時に父顕時が霜月騒動の影響で一時失脚しており、その記憶も蘇ったかもしれませんが、全ては宗方の陰謀ですでに誅殺されたとの御教書が届き、混乱は徐々に鎮静化しました。
乱後、内管領は御内人の尾藤時綱が再任され、宗方を討った宗宣が7月には新たな連署に就任するなど、御内人は累代の家職を取り戻し、北条氏庶流も自らの立場を引き続き確保しており、表面上は宗方が排除された以外は平常に復したように見えますが、おそらく貞時の内面では自らの致命的失策で股肱の宗方を切り捨てたという挫折感に苛まれていたんではないでしょうか。あるいは大筋で『保暦間記』の通りだったとしても、信頼していた宗方に裏切られたということになり、やはり強い失望の中に沈んだと考えられ、この頃から貞時は政務への意欲を失って酒宴に明け暮れる生活へと落ち込んでいきます。7月には貞時の二男の金寿御前(系図類では金寿丸。生母不明)が夭折しており(『鎌倉年代記』による。『鎌倉大日記』では1303年)、翌1306年10月には貞時母の潮音院尼(覚山尼、堀内殿)も55歳で死去するなど、身内の不幸に次々見舞われたことも貞時の酒浸りに拍車をかけたんじゃないでしょうか。なお将軍久明親王の妻で次の将軍となる守邦親王の母の中御所も同年7月に流産が原因で死去しています。こうして幕政は寄合衆に参加する北条氏庶流・御家人・御内人の合議制で運営されるようになり、その結果ひたすら前例を踏襲するような保守的な政治運営が行われるようになっていきます。貞時は寄合にも出席しないことが常態化したため、1308年8月には「出家しても政務を怠るべからず」と貞時に諫言した幕府官僚・平政連の『平政連諫草』が長崎盛宗(円喜)に提出される事態となっており、幕政の弛緩と渋滞が問題になってきていたものとも考えられます。なお円喜の俗名は高綱とされてきましたが近年は盛宗が有力とされているようで、この頃から内管領に就任したようです。
また同年3月に幕府の使者として入京していた安達時顕が、7月に将軍久明の上洛と将軍の交代を朝廷に申し入れます。同月中に久明は上洛し(『鎌倉大日記』による。『皇年代略記』では翌8月)、8月に鎌倉にいる久明嫡男が元服して守邦王となり、さらに将軍に就任。9月には親王宣下され守邦親王となります。孫王の親王宣下は先々代惟康親王の前例を踏襲したものでした。久明の将軍退任と上洛はそれまでの摂家将軍・親王将軍とは違って平和裏に行われたと考えられています。というのももはや幕末に近い1328年に久明が死去した際、その死が鎌倉にも早馬で伝えられ、幕府はそれを受けて喪に服すため沙汰を50日間停止しており、さらに翌1329年1月には将軍御所で百ヶ日法要が行われているからです。将軍交代の理由を記す史料はなく不明ですが、この頃の貞時は酒浸りで将軍交代も寄合衆の合議により決定したと思われ、政治的理由ではなくあくまで前例の踏襲というお役所仕事的な硬直した人事だったんではないでしょうか。なお幕府の使者となった時顕は安達泰盛の異母弟顕盛の孫でこの頃から史料に名が見られ始めるとのこと。父宗顕が霜月騒動で討たれた後、祖母が北条政村の娘(時村の姉妹)だったことから時村に保護されたとも見られています。
また、この頃には朝廷でも再び問題が発生。1304年8月に持明院統の後深草法皇が死去し、次いで翌1305年10月には大覚寺統の亀山法皇も死去。1つの時代の終わりですが、亀山は晩年の1303年に生まれた末子の恒明親王を溺愛し、恒明を次の皇太子(次の次の天皇)にするよう息子の後宇多上皇ばかりか持明院統の伏見上皇にまで根回しして遺言を残します。後宇多もしぶしぶ同意はしたものの、当然ながら亀山死後にあっさりその約束を反故に。1308年9月に息子の後二条天皇が死去して、持明院統の花園天皇が即位すると(後宇多院政の停止と伏見院政の再開)皇太子には後二条の弟の尊治親王(後の後醍醐天皇)を立太子。21歳の青年皇太子です。後二条の息子の邦良親王が幼少かつ病弱だったためという説が有力。尊治も持明院統の花園同様あくまで中継ぎで、後宇多は後二条・邦良流が嫡流として後を継いでいくことを望んでいました。
1309年1月、貞時3男の高時が7歳で元服。高時の母の大方殿は貞時の妾(側室)で、安達泰盛の庶兄景村の孫娘であり(景村およびその子で大方殿の父の大室泰宗については何もわからず没年も不明)、安達時顕とは祖父同士が兄弟のハトコにあたります。高時は1304年生まれでしたが、兄の菊寿丸・金寿丸がいずれも病弱で夭折しており、高時もまた成人後も病弱だったことを考えると幼少時からそうだった可能性が高いと思われます。元服に至ってようやく高時を貞時の後継とすることが確定したと考えられ、外戚一族の時顕や内管領の長崎円喜がこの頃から重用され始めるのもそのためでしょう。また高時の元服によって師時の執権が初めて中継ぎに変更されたのだと考えられます。なお高時も父貞時同様に将軍である守邦の偏諱を受けておらず、「高」が何に由来するか不明ですが、細川重男氏は北条氏の先祖とされる平高望(高望王)の一字を取ったという説を唱えてるそうです。うーん、どうかなあ? そんなことしてたら早晩ネタが尽きてしまうんじゃなかろうか。実際、高時の息子の邦時は守邦の偏諱を受けてるんだし(庶長子として扱われたからかもしれないけど)。
なお高時の元服式では貞顕が御剣役を務めてますが、1302年より六波羅探題南方を務めていた貞顕はたびたび鎌倉帰還を希望していたもののなかなか認められず、その間に北方の時範が1307年8月に在任のまま死去。しばらく貞顕が単独で職務にあたることになります。1年以上経った1308年12月になってようやく大仏流北条貞房(宗宣の弟)が新たな南方として赴任してきて貞顕は北方に移るものの(貞房は北方に赴任し貞顕はそのまま南方だったとする説もある)、同月には探題を辞して鎌倉に下り高時の元服式に参加しています。ところが貞房もわずか1年後の1309年12月に在任のまま死去し、六波羅に探題が不在状態となります。後任選びはよほど難航したのか探題不在は半年以上続き、1310年6月になって貞顕が再び北方として赴任することになりました。貞顕は14歳も年上の時範と共に六波羅探題だった際にも執権探題を務めており、よほど有能さを買われていたと思われますが、当人は在京が長くなることには非常に不満だったようです。翌7月には政村流北条時敦(時村の甥)が南方として赴任しますが、貞房にしろ時敦にしろ大仏流・政村流の中でもさらに庶流であり、六波羅探題への赴任がいかに敬遠されていたかがわかります。
1311年9月、事実上の中継ぎとなっていた執権師時が37歳で死去。『鎌倉年代記』には22日に出家して死去したとあり、『武家年代記』には20日に評定の座で倒れ22日に死去したとあるとのこと。影が薄く個性の感じられない、まさに貞時の影と言うべき生涯でした。代わって10月3日に連署の宗宣が執権に、一番引付頭人の煕時が連署にそれぞれ玉突き人事的に昇格しています。
そして師時の死からわずか1か月ほどの10月26日に得宗貞時が41歳で死去。若くしての死ですが、それでも時氏以降の得宗では最も長命でした。晩年は酒浸りで全く政務を行わないことを貞顕が嘆いている書状が残ってますが、失意と現実逃避に溺れていたんでしょう。そこには改革の意欲に燃えた若き日の颯爽とした姿はありません。貞時は内管領の長崎円喜と外戚一族の安達時顕に後事を託し、高時を補佐するように命じたとのこと。父時宗同様に頼れる近親のほとんどを亡くし、外戚と御内人に後事を託さざるを得なかったことになります。
なお朝廷では11月3日に貞時の訃報を受けて30日間の天下触穢としており、公職を退いても得宗貞時を幕府の最高権力者と認識し、丁重に扱っていたことがわかります。そればかりか1306年に貞時母の潮音院尼が死去した際にも天下触穢とされており、また1302年に貞時嫡男の5歳の菊寿丸が死去した際には天下触穢にこそならなかったものの雑訴奏事を7日間停止し、1309年に貞時娘が死去した際にも奏事・雑訴沙汰を5日間停止するなど弔意を表している一方で、1302年に将軍久明の娘が死去した際には朝廷は特に対応を取っておらず、朝廷ももはや将軍ではなく得宗を幕府の代表と見ていたと思われます。このように貞時がいかに飲んだくれようとも得宗の権力はこの頃には絶大なものとなっており、まさか22年後に次の得宗高時の代で幕府が滅亡しようとは、滅ぼした当事者の尊治親王(後醍醐天皇)でさえも思ってもいなかったことでしょう。
貞時編、ようやく終了。次回、高時編はそもそも当サイトの守備範囲。当サイトが非常に充実してるんで、さらっと終わらせちゃいます。
>BS12で忠臣蔵映画
年末は忠臣蔵だ!ってことなのか、BS12で12月の毎週火曜日に忠臣蔵映画を放送するようです。ラインナップは、『赤穂浪士』(1961年の東映映画。大河ドラマと同じ大佛次郎の原作の4度目の映画化)、『赤穂浪士 天の巻・地の巻』(1956年の東映映画。大佛の原作の3度目の映画化)、『忠臣蔵 櫻花の巻/菊花の巻』(1959年の東映映画)、『忠臣蔵』(1958年の大映映画)。しかしいくら作品が違うとはいえどうせ同じような話なのに毎週毎週観る人が今時いるんだろうか?
#11469
徹夜城(このところ映画館に行ってないなぁと嘆く管理人) 2024/11/10 22:23
トラ・トラ…
えーと、だいぶサボってる史点で次回にトランプ再選について書くと思うので、こちらでは短く。
正直なところ、そこまで勝つか、という結果で結構ショックもあります(少し前から覚悟はありましたが)。議事堂襲撃事件というあれだけの歴史的事件を引き起こした張本人がまた大統領に返り咲くとは、民主主義の危機だよなぁ、と。これから4年間、大急ぎで変なことを起こさなきゃいいんですけどね。大統領の二期目、ってのはだんだんあとがなくなっていくだけで大したことしないうちに終わっちゃうものなんですが。気が付いたら終わってた、ってくらいになってりゃいいな、と。ご本人も高齢なのは間違いないですしね。
>「八犬伝」
これ、見に行きたいんだけどそれができない状況で(泣)。
山田風太郎の原作は新聞連載当時に読んでいまして、八犬伝のストーリーを追うのと作者馬琴の状況を交互に描くのが不思議な小説だな、と思ったものです。今頃になって映画になろうとは。
>倭寇小説
高橋直樹氏のその小説はノーチェックでした。倭寇ネタを最近探してなかったかな。
内容的には前期倭寇の話みたいですね。やはりチェックしておこうかと。
>近頃見てる歴史ドラマ
「オスマン帝国外伝・愛と欲望のハレム」、ようやく最終コーナーまで来てます。あと43話、ってそれだけで大河ドラマ並みにありますね。スレイマン大帝がとうとう長男を手にかけてしまい、スレイマン一家に暗い影がますます…というあたりまで来てます。それにしても洋の東西、名君とかされる人の息子殺しの例は多いですね。
それと並行して「三国志・司馬懿 軍師連盟」も三十話まで来てます。ようやく魏が建国されたあたり。
#11468
バラージ 2024/11/10 17:00
再トラ
いやぁ〜、トランプが米国大統領に再選しちゃいましたねえ。トランプの勝因とハリスの敗因についてはいろいろ複数の要因があるんでしょうが、やっぱり1番は経済なのかなあ。現代史のいろんな国の選挙を見てても、なんだかんだ言って経済というか景気とか物価とかが重要なファクターになってることが多いように感じるんですよね。外交とか人権は残念ながら有権者の投票にはあまり影響を及ぼさない。まあ第1期トランプ時代の経済好調が果たしてトランプの政策によるものなのかどうかは甚だ疑問がありますが、結果としてあの頃の米国は景気が良くバイデン期に経済が失速したことも事実なので、米国民がこの歴史的物価高をどうにかしてくれと民主党を見放してトランプを支持しちゃうという現象も理解できなくもない。
それから急遽大統領候補になったハリスがいろいろと準備不足だったことも大きい。ハリスのスタンスが今ひとつはっきりせず、どうにもモヤモヤしました。ずっとバイデンの副大統領だっただけに不人気なバイデンを否定しきれず、中途半端なスタンスに終始した感じ。それが如実に表れたのがガザ・イスラエル紛争への態度でして、全面的にイスラエルを支持したバイデンが若者やアラブ系に愛想を尽かされたため、ハリスはそれを修正しようとするもイスラエルに配慮しつつ自制も求めるという極めてわかりにくいスタンスを取らざるを得なかったところに根本的な問題があったと言っていいでしょう。トランプも親イスラエルなんでアラブ系の票が第三候補に流れるなんて噂も一時ありましたが、結局トランプ支持のほうが若干上回るという驚愕の展開に。ラテン系・黒人・女性・若者のすべてで前回のバイデンよりも票を減らすという完敗に終わりました。
昔からここに何回か書いてますが、たとえトランプが去ってもトランプ的なものはおそらく間違いなく残ります。『サンデーモーニング』で松原耕二コメンテーターも似たようなことを言ってましたが、これをどうするかは今後非常に難しい問題になっていくと思われます。日本の衆院選でも他人の金メダルかじった元名古屋市長とか永遠にモラル0な作家とかが当選してる(比例も含むとはいえ)んだから他人事ではないんだよな。
>最近観た歴史映画
以前この板で製作中の映画として紹介した『八犬伝』を観ました。有名な『南総里見八犬伝』と、それを執筆する滝沢馬琴の姿とを交互に描いていく史劇映画というか時代劇映画で、主演の馬琴役は役所広司、共演の葛飾北斎役が内野聖陽。原作は山田風太郎とのことですが僕は未読です。
主演が馬琴役の役所さんであることからもわかる通り、基本的に主となるのは執筆者の馬琴パート。八犬伝パートも2時間半の長尺の半分くらいはあるものの、まあ1時間ちょっとじゃダイジェストですよね。といってもあからさまにダイジェスト感を感じさせるわけではなく、きちんとあらすじを一通り見せてくれて、なかなか面白かったです(僕は『南総里見八犬伝』も未読)。序盤の特撮というかCG、特にデカい犬(八房)のCGがどう見てもCGにしか見えない(あんなデカい犬いるわけないから当然っちゃ当然かもしれないけど)あたり『ゴールデンカムイ』といっしょでちょっと不安を抱かせましたが、その後はまあまあ良かった。原典とは変えてあるところも多いみたいだけどこれはまあ仕方がない。
しかし本筋はやはり馬琴パート。馬琴が主人公の映像作品はおそらく初めてなんでは? 北斎が主人公またはメイン級の映像作品は映画『北斎漫画』『HOKUSAI』、NHKドラマ『眩 北斎の娘』などいくつかあるのに(これまたいずれも未見)、馬琴が主人公の映像作品が今まで無かったのは、やはり画家に比べて文筆家は「絵にならない」からでしょう。実際、馬琴パートだけだと映画としては“地味”なのも確かで、それをカバーするための八犬伝パートだと思われますが結果としてそれが上手くいったという感じ。
それにしても役所さんが演じてるためもあってか本作の馬琴はいかにも武士的な雰囲気ですが、馬琴がもともと武士の出だということを僕は初めて知りました。内野さんも豪放磊落で天衣無縫な北斎がハマり役というか、この人も演技の幅が広い。馬琴の妻お百を演じる寺島しのぶのキツいババアぶりも上手いし、息子の宗伯役の磯村勇斗、その妻で失明した馬琴の口述筆記を務めるお路役の黒木華も好演。石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』では馬琴とお路の仲を疑うお百の凄まじいドロドロ話が載ってたんで、あんなことになるのかと引いてたら、映画ではさらっとソフトに描かれる程度で良かった。あんなの見たくないからね(笑)。また宗伯の友人として渡辺崋山も出てきた他、北斎の娘の応為も1シーンだけちらっと登場し、広重は名前が台詞で触れられるだけ。しかしなんといっても圧巻だったのは中盤で馬琴が北斎に誘われて観に行った歌舞伎『東海道四谷怪談』の奈落で偶然出会った鶴屋南北と激論を交わす“虚”と“実”の芸術論。南北を演じる立川談春が怪演でした。暗がりで顔はほとんど見えなかったけど(笑・もちろん狙った演出ですが)。『光る君へ』組の出演もなぜか多く、黒木華の他に八犬士の中心・犬塚信乃役が『光る君へ』で頼通を演じてる渡邊圭祐。ちょっと量産型イケメン系の顔なんでエンドロール見るまで気づかなかった。もっと驚いたのは敵役の扇谷定正を演じてたのが『光る君へ』の一条天皇役の塩野瑛久だったことで、あまりに凶暴な悪人ぶりに全然わかんなかった。全然わかんなかったといえば犬坂毛野が最初に出てきた時にほんとの女の子だと思って、なかなか可愛い子だなと思ってたら、しゃべったら板垣李光人でマジでびっくり。あと関係ないけど河合優実ちゃん演じる浜路が「はまじ、はまじ」呼ばれるたびに真っ先に思い浮かんじゃうのが困ったことに『ちびまる子ちゃん』の「はまじ」なんだよな(笑)。他にも伏姫役の土屋太鳳とか玉梓役の栗山千明とか役者陣がみな好演でした。なかなか面白かったです。
>その他の歴史映画&ドラマ
琉球史映画が無いと書いた途端に、今年琉球放送が放送した琉球史劇ドラマ『阿麻和利 THE LAST HERO』(全3話)が日本民間放送連盟賞のテレビドラマ番組優秀賞や東京ドラマアウォード2024のローカル・ドラマ賞を受賞したという記事が新聞に載ってました。15世紀の琉球王国の按司の阿麻和利が主人公とのことで公式サイトもあるようですが、知らん俳優ばっかりの中になぜか1人だけ山田孝之が。準主演のようですが、1人だけ全国クラスの役者がいるとやっぱりちょっと浮いちゃってるような気も……(笑)。
同じ新聞には、シラク大統領の妻のベルナデット・シラクを主人公としたフランス映画『ベルナデット 最強のファーストレディ』の記事も。1995年にシラクが大統領に就任してから、極右のジャン゠マリー・ル・ペンに勝って2期目を務めた2007年までの12年間を描く、ちょっとコメディ・タッチの映画とのことで、主演のカトリーヌ・ドヌーブを取り上げた記事でした。それにしてもシラクさんもすでに歴史映画になっちゃうんだ。時が流れるのは早い。
>あら、こんなところに倭寇小説が
書店に寄ったら、そろそろ来年の大河ドラマの蔦屋重三郎関連書籍が出てきてますね。マイナーな人だからあんまりないんじゃ……と思ったら意外と結構出ています。まあ個人的にはあんまり興味ないけど……と思いながらも小説コーナーをちらっと見ると、橋直樹氏の『蔦屋重三郎 浮世を穿つ「眼」をもつ男』(潮文庫)という小説が。橋氏、ほんとにここ10年くらいは潮文庫の大河(&朝ドラ)便乗小説ばっかりだなぁ。00年代までは面白い源平鎌倉小説とか書いてたのにとちょっと残念な気も。
で、カバー裏見返しの橋氏の潮文庫作品一覧を見たら、なんと前作に『倭寇 わが天地は外海にあり』という小説が。え?『北条義時 我、鎌倉にて天運を待つ』の後に書いてたんだ、と思って書店を探したんだけどマイナーな潮文庫だからかすでに無く、近くのもっと大型の書店に行ってみるとそこにはありました。今年の2月に出てたみたいですね。全く知らなんだ。まあマイナーな潮文庫だから目に止まらんのよね。これは便乗小説じゃなさそうだと買っちゃいました。南北朝時代が舞台のようですが題材的に『逃げ上手の若君』とも関係ないでしょう。でも実は今読みたい小説は他にあるんで、今のところはとりあえず積ん読です。
#11467
バラージ 2024/11/02 19:42
1年で3本もアイヌ映画が
『シサム』(厶は小文字)という日本映画を観ました。
舞台は江戸前期の蝦夷地。松前藩士である主人公の青年は兄と共に、他藩に売る鮭などの商品をアイヌとの交易で得る仕事をするため、初めて蝦夷地東部の交易中継地に来ていた。近年は米が不作で、鮭と交換でアイヌに売る米俵を小さくする不正が行われていたが、ある夜に兄は使用人の男が米俵などを調べる不審な行動を発見し、男に殺される。敵を討てという兄の遺言で主人公は男を追って、別の使用人の案内のもと森の中に向かうが、返り討ちにあい川に転落。そのまま行方不明となる。川を流された彼を見つけ、看病したのはあるコタンのアイヌの人々だった。彼はアイヌの人々と触れ合ううちに、アイヌの置かれた過酷な状況を知り、また西部のシャクシャインという人物が各コタンをまとめあげ、和人に対して蜂起しようとしていることを知る……。
面白かった。娯楽性と社会性とが絶妙なバランスで組み合わされ、面白く、なおかつ興味深い映画に仕上げられてました。同じアイヌ映画でも『ゴールデンカムイ(実写映画版)』は前者に、『カムイのうた』は後者に傾きすぎてましたからね。登場人物は全員架空人物で、お話も背景にあるシャクシャイン蜂起以外は全くのフィクションですが、それゆえに先がどうなるかわからない面白さがありました。終盤の展開にやや甘さを感じるかもしれませんが、あくまで娯楽要素にも配慮したフィクションとしてはあれで良かったと思います。
主人公の立ち位置やキャラクターも良い。僕はこういう2つの民族(あるいは人種・勢力など)に挟まれて、どちらにも所属できず苦悩して立ちつくすような人物に惹かれる傾向があるようです(実在人物ならハリマオとか李香蘭とか)。演じる寛一郎(佐藤浩市の息子)も良かったですね。2世どころか3世俳優ですが、実力がありゃ何世だろうとなんだっていいわけで。兄役で序盤に退場する三浦貴大も2世なんだし(笑)。使用人役の和田正人も、アイヌ役の平野貴大、佐々木ゆか、坂東龍汰、サヘル・ローズらもみな好演。緒形直人や富田靖子が脇役で出てきたのも感慨深い。『相棒』の課長役の山西惇とか、特別出演で古川琴音も出てました。そして終盤にこれまた友情出演?の要潤。パンフ読んだら監督がドラマ『タイムスクープハンター』(僕は未見)の人でその縁で出たみたい。
ちなみにパンフにはプロデューサーのインタビューも載っており、アイヌの映画化を模索する中であるアイヌを題材としたマンガの存在を知り版権管理会社に企画書を持っていったが許可されず、「そんなにアイヌの映画を作りたいならオリジナルでやられたらどうですか?」と言われて、「やってやる!」と火が着いたとのこと。そのマンガってひょっとして『ゴールデンカムイ』?(それとも他にもアイヌ題材のマンガってあるのか?) 正直あっちよりよっぽど面白い映画になったと思いますが、だとしたらまさに瓢箪から駒ですな。
それにしても今年だけでアイヌ映画が3本も公開されてるのは珍しい。過去にも史劇時代劇に限らずアイヌ映画は何本か公開されてるようですが、一方で意外なことに琉球史映画はおそらく1本も作られてないんですよね。大河ドラマ『琉球の風』やBS時代劇『テンペスト』が作られたこともありましたが映画はないんだよな、なぜか。
>その他のちょっとだけ歴史関連映画
WOWOW録画した『映画 刀剣乱舞 黎明』(シリーズ2作目とのこと)のプロローグが平安時代で、酒呑童子とか源頼光とか安倍晴明とか藤原道長とかがちょろっと出てくるんですが、道長を演じてたのが柄本明でした。大河の佑の親父ですが、いかにも悪そうでした(笑)。しかし本編に入って現代に移り2.5次元俳優がうじゃうじゃ出てくると生理的に受け付けなくて15分でギブアップ。
>今となっては歴史映画?
先日なぜかたまたまふと数年前に観た台湾のドキュメンタリー映画『私たちの青春、台湾』のことを思い出して、そういやここに感想書いたなと思って探してもどこにも無い。あれ?と思ったら映画板のほうに書いとりました(#1814)。歴史要素のある映画だからこっちの板だと思ってたんですが、当時は同時代感のほうが強かったんですかね。あと映画板にも書いた通り、“政治の映画”ではなく“青春の映画”という感じが強かったというのもあるかも。でも、あれをあっちに書いといて、『カンフースタントマン 龍虎武師』をこっちに書く(#11314)というのは、我ながら逆なんじゃないかと今になってみれば思うわけですが(笑)。
#11466
バラージ 2024/10/24 19:47
南北朝への鎌倉史E 貞時の時代その3
貞時の時代3回目。貞時回が長くなったのは今まで映画化・ドラマ化がされたことがなく、なおかつおそらく今後も映画化・ドラマ化がされることはまずないであろう時代だからです。
1293年4月の平禅門の乱で内管領および乳母夫の平頼綱を滅ぼして実権を握った22歳の若き得宗執権・北条貞時は精力的に政治に取り組みます。5月には評定衆・引付衆・奉行衆から起請文を取ると、35歳の大仏流北条宗宣(連署宣時の嫡男)と29歳の長井宗秀(大江氏)を越訴頭人に抜擢。また従弟で若干19歳の師時を評定衆とし、さらに翌6月には三番引付頭人としています(一番引付頭人は政村流北条時村で52歳、二番は名越流北条公時〈時章の嫡男〉で59歳)。師時は時宗の同母弟宗政の嫡男ですが、幼い頃に父が早逝したため時宗が引き取って猶子として育てており、兄弟のいない貞時にとっては兄弟同然の最も近い近親でした。さらに10月には引付衆を廃して貞時が裁判を直断することとし、貞時への取次を行う執奏を設置しています。7名の執奏のうち3名は引付頭人、2名は越訴頭人からのスライドで、残る2人は59歳の宇都宮景綱(4代執権経時の妻の兄弟)と46歳の金沢流北条顕時(実時の嫡男)。景綱と顕時は共に安達氏との関係から霜月騒動で失脚した人物でしたが、復権を果たしました。なお安達氏も復権したと思われますが、霜月騒動を生き延びた者はまだ幼少だったと思われ、この時点では表舞台に登場していません。また頼綱滅亡後の内管領はその一族(弟、甥、従兄弟などの説あり)の長崎光綱が就きましたが、頼綱専権への反動もあってかやはり重用はされず、あくまで得宗家の家政機関長という立場に終始したようです。
甚大な被害をもたらした鎌倉大地震からの復興が大きな課題となる中で、裁判の渋滞も時宗時代からの大問題でしたが、新たに8年前の霜月騒動で賞罰を受けた者たちの再審が大きな問題となったようです。結局、翌1294年6月には霜月騒動関連の裁判の打ち切りが通告されており、この問題はかなり長引いたことがわかります。やはり貞時1人が裁判を全て直断することには無理があったのか、1295年に執奏はわずか2年で廃止され、引付衆が復活しています。引付頭人には元執奏のうち年嵩の4人が就任し、貞時が抜擢した師時・宗宣・宗秀は退けられました。また元軍再襲来の様子が無かったことから、同年4月には鎮西探題だった貞時の従兄の兼時(時宗異母弟宗頼の嫡男)と名越流北条時家(公時の嫡男)が鎌倉に帰還。帰還後に評定衆となった兼時はやはり貞時にとって最も近い近親の1人でしたが、5ヶ月後の9月に32歳の若さで死去しています。なお同年12月には将軍久明親王が、前将軍惟康親王の娘の中御所を妻に迎えています。これは一旦断絶した前将軍家宗尊親王流と現将軍の血筋をつなげる意図があったと考えられているようです。翌1296年には長門周防守護の金沢流北条実政(顕時の弟)が鎮西探題に転任。以後の鎮西探題は元軍再襲来対応任務と合わせて2度の元軍襲来後の鎮西訴訟を中心に据えており、鎮西評定衆・鎮西引付衆が整備されて鎮西の所務沙汰の裁判権を管轄する機関として確定したとのこと。1人体制となった実政を初代鎮西探題とする見解もあるようです。
1297年3月、永仁の徳政令が施行されます。教科書にも載ってる有名な用語ですが近年は研究が進み、最初の徳政令でもなければ典型的な徳政令でもないとわかってきているとのこと。基本的には御家人の財産(所領)の移動(売買)を制限する内容で、むしろ徳政を謳いながら実際の適用には極力慎重な姿勢を見せている徳政令と評価されているようです。しかし中小御家人の窮乏の根本的原因は分割相続による所領の狭小化という社会構造に問題があったため、徳政令では問題の根本的な解決には至らなかったとされています。
同年5月には六波羅探題南方の佐介流北条盛房が、6月には同北方の赤橋流北条久時が離任して鎌倉に帰還し、前年に4番引付頭人と寄合衆になっていた宗宣と、貞時の従弟(宗頼の二男で兼時の弟)で20歳の北条宗方が7月に新たな六波羅探題南方と北方として上洛しており、この人事は永仁の徳政令の西国での施行にあったと見られているようです。宗方も師時同様幼い頃に父が早逝したため時宗が引き取って猶子として育てており、貞時の最も近い近親でした。なお新たな六波羅探題2人のうち南方の宗宣が執権探題(上位の探題)となっており、南方が執権探題となったのは初のこと。宗方が若すぎたためでしょう。宗方は1300年11月には離任して鎌倉に戻り、12月には評定衆に、翌1301年1月には4番引付頭人になるなど師時同様スピード出世を遂げており、得宗家の一員として貞時に引き立てられているのがわかります。なお後任の六波羅探題北方は半年以上経ってから1301年6月に普恩寺流北条基時(業時の孫)がわずか17歳で就任しており、この頃から鎌倉を遠く離れ労多く功少ない役職である同職を敬遠する北条庶流が多くなってきます。
また1297年8月には内管領の長崎光綱が死去。後継の内管領(得宗家公文所執事)は工藤杲禅(杲暁)や尾藤時綱が務めたと見られ、この時点では長崎氏の世襲にはなっていません。なお『保暦間記』では平禅門の乱で佐渡国へ配流された平宗綱が後に召還されて内管領となり、さらに後に再び上野国に流罪となったとありますが、実際に宗綱を得宗家公文所執事とする文書が現存するらしく、細川重男氏の研究によると宗綱が執事だったのは1301年3月から1303年頃だとのこと。宗綱が再び上野国に流罪となった理由やくわしい経緯は不明。また1301年5月には中御所が将軍久明の嫡男(後に最後の将軍となる守邦親王)を産んでいます。
そして1301年8月、貞時は突如執権を退任して出家し、師時を後任の執権とします。理由は『鎌倉年代記』にも『保暦間記』にも記されておらず不明。祖父時頼や息子の高時も執権を辞して出家してますが、それは重病で命が危ぶまれたからで、後に回復したため得宗として政治を行うことになったという成り行きでした。しかしこの時の貞時には病になった様子がありません。Wikipediaには鎌倉にハレー彗星が飛来したことを擾乱の凶兆と憂慮したためとありますが、調べるとどうもこれは海津一朗氏の唱えた説のようで天人相関説に基づいたものという推測のようです。彗星が出現したこと自体は『鎌倉年代記』に出家の10日前の日付で記されてますが、うーん、これはちょっとどうかなあ? 近年の研究ではあまり支持されていないようで、僕も今ひとつ納得できないんですけど。また師時をかつての長時や政村同様に中継ぎの執権とする見方がありますが、吉田経長の日記『吉続記』の翌1302年10月5日条に、貞時の5歳(満3〜4歳?)の嫡子(系図類では菊寿丸)が先月30日に死去した。もともと足も立たず息災ではいられないだろうとの噂だったと記されており、この記述から考えると貞時の嫡男菊寿丸が後を継ぐことは到底不可能なため、貞時は師時を後継者候補と考えていた可能性もあるとの見方もあります(高時はまだ誕生前だった)。師時はこの頃には貞時の娘婿にもなっており、さらに貞時の妻が師時の姉妹(宗政の娘)という濃密な姻戚関係を結んでました。また『吉続記』に「嫡子」と書かれていることから菊寿丸の生母は師時姉妹と推定され、師時は菊寿丸の伯父または叔父だった可能性が高く、貞時が師時を後継者とすることはそれほど不自然なことではありません。ただし師時の執権就任後も実権を握っていたのはもちろん得宗の貞時でした。
なお貞時の執権退任と出家に伴って連署宣時も辞任して出家し、一番引付頭人の時村が連署に就任しています。宣時は比較的長命で1323年まで存命しており、後を継いだ嫡男宗宣に先立たれています。また四番引付頭人の宗方も貞時の執権退任後に自ら希望して越訴頭人に転任。さらに同年9月には鎮西探題の実政も出家し、嫡男政顕が33歳で鎮西探題に就任(実政は翌1302年に死去)。実政の兄顕時も貞時出家前の3月に死去して嫡男貞顕が24歳で後を継いでおり、また公時は1296年に、宇都宮景綱は1298年にそれぞれ死去する(後継は時家と貞綱)など幕閣の世代交代が進んでいます。
最後に貞時執権専制時代(1293年〜1301年)の天皇家の流れ。まずは頼綱専権時代から引き続き伏見天皇の親政で皇太子は皇子の胤仁親王(後の後伏見天皇)という持明院統独占時代が続きます。1290年に出家した後深草法皇は政務について伏見の相談を時折受けながらも仏道に専念して院政は行わず、伏見も譲位をせず中世には珍しく親政が続いたのは、幼少の胤仁が即位すると皇太子の座が空いて大覚寺統に奪回されることを危惧したからだとする説があります。はたして在位10年以上を過ぎ、伏見の寵臣の京極為兼が幕府ににらまれて佐渡国へ配流される事件が起こると、伏見は幕府と大覚寺統の亀山法皇の圧力に抗しきれず1298年に譲位。11歳の後伏見天皇が即位し伏見院政となりますが、当然ながら後伏見に皇子はなく、伏見上皇は後伏見の弟の富仁親王(後の花園天皇)を皇太子に立てることを望みますが、大覚寺統の後宇多上皇の皇子の邦治親王(後の後二条天皇)が皇太子となって両統迭立に逆戻りしました。さらに3年後の1301年には後伏見が譲位せざるを得なくなり、後二条天皇が即位して後宇多院政が成立し、14年ぶりに大覚寺統が皇位を奪還。14歳の後伏見上皇にはやはり子がなく、伏見の以前の望み通り後伏見の弟の富仁を皇太子が立てられます。ただし伏見はさらなる分裂を危ぶんであくまで後伏見を嫡流とし、富仁を後伏見の猶子として、後伏見に皇子が誕生した際にはそれを富仁の猶子とし、その皇子の系統に皇位を継承させることを厳命しています。
うーん、やはり長くなってしまった。貞時編は次回で完結します。
#11465
バラージ 2024/10/18 22:09
こっちでも追悼
西田敏行さんが亡くなられましたね。映画板のほうで本筋の追悼はしたんで、こちらでは歴史作品関連で。
歴史映像名画座に収録されてる作品だと、映画が『敦煌』『おろしや国酔夢譚』『火天の城』『清須会議』『終戦のエンペラー』。僕が観たのは『終戦〜』だけです。
NHK大河ドラマが『新・平家物語』『国盗り物語』『花神』『おんな太閤記』『山河燃ゆ』『武田信玄』『翔ぶが如く』『八代将軍吉宗』『葵 徳川三代』『武蔵 MUSASHI』『功名が辻』『八重の桜』『西郷どん』『鎌倉殿の13人』とすごく多い。『翔ぶ〜』『吉宗』『葵』と3作で主演してますが、『翔ぶ〜』と『葵』は複数主演なので意外にも単独主演は『吉宗』だけ。ただ映画板にも書きましたが個人的には1番最初に観た大河『おんな太閤記』での準主演・秀吉役がなんといっても印象深いですね。次いで『葵』かな。
さらに日本テレビ年末時代劇スペシャルが『忠臣蔵』『白虎隊』。テレビ東京新春ワイド時代劇が『徳川風雲録 八代将軍吉宗』『戦国疾風伝 二人の軍師 秀吉に天下を獲らせた男たち』『影武者徳川家康』。その他のテレビドラマが1997年版『竜馬がゆく』『織田信長 天下を取ったバカ』『あの戦争は何だったのか 日米開戦と東條英機』『坂の上の雲』『女信長』とやっぱりめちゃくちゃ多いなあ。この中で観たのは『徳川風雲録』だけ。
名画座未収録作品だと、歴史系の映画は徹夜城さんの挙げられた『北斎漫画』の他に、『沖田総司』(1974年、永倉新八役)、『襤褸の旗』(1974年、多々良治平役)、『植村直己物語』(1986年、植村直己役)、『丘を越えて』(2008年、菊池寛役)、『大奥 永遠[右衛門佐・綱吉篇]』(2012年、桂昌院役)といったあたり。このうち観たのはレンタルDVDで観た『丘を越えて』だけですが、これはなかなかいい映画でした。
またテレビ東京新春ワイド時代劇が『宮本武蔵』(2001年、沢庵役)、『天下騒乱 徳川三代の陰謀』(2006年、土井利勝役)。その他のテレビドラマが『雲を翔びこせ』(1978年、渋沢栄一役)、『風の隼人』(1979年、益満休之助役)、『翔んでる!平賀源内』(1989年、平賀源内役)、『けろりの道頓 秀吉と女を争った男』(1999年、安井道頓役)、『おらが春 小林一茶』(2002年、小林一茶役)、『忠臣蔵 その男、大石内蔵助』(2010年、吉良義央役)、『宮本武蔵』(2014年、住持日観役)、『東京にオリンピックを呼んだ男』(2014年、田畑政治役)、『信長協奏曲(コンチェルト)』(2014年、斎藤道三役)とやっぱりめちゃくちゃ多いんだよな。大河に先駆けて渋沢栄一とか田畑政治も演じてたんですね。ただ僕が観たドラマは残念ながらありません。どうも僕はどちらかというと現代劇での西田さんを多く観て記憶してるようです。
改めて御冥福をお祈りします。
>最近読んだ歴史関連本
臨床心理学者の河合隼雄氏が、鎌倉時代に自分の見た夢を生涯に渡って記録した『夢記』を著した高僧の明恵を取り上げた『明恵 夢を生きる』を読みました。河合氏の本は以前から好きで何冊も読んできたんですが、これはちょっと敬遠してたんですよね。ちょい厚めの本だし、何より仏教(というか宗教)ってのがね、どうも。やっぱり他の河合氏の本に比べるとちょっと読み進めづらかったです。原文読み下しとか仏教哲学とかに少々難渋しました。それでもなかなかに興味深くはありましたが。
#11464
徹夜城(ここんとこ忙しくていろいろ更新を遅らせている管理人) 2024/10/17 22:54
西田敏行さん逝く
どうも、久々に書き込むと訃報ネタというパターンが多いような…
今日、出先で見たNHKニュースの最後に速報で入ってビックリしました。西田敏行さんが急逝ということで…それも発見時すでに亡くなっていた、ということで近頃の芸能人には珍しく亡くなった当日に訃報が報じられてしまいました。
まぁとにかくいろんな作品に出ていた人で…ざっと思い返しても代表作を絞り込むのが難しい。
この伝言板なので歴史もの作品に話題を絞りますが、それだけでも大変な数に出ています。NHK大河ドラマでも出演回数がトップクラスで、主演は「翔ぶが如く」「八代将軍吉宗」ということになりますが、「おんな太閤記」「葵徳川三代」も実質的に主演みたいなもの。
僕がこの人の存在を大河で意識したのは「武田信玄」での山本勘助役だったかと。ちょうどその川中島と同時期に映画「敦煌」にも出ていたんで戦死シーンを二度立て続けに見たもので印象深かった。
つい最近、新藤兼人監督の「北斎漫画」を見たんですが(内容的には来年の大河とかぶる)、そこでは緒形拳演じる北斎の友人である馬琴を演じてました。緒形拳とは「おろしや国酔夢譚」でも共演してて、ロシア風に別れのキスシーンを演じてもいます。このシーンは史実に基づくので「風雲児たち」でも出てきてますが、作者のみなもと太郎さんも「庄蔵の顔が偶然西田敏行にそっくりになってしまった」ということを書いてましたね。
西田敏行さんがあまりに歴史ものに出てるんで、「西田敏行日本史年表」なんてものもネット上で流布してました(笑)。「西田敏行死後の関ケ原の戦いで西田敏行が勝利したが息子の西田敏行は到着が遅れた」といったもので(笑)。そうそう、「影武者徳川家康」もやってるんですよね。
>「逃げ若」便乗本
さすがに大河「太平記」の時ほどではないですが、南北朝時代を扱う便乗本がチラホラ出てますね。僕はそのうちの一冊「鎌倉滅亡 日¥北条時行と足利尊氏」というムックを買って読んでみました。
新田義貞、諏訪頼重、北畠顕家への仮想インタビュー記事なんてのが載ってましたが、この人選も「逃げ若」がらみなんでしょうが、それなら時行本人のインタビュー載せればよかったのに。インタビューも仮想とはいえ明らかに彼らの死後に幽霊状態で応答してる形なので、まるであの大川隆法の守護霊インタビュー状態になってました(笑)。
大筋とは別のところで「おっ」と思ったのは、かつて「足利尊氏像」と紹介され続けていた「騎馬武者像」、輪違紋があることから高師直など高氏一族の誰かという話になって久しかったのですが、最近修復・調査をしたところ輪違紋は後世の加筆とみられ、高一族説はまた怪しくなったんだとか。それで17世紀の目録に尊氏像とあることからまた尊氏像説復活の可能性も、と書かれてましたが、さて。
#11463
バラージ 2024/10/13 21:54
またもいろいろ
テニス界のレジェンドの1人ラファエル・ナダルが11月のデビスカップを最後に引退することを表明しました。以前から今年中の引退をほのめかしてましたが、正式発表となります。アンディ・マレーも今年のパリ五輪を最後に引退しており、2022年に引退したロジャー・フェデラーと合わせて、00年代後半から男子テニス界を支配したビッグ4のうち3人が引退。残るはノバク・ジョコビッチただ1人。時というものは容赦なく過ぎ去っていきます。
>『光る君へ』
いよいよ終盤戦ですが、物語はどのあたりで終わるんでしょうね? 紫式部は没年不明なんでいつ頃までが舞台になるのかよくわからないんだよな。とりあえず道長が死ぬあたりまでになるんでしょうか?
>ノーベル賞
今年のノーベル文学賞が韓国のハン・ガン(韓江)に決まりました。韓国人作家では初ということか。久しぶりに名前を知ってる人が取りました。過去10年だと他に名前を知ってるのがカズオ・イシグロ(2017年)と歌手のボブ・ディラン(2016年)ぐらいなんだよな。もう少しさかのぼって10年代に広げても莫言(モー・イエン)(2012年)とバルガス・リョサ(2010年)ぐらいしか知らない。まあ、こっちの知識が乏しいせいもあるんでしょうけど。
村上春樹は今年も取れませんでしたね。まあ村上さんご本人は、取ったりしたら騒ぎになって落ち着いて小説を書けなくなるからイヤだと言ってるし、僕もその気持ちはわからなくもないので(っておこがましいですけど)取らなくてもいいというか、取らないほうがいいんでしょう。でも近年はノーベル賞の時期になるとそれだけで騒ぎになるんで少々うんざりしてるご様子。ちなみに有名な小説家でも取ってない人は実は結構いて、村上春樹が好きな小説家として挙げるフィッツジェラルドもチャンドラーもカポーティも取ってないし、カフカとかカミュとかサリンジャーとかバロウズとかケルアックとかプイグとかも取ってない。ま、賞なんて巡り合わせもありますしね。逆に取った人も半分以上知らんし。
ノーベル平和賞はなんと日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が受賞するというサプライズ。平和賞には時々?な受賞もありますが(佐藤栄作とか)、これは良い平和賞。ただ一方でパレスチナのガザでは、ガザ関連団体が選ばれなかったことに不満の声が上がったとのことで、実際BBCによると国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)や支援団体も候補に上がっていたけれど、今年は議論を呼ぶ候補を避ける判断をしたらしい。
>鎌倉史ミニ追記 13人いた?
鎌倉幕府2代将軍源頼家の時代の1200年に設置されたと『吾妻鏡』に記されている十三人の合議制。実際には13人で合議した形跡がなく、頼家自身も政務に積極的に関わっていることから、近年では訴人が頼家に直訴することが禁止されただけで、頼家への取次役を13人に限定したに過ぎないとする説が有力だという話は以前書きました。しかしそもそもの話として合議制にしろ取次役にしろ本当に13人もの人が指名されたのどうかが正直どうも疑わしい。というのも3代将軍源実朝の時代の1216年4月に政所別当が5人から9人に増員されているという事実があるからです。政所別当は将軍を補佐する職務ですが、当初の5人というのは合議制(取次役)の13人から激減しています。その5人は、北条義時・北条時房・大江親広の3人が固定で、中原師俊・中原仲業・二階堂行光ら吏僚層御家人から2人が加わっていたとのことで、そこに新たに加わったのが大江広元・源仲章・源頼茂・大内惟信。ただし広元以外の3人は京と鎌倉を往復して活動する在京御家人で、政所別当就任も名誉職的なものだったようです。
では十三人の合議制のメンバーおよびその子孫はその後どうなったのか? まず文士と呼ばれる吏僚層御家人が、中原親能・大江広元・二階堂行政・三善康信の4人。そのうち広元の嫡子親広は1216年以前の政所別当の固定メンバーとなっており、広元自身も増員メンバーに入っています。また行政の次子行光も固定メンバーで、中原師俊は親能の養子、中原仲業は親能の家人とされており、三善氏のみが政所別当に含まれていません。また十三人の合議制の一般的武士メンバーが、梶原景時・八田知家・三浦義澄・和田義盛・足立遠元・比企能員・北条時政・北条義時・安達盛長の9人。このうち義時は当然ながら1216年以前の政所別当固定メンバーで、梶原・比企・和田は族滅。時政は失脚しましたが代わりに時房が入ったとも考えられます。残る4人のうち義澄と盛長は1200年のうちに死去してますが、後を継いだ三浦義村と安達景盛がその職務を継いだ形跡がありません。遠元は没年不明ですが、やはり足立氏が職務を継いだ形跡がなく、八田知家にいたっては1221年の承久の乱の時点でも存命しているにも関わらず政所別当になっていない。
以上のことから考えて、やはり十三人の合議制メンバーには疑問符が付きます。そもそもそんなものは無かったんではあるまいか? もともと13人という数字には、泰時の時代に始まった評定衆の人数に合わせて、それを頼家の時代まで遡らせたものだとする説があります。最初に任命された評定衆は11人で、そこに執権と連署を含めた13人で評定が行われたとあり、その前例として創作されたものと考えるのが妥当だと考えられます。また以前も触れた通り、最初に任命された11人の評定衆のうち三浦義村を除く10人までが文士と呼ばれる吏僚層御家人で、その陣容は当初の政所別当の顔ぶれとも類似しており、やはり一般的武士が多数を占める十三人の合議制メンバー自体が虚構だと考えたほうが良さそうです。
#11462
バラージ 2024/10/07 20:21
雑多ないろいろ
『光る君へ』で藤原伊周を演じてる三浦翔平がやたら呪詛しまくりのエラい怪演ぶりですが、史実では伊周がそこまでの執念を燃やしたのか、どうも怪しい。道長が彰子懐妊を祈願して金峯山に参詣した際に伊周・隆家兄弟が道長暗殺を企てたとの噂が流れたことは事実のようですが結局は何事もなく、あくまで噂に終わっています。一方でそのような噂が流れてることを伊周に知らせた者もいたらしく、驚いた伊周は帰宅した道長のもとを急ぎ訪れ弁明しようとしたものの、そのあまりに焦った様子を見た道長はなぜか2人が共通して好きな双六(バックギャモンみたいなやつ)をしようと言い出し、結局2人は徹夜で双六をしたとのこと。今で言う“徹マン”ですな。しかしこの話、なんで突然双六なんだかよーわからん(笑)。
>『豊臣兄弟!』出演者
池松壮亮に吉岡里帆に浜辺美波に永野芽郁! 若手演技派ばっかり集めて異様に豪華だな、おい。ちょっと観たくなっちゃうじゃないか(笑)。秀長の奥さん役が吉岡さんですが、秀長の奥さんは意外と映像作品には出てきておらず、これまでに出てきたのは大河ドラマ『おんな太閤記』と『江』だけのようです。同じ大河でも『太閤記』『秀吉』や、テレ東のリメイク版『寧々 おんな太閤記』には出てこなかったんですね。
>鎌倉史ミニ追記 主人公は僕だった
#11290にも書きましたが、『吾妻鏡』における承久の乱の描写は、幕府の実質的指導者で後鳥羽上皇から朝敵と名指しされた北条義時の影がなぜか薄く、ほとんど存在感がありません。唯一目立つエピソードが屋敷への落雷で家人が死んだことに、神意に背いたからじゃないかとびびるというカッコ悪い話ぐらい(#11291)。北条貞時による得宗専制下で編纂され北条氏・得宗家ヨイショが著しい『吾妻鏡』なら義時をもっと英雄的に描くのが当然のように思うんですが、非常に不思議です。
その疑問に答えているのが、先日紹介した『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』(藪本勝治・著、中公新書)。同書によると『吾妻鏡』における承久の乱の記述は、源氏将軍断絶後は頼朝未亡人北条政子を媒介として神仏の加護が北条泰時へと移っていく過程という物語構造を持っており、泰時を英雄的に描くことによって得宗執権政治の必然性を正当化しているとのこと。つまり『吾妻鏡』における承久の乱の主人公は英雄泰時であり、義時ではないということになり、義時が落雷にびびった話も結局それが戦場の泰時への神仏の加護につながるという展開のようです。
藪本氏の『吾妻鏡』は国文学者から見た『吾妻鏡』分析が個人的には斬新なところが多くて面白く、特にこの見解は目からウロコでした。
>鎌倉史ミニ追記 時定はどこへ消えた?
#11436でも書きましたが、勘解由小路兼仲の日記『勘仲記』の1274年10月29日条に、元軍襲来による文永の役勃発の風聞と共に、北条時頼の同母弟時定(阿蘇流の祖。後に為時と改名)とその2年前の二月騒動で討たれた時宗の庶兄時輔が九州から東上するという噂が流れ、関東武家周辺で騒動になっているという記述があるとのこと。時輔には当時生存説があったようで、その後もたびたび捕縛令が出ているというのもすでに触れた通り。一方、時定は1281年に肥前守護に任命されてますが、前記の噂から1274年の時点で九州に下っていた可能性もあると僕は書きました。ただ疑問がないわけでもありません。時宗に恨みを持つ時輔はともかく、なぜ時定が時輔といっしょに東上するという噂が立つのかよくわからない。そんな「なぜ時定?」という疑問に答えたネット論文を、他のネタを探してる時に偶然発見しました。熊谷隆之氏という若手研究者の「ふたりの為時 ─得宗専制の陰翳─」という論文です。
その論文によると、一般的には時定は1275年末の高麗出兵計画に際して肥前守護として下向した可能性が高いとされていますが、同年9月の日蓮書状に「北条六郎(時定)殿のように筑紫にや御坐なん」と記すものがあり、川添昭二氏は高麗出兵計画に先立って時定が九州に下向していた可能性があるとしているとのこと。さらに川添氏によると『吾妻鏡』での時定は1244年元旦が初見、1256年7月が終見で、12年半で40ヶ所に登場しているそうですが、その後『吾妻鏡』の記述が終わるまで7年半ものあいだ全く登場せず、他の史料を合わせても前記1274年の東上の噂まで18年も史料に姿を現さないという異常さを熊谷氏は指摘しています(加えて呼称が一貫して北条六郎で、執権経時・時頼の同母弟が無官というのも異様と指摘している)。その上で1304年5月書写の古系図『野津本北条系図』の時定の項にある「北条六郎(時定)は肥後国阿蘇郡の配所に配流された」という記述を引いて、時定は何らかの理由で配流されたとしています。
その理由として熊谷氏は、時定の『吾妻鏡』における終見である1256年7月から4か月後の11月に執権時頼が辞任して出家していることに着目し、同母兄である執権経時の子が幼少との理由で執権と嫡流を継承した時頼が、同じ論理で同母弟の時定が自らの後継となり嫡男時宗が退けられることを危ぶんで時定を肥後国に配流したとの仮説を唱えています。さらに鎌倉期成立の『入来院本平氏系図』の時定の項に「貞時の元服後に名を為時と改めた」とあることから、貞時が元服した1277年にその父の執権時宗の命令で、配流中の「時定」は「貞時」を転覆させる名だとして扶助の意味を持つ「為」を付けた「為時」に改名させられたと推理し、1281年5月の弘安の役から3ヶ月後の8月以降に為時はようやく肥前守護に抜擢されて復権したが、それは2度の元軍襲来という国家的危機にさらされてなりふり構わぬ対応を迫られた時宗の決断によるものだとしています。
なかなか面白い説ではあります。確かに時定が史料から18年もぷっつりと消え去る不可解さは上手く説明できるし、『勘仲記』に記された時輔と共に東上するという噂が流れたのも時輔同様に幕府に恨みを持っていたからだとすればよくわかる。ただ一方でそのような理不尽な理由で配流されて恨みを抱いてると思われる人物を、時宗が再度の元寇に備える要職に就けるというのはいささか納得しがたいようにも思われます。改名の強要の推理もちょっと強引なんではないかなあ。そう考えると配流の理由はもう少しちゃんとしたものだったけど、『吾妻鏡』編纂時の得宗家と阿蘇流にとって都合が悪かったんで隠蔽したということなんではないかと。また配流先が遠い九州というのもやや不自然。鎌倉で配流された人物の配流先は東国であることが多く、西国に配流される場合は京や畿内からと考えられます。あるいは時定は配流される時、すでに在京してた可能性もあるんではないでしょうか。また改名についてもむしろ時定の側が自発的に時宗・貞時に恭順の意を示したもので、そのため少し後に肥前守護に任命されたと考えたほうが自然な気がします。
>強訴追記
そういや強訴といえば頼朝が天下を取った後の1191年にも延暦寺の強訴がありました。近江守護の佐々木氏が延暦寺に貢納することになっていた千僧供養の費用徴収が遅延したため、延暦寺の法師数十人が取り立てのため佐々木氏の居館を襲撃。当主の佐々木定綱は在京して不在で、息子の定重が法師を撃退しましたが、法師に死傷者が出た上に神鏡を破壊してしまう不祥事を起こしてしまいました。延暦寺は佐々木一族の配流を要求して神輿を奉じた強訴に及ぶも、朝廷では防御のための検非違使がほとんど参入せず鎌倉武士もわずかしかいなかったため防御に失敗。悪僧は内裏に神輿を放置して退散しました。結局、定綱は薩摩国へ配流され、定重も対馬国へ配流とされますが近江国唐崎で斬首されており、事件は頼朝の完敗に終わりました。全国の武士を従えた頼朝も延暦寺には完全に屈服しており、宗教勢力との向き合い方の難しさを痛感したとの指摘もあるようです。
>最近観た歴史映画
『ボレロ 永遠の旋律』
かの名曲「ボレロ」を作曲した作曲家ラヴェルがその「ボレロ」を生み出すまでと、その後を描いたフランスの伝記映画。
うーん、期待したほどではなかったかなぁ。予告編観た時は面白そうだったんですけどね。「ボレロ」は有名ですがラヴェルのことはほとんど知らなかったんで、映画を観て、ふーんとは思ったんですが、伝記映画だから仕方がないとはいえ展開が地味で物語的な抑揚に欠ける。やっぱり音楽家や画家や小説家っていうのはその作品によって名を残してるんであって、人生自体が必ずしも波乱万丈ってわけではないんですよね。いやまあ中には人生も波乱万丈な人もいるわけだけれども。もちろんラヴェルが「ボレロ」を生み出すまでの葛藤と辛苦とか、晩年に謎の奇病(精神的なものと思われる)に冒される様子とかも描かれてるんですが、総じてドラマ性が今ひとつ。時系列も前後するので若干わかりにくく、また一部の登場人物も顔が似てる女性がいる上、主人公との関係性もわかりにくかった(ので後で調べました)。そこまで悪くはないけれど良くもない凡作でしたね。
>世界サブカルチャー史
アニメーション編の次のジャポニズム編でシーズン4は最終回。個人的にはやはり最初のアイドル編が1番面白かったかな。
>アニメ『逃げ上手の若君』
第2期制作が決定だそうです。
#11461
ろんた 2024/10/04 20:25
春陽文庫
『世界史の構造』(柄谷行人/岩波現代文庫)は読了。メモを作った方がいい気がしたんで作成中。その一方で続編(『帝国の構造』)を読み始める。前半は復習的な部分が多いのでサクサクすすむが、『王朝序曲』にかかるにはもうちょっとかかるかな。って、油断してたら春陽文庫に面白そうなのが並んでた。
・『死仮面 オリジナル版』(横溝正史)
・『盲目の目撃者』(甲賀三郎)
この二つは探偵小説なので簡単に。『死仮面』は角川文庫版もあるけど、第四回連載分が見つからず中島河太郎が補作している。その後に発見された欠落部分を差し替えたのが春陽文庫版で、今回のはその新装復刊。『盲目の目撃者』は戦前に活躍した甲賀三郎の中短編集ということで個人的にチェック。
・『裏太平記 歴史破壊小説』(半村良)
鎌倉時代末期。貨幣経済が少しずつ浸透する中、鎌倉幕府の弱体化を横目に、朝廷は諍いを抱えながらも安閑と過ごしていた。後に『徒然草』で有名になる吉田(卜部)兼好は、官位は上がらない家柄だが持ち前の知性を買われ公家の堀川家に仕えていた。ある日兼好は、風変わりな集団を率いる謎の僧・無名と出会う。無名は世の中を変える「下克上」を唱えて精力的に活動し、それはやがて歴史を一変させる奔流となってゆくが、実はその裏には兼好法師が率いる「影の軍団」の影響があったという…。伝奇ロマンの名手が描く、普通の歴史書には決して載らない、衝撃的な歴史の裏面。(e-hon要旨)
清々しいなぁ、"歴史破壊小説"って(笑)。「影の軍団」って『太平記』に出てくる烏天狗のことか? 半村良の伝奇物はなぜか読んでいないので抑えておこう。
・『地獄を嗤う日光路』(笹沢左保)
かつて行き倒れたときに助けてくれた女・お染を捜して旅を続ける、凄腕の渡世人・小仏の新三郎。長旅で痛んだ旅装束に青黒い病人の顔付き、たびたび起こる心臓発作に苦しみながら、あのとき恵んでくれた二両の小判と銀のかんざしをお染に返すこと、それだけを生きる目的に歩み続ける。道中で行き合った老人と孫娘。五人の乱暴者が村に居座り無理難題を要求するので追い出してほしいという。そして、その五人組と一緒に、お染という女がいるというのだ―「背を陽に向けた房州路」ほか四作品、新三郎の旅路を描く異色の股旅小説。(e-hon要旨)
笹沢佐保の股旅物は木枯し紋次郎シリーズが有名だけど、こちらはプロトタイプ的な短編。春陽文庫では三冊目か。いずれもハードボイルド的手法で股旅物のイメージを一新。ひょっとしたらヤクザ映画の任侠物>実録物の変化と並行してたりして。
・『天保からくり船』(山田正紀)
上野の寛永寺から出火した大火事。原因となった落雷の後に多数の雷獣が駆け回っていたという奇怪な噂が…。火事に巻き込まれた岡っ引き・茗荷谷の藤吉は、奇妙な現象に遭遇する。火事のさなか忽然と現れた鐘の中に、火から逃げ迷っていた娘が護られていたのだ…。芝神明町の裏店に住み傘張り内職で暮らす貧乏浪人・弓削重四郎にも、火事の頃から不可解な出来事が起きはじめる。なぜ重四郎にばかり事件がやって来るのか? 重四郎とは本当は何者なのか?だんだんと繋がりゆく事件の糸…。大江戸の街に仕掛けられた壮大な「からくり」とは?―傑作江戸幻想奇譚。(e-hon要旨)
(山田風太郎にこんなのあったか?)と思ったら山田正紀だった(汗)。前にもこんなことあった気がするけど、要旨を見ると面白そうなんでチェック。
乱歩生誕130年だからかなぁ。春陽堂ではほかに江戸川乱歩のコミックス化を進めています。最新刊は『双生児』(江戸川乱歩,阿部ゆたか)で6作目。美女シリーズを全作品放送してたり(BS松竹東急)、「黒蜥蜴」をドラマ化した(BS−TBS)のもそれか。そして来年は没後60年とメモリアルイヤーが続くのでした。
>『金色夜叉』(尾崎紅葉,のぞゑのぶひさ/幻冬舎)
本屋で見かけて(なんじゃこりゃ?)となって買ってしまった(汗)。「日本文学の金字塔、初の完全漫画化!」とのこと。もちろん原作は「あたみ〜の〜かいが〜ん、さんぽ〜する〜、かんいち〜おみや〜の〜、ふたり〜づれ〜」「来年の今月今夜のこの月を僕の涙できっと曇らせてみせる」「寛一さん」「ええい、放せ! 姦婦!!(ドカ)」でお馴染み(?)の戦前のベストセラー。熱海の海沿いには「お宮の松」が植わっていて(しかも二代目)、そばにはお宮を蹴りつける寛一像があり、駅前には顔出しパネル、お宮が蹴られた(?)1月17日には尾崎紅葉祭・紅葉筆塚祭が行われる。いや、だからフィクションだって(笑)。映画化も戦前には盛んにされていて、女形時代の衣笠貞之助がお宮役のものもあり、浦部粂子も演じている。しかし、今日ではどんなお話か分からなくなっちゃってるんじゃなかろうか。わたしも子供の頃にパロディ・コントを見た記憶がうっすらあるくらい(ドリフかな?)。ということで、大雑把なあらすじ。
早くに両親を亡くし孤児となった間寛一。だが亡父の知人・鴫沢隆三に引き取られ、努力の末に第一高等学校に入学。隆三の娘・宮と婚約し、東京帝国大学を目指していた。ところが、宮が銀行家の息子・富山唯継に見初められると、隆三は寛一との婚約を破棄し縁談を進める。寛一は熱海の富山別邸に滞在する宮を訪ね説得するが、父に逆らえない宮は言を左右にするばかり。寛一は憤怒と悲嘆から宮を蹴り飛ばして姿を消した。そして四年後、学業を放棄した寛一は、拝金主義の世の中と宮への復讐のため、高利貸し・鰐淵直行の手代となっていた。一方の宮は、富山と結婚はしたが、愛情を深められぬまま魂を失くしたように生きている。そんな中、寛一と偶然に再会した宮は、謝罪と真の想いを伝えるべく何度も接触を試みるが──
関テレ制作の昼ドラ枠が残っていたら、やっていそうな話。というより、これが原点か。舞台は讀賣新聞掲載時の現代(明治30年代前半)だけど、作画資料の関係からか明治の末に変更されている。尾崎紅葉の病死で未完に終わり、結末はコミックスのオリジナル。タイトルは金のせいで鬼になった寛一のことだけど、鬼になりきれてないんだよな。昔の熱海には砂浜があったのだろうか。今、サンビーチってのがあるけど、あれ人工の砂浜。戦後、あまり顧みられなくなっているのは、宮のキャラが共感を得にくくなっているからか。雅俗折衷という文体が災いして原作も読まれなくなった──と思ったら、なんと新潮文庫で刊行されていてビックリ。岩波文庫にも入っているが上巻が品切中。そして青空文庫で読める。ちなみに近年、『Weaker than a Woman(女より弱きもの)』(バーサ・M・クレーことシャーロット・メアリー・ブレイム)の翻案だと判明したとか。
#11460
バラージ 2024/09/29 13:57
学生(がくしょう)運動
前回の「南北朝への鎌倉史」をCと書いてますが、正しくはDでした。
『光る君へ』で寺社の強訴が描かれたことがSNSでちょっと話題になったようですが、興福寺別当の定澄が強訴の指導者?みたくなってました。ただ実際には寺社の上層部と衆徒は必ずしも一枚岩ではなく、立場を異にすることもあったようです。そもそも当時の権門寺社の高僧のほとんどは公卿の子弟で、身分感覚としては朝廷や公卿のほうに近く、朝廷から衆徒の行動を批判されたりする一方で衆徒からは朝廷権門に妥協しすぎだと突き上げられることもあったようで、なんだか上からも下からも責められる中間管理職みたいなつらい立場という側面もあったみたい。定澄も少し後の事件では道長から興福寺に紛争が多いのは別当の責任だと怒られたり、朝廷や道長の仏事に積極的に従事したりもしてたようです。衆徒の強訴については院政を初めた白河法皇も鴨川の洪水や双六の賽の目と並んで意のままにならないものと嘆いているのも有名な話。
また以前も書きましたが大河ドラマ『平清盛』に出てきた天台座主の明雲もなぜか延暦寺の強訴の先頭に立ったりしちゃってましたが、これもフィクション。実際の明雲は「平家の護持僧」と言われるほど一貫して親平家の人物で、延暦寺の反平氏勢力を抑える役割を果たしたとか。1177年には院近臣と延暦寺の対立から強訴となり、後白河法皇が明雲を解任して伊豆国に配流したものの護送中に近江国で大衆が明雲を奪還する白山事件が起きています。激昂した後白河は平家に延暦寺への武力攻撃を命じ、困惑した重盛・宗盛は福原の清盛に相談。上洛した清盛は後白河に翻意を促しますが失敗し、その直後に起こった鹿ヶ谷事件は近年の研究では延暦寺攻撃を潰すための清盛のでっち上げとする説も唱えられているらしい。手塚治虫の『火の鳥 乱世編』では、俊寛から平家討伐のクーデターを起こすことを相談された明雲がまだ時期ではないと反対し、それでも俊寛がクーデターを実行しようとしたことからそれを止めるために強訴を起こし、クーデターを妨害されたことに怒った後白河が明雲を流罪にするという展開でした。確か強訴を防ぐ重盛が衆徒に向かって「過激派の学生(がくしょう)どもめ」とか言って学生運動のパロディにしてた記憶あり。明雲は後白河とは時に対立しつつも、最期は後白河のいる法住寺殿に参内中に木曽義仲の攻撃で起こった法住寺合戦において流れ矢に当たり戦死しています。『火の鳥 乱世編』では自らの草庵を訪ねてきた上洛したばかりの義仲に火の鳥の在処を聞かれ、そんなものは実在しないと答えると野蛮で粗暴な義仲が怒って斬り殺すという話になってましたね。
なお弘安の役が起こった1281年にも興福寺が石清水八幡宮神人を訴えて神木を奉じて入洛する強訴が起こり、六波羅探題北方で執権探題の北条時村は六波羅の武士にこれを防がせますが、その際に武士と僧兵の戦闘が発生し僧兵が殺傷されています。幕府は僧兵を攻撃したとして武士の流罪を命じますが、時村は六波羅探題が命令した警護のための武士に罪は無いと幕府に抗議しているそうです。時村は六波羅の官僚機構の整備などにも積極的に取り組むなど有能な人物で彼の在任期が六波羅探題の転換点とのことですが、時宗死後に権力を握った平頼綱が時村を忌避したのもそのように有能で「骨のある男」時村を警戒したからだとの見解もあるようです。
>『光る君へ』後半戦の人物が出てくる映像作品
成長した、まひろ(紫式部)の娘・藤原賢子役が南沙良と発表されました。賢子もそこそこ登場した映像作品が多く、1939年の映画『紫式部』では日高梅子という9歳の女の子、1958年のテレビドラマ『女人連祷』では当時23歳の吉行和子、1962年のテレビドラマ『紫式部絵巻』では稲垣美穂子という人、2001年の映画『千年の恋 ひかる源氏物語』では前田亜季が演じています。南沙良ちゃんは最初に何で認識したかはいまいち記憶が定かじゃないんですが、最初の頃は関水渚ちゃんと上手く区別がつきませんでした。今見ると全然違うんだけど。最近はエプソンとか大和ハウスのCMで見かけることが多いかな。
道長の嫡男頼通も本役が登場。頼通は大河ドラマ『炎立つ』第1部にも弟の教通ともども登場し、奥州安倍氏の反乱についてあーでもないこーでもないと会議をしていた記憶あり。また記憶にはありませんが、間もなく本役登場となる頼通の異母弟で教通の異母兄(明子の長男)の頼宗も『炎立つ』に出てたらしい。やっぱり会議のあたりでしょうか。教通は『光る君へ』ではまだ子役ですが、そのうち本役が登場するのかな。ちなみに頼通は1957年の日活映画『月下の若武者』にも出てきたらしいんだけど、登場人物のほとんどが架空人物の時代劇映画でほんの脇役のようです。長門裕之と津川雅彦の兄弟がダブル主演だったらしいけど、日活も時代劇映画を作ってたんですね。それから頼宗は『女人連祷』にも登場したとのこと。なんでこんなマイナー人物が紫式部ドラマに?
ついでに紫式部映像作品に出てきたその他の人たちの話も。1939年の映画『紫式部』には彰子に仕えた女流歌人の1人の伊勢大輔が登場したとのこと。1962年のテレビドラマ『紫式部絵巻』には藤原公任が登場し、8代目市川中車(先代の人)が演じたそうです。また高階成章という人も出てきたらしく、誰だそれ?と思ったら賢子の夫らしい。2011年の映画『源氏物語 千年の謎』には、一条天皇(演:東儀秀樹)、藤原伊周(演:佐藤祐基)、藤原行成(演:甲本雅裕)が登場しています。あと紫式部作品じゃないけど、大河『炎立つ』第1部にイッセー尾形演じる安倍氏に好意的な貴族が出てきた記憶があって、調べたら藤原経輔という人物で、藤原隆家の息子らしい。
#11459
ろんた 2024/09/17 10:53
『新九郎、奔る!(17)』(ゆうきまさみ/小学館)
『王朝序曲』は購入したものの、待っている間に『世界史の構造』(柄谷行人/岩波現代文庫)を読み始めてしまいました。続編(『帝国の構造』)もあるので『王朝序曲』の感想はしばらくかかるかな。早めに挫折すればアレですけど(汗)。ということで、歴史マンガの話。まずはタイトル通り『新九郎、奔る!(17)』。
ようやく今川家のお家騒動が決着。龍王丸の御座所である丸子に戦力を集中する新五郎派に対し、新九郎はいち早く手勢を率いて舟で駿府を目指す。さらに新九郎の調略を受けた新五郎派では寝返りが相次ぎ、新九郎が着いた時には大勢が決していた。新五郎は切腹、孫五郎(新五郎の甥、養子)は討ち死に。戦後処理のごたつきも「伊都様降臨」で終結。新九郎は富士下方300貫、さらに堀越殿様の奉公衆として伊豆に300貫の所領を賜る。こうして、ぬいに「どちら様ですか」とからかわれながらも京に帰るが、こっちはこっちで難問山積。政所の要だった新右衛門さんが亡くなる。六角征伐で近江に行ったっきりの御所様は、二回も倒れた(アルコール依存症?)うえに生まれたのは女児、大御所様や大御台様の諫言にも耳を貸さない。伊勢守や右京大夫は、清晃(出家した堀越殿様の息子)の次期将軍擁立にゴソゴソ動く。帰京の挨拶に行った新九郎も御所様に会えず門前払い。「もう自分にはできることがない」と落ち込むが、御所様とのある約束を思い出し……。
敵の主力を尻目に本拠地を突く新九郎、桶狭間の信長みたい。ただ、おいしいところは伊都様にとられてしまう(笑)。新九郎がもらった富士下方ってのは、現在の地名でいうと原(沼津市)、吉原(富士市)、今泉(富士市)といったところ。当時は葦の原っぱ=低湿地帯で実質30貫ほど。興国寺城にはまだ入らない。堀越殿様の奉公衆というのは、清晃の将軍就任に努力しろということ。御所様に会えないのは、新しい取り巻きの結城勘解由・七郎兄弟に排除されたのかな? 次巻では足利義尚死去、伊勢守と右京大夫が大御台様に逆転サヨナラ満塁ホームランを食らうのか。その間、新九郎は興国寺城入りして富士下方の開拓に従事? ああ、六角征伐には忍者が出てくるかな?(<逃げ若史観(笑))
>『天幕のジャードゥーガル(4)』(トマトスープ/秋田書店)
金国遠征後、病に倒れたオゴタイ・カーンの身代わりのように末弟・トルイが亡くなる。だがその背後では、錬丹術に通じたボラクチン(オゴタイの第一妃=大カトゥン)が糸を引いていた。ドレゲネ(オゴタイの第六妃)をそそのかしてオゴタイに死なない程度に毒を盛り、身代わりの儀式後にトルイを毒殺、さらに寡婦となったソルコクタニ(トルイの第一妃)をグユク(オゴタイとドレゲネの子)と娶せ、トルイ家を吸収しようと謀る。ドレゲネはグユクのウルスに事実上の追放。だが、ファーティマの「もうあなたを守る人はいません」「考えるのをやめて屈するならご勝手に。でも私は考え続けますから」という言葉で絶望から救われたソルコクタニは、再婚を拒否し四人の息子を養育すべくトルイのウルスへ去る。さらにドレゲネも追放を拒否、真相に気づいていることをほのめかし、ファーティマとともにボラクチンに接近し第二妃となる。かくしてオゴタイ・カーンの下、安定を取り戻し繁栄に向かうモンゴル帝国だが、思わぬ火種がくすぶり始め……。
大きな歴史の流れでは、この後オゴタイとチャガタイ(チンギス・ハーンの第二子)が相次いで亡くなり、ドレゲネとファーティマがグユクを担いでカンに据えるんだけど(カーンは自称せず)、まだ十年ほどあるのでオゴタイの施政と火種にガソリンぶっかける二人を虚実ないまぜにして描くのか? ボラクチンをはじめオゴタイの后を次々に亡き者にしていったりして。しかし本編のグユクは対人恐怖症レベルの人見知りなんだが……。ああ作中、「1本ではたやすく折れる矢も5本束ねればけして折れない」という話が出てくる(出典『元朝秘史』)。どこの国でも似たような話があるんだなぁ。っていうか、こっちが元ネタだったりして。
>『黄金バット(3)』(神楽坂淳(脚本),山根和俊(漫画),黄金バット企画・ADK(原作)/秋田書店)
完結編。打ち切りかなぁ?
邪神ナゾーの眷属に堕ちた暗闇バットは黄金バットの敵ではなく、ラスプーチンはナゾーの力を失い、その後は歴史通り。時は移り大正12年、帝都。バットの眷属マリーによって、人間の自由を重んじるバットと人間を管理し善導すべしというナゾーの対立がアトランティス滅亡につながったことが明かされる。そして迎えた9月1日、再び暗闇バットが凌雲閣に姿を現すや、帝都を未曽有の大災害が襲う。同じ頃、ワシントン条約を無視して建造された「東亜」艦橋にナゾーの眷属・星船美月の姿があった……。
ナゾーが管理派、バットが自由意志派でアトランティスから争っていたことになったんで、暗闇バットの居場所がなくなっちゃった(笑)。もっとナゾーが大日本帝国を侵食していく話になると思ったんだけどなぁ。
>『逃げ上手の若君(17)』(松井優征/集英社)
青野原の戦い決着。土岐頼遠は、のび〜る君と化した北畠顕家の射撃+逃若党の攻撃で川に転落、生死不明。この辺、『太平記』と違うけど、顔面の傷は一致。壊滅状態の足利軍でただ一人元気な桃井直常は亜也子の年齢を知り戦意喪失(笑)。しかし、不破関に進むと高師直・師泰、佐々木道誉が待ち受けていた……というのは、逃若党と吹雪(高師冬)の対決を演出すると同時に、新田義貞と合流しない理由をわかりやすくするため? 確か、背水の陣を敷いているのを察知して転進したんじゃなかったか。そしてボケまくる新田義貞に笑う。時行が重傷を負うのは色々と伏線?(三途の川を水上バイクで走り回る諏訪頼重がゲスト出演) 夏(天狗の中身)の高師直への帰順は玄蕃に阻止されるが、偽情報による謀略は失敗。奈良に突入した顕家軍を高師直・師泰+桃井直常が般若坂で待ち受ける。吉野からの援軍(極大納言軍=きょくだい・なごん・ぐん)が敗因になるんだろうな。そして雫のジョブチェンジ(?)。これも色々と伏線か? 完璧執事・高師直の女癖の悪さが一コマだけ出てくるのは、塩谷判官事件の伏線? 直義と高師直との亀裂も描かれて、この巻は伏線だらけ。
>「磯部磯兵衛物語 〜浮世はつらいよ〜」(WOWOWプライム)
「DORONJO/ドロンジョ」の一挙放送をWOWOWライブで見て、鬱になる。あのアニメのスピンオフなのに、中身が「ジョーカー」なんだよぉ(笑)。そしたら翌日にはWOWOWプライム「磯部磯兵衛物語 〜浮世はつらいよ〜」の一挙放送(放送済み9話分)があってこちらも見てしまう。ジャンプ本誌に掲載されていたマンガのドラマ化で、脱力系の時代劇もどき。磯部磯兵衛(杉野遥亮)や中島襄(鈴木福)ら、立派な武士になるために武士道学校に通う若者たちのグダグダな日常を描いてます。一応、平賀源内とか宮本武蔵(幽霊)とか出てるけど、時代劇もどきに変わりなし。OPの変なダンスが癖になる。最終10話の再放送にはまだ間に合う。
#11458
バラージ 2024/09/12 01:47
Oh! 文字化け
惟康の同母妹は[才侖](手偏に侖)子女王です。
#11457
バラージ 2024/09/11 21:28
南北朝への鎌倉史C 貞時の時代その2
前回の続き。前回「天皇家の分裂など朝廷の動きについては(中略)基本的に省略」と書きましたが、やっぱり天皇家の動きも最低限触れなければわかりにくいところがあるんで、ところどころでちょっとだけ触れます。
1284年の時宗死後に政権を主導した得宗執権貞時の外戚・安達泰盛の弘安徳政が、諸方面の反発や貞時の乳母夫の内管領・平頼綱との対立などで1年も経たぬうちに行き詰まる中、翌1285年11月17日に起こったのが霜月騒動です(弘安合戦、安達泰盛の乱、秋田城介の乱などとも)。『霜月騒動覚聞書(安達泰盛乱聞書)』によると、その日、巳刻(午前10時頃)まで自邸にいて世上の不穏な動きを察知した泰盛は、午刻(正午頃)に鎌倉松谷の別邸から塔ノ辻の出仕用の屋形に向かいましたが、そこを得宗家の軍勢が襲撃。鎌倉末期成立の『鎌倉年代記』によると、合戦の中で将軍源惟康の御所にまで火の手がおよび全焼するなどしましたが、午後4時頃には合戦が終結し、泰盛や嫡子宗景、泰盛の弟の長景・時景をはじめとする安達一族の多くと泰盛派の御家人合わせて500人余が討死または自害したとのこと。安達氏の守護国である上野国・武蔵国をはじめ、遠江国・常陸国・信濃国などでも泰盛の弟重景や甥の宗顕など泰盛派が次々に討たれており、九州でも少弐氏の惣領をめぐる確執と絡んで少弐景資が蒙古再襲来に備えて九州に下向していた泰盛の次男盛宗を担ぎ、少弐氏惣領の兄経資に討たれる岩門合戦が起こっています。これほど広範な地域で一斉に大規模な討伐が行われたのは、以前から秘密裡に安達氏討滅の計画が練られていたためと推測されているようです。
南北朝期成立の『保暦間記』によると、泰盛と頼綱は日頃から仲が悪く、貞時に対してお互いを讒言していたが、そこへ泰盛の嫡男で秋田城介の宗景(泰盛は時宗の死に伴い出家して公職を退いていた)が驕りの余り「曽祖父景盛は頼朝公の落胤だった」と称して源氏に改姓したため、頼綱はそれを捉えて宗景が謀反を起こして将軍になろうと企てて源氏に改姓したと貞時に訴えたと記しています。どこまで事実かはわかりませんが、少なくとも頼綱が貞時の承認のもとに軍勢を動かしたことは間違いないでしょう。また泰盛はもともと将軍とのつながりが強く、宗尊・惟康父子にも親しく仕えた他、実朝未亡人の西八条禅尼も1272年に実朝の菩提寺である照心院に宛てた置文に、寺の諸問題が起きた時には実朝に志し深かった景盛の孫である泰盛を頼るようにと記しているとのこと。さらに『北条貞時寄進状』には泰盛が源氏将軍に伝えられる髭切太刀を京都のある霊社から探し出して法華堂に納めていたが、霜月騒動で行方不明になった後に探し出されて貞時によって赤字の錦袋に包まれ再び法華堂に奉納されたと書かれているそうです。このような泰盛の将軍家寄りの姿勢が頼綱はもちろん、貞時にも警戒されたという可能性はあるかもしれません。
なお霜月騒動については一般的に泰盛に代表される御家人勢力と頼綱に代表される御内人勢力の争いとされますが、頼綱方にも没落して御内人となった零細御家人がかなり多く、あくまで得宗家側近同士の権力争いとする見方もあるようです。実際、いかに得宗被官とはいえ御内人の兵力だけでここまでの一方的な討滅ができるとは考えにくい。頼綱が侍所所司として幕府の軍事動員権を握っていたことからこれほど大規模な軍勢動員ができたんでしょう。北条氏庶流一門も連署の極楽寺流北条業時(普恩寺流祖)をはじめとしていずれも霜月騒動における動きは不明で、貞時の大叔父で肥前守護の時定(為時。阿蘇流祖)の岩門合戦における動きもまた不明ですが、戦後も彼らの立場に特に変わりがないため少なくとも安達氏には味方せず頼綱方(というか得宗家)についたか中立もしくは日和見の態度を取っていたものと思われます。唯一、泰盛の娘婿の金沢流北条顕時(実時の嫡男)だけが下総国に隠棲して出家しました。
こうして泰盛の執政は時宗の死からわずか1年半あまりという短さで終わりを告げましたが、頼綱滅亡後に安達氏が復権していることから族滅まではしなかったことがわかります。これは当時の慣例として女性と幼児は命を助けられたということもあるでしょうが、貞時の母の覚山尼が安達一族(泰盛の末妹で養女)だったからというのも大きかったものと思われます。覚山尼は安達氏の女子供を積極的に匿ったと考えられ、頼綱も自らの権力の源泉である貞時の生母には手出しができなかったでしょう。また泰盛の庶長兄の頼景も二月騒動ですでに失脚していたため連座を免れて命は助かっているとのこと。なお頼綱は12月に出家しています。
泰盛に代わって権力を握った頼綱ですが、権力者が変わっても幕府が直面している問題が変わるわけではなく、時宗政権時代の政策を引き継ぎながら泰盛の急進的な弘安徳政とは異なる路線を取り、状況に対処する微温的な改革を行っていきます。ただし御家人ではなく御内人である頼綱は評定衆・引付衆にはなれず他の御内人も送り込めないため、より一層寄合衆に権力を集中させたようで評定衆・引付衆の形骸化は加速していきます。
そんな中、1287年6月に頼綱は幕府の使者を上洛させて朝廷に申し入れ、将軍源惟康を頼朝以来の右大将に任官させます(実朝はさらに上の左大将に任官してますが後に殺害されたため凶例とされたのだと思われます)。同月、影の薄かった連署の業時が死去。後任として六波羅探題北方の政村流北条時村が8月14日に東下しますが、時村の鎌倉到着が遅れたことを理由として19日に大仏流北条宣時(朝直の子)が連署に就任してしまうという不可解な人事が行われています。時村の後任の北方として貞時の従兄の兼時(時宗の異母弟宗頼の嫡男)が南方から転任してることから、時村を京から引き離し六波羅探題を得宗家の手中に収めることが目的だったのではないかとする推測もあるようで、実際に兼時の北方就任後から六波羅探題による朝廷政治への介入が行われるようになっていくとのこと(南方は1年ほど空席の後に佐介流北条盛房〈時国の従兄弟〉が就任)。また時村は1274年の時宗死去の際にも鎌倉へ下ろうとして三河国で御内人に制止され京に戻されており、頼綱から警戒されていたとする見解もあります。ただし時村も12月には連署に次ぐ一番引付頭人に就任しており、1289年には寄合衆にもなっているので、頼綱もそれなりに時村には気を使ったものとも思われます。
9月には再び幕府の使者が上洛し、惟康への親王宣下を要請。わずか3ヶ月の間に源氏将軍路線が放棄されて20年ぶりに親王将軍路線に戻されることとなり、ここで初めて惟康親王となります。俗人の孫王(天皇の孫)が親王宣下されるのは史上初めてとのこと。これについては2年後の惟康の京都送還の下準備(送還後の惟康の身分を保障するため)とする説、王朝権威の推戴による惟康の親王宣下・貞時の公卿化・頼綱一族の昇進といった王朝身分における玉突き的な地位上昇を目指したとする説などがあるようです。
10月には同じ使者が後宇多天皇の譲位を申し入れ、伏見天皇が践祚。後宇多の父亀山上皇の院政が停止され、伏見の父後深草上皇の院政が始まります。後深草の持明院統と亀山の大覚寺統の争いの起源は、1259年に後嵯峨上皇が息子の後深草天皇からその弟で寵愛する亀山天皇へと譲位させたことに始まります。1268年には亀山の皇子世仁親王(後宇多天皇)を皇太子としますが、後嵯峨法皇は1272年に死去した際、自らが幕府に選定されて即位した経緯もあってか幕府に配慮し、後継の治天の指名を執権時宗の幕府に委ねる遺言を残しました。幕府が皇位継承に介入したのは反幕的な天皇や治天の出現を防ぐためで、そのような危険性がない以上、後嵯峨の遺言にはかえって困惑し、後嵯峨の皇后で後深草・亀山の母の大宮院(西園寺[女吉]子)に後嵯峨の遺志を問うたところ、亀山と答えたため次の治天が亀山に決しました。亀山は1274年に後宇多に譲位して院政を始めますが、治天となった時に即座に譲位しなかったのは後宇多にまだ子がなく、後宇多が天皇になると皇太子の席が空いて後深草の皇子熙仁親王(伏見天皇)が皇太子となることを危惧したからだとの指摘があります。はたして後宇多の即位と亀山院政の成立を見て落胆した後深草が翌1275年に上皇号の返上と出家の意向を示したところ、後深草寄りだった関東申次の西園寺実兼が時宗に連絡し、当時蒙古襲来下で朝廷にも融和と挙国一致を求めた時宗の要請で熙仁親王の立太子が実現して、はからずも亀山の危惧は的中することになります。以後、その状況のまま10年の時が過ぎますが、頼綱専権の時代となってついに伏見の即位と後深草院政が実現することになりました。さらに2年後の1289年4月には伏見の皇子胤仁親王(後伏見天皇)がわずか数え2歳で立太子されて、治天・天皇・皇太子全てが持明院統となり、今度は亀山が絶望して9月に出家してしまいます。幕府は基本的に両統の皇位継承争いに巻き込まれることを好まず、これ以前も以後も大覚寺統が皇位・治天の時には持明院統を皇太子に、持明院統が皇位・治天の時には大覚寺統を皇太子に指名するという、中立的というか当たり障りのない無難な対応に終始していますが、この頼綱専制期にのみ持明院統に皇位・治天・皇太子を独占させるという偏った対応をしています。これは泰盛の弘安徳政と連動して京で朝廷内改革・徳政を行うなど泰盛と親密だった亀山を頼綱が危険視したことが原因とする説が有力。
そして同月には惟康親王も将軍を解任されて京へ送還されています。鎌倉中後期の日記文学とされる『とはずがたり』や南北朝期成立の『増鏡』によると、将軍御所に小舎人という身分の低い武士が土足で踏み込み、惟康は粗末な網代の御輿に逆さまに乗せられたとあり、これは罪人を護送する作法だとのこと。惟康が輿の中ですすり泣いて鼻をかむ音が聞こえ、人々が「将軍都へ流され給う」と噂したと記されています。ただし『とはずがたり』には文学的脚色、もっと言えば物語としての虚構が含まれているとの指摘や、そもそも著者とされる後深草院二条が他の同時代史料にほとんど現れないことから実在を疑問視する見方もあるみたい。『増鏡』についても『とはずがたり』からの引用が多いとのことで、これらがどこまで事実かについては慎重に考える必要がありそうです。『鎌倉年代記』には9月14日に惟康が上洛したとしか記されておらず、南北朝末期成立の『鎌倉大日記』には惟康が網代輿に乗せられたこと、人々が「親王洛陽に流さる」と言ったこと、惟康が嵯峨の辺で26歳で出家した(12月のことらしい)ことが記されています。惟康の将軍解任と京送還の理由は不明ですが、惟康の同母妹掄子女王と異母妹瑞子女王は後宇多の後宮に入っており、惟康も大覚寺統に近い立場にあったことから、持明院統の治天・天皇への交代や立太子と同様の理由で行われたとする説があります。翌10月には惟康に代わって後深草の皇子の久明親王が将軍に就任し鎌倉に下っており、持明院統は治天・天皇・皇太子に加えて将軍をも独占することになりますが、その全ては鎌倉で恐怖政治を布く頼綱の意向で行われたと考えられているようです。ただし翌1290年に宮中に乱入した武士の浅原為頼が伏見天皇殺害に失敗して自害した事件において亀山法皇が黒幕と疑われた際には、伏見が強く処分を主張したにも関わらず、亀山が幕府に事件には関係していないとする起請文を提出し、また宿願を果たして出家した後深草法皇も事を荒立てることを好まなかったため幕府も不問に付しており、頼綱も大覚寺統をそれ以上は追いつめぬように考えていたものとも思われます。なお鎌倉生まれ鎌倉育ちで初めて京に足を踏み入れた惟康のその後についてはほとんど不明で、もはや幕末と言ってもいい1326年に63歳で死去しています。歴代鎌倉将軍では最も長命でした。惟康送還後の宗尊親王流で中心になったのは異母妹の瑞子女王なんですが、それはまた別の話。
1291年に頼綱は九州の訴訟および京における寺社・公卿の訴訟の迅速化を奉行人と五方引付に指示するとともに、訴訟が遅延した場合には御内人の飯沼助宗(または資宗。頼綱の次男)、大瀬惟忠、長崎光綱(頼綱の弟・甥・従兄弟などの説あり)、工藤杲禅、平宗綱(頼綱の嫡男)に訴える事を認める追加法が出されています。これは弘安徳政でも問題となった訴訟の遅延に対応する政策でしたが、5人全てが御内人で、しかもそのうち3人が頼綱の親族であり、また通常とは異なる特別ルートで対応する方法は賄賂などによる不公平な裁定など腐敗の温床になる可能性があったことが指摘されています。これについては通常の方法では北条氏庶流を含む御家人の上に立てない御内人の権力を強化するための方策でもありました。なお頼綱の次男助宗が5人の筆頭で、嫡男の宗綱が末席となってますが、助宗は新たな将軍として久明親王を迎えるために上洛し、その際に朝廷から検非違使に任じられており、さらには安房守にもなっているとのこと。御内人が国司となるのは異例中の異例で、頼綱の権勢のほどが伺えます。宗綱は父頼綱の出家後に侍所所司となってますが官位は助宗のほうが上となり、自分が廃嫡されるのではないかという危機感を抱いたことが後の頼綱滅亡の際における宗綱の裏切りの伏線になったとの推測もあるみたい。なお、この頃鎌倉に下っていた後深草院二条が頼綱夫妻や助宗と交流を持ったことを『とはずがたり』に書いているとのこと。
一方、地方に目を転じると、九州では肥前守護の時定(為時)が1289年に養子の定宗(時宗異母弟の桜田時厳の子)に家督と肥前守護を譲って隠居し、翌1290年に死去。また1275年に異国征討のため九州に下向していた金沢流北条実政(実時の子で顕時の弟)が1288年以降に長門・周防両国守護に就任しています。なお1276年に死去した父実時が生前に実政に与えた置文は著名で、九州下向に際して与えられたものと推測されているとのこと。さらに1293年1月には六波羅探題北方の兼時が鎌倉に帰還し、3月に後任として赤橋流北条久時(義宗の子)が上洛。久時は将軍久明親王の偏諱を受けたとされますが、久明将軍就任の前年である1288年には従五位下右馬助に任官しているため、おそらくその時点で元服しており、当初は別の名を名乗った上での改名だったと思われます。また同じく3月には鎌倉に帰還したばかりの兼時が名越流北条時家(時章の孫)とともに今度は九州に下向。前年に元より外交使節が来訪し、元軍再襲来の危険が高まったためで、これが鎮西探題の始まりとされています。なお前記の通り、兼時の六波羅探題時代には兼時随従の御内人による朝廷政治への介入が著しく、頼綱の意向によるものだと考えられますが、あまりの介入ぶりに伏見天皇もたまりかねたのか幕府に苦情を言い立て、幕府も1290年頃には得宗被官に鎌倉帰還を命じているとのこと。おそらくこれは頼綱ではなく貞時の命によるものなのではないでしょうか。貞時も前年の1289年には父時宗が執権に就任したのと同じ18歳に達しており、政務に関わり始めたものと思われます。こうして頼綱の専制にも陰りが見え始めることになります。
そして1293年4月13日。鎌倉をマグニチュード7とも8とも推定される大地震が襲います。当時鎌倉に滞在して幕府護持僧となっていた醍醐寺僧・親玄の『親玄僧正日記』によると発生時刻は卯刻(午前6時頃)。一方で『鎌倉年代記裏書』では寅刻(午前4時頃)となっており、『鎌倉大日記』では12日のこととされているようです(12日深夜と解釈したか)。『親玄僧正日記』には、建物がことごとく倒壊して死者は何千人か数え切れない。建長寺も炎上し、ほぼ全焼したと記されており、また『鎌倉年代記裏書』には、あちこちで山崩れが起き人家が多数倒壊。大慈寺は土砂崩れで埋まり、寿福寺・円覚寺は倒壊・炎上。その他倒壊した建物は数え切れず、死者は2万3024人にのぼるとあるとのことで、甚大な被害を出した鎌倉期最大の大震災だったようです。『親玄僧正日記』によると以後も21日頃まで断続的に余震が続く状況だったとのことで、特に21日には一日に6回も地震が起こったとあります。
そのような大混乱が続いていた22日に、専横を極めた頼綱が貞時に滅ぼされる平禅門の乱(平頼綱の乱とも)が起こりました。『親玄僧正日記』によると寅刻(午前4時頃)に討手の武蔵七郎らが頼綱邸に押し寄せ、火をかけて合戦に及び、頼綱と次男飯沼助宗は自害。頼綱の別邸も複数放火されて家中の93人が死亡しています。なお貞時の娘2人も死んだとあり、頼綱の別邸で養育されていたのかもしれません。また合戦の前に嫡男の宗綱が貞時のもとに参上し、自分は父とは「違逆」なのでご不審を蒙りたくないと種々述べたため、御内人の安藤重綱が尋問し、その後は宇都宮入道(景綱か?)に預けられたとのことで、『鎌倉年代記』では宗綱は死を免れて佐渡国へ配流されたとあります。一方で『保暦間記』には、頼綱が助宗を将軍にしようとしたが宗綱は忠の者だったため父の悪行を嘆いて貞時に密告したため頼綱父子は討たれた。宗綱はいったん佐渡国へ流されたものの、後に召還されて内管領となったが、後に再び上野国に配流となったとあります。しかしこれでは謀議を密告した宗綱がなんで流罪になるのか話の筋が通らない。助宗を将軍にするというのも身分の低さや血筋を考えれば無茶もいいところで、そのためこれまた事実かどうか怪しいと思われます。ただし貞時が家人の頼綱を誅殺するにしても何らかの理由というか大義名分は必要なはずで、あるいはこのような謀議があったと捏造された可能性はあるかもしれません。なお頼綱滅亡の知らせを聞いた公家の正親町三条実躬は日記『実躬卿記』に「城入道(安達泰盛)誅せられし後、彼の仁(頼綱)一向執政、諸人恐懼の外、他事なく候」「あまりに驕り過ぎの故か」と記しているとのこと。
霜月騒動に比べれば平禅門の乱ははるかに小規模な合戦に終わりました。頼綱と運命を共にしたのはごく狭い一族のみで、嫡男の宗綱の他に一族の長崎光綱や五方引付の上位とされた工藤杲禅らも乱後引き続き貞時に仕えており、頼綱に同調や義理立てなどはしなかったことがわかります。宗綱を尋問した安藤重綱も前記の通り御内人で、頼綱は御内人すらまとめきれていませんでした。それは御内人にとって仕えるべき主君は得宗貞時であり、いかに強い権力を握ろうと主君ではない頼綱に忠誠心など持たなかったからでしょう。そう考えると頼綱の権力基盤は実は極めて不安定で弱体だったのであり、累卵の上に乗っかったような危うい政権だったとも言え、だからこそ極端に強権的な恐怖政治を布いたのだと思われます。ただその一方で、わずか1年半で終わった泰盛主導政治に対して頼綱の専権が7年半も続いたのも事実。その間、北条一門を含む御家人からも他の御内人からも頼綱打倒の動きは生まれませんでした。これは得宗専制が確立したため、得宗貞時を抱え込んだ頼綱を討とうとすると得宗に対する反逆と称されてしまい、独力では到底対抗できなかったからなんではないかと思われます。だからこそ得宗である貞時自身が立つまで頼綱打倒の動きは起こらなかったのだと考えれば納得がいきます。また貞時が頼綱を討つ決意をしたのは、大地震が直接的なきっかけであることは間違いないでしょうが、より根本的にはやはり頼綱のあまりの専権を危険視したからだと思われます。すでにそれ以前から、親裁を志向する貞時とそれを押し止めたい頼綱の権力の引っ張り合いが静かに始まっていたんではないでしょうか。
こうして外戚と乳母夫の政治の時代は終わり、ようやく貞時自身による得宗専制の時代が始まります。てなわけでまた次回。
>ドラマ『三国志 秘密の皇帝』
いよいよ明日深夜0時25分からNHK‐BSで中国ドラマ『三国志 Secret of Three Kingdoms』の再編集吹替版『三国志 秘密の皇帝』の放送が開始されます。僕は字幕版で観ちゃったし、わざわざもう1回観ようとまでは思わないけど(録画をBlu-rayに落としたし)、まあ興味があったらぜひ。献帝影武者ものだから史実準拠ではもちろんないし、ブロマンス風味も野郎には受け付けにくいけど、マニアックな人選の登場人物や美しき演技派俳優たちなどで十分楽しめます。
>『光る君へ』新出演者
道長の次女藤原妍子役が現在フジテレビドラマ『ビリオン×スクール』に出演中の倉沢杏菜ちゃんになるというニュースが。おお、NHK、目が早いな、と思ったら、そういや僕は観てなかったけど倉沢さんはNHKドラマ『VRおじさんの初恋』に出てたんだった。NHKは自分とこのドラマに出た俳優をその後も優遇する癖があるからなあ。
あと、三宅香帆さんのネット連載でも紹介されてた『源氏物語』の熱狂的ファンで『更級日記』作者の「菅原孝標の娘」(ドラマでの役名は「ちぐさ」)も登場するらしい。紫式部より後の時代の人物のはずですが、どういう登場になるのかな?
#11456
バラージ 2024/09/06 22:52
ありゃ
『光る君へ』、大江匡衡が出てこないとか書いたら、どうやら次回に出てくるようで。また武士の源満仲も出てこないと書いた途端に、同じ武士の平維衡が名前だけ出てきちゃいましたね。平清盛の御先祖様で、『風と雲と虹と』に出てきた平貞盛の息子ってことでSNSでは盛り上がってたみたい。まぁ、そんなネタで盛り上がるのはマニアだけだろうけど(笑)。SNSが盛り上がったといえば、今回は興福寺の強訴が出てきたってことで『平清盛』以来の強訴だと盛り上がったらしい。みんなそんなに強訴に興味があるのか?
>鎌倉史ミニ追記 祟りじゃあ、後鳥羽上皇のたぁ〜たりじゃあ
承久の乱で隠岐国に島流しとなった後鳥羽上皇は1239年2月に無念の思いを抱きながら死去しましたが、当時の世上は後鳥羽の怨霊の祟りをひどく恐れたようです。『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』(藪本勝治、中公新書)によると、公家の平経高の日記『平戸記』には、後鳥羽の死と同年の12月に三浦義村、翌1240年1月に北条時房が続けざまに病死した際、後鳥羽の怨霊によるものとの噂が京で流れたと書かれているとのこと。また1242年6月15日に執権北条泰時が病死した際にも、6月15日が承久の乱において上皇軍を討ち破った泰時が入京した日だったため、やはり後鳥羽の怨霊の祟りだと見なされたようです。公家の広橋経光の日記『経光卿記抄』によると、泰時は平清盛のごとく高熱で苦しみながら死んだとのこと。
また『吾妻鏡』には、宝治合戦直前の1247年4月25日に鶴岡八幡宮の北西の山麓に後鳥羽上皇の怨霊を慰撫するための寺社を創建したという記事が書かれているそうですが、南北朝から室町期成立の『神明鏡』には前年の寛元の政変(宮騒動)が後鳥羽上皇の怨霊の仕業であることを恐れて祀ったものだとあり、また同じ頃に成立した『皇代暦』には将軍九条頼嗣の妻で執権北条時頼の妹である檜皮姫の発病について託宣があり後鳥羽上皇を祀ったものだとあるそうです。さらに『吾妻鏡』が成立した13世紀末から14世紀初めの頃には後鳥羽上皇は水無瀬の御影堂に祀られていたそうですが、依然として盛んに託宣が下り、祟りを成し続けていたとのことで……。あな、恐ろしや。ひぇー。
>ちょっとだけ歴史関連映画
『居眠り磐音』
佐伯泰英の同名時代小説シリーズの2019年の映画化。原作は未読。これ以前にNHKで『陽炎の辻 居眠り磐音』のタイトルで連ドラ化され、2007年から2017年にかけて3シーズン&単発ドラマ完結編まで作られる人気シリーズとなりました。『陽炎の辻』の主演は山本耕史でしたが、映画の主演は松坂桃李でテレビ版とは別の新たに製作された作品です。他にはドラマの中越典子が映画では木村文乃、小松政夫が中村梅雀、渡辺いっけいが谷原章介、近藤正臣が佐戸井けん太、笛木優子が芳根京子、榎木孝明が佐々木蔵之介に変身?しています。『陽炎の辻』は連ドラ時に時々観てて、単発完結編も観たんですがなかなか面白かった。それだけに劇場公開時には、連ドラ終わったばっかなのにまた映画化するの?とあまり気乗りがせず観に行かなかったんですよね。録画で観た結果としては、まあまあの出来といったところ。悪くはないんだけど、やっぱり連ドラのほうが出来が良かった。シリーズの最序盤を映画化してるようで、僕は連ドラはわりと後半になってから観たんで知らない話でしたが、映画としては何か物足りない。主人公がなぜ江戸に出てきたかというプロローグ部分に映画の前半を使ってて映画全体に占める時間としては長すぎるし、逆にそのエピソードを描くにはダイジェストっぽくて短すぎる。後半も江戸の街を舞台とした時代劇で、スケールの大きな話でもないからあまり映画化には向いてない原作だったんでは? 長大な作品でなおかつ1冊ごとに完結する小説っぽいから、1話完結のテレビ連ドラが合ってたんじゃないかなあ。悪くはないけど……という程度の映画でした。歴史ネタとしては田沼意次役で西村まさ彦が友情出演。原作やドラマでは田沼は悪役まわりのようですが、映画では出番僅少な顔見せだけのためか特に悪役ではありませんでしたね。
#11455
バラージ 2024/08/30 22:16
またも激動の韓国現代史映画
『ソウルの春』という韓国映画を観ました。地元には来ないかと思ってたら、ちゃんと全国公開日に公開されてちょっとびっくり(笑)。
後に大統領となる軍人の全斗煥(チョン・ドゥファン)が1979年12月12日に起こした12.12軍事反乱(粛軍クーデター)を描いた実話ものの社会派ポリティカル・サスペンスで、実話をもとにフィクションも交えており、登場人物は全て実際の名前とは変えてあるとのこと。10月26日に独裁者・朴正熙(パク・チョンヒ)大統領が暗殺され、合同捜査本部長となった保安司令官で朴正熙の子飼いの全斗煥(映画ではチョン・ドゥグァン)と、全斗煥らの違法捜査を苦々しく思う陸軍参謀総長で戒厳司令官の鄭昇和(チョン・スンファ。映画ではチョン・サンホ)の対立、全斗煥および同期の盧泰愚(ノ・テウ。映画ではノ・テゴン)をはじめとする韓国軍内部の私的組織ハナ会(フェ)による12月12日の鄭昇和の拉致連行、そしてそれを知って劣勢ながらも反乱軍を鎮圧しようと奔走する首都警備司令官の張泰玩(チャン・テワン。映画ではイ・テシン)と全斗煥らハナ会グループによる兵力動員合戦と政治的駆け引きによる9時間の攻防が圧倒的サスペンスフルで描かれていきます。
全斗煥というと僕が最初に認識した韓国の大統領ですが(当時は日本語読みで「ぜんとかん」だった)、朴正熙暗殺と翌1980年の光州事件の間に位置するこの事件については不勉強なことにほとんど知りませんでした。朴正熙が殺された後、直線的に全斗煥が大統領になったと思い込んでたんですが、その間に崔圭夏(チェ・ギュハ。映画ではチェ・ハンギュ)っていう政治家が8か月だけ大統領になってたんですね。朴正熙の暗殺によって民主化の兆しが見え、期待とともに1968年チェコスロバキアのプラハの春を文字って「ソウルの春」と呼ばれたそうですが、プラハの春がソ連の軍事侵攻・チェコ事件でつぶされたように、ソウルの春もこの12.12軍事反乱、そして翌年の光州事件でつぶされてしまうのでした。
映画は実話系社会派でありながらエンタメ娯楽映画としてもよく出来ていて面白いことは面白いんですが、実話ものの宿命とはいえ、その後の歴史を知ってると最後に悪が勝つことがわかっちゃってるからなあ。そこが娯楽サスペンスとしては純粋なハラハラ感の邪魔になっているのもまた事実。史実だから仕方がないとはいえ、スカッとしないどんよりとした気分で終わってしまうのがどうも。よくあるように最後に登場人物たちのその後を字幕説明するシーンがあるかと思いきや、そういうのも残念ながらありませんでした。まあ面白かったことは面白かったんですけどね。なんだかちょっと惜しい感じ。
チョン・ドゥグァンを演じるファン・ジョンミンは素晴らしい。『国際市場で逢いましょう』の気のいい一家の大黒柱のお父さんや、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』の別人になりすます潜入工作員(スパイ)の時とはまるで別人で、全斗煥になりきってます。まさにカメレオン俳優。そしてイ・テシンを演じたチョン・ウソンも良い。正義派の軍人を好演してました。特に負けるとわかっている最後の戦いに赴く時の、事態を知らない妻との電話のシーンが沁みましたね。
>『光る君へ』
ようやく、まひろ(紫式部)が『源氏物語』の執筆を開始。紫式部が『源氏物語』の執筆を始めた時期ははっきりとはわかっておらず諸説あるようですが、通説では夫の死後、宮仕えの前に書き始められたんだろうと推測されているようです。しかし時代考証の倉本一宏氏は藤原道長の依頼で書き始めたという説を唱えているらしく、ドラマのほうもそれを取り入れたようですね。
でも個人的には倉本氏の説にはちょっと素直にうなずけないんだよなあ。物語というのはそのような外的要請から作り上げられるものではなく、内的心象から浮かび上がってくるものなのではあるまいか?(まあ映像ではそういうのは表現しにくいのかもしんないけど) 東洋経済オンラインで連載してた三宅香帆さんの『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』によると、そもそも内向的な紫式部は宮中で働き始めた当初は精神的に疲労困憊して物語を書くことはおろか、読むことさえ楽しくなくなったと『紫式部日記』に書いているとのこと。また倉本氏は道長が紙や墨を大量に用意してくれたから紫式部はあれほどの大長編を書けたとしてますが、河合隼雄氏の『紫マンダラ 源氏物語の構図』(文庫題『源氏物語と日本人 紫マンダラ』)で紹介されているように、『源氏物語』において主人公の光源氏の影が薄いのは紫式部が本当に描きたかったのが女性たちだったからで、光源氏という人物は彼女たちを描くのに必要な狂言回しというか便利屋的存在だったという指摘があり、もともと書き始めた当初は連作短編のような形だったんではないでしょうか? 書き継いでいくうちに長編へと発展していったんじゃないかなあ。
あ、そういや泉里香さん演じる和泉式部もようやく登場。「いずみ」つながりか。和泉式部はそれ以前の映像作品では1939年の映画『紫式部』(演:鈴木澄子)に登場してるとのこと。あと赤染衛門の夫は大江匡衡ですが、こちらは登場しないのか。匡衡は道長・行成・公任とも交流があったとのことなんだけど。赤染衛門とはおしどり夫婦だったらしいけど、ドラマではなぜか違うことになってたな。登場しなかったといえば武士の源満仲。花山天皇退位事件の時に天皇を宮中から連れ出した藤原道兼を警護したという説もあるようですが、そこを逃したんでもう映像作品に出てくるチャンスはないかな。親父の経基は『風と雲と虹と』に出てきたみたいだけど。てか道長と関係の深い息子の頼光もひょっとして出てこないのか? そして道長がいい人の分、(後の)三条天皇がなんだか悪役っぽい。実際には道長にいじめられた気の毒な人なんですが。
>読んだ本
そういや忘れてましたが、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆・著、集英社新書)も読了。去年ネット連載されたものに加筆・修正した明治以降の読書史&労働史を題材とした本で、目次をパラッと見たら後半(80年代以降)の内容を結構忘れてる(もしくはそもそも読んでない?)っぽいんで買っちゃったんですけど、やっぱり80年代以降は読んでなかったっぽい。なかなか面白かったんですが、それよりも00年代はおろか10年代も歴史として語れる範疇になったってことが驚き(笑)。
>公開中の歴史映画
1978年にイタリアのアルド・モーロ元首相が極左武装グループ「赤い旅団」に誘拐・殺害された事件を描いたイタリア映画『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』が東京では公開中。監督のマルコ・ベロッキオは2003年の『夜よ、こんにちは』(未見)でも同事件を題材としており、モーロ役を演じたファブリツィオ・ジフーニは1969年のフォンターナ広場爆破事件を題材とした2012年の映画『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』(良作でした)でもモーロ役を演じていたとのこと。うーん、これも地元には来ないかなあ。まあ340分という長尺のようなんで観るのはちょっとしんどい映画ですし。ちなみに同事件を題材とした映画には1986年の『首相暗殺』(ジュゼッペ・フェラーラ監督。未見)という映画もあるようです。
その他にも、台湾の白色テロ時代に政治犯収容を目的とした緑島を舞台とした台湾映画『流麻溝十五号』、ホロコーストを生き延びたコロンビアの老人の隣家にヒトラーそっくりな男が越してくるという『お隣さんはヒトラー?』、戦時下にプロパガンダの先頭に立ったアナウンサーたちの葛藤や苦悩を実話をもとに描いた2023年のNHKドラマの再編集映画版『劇場版 アナウンサーたちの戦争』などが地元では公開中もしくはこれから公開です。でも個人的にはどれも観に行けなさそう。それにしてもNHKはここんとこしょっちゅう単発ドラマの再編集劇場版をやってるなあ。
#11454
巨炎 2024/08/26 11:43
今回、初めて観た…
「光るの君」のBS放映で観ていたら「お前が女子で良かった」と呟く岸谷パパの直後に
「またも辞めたか亭主殿 幕末の名奉行小栗上野介」の再放送。
若い頃の岸谷さんって切れ目がカッコいいイケメンですね。
#11453
バラージ 2024/08/19 20:03
史点
>「トランプ氏を崇拝する陰謀論者、Qアノン系の方々の間ではながらくケネディJr.(飛行機事故死してるが彼らは生存を信じている)が突然登場して副大統領候補になるというシナリオがかねてより主張されていた」
そんな話があるんですねえ。民主党だったケネディのJr.がなんで共和党の副大統領候補になるんだ(笑)。そういやそもそもロバート・ケネディJr.が第三勢力として立候補してませんでしたっけ? まあ、ロバートJr.は一族の鼻つまみ者らしいですけど。
>オリンピックなどをめぐるあれこれ
僕は毎度のこと、オリンピックが始まっちゃうと面白くてついつい観ちゃうんですが、今回は柔道混合団体戦が面白かったですね。あと開会式がちょっと批判された時には2021年東京よりはマシなのでは……と思っちゃいました。東京とは対照的に評判が良かった2022年冬季北京の開会式・閉会式をあまり見てなかったことを思い出し、YouTubeにある公式映像で見てみたんですが、確かにさすがはチャン・イーモウ。東京とは雲泥の差でした。識者は前回の東京はやっぱり特殊だったという論調で、僕もそれは認めざるを得ないと感じます。残念ながら。
今回のオリンピックで1番問題に感じたのは、オリンピックそのものというよりもSNSでの選手や審判への誹謗中傷。以前からもあったこととはいえ今回特に大きな問題になっているように思います。これは今後もオリンピックやスポーツに限ったことではなく、大きな社会問題になっていくのではないでしょうか(SNSの問題という意味では後段の話題ともつながっていくことですが)。最近は芸能人などでも一挙一動をネットがあげつらって袋叩きにするような図もあり、見ててあまり気持ちのいいものではありません。なんか世界から寛容性が失われているような。誰もが生きづらい世の中になっていくんですかねえ。
広島・長崎の平和祈念式典に関しては、ロシアとベラルーシを招待せずイスラエルは招待した広島にも、ロシア・ベラルーシ・イスラエルいずれも招待しなかった長崎にもそれぞれ批判があるようですが、日本を除くG7全てがイスラエルを招待しなかった長崎を欠席するというのは、僕もやはりそれはどうなんだと感じます。一方で核兵器を持ってるロシアやイスラエルこそ招待すべきという考えにも一理あるようにも思います。
・その他もろもろ
>「大海人=マツケンは若すぎないか(笑)。」
『額田女王』は前年(1979年)の大河ドラマ『草燃える』の脚本を書いた中島丈博が脚本を担当しており、その流れで『草燃える』で主演してた岩下志麻と松平健の主演になったと何かで読んだような。だったらいっそのこと天智天皇も近藤正臣じゃなく石坂浩二にすれば良かったのにとも思いますが、それじゃあまりに『草燃える』そのまんまということなのかも。
>『世界サブカルチャー史』
ゲーム編で終わりかと思ったら次回はアニメーション編だとのこと。まだ続くんだ。
#11452
ろんた 2024/08/07 18:39
「大奥」!?
…………………………………… ああっ! 「大奥」!!(<やっと気がついたらしい)
いや、あの、興味も関心もなかったもので(汗)(<失礼な奴だ)
ついでに思い出したんだけど、「大奥」についても「史実と違う!」ってやってる人いたな。あれはそういう作品じゃないだろう(笑)。
>「額田女王」
う〜ん、無料放送しないかな。何か月かに一回、一週間ぐらいやるんだけど(汗) しかし、額田女王と中大兄は年齢的に釣り合ってるが、大海人=マツケンは若すぎないか(笑)。有名な「あかねさす/紫野行き/標野行き/野守は見ずや/君が袖振る」「紫草の/にほへる妹を/憎くあらば/人妻ゆゑに/われ恋ひめやも」の歌の時はみんな40代で、当時はもう初老。
>「女北斎大罪記」(末太シノ/月刊ヤングマガジン)
これだけじゃ申し訳ないんで、たまたま見つけた新連載。
ある日突然、葛飾北斎が急死したら? 北斎の娘・栄は父の描いた傑作「北斎漫画」を世に残すため、父に成り代わることを決断する。しかしそれは、己の才能と向き合う地獄の始まりだった──これは「あってはならない」日本美術史上最大の“if”、罪を背負った娘と弟子の奔走を描く、闇中の浮世絵師サスペンス!!(ホームページより)
やっぱりこれも大河ドラマ効果かなぁ。娘の名が栄なので応為のことですね。弟子は渓斎英泉。応為の作品数の少ないところから、北斎の代作、北斎との共作をしていたという説もあるらしく、そのあたりをテーマにしているようです。もちろん北斎が急死したというのはフィクション。初回64ページとのことで編集部も力を入れているみたい。もっとも『ゾミア』みたいな例もあるけど(汗)。現在、第一話の途中(屋根の物干し台から北斎が転げ落ちる)まで無料で試し読みできます。
>『王朝序曲(上)(下) 誰か言う「千家花ならぬはなし」とー−藤原冬嗣の生涯』(永井路子/朝日文庫)
ついでにもう一つ。永井路子の"王朝三部作"が全部朝日文庫に入る運びとなりました。角川文庫で絶版になっていたものの再刊。これも大河効果? 発売は9月。内容は……
長岡京への遷都、蝦夷出兵と大胆な政治を推し進める桓武天皇。繰り返される遷都の中で、帝王桓武は命をすりへらしていく。奈良朝を終わらせ平安朝に道を切り拓き、道長に至る藤原北家の基礎を築いた男の生涯を描いた長編歴史大河小説。(上巻e-hon出版社・メーカーコメント)
60の齢に達し、病床の身にあった桓武帝は安殿に譲位した。平城帝が誕生し、ひとつの時代が終わりを告げた。桓武から平城、そして嵯峨へ……。権力と愛欲の葛藤が繰り返され、平和はやってくるのか? 野望と挫折、長編歴史大河小説の名作。解説・末國善己。(下巻e-hon出版社・メーカーコメント)
……というもの。
『新・ 歴史をさわがせた女たち』『この世をば』に続いて『望みしは何ぞ』にかかっている最中。読み終えたら三部作まとめて感想を書くかもです。
#11451
バラージ 2024/08/01 20:01
あゝ、文字化け
『三国志 秘密の皇帝』はオリジナルの『三国志 Secret of Three Kingdoms』の45分・54話を60分・33話に編集したバージョンのようです。
#11450
バラージ 2024/08/01 19:59
なんと!
歴史映像名画座にも掲載されている1980年のテレビドラマ『額田女王』全二部が9月7日・8日に時代劇専門チャンネルで放送されるようです。テープが残ってたんですねえ。てっきりもう残ってないのかと思ってた。時代劇専門チャンネルは何回か再放送することが多いので、10月以降に再放送もされる可能性が高いと思われます。
>追記
『三国志 秘密の皇帝』はオリジナルの『三国志 Secret of Three Kingdoms』の45分✕54話を60分✕33話に編集したバージョンのようです。
>そういえば
ろんたさんが『君とゆきて咲く〜新選組青春録〜』について「民放の時代劇はほんと久々」と以前書いておられましたが、今年の1月〜3月期にフジテレビがゴールデン帯で小芝風花主演の『大奥』をやってました。もっともその前となるともう覚えていませんし、タイムスリップものなど変化球的なドラマを除けば民放の時代劇が非常に少なくなったのも間違いない事実。というか歴史上の人物が出てこない、架空人物がメインのいわゆる「時代劇」連ドラが民放ではほとんど見られなくなりました。
#11449
ろんた 2024/07/31 12:15
とりあえず道長の病について
998(長徳4)年と1000(長保2)年に道長は病に倒れています。前者は、物の怪のせいで腰が痛い、というもので、現代なら「もうちょっとましな言い訳考えろ」と言われちゃいそうですが、病状は深刻だったようで辞職と出家を何度も願い出ている(内覧のみ辞職)。でも、ぎっくり腰な気がするなぁ(笑)。後者の病状は詳しく分かりませんが、何か月も寝たきりだったみたい。(『日本の歴史(5) 王朝の貴族』(土田直鎮/中公文庫))
『この世をば 藤原道長と平安王朝の時代』(永井路子/朝日時代文庫)(<結局買ってしまった)では、定子懐妊のショックで倒れたことになっています。彰子立后と引き換えに敦康親王宣下を了承。それに伴って定子が参内。つまり彰子立后がなければ定子懐妊はなかったわけで、「へたこいた〜」という訳ですね。食欲不振、寝汗、めまい、発熱に襲われ立ち上がる気力さえ失せる道長。「疲れが出ただけです」と慰められても、内裏は炎上し殺人や喧嘩が絶えず、国家財政は破綻寸前──この病は己の無能に対する報いだ、と孤独感を強める。さらに道兼の亡霊が現れ、邸内から呪いのまじないものが見つかり、詮子が病に倒れる。左大臣辞職を願い出るが、右大臣・顕光は魯鈍、内大臣・公季は無能という状況では許されるはずがない。「それはこの俺が死んでもいいということだ」と連絡係の蔵人頭・行成に当たり散らす。さらに、伊周の生霊のせいだと、伊周を本官、本位に戻してほしい、と言い出す。さすがにこれには誰も聞く耳を持たず、道長はますます行成に当たり散らす。だが、当たり散らしているうちに病状は回復、ついには本復。そしてもたらされる定子の死の報……ということになってます。
あと、この時代はまだ妻問い婚だと勘違いしてましたね、わたし。すでに招婿婚になっているそうで。『源氏物語』でも左大臣家が源氏と葵の上の新居を用意していたとか。(しかし葵上と不仲の源氏は専ら内裏に住んでいて妻問婚状態。多分誤解したのはこのせいだ) とすると、頭の中将は実父と義父の政治的対立でかなり苦しい思いをしていたんだなぁ。てっきり別居していたと思ってた。
>「世界サブカルチャー史」シーズン4
こちらは8月にこれまで同様に放送される予定ですね。お休みは一週だけみたい。
>「帝銀事件」
ドラマは原作が清張なので731部隊関係者犯人説。確か研究資料がGHQに提供されて捜査方針が変更される。逆に平沢犯行説から描いているのが「刑事一代」。この「刑事」っていうのが、名刺から平沢を割り出して自供させた平塚八兵衛。昇進試験を受けずに警視、捜査一課長になった伝説の人。ただ、ほとんど証拠がこの自供しかないし、平沢はコルサコフ症候群(認知症の一種)を発症していて、それで死刑にするのは乱暴すぎるんだけど、その辺はスルーしていたなぁ。
>杉本苑子×永井路子
上に書いたように『望みしは何ぞ』『新・歴史をさわがせた女たち』『この世をば(上)(下)』(永井路子)は買ってしまいました(汗)。朝日文庫では『歴史をさわがせた女たち 日本篇』『王者の妻 豊臣秀吉の正室おねねの生涯(上)(下)』『源頼朝の世界』も出ています。『歴史を……』は外国篇と庶民篇があるのですが、そちらは出ていない。杉本苑子は『散華 紫式部の生涯(上)(下)』(中公文庫)が大河効果で出てます。こちらでは「小市」という名前らしい。まずは『新・歴史を……』からかなぁ。エッセイでお気軽っぽいし。
>『新選組』(手塚治虫)
実は原作マンガよりドラマの方が史実に近かったりしまして、冒頭ではまだ新選組じゃないはずだし、芹沢鴨を主人公が斬り殺しちゃうし、坂本龍馬が変に大物っぽく出てくるし、桂小五郎が物乞いの変装をしていたり、なぜか方広寺や国家安康の鐘が出て来たりもする。まぁ、ドラマの方も剣舞で松平容保に認められて新選組になったり、桂小五郎が(高杉晋作+久坂玄瑞+来島又兵衛)×3ぐらいヤバい暴走攘夷派の親玉だったりするんですけど。そうそう、後半では伊東甲子太郎一行が参入するんですが、山南さん、なぜか胸に赤い花(バラ?)をつけてる(笑)
月刊マンガ誌から手塚を読んでいる夏目房之介の世代の手塚評については、後発世代(『ブラックジャック』で手塚を知った?)から、過大評価という批判が出ているそうで。まぁ、夏目の世代も『ロストワールド』で衝撃を受けた世代を、斬新さを思い込みで過剰に評価している、と批判していたわけですが。
『消えた魔球』は、魔球が忍術と不可分な時代が面白かった。あと『巨人の星』が『ちかいの魔球』の設定をパクっているとか。だからと言って面白くないわけじゃないのが困ったもんだ(笑)。
>『もしも徳川家康が総理大臣になったら』「戦国怪獣記ライゴラ」
『もしも徳川家康が……』は「別冊ヤングチャンピオン」でマンガ化されてます。立ち読みしかしてないけど。まあテクノロジーを使ってるのが目を引くぐらいで、こういうの昔からあるんだよなぁ。確か『総理大臣織田信長』ってのもあった気がする。だからいきなり映画化は想定外でした。しかも、結構PRに力が入ってるのにビックリ。ただ個人的には「ヤングチャンピオン」で始まっている「戦国怪獣記ライゴラ」(原作:志名坂高次/作画:星野泰視/怪獣デザイン協力:丸山浩)というのに興味がひかれます。序盤の舞台が厳島の戦い。毛利軍を待ち受けていた陶晴賢軍だが、怪獣により壊滅(食べられちゃう)。陶軍に加わっていた十郎太は、仲間の仇として怪獣をつけ狙い各地を放浪する……という話。今やっているのが桶狭間の戦いなんで、今川義元が怪獣に食べられちゃうんだろうなぁ。いくらなんでも可哀そう。
>カマラ・ハリス
なんでも「わたしは黒人でありアジア人でもある」と言ってるそうで。父親がジャマイカ人、母親がインド人だからだろうけど、母親は医学の研究者ということなんで、多分アーリア系だろう。とするとこの人、白人でもあるってことにならないか?(笑) 歩く「人種のるつぼ」(古)だね、どうも。まあ、白人至上主義者はアーリア系インド人とかペルシャ人(アーリア系)とかが出てくると脳がバグるらしいですけど。もっとも、アメリカ在住のアフリカ系って、ルーツを探るとどこかで白人(奴隷農場主)にぶち当たるらしい。財産(奴隷)を増やすという名目で、せっせと自分の子供を産ませていたんだな。『風と共に去りぬ』にも書いてあるけど(タラではやってないことになっている)。そうそう、黒人奴隷を愛人にしていて何人も子供をつくったってんで最近評判の悪いジェファーソン。その愛人って、亡き妻についてきたハウスキーパーなんだけど、実は腹違いの(父親が黒人奴隷に産ませた)妹だったりする。ジェファーソンは遺言で愛人と子供たちを自由民にしているんで、本当に愛してたんじゃなかろうか。あんまり悪く言っちゃぁ可哀そうな気がする。
#11448
バラージ 2024/07/27 22:58
南北朝への鎌倉史C 貞時の時代その1
いよいよパリ五輪が始まりましたが、開会式に出てきたのがレディー・ガガにセリーヌ・ディオンなどフランス人以外ばっかりなのはなぜ? まあパフォーマンスは見事だったけれども。
そしてバイデンに変わって大統領候補になったハリス副大統領。これまで支持率が低かったのが、反トランプ派が流れ込んだのか意外にも支持率がトランプを逆転したようで。といっても差はわずかなので今後どうなるかわかりませんが。
さて、鎌倉中後期史、ついにようやく貞時期に突入。貞時期以後は職掌別に考察するとかえってめんどくさいと思い至ったため、執権・連署・寄合衆・親王将軍などまとめて書いちゃいます。なお後嵯峨天皇以後の天皇家の分裂など朝廷の動きについては、徹夜城さんの「南北朝列伝」が非常に充実してるので基本的に省略させていただきます。
貞時得宗期に入る前にまずその前史から。前回書いた通り、1266年に宗尊親王が征夷大将軍を解任されて京へ送還され、嫡男の惟康王が鎌倉においてわずか3歳で将軍に就任しました。そして#11310でも書いた通り、その4年後の1270年に惟康王は元服と同時に臣籍降下して、源姓下賜され源惟康と名乗ります。これについては、蒙古襲来という未曾有の国家的危機に直面した時宗政権がかつて御家人たちが頼朝のもとで源平合戦を勝ち抜いた吉例を再現しようとしたものだとする説が唱えられています。個人的には、親王の子である惟康は通常は王までしかなれず、その子孫も王止まりで数代を経ると結局は臣籍降下することとなり、親王が将軍となったことで却って将軍の身分が不安定になったためってのもあるんじゃないかなあという気もします。清和源氏の祖である貞純親王(または元平親王)の子の経基王が臣籍降下して源経基となったことも考えれば、幕府も再び新たな源氏将軍家を継承させていこうと考えたという推測も成り立つんではないでしょうか。後に惟康は結局は親王宣下され、さらには持明院統の久明親王が新たな将軍に迎えられて宗尊流将軍家は断絶するわけですが、この時点ではそんなこと考えられてもいないわけですし。なお問注所執事・評定衆・寄合衆の太田康有が書いた建治3年(1277年)の公務日記『建治三年記』には、7月に惟康の御所が新調された際に、惟康の入御を見計らって時宗自らが庭に下り着座して惟康を迎え、御家人たちも時宗にならって庭に下りて列したことを記しています。実質的な最高権力者だった時宗の惟康への礼遇であり、将軍として一定の権威が維持されていたことを示しているとされています。
同じく『建治三年記』によると12月に時宗の嫡男貞時が惟康を烏帽子親として元服。しかし貞時はその名を見てもわかるように、父時宗をはじめとするそれまでの得宗と違って将軍である惟康の偏諱を受けていません。経時・時頼は九条頼経の、時宗は宗尊の偏諱を受けていたのに対して、貞時は誰の偏諱も受けておらず、「貞」が何に由来するかは不明。細川重男氏は北条氏の先祖とされる平貞盛から一字を取ったという説を唱えてるようですが、この説に妥当性があるかどうかは個人的には何とも言えないように思います。
さて、いよいよ貞時期。1284年4月4日に得宗で執権の時宗が病死します。ところが得宗家を継いだ貞時が執権に就任したのは7月7日で、4ヶ月(閏4月が含まれている)の執権不在期間があったことになりますが、どのような事情によるものか理由は不明です。これはおそらく時宗が後継など死後のことを遺言する間もないまま急死したためではないかと思われます。時宗が後継について遺言していたなら執権の座が4ヶ月も空白になることはありえない。公家の勘解由小路兼仲の日記『勘仲記』によると、時宗は3月28日から病となり4月4日に出家して同日に死去したとのこと。4日に容態が急変したのか、あるいは28日に発病した時点で意識不明だったのかわかりませんが、ともかく遺言は残さなかったものと思われます(#11436では「時宗自身が後に思い直して泰盛に後事を託したのだと思われます」と書きましたがこれは撤回)。貞時はこの時点で13歳で、父時宗も18歳になるまでは長時・政村を中継ぎにして執権にならなかった前例から考えると、まだ若すぎるのは明らかです。しかし一門庶流を抑圧して近親を重用しながら、ほとんどの近親に先立たれた時宗には父時頼と違って信頼の置ける一門庶流がおらず、連署の極楽寺流北条業時(普恩寺流の祖)は極楽寺流の嫡流ではない上に、就任はわずか1年前で時宗とも特に親密だったわけではないようです(#11436では「時宗死去の前年のためあるいは時宗はすでに体調が悪く、幼い嫡男貞時への継承を考えた措置だったのかもしれません」と書きましたがこれも撤回)。残された幕府首脳も主家の後継者を決めるのは憚られて結論の出ない堂々巡りの議論が4ヶ月もの間繰り広げられたんではないでしょうか。最終的に中継ぎを挟まず貞時が執権になったのは、時宗政権でも重臣だった貞時の外戚である安達泰盛と、同じく乳母夫の平頼綱の主導によるものでしょう。
しかしこのような権力の空白は体制の動揺を生んだようで、公家の三条実躬の日記『実躬卿記』によると時宗の死を知った六波羅探題北方の政村流北条時村が鎌倉に下ろうとしたところ三河国で御内人に制止されて京に戻っているとのこと。また『尊卑分脈』『鎌倉年代記』などによると6月20日(22日、23日説もあり)には六波羅探題南方の佐介流北条時国が悪行を理由に召還され(代わって六波羅探題南方に就任したのは時宗の異母弟宗頼の長男で、貞時の従兄弟である長門国守護の北条兼時)、同月25日には足利家時が何らかの理由で自害(家時の没年・死因については諸説あり)。『鎌倉年代記』裏書によると8月に佐介流北条時光(時国の叔父)が興福寺の満実法印と陰謀を企てたことが発覚して拷問の末に佐渡国へ配流され(『保暦間記』では1281年の事となっている)、同月20日には生存の噂のあった時宗の庶兄時輔とその子を捕縛するように命じる関東御教書が発給されており、さらに召還された時国は鎌倉入りを許されず常陸国へ配流の後に10月(9月、8月説もあり)に誅殺される(自害説もあり)など、元軍再襲来の不安の中での政権側の疑心暗鬼からか粛清の嵐が吹き荒れています。鎌倉に下ろうとした時村を制止して京に帰したのが御内人で、佐介流北条氏や足利家時が泰盛に近い立場だったことから、一連の粛清は御内人筆頭である内管領の頼綱の主導によるもので、1年半後の霜月騒動につながっていく流れの事件だとする見方もあるようです。
時宗没後の政局を主導することになったのは安達泰盛。もし時宗が急死で遺言を残さなかった場合、貞時の後見に関しては時宗未亡人で貞時の母の堀内殿(覚山尼)の意見が重んじられた可能性が高く、覚山尼は泰盛の末妹で養女でもあったため、最終的には彼女が息子の後見を養父の泰盛に託したのではないかと思われます。もっとも貞時執権就任まで4ヶ月もかかったことやその後の政治的展開などを見ると、覚山尼が後継体制に積極的に介入はしなかったことが伺えるため、議論が紛糾した末に最終的に彼女の判断を仰ぐこととなり、政治的見識に乏しい覚山尼は一般的で無難な指名に落ち着いたと見るべきなのかも。
こうして貞時の後見として幕政を主導することになった泰盛は、弘安徳政と呼ばれる改革を打ち出します。時宗の死から2か月後、貞時の執権就任より2ヶ月前の5月に、新式目という38か条からなる追加法が制定されたのを皮切りに、7月の貞時執権就任までに100か条余りの追加法が制定されたとのこと。このような迅速な展開から、時宗の存命中から計画されていた改革と考えられているようです。その追加法は「一宮・国分寺の興行」「関東御領の興行」「悪党の禁圧」「倹約の励行」「河手・津料・沽酒・押買の禁止」「鎮西神領の興行・回復、鎮西の名主職安堵」「引付の興行」「田文の調進」「所領の無償回復令」などで、主な目的として神仏興行や元寇を通じて初めて幕府の影響が及ぶようになった九州の本所一円地の名主・武士に安堵を与えて御家人に編入しようとするなど、東国に偏在しがちだった幕府の政治権力を日本全国に拡大する意図があったと考えられているようです。また、六波羅探題や鎮西談議所(後の鎮西探題)の権限強化も図られているとのこと。なお弘安徳政については、泰盛が得宗権力を背景とする御内人の頼綱との対立から得宗権力の抑制を図ったとする見方と、逆に泰盛が甥(養外孫)である貞時の後見人としての立場から得宗権力の強化を図ったとする見方があるとのこと。どちらかといえば前者のほうが優勢なようですが、改革が時宗の生前から計画されていたとすれば得宗権力の抑制を図ったとは考えにくいので、後者のほうが正しいのではないでしょうか。
しかし所領返還や徳政は元の権利者の反発を生み、本所一円地住人の御家人化は以前の領主や旧来からの御家人の反発を生むなど諸方面から強い抵抗が起こり、また九州を中心に各地で訴訟が頻発して、それが幕府の処理能力を大幅に超えていたため機能不全の様相を呈するなど社会混乱を引き起こすことにもなっています。さらに政策には北条一門に対する制限もあったため北条氏庶流や御家人・御内人の反発も強く、得宗である時宗ならともかく、得宗でもなければ北条一門でもなく、ましてや将軍でもない泰盛が主導して進めることは困難を極めたとのこと。1284年段階での寄合衆が誰なのかははっきりとはわからないものの、『建治三年記』によると1277年の寄合衆は時宗・泰盛と文士の太田康有、御内人の佐藤業連・諏訪盛経・平頼綱で、そのうち康有は1282年に寄合の席上で中風で倒れ、以後籠居し翌年には問注所執事の職を子の時連に譲り出家。業連はまだ存命ですが(1287年没)、盛経は没年不明でこの頃には活動が見られなくなっています。他に時宗の後を継いだ得宗にして執権の貞時は当然いたでしょうし、連署の業時も加わっていた可能性がありますが、やはり寄合衆の中心にいたのは泰盛と頼綱でしょう。2人は時宗の時代から、高僧の日蓮にも双璧をなす幕府の重臣として認識されていました。寄合でもこの2人の意見が鋭く対立したものと思われ、弘安徳政はその年のうちに早くも方針の修正を迫られたとのことで、翌1285年には追加法の発布もなくなって改革はほぼ行き詰まったまま、翌1286年11月の霜月騒動を迎えます。
てなわけでまた次回。
>最近読んだ歴史関連本
先日、時間つぶしのために本屋に寄ったら、『吾妻鏡 鎌倉幕府「正史」の虚実』(藪本勝治・著、中公新書)という本をたまたま見かけて、手に取り立ち読みしたらなかなか面白かったんで買ってしまいました。9代執権北条貞時の専制時代に鎌倉幕府によって編纂された史書『吾妻鏡』には多くの錯誤や虚構や曲筆が含まれていることは有名ですが、本書ではそもそも『吾妻鏡』は「記録」というよりも「物語」「文学」に近いとし、それがどういう意図と方向性に基づいて編纂されているかを、頼朝挙兵・平家追討・奥州合戦・比企氏の乱・和田合戦・実朝暗殺・承久の乱・宝治合戦という重要なトピックに分けて考察していく本となっています。あとがきを読んで知ったんですが、著者の藪本氏は歴史ではなく国語の中学高校教師だったんですね。「『吾妻鏡』の研究をしています、と言うとときどき誤解されるのだが、筆者の研究対象は、鎌倉時代の歴史的実態がどうであったかということではない。史実そのものではなく、あくまで『吾妻鏡』という書物が歴史をどのように語っているか、ということを考察してきた。」とのことで、いわば歴史学方面ではなく国文学方面からの『吾妻鏡』分析と言えるわけですが、『吾妻鏡』という書物の性格を明らかにするためには記された記述と史実との違いを明らかにする必要があるということで、近年における当該時代の研究動向も詳細に記載されており、歴史学的にも非常に参考になる本となっています(ま、頼朝のもとへ後白河の密旨が届けられたとか後鳥羽の挙兵目的が討幕ではなく義時の追討だとする説には強い反論もあることに触れてないなど、一部に「ん?」という部分もありますが)。国文学方面からの指摘が非常に新鮮で、なるほど国文学から見るとこういう分析になるのかと非常に面白かったです。国語教師ということもあって文章も非常に読みやすい。これはおすすめ。
さて次は明治以降の読書史&労働史を題材とした『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆・著、集英社新書)を読むかな。去年ネット連載されたものに加筆・修正した本で、ネット連載は去年読んですごく面白かったけど1回読んだ内容だしなと思ったものの、目次をパラッと見たら後半(80年代以降)の内容を結構忘れてる(もしくはそもそも読んでない?)っぽいんでこれまた買ってしまいました。
>歴史ドラマ
以前からちょこちょこ紹介していた中国ドラマ『三国志 Secret of Three Kingdoms』が、9月からNHK‐BSにおいて『三国志 秘密の皇帝』と邦題を変えて放送されるとのこと。NHKなので日本語吹替版で、オリジナルの54話を33話に編集したバージョンのようです。
#11447
バラージ 2024/07/24 20:57
いろんな話
いやはやまたしても米国で大変なことが……。果たして確トラになってしまうのか。確か4年前に「トランプが去ってもトランプ的なものは確実に残る」と書いたと思いますが、それどころかトランプ本人が大統領に復活しちゃいそうな勢いです。しかしあの瞬間にあのポーズが出せちゃうところは素直にすごい。命が脅かされたまさにその時でも、ここは大事な瞬間だというのを本能的にわかってるんですかねえ。一方、人の言うことを聞かないのが悪いほうに出てしまってた強情なバイデンおじいちゃんもようやく退場。バイバイデーン。しかしちょっと遅すぎるような気もするけど勝負の行方はどうなるんだろ?
>『光る君へ』
高畑充希さん演じる藤原定子がついに退場。いや素晴らしかったです。これだけ名演だと定子のイメージが高畑さんで固定化されちゃいそうだなあ(笑)。ちょうど細川勝元のイメージが『花の乱』の野村萬斎で固定化されちゃってるみたいに。戦国や幕末ならいろんな人が演じるんで、どれだけ名演だろうとその俳優というか役のイメージで固定化されたりはしないんですけどね。
あと、今回は道長が倒れて重態に陥ってましたが、この時期にそんなことあったっけ? Wikipediaにもそんな話書いてないけど。そして、まひろ(紫式部)の娘がまさかの道長の子というフィクション設定。まあマイナー時代大河にはありがちですけどね。『花の乱』とか『北条時宗』とか。さらに父(じゃない設定だけど)宣孝に赤ん坊のうちに「賢子」と名付けられちゃう娘(笑)。まあ、これもあるあるですけどね。北条政子とか日野富子とかもそうだし、そうしないと「まひろ」みたいに架空の名前付けなきゃなんないし。
なにはともあれ、ようやく来週から物語を読み始めるまひろ(紫式部)。でもやっぱりちょっと遅すぎるような。もっと子供の頃から読んでたんじゃないかなあ。若い頃から物語友達もいたみたいだし。
>『世界サブカルチャー史』シーズン4
残るは最後のゲーム編、と思ったらなぜか別の番組に変わって放送予定が出ていない。オリンピック・パラリンピックがあるから一時中断か? それとも地上波放送には何か不都合なところがあったんだろうか?
>731部隊の映画
徹夜城さんがX(twitter)においてYouTubeで無料配信されている1980年のドラマ『帝銀事件』(僕は未見)についてツイートし、ドラマでは731部隊にも触れられてると書いておられますが、映画板にも書いたけど先日観たフィクションの日本映画『湖の女たち』にも回想シーンにおいて731部隊がかなり重要な役割で登場してました。731部隊を描いた映画は2020年の『スパイの妻』以来ですがそもそもあまり多くなく、それ以前の日本映画だと1976年の『凍河』(斎藤耕一監督、五木寛之原作。DVD化もされてるようですが未見)でやはり回想的に触れられてるぐらいのようです。あとは香港映画『黒い太陽七三一』シリーズがあるぐらい。こういう映画は作られていかなければなりませんね。
>杉本苑子と永井路子の対談集
永井路子については去年亡くなられた時に書きましたが、その時に2人の対談集についても触れてます(#11309)。『この世をば』は藤原道長が、『望みしは何ぞ』はその続編的小説で道長の4男(道長と源明子の息子としては3男)藤原能信が主人公だったはずですが、僕はいずれも未読。『歴史をさわがせた女たち』シリーズはエッセイだったかな。そっちも未読です。杉本苑子の小説で読んだのは、一昨年に読んだ『竹ノ御所鞠子』だけですね(#11205)。
>手塚治虫と夏目房之介
夏目氏の著作で僕が読んだのはスポーツ漫画を取り上げた『消えた魔球』(新潮文庫)だけだと思いますが、夏目氏はその本で手塚を“テレ派”、スポーツ漫画の大家・梶原一騎を“本気派”に分類し、自らは手塚の流れである“テレ派”に属するので“本気派”の梶原を本格的に評論するには愛が足りない、というようなことを書いてましたね。この本は『Number』での連載をまとめたものらしいんですが、当初スポーツに関する連載を依頼された夏目氏はそもそもスポーツが苦手で知識もなかったためスポーツ漫画なら書けるだろうと始めた連載で、数々のスポーツ漫画に対する「愛あるおちょくり」が中心。しかし『あしたのジョー』などに対しては好意的でおちょくりがほとんど無く、「いささか私情に流されてるかもしれないが、もともとこの連載自体そういうものなのであきらめていただきたい」と書いてましたね(笑)。
手塚の幕末マンガは『陽だまりの樹』しか読んでませんが、そっちでは新選組は江戸での浪士組の段階のみの登場で、芹沢鴨がすげえ狂暴な悪役でしたね。土方や近藤もちらっと登場しますが、1番出番が多かったのは浪士組を結成した清河八郎でした。坂本龍馬も後半に登場してましたがやや唐突で、伊武谷万二郎に関わる実在人物では阿部正弘や勝海舟や西郷隆盛やヒュースケンほどにはストーリーに馴染んでなかった印象。何で読んだかは忘れましたが、手塚は坂本のような人物を描くのはあまり得意じゃなかったんではないかと推測する文章を読んだ記憶があります。
>歴史関連映画
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』という米国映画が公開中。アポロ11号の月面着陸計画の裏で、もしも失敗した時のために月面着陸のフェイク映像を撮影する極秘ミッションが進行していたというホラ話系ユーモア映画とのこと。なんか『カプリコン1』(未見)みたいな話だな。アポロ11号の月面着陸って超有名な歴史エピソードのわりには劇映画化やドラマ化がほとんど無いんですよね。失敗した無名な13号の映画はあるのに。アポロ11号の映像化作品は以前にも紹介しましたがマンガ『栄光なき天才たち』の宇宙開発競争編を1990年に単発アニメ化した『宇宙を夢みた男たち』ぐらいでしょうか。
そして『もしも徳川家康が総理大臣になったら』という映画も間もなく公開されるようです。監督は『テルマエ・ロマエ』『翔んで埼玉』の武内英樹。タイトルを聞いたことあるなと思ったら、やっぱり小説の映画化だったようで。原作小説の公式サイトによると「2020年。新型コロナの初期対応を誤った日本の首相官邸でクラスターが発生。あろうことか総理が感染し、死亡する。国民は政府を何も信頼しなくなり、日本はかつてないほどの混乱の極みに陥った。そこで政府はかねてから画策していたAIとホログラムにより偉人たちを復活させ最強内閣をつくる計画を実行する。AIにより総理大臣に選ばれたのは、江戸幕府の創始者である徳川家康。経済産業大臣には織田信長、財務大臣に豊臣秀吉、厚生労働大臣に徳川綱吉、総務大臣に北条政子、外務大臣に足利義満など錚々たるメンバーの中で、皮肉にも総理大臣の補佐役である官房長官に選ばれたのは、江戸幕府を終わらせた男・坂本龍馬だった」というストーリー。映画に登場する偉人は家康(演:野村萬斎)・信長(GACKT)・秀吉(竹中直人)・綱吉(池田鉄洋)・政子(江口のりこ)・義満(小手伸也)・龍馬(赤楚衛二)の他に、徳川吉宗(嶋政宏)・聖徳太子(長井短)・紫式部(観月ありさ)・石田三成(音尾琢真)・土方歳三(山本耕史)といった面々。聖徳太子・紫式部・土方は原作には登場しないようです。一方でWikipediaによると原作では他にも藤原頼長・北条時宗・菅原道真・楠木正成・平賀源内・大久保利通・緒方洪庵・江藤新平・福沢諭吉が登場したようですが、2時間の映画には多すぎるんでしょうね。あとは知名度の問題か。実写の義満は単発ドラマ『一休さん』の東山紀之に次いで2人目か? 政子は出てきて頼朝は出てこねーのかよとも思ったり。ま、僕はどっちも観ないと思うけど。
#11446
ろんた 2024/07/21 20:41
色々と読んでおりました
『逃げ上手の若君(16)』と『ONE PIECE(109)』を買いに行って、杉本苑子と永井路子の対談集『ごめんあそばせ 独断日本史』(朝日文庫)を買ってしまう。両人が同い年(1925年生まれ)なのにちょっと驚く。直木賞受賞は杉本の方が二年早い(62年)。帯には「大河ドラマ『光る君へ』(2024年)『べらぼう』(2025年)『豊臣兄弟!』(2026年)をより楽しむために」とあって、まぁそういうことです。室町時代を除いて古代から明治時代を論じてるんで、大河がどんな作品でも「より楽しむために」ってことになるんですが(笑)。内容的には視点がオーソドックスなものと違っていて面白い。院政期には皇女に莫大な遺領が譲られ、これがあらゆる抗争の中心になる、という指摘とか。そしてわたしは、この二人の作品を一切読んでいないことに気付いたのであった。カバー折り返しにあった『望みしは何ぞ』『新・歴史をさわがせた女たち』『この世をば』(永井路子)を読んでみようと思ったのでありました。
>『手塚治虫名作集11 新選組』(手塚治虫/集英社文庫)
在庫があったので買ってしまった、ドラマの原作。奥付には「2009年7月6日 第15刷」とあるので、ドラマ化で重版がかかったわけではない。初出は1963年・少年ブック、併録の「新・聊齋志異 女郎蜘蛛」「新・聊齋志異 お常」はともに1971年・週刊少年キング。ドラマとの違いは、主人公の父(冒頭で攘夷派に殺される)が茶屋の主人じゃなくて浪人(<だから「深草」という苗字がついていたんだ!)。初めから新選組で、松平容保によって改組されるエピソード(御前で剣舞を披露して認められる)は無し、というように結構ある。マンガは打ち切りで池田屋事件までしか描いていないんだけど、ドラマはその後まで描いていく模様。マンガに坂本龍馬が出てくるのは『竜馬がゆく』の影響かな?
さて、この作品の評価ですが、個人的にはそう悪くありません。手塚的な少年マンガとして読んで十分面白い。でも夏目房之介は、駄作ではないけど同時代の劇画の方が面白くて魅力的、としています。(『手塚治虫はどこにいる』) この世代は、手塚マンガで育ちながらも青年期には劇画にしびれていたので、折に触れてヒョウタンツギやオムカエデゴンスという"テレ"を出したり、くすぐりを入れたりする手塚的な少年マンガを懐かしくも古臭いものと感じていたようです。そしてクライマックスの決闘で、腹を切られて血が噴き出すところを夏目は「紙でつくった舞台用の小道具みたいな血しぶきである」(同上)と酷評しています。劇画的表現を取り入れようとしてうまくいってないのは確かだけど(併録の「新・聊齋志異」二篇と比べると明らか)、でもこれ、祇園祭の花火や決闘の火花とシンクロさせているように思うんだけどなぁ。作中、表現主義的に感じる部分もあるし。
>『知泉源氏(6)』(杉村喜光/新評論)
完全マンガ化を目指す『知泉源氏』、第I期《青春編》完結。第6巻は、第十三帖 明石(続)、第十四帖 澪標、特別編 本居宣長作 手枕、第十五帖 蓬生、第十六帖 関屋まで。入道の誘いで明石へ移り、紫の上に悪いと思いつつも入道の娘(明石の君)となるようになってしまってご懐妊。一方、都では右大臣が急死、弘徽殿の太后は体調を崩して寝たきり、朱雀帝は夢枕に立った桐壺帝に源氏への不実を責められ眼病に。ここに至って朱雀帝は譲位を決意。東宮(朱雀帝と源氏の末の弟。実は源氏と藤壺の間の子)を即位させ(冷泉帝)、後見に源氏を指名、都に呼び戻す。明石の君とお腹の子に後ろ髪をひかれつつも都に戻った源氏は、内大臣に昇進。摂政はさすがに断って致仕大臣(前左大臣、葵上の父)に太政大臣となってもらう。さらに明石の君と娘を引き取ろうとするんだが、紫の上はご機嫌ナナメ。その後は、妻たちの後日譚。特に重要なのが六条御息所。天皇の代替わりで斎宮も交替、娘(桐壺帝の弟との子)と京に戻り、源氏に娘の後見を頼んで亡くなる。源氏は自邸に引き取って、世俗の知識を紫の上に教育してもらい、冷泉帝の后にと思いをめぐらす。ここに葵上の兄・権大納言の娘、兵部卿(藤壺の兄)の娘などとの后レースが勃発するのであった。あと、本居宣長の二次創作(笑)「手枕」は源氏と六条御息所の馴れ初め。
さて、この後の刊行予定。第II期《栄華編》が全7巻、第III期《冥暗編》が全6巻、第IV期《宇治編》が全10巻、別冊《拾遺》が1巻、つまり全部で30巻。完結してほしいけど、かなり不安。
>『修羅の刻 陸奥圓明流外伝(22)』(川原正敏/月刊少年マガジンKC)
酒呑童子編完結。「千年不敗」なんで陸奥が勝つのは当たり前、いかにして勝つかというところが読みどころだけど、三巻もかけてる割にあっさり。ヒロインは次代の陸奥の母で、当代との馴れ初めが描かれるけど、「綱」がいたからか、そちらもあっさり気味。その分、クローズアップされてるのが源頼光。「斧鉞」(空中回転して左右の足の踵を時間差で頭部に打ち込む技)の名付け親だったりして、ほとんど頼光編っぽい。あっ、道長は黒幕じゃなかったです(笑)。
さて、月マガの2025年新年号に「安倍晴明編」が掲載されるとのこと。(22)にも陸奥の顔見知りっぽく登場してたけど、どう絡んでくるかは謎。そういえば「義経編」では、奥州藤原氏は陸奥に大恩があるという伏線が張られてるんだが、「八幡太郎義家編」とかあるのか。この間、また「歴史探偵」の再放送を夜中に見ちゃったら、源氏とか八幡太郎義家ってかなりヤバい奴っぽかったが。
>『剣樹抄 インヘルノ編』(冲方丁/文春文庫)
『剣樹抄』『剣樹抄 不動智の章』に続く第三部で完結編。以下は表紙カバー裏のあらすじ。
父を旗本奴に殺され、育ての父も明暦の大火で喪った少年、六維了助は、火付け一味に我流の剣法で襲いかかったところを若き水戸光國の目にとまり、捨て子を間諜として育てる幕府の隠密組織「拾人衆」に加わる。江戸を焼く盗賊に、妖しい美貌の惨殺犯も現れ―。(『剣樹抄』)
幕府の隠密組織「拾人衆」の一員となった無宿の少年、六維了助。明暦の大火を引き起こした盗賊の「極楽組」を追う中で、父を殺した憎き男の正体が慕っていた光國と知る。裏切られた思いで仇討ちに走る了助を、剣術家の柳生義仙が取り押さえ、二人は廻国修行の旅へ―。(『剣樹抄 不動智の章』)
大火を引き起こした「極楽組」首魁・極大師は水戸光國のもとに自ら降った。柳生義仙と廻国修行の旅に出ている六維了助は、逃げた配下の3人を追う。東照宮討ち入りの謀反に関東での切支丹集団の潜伏、松平伊豆守の影――。絡み合う魔の手から光國と了助は江戸を守れるのか。(『剣樹抄 不動智の章』)
BS時代劇でドラマ化された際には光圀(山本耕史)が主人公だったけど、小説は六維了助の成長物語。極楽組は社会の変化に取り残された者たちの怨念が形になったような存在。極大師が多数の同志を吊天井で圧殺した末に投降したのは、実は権現様以来の密偵で反幕勢力をあぶり出し暴発させて検挙するのが役目だったから。ただし、これが真実か否かは不明。なんかキリシタンになっちゃってるし。『光圀伝』も読んでみようか。
>『逃げ上手の若君(16)』(松井優征/ジャンプコミックス)
顕家軍、鎌倉を出立。兵糧の現地調達(略奪)や北朝方との小戦闘を行いつつ青野原に到達、迎え撃つ北朝方との決戦(青野原の戦い)。小笠原貞宗、上杉憲顕、長尾景忠、桃井直常らが再登場。しかし、変態揃い、化け物揃いのキャラの中でも桁違いの土岐頼遠の前では皆霞んでしまう。味方を弾として放り投げ、爆散させて敵にダメージを与えるって無茶苦茶だ。しかも弾にされる郎党がそれを平然と受け入れているのも異常。さすが、院と犬を聞き間違えて(?)犬追物を始めちゃった土岐頼遠であります(笑)。作中にあるように美濃勢はすりつぶされるように戦場から姿を消し、頼遠も死にかけるんだが、その辺は次巻のお楽しみ。
アニメの方は、かなりの血塗れ度(笑)。まあ、しょっぱなが鎌倉滅亡だから仕方ないけど。蹴鞠>斬首のモンタージュも再現していてドッキリ。あと、OPやEDで第一話しか出てこないキャラが登場するの、なんか悲しい(汗)。
さて、これからは永井路子の三作に手を出すか……と思ったら、塩野七生のギリシャ人の話が手つかずだったり、『風配図』(皆川博子/河出書房新社)が積まれていたりするので困っているのであります。
#11445
バラージ 2024/07/06 15:28
いつの間にやら
今年も半分が過ぎ去りました。
>『光る君へ』
というわけで今年の大河も、主人公の紫式部(まひろ)が仕えることになる藤原彰子の本役が登場したところで半分が終了。演じる見上愛ちゃんは特徴的なファニーフェイスが印象に残る若手注目株ですでに映画やドラマで主演もしてますが、最近で1番印象に残るのはやっぱりJRAのCMかな(笑)。そういや藤原宣孝役の佐々木蔵之介ともそのCMで共演してたんだった。ちなみに彰子は紫式部と絡む人なので他の映像作品にもそこそこ登場しており、1958年のテレビドラマ『女人連祷』(演:伊藤満貴子)、2001年の映画『千年の恋 ひかる源氏物語』(演:水橋貴己)、2011年の映画『源氏物語 千年の謎』(演:蓮佛美沙子)に登場しています。
『光る君へ』、基本的には面白いんですが、この手の歴史ものでは毎度のことで仕方ないとはいえ、主人公サイドの人物が美化され気味なのはやっぱりどうしてもちょっと気になるところ。紫式部はともかく藤原道長がね、いくらなんでも良く描かれすぎなんではないかと。道長も権力握るために結構あくどいことしてますからね。彰子の入内も道長・倫子夫妻ともに気が進まなかったのに周囲の政治的要請で仕方なく入内させることになったみたいに描かれてましたが、いやさすがにそれはないだろ。どう考えても道長が権力を握るために推進したはずで、倫子も積極的にそれをサポートしたと思うんだよな。
また紫式部(まひろ)と道長の恋愛を主軸に据えているため、実際の夫の藤原宣孝が恋の邪魔者みたいにされちゃってるのもちょっと気の毒。ほんとの夫なのになあ。まあ他の妻もいるんだけど(笑)。これまたちなみに宣孝も紫式部の旦那なんでその他の映像作品にもそこそこ登場してて、1939年の映画『紫式部』(演:南部章三)、1958年のテレビドラマ『女人連祷』(演:伊達信)、2001年の映画『千年の恋 ひかる源氏物語』(演:渡辺謙)に登場。『千年の恋』の渡辺謙は道長との二役ですが、紫式部が吉永小百合だからやっぱりちょっと年齢差が……。また、やはり少々損な役回りになってる道長の妻の源倫子は、その他では1939年の映画『紫式部』(演:梅村蓉子)、2001年の映画『千年の恋 ひかる源氏物語』(演:浅利香津代)に登場しています。やっぱり道長との年齢差が……渡辺謙だとやっぱ若すぎなんだよな。
>史点
お忙しい中、更新ご苦労さまです。
・鶴岡八幡宮
病弱だった源実朝は1208年に疱瘡を患って以後、病の瘡痕を恥じて将軍(鎌倉殿)の公的行事の中で最も重要なものの1つである鶴岡八幡宮への参拝を3年間止めており、その間は代参として北条義時や源親広(大江親広)が奉幣使を務めたそうです。なので多分その分のバチが当たったのかも(嘘)。ま、殺した側がそもそも鶴岡八幡宮の若宮別当だったからなあ。今も昔も神社にしろお寺にしろいろいろと生臭いことがありますねえ。まあ人間のすることだから当たり前だけど。
・オッペンハイマー
映画『オッペンハイマー』については以前感想を書いた通り、基本的には面白い映画だったものの全面的に礼賛というわけではないといった感じ。wikipediaの当該項目にも映画の内容に対する批判が記述されてますが、やはり一聴はすべき意見だろうと思われます。
>『世界サブカルチャー史』シーズン4
アイドル編の後も、ヒップホップ編、ポップス編、ゴシック編と観ました。ヒップホップ編は個人的趣味からさほど興味を持てず流し見状態でしたが、ポップス編とゴシック編はまあまあ面白く観ました。現在はサイバーパンク編で、次のゲーム編が最後です。
#11444
ろんた 2024/07/02 00:37
『忘れられた日本人』(宮本常一/岩波文庫)
Eテレの「100分de名著」で取り上げられていたんだけど、苦手な志らく師が本文朗読。ファンの方には申し訳ないが、テキスト(畑中章宏/NHK出版)を買うことに。でも読むべき本、読んどいた方がいい本だと思ってたのに、なぜか縁が無くて買ってなかったので購入。そしたら『宮本常一『忘れられた日本人』を読む』(網野善彦/岩波現代文庫)も見つけたので注文。
一言でいえば、いつの間にか脳内に忍び込んでくる俗流日本論、俗流日本人論を粉砕してくれる本。やはり白眉は「土佐源氏」。「人をだますこととおなごをかまう事ですぎてしもうた」という、失明した馬喰の一代記。「人をだますこと」は、牛を高く売りつけたり、買い叩いたりだけど、「おなごをかまう事」はかなり詳細。特に官林の役人の妻や県会議員の妻を「かかぬすみ」する話は面白いし切ない。今日では話者の身元がわかっていて、事実と違う部分もあるらしい。一部は宮本の創作だとか、何人かのエピソードをまとめたとか、色々説はあるらしいが、「かかぬすみ」に差支えがあったんじゃないかなぁ(笑)。まあ、私が驚いたり感心したりするレベルのことは、『〜を読む』で詳細に解説してくれてるわけですけど(汗)。さらに、網野史学が宮本民俗学の影響を受けていることも分かるのであります。あえていくつか書いておきますが……。
・対馬には明治の終わり頃まで「歌垣」が残っていた
対馬には六つの観音堂があり、巡拝者は村の民家に宿泊した。すると村の若い衆が集まってきて巡拝者と歌や踊りの掛け合いをする。やがて歌なり踊りが良かったら「〇〇をくれ」という話になり、男が女にからだをかけさせるようになる。ということで、歌垣ですな、『常陸国風土記』や『万葉集』にあるような。「そのときには嫁や娘の区別はなかった。ただ男と女の区別があった。」というのも、ますますそれっぽいのです。ちなみに『平将門』(海音寺潮五郎)の冒頭は、この歌垣の場面。確か「風と雲と虹と」もそうだった。ということで、その存在は知っていたものの、明治時代まで生き残っていたというのは驚き。信心で子宝が授かった、とかいうのも実は……、とかついつい考えてしまう(汗)。
・朝鮮人参の密輸に銭屋五兵衛が対馬に来た
これは先祖からの言い伝えらしい。対馬に立ち寄って官憲の隙をついて朝鮮に出航。朝鮮人の服に着替えて上陸−商談。帰りは逆に日本人の服に着替えて対馬に帰ってくる。とはいえ、銭屋五兵衛本人じゃなくて番頭や手代じゃなかっただろうか。
・娘の家出
周防大島では、突然、娘が姿を消すことがあった。父親は慌てふためくが、母親は素知らぬ顔。これは勝手に伊予に働きに出て行ったので、母親が落ち着いているのは自分も娘時代にやったことがあるから。というより、世間を知らない娘は嫁の貰い手が無いとすら言われていたという。また娘だけで長旅もしていて、伊予にわたり土佐との国境まで行き(土佐には入らなかった、鬼の国だから(笑))、豊後の女衆と道連れになったりしている。これを可能にしているのが善根宿やお接待といったお遍路のシステムで、出かける時は二円しか持っていなかったが、帰りには五円になっていたという(笑)。お伊勢参りとかも同じような機能があったのかも。
・ハンセン病患者の道
地図を片手に山中に分け入ったところ、男とも女ともつかない人影を見かける。近づいてようやく、ハンセン病患者の老婆だと分かった。老婆によると、四国の山中には患者しか知らない道があり、そこを通ることになっているという。
・村役人の死
伊予との国境にある土佐の寺川。伊予からの木材の盗伐が後を絶たず、高知から来た村役人の指揮のもと、村人が取り締まりにあたっていたが、ある日、村人に嫌われていた村役人が帰ってこず、数日たって谷底から死体が発見される。ところがその死体、丸太を磔の横木のように背負わされ、それに手を縛りつけられていた。この格好だと、木が生い茂っている山中では行動の自由が利かない。身動きが取れなくなるか、道に迷って谷底へ落ちるか、いずれにしても死んでしまう。ここで連想したのが『忍者武芸帳−影丸伝−』(白土三平)の、影一族の蔵六の来歴を語る場面。討伐団が役人に捕まり、耳を削がれて同じ格好で山に放たれる。最初は命ばかりは助かったと喜ぶが……という話。これが元ネタじゃないかと思うのは、白土三平って思わぬ文献からこっそり引用しているらしいから。しばしば出てくる犬よせの薬「犬万」も、犬好きで犬に好かれていた「まん」という老女が元ネタらしい(『拾椎雑話』 呉智英の説)。
・「ヒマゴヤ」
愛知県名倉村(現・設楽町)の古老(男3・女1)の座談会(「名倉談義」)で出てきた小屋。嫁いだ先が月のさわり(月経)にうるさいところで、月経の際はこの小屋に籠り、寝起きや竈も別にしていたという。古老の一人、小笠原シウは「あれでどれ位損したことか」とぼやく。出産の際の産屋は『古事記』にも記述があるが、こういう小屋は初耳。この地方特有なのか、他にも例があるのか。しかしテキストは「共同体のしがらみが女性の生活を束縛した」としているが、シウの言う「損」ってそういう意味かなぁ?
あと、テキストでは「宮本が性(セックス)に対する伝統社会のおおらかさ、朗らかさを強調するあまり、現代の意識からすると、配慮や批判にかけている部分が散見される」としているけど、どんな「配慮」が必要でどう「批判」すべきか書いてないのは「?」。これ、要するに「名倉談義」にも出てくる「夜這い」のことで、「女性側の視点からは大いに問題がある」「現代の性意識から見たときに、その記述には女性側への配慮が欠けている」「宮本民俗学のそうした側面にはかねてから批判もあり、その点には留意が必要である」としているけど、この「問題」「配慮」「批判」「留意」も具体的でなくやっぱり「?」。まあ、「夜這いは犯罪」と主張し、仲間内で「そうだ」「いいね」とやってる一部界隈があるのは承知してますが、そこに「配慮」しているのか。あの人たち、どこがどう犯罪なのか説明しないので想像に頼るしかないんですが、「娘さんの部屋に忍び込んで無理矢理」とか考えてるんじゃないかな。これって、自分たちの常識が超地理的超歴史的に通用するという現代人の傲慢じゃないか。「名倉談義」にあるんだけど、忍び込んでも(<手口がまるっきり泥棒で笑ってしまう)、家族が雑魚寝していて「こっそり」「無理矢理」とかできっこない。種明かしは、あらかじめ娘さんに了解を取っておく、なのであります(笑)。これの滅茶苦茶洗練された形が平安貴族の「妻問い婚」だよなぁ。
もうちょっと色々と読んでるんですが、長くなりすぎたのでまた次回。
#11443
バラージ 2024/06/26 19:47
訂正
「宗尊は歴代鎌倉将軍でただ1人頼朝と血のつながりがない将軍」と書きましたが、8代将軍の久明親王も頼朝と血のつながりがありませんでした。
#11442
バラージ 2024/06/26 01:04
南北朝への鎌倉史B 親王将軍 前編
またも貞時期に入る前に鎌倉中期から末期までの親王将軍(宮将軍とも言う)についての話。実はこれを書きたくてシリーズを始めたんですよね。
1252年に征夷大将軍の九条頼嗣が執権時頼・連署重時によって解任され京に送還。替わって後嵯峨上皇の第1皇子である11歳の宗尊親王が時頼・重時の要請で新たな将軍として鎌倉に下ってきました。親王将軍の誕生です(#11343)。それ以前の摂家将軍2代(九条頼経・頼嗣)についても武家ではなく公卿の藤原氏としての行動が顕著だったとのことですが、宗尊の場合はよりはっきりと武家の棟梁というよりも親王としての行動が求められ、親王としての血筋から行動が制限される宗尊は御家人たちにその存在を隠される将軍になっていくとの指摘がされています。そのためもあってか宗尊は歌人としての活動が顕著で、実朝以来の歌人将軍として精力的に和歌に励み、『続古今和歌集』(1265年成立)では最多入選歌人になっているとのこと。1257年には時頼の嫡男時宗が元服しますが、その際に宗尊の偏諱を受けています。時宗はわずか7歳での元服でしたが、前年に時頼が病から出家して執権の地位も義兄弟の赤橋流北条長時に譲ったことから元服が急がれたんでしょう。宗尊は1260年に近衛兼経の娘の宰子と結婚。宗尊は19歳、宰子は20歳でした。鎌倉に下ってきた宰子は得宗時頼の猶子になった上で宗尊に嫁いでおり、一般的に猶子関係は猶子となる側が低い身分であるため、近衛家より身分の低い北条氏の猶子になるのは異例とのこと。また1263年には、1238年の頼経以来の将軍の上洛が計画されましたが、災害の頻発を理由に中止。この年、時頼が死去し、時宗が得宗を継ぎます。1264年には宰子が嫡男の惟康王を出産。宰子の母の九条仁子は頼経の同母姉妹で、そのため惟康もほんのわずかながら頼朝の同母姉妹の血を引いているとのこと。逆に宗尊は歴代鎌倉将軍でただ1人頼朝と血のつながりがない将軍でした。なお、この年、執権長時が死去し、連署の政村が執権に、そして得宗の時宗が連署に就任しています。1265年には宰子が娘の「りん(手偏に侖)」子女王を出産しました。
そして1266年3月、宗尊は近臣の藤原親家を内々の使者として上洛させます。6月5日に鎌倉へ戻った親家は、後嵯峨から宗尊への宰子に関する内々の諷諫を伝えました。19日には御内人の諏訪盛経が幕府の使者として上洛の途につき、20日には時宗邸で時宗・政村・金沢流北条実時・安達泰盛による「深秘の沙汰」が行われ、また惟康誕生の際に験者を務めた幕府護持僧の松殿僧正良基が将軍御所を退出した後に何らかの理由で逐電。23日には宰子とりん子が時宗の別邸山内殿に、惟康が時宗邸にそれぞれ移り、理由のわからぬこの出来事によって鎌倉中が騒動となります。24日には大地震が起こり、26日から7月1日にかけて近国から御家人が続々と集まってきます。3日には民衆も騒ぎ出し、集まってきた御家人が時宗邸近辺で鬨の声を上げる事態となって、時宗邸と御所の間で使者が数度に渡り往復。このような場合は将軍が執権邸に入るか、御家人が御所に集まって将軍を守るはずなのに、それが無かったので人々は大いに怪しんだとあります。御所からは近臣の多くが退出してわずかな近臣が残るのみだったとのこと。4日、名越流北条教時が甲冑の武士数十騎を率いて辻堂宿所に進み騒動はさらに拡大したため、時宗は使者を派遣して教時を制しましたが、教時は謝罪もしなかったとあります。宗尊は女房輿で佐介流北条時盛邸に移り、上洛の途について、赤橋の前で輿を鶴岡八幡宮のほうに向け、しばらく祈念し詠歌。20日に宗尊が入京し、六波羅探題北方の常盤流北条時茂邸に入ったところで『吾妻鏡』は筆を置いています。
『外記日記』『五代帝王物語』などによると両親の後嵯峨と平棟子は宗尊を義絶して謁見を許さず、また23日(または24日)には惟康王が鎌倉で将軍に就任しています。10月28日には幕府の使者が上洛し、11月6日に宗尊に領地5ヶ所を献じて後嵯峨に宗尊の義絶を解くよう要請。7日には幕府の使者が宗尊のもとを訪問しています。京では宗尊更迭について様々な噂が飛び交っていたらしく、近衛基平の日記『深心院関白記』にも「何が事実で何が事実ではないのかわからない」と記されているとのこと。17日には、2日に鎌倉を発っていた宰子とりん子が入京し、12月に至って宗尊はようやく父の後嵯峨と対面できました。おそらく後嵯峨も宗尊更迭の理由がわからず、かつての九条頼経や頼嗣の送還事件のように宗尊が北条得宗家打倒を企み追放されたんではないかと危ぶんで過剰反応したんでしょう。翌1267年2月には鎌倉より逐電した僧正良基が諸国流浪の末に高野山に至り断食して死亡したとの噂が流れたと『外記日記』にあり、また9月には宰子が出家しています。宗尊の出家は5年後の1272年2月(父後嵯峨法皇の死去によるもの)であることから夫婦関係に何か問題があったのは確かなようで、『外記日記』には良基の弟子たちが十三回忌の供養まで修めたが良基と宰子が夫婦となり暮らしていたのが発覚して、宰子の所領である越前国坂北庄が幕府に召し上げられたとの噂を記しています(1281年までに坂北庄が幕府に召し上げられたのは事実とのこと)。なんかご近所スキャンダルというかゴシップ週刊誌ネタみたいな話だなあ。なお宗尊出家の同年には源具教(堀川具教)の娘との間に瑞子女王が誕生。具教の娘が産んだ子には他に僧正真覚がいるとのこと。宗尊は1274年に33歳で死去しており、りん子と瑞子は共に後宇多天皇の後宮に入っています。
宗尊が将軍を解任されて京へ送還された理由について『吾妻鏡』は何も記しておらず、くわしい事情は不明。宰子と良基の密通事件を口実に宗尊に謀叛の嫌疑がかけられて将軍の解任と京への送還が決定されたとする見方もありますが、『吾妻鏡』を読んでも宗尊が反北条的な動きをした気配がなく、また妻と護持僧の密通がなぜ宗尊の謀反になってしまうのかも説明がつきません。一方で、宗尊が密通した宰子を離縁しようとするような強硬な措置を取ろうとして父の後嵯峨に密かに相談したものの後嵯峨は事を荒立てぬよう制止し、また執権・連署への相談もなしに行った宗尊の行動が幕府の不興を買って宗尊は孤立したとする推測もあるようです。なお個人的な推測ですが、宗尊更迭を強く主張したのは時宗である可能性が高いように思われます。時宗邸で「深秘の沙汰」が行われた後に宗尊更迭の動きが起こっており、またそのような動きの中で武装兵を率いておそらくは宗尊更迭に抗議の意思を示した教時を制止したのも時宗とあります。長老の執権政村は温厚で穏健な性格で知られ、一方で時宗は当時まだ16歳でしたが6年後の二月騒動も時宗の主導だったと推測されており苛烈な性格だったと考えられます。後に教時が二月騒動で粛清されたのもこの時の事件が遠因だったとする見方もあるようですね。
思いの外長くなっちゃったんで後の3人の将軍についてはまた次の機会に。
>すっげえ昔の元寇映画
『蒙古襲来 敵国降伏』……1937年10月公開の松竹映画。日本映画データベースでは上記タイトルで、画像検索で出てくるヤフオクの新聞広告だか雑誌広告だかの切り抜きも同じタイトルですが、松竹の公式サイトでは『蒙古襲来・敵国降伏・出師篇』となってますね。この年の7月には日中戦争が勃発してますが、製作期間を考えると製作はそれ以前から行われていたでしょう。日本映画データベースによると主演の林長二郎(後の長谷川一夫)が演じたのは北條時宗。他に松竹の公式サイトに名前が載ってる俳優は坂東好太郎(日本映画データベースによると演じた役は大納言 藤原師忠)、高田浩吉(兵衛次郎政国)、北見礼子(時宗奥方。特別出演)、六代目嵐徳三郎(僧日蓮。特別出演)。また、その他の北条氏の登場人物が北條宗頼(時宗の異母弟)、北條為時(時定。時宗の叔父)、北條義政(重時の五男。連署)、北條実政(実時の四男)と元寇映像作品ではちょっと珍しい面子です。義政以外は大河『北条時宗』にも登場していません。宗頼・為時・実政は時期こそ前後するものの西国に下向した人たちだから登場したのかも。現在ではソフト化もされていませんが、古い映画ですしフィルムが残ってないのかもしれません。
>Oh!ニッポン人、ニッポン人
徹夜城さんがX(twitter)で、『光る君へ』の中国人の台詞が聞き取りやすい普通話(北京語)だというのを取り上げてましたが、僕はとりあえず中国人が中国語をしゃべってれば北京語だろうが広東語だろうが特に気にならないんですよね。『ラスト・エンペラー』みたいに英語をしゃべってたり、『落陽』みたいに日本語をしゃべってたりしたら、何だそりゃ?ってなっちゃうんですが。むしろ僕がちょっと気になるのは登場人物がやたらと「日本人(にほんじん)」という言葉を使うところでして。宋人(そうじん)に対応する表現なんでしょうが、当時の人は「日本人(にほんじん)」なんて言わないよなあとどうにも違和感が。だったらどう言えばいいんだと聞かれると確かに困るんだけど。まあ宋人ていうのも正しいのかよくわかんないし。ちなみに朱仁聡役の浩歌(ハオゴー)さんはもともとの芸名は矢野浩二。20年以上中国で活動してる日本人俳優で、去年現在の芸名に改名したそうです。史劇風ファンタジードラマ『海上牧雲記』にも出てましたね。
>アニメ『逃げ上手の若君』
すっかり忘れてたけどそういや7月から放送じゃなかったっけ?と思い出して調べてみたら、7月6日の午後11時30分からTOKYO MXで放送開始とのこと。TOKYO MXって確か東京ローカルのテレビ局だったんでは? まぁその分全国のローカル局でも放送するようですが、ほとんどが数日遅れの放送で深夜の時間帯。ただしBS11でTOKYO MXと同日同時間帯に放送するようなんで、BSデジタルを観れる環境なら問題なく全国同時放送で観れるようです。あとCSのアニマックスでも20日ほど遅れで放送されるみたい。とか言って原作も読んでない僕はたぶん観ないと思いますが……。
#11441
バラージ 2024/06/07 23:40
あの頃の戦場ジャーナリズム映画
『アンダー・ファイア』という1983年の米国映画を観ました。1979年の内戦下の中米ニカラグアを取材するカメラマンとジャーナリストを主人公とした社会派映画です。監督はロジャー・スポティスウッド、主演はニック・ノルティで、共演がジョアンナ・キャシディとジーン・ハックマン。ちょうどこの頃は他にも『キリング・フィールド』(未見)とか『サルバドル』といった戦場ジャーナリストを主人公とした社会派映画が作られてましたが、この映画の存在は1〜2年前に初めて知ったんですよね。あの頃にエルサルバドル内戦と並んで米国がCIAなどを使って介入してたニカラグア内戦を描いてることに興味を持ったんですが、Blu-rayのみのようで(過去にVHSはあったみたい)当然レンタルは無く、買うほどでもなあ……と思ったらちょうど今年初めにケーブルテレビに入ってるCSのザ・シネマで放送されたんで録画したわけです。
ニカラグア内戦は、父・兄・弟と3代40年以上に渡る独裁者ソモサ大統領と左翼革命組織サンディニスタ民族解放戦線によるもので、映画にはソモサ大統領も解放戦線も出てくるものの基本的には架空人物によるフィクションの物語となっています。ただし実際に米国のテレビ局のレポーターが1979年にニカラグアの国家警備隊に射殺されて、そのニュース映像が世界中で報道された事件にヒントを得て製作されたとのこと。冒頭からプロローグとして主人公がアフリカのチャド内戦を取材するシーンが出てくるんですが(チャドもその頃内戦だったんですね)、わらわら出てきた象兵を爆撃機がバンバン爆撃して象さんたちがパオーンと逃げ惑うシーンに、象が暴れたりしなかったのか?と撮影が心配になるようなスケールの大きい大作っぷりを見せつけてくれます。舞台が本筋のニカラグアに移っても同様で、戦車が出てきたりとかなりの大掛かり。そんなリアルな舞台の中で描かれるのは報道するジャーナリズムの使命と矜持、そしてそれを超えた人としてのあり方です。そしてそこにサブエピソードとして、現場主義のラジオ報道記者キャシディをめぐるタフな戦場カメラマンのノルティと上昇志向が強いジャーナリストのハックマンの三角関係が絡みます。ソモサとその愛人ミス・パナマをはじめ、ソモサ政権のスパイと噂されるフランス人実業家や、金のためなら誰にでも付く傭兵、ソモサ政権のイメージ向上をはかる米国人広報官など、一癖も二癖もある悪役勢も印象に残ります。この映画、なんでも大コケしたらしいんですが、まさに隠れた良作という表現通りの作品でした。面白かった。
ちなみに映画はソモサ政権が倒されてニカラグア革命が成就されるところでめでたしなんですが、実際にはその後もサンディニスタ政権の内部分裂とカーターからレーガンに代わった米国の再介入で第二次ニカラグア内戦が始まってしまうのでした。
>未見映画
『危険な年』……1983年のオーストラリア映画。スカルノ政権末期のインドネシアに取材に訪れたオーストラリア人ジャーナリストを主人公とした作品で、監督はピーター・ウィアー、主演がメル・ギブソンで、共演にシガーニー・ウィーバーなど。邦題が何の映画かわかりにくいよ!
『ノリエガ 独裁者の真実』……2000年の米国のTVムービー。『ノリエガ 神に気に入られた男』の別邦題あり。パナマの独裁者ノリエガの伝記映画ですが、日本ではCS放送のみでソフト化も配信もないみたい。監督がロジャー・スポティスウッドで、主演はボブ・ホスキンス。そういやオリバー・ストーンも一時ノリエガの伝記映画を撮ろうとしてたことがあったような。
>今後公開される歴史映画
『バトル・オーシャン 海上決戦』『ハンサン 龍の出現』に続くキム・ハンミン監督の李舜臣(イ・スンシン)3部作完結編『ノリャン 死の海』が8月9日に公開とのこと。李舜臣が戦死した露梁(ノリャン)海戦が描かれるそうですが、これも地元には来ないかなあ。
また『十一人の賊軍』という幕末を舞台とした時代劇映画が11月1日に公開されるそうです。シネマトゥデイの記事によると、「「日本侠客伝」「仁義なき戦い」シリーズなどで知られる脚本家・笠原和夫が1964年に執筆した幻のプロットを、監督・白石和彌、脚本・池上純哉、企画・プロデュースの紀伊宗之といった「孤狼の血」シリーズの制作チームが受け継いだ本作。1868年の戊辰戦争にて、15代将軍・徳川慶喜を擁する旧幕府軍の“決死隊”として砦を守る任に就いた11人の罪人たちと、薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍=官軍の戦いが描かれる。」とのことです。
#11440
バラージ 2024/06/03 21:05
間違えた
「BS-i(現BS-TBS)」でした。
#11439
バラージ 2024/06/03 21:00
南北朝への鎌倉史A 評定衆・引付衆・寄合衆編
タイトルが長すぎたんで縮めました。今回は鎌倉後期に突入する前にまず前期・中期を片付けちゃおうってことで、執権・連署の後編は後回しにして評定衆・引付衆・寄合衆の話。
評定衆は3代執権泰時の時に設置された役職で、執権・連署のもとで10人以上の評定衆が幕府の最高評議機関として政務・裁判の評議を行いました。設置当初に就任した11人のうち三浦義村を除く10人までが中原氏・二階堂氏・三善氏などの「文士」と呼ばれる吏僚層御家人でしたが、泰時執政期後半には早くも文士以外の有力御家人、特に北条氏の就任が多くなってきます(もちろん文士も多く就任してはいますが)。北条氏で最も早く評定衆になったのは1236年に就任した泰時の異母弟朝時(名越流の祖)でしたが、初参の後に即日辞任したことは以前書きました(#11301)。次いで1237年には時房の3男資時が評定衆になっています。嫡子でもなく1220年に出家してましたが(#11305)、なぜ資時が抜擢されたかは不明。政務裁判処理の得意な人だったのかな? 1239年には泰時の異母弟政村と時房の嫡男である4男朝直(大仏流の祖)が、1241年には泰時の嫡孫経時と異母弟有時(伊具流の祖)が就任。また他の有力御家人では三浦泰村(経時の祖母の兄弟)が1238年、安達義景(経時の母の兄弟)が1239年にそれぞれ評定衆となってますが、これは経時への後継を考えた処置だったのかもしれません。
経時期に入ると将軍(後に大殿)九条頼経との暗闘が表面化。評定衆についても、1243年に経時の舅の宇都宮泰綱が就任する一方で、翌1244年には頼経派の三浦光村・千葉秀胤と得宗派の伊賀光宗(政村の伯父または叔父)がそれぞれ就任するなど両派の主導権争いが激しくなります。しかし時頼期に入り、宮騒動と宝治合戦で頼経派勢力が壊滅すると政権も安定。なお時頼は経時執権期に評定衆になること無く執権となりましたが、これは評定衆となるには時頼がまだ若すぎた上に執権(得宗)継承予定者でもなかったためでしょう。その後の時宗・貞時・高時も若くして執権となったためか、いずれも評定衆を経ることなく執権(または連署)になっています。
時頼の時代には御家人の所領関係の訴訟の迅速さと公正さを図るために引付衆が設置されました。首席の引付頭人は資時・政村・朝直などの評定衆も務める北条氏が兼任しています。引付衆も北条氏とその他の有力御家人・文士が任命されていましたが、評定衆ともども時代が下るに従って北条氏が独占するようになっていきます。高時期に任命された評定衆は1名を除けば全てが北条氏庶流で占められており、しかも残る1名が御内人である内管領の長崎高資。御内人の評定衆就任は初めてのことで、得宗家および北条氏による権力独占が指摘されますが、一方で分割相続が基本のこの時代は北条一族も分家が増えすぎて与えるポストが足りなくなってきたのかもしれません。御家人の窮乏化や皇統の分裂も分割相続の影響によるもので、鎌倉後期の大きな社会問題だったんでしょう。
実際、鎌倉後期には評定衆も引付衆も形骸化して、地位はあっても実質的影響力のない単なる出世コースと化しています。実質的に幕府を動かしていたのは寄合衆という重臣会議で、得宗の近親や姻戚関係者および得宗被官である御内人で構成されていました。起源は病に倒れた経時が弟の時頼を後継の執権とした際に開かれた「深秘の御沙汰」と呼ばれる秘密会議で(#11319)、その時の出席者は経時と時頼以外はわかりませんが、後を継いだ時頼が頼経派を粛清した宮騒動の際に時頼邸で開かれた「内々御沙汰の事」「深秘の沙汰」の出席者は時頼・政村・金沢流北条実時・外戚の安達義景なので(#11321)、その時と同様のメンバーだったんではないでしょうか。重時が連署になった後は「深秘の御沙汰」は開かれていないようで、将軍九条頼嗣の更迭と宗尊親王の将軍就任という重大案件も時頼と重時が2人だけで決めたとされています(#11343)。次に「深秘の御沙汰」が開かれたのは宗尊親王更迭の際で、出席者は得宗で連署の時宗・執権政村・実時・外戚の安達泰盛。政村・実時死後の寄合衆は『建治三年記』によると時宗・泰盛と文士の太田康有、御内人の佐藤業連・諏訪盛経・平頼綱などだったらしく、北条氏庶流がいなくなり得宗被官である御内人が多く入った時宗の専制志向が色濃く出たメンバーだったようです。「寄合衆」という名称が初めて登場するのは平頼綱が権力を握っていた1289年に政村の嫡子時村が寄合衆に「補任」されたとする『鎌倉年代記』の記事とのことで、寄合はついに幕府の公的機関として位置づけられるようになり、以後幕政を主導する政務機関となっていきます。
>『光る君へ』
いやぁ、中宮定子役の高畑充希さん、いいですねえ。さすがは演技派。中関白家は今後も悲劇的なことが次々に訪れるんですが、さらに魅せてくれるんでしょうか。一方ちょっと気になるのが、まひろ(紫式部)が物語を読んでる様子が全然ないこと。あんな歴史に残る大長編物語を書いたくらいなんだから、自分もそれ以前の『竹取物語』とかの物語をたくさん読んで親しんでたんじゃないかなあ? 全然読んでなくていきなり物語を書けるとは思えないし、また書きたいと思い立つとも思えないんですが。ま、基本的には面白いドラマなんですけどね。
そういや話変わるけど藤原道長役の柄本佑くんと源明子役の瀧内公美さんは映画『火口のふたり』でも共演してたのを思い出した。ひょっとして道長と明子もあんな生々しくて赤裸々なことを(以下自粛)。ちなみに検索すると柄本くんと黒木華さんも映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(未見)で夫婦役をやってるとのことで。また吉高由里子さんと柄本くんは大石静脚本ドラマ『知らなくていいコト』(未見)でも共演してたらしい。でもって吉高さんと松下洸平くんはドラマ『最愛』(未見)で共演……って共演だらけだな(笑)。まあ、ありがちなことなのかもしんないけど。
>『君とゆきて咲く〜新選組青春録〜』
僕の住んでる東北の片田舎でも放送してるんでてっきり全国放送かと思ってました。とはいえ僕は新選組に興味がない上に、公式サイトのトップ画像を見ただけで今流行りの女子向けイケメン系か2.5次元系だなと思ったんで最初から全く観てませんが。てか手塚治虫が原作だったんですね。でも確か手塚の『新選組』ってまだ絵柄が子供向けマンガマンガしてた古い時代の作品だったのでは? 読んでないけど。
>『怪談新耳袋』
2006年の「最終章」っていうシリーズの主演の1人が好きな女優の星野真里さんだったんで、ホラーにはほとんど興味がないにも関わらずそのシリーズだけは観ました。「最終章」とか言いながらその後もシリーズは続いちゃうんだけど(笑)。BS-i(旧BS-TBS)のプロデューサー丹羽多聞アンドリウが当時『ケータイ刑事(デカ)』シリーズ、『恋する日曜日』シリーズと共に手がけてた3本柱のシリーズで、3シリーズとも当時の若手女優が入れ代わり立ち代わり主演してましたね。僕は『恋する日曜日』と『ケータイ刑事』はちょこちょこ観てたんだけど、結局今でも残ってるのは『怪談新耳袋』だけという(笑)。
>これから来る歴史映画
『ボストン1947』という韓国映画が8月に公開されるとのこと。1936年ベルリン五輪のマラソンで金メダル・銅メダルを「日本代表として」獲得したソン・ギジョン(孫基禎)とナム・スンニョン(南昇竜)が、戦後の植民地解放後にソ・ユンボク(徐潤福)を指導して1947年のボストン国際マラソンで優勝させるまでのお話らしい。これもちょっと観たいけど地元には来なさそう。
#11438
ろんた 2024/05/23 21:40
「戦火のエトワール」(原作:門馬司/漫画:木野花ヒランコ)
ヤングマガジン増刊号「カケヒキ」で見つけた歴史ものの読み切り短編。紹介には「大戦前夜、彼女は美しき諜報員となった。『満州アヘンスクワッド』門馬司が描き出す、踊り子×スパイ巨編」とある。お話は……
昭和13年、東京。兄の出征後に病に倒れた母を抱える原田雪子は、ダンスホールでユキと名乗ってダンサーとして働き始め、その美貌と運動能力、官能的な踊りでたちまち東京一とも言われる売れっ子になる。だが、嫉妬した仲間に襲われ、足を負傷し踊れなくなってしまう。母の治療費どころか食費にも事欠くようになった雪子は、「女給募集」のビラにひかれて喫茶店に入る。すると、新聞記者だというドイツ人に声をかけられ……
……というもの。もうお判りでしょうが、この新聞記者がリヒャルト・ゾルゲ。雪子のモデルはゾルゲの愛人・石井花子でしょう。ただ、ゾルゲの正体についてぎりぎりまで知らなかったとされる石井に対し、雪子は早くに正体を明かされ、報酬のために積極的に諜報活動に従事する。なんとなく、マタハリのイメージが投影されている気がするなぁ(笑)。ああ、ゾルゲのバイク好きもお話に取り入れられています。
>アイドルの歴史
デコちゃんより林長次郎(長谷川一夫)や李香蘭(山口淑子)の方が古い。そしてテンプルちゃんもアイドル、とか考えるときりがないような(笑)。「どうする連」なんて親衛隊までいたという明治時代の女(娘)義太夫はどうだ、江戸時代の歌舞伎役者たちはアイドルだろう、美人画にまで描かれた水茶屋のお姉さんは「会いに行けるアイドル」のご先祖だろ? 花魁は会いに行くにはハードルが高いか? え〜〜っ、出雲阿国まではさかのぼりそうです(笑)。
>「君とゆきて咲く〜新選組青春録〜」
TVerで見てますが、どうもオッサンはお呼びでない感じで、想定視聴者は腐女子っぽい(笑)。壬生浪がみんなイケメン細マッチョ。近藤さんよ、お前もか! 山南さんはメガネ男子。芹沢鴨は怪しい感じ。そこはかとなくBL風味や2.5次元感、「刀剣乱舞」感が漂う。OPやEDはかっこいい。まあ、今は奇異に見えても、後々時代劇はこうなっていくのかもしれないなぁ。以前、評判悪いと聞いていた「柳生十兵衛」(時任三郎主演/TBS,松竹制作)を見たら、違和感を感じなかったもの。多分、時代劇全体がこの作品が示した方向に転換したんだと思う。そういえば以前話題にした時、テレビ朝日系だと書き忘れていました。でも関東と関西でしかやってないかも。
>『霊験お初 〜震える岩〜』
タイミングが悪くて触れられませんでした。二時間ドラマ+時代劇って絶滅危惧種みたい(笑)。「死人憑き」と「震える岩」という怪異譚を結びつけるのが『耳嚢』の根岸肥前守鎮衛というのが面白い。原作は読んだはずだが細部は覚えてないなぁ、と思ったら蔵書に無い。なんと偽記憶だった模様(汗)。(<結局、その後に買った) ああ、バラージさんが触れているドラマ「怪談新耳袋」って、同名の怪談集が原作だと思います。本家の方は巷の噂話を収集したもので、怪異譚は含むが怪談集じゃないんだけど。ちなみに岩波文庫版を買い逃しているうちに品切れになってしまった。こういう機会に重版しないのが岩波なんだなぁ。
続編もあるんだけど、そっちもドラマ化されるかな。
>『サテュリコン』(ペトロニウス/国原吉之助/岩波文庫)
美貌の少年奴隷をはさんで争いながら南イタリアを放浪する二人の青年を中心に、好色無頼の男や女が入り乱れる。小説『サテュリコン』はまさに古代ローマの爛熟が生み落した「悪の華」だ。とりわけ、奴隷あがりの成金富豪が催す《トリマルキオンの饗宴》の場面は古来有名。セネカの諷刺短篇『アポコロキュントシス』を併載。(カバーより)
以前の書き込みと重複しますがご容赦を。ペトロニウスはセネカ引退後、ネロのサロンの中心となった人物。後にセネカ同様、ネロに自殺を強要される。『サテュリコン』は、そのサロンで朗読されたものらしい。現存するのは14巻から16巻。ただし、16巻以降が存在したかどうかも不明。時として無関係なエピソードが挿入されたりするが、写本の状態が悪く前の部分が紛れ込んだりしているらしい。まとまったエピソードは、有名なトリマルキオンの饗宴ぐらいか。フェリーニの映画を見た時、断片の寄せ集めという印象を持ったんだけど、わざとやってるんじゃなくて原作からしてそうだったんだな(笑)。それにしても、風刺ものを地球の裏側に住む二千年後の人間が楽しむのは難しい。併録されている『アポコロキュントシス』は先帝クラウディウス(ネロの義父にあたる)への風刺というが、クラウディウスに関する知識が無いと読み進められない(汗)。セネカとしてはネロにおもねる気持ちと期待とがあったと思うけど。
>『修羅の刻 陸奥圓明流外伝(20)(21)』(川原正敏/月刊少年マガジンKC)
陸奥圓明流は『修羅の門』の主人公・陸奥九十九が使う古流武術。無手で千年無敗。ある日、このネタで時代劇ができる、と思いついて描かれたのがこの『修羅の刻』。日本史に登場する強者どもとガンガン闘っていくんだけど、今回の相手は酒呑童子。異形異能のゆえに共同体から弾き出された人々のリーダー。内裏に放火したり、道隆、道兼を殺したりとさながら反政府ゲリラ。対峙するのはもちろん源頼光と四天王。っていうか坂田金時は陸奥庚、源(渡辺)綱がその姉という設定。来月は(22)が出て酒呑童子編は終結。っていうかこれ、「光る君へ」の時代じゃないか。黒幕は道長だったりして(笑)。ああ、同じ作者の『龍帥の翼』は全25巻で完結。というより、こちらを終わらせて『修羅の刻』にかかったんだろうな。
>映画「碁盤斬り」
最近、クサナギくんがやたらバラエティに出てるな、と思ったらこの映画の宣伝だった。役名が「柳田格之進」なので、落語(元は講談)の「柳田格之進」(「柳田の堪忍袋」「碁盤割」とも)の映画化かと思ったら、かなりアレンジしてあるみたい。落語の方は……
柳田格之進は誠実で曲がったことが許せない男。その性格のゆえに家中に馴染めず浪人する羽目になり、妻も亡くし娘と裏長屋で鬱々と暮らしていた。そんな父の姿を見かねた娘が、唯一の趣味が囲碁だったところから碁会所に通うように勧める。すると格好の碁仇が見つかった。万屋源兵衛という両替商で、碁会所で会えば終日、二人で打ち続けていた。やがて、こんな調子なら碁会所に行くだけ無駄だ、というので源兵衛の屋敷に招かれて碁を打つようになる。そんなある日、二人で碁を打っている最中に番頭が源兵衛に預けた五十両が紛失する。番頭に疑われた格之進は、娘が身を売った五十両を渡し、他から金が出てきたら源兵衛と番頭を斬る、と告げ姿を消す。ところが年末のすす払いで五十両が出てくる。さらに年始回りをしていた番頭は、大藩の重役といった身なりの武士に声をかけられる。それは帰参かなった格之進で……
……という話。今日では演者によって結末部分にアレンジが加えられることもあるけど。映画は、格之進が浪人するエピソードを膨らませて復讐譚に仕立てている模様。
#11437
バラージ 2024/05/21 20:50
ジャンヌだらけ
ちょっと前に『ジャネット』『ジャンヌ』とジャンヌ・ダルク映画を初めて観たんで、他にもわりといっぱい作られてるジャンヌ映画がふと観たくなり、観れるものをいくつかまとめて観てみました。
『ジャンヌ・ダーク』
1948年の米国映画。本屋の前で売ってた激安DVDが290円(税抜)だったんでその値段ならと買いました。イングリッド・バーグマンが念願のジャンヌ・ダルクを演じた映画で、同じくバーグマンがジャンヌを演じた舞台劇の映画化とのこと。『風と共に去りぬ』(未見)のヴィクター・フレミング監督の遺作だそうです。オリジナルは145分らしいんですが、よほど評判が悪かったのか初公開から2年後には100分の短縮版が公開され、日本で公開されたのも短縮版。DVDもオリジナル版と短縮版の両方出てるようですが、僕の買った激安DVDは短縮版でした。
ジャンヌ・ダルクの生涯を一通り描いてはいますが、きわめて平板な展開と演出でどうにも退屈。登場人物が特に葛藤もなくあっさりジャンヌに感化されたり、逆に悪役は実にわかりやすいワルでドラマがありません。10代で死んだジャンヌをバーグマンが演じる無理は仕方がないにしても、構図も演技も前時代的でどうにも凡庸です。戦争シーンも迫力がなく、当時破格の460万ドルをかけたわりに安っぽく見えるのは、まだ大作に慣れてない製作現場のせいなのか、それとも当時のカラー映像がまだ色の使い方を模索してたからか、はたまた単に激安DVDで画質が悪いからか。それでもジャンヌの裁判に入るとそれまでよりはマシな出来になり、処刑シーンも多少の盛り上がりを見せます。とはいえ全体的には疑いようのない凡作なのも確か。
その後、ネオ・レアリズモの巨匠ロベルト・ロッセリーニとの不倫に走りイタリアに渡ったバーグマンは、ロッセリーニが歌劇を映画化した1954年の『火刑台上のジャンヌ・ダルク』で再びジャンヌを演じています。しかしそっちは日本公開もビデオ化もされず、2003年になってようやくDVD化されたようですが、高いので買ってまで観る気はなし。
『ジャンヌ・ダルク裁判』
1962年のフランス映画。DVD化もされてますがレンタル店には無いし、買うほどでもないしなぁといろいろ探したら、なんと図書館にVHSがあったんで借りて観ました。
タイトル通りジャンヌの裁判と処刑のみを描いた映画で、当時の裁判記録をもとにほぼ素人のみのキャスティングで古い城の庭と地下室を使い撮影されたとのこと。終盤の火刑の場面はジャンヌの死から20年後に行われた復権裁判での証言から再現したと映画の冒頭で説明されています。劇的な要素を徹底的に排除してひたすら淡々と進む映画で、素人役者たちから芝居くさい演技をとことん剥ぎ取った演出が実録的な臨場感を高めてましたね。ほとんど記録映画なんじゃないかとさえ思えますが、だからといって退屈だというようなことは全くなく、むしろそのネオレアリズモみたいな突き放した作風が興味深くて面白い。ロベール・ブレッソン監督は敬虔なカトリックとのことで本作のジャンヌは他作品の人間的なジャンヌに比べてやや理想化されているとの見方もあるようですが、本作単独で見る限りではそこまでには感じませんでした。ちなみに65分という短さの中編映画?なんですが、記録通りに撮っていったらそれくらいの時間になったということなんではないでしょうか。これは面白かった。
ブレッソンは先行する地元フランスのジャンヌ映画で傑作と名高い1928年のカール・テオドア・ドライヤー監督(デンマーク人)による無声映画『裁かるゝジャンヌ』を批判してこの映画を製作したそうですが、そっちは観てないので比較してどうなのかはよくわかりません。『裁かるゝ〜』はかなり古い映画なんで激安DVDとか出てるのかと思いきや、むしろ2Kレストア版とかの最新Blu-ray&DVDしかないのであった。さすがに買ってまではなあ。他に地元フランスのジャンヌ映画で日本でも公開されたものにジャック・リヴェット監督の『ジャンヌ 愛と自由の天使』『ジャンヌ 薔薇の十字架』(1994年)の前後編4時間にも渡る大作がありますがVHS化のみ。しかもそれは短縮版で、5時間半以上の完全版も『ジャンヌ・ダルク/I 戦闘 II 牢獄』として公開されましたがそちらは劇場公開のみでソフト化されていません。
『ジャンヌ・ダルク』
1999年の米仏合作映画。フランスのリュック・ベッソン監督が当時の奥さんのミラ・ジョボビッチ主演で撮った英語映画です。やはりジャンヌの生涯を一通り描いているんですが、いかにも今風ハリウッド娯楽映画といった感じ。ま、よくよく考えればそもそもベッソンの映画は良くも悪くもフランス映画っぽくなく、米国的なエンタメ映画要素が強い。そういう意味では『ジャンヌ・ダーク』ほど古臭くもなく、『ジャンヌ・ダルク裁判』のようなドキュメントタッチでも『ジャネット』『ジャンヌ』のような前衛映画風でもないんで、一般的には1番見やすいとも言えるでしょう。
ただ、どちらかというとジャンヌをパラノイア的に描いて聖性を否定するような作品で、現代的と言えば現代的な解釈ですが、ヒステリックに喚き散らしたかと思えば、怯えてパニックに陥るというようなジャンヌ像には正直違和感を感じます。ジョボビッチも到底10代にも農民の娘にも見えずミスキャスト。また初っ端、姉カトリーヌが殺されて強姦されるのをジャンヌが目撃するというエピソードが描かれ、他の映画にはそんな話なかったんで、あれえ?と思って調べたらこれが全くのフィクション。史実ではカトリーヌは妹だし殺されてもいません。おそらくベッソンは現代人らしく神の存在なんて信じてなくて、ジャンヌが神の声を聞いたという話もそのままには受け取れないため、何らかのトラウマによる幻視・幻聴と解釈し、そのトラウマを作り出すためにそのような創作をしたんでしょう。妹を姉に変えちゃったのも、妹が姉をかばって殺される展開では不自然なためだと思われますが、そのような結論または志向から逆算して史実を改変するという態度にはいささか疑問を感じます。
凄惨な戦争シーンこそ他の作品にはないド迫力ですが、獄中でのジャンヌと彼女の“良心”の対話ってのもかなりどうかと思う。その分裁判シーンが割を食って非常に短く物足りないし、火刑シーンもずいぶんあっさりとしたもので。裁判長の聖職者ピエール・コーションが他の映画と違って意外にいいやつでジャンヌに同情的なのも珍しい。ジャンヌ映画は何度も作られてるんで過去の作品とは違う解釈を取ったのかもしれませんが、なんだかジャンヌという人物を否定的に描いた映画のようにさえ思えましたね。
うーん、ここまで観たら『裁かるゝジャンヌ』やリヴェットの『ジャンヌ』2部作も観たくなってきた。どっかで放送やらんかな。
#11436
バラージ 2024/05/15 19:34
さらにその後の鎌倉史・南北朝への道 執権・連署・六波羅探題 前編
仰々しいタイトルを付けちゃいましたが別にそんな大層なもんではなく、ただ鎌倉時代中期から後期の話をつらつら書いてっちゃおうかなというだけです。あわよくば最終的にはこのサイトのメイン?の南北朝時代にもつながっていけばいいななんて思ったりもしちゃいまして。といっても鎌倉中期〜後期については源平合戦〜鎌倉前期ほどにはくわしくないんで、大して長くは続かないだろうけど。
てなわけで、まずは泰時期から時宗期までの歴代執権と連署および六波羅探題の人事について。なぜ時宗期までかというと貞時期以降はごちゃごちゃしててめんどくさいから。なのでとりあえず時宗期までを検討して、貞時期以降については次回に回します。
まずは泰時期。#11296、#11301、#11305、#11427でも書いたように、六波羅探題として京にいた泰時が1224年に父義時の急死によって叔父の時房と共に鎌倉に帰還し、政子の命で執権となります。後任の六波羅探題は泰時の務めていた北方を泰時の長子時氏が、時房の務めていた南方を時房の庶長子時盛(佐介流の祖)がそれぞれ任じられたとされてますが、時房が総責任者として引き続き六波羅探題を務めたものと思われます。翌1225年に政子が死去すると泰時は時房を鎌倉に呼び戻して副執権とも呼べる連署に任命。1230年には泰時が時氏に代えて異母弟の重時(極楽寺流の祖)を六波羅探題北方に任じますが、鎌倉に帰還した時氏はまもなく病死し、時氏の子経時が泰時の嫡孫として後継者になります。1240年には連署時房も死去し、以後連署は置かれず執権泰時が単独で政務を担当。1242年に泰時が重病に陥ると、泰時は六波羅探題北方の重時を鎌倉に呼び戻しますが、もう1人の六波羅探題で南方の時盛も勝手に鎌倉に帰還し、そのまま京には戻らず出家してしまいます。そのため京に六波羅探題が不在となり、結局重時は泰時の死後再び京に戻り、以後は単独で六波羅探題を務めています。おそらく泰時はわずか19歳で執権となる経時のために重時を連署にして補佐させようとしたのだと思われますが、時盛の勝手のためにそれができなくなったのだと思われます。
次いで経時期から時頼期。#11319、#11321、#11342、#11343にも書きましたが、経時期には連署は置かれず、19歳で執権となった経時が単独で政務を行っています。1246年の経時死後に弟の時頼が20歳で執権の座を継ぐと、前将軍藤原頼経を京に送還して名越流北条光時・時幸を粛清した宮騒動の後、大叔父の重時を鎌倉に呼び寄せて相談相手とすることを三浦泰村に打診しますが泰村は反対。時頼は翌年の宝治合戦で三浦氏を滅ぼした後に重時を鎌倉に召喚して連署とし(六波羅探題後任は重時嫡男の極楽寺流北条長時〈赤橋流の祖〉)、さらに三浦側に付いて滅亡した毛利季光の娘を離縁して重時の娘を妻としています。以後時頼はもっぱら重時を頼りとしたようで、1252年に将軍藤原頼嗣を京に送還して宗尊親王を新たな将軍に迎えた重大案件も時頼と重時が2人だけで決めたとあります。1256年に重時は出家して連署を退き、重時の異母弟で重時に次ぐ北条氏長老の政村(政村流の祖)が連署に就任。長時も父の後を継ぐため鎌倉に帰還します(六波羅探題後任は重時三男の極楽寺流北条時茂〈常盤流の祖〉)。ところが同年には病に悩まされていた時頼も執権を辞任して出家し、嫡男時宗が成長するまでの眼代(代理)として時頼の義兄弟でもある長時が執権に就任します。おそらく長時は時頼とも親しく温厚な人柄で時宗の将来をおびやかすような人物ではなかったんでしょう。しかし病から回復した時頼は以後も幕府の公職に付かぬまま得宗として政権を主導し、これが執権政治から得宗専制への移行の始まりとされています。ただ時頼が病に悩まされていたのは事実で、1263年には重病となりついに37歳で死去(重時はその2年前に64歳で死去)。まだ時宗が13歳の時でした。
最後に時宗期。時宗若年の間の眼代(代理)として後を託された長時でしたが、時頼の死から1年も経たぬうちに時頼の後を追うように35歳で病死。時宗はまだ14歳だったため長老の連署政村が執権となり、時宗が連署となります。それまでの連署は若い執権を補佐する長老といった役職でしたが、時宗の場合は成長するまで長老政村のもとで執権見習いをするような形になったんでしょう。また同年には時宗の庶兄時輔が長く空席だった六波羅探題南方に就任して上洛。時盛の辞任(解任?)後、六波羅探題は重時・長時・時茂と20年以上に渡って北方が単独で務めており、南方は必ずしも必要なかったと思われますが、幕府も時輔の処遇に困ったのかもしれません。
1268年には18歳になった時宗がようやく執権に就任し、政村は再び連署に退きます。この頃から高麗を服属させ南宋を攻撃する元の使者が到来し始めており、指揮系統の1本化を意図したとも考えられています。1270年には六波羅探題北方の時茂が30歳で病死し、その後任がなかなか決まらず翌年になって赤橋流北条義宗が就任。その翌1272年、迫るモンゴル襲来の脅威の中で起こったのが二月騒動で、鎌倉で名越流北条時章・教時が得宗被官(御内人)に、京で時輔が義宗に討たれています。ところがその後すぐに時章追討は誤りだったとされて追討した御内人が処刑され、教時を討った御内人は賞罰なしという不可解な結果に終わりました(義宗はお咎めなし)。これについては事件後に政村が時宗を戒めるような上表を残していることから、権力集中を志向する若い時宗とそれを支える御内人の独走によって起こった事件で、根拠なく一門衆が討たれたことに強い反発が起きたため慌てて御内人の責任として事を収めたとする見方が有力。時章は宮騒動以来一貫して得宗家に従順でしたし、時輔にしても不審な行動は見られず、冤罪だったことは明らかです。なお時輔には当時から生存説が根強くあったようで『興福寺略年代記』『保暦間記』に記されてる他、勘解由小路兼仲の日記『勘仲記』によると文永の役の最中の1274年に混乱に乗じて時輔が時宗の叔父時定(時頼の弟。後に為時と改名。阿蘇流の祖)と結んで鎌倉へ侵攻しようとしているという噂が流れたらしく、また時宗が死んだ1284年には時輔父子を捕縛するよう命じる関東御教書が発給され、時宗の死から6年後の1290年には時輔の次男とされる人物が六波羅探題に捕縛されて斬首されているとのこと。おそらく館が焼け落ちるか何かで時輔の死体が見つからなかったんでしょうね。なお六波羅探題南方は時輔の死後再び空席となるのでやはり必ずしも必要はなかったのだと思われます。
二月騒動の翌1273年、長老の政村が69歳で死去。後任の連署は重時五男の極楽寺流北条義政(塩田流の祖)。1274年には文永の役が勃発しますが、義政も穏健派の人物で、翌年に元の使者の杜世忠を時宗が処刑しようとした時には和睦の道もあると反対したとのこと。1275年には政村らと共に時宗を支えた金沢流北条実時が隠居して翌年に53歳で死去。さらに連署義政は病のため政務を十分に行えず1277年には突如連署を辞任して出家(1282年に41歳で死去)。それ以後、時宗は連署を置かずに単独で政務に当たっています。また1275年には3年ぶりの六波羅探題南方に佐助流北条時国が就任。かつて勝手に探題を辞めた祖父時盛が孫のために共に上洛して補佐したとのこと(翌年81歳で死去)。北方の義宗は1276年に鎌倉に呼び戻され、翌年評定衆になるもまもなく25歳で死去。1277年に政村嫡男の政村流北条時村が北方に就任し、以後の六波羅探題は2人体制が常態化していきます。
この頃から時宗は代替わりして血縁の遠くなった一門庶流よりも自らの近親者を重用し始めます。1276年には異母弟の宗頼を長門・周防守護に任命。宗頼は現地に赴き元軍の襲来に備えることとなり、後にその役職は長門探題と呼ばれるようになります。さらに1277年には同母弟の宗政を筑後守護に任命(ただし現地には行かなかったようです)。しかし宗頼は1279年に長門国で、宗政は元軍の再襲来で弘安の役が起こった1281年に鎌倉でそれぞれ20代の若さで死去しており(宗政は29歳、宗頼は生年不明だが宗政より年下)、弟たちに先立たれた時宗は孤独の度を深めたとも言われます。一方で1281年には叔父の時定を肥前守護に任命し、やはり時定も現地に下向。時宗死後の1287年には鎮西奉行となり、1290年に博多で死去しています。なお時定には前記の通り1274年の段階で時輔と結び鎌倉へ攻め上ろうとしてるという噂が流れてるので、すでにその時点で九州に下っていた可能性もあります。
1283年、数年ぶりで連署が置かれます。重時四男の極楽寺流北条業時〈普恩寺流の祖〉で、時宗死去の前年のためあるいは時宗はすでに体調が悪く、幼い嫡男貞時への継承を考えた措置だったのかもしれません。しかし1284年に時宗が34歳で死去した後の幕府を主導したのは外戚の安達泰盛で業時はほとんど働きらしい働きをしていないため、もはや連署が機能しなかったか、もしくは時宗自身が後に思い直して泰盛に後事を託したのだと思われます。
てなわけで後編に続く。いつのことになるかわかんないけど。
>最近観た歴史映画
『ビザと美徳』
1997年の米国の短編映画。第二次大戦中にユダヤ人をビザで救った杉原千畝を題材とし、当時アカデミー賞最優秀短編映画賞を受賞したことがちょっとだけ話題になった記憶があります。VHS化のみでDVD化されてないんですが、図書館にVHSがあったのを見つけたんで借りて観ました。30分弱の短編なんでリトアニアでユダヤ人を救う部分に話を絞っており、物語のクライマックスだけ見せられてる感じ。登場人物も杉原夫妻とあるユダヤ人夫婦の4人にほぼ絞られてます。全編英語なのも若干リアリティを損ねてますが、これもまあ仕方がないでしょう。それでも演技・演出・脚本ともにしっかりしており、10年ほど前の駄作日本映画『杉原千畝 スギハラチウネ』よりはよほど楽しめます。
#11435
バラージ 2024/05/10 23:38
の・ようなもの
『世界サブカルチャー史』アイドル編。まあ日本語の「アイドル」って言葉はやっぱり日本独自の概念でしょうからね。アイドルの歴史が日本偏重なのも仕方ないかと。ただ日本で言うアイドルのような存在、もしくはアイドルに類似した存在は海外にも見られるわけで。Wikipediaの「アイドル」の項には「欧米では1939年にはジュディ・ガーランドが『オズの魔法使い』で一躍アイドル・スターになり、1940年代にidolと呼ばれたという説もあるフランク・シナトラよりも早かった」とか「日本においては当初「アイドル」という言葉は、主に日本国外の芸能人を対象にした呼称として用いられた。「日本で最初のアイドル」として挙げられる一人に、明日待子がいる」とか書いてありますな。何かの本で、戦前に子役デビューし後に少女スターとなった高峰秀子主演の映画『秀子の車掌さん』(1939年)が日本初のアイドル映画だなんて書いてるのも見かけました。ま、アイドル的存在と言っちゃえば佳子さまだってパンダだって何だってアイドル的存在と言っちゃえるわけで(笑)。
>以前義経の肖像画(室町以降のもの)と有名なチンギスハーン肖像画を比べて「苦労したのか人相がずいぶん変わった」と説明していた
ブハハハ、いや思わず笑っちゃいました。件の「義経=ジンギスカン説」の本はたまたま本屋で見かけて、いまだにこんなの本にして出してる人いるんだと思って著者を見たら田中英道氏でした。中身までは読まなかったけど。ただ田中氏を弁護するわけじゃないけど美術史畑の人っていわゆる歴史家とはちょっとジャンルが違って、歴史よりも美術(芸術)寄りの存在という感じなんですよね。有名な神護寺の伝源頼朝像を頼朝ではないとする新説に対して、旧説通り頼朝だと反論する人は美術史畑に多いらしいですし(もちろん新説を支持する美術史家もいますが)。
>唐の酒でウィ〜(by『光る君へ』)
吉高由里子が酒を飲んでるとついこう言いたくなっちゃうのは僕だけではなかったようで(笑)。道隆、道兼と続けざまに退場して、いよいよ道長のターンに入り始めましたが、兄貴2人が若死にしたから権力の座が転がり込んできたわけで道長ってラッキーマンだよなあ。
>『霊験お初 〜震える岩〜』
こないだテレ朝で放送されてた単発時代劇ですが、好きな女優の野波麻帆さんが出てるという理由でちょっと観てみたらなかなか面白くて最後まで観てしまいました。宮部みゆきの小説『震える岩 霊験お初捕物控』が原作とのことで歴史と関係ない時代劇かと思いきや、作中の時代から100年前の忠臣蔵とちょい関係した物語でしたね。あと坂東彌十郎さんが演じた根岸肥前守鎮衛って実在の人物だったんだな。『耳袋』ってのを書いた人なんですね。そういや『怪談新耳袋』っていうホラードラマがあったな。
>未見映画
『ファルハ』……2021年のヨルダン・スウェーデン・サウジアラビア合作映画。1948年のイスラエルによる民族浄化“ナクバ”(アラビア語で“大災厄”)をパレスチナ人少女の視点から描いた映画とのこと。日本では映画祭上映のみで劇場公開・DVD化・配信などはされていません。
『スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ』……確かこちらで以前話題に出てた2019年のロシア・ウクライナ・中国合作による全12話のドラマシリーズを、日本では2023年に2話ずつ6プログラムに分けて劇場上映したとのこと。DVD化や配信もすでにされているようです。
#11434
ろんた 2024/05/09 01:44
NHK「歴史探偵」
先日、夜中にテレビつけたら、たまたまこの番組がやってました。以前の番組と比べると、よく言えばとっつきやすい、悪く言えばネタが薄いんで最近は見てなかったんですが、なんと北条時行と北畠顕家を「二人の若君」として取り上げていました。しばらく見ていると、スタジオゲストが本郷和人氏。あれ?と思っていたら、松井優征先生がインタビューされてる。なんでしょう、これ。ひょっとしてアニメってNHKでやるのか?(笑)
途中から見たんで、中先代の乱のあたりは見逃してしまいました。見たのは、北畠顕家の遠征のあたり。第二次遠征になると西国は足利方がいっぱいで疲労困憊。討ち死に前夜、後醍醐天皇宛の手紙で、地方の実情を見ろと献策。うん、とりあえず後醍醐が全部悪い!(笑) その後、時行の死はナレベース。まあ、15年後の話なんで二人のカップリングに無理がある気もしますが。
その後、再放送をチェック(05/07)。やはり前半では中先代の乱を取り上げていた。当たり前か(汗)。しかし、なんだか『逃げ若』ありきで番組作ってる印象。笑ったのは肖像画。顕家のは後世のながらオーソドックスなものですが、時行のは"(C)松井優征/集英社"とある。ちなみに昨年の夏に放送されたものの再放送だった(汗)。
>世界サブカルチャー史 アイドル編
実は最終回を見たときに思ってたんですが、なんか日本に偏重しているなぁ。日本でいうアイドルが欧米にあるのかっていう問題はありますが。ビリー・アイリッシュやテイラー・スウィフトがアイドルかって言われると「う〜ん」だし、マリリン・モンローってアイドルなのかな。それでも60年代まではアイドルがいたのかな? ビートルズがアメリカに上陸した際、シナトラやプレスリーの方が凄い、とくさす向きがあったみたいだし。「ヘルプ!」の邦題に「4人はアイドル」ってついてたな、と思ったら'65年。シルビィ・バルタンの方が早かった。
>『カムイのうた』
春陽堂書店からコミカライズが出ていますね(漫画:なかはらかぜ/原作:菅原浩志)。「原作者」は監督、脚本の方らしい。
>日本の核実験
武谷三男(1911-2000)という理論物理学者がいまして、戦時中には原爆開発してたんですが、そんな話はしてないと思うなぁ(笑)。ちなみにこの人の「予言」はよく当たるという話があって、1983年の本で旅客機はこれからも落ちるし原発も事故を起こすと言ってる。そしたら二年後にどちらも実現してしまったという……。これは、巨大技術というものは小さな技術の集積でできているので、細部の破綻が全体に及ぶことを避けられない(=完全に防ぐことはできない)という考え方によるものらしい。
#11433
徹夜城(後期倭寇研究者にしてルパン研究者の管理人) 2024/05/06 23:30
実は「ワンピース」は全く読んでなくて
>右投げ右打ちさん
ご教示どうもです。当該記事、未登録で読めるとこだけ読みましたが、「フランス人倭寇研究者」というフレーズに個人的にすごく感慨深いものを感じました。僕なんかさしずめ「日本人ルパン研究者」でしょ(笑)。ま、博士論文は書いてないけど。
僕自身は16世紀の後期倭寇研究者なので前期倭寇の話はその「前史」としてしか首を突っ込んでいないのですけど、もちろんつながるところもあるわけで。そういや最近倭寇を扱った小説が出てるのをアマゾンで見かけましたが、これも南北朝時代とからめた前期倭寇ネタのようですね。
>逃げ上手の若君
雑誌連載はとんと読んでないので、ようやく最近になって単行本の最新刊まで読みました。いやぁ、少年ジャンプ的にいろいろ大胆脚色は多いけど、ディープな南北朝ネタが随所にとりこまれていて、登場人物もかなり多く、史実をふまえた伏線もいろいろ張ってて想像以上に濃い南北朝漫画になってますな。わが「南北朝列伝」でも記事でとりあげないといけないなぁ。
もう北畠顕家も死んで、あとは観応の擾乱が起こるまで大きな動きはんないのかなぁ。そこへ向けての伏線もいろいろ張ってますよね。
時行にも一応生存伝説の類があったはずで、いくらでも逃がす手はあるでしょうね。
生存伝説で連想しましたが、「ヘンテコ歴史本」コーナーでとりあげた「ユダヤ人埴輪」の田中英道さん、以前から主張していた「義経=ジンギスカン説」のほうも本にしちゃったようですね。それに絡めた最近の講演動画なんてのを先日見てしまった。
田中氏、美術史専門家なんですが、以前義経の肖像画(室町以降のもの)と有名なチンギスハーン肖像画を比べて「苦労したのか人相がずいぶん変わった」と説明していたことがあり、こりゃ美術史のほうもダメだと思ったものです。
最近でも映画「オッペンハイマー」を批判、「日本人の原子核研究に触れてない」というあたりまではまだいいとして、「日本が朝鮮半島で核実験に成功していた」という前にもしていた根拠不明の主張をまたやってました。
>佐介流
「南北朝列伝」の佐介時俊、貞俊については「太平記」にその名で出てくるから、という理由だけであの項目を書いたんですが、書いた時にざっと参考にしたものでは混同かどうかの話は出てこなかったような。
北条氏の「❍❍流」もやりだすと大変で、僕が使ってる「鎌倉室町人物事典」では全員「北条」で統一してますね。
#11432
右投げ右打ち 2024/05/05 13:07
フランス人歴史家に聞く 「日本の海賊」を研究しようと思った理由
https://courrier.jp/news/archives/362444/
前期倭寇に関する博士論文で第39回(2022年)渋沢・クローデル賞を受賞した歴史学者のダミアン・プラダン氏へのインタビューです。
クーリエ・ジャポンの無料会員に登録すると全文読めました
早田左衛門大郎や阿只抜都について質問するあたり、インタビュアーの方もお詳しいのではとの印象を受けました
琉球王国の成立に倭寇が関わっているかもという話は初耳でした
海賊漫画ワンピースについての話は笑ってしまいました
#11431
バラージ 2024/05/02 20:51
学問と歴史と映画
いやぁ、米国の大学、えらいことになってますなあ。まるで1960年代の学生運動の頃に戻ったかのような。学生たちがイスラエルに甘いバイデン離れを起こして、相対的にトランプに有利に働くんじゃないかなんて見方も出てたりして、いやはやなんとも。
ようやく映画『オッペンハイマー』を観てきました。クリストファー・ノーラン監督作はあまり観てなくて、『インセプション』に次いでこれが2作目です。
単純に映画としては面白かったですね。3時間の長さを全く感じさせないのはさすがです。ただ徹夜城さんがおっしゃる通りストーリーが時系列順ではなく劇中の時間が頻繁に前後するので、米国史についてある程度の情報や知識がないとわかりにくいところもあるかも。予備知識がなくてもなんとなくわかる原爆開発はともかく、戦後米国の赤狩りと共産主義については事前に少しは知っておいたほうがいいかもしれません(まあ知らなくても全くわからないということはないと思いますが)。登場人物もやたらと多く、アインシュタインとか“水爆の父”テラーとか有名人もちょくちょく出てくるんですが(ちょっとだけ出てきたフェルミも名前は聞いたことがある)、知らない人のほうがずっと多いんでそういう歴史映画が苦手な人にもちょっととっつきにくいかも。そういう意味でも全体的に『JFK』にちょっと似てるかな(と思ったらやっぱりノーランは『アラビアのロレンス』と『JFK』を意識したと言ってるようで)。ただノーランはオリバー・ストーンと違っていわゆる社会派の監督ではないから根本的な作風はだいぶ異なりますが。
広島・長崎の原爆被害の描写がないことが批判されてますが、ノーランによるとあくまでオッペンハイマーが見聞・体験した範囲のことを描いているため、そういうシーンがないということらしい(オッペンハイマーは死ぬまで広島・長崎を訪れたことはなかったとのこと)。むしろ問題なのは、マンハッタン計画で原爆開発を主導し、他の科学者がドイツの降伏で実戦使用の必要は無くなったと政府や軍に提言しようとすることも押し留めたオッペンハイマーが、なぜ戦後になって核開発競争や水爆開発の反対派に立場を変えたのかが今一つわかりにくいこと(ま、そのあたりは広島・長崎の被害描写がないこととも関わってきますが)。1945年から54年までのシーンが少ししか描かれないので、オッペンハイマーが核開発反対派に変わるのがずいぶん唐突に感じてしまいます。そこはもう少しじっくり描くべきだったんではないかな? とはいえ映画としてはよく出来ていてなかなか面白かったし、日本人としては間違いなく一見の価値はある映画でしたが。
助演でマット・デイモンとかジョシュ・ハートネットとかロバート・ダウニーJrとかケネス・ブラナーとかマシュー・モディンとかトム・コンティとか、さらには特別出演でゲイリー・オールドマンも出てたようですが、観てた間はデイモン以外は全然わからなかった。みんな歳食ったなあ。メイクの力もあるんだろうけど。
マンハッタン計画を描いた映画は他にもいくつかあるようで、その1本が1989年の『シャドー・メーカーズ 』(原題:Fat Man and Little Boy)。『オッペンハイマー』ではデイモンが演じていたグローヴス将軍をポール・ニューマンが、オッペンハイマーをドワイト・シュルツという俳優が演じ、オッペンハイマーの妻(演:ボニー・ベデリア)と愛人(演:ナターシャ・リチャードソン)も出てくるようです。監督はローランド・ジョフィ。日本ではビデオスルーだったようですが、DVD化もされてるようですね。
もう1本がやはり1989年のTVムービー『デイワン 最終兵器の覚醒(めざめ)』(原題:Day One)。こちらはグローヴス将軍がブライアン・デネヒー、オッペンハイマーがデヴィッド・ストラザーンで、こちらは奥さんのみが登場し愛人は出てこないみたい。また『オッペンハイマー』にも登場していた科学者のシラードがこちらでは重要人物で、前半はほぼ主役状態とのこと(演:マイケル・タッカー)。監督はジョセフ・サージェント。こちらはVHS化(2巻組)のみのようです。
なお、いずれの作品もマンハッタン計画のみを描いており、『オッペンハイマー』のように戦後の赤狩りを描いてはいません。
それから『カムイのうた』という日本映画も観ました。20世紀初めにアイヌの神謡(カムイユカラ)集『アイヌ神謡集』を編纂・翻訳し、19歳の若さで亡くなった知里幸恵というアイヌ女性をモデルとした映画です。
「モデルとした」というのは登場人物の名前が全て史実とは変えられてるからで、主人公は北里テル、幸恵の伯母の金成マツは叔母のイヌイェマツ、言語学者の金田一京助は兼田教授といった具合。朝ドラ方式ですな。日本の映画やテレビドラマは現代の実在人物が登場する作品だとこのパターンが多い。ストーリー展開の必要性などで事実と話を変えても関係者から抗議されたりしないようにするためなのかも。米国なんかは実在人物の伝記映画でも平気でフィクションぶち込んじゃうんですけどね。
映画は主人公が女子職業学校に入学するあたりから、『アイヌ神謡集』翻訳直後に死去するまでを描いています。オーソドックスな伝記映画という感じで、出来は悪くはないが良くもない。つまらなくはないけれど面白いとも言えない平均的レベル、平たく言えばきわめて平凡な映画というのが正直なところ。テーマや題材は重要だとは思うんですけどね(アイヌの墓から盗掘された遺骨や埋葬品を学者が研究のため勝手に収集するという、ある意味タイムリーな描写もありました)。劇映画である以上、広い意味での娯楽性は必要で、やっぱり映画として面白くないとなあ。
主人公役が吉田美月喜という若手女優、叔母役が島田歌穂、兼田教授役が加藤雅也、その妻役が清水美砂という配役で役者たちはみな好演。それで映画が少々底上げされてる部分もあります。90年代に好きだった清水さんを久々に見れたのはうれしい。今でもあの頃とあんま変わんないなあ。
>世界サブカルチャー史 アイドル編
BSプレミアム4Kの1時間30分バージョンを地上波Eテレでは30分ずつ3回に分けて再編集しています。
第1回はYOASOBIの『アイドル』で幕開け。Snow ManやAKB48もチラッと出てきて、そこから30年代〜大戦中のフランク・シナトラ→50年代のエルビス・プレスリーやマリリン・モンロー→1958年の日本映画『巨人と玩具』→60年代フランスのジョニー・アリディ→そしてアリディが主演した映画『アイドルを探せ!』に出演したシルビィ・バルタンで次回に続く。
第2回のオープニングは西城秀樹。『アイドルを探せ!』でバルタンが日本でも大人気となり「アイドル」という言葉が日本に定着。来日したバルタンがレナウンのCMで「♪レ〜ナウ〜ン、レナウン娘が」と歌う白黒映像から、バルタンと宮崎駿アニメヒロインの属性の相似の指摘。そして橋幸夫(歌手引退して夢グループのCMに出てると思ったら結局歌手復帰しちゃったなあ・笑)・舟木一夫・西郷輝彦の御三家。60年代共産圏の女性アイドル。ビーチボーイズとビートルズ。60年代末の世界的学生運動を経て70年代のシラケ世代から、南沙織・小柳ルミ子・天地真理。『スター誕生!』の開始(80年代『スタ誕』の中森明菜)とピンク・レディー。80年代に入り、東大アイドルプロデュース研究会と武田久美子。バブル景気と日本叩き。親衛隊と追っかけ。西城秀樹、松田聖子、角川映画と原田知世で次回へ。
第3回オープニングは日向坂46。本編はおニャン子クラブで始まり、本音派アイドルと呼ばれた小泉今日子。ソ連崩壊とお騒がせのt.A.T.u.。イギリスのスパイス・ガールズ、インド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』、韓国の東方神起。そしてAKB48と選抜総選挙。ももクロとモノノフ。韓国K-POPのBTSが全米を席巻。トランプもある意味アイドル? そして総論から最後は再びYOASOBIの『アイドル』で終幕。
現在放送中のヒップホップ編は個人的趣味からさほど興味を持てず、流し見状態です。
#11430
ろんた 2024/04/29 20:40
二つの八犬伝
バラージさんの書き込みで、「え? あれを映画にするの!?」と思ったら『八犬伝』(朝日文庫)の方だったんですね。山田風太郎には『忍法八犬伝』(講談社文庫)というのもあるもので。
『南総里見八犬伝』から150年後、各藩の家宝を上覧に供することになった。中でも里見家の"忠孝悌仁義礼智信"の八顆の珠がお世継ぎ・竹千代の目にとまり、献上することになる。だが、里見家取り潰しを狙う本多正信は、服部半蔵配下のくノ一八人を使い里見忠義をたぶらかし、"淫戯乱盗狂惑悦弄"という偽物とすり替える。この危機に藩の重臣である八犬士の子孫らは、珠の奪還を甲賀で忍法修行中の息子らに託すべく切腹して果てた。かくして八犬士の名を継いだ息子らだったが、八人中七人は忍法修行の辛さに耐え兼ねて江戸へ逃亡、無頼な暮らしをしていた。そしてただ一人修行を全うした犬江親兵衛も、お家のために命をかける気などない。だが、奥方・村雨が珠を奪還すべく出奔すると、密かに村雨に憧れていた八人は、その意を受け伊賀くノ一八人と戦う……という話。
読んでお分かりのように全くのフィクション。大体"忠孝悌仁義礼智信"の珠や八犬士が実在したことになっている(笑)。しかし山田風太郎らしく巧みに史実を取りこんでいて、里見忠義の代で里見家は取り潰されちゃってる。どうやら、本作の村雨にあたる奥方が大久保忠隣の娘で、連座したらしい。物語の方ではメデタシメデタシになっていますけど。
そういえば「新八犬伝」がレコーダーに録画されていた。奇跡的に残っていた三本を放送したものらしい。因果はめぐる糸車。
>『世界サブカルチャー史 欲望の系譜』
アメリカ編をあらためて最初から始めて21世紀分も放送。次はヨーロッパ編だと思ってたら、曜日が代わって新シリーズ。しかも木曜日の深夜に再放送? 気がつくわけないじゃないか!(<ここで中指をおったてる)
ということで再放送でアイドル編最終回を見ました。冒頭が日向坂のMVで笑ってしまう。面白かったのは「セーラー服を脱がさないで」は女の自己決定を歌ってる、という解釈。確かに「いいじゃねぇか」という男に「ダメよ〜、ダメダメ」(古)って歌だなぁ。小泉今日子がアイドルを演じるアイドルというメタな存在だとか、ファンもビジネスであることを承知していながら参加しているって指摘はそう目新しいものでもなかったような。ただ、ジャニーズ騒動とか見てると、そんなファンばかりじゃないみたいだな。あとBTSって「ベストヒットUSA」とか見てると、ヒットチャートに全然出てこないんだけど何故だろう。
>『逃げ上手な若君』
時行の死は「イチミサンザン」の20年後=1353年。現在は1337年なんであと16年。このペース(4年で15巻)でいくと75巻になるけど……(笑)。配下に幻術使いもくノ一もいるし、魅摩(佐々木道誉の娘)と仲直りして天変地異を起こしてもらうとか、処刑から逃れる手はありそうだが……カバー折り返しで、アンハッピーエンドをどう読者に納得させるか、みたいな話をしてるんでやっぱ処刑されちゃうかも。あと、四肢と首の骨を折られ、目を潰されても復活する尊氏をどう始末する?(笑) 最近は顧みられない置文伝説を引っ張って来たのには意表を突かれたけど。人間的感情が露になるところに付け入るスキがあるとのことなんで、直義の死あたりで決着になるのか?
#11429
バラージ 2024/04/23 21:29
『世界サブカルチャー史 欲望の系譜』
毎回気になりながら不定期放送のため放送されてることに気づかず、つい見逃しちゃうこの番組。シーズン2のヨーロッパ編、シーズン3の日本編は全て見逃してしまいましたが、今年初めにBSプレミアム4Kでシーズン4が放送されたらしく、それが地上波に降りてきました。今シーズンの第1回はアイドル編。アイドルの興りを大戦中のフランク・シナトラに求めており、若き日のシナトラの映像を見て、あのおっさんこんなに若かったのかよ!とよくよく考えれば当たり前のことに驚いたり、60年代フランスに登場した『アイドルを探せ!』のシルビィ・バルタンを日本のレナウンがテレビCMに起用して、あの有名な「♪レ〜ナウ〜ン、レナウン娘が」と歌わせたという事実(まだ白黒の時代!)に、日本の企業って昔からそういうことしてたんだと妙なところに感心したり、相変わらずなかなか面白かったですね。第2回以降は、ヒップホップ編、ポップス編、ゴシック編、サイバーパンク編、ゲーム編と続いていくようです。
ちなみに僕が見逃したヨーロッパ編の60年代に登場した映画・TVドラマが「甘い生活」「勝手にしやがれ」「大人は判ってくれない」「土曜の夜と日曜の朝」「007 ドクター・ノオ」「太陽がいっぱい」「世界残酷物語」「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」「アメリカ上陸作戦」「アルフィー」「卒業」「仮面 ペルソナ」「if もしも. . . . 」「ざくろの色」。70年代が「惑星ソラリス」「ひまわり」「ホーリー・マウンテン」「1900年」「暗殺の森」「アメリカン・グラフィティ」「エマニエル夫人」「家族の肖像」「ザ・チャイルド」「エクソシスト」「サスペリア」「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」「酔拳」「ロッキー・ホラー・ショー」「大理石の男」「サタデー・ナイト・フィーバー」「ブリキの太鼓」。80年代が「未来世紀ブラジル」「炎のランナー」「ラ・ブーム」「ディーバ」「ローカル・ヒーロー 夢に生きた男」「ノスタルジア」「パリ、テキサス」「ウォール街」「ラストエンペラー」「コックと泥棒、その妻と愛人」。90年代が「トレインスポッティング」「ニキータ」「ツイン・ピークス」「時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!」「憎しみ」「ピアノ・レッスン」「ユー・ガット・メール」「マルコヴィッチの穴」「ノッティングヒルの恋人」。
日本編60年代が「青春残酷物語」「ニッポン無責任時代」「にっぽん昆虫記」「乾いた花」「昭和残侠伝」「博奕打ち 総長賭博」「肉弾」「新宿泥棒日記」「ウルトラQ」「三大怪獣 地球最大の決戦」。70年代が「書を捨てよ町へ出よう」「ゴジラ対ヘドラ」「仁義なき戦い」「日本沈没」「犬神家の一族」「野生の証明」「太陽を盗んだ男」。80年代が「戦場のメリークリスマス」「私をスキーに連れてって」「家族ゲーム」「逆噴射家族」「コミック雑誌なんかいらない!」「ゆきゆきて、神軍」「帝都物語」。90年代が「難波金融伝 ミナミの帝王 トイチの萬田銀次郎」「美少女戦士セーラームーン」「ソナチネ」「月はどっちに出ている」「CURE」「Shall we ダンス?」「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」「リング」「バトル・ロワイアル」というラインナップだったようです。
>『逃げ上手な若君』「このマンガ、どこまで続けるんだろう。」
そりゃ週刊少年ジャンプですから、人気がある限り連載を続けさせ、人気がなくなったら即打ち切りなのでは?(笑) ま、それはともかく主人公の時行が討たれたらさすがに終わりにせざるを得ないでしょうね。とか言っといて時行が死んだ後も時行の御落胤を主人公にしたり、時行が実は生きていた!とかいう展開で連載を続けちゃったりなんかして(笑)。ジャンプならあり得ないことではないんだよな。僕は第1話しか読んでないんですが。
>『光る君へ』
藤原道隆のターンになって個人的にはますます面白くなってきました。今週は『枕草子』の有名なエピソードが登場し、おお、と思っちゃいましたね。また疫病が京に蔓延するシーンは史実とはいえ、明らかに少し前のコロナ禍を意識していたと思われ、記憶に新しい光景でした。ただ藤原隆家だけはやっぱり竜星涼より永山絢斗のほうが適役だったんじゃないかなぁ。竜星くん、決して下手な役者ではないんだけど、キャラクター的に上手く合ってないというか。まあ急遽の代役を引き受けてくれたんだし仕方がないかな。一方で基本的にはちゃんと主人公まひろを中心に物語が展開してるのは良い。10年代女性大河の反省をちゃんと引き継いでるようですね。これは『いだてん』以来久々の完走ペースかな。なんかここ数年、題材的に興味のないほうがドラマとしては面白いんだよなあ。
>その他の歴史映画&ドラマ
3月にBSプレミアム4Kで放送された歌川広重が主人公の単発ドラマ『広重ぶるう』が27日にBSで放送とのこと。梶よう子の小説が原作で主演は阿部サダヲ。それから山田風太郎の小説を原作とした映画『八犬伝』が10月に公開予定。主演は役所広司。『南総里見八犬伝』の世界と、それを執筆する滝沢馬琴と挿絵を頼まれた葛飾北斎の友情を描く作品とのことですが、僕は原作未読だけど配役や特報映像を見る限りでは後者の比重が大きいのかな。そして1979年に韓国で起こった粛軍クーデターを描いた韓国映画『ソウルの春』が8月に日本公開予定とのことで、これは観たい。でも地元には来ないかもしれないなあ。
>團遥香さんご結婚
すっかり忘れてましたが、プロバスケットボール選手とご結婚されたというニュースを数ヶ月前に読みました。おめでとうございます。お父さんの建築家・團紀彦氏からは源頼朝みたいな男と結婚しなさいと言われてたそうですが、戦う男というような意味らしいんで一応基準はクリアしてるのかな? ま、親父の言うことなんていちいち気にしてられませんよね(笑)。
>南北朝列伝
南北朝列伝に、佐介時俊・佐介貞俊という人物が掲載されてますが、佐介流北条氏は説明文にもある通り北条時盛の子孫であって、時盛の弟時直の孫である時俊とその子貞俊は佐介流ではないんではないでしょうか? 時房の子孫のうち嫡男朝直の子孫「大仏流」と庶長子時盛の子孫「佐介流」以外の子孫はWikipediaによるとひとまとめに「時房流」とされ、姓も北条のままのようです。『太平記』には佐介時俊・佐介貞俊とあるようですが北条氏は一族が多いためもあってか同名の人物がやたら多く、時俊・貞俊も同名の人物が複数いるようなので『太平記』が混同したという可能性もあるんではないかと……。このあたりについてはそんなにくわしくないし、時直の子孫も佐介流に含められた可能性もあるのかもしれませんが……(Wikipediaも絶対ではないし)。
#11428
ろんた 2024/04/21 14:17
「シン時代劇ドラマ」
「時代劇」と「ドラマ」ってかぶってないか? と重箱の隅をつつきたくなってしまいますが、それはともかく。手塚治虫の『新選組』を原作に「君とゆきて咲く〜新選組青春録〜」が「シン時代劇ドラマ」と銘打たれて放送されます(2024/04/24から毎週水曜深夜00:15より 2クールらしい)。民放の時代劇はほんと久々ですが、どのへんが「シン」かと言えば、キービジュアル(ポスター?)の出演者でチョンマゲ結ってるのが一人もいない(笑)。新選組ものだと沖田を演じるアイドルさんがそんな感じだったことはある。でも近藤さんも歳さんも山南さんもってのは初めての気がする。新選組以外のキャラが普通のチョンマゲだったら変な感じにならないかな。そういえば「少年マガジン」に載ってる新選組ものに髪型が半グレ風の芹沢鴨が出てきて、全然正しくないんだけどいかにもらしくて笑った。あと例の隊服(羽織)を着ていない。ドラマの初めだとまだ新選組じゃないからかもしれないけど、キービジュアルでは着物がお揃いなんだよな。そして着物の左右で柄の違うのも「シン」? 現代のシャレオツ着物にはそういうのあるらしいけど。まぁ、わたしが住んでるのは一部地域みたいなんで、見るとしても見逃し配信になりますけど。それとも何週か遅れで放送するのかな。
>『新九郎、奔る(16)』(ゆうきまさみ/ビッグコミックススペシャル)
伊都から焼津の代官とされた新九郎が、新五郎派の前代官を実力で追い出し、これをきっかけに事態は戦に大きく動き始める第十六巻。もっとも新九郎は和戦両様の構えで寝技により多数派工作、めずらしく意思表示した龍王丸は戦に反対。しかし、死期が近づく新五郎は甥(養子)・孫五郎に家督を譲ろうと焦り、既得権益派のボス・福島(くしま)修理亮は、君側の奸・新九郎を除くという大義名分を掲げ開戦へと動く。戦を避けようという新五郎の妻・むねの動きもむなしく、新五郎派は丸子の龍王丸御座所に押し寄せる。血祭りにあげられる堀越源五郎(伊都の取次)可哀そう。一方、京ではいよいよ六角征伐が始まって、細川政元と伊勢貞宗は「聞いてないよ〜」状態に。こちらも今川のお家騒動に微妙に影響し……。
ということで、この巻では目立ったギャグは無し。第百二話冒頭の「あのヤクザのカチコミみたいなのが俺の初陣かぁーっ!!」と、最後のページで出てくる"伊達"三郎ぐらいか(<刀の鍔の眼帯してる)。あと、大道寺太郎らが調略の使者になったりして成長を感じる。次巻はいよいよお家騒動の決着。
>『逃げ上手の若君(15)』(松井優征/ジャンプコミックス)
杉本寺の攻防に決着。斯波家長討死、上杉憲顕逃亡。時行二度目の鎌倉入り。しばしの休息。
対北条の秘密兵器は北条泰家(人質)。鎌倉合戦をスルーしてたのは、この伏線? 二度挙兵したことになってるけど、その辺は見解の相違か。この後消息が絶えるのは、拷問のせいで体を壊して隠居? 斯波家長は、落ち延びられるのにあえて時行に一騎打ちを挑んで討ち死に。観応の擾乱を見越して反高師直派のの形成を促すためらしいけど、それはちょっと人知を超えてないか?(笑) だいたい家長って軍師的存在ということになってるけど、本編中で描かれるのは負け戦ばっかりで、腹黒い寝業師的な印象が強い。その意味では鎌倉合戦を描いていた方が良かったかも。もっとも、家長の智謀というより吉良貞家の援軍で勝ったみたいだ。鎌倉での休息では、亜也子と雫のガールズトークに笑う。(「まず私達が若様と結ばれて、そのあと来た正室の女と仲良くお家を盛り立てて……」「……それはだめ。兄様が炎上するから」) 最後の最後に足利直冬登場。このマンガ、どこまで続けるんだろう。
帯には「2024年7月よりTVアニメ放送開始!」とあり、どうやら夏アニメらしい。ただ、放送日や放送局、系列は不明。キャストも掲載。北条時行:結川あさき/雫:矢野妃菜喜/弧次郎:日野まり/亜也子:鈴代紗弓/風間玄蕃:悠木碧/吹雪:戸谷菊之介/諏訪頼重:中村悠一/とのこと。
>訃報いろいろ
鳥山明さんについては「『ドラゴンボール』が売れた」「『ドラゴンクエスト』が売れた」に終始して、食傷気味。その革命性がなぜわからん? 鈴木健二さんの「面白ゼミナール」はわたしも見てましたね。「お江戸でござる」の元祖かな。しかし「気配りのすすめ」の人でもあるなぁ。読んでないけど(汗)。あの独特の圧の強さは苦手だった。こっちは創作系(笑)マナー講師の元祖かな。山本弘さんの訃報は驚き。わたしはよい読者ではなく、やっぱりと学会関連で知ったなぁ。思えば、この方のHPのリンクからこちらを見つけたんだな。病気が発症した時にはSNSの更新が途絶えてちょっと騒ぎになったと思う。その後も一回騒ぎがあったけど。そういえばマンガの世界でも伊藤明弘や山原義人が倒れてる。いずれも復帰してるけど、伊藤明弘は利き手でない左手で執筆している。
#11427
バラージ 2024/04/16 20:39
思わぬところに歴史映画
最近ようやくまたポツポツと映画を観たり歴史ネタを追いかけたりし始めました。そんな中、歴史映画を観るつもりじゃなかったのに、観てみたら実は歴史関連映画だったというのがあったんでご紹介。
『天使の旅立ち』
1996年の米国映画。90年代に『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』『冬の恋人たち』『チャーリー』『きっと忘れない』などに出演していて好きだった女優モイラ・ケリーの主演映画で、DVDは通常のDVD化ではなく「INSIDE DVD Vol.3」というハリウッド情報DVDマガジンとかいうやつにボーナスDVDとして収録されてます(VHSは普通に出てたみたい)。中古が激安(確か300円)だったんで他の買い物ついでに買ったんだけど、モイラ・ケリー主演というだけで内容をあまり確認せずに買ったんで、現物が来てから20世紀のカトリック社会活動家のドロシー・デイという女性の伝記映画だと知りました。初めて知った人ですがドロシー・デイの1910年代から30年代あたりを描いており、インディペンデント映画のようだけどそれなりに予算をかけた作品のようでなかなかよく出来てました。モイラ・ケリーも熱演かつ好演でやっぱりいい女優です。ただ、それ以上の作品ではないこともまた確かで、まあまあ面白いという程度の映画。しかし問題なのは映画そのものよりもDVDで、かなりの部分で字幕が台詞より1〜2秒遅れて表示されます。おまけDVDだから過大な要求はできないもののさすがにこれはなあ。ちょっとイライラしましたね。
『レディ・エージェント 第三帝国を滅ぼした女たち』
2008年のフランス映画。1944年のノルマンディー上陸作戦直前、英国特殊作戦執行部(SOE)に所属する亡命フランス人レジスタンス女性が、上陸作戦のための調査をしてドイツ軍に捕われた地質学者救出を命じられる。主人公はSOE所属の兄と共に3人の亡命フランス人女性をスカウトし、すでにパリに潜入していた女性レジスタンスを加えた部隊で地質学者を救出。ところがSOEはロンドンに戻ろうとする主人公たちに、上陸地点はノルマンディーだと嗅ぎつけたナチ将校の暗殺を続けて命令。スカウトされた3人は約束が違うと憤るが軍の命令は絶対。彼らはパリに向かうことになる……。主演はソフィー・マルソーですが、僕はスカウト3人衆で1番年下の、やはり90年代に好きだった女優マリー・ジラン目当てで観ました。B級戦争映画みたいな邦題ですがソフィー主演だからそんなことはなく、かなりの予算を掛けた大作となってます。実在したSOEの女性諜報員にインスピレーションを得て作られた映画だそうですが内容はあくまでフィクションで、全体的にリアル志向なのか娯楽映画なのか中途半端でもやもや。そもそも重大任務なのに女性5人中プロの工作員が2人だけで、スカウトされた3人は半分素人なんてありえないよなあ(笑)。だから主人公たちがピンチに陥ってもハラハラしたりせず、そりゃそうだろなどと思ってしまいました。それでも出来は悪くはないんですが、かと言って良くもなく、まあまあといったところ。
>鎌倉史ミニ追記
#11248で、比企能員の乱における頼家の子・一幡の最期について、「以後執拗な捜索が行われ、2か月後に義時はようやく一幡を見つけ出し、藤馬(『鎌倉年代記裏書』では万年右馬允)という郎党に刺し殺させて遺骸を埋めさせたと『愚管抄』には記されています。」と書きましたが、正確には『鎌倉年代記裏書』において一幡を殺したとされているのは藤右馬允という人物のようです。右馬允というのは官位名ですが、「右馬」を「馬」と記すのはよくあることのようなので(読みはどちらも「うま」)、藤馬と藤右馬允は同一人物と考えていいでしょう。「藤」は氏が藤原であることを示していると思われます。藤右馬允を万年右馬允と同一人物と解釈しているのは永井晋氏ですが(確か『鎌倉源氏三代記』〈講談社選書メチエ〉だったと思う)、万年右馬允は泰時期の得宗被官で、泰時死後は出家して万年馬入道と呼ばれ時頼期の宝治合戦でも戦っているため少々時代が合わないような気がします。
また#11305で、「なお(北条)時房が連署に就任したのは一般的に伊賀氏事件の最中に政子によって泰時とともに軍営御後見とされた時とされてますが、政子の死後に泰時によって連署とされたとする説もあるようです」と書きましたが、それについてのくわしい追記。
まず#11296にも書いた通り、『吾妻鏡』によると1224年6月28日に政子が御所に泰時を呼び出し、泰時と時房を軍営御後見に任命したとあります。29日には泰時・時房の命令で泰時の長子時氏と時房の長子時盛が新たな六波羅探題として上洛。当時時房は泰時の指示に全て従っていたとのこと。その後1ヶ月以上過ぎた閏7月1日に政子は鎌倉殿三寅を伴って泰時邸に入り、三浦義村に対して「私は若君を抱いて時房・泰時といっしょにいるから義村もこの場に来るように」と呼び寄せます。3日に政子の御前で事件について審議が行われ、時房や大江広元も参上。評議の結果、伊賀一族の処罰が決定しました……というのが『吾妻鏡』にある伊賀氏事件の頃の時房の動き。
ところが『明月記』などによると、時房はその前月の7月13日の時点で再入京しており、翌1225年6月15日まで六波羅探題として在京して活動していることが明らかになっています。その間の時期の関東下知状は泰時の単独署判で発給されており、時房が泰時と並んで連署を行うのは1225年に鎌倉に下向してからのことであるため、時房の連署(副執権)就任は実際には1225年6月以降と考えられるとのこと。ただし『吾妻鏡』に時房が1225年正月元旦の椀飯を務めたとあることから、時房の再上洛はそれ以後だとする説もあるようですが、これについては時房は京と鎌倉を頻繁に往復していたとする説もあるようです。確かに『吾妻鏡』の記事は、泰時のみが御所に呼び出されたのに時房も共に軍営御後見に任命されたとしていたり、閏7月1日に泰時邸に入った政子が時房・泰時といっしょにいると言いながら3日に改めて時房が来たと記しているなど、時房の行動について不自然な記述が多く、実際には時房はおそらく6月29日の時点で時氏・時盛と共に上洛したのかもしれません。時房が少なくとも7月初旬の時点で鎌倉を出ているとしたら、時房も泰時も伊賀氏を疑っていなかった可能性が高く、やはり伊賀氏事件は政子1人の暴走という可能性が高いと言っていいでしょう。
#11426
バラージ 2024/04/11 23:15
書き忘れた
『光る君へ』、ついに兼家が死去し、道隆・道兼・道長ら息子たちのターンに。いやぁ、兼家役の段田さん、名演でしたね。清少納言も再登場して、実は映像作品では初登場?の藤原定子を演じる高畑充希もかなりいい感じ。さらに面白くなってまいりました。
#11425
バラージ 2024/04/10 18:50
「はい、書きなさい」
僕も『クイズ面白ゼミナール』は子供の頃に一時毎週のように観てました。面白かったですねえ。ただ、あの頃夢中になって観てたわりには今となっては内容をさっぱり覚えてないんですよね。第2コーナーの「歴史クイズ」も言われてみて、ああ、そんなコーナーあったっけとぼんやり思い出した程度。鈴木健二氏のご冥福をお祈りします。
一方、山本弘氏の訃報は全く知らず、徹夜城さんの書き込みで初めて知り驚きました。山本氏というと僕はグループSNEの人として最初に知りましたね。僕が高校生の時にコンピューターゲーム月刊誌『コンプティーク』でテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ記事として『ロードス島戦記』が始まり、「作:安田均とグループSNE」とあったんですよ。当時友人が『コンプティーク』を買ってて、リプレイ記事『ロードス島戦記』が面白いと薦められたんですよね。懐かしい(ちなみに安田氏はまだ御顕在なのかと確認したら現在73歳とのこと)。やがて『ロードス島戦記』のゲームマスターおよび小説版の執筆者としてグループSNEの水野良氏を知ったわけですが、山本氏はその後にグループSNEの人と知ったはず。ただし具体的に何で知ったかはちょっと思い出せません。ただその後、山本氏のキャラクターを知るにつれて僕はちょっと苦手感を感じまして。それ以上の関心はわかなかったかなぁ。ま、高校時代にあれほど夢中になった『ロードス島戦記』も、大学に入ると徐々に興味が薄れちゃいましたし。山本氏は2018年に脳梗塞を発症し闘病生活を続けてたとのことで、これも全く知りませんでした。山本氏のご冥福をお祈りします。
>「こういう複雑な人の伝奇映画にはありがちですが結構話が込み入ってるし登場人物は多いし、科学史と政治史にまたがる基礎知識が一応必要な内容なので見る人は明らかに選ぶ。これまた伝記映画お約束ですが、赤狩りのなかでスパイ容疑をかけられ尋問されるパートと彼の人生をたどるパートとが交互に進む構成には混乱する人もいるかと」
『オッペンハイマー』、ご覧になったんですね。僕もそのうちとは思いつつ、前回書いた通り今のところ気が乗っておらず観ていません。上記のような構成の映画で僕が思い浮かんだのは中国映画『項羽と劉邦 鴻門の会』(原題:王的盛宴)ですね。邦題と違って劉邦を主人公としたシェークスピア悲劇のような映画で、項羽は特別出演みたいな存在ですが、劉邦の回想形式で時系列が前後して交互に描かれる(韓信が粛清される現在と、討秦戦から項羽滅亡までの回想)し、過去のエピソードがやや断片的なんで、項羽と劉邦の知識をある程度持ち合わせてないとわかりにくいところが多いんじゃないかと感じたんですよね。個人的には面白くて好きな映画なんですが(DVDも中古で買った)。
#11424
徹夜城(しばらくぶりに劇場で映画を見てきた管理人) 2024/04/09 22:01
知るは楽しみなりと申しまして…
…知識をたくさん持つことは人生を楽しくしてくれるものでございます」
ご存じ(なのは世代によりましょうが)NHK「クイズ面白ゼミナール」の冒頭のお約束セリフ。それを毎回発していた元NHK名物アナ、鈴木健二さんが先ごろ亡くなられました。95歳と年に不足はありませんが、思い返すとこの人が紅白で引退表明していた都はるみにもう一曲歌わせようと「私に一分だけ時間をください」とやってたときはまだ50代だったのだなぁ、と変なところに時の流れの凄さを感じたものです。
「クイズ面白ゼミナール」は第二コーナーが「歴史クイズ」で、時代劇小芝居をやってからクイズになり、コーナーの終わりに出演者が勢ぞろいして「これが本日のオールKゃストでございます」とやるのも不動のパターンでした。僕はこの歴史クイズコーナーが好きでしてねぇ。、
鈴木健二さんといえば、映画監督・鈴木清順の弟さん。お兄さんの方が映画監督として先に名が売れてましたが(まぁ「訳のわからない映画を作る監督」という評もありました)、健二さんが人気アナになっても清順さんそのことを全然言わず、あるときふと「あれは弟で」と言い出して周囲を驚かせたんだとか。
このお二人、「堂々日本史」だったかほかのNHK歴史番組だったかで「足利尊氏と足利直義」をとりあげ「兄弟対決」をテーマにしたときそろって出演、それぞれ兄・弟のかたを持つという演出がなされていました。
>もひとつ訃報
「史点」では書かないと思うので…やはり先ごろ、SF作家の山本弘さんが他界されました。長い闘病をしていて、68歳の若さ。鳥山明と同い年ということでもあります。
山本弘さんはもちろんSF作家として業績を残されてる人ですが、世間的にはまず「と学会」の会長を長くつとめ、同会の顔だったというのが一番大きいのは否定できないかと。
ちょうどオウム真理教事件があったあとでもあってサブカル分野のトンデモ思想を面白おかしくとりあげ(中に笑えないのもありましたが)そういう世界の存在を広く知らしめた功績は大きいと思います。僕もひところ相当に影響を受けており、本サイト内の「ヘンテコ歴史本」コーナーは明らかにその影響で作られたものです。
実はあのコーナー、山本さんにしっかり見つかっており(笑)、とくに「教科書が教えない日本の神話」の記事にリンク紹介していいかというメールまでいただきました。その返信と再返信とくらいのおつきあいですが、直接連絡をとったこともある方だけに、その訃報は結構こたえました。
今もまた相変わらず非科学的、あるいはオカルトな陰謀論が跋扈するのを目の当たりにしてるだけに惜しまれます(絶滅はしないと思うけどまた目立ってきた気がします)。
>「オッペンハイマー」
日曜日に見てきました。劇場で3時間の大作を見るのも久々でした。
優れた物理学者であり、原子爆弾製造の総指揮者だった人物であり、その後は水爆開発に反対、ソ連のスパイという容疑までかけられるという波乱の生涯を、ここんとこノリに乗ってるクリストファー=ノーランが脚本・監督をつとめ、今年のアカデミー賞総なめという結果も出してしまった、まぎれもない力作です。
ただこういう複雑な人の伝奇映画にはありがちですが結構話が込み入ってるし登場人物は多いし、科学史と政治史にまたがる基礎知識が一応必要な内容なので見る人は明らかに選ぶ。これまた伝記映画お約束ですが、赤狩りのなかでスパイ容疑をかけられ尋問されるパートと彼の人生をたどるパートとが交互に進む構成には混乱する人もいるかと(一応白黒とカラーで区別する工夫はしてます)。
当時の有名物理学者も多く登場し、アインシュタインも当然出てくる(演じるはトム=コンティ。「戦メリ」でたけしとのラストシーンが有名)。しかしオッペンハイマーは「彼が相対性理論を発表したのは40年も前。量子力学に否定的だった」と評し、二人が出会って何か会話するシーンはロングでサラっと流して…と思ったら、これが実は映画全体に関わる重要な伏線だったりする、という映画全体の構成には「やられた!」と思うばかり。ほかにもいろいろと思うところがある映画なので、そのうち栄耀映画の方で書きます。
映画を見てから、2006年にBBCやナショナルジオグラフィックで製作したドキュメンタリードラマ「290世紀“核”の内幕」シリーズの録画ディスクを引っ張り出して再鑑賞しました。画面隅に「BSアナログ」とあるのに時代を感じます。
このシリーズの第1回がマンハッタン計画に参加していたソ連のスパイの話。第2回がそれと直接つながる形でオッペンハイマーと水爆開発の話になっています。こちらの俳優さんもなかなか似ている。今度の映画でははしょり気味だった「水爆の父」テラーとの対立関係がこちらではかなり詳しく描かれます。
そうそう、オッペンハイマーがトルーマンに面会した際に「私の手は血塗られている」と口にし、トルーマンが「あんな泣き虫を二度と会わせるな」と怒るシーンは映画にもこのドラマにもありますが、ドラマの方ではトルーマンの言葉を隣室のインタホンでオッペンハイマーが直接耳にしてしまうという描写になってます。
#11423
ろんた 2024/04/07 18:38
『知泉源氏(5)』(杉村喜光/新評論)ほか
行きつけの本屋がGW明けに閉店とのこと。う〜む、車で30分圏内にe-honの受取書店が無くなってしまう。自宅受け取りにしてもいいけど、いつもいつも大量購入するわけじゃないから送料がかかっちゃうんだよなぁ、困ったもんだ。とりあえずの問題は、処分品の岩波文庫(1冊110円)を購入するか否かであります。
さて、やっぱりe-honで購入した『知泉源氏(5)』。4巻までは「光る君へ」効果で本屋に平積みになってたんだけど、5巻は売ってなかった。出版予定を確かめると春には6巻まで刊行して青春編が終了となってるけど、この5巻が出たのが3月。やはり順調に遅れている(笑)。
5巻は第十帖"賢木"の続きから、第十一帖"花散里"、第十二帖"須磨"、第十三帖"明石"の冒頭まで。桐壺上皇が崩御し、朱雀帝の外祖父である右大臣、母である弘徽殿太后が権力掌握、左大臣派は次々と失脚、左大臣も致仕。源氏への風当たりも強くなる。癒しを求めて藤壺に迫る源氏。藤壺ははねつけたいが、源氏が東宮の後見なので強い態度をとれない。そこに弘徽殿太后からの圧も加わって出家を決意。ショックを受けた源氏は右大臣の娘、弘徽殿太后の妹である朧月夜のもとへ通う。ところが、右大臣邸への落雷で事が露見。朧月夜は朱雀帝の妃候補、しかも妃候補を奪われたのが葵上に続いて二度目だから、右大臣と弘徽殿太后は怒髪天。葵上を源氏の妻としたのは、桐壺帝の意向だけど。右大臣と弘徽殿太后は源氏の官位役職を剥奪、さらに流刑を画策するが、先手を打って源氏は須磨に隠棲……。この辺を読んでると「党の処分が下る前に選挙に出ないことにしたぞ、バカヤロー」という某政治家を連想しちゃう。そして物語の舞台は須磨から明石へ。そこでは懲りない源氏を新しい恋が待っているのであった。ちなみに源氏の辞書には「自業自得」「反省」の文字はない模様(笑)。
以下は最近読んだもの。考えたらいずれもe-honで購入してる。
>『恋文道中記【銭形平次捕物控】』(野村胡堂/春陽文庫)
表題作と「八五郎女難」の二編を収録。嶋中文庫でコンプリートしてたかと思ってたけど、これは読んでいなかったみたい。帯にも「これまでほとんど文庫化されなかった二篇を収録」とあるし。
「恋文道中記」は、平次と八五郎が尾張大納言家のお家騒動に巻き込まれる話。江戸日本橋檜物町で浪人・有沢金之助が殺害され、有金五百両と三通の手紙が盗まれた。有沢は尾張大納言家ご正室の兄で、お世継ぎが生まれたのを機にお召し抱えになる矢先だった。問題は手紙の方。娘時代のご正室の恋文で、これが国元の側室派の手に入れば、ご正室は放逐、お世継ぎは廃嫡となりかねない。ご正室派たる江戸藩邸の意を呈した、吟味与力・笹野新三郎の指示で平次が探索に乗り出す。怪しいのは事件直後に町内から上方へ向かった一行。だが、後を追って東海道を行く平次と八五郎の目前で次々と殺人が……。「八五郎女難」は、あこぎな質屋・佐渡屋の支配人が不審死を遂げる話。太鼓持ちの駒吉から、借金のかたに自慢の娘が佐渡屋支配人・新介の妾にされる、と相談された平次だが、金の話ではいかんともしがたい。すると数日後、伸介の死体が発見され……。二つの話の共通点は、八五郎がやたらと女に絡まれるところか。あと、銭形平次なのに銭を投げない(笑)。その分、平次の推理力が冴えるともいえるけど。
>『ダンピアのおいしい冒険(6)』(トマトスープ/イースト・プレス)
「知は力なり」(フランシス・ベーコン『ノブム・オルガヌム(新機関)』)を胸に世界を知る旅に出たウィリアム・ダンピアの冒険譚、完結編。西インド諸島からアメリカをぐるっと回って太平洋へ、そして東インド。そこからインド洋を横断、喜望峰を回ってイギリスに帰国。でも、やってることはほとんど海賊。乗ってるのが私掠船(政府公認の海賊)だから(笑)。政府公認と言ってもスペインから正式に抗議があれば処罰される。最悪縛り首。しかし、奪ったり作成した新たな海図とかを献上すると許されたり。原住民も楽園に住んでるアダムとイヴじゃないし。ダンピアたちも珍獣を食料にしてたりして。そして、連れ帰った原住民をサーカスに売り飛ばす。とにかく色々と混沌としている。本編に外伝的エピソード、そしてエピローグが加わっている。そのエピローグにサミュエル・ピープスが登場。どこかで聞いた名だと思ったら『ピープス氏の秘められた日記』(臼田昭/岩波新書) の人。日記で有名だけど実は英国海軍の父と称されるとっても偉い人なのだ。
>『ビジャの女王(5)』(森秀樹/SPコミックス/リイド社)
1258年、ペルシャ高原の小都市ビジャを、蒙古軍の支隊2万が包囲した。ビジャの人口はわずかに5千、しかもハマダン王は病気療養のためペルシャの首都バグダードにあった。誰の目にも陥落寸前と思われたが、父王の留守をまもるオッド姫は、インド墨家に救援を要請、墨家の一人ブブが城内で防戦の指揮を執り、他9人が蒙古軍に潜入、ビジャは幾度も蒙古軍を撃退する。そんな中、蒙古、ビジャの双方で後継者争いが起こる。そしてブブは、その決着を待っていたかのように「守」から「攻」に転ずる。蒙古軍の飲料水調達隊を襲おうというのだ。だが、宰相ジファルの裏切りにより襲撃は事前に漏れていた。調達隊は壊滅したものの、ブブは瀕死の重傷を負う。腕の確かな宮中の医師は、ハマダン王に付き添っていてジビャにはいない。ブブは疑惑を抱きつつも、医術の心得があるジファルに己の命を託すが……。
己の手によってビジャを陥落させ、支隊を率いるラジンに取り入ろうとするジファル。己の手でラジンをカーンとし、さらに自らがとって代ろうとしている。もちろんブブの存在は邪魔なので死んでもらいたい。だがあからさまに殺しては己の内通が露見する……さて、ジファルの決断は。続けてジファルの過去が明かされる。そして次巻、蒙古の攻撃が本格化する模様。
ということで、今はなぜか『サテュリコン』を読み始めております。なぜ買ったのか分からないんだけど、多分フェリーニの映画が頭にあったのだろうと思う。冒頭、何の脈絡もなく修辞学者の悪口が続くので面食らってんだけど、14,15、16巻しか写本が残っていないかららしい。しかも乱丁落丁(?)多し。16巻以降、続いているかも不明。読み通せたら(汗)、感想を書くかもです。
#11422
バラージ 2024/04/05 08:03
訂正
来季の朝ドラ『おむすび』は平成時代が舞台とのことなのでほぼ現代を舞台としたドラマだったようですね。
#11421
バラージ 2024/04/04 21:03
3月31日の史点
お久しぶりです。そして連日の史点更新ごくろうさまです。僕は最近、歴史はおろか映画もあまり観ておらず(『オッペンハイマー』も来てますがいまいち気が向かず……。『光る君へ』もここ何回か見逃しては再放送で回収してる次第)、現代小説ばかり読むフェイズに入っております。佐藤正午の『冬に子供が生まれる』はすごく良かった。
>ディープ・ステート
トラス前首相! そんな人いましたねえ。もうすっかり忘れてた(笑)。ディープ・ステートって日本語にすると何なんだろうな?と考えてみたんですが、やっぱり「黒幕」なんじゃないのかな? そういや時代劇ギャグ漫画『江戸むらさき特急』のほりのぶゆきに『黒幕さん』ていう現代ものギャグ漫画がありました。
>偽造
ちょっと話がずれますが偽物つながりで偽文書の話。数年前に中公新書から『椿井文書 日本最大級の偽文書』(馬部隆弘)という本が出版されました。椿井文書とは、山城国相楽郡椿井村(現京都府木津川市山城町椿井)の有力農民、椿井政隆(1770〜1837年)が制作した文書の総称とのこと。中世の文書という体裁をとっており、巧みにつくられているため近畿地方一円に正しい古文書として広まって、学校教材や市町村史にも活用されてきたとのことです。へえーと思ってちょっと立ち読みしたんですが、非常に興味深い本ではあるものの、個人的には買って読むまではなぁと結局買っていません。
>『世界ふしぎ発見!』
僕は初期には毎週でこそないもののわりと頻繁に観ていて、その後いつ頃からか(90年代か00年代あたりか)徐々に観る頻度が減っていきましたが、ここ10年くらいでまた観るようになりました(アシスタントが出水麻衣アナになったからってのもあったけど・笑)。ただ1年前のリニューアルでクイズが個人戦形式ではなく皆で考えるというよくわからん方式になったのは失敗でした。あれで一気につまらなくなった印象(出水アナもアシスタントじゃなくなっちゃったし)。やっぱりクイズというのは大きかったですよ。そこにエンターテイメントとしての担保がされてたわけで、野々村真がパーフェクトを達成できる日は来るのか?とかよく話題というかネタにされてましたしね。クイズがあることによって視聴者も一方的にお話を聞かされるのではなく、参加してるような気分になれますし。あとミステリーハンターの存在も大きかった。やはり竹内海南江さんの功績は大なるものがあります。最近では北村優衣さんがよく出てて印象に残ってたら、映画『ビリーバーズ』で大胆演技をしてると聞き、エーッ、あの子が!?と慌てて映画館に観に行ったっけ。
>追悼・鳥山明
僕は『Dr.スランプ』についてはテレビアニメ『Dr.スランプ アラレちゃん』の印象が強いですね。アニメの放送開始は1981年、僕が週刊少年ジャンプを読み始めたのは確か1982年頃だったので、やはりアニメのほうを先に観ています。原作マンガは1984年まで連載してたので僕は半分過ぎたあたりから読んだことになるんだな(連載は1980年から)。Dr.マシリトがアラレちゃんを倒すためのロボットでたびたび挑戦するエピソード、そしてその中からおぼっちゃまくんが生まれたことなどを覚えています。そう考えると『Dr.スランプ』にもバトルものの要素があったんだな。とはいえやはりどちらかといえばアニメのほうが記憶にあり、映画版もテレビ放送だったかビデオだったかで家族が観てたのをいっしょに観た記憶があります。
『ドラゴンボール』は第1話から読んでまして、逆にアニメはあまり観ていません。アラレちゃんが登場するエピソードは僕も覚えてますが、そこはアニメ(映画版かな?)でも観た記憶があり面白かったですね。連載経緯については確か鳥山氏本人がむかし雑誌か何かのインタビューで、「僕がジャッキー・チェンなんかが大好きだって鳥嶋さんが知ってて、新作マンガにはそういうテイストを入れようみたいな話になった」というようなことを言ってた記憶があります。Wikipediaによると鳥山氏はブルース・リーも大好きで、学生時代に『燃えよドラゴン』を観るために1日3回、10日間ほど映画館に通ったらしく(関根勤と同じだ・笑)、『ドラゴンボール』のタイトルも『燃えよドラゴン』から来ているとのこと。ジャッキーは結婚後に奥さんから薦められたとのことで、『酔拳』にハマり「この2作のどちらかが映画の中で一番ワクワクしたベスト」だと語っていたそうです。その一方でこの板的にはあれですが歴史には疎く、織田信長の死因を知らなかったなんて話も(笑)。あと、『ドラゴンボール』で珍しいと感じたのは悟空の兄として出てきたラディッツがその時だけの出番で重要キャラにならず、悟空と血縁関係のないベジータのほうがずっと出続ける重要キャラになったこと。鳥山明ってそういう日本人的な“血の思想”からは遠いところにいる人なんだなあと思いましたね。
僕自身は『ドラゴンボール』も数ある面白いジャンプ漫画の1つという感じで、必ずしも1番に好きだったジャンプ漫画ではないんですが(個人的には車田正美や北条司のほうが好きだった)、連載当時からやはりフリーザ編がピークだったなと思ってました。その次の人造人間&セル編の初回でフリーザがあっさり復活し新キャラのトランクスにあっさり瞬殺される展開は、この手の漫画の強さのインフレ化にはよくあることとはいえあまりにも露骨というかあからさまで、なんだよそれと大いにシラケ、怒りすら覚えましたね。ただ、それと同時に鳥山明はもう『ドラゴンボール』を終わらせたくて、わざと人気が下がるようなことやってるんじゃないかとも感じました。あるいは今考えると連載を続けさせようとする編集部に対する精一杯の抵抗だったのかも。
それでも結局その後のセル編、魔人ブウ編もなんだかんだで最終回まで読みましたが、半分惰性で読んでる感がありましたね。強さのインフレ感が極端まで進んだり、息子世代に主役を交代しようとして上手くいかなかったりと、さすがにちょっと迷走感も感じられましたが、それでも世界観の底が抜けたり支離滅裂にならずにある程度の面白さをキープするというのは稀有な才能だったと思います。一方でそのような器用さが人気をキープし続け連載をやめられない苦しみやジレンマにつながったと思うと、そういうのもやっぱり良し悪しなのかも。他の人気マンガみたいにちゃんと(?)人気が無くなって終わるというのも、作者の心にとっては健全なことなのかもしれませんね。そういうマンガ家の皆さんのほうが今も描き続けてますし。車田正美(『聖闘士星矢』)も北条司(『シティーハンター』)もゆでたまご(『キン肉マン』)も平松伸二(『ブラック・エンジェルズ』)も原哲夫(『北斗の拳』)も宮下あきら(『魁!!男塾』)も荒木飛呂彦(『ジョジョの奇妙な冒険』)もみんな描き続けてるもんなあ。高橋陽一(『キャプテン翼』)は漫画家としては引退してストーリーのみを作り続けると宣言しましたが。
ともかく鳥山明さんのご冥福をお祈りします。
こっからは史点以外の話。
>朝ドラ関連
確か何年か前にも書いたんですが(探したら#9967で2015年9月の書き込み)、10年代以降の朝ドラ主人公は半分以上が実在モデルありで、架空人物主人公(という言い方も変だけど。だってそれが普通だから)のほうが少数派になってしまいました。2016年度以降の朝ドラで見てみると、17本中『とと姉ちゃん』『べっぴんさん』『わろてんか』『まんぷく』『スカーレット』『エール』『おちょやん』『らんまん』『ブギウギ』『虎に翼』と実に10本が実在モデル主人公。『ひよっこ』『なつぞら』『カムカムエヴリバディ』『ちむどんどん』の4本が過去を舞台とした架空主人公で、現在を舞台としたものは『半分、青い。』『おかえりモネ』『舞いあがれ!』の3本のみ。ちなみに来季の『おむすび』は過去を舞台とした架空主人公で、そのまた次の『あんぱん』はまたまた実在モデル主人公のようです。ま、僕は朝ドラはいつも半分から三分の一くらいしか観ていませんが。
笠置シヅ子出演映画はむかし大学時代に住んでた仙台で深夜に放送してた『歌ふエノケン捕物帖』(1948年)を観たことがあります。当時(80年代末〜90年代初め)、仙台の地方局で映画館だったかレンタルビデオ店だったか東北新社だったかの一社提供で深夜に古い日本映画を放送する枠が一時あったんですよね。他に伊丹万作監督の『赤西蠣太』や山中貞雄監督の『河内山宗俊』も観ました。『歌ふエノケン捕物帖』はミュージカル時代劇で、笠置シヅ子が箒で掃きながら東京ブギウギの音楽で「♪箒ブギウギ」と歌うシーンや、エノケンがラストの藤山一郎の祝言においてワーグナーの結婚行進曲の音楽で「♪高砂や〜、高砂や〜」と歌ったりするシーンを覚えております。
>『豊臣兄弟!』
僕は『宇宙兄弟』のパクリっぽいタイトルに思っちゃいましたね。まあマンガも読んでないし実写映画も観てないけど。
#11420
ろんた 2024/04/02 20:50
「オランダおいね」
朝ドラ、「ブギウギ」の次も、近現代の実在人物をモデルにした「虎に翼」とのこと。「困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた法曹たち(法律家たち?)の情熱あふれる姿を描く。」(番組HP)という。どっかで聞いたことある筋書きだ、と思って調べると「ポーラテレビ小説」(1968/09/30-1986/09/26 月-土 12:40-13:00 08:10-08:30(再))枠で「ひまわりの道」(1971/09/27-1972/03/25)という作品が放送されていた。「戦前の法曹界に飛び込み、女の苦労や悩みを救おうと奮闘する女性弁護士の物語」(テレビドラマデータベース)とあるので、間違いなくモデルが同じ人。残ってないだろうけど、小野寺昭、夏八木勲、蟹江敬三が出演してて、見たくなってしまう。
さて、そんなことでwikiで「ポーラテレビ小説」のリストを眺めてたら「オランダおいね」(1970/03/30-1970/09/26)を発見。「長崎を舞台に、蘭法医シーボルトの娘いねが日本最初の女医になるまでの数奇な運命を描く。」(テレビドラマデータベース)とあるので、もちろんシーボルト(楠本)いねの話。シーボルトを蘭方医と呼ぶのは変な気がするけど。主役は丘みつ子だけど、mixedには見えないなぁ(笑)。シーボルト役に藤原義江が起用されて話題になったとか。(藤原歌劇団の創設者でテノール歌手、父がスコットランド人) 実在人物としては二宮敬作(久米明)、楠本たき(馬淵晴子)、伊東玄朴(原保美)、石井宗謙(安部徹)、高野長英(北村和夫)、川路聖謨(高松英郎)などが見えるんだけど村田蔵六はいない。『花神』のアレはフィクションなんだな。しかし、代わりってわけじゃないけど、清水の長五郎(石立鉄男)と女房お蝶(佐々木愛)が出てくる。清水の長五郎=山本長五郎=清水の次郎長なんで、病気のお蝶の手当てをしたりするのかな。ちなみに「オランダおいね」という呼び名は、このドラマが起源らしい。
>「銀座カンカン娘」(1949/新東宝)
監督:島耕二/脚本:中田晴康,山本嘉次郎/音楽:服部良一/出演:灰田勝彦(武助),古今亭志ん生(新笑),浦辺粂子(おだい),笠置シヅ子(お春),高峰秀子(お秋),岸井明(白井哲夫)/
「ブギウギ」関連で触れておいた方がいいかと思っていた映画。明るく楽しい現代もの(とわいえ昭和24年)のミュージカルだけど、ロケ撮影で戦後の東京の風景を拝めるのが、ほとんど歴史資料。ただし、夜の場面がスタジオ撮影。当時は夜のロケとか技術的にできなかったんじゃないかな。「アメリカの夜」が使われてるぐらいだし。
お話は、芸術家志望の二人の娘が、銀座で流しをして稼ぎまくるというというもの。高峰秀子と笠置シヅ子、灰田勝彦、岸井明の歌がたっぷり楽しめる。志ん生は元噺家役。戦後、やる気をなくして引退、居候の二人の影響で情熱を取り戻し、高座に復帰する。ということで、高座の姿も高座外の姿も見られるのはうれしい。
>「豊臣兄弟!」
これ聞いて真っ先に思い浮かんだのが「堂本兄弟」(笑)。それにしても小一郎秀長って、秀吉の出世し始め=家来が必要になった頃(墨俣の一夜城?)に登場して、小田原征伐の直後に退場しちゃう。なんとも中途半端な感じ。それとも、秀吉の前半生の伝説を半分ぐらい秀長のこととして描くのかしらん。蜂須賀小六の子分ってことにしたりして。これだと、右肩上がりの秀吉だけが描けるし、朝鮮出兵が回避できるな。NHKにも策士がいるらしい。
#11419
バラージ 2024/03/13 23:42
太賀、大河で主演するってよ
ご本人も言ってたダジャレから入ってどうもすいません(笑)。再来年の大河ドラマが仲野太賀主演で豊臣秀長が主人公の『豊臣兄弟!』に決まりました。2年連続でマイナー題材だったんで、メジャーなやつになるんだろうなとは思ってましたが、超有名人の弟大河というパターンでど真ん中の題材に。ナンバー2大河でもあるのかな。
大河の豊臣秀長というと個人的には初めて観た大河『おんな太閤記』での中村雅俊が強く記憶に残ってるんですが、それ以前の『太閤記』では富田浩太郎という人が、後の『秀吉』では高嶋政伸が演じてたとのこと。前者はもちろん未見でして、後者もほとんど観ていません。去年の『どうする家康』では佐藤隆太が演じてましたが、むしろ北野武監督&主演映画『首』で大森南朋がたけし秀吉とほとんど漫才のようなアドリブ掛け合いをしてたのが印象的でしたね。とはいえ秀長が主人公になるのは映像作品では初めてのことでしょう。主人公としてはどうなのかなあ?
太賀くんは大河ドラマでは『いだてん』での架空人物・小松勝が印象に残ってるんですが、実はそれ以前にも『風林火山』『天地人』『江』『八重の桜』と4作も出てたんですね。『江』では豊臣秀頼役だったとのことで。僕が初めて太賀くんを知ったのは2012年の映画『桐島、部活やめるってよ』でしたが、息子大好きなお父さん中野英雄も大喜びのようで良かった。いっそのことお父さんの先輩の哀川翔とか柳葉敏郎とか小木茂光とかと共演しちゃったら面白いのに(笑)。
>アイのある天皇たち
『光る君へ』、ついに花山天皇が退位する寛和の変が勃発。いやあ、やっぱ悪いな、藤原氏(笑)。まあ花山法皇はもう1回出番があるでしょうけど。
そして瀧内公美さん演じる源明子もチラッと初登場。しかし道長とまひろがあんな熱烈ラブシーン演じちゃって、道長の奥さんたちの倫子とか明子の立場というか描かれ方はどうなっちゃうんだろ? まあ、まひろが主人公なんだから仕方がないんでしょうけどね。
>永楽帝ドラマ
少し気が早いけどBS12で4月22日から中国ドラマ『永楽帝 大明天下の輝き』の放送が開始されるとのこと。永楽帝が主人公のドラマは意外と珍しいですね。
#11418
バラージ 2024/03/10 19:23
訂正
1つ前の書き込みの葛西重清は間違いで、正しくは葛西清重でした。どうもすいません。
#11417
バラージ 2024/03/06 22:27
続・久方ぶりの鎌倉史・追記編
前回の続きです。
まず前回の追記。八条院が出てきた映像作品は、大河ドラマ『新・平家物語』(演:荒井麻夕子→南原美佐保)、新大型時代劇『武蔵坊弁慶』(演:光本幸子)、大河『平清盛』(演:佐藤仁美)。『平清盛』の佐藤さんは記憶にありますが、『新・平家』『武蔵坊弁慶』はどっちも総集編を観たけど記憶になし。多分カットされたんじゃないかな。北陸宮は登場した映像作品はありません。建春門院中納言(健寿御前)は大河『平清盛』に出てきたようです(演:東風万智子)。
そして今回はまず頼朝生前の幕府における北条氏の序列について。頼朝は基本的に御家人の任官には消極的でしたが、1184年6月に頼朝の推薦で源氏一門の弟範頼が三河守、源広綱が駿河守、平賀義信が武蔵守になっており、また1185年8月にはやはり頼朝の推薦で源氏一門の山名義範が伊豆守、大内惟義が相模守、足利義兼が上総介、加賀美遠光が信濃守、安田義資が越後守、弟義経が伊予守になっています。さらに近藤成一『執権 北条義時』(知的生きかた文庫)によると、頼朝が上洛した1190年12月にはその推薦で、共に上洛した千葉常秀・梶原景茂・八田知重が左兵衛尉、三浦義村・葛西重清が右兵衛尉、和田義盛・佐原義連・足立遠元が左衛門尉、小山朝政・比企能員が右衛門尉にそれぞれ任官しているとのこと。朝廷からは20人の推薦が許されましたが、頼朝は何度か辞退した後10人のみを推薦したそうです。なお、そのうち常秀・景茂・知重・義村については、頼朝が推薦したのは祖父常胤・父景時・父知家・父義澄でしたが、彼らは辞退してそれぞれ孫や子に任官を譲るよう願い出たとのこと。景時以外の3人はすでに官位を持っていたからというのもあったんでしょう。
実はこの時、北条義時も上洛していましたが、頼朝の推薦は受けておらず官位を授かっていません。父時政が上洛していなかったからというのもあるかもしれませんが、時政も義時も頼朝の生前は最後まで無位無官のままでした。源氏一門以外の御家人についてはおそらく1190年の任官が頼朝による評価であり、そうすると千葉常胤・梶原景時・八田知家・三浦義澄・葛西重清・和田義盛・佐原義連・足立遠元・小山朝政・比企能員の順に頼朝に評価されていたと考えていいのではないでしょうか(頼朝との親近的距離感や、他の御家人による評価など他の評価軸も入ってるでしょうが)。また幕府の儀礼では官位順に着座したと思われるため、時政・義時は上記の官位を有する人々よりは下座に着座した可能性が高く、頼朝の生前には北条氏はそれほど優遇されていなかったと考えられます。『吾妻鏡』には義時が頼朝に可愛がられたという記述が頻繁に表れるんですが、以上のことから考えてどこまで事実なのかやや疑問。近藤氏は、『吾妻鏡』において任官以前の時政・義時は「北条四郎」「北条小四郎」の呼称と共に「北条殿」「江間殿」の呼称が使われていることを指摘し、無位無官の時政・義時は官位を持つ御家人より序列が下であり、通称の「北条四郎」「北条小四郎」が官位を持つ御家人の「左兵衛尉」などより上に記されるのは不自然なため、『吾妻鏡』は「北条殿」「江間殿」という工夫した呼称を使用したのではないかと推測しています。
それから個人的に思ったのは、1190年に任官した御家人を見ると頼朝没後の十三人の合議制の面々と結構かぶっているということ。景時・知家・義澄・義盛・遠元・能員と10人中6人までが十三人の合議制に選ばれており、残る7人のうち中原親能・大江広元・二階堂行政・三善康信の4人は文士。残った3人が時政・義時・安達盛長です。十三人の合議制については実際に合議をした形跡がなく、実際には頼家への取次を担当する宿老だったとの推測が現在では一般的だと以前書きましたが、義時と盛長については取次をした形跡もないと何かで読んだ記憶があります。そう考えると『吾妻鏡』編纂当時に政権中枢にいた北条得宗家とその外戚の安達氏が、実際には選ばれてなかったご先祖を合議制に無理やりねじ込んだという可能性もありそうです。
次に#11215で僕は義時の妻となった姫の前が義時の求愛を1年以上も無視し続けた理由について、義時には離縁の前科があったからではないかと推測したんですが、あるいはもっと単純に義時が1年以上送り続けた恋文が姫の前の心に全然響かなかったというだけなのかもしれません。義時には和歌を嗜んだという記録もありませんし、文化的素養がなく、女性を喜ばせるような手紙が書けなかったのかも(笑)。
それから#11236で、梶原景時の変について事件の裏で北条氏が暗躍していた可能性がかなり高く、極めて早い段階から時政は頼家を廃し実朝を擁立する陰謀をひそかに企てていたと思われると書きましたが、その後よくよく考えると時政にはこの時点でそこまでリスクの高い陰謀を企てるメリットはあまりなかったんではないかと考えが変わりました。時政にしてみれば鎌倉殿が頼家でも実朝でも鎌倉殿の外祖父という立場に変わりはないんで、そうまでして頼家を廃し実朝を擁立する必要はこの時点ではなかったと思われます。頼家を廃し実朝を擁立することで立場が大きく変わるのは、実朝の乳母である阿波局(時政の娘)とその夫の阿野全成でしょう。彼らはおそらく父の時政とはまた別に、独自に行動していたんじゃないでしょうか。だからこそ3年後の阿野全成誅殺事件(#11243)でも頼家は全成・頼全父子と阿波局のみを標的にし、北条氏は問題にしなかったと考えれば納得がゆきます。時政にとって立場が大きく変わるのは、頼家が死んで頼家の子が後を継いだ場合。だからこそ頼家が危篤に陥った時に一か八かの賭けに出たんでしょう。
また#11248で、義時と姫の前が離縁したのは1203年の比企能員の乱の後ではないかとしました。研究書でもそう推測してるものが多いんですが、近藤成一氏は1200年5月25日に義時の妾である伊佐朝政の娘が義時の4男有時を産んだ際に、加持のため鶴岡八幡宮別当の尊暁が義時の大倉亭に詰め、出産の朝には頼家から馬が、政子から産衣がそれぞれ下されており、姫の前が大倉亭に同居していたならこのような扱いは難しかったのではないかとして、義時はそれ以前に姫の前と離縁していた可能性もあるとしています(『執権 北条義時』)。なお有時の母は『吾妻鏡』では「妾」としか記されておらず、伊佐朝政の娘としているのは『系図纂要』のようですが、伊佐氏は常陸国の武士だけど伊佐朝政という人物については詳細不明でやはり少々怪しい。やっぱり義時は出来心で身分の低い下女に手を付けちゃったんじゃないかなあ(笑)。
最後に#11271で、1209年に義時が自らに長年仕えた家臣(得宗被官)のうち功績ある者を御家人に準じた身分にしてほしいと実朝に要望するも、実朝は将軍の陪臣(家臣の家臣)を御家人扱いするとその子孫がもともとの出自を忘れ、北条氏ではなく幕府に直接奉公しようとする可能性があるため望ましくないとして却下したエピソードを紹介しました。が、よくよく考えるとこの話、どうも怪しい。実朝が子孫という未来=『吾妻鏡』編纂時の現在の話をしてるのがどうも引っ掛かるんですよね。『吾妻鏡』編纂当時の得宗被官=御内人の専横を批判する意図が込められた編纂者の創作なんではなかろうかと。創作ではないにしても実朝が義時の要望を却下したという単純な部分のみが事実であって、将軍の陪臣(家臣の家臣)を御家人扱いするとその子孫がもともとの出自を忘れ北条氏ではなく幕府に直接奉公しようとする可能性があるため望ましくないとした理由の部分は創作なんじゃないかと思います。
>『陰陽師』以外の安倍晴明
『光る君へ』でユースケ・サンタマリアが演じてる安倍晴明が、『陰陽師』とはまた違った感じ(当たり前だけど)でなかなかいい味出してますが、『陰陽師』が流行る前も晴明が出てくる映画はちょこちょこあったみたい。てなわけでそんな映画たちをご紹介。
まず戦前の1941年の『羅生門』。芥川の小説とは関係なく、能の「羅生門」と歌舞伎の「茨木」が原作らしい。晴明に該当する人物の名前は「隠陽の博士阿部の晴明」となっているようです。次に1955年の『歌舞伎十八番「鳴神」 美女と怪龍』。こちらは歌舞伎十八番「鳴神」(または歌舞伎「雷神不動北山桜」)が原作で、監督が吉村公三郎、脚本が新藤兼人。DVD化もされています。晴明に該当する人物は阿部清明で、なぜか時代の違う関白基経や小野道風も出てくるらしいんだけど、時代劇だから細かいこたぁまあいいだろってことなんでしょうか。それから1956年の『羅生門の妖鬼』。こちらは歌舞伎の「茨木」「戻橋」「土蜘蛛」が原作で、安倍晴明に該当する人物は安部晴明。いちいち字が違うなあ。藤原道長も藤原左大臣という名前で出てくるようです。そして歴史映像名画座にある1960年の『大江山酒天童子』といったところ(演:荒木忍)。ほとんど能や歌舞伎が原作で、どれも妖怪映画というか物の怪映画ばっかりですね。ただしいずれも晴明は主人公ではなく脇役で、主人公は茨木童子や渡辺綱や源頼光や酒呑童子など。1970〜90年代にそういうのがパタッと無くなるのは時代的に流行らなくなったからなんでしょう。
それが21世紀に入って『陰陽師』で復活すると、晴明もその映画化・ドラマ化以外でも『妖怪大戦争』(2005年、演:永澤俊矢)、『源氏物語 千年の謎』(2011年、演:窪塚洋介)、『映画刀剣乱舞 黎明』(2023年、演:竹財輝之助)とやたら妖怪映画や物の怪映画に出てくることに。結局、歴史映画がほとんどないのはまあ当然か。
>いろんな作品
BSテレ東(当時はBSジャパン)の『松本清張ミステリー時代劇』は「七種粥」だけ観ました。主演が好きな女優の星野真里さんだったもんで。出来はまあこんなもんかなという感じだったような。
『桃太郎侍』は、有名な高橋英樹主演のテレビドラマは子供の頃に観てましたね。最後のチャンバラシーン目当てでした。ちょうど僕が小学生の時なのか。しかし原作があるのは知らず、むかし中古店だったかレンタル店だったかで市川雷蔵主演映画版のVHSを見つけて、えっ!?元ネタがあったんだ、と知りました。Wikiを見ると昔から何度も映画化&ドラマ化されているらしく、映画が1952年の『修羅城秘聞』2作、1957年の雷蔵版、1960年の里見浩太朗版、1963年の本郷功次郎版とあり、ドラマも1967〜68年の尾上菊之助版があった後に高橋英樹版だったんですね。日テレからテレ朝に放送局を変えた英樹版スペシャルが1992〜94年に3本作られたらしいけどこれは全く記憶にないなあ。2006年の嶋政宏版『新・桃太郎侍』も記憶になし。
『新幹線大爆破』、僕は今だに未見でして。どうも今一つ気が向かないんですよね。リブートされるって記事は僕も読みました。リブートなら近未来を舞台とした『リニアモーターカー大爆破』にして、スピードが早すぎて爆発する前に終点に着いちゃいましたってネタすればいいのに(笑)というジョークを思いついたんですが、時速80km以下になったら爆発するって話だったんですね。徹夜城さんのtwitterで終点が延びたから時間が稼げるってあったけど、新幹線も昔より早くなってるんじゃないかなと思ったんですが、早くなっても意味なかったのか。でも時速80kmの新幹線じゃ、遅すぎて第1印象とのイメージ狂うよなあ。
#11416
ろんた 2024/03/02 13:26
松本清張プレミアム・ミステリー時代劇編
後半は松本清張。光文社文庫から松本清張プレミアム・ミステリーというシリーズが出てまして、買ったり買わなかったり、読んだり読まなかったりしていたわけですが、時代劇が立て続けに出たので購入、読了。
>『鬼火の町』(松本清張/光文社文庫)
天保11年5月6日早朝、川霧に包まれた隅田川に船宿「つたや」の猪牙舟が無人で漂っていた。その舟で夜釣りに出た屋根師「和泉屋」の職人・惣六と船頭・仙造は死体となって本所の百本杭に流れ着き、同心・川島正三郎から探索を命じられた岡っ引き・藤兵衛は、二人とも泳ぎが達者で打撲痕があったことから事件と睨む。そこで舟が漂っていたあたりを川ざらいすると、女ものの贅沢な拵えの煙管を見つける。惣六のものらしいが、職人風情の持ち物とも思えず、その出所を探るとどうやら御具足御用掛を務める1700石の旗本・駒木根大内記らしい。ところが、川島は藤兵衛に探索の中止を命じ、唯一の証拠である煙管も取り上げてしまう。さらに娘義太夫・お春が殺害され、水茶屋の女中・お絹が下手人としてあげられる。二人とも惣六の女で、男を取り合っての犯行ということだが、その見立てに不審を感じた藤兵衛は、煙管の探索の過程で知り合った小普請組の旗本・釜木進一郎とともに捜査を再開する。しかし、駒木根家用人・伊藤伝蔵、大奥中臈・浦風の部屋子・お島と関係者が次々と命を落とし……という話。
時代は家斉の最晩年で『かげろう絵図』と同時代。事件の背後にいる巨悪も重なっている。いささか解決編が唐突だが、家斉が死ななかったら事件は解決していないので仕方がないか。ちなみに遠山金四郎の評価が低いのも相変わらず。「あの男も世間で云うほどの人物ではない。やはり上のほうにへつらって、あの地位(北町奉行)になれたやつだ。」などと川路三左衛門(聖謨)に言わせてる。
>『紅刷り江戸噂』(松本清張/光文社文庫)
年始の客も落ち着き、明日は七種。大津屋庄兵衛の店では、通りにやってきたなずな売りから七種を買い、粥を店の者に振る舞った。が、その夜、粥を食べたものたちが苦しみだした。医者は七種の中に猛毒の「とりかぶと」の葉が混ざっていたのではないかという──。(「七種粥」) 江戸市井の人々の暮らしの中に潜む、底知れぬ心の闇と、つきない欲望を描く時代推理短編集。(カバーより)
こちらは短編集。時代小説でもいかにも松本清張らしく、色と欲から道を踏み外す人々が描かれる。この辺、うまいんだよな。ああ、なんか知ってる話があると思ったら、テレ東系のBSでドラマ化されているものがあった(「松本清張ミステリー時代劇」)。
>『彩色江戸切絵図』(松本清張/光文社文庫)
日本橋の穀物問屋「大黒屋」には、一年ほど前から留五郎という男が出入りするようになった。主の常右衛門は勝手な出入りに対して何故か煮え切らず、強く出ないので女房にいい寄る気配すらある。事情が気になって留五郎を調べ始めた岡っ引きの手先・幸八だが──。(「大黒屋」) 絡んだ人間関係と強欲が招く、謎めいた事件。江戸市井の人間模様を描いた時代推理短編集。(カバーより)
こちらも短編集。収録作六編のうち三編が本格派というか捕物帳的な謎解きもの。残る三編が、色と欲から犯罪に手を染めていく人間たちを描いた犯罪小説。あれ? 清張さん、本格派もいけるじゃん、と思わせる一冊。こちらもドラマ化されているものがある。
>『異変街道(上)(下)』(松本清張/光文社文庫)
放蕩三昧で甲府勤番となった鈴木栄吾が病死した。だがその死の十日後、水茶屋「花屋」の亭主・与兵衛が、身延山詣でで道に迷ったところを栄吾に助けられたという。栄吾の幼馴染である旗本・三浦銀之助は真偽を確かめるため花屋を訪ねるが、与兵衛は既に刺し殺されていた。一方、事件の詮議にあたる岡っ引き・常吉は、下手人に甲州訛りがあったこと、近くの船宿から猪牙舟を雇い小梅に逃亡したこと、その小梅には甲府勤番支配・山根伯耆守頼通の寮があることなどを突き止める。だが下手人の死体が百本杭に流れ着くと、与力・杉浦治郎作は探索の中止を命じる。そんな中、栄吾が馴染みの水茶屋「桔梗屋」のお蔦に、二年で江戸に戻ってくる、と打ち明けていたのが分かった。かくして栄吾の左遷自体に疑問を抱いた銀之助、憤懣を抑えかねた常吉、栄吾を慕うお蔦は相前後して甲州へ向かい……という話。
松平左近将監乗邑が老中になって十数年とあるので、明言されていないが時代は享保年間の後半から末か。甲府勤番支配は幕府の出世コース。でも甲府勤番は「山流し」と呼ばれる不良旗本、御家人の捨て場所。死ぬまで江戸へ帰れない=ご赦免が無い。というところから始まり、平家の落人集落、松平左近将監と山根伯耆守の結びつき、連続殺人、青日明神と武田信玄……と謎が謎を呼ぶ展開。しかし、三浦銀之助、常吉、お蔦という三人の探偵が有機的に連動せず、構成が破綻している印象。謎がすっきり解決されていないし、ラストが凄絶なのも印象を悪くしている。ああ、フジテレビ系列でドラマ化されています。
#11415
ろんた 2024/03/02 13:14
お久しぶりです
ちょっと忙しかったんですが、なんだか締め切りが一週間伸びてまったりモード。ということで顔を出しました。ネタはチョコチョコと読んでいた歴史物というか時代物。長すぎるんで二本立て。
>『桃太郎侍(上)(下)』(山手樹一郎/春陽文庫)
旧春陽文庫に収録されていたものが復刊。嶋中文庫にも入ってたんだけど買い逃していたので購入。
かつぎ呉服で元盗賊の伊之助は、往来で二人の侍に絡まれている踊りの師匠小鈴を助けた若い浪人に惚れ込んだ。桃太郎と名乗るその男は、女手ひとつで育ててくれた乳母と死に別れ、今日から天涯孤独、宿なしの身。伊之助の世話で通称お化け長屋に住むことになった桃太郎侍だったが、ふとした出逢いから、さる大藩のお家騒動に巻き込まれ、やがて敵味方入り乱れての鬼退治の旅路が始まる! アクションあり、恋あり、そして涙あり……。大衆文学で一時代を築いた山手樹一郎の代表作、大人気TVシリーズの原点となった傑作長篇!(カバーより 上下巻共通)
不勉強ながら、「やまてじゅいちろう」だと思ってた。正しくは「やまてきいちろう」。帯には「あの大人気TVシリーズの原点、ついに復刊!!」とあり、高橋英樹の推薦文がある。確かに大人気で今もBSで何度目かの再放送をやっている。ただ、前も書いたように思うけど、原作小説とドラマは直接はつながってない。共通するキャラは桃太郎と兄、伊之助ぐらい。桃太郎の素性とかも違うし(家斉のご落胤ではない)、つばめもすずめも出てこない。それでも読んでいると「ほ〜のぼ〜のとほのぼのと……」と「桃太郎侍の歌」(作詞、歌ともに三波春夫)を口ずさんでしまう。基本的に明朗で読んでいて楽しくなっちゃうんだよなぁ。
>『南国太平記(上)(下)』(直木三十五/文庫コレクション大衆文学館/講談社)
前も書きましたが、上巻だけ購入してそのままになってしまい、最近になって下巻をブックオフで購入したもの。
調所笑左衛門の改革策断行で、薩摩藩は財政立て直しに成功した。だが藩主斉興は世子斉彬に家督を譲ろうとしない。洋学好みの斉彬の浪費による財政再崩壊を恐れたのだ。一方、斉興の愛妾お由羅の方は、実子久光への家督継承を画策。その意を受けた兵頭家牧仲太郎は、斉彬の子どもたちの呪殺を謀り、斉彬派の軽輩武士は陰謀暴露に奔命する。──藩情一触即発の風雲をはらむ南国藩「お由羅騒動」の顛末。(上巻カバーより)
薩摩藩相続をめぐって、お由羅一派の意を受けた牧仲太郎の呪詛は、家督を継いだ斉彬のうえに及ぶが、その阻止を謀る仙波小太郎の追及も急である。一方、藩内上士下士の対立はいよいよ熾烈化し、風雲児益満久之助ら改革派の策動は着々と基礎を固める──南国薩摩のお家騒動に想を借りて、激動する幕末維新期の様相を、経済、因習、新旧勢力の対立と抗争など、重層的ダイナミズムの中に捉える意欲大作。(下巻カバーより)
下巻カバーにある通り、いくつもの対立軸を導入してその闘争、相克によってストーリを進めている。チャンバラ描写もすさまじく(「椿三十郎」のラストのようなシーンもあり)、一気に読ませてしまう。あと、女性が「お姫さま」ではなく一人の人間として描かれているのに感心。斉彬はちょっと聖人君子すぎるかな。久光も斉彬派だったりする。ただし、劇的効果を狙ったためか、事実関係をギュッと圧縮していて史実と異なる部分多数。まだ阿部正弘が老中なのに、頼三樹三郎が捕まったり、新徴組が結成されたり、清川八郎が殺されたり。斉彬はお国入りした途端に死んじゃうし、同時に嫡子の哲丸も死んじゃう。(史実では斉彬の死の翌年) なにより主人公の一人である益満久之助。八面六臂の活躍で西郷から江戸の攪乱工作(要するに御用盗)を命じられるんだけど、時代は違うし益満もまだ十代後半のはずなんだよなぁ(笑)。『益満久之助』という続編もあるけど、手に入りそうにない。なんでも三田村鳶魚の著作を無断で下敷きにしていて、これに激怒した鳶魚が大衆小説家を目の敵にするようになったとか。本当かなぁ?
>『逃げ上手な若君(14)』(松井優征/ジャンプコミックス)
二月に出ていたのになぜか気づかずに買い逃していた。「第69回小学館漫画賞受賞」「2024年TVアニメ放送!!」と帯にある。この時点で放送日時が決まっていないのは秋アニメかな、早くても。ストーリーは、南朝帰順が許された時行たちが北畠顕家と合流。迎え撃つのは足利義詮(子供)、斯波家長(元服した孫二郎)、上杉憲顕。時行の再びの鎌倉攻略が始まる。冒頭の「U.N.K.1337」(婉曲表現すると、硝石の採集法に気づいた風間玄蕃が黒色火薬を製造する話)以外は北畠顕家づくし。表紙カバーも顕家。この顕家がまた強烈で、信じられないぐらい口が悪いのに、部下への敬意と信頼で統率力抜群。この後、どうなるか分かっちゃってるんでちょっと切ない。家長もね。しかし、最後に出てきた対北条最終兵器が気になる。頼重のゾンビとかフランケンシュタインじゃないだろうな。
>『黄金バット 大正髑髏奇譚(2)』(神楽坂淳(脚本),山根和俊(漫画),黄金バット企画・ADK(原作)/秋田書店チャンピオンREDコミックス)
欧州を第一次世界大戦の戦火が覆う中、敵国である独逸の将校を護衛する密命を受けた月城はバットの能力が使えなくなってしまった。対立するバットとの思想、そこで見つけ出す答えとは……。(カバーより)
ライバルの暗闇バットも登場して、本格的にストーリーが動き出すかと思ったら、欧州編に突入。しかし、戦争を長引かせて日本の漁夫の利を大きくするためとはいえ、ドイツの軍人(補給将校)を日本の軍人が本国で護衛するってのは、さすがにリアリティなさすぎかと。殺人を嫌うバットと軍人である月城の対立も描かれる。その後はラスプーチン編。詐欺師のラスプーチンがナゾーと結託して異形の力を手に入れているという設定で、月城と笹倉がラスプーチン暗殺に向かう。
>史点・「新幹線大爆破」
わたしも「新幹線大爆破」見ました。思えば三菱重工爆破が前年。爆弾ネタには神経質になってたんでしょうね、国鉄や警察も。それでも強行する東映、さすが。あと、山本圭さんの髪型が手配写真まんまだったのに笑ってしまった。別に圭さんが寄せたわけじゃないけど。あぁ、三菱重工爆破と言えば「日本沈没」でビルのガラスが割れて下にいた人を傷つけるシーンが現実化しちゃったんだよなぁ。
追記:なんかNetflixで「新幹線大爆破」がリブートされるとか。どうせならリニアでやればいいのに。政府とJRの二枚舌で大井川の水が枯れ、怒った流域住民が……って話は生々しすぎてダメか。
#11414
バラージ 2024/02/25 22:53
久方ぶりの鎌倉史・追記編
清少納言を「せいしょう・なごん」だと思ってた人ってやっぱり多かったんですね。僕も「せい・しょうなごん」が正しいと知ったのはずいぶん後になってからでした。
来年の大河ドラマ『べらぼう』も新たに出演者が発表されましたが、架空人物ばっかりだな、おい。唯一の実在人物が最近やたら出まくってて働き過ぎなんじゃないかという小芝風花ちゃんが演じる吉原の老舗妓楼松葉屋を代表する伝説の遊女・花の井(五代目瀬川)とのことで。蔦屋重三郎とともに親に捨てられ吉原で育った幼なじみという設定のようですが史実では重三郎とは何の関係もないようで、やっぱり大河ドラマというより◯曜時代劇みたいなノリになってきた(笑)。あと、かなり前に発表になってますが田沼意次が渡辺謙で意知が宮沢氷魚だからもう完全に田沼再評価路線ですな。
史劇的伝言板の#11101から#11300が過去ログ化されたってことで2年ほど前の書き込みをちょっと懐かしく読み返したところ、僕の源平鎌倉関連の書き込みで今になってみると修正を加えなきゃならないところや個人的に考え方が変わったところがちらほらと。てなわけでそんなあれやこれやをまとめて書かせていただきます。
まず#11188で頼朝の異母弟義円(幼名は乙若)について、「いったん頼朝の元に来てから行家の元に遣わされたと推測する見方もあるようですが、特に根拠はないようですね。」と書きましたが、『源平盛衰記』に頼朝が義円に1000余騎を与えて行家援護のために派遣したとあることから、頼朝が挙兵した際に義円も合流し援軍として行家のもとに派遣されたのではないかとする推測もあるとのこと。ただし『源平盛衰記』は『平家物語』の異本の中でも成立が最も遅いとされ、他の『平家物語』諸本にもそういった記述がないことから、義円が頼朝に合流したという記述がない『吾妻鏡』の信頼度のほうが高いとされているようです。
次に#11191で北条泰時の母である阿波局について、「『吾妻鏡』では義時の妻とされており」と書きましたが、『吾妻鏡』は泰時が誕生した1183年が欠落しており、その他の部分でも泰時の母については何も記されていないとのこと。泰時の母を御所の女房阿波局としているのは『吾妻鏡』より年代の下る鎌倉末期の『鎌倉年代記』、鎌倉末期から南北朝初期の『武家年代記』、江戸末期の『系図纂要』だそうです。しかし近藤成一氏は、泰時の母と同時代に同名の阿波局(義時の姉妹で阿野全成の妻妾)がいるため『系図纂要』などの記すところは誤伝と思われ、そうなると泰時の母については何もわからないとしています(『執権 北条義時』知的生きかた文庫)。時代の下る諸史料は『吾妻鏡』より信頼度も落ちますし、それ以前の『吾妻鏡』にはなんで何も書いてないんだって話にもなりますからね。やっぱり義時は出来心で身分の低い下女に手を付けちゃったんじゃないかなあ。
また#11193で、1184年(または『吾妻鏡』が欠落してる1183年)以降は消息不明になる頼朝の愛妾亀の前について、京に上り余生を過ごしたのではないか?と僕は推測しましたが、よくよく考えたらもっと単純に『吾妻鏡』が欠落してる1183年に病死したのかも。1184年以降一切消息不明になってるのはそのためだと考えたほうが納得できるような気がします。
それから#11193と#11266で触れた牧宗親について。『愚管抄』では大舎人允宗親を牧の方の父、大岡時親を牧の方の兄としているのに対して、『吾妻鏡』では牧三郎宗親(武者所宗親、牧武者所)と大岡時親をともに牧の方の兄弟としており、これについては『愚管抄』の大舎人允宗親と『吾妻鏡』の牧三郎宗親を同一人物とする説がある一方で、両者は別人で『吾妻鏡』の牧三郎宗親と大岡時親が同一人物とする説もあるということはすでに書きました。その他の説として、近藤成一氏は『吾妻鏡』が牧三郎を宗親とするのは誤りで、三郎は宗親の子で時親とも別人としています(『執権 北条義時』)。
そして#11197で触れた北陸宮と、それに関連した八条院(ワ子内親王)の話。北陸宮は以仁王の長子で、1182年7月に京を脱出して北陸へと逃れ、越中国で木曽義仲に保護されます。翌1183年に義仲は都落ちした平家を追って入京しますが、その頃に朝廷で問題となっていたのは平家が連れていった安徳天皇に代わる天皇を誰にするかということ。安徳の異母弟の第2皇子守貞親王も平家に連れていかれたため、第3皇子惟明親王と第4皇子尊成親王が候補で、後白河法皇の意中は尊成でした。そこへ横槍を入れたのが義仲。義父の平清盛を恐れて父後白河の幽閉に反対しなかった高倉上皇の子よりも、後白河を救うために挙兵した以仁の子のほうが皇位にふさわしいと言い出しました。天皇の子が2人もいるのに王の子で天皇の孫に過ぎない北陸宮が即位するなど前代未聞で、また院の権限である皇位決定権への侵害に後白河は激怒しましたが、義仲を納得させるために御卜(占い)を行って、その結果という形で尊成を皇位継承者に決定しています(後鳥羽天皇)。
その北陸宮と関係があった八条院は鳥羽法皇と美福門院得子の娘で後白河の異母妹。鳥羽から非常に可愛がられ、同母弟近衛天皇が死ぬと鳥羽は一時彼女を女帝として即位させることも考えたとのこと。父母の莫大な荘園群を相続し、中継ぎの天皇としてわずかな荘園しか相続できなかった後白河も彼女には配慮せざるを得ず、また後白河の子の二条天皇によって史上初めて后位を経ずに女院とされ八条院と号しました。以仁はその八条院の猶子となっており、以仁の令旨を諸国の源氏に配布した源行家は八条院蔵人、以仁と共に挙兵した源頼政も八条院に奉仕しており、その頼政は義仲の異母兄(嫡兄)源仲家を猶子として、仲家もまた八条院蔵人になっています。八条院自身は平家と敵対する意図は持っていなかったようですが、義仲・行家・北陸宮は八条院とつながりが強い人々によるグループだったと言えます。
しかし入京した義仲軍は洛中狼藉がひどく、八条院の荘園も被害にあったようで、建春門院中納言の回想録『たまきはる』によると、皇位継承に義仲が口出しした頃に後白河が八条院のもとを訪ね尊成を安徳後継にすることを告げると、八条院は北陸宮をゴリ押しする義仲が激怒して暴発するのではないかと心配したとのこと。それに対して後白河は「木曽など問題ではない」と答え、尊成を天皇にする決意を示したそうです。結局、北陸宮は後白河と法住寺殿で同居するも、義仲と後白河が法住寺合戦に及ぶと京から逐電。義仲や平家が滅び義経が都落ちした後の1185年11月に頼朝の計らいで再び上洛したそうです。
思いのほか書きたいことが多かったんでもう1回だけ続きます。
>史点
週刊エコノミストOnlineで連載されている森暢平氏の「社会学的皇室ウォッチング!」がここ何回か「これでいいのか「旧宮家養子案」」と題して、東久邇稔彦、久邇朝融、賀陽邦寿ら旧宮家の乱脈ぶりを取り上げてます。その他にも「旧宮家養子案」派の主張のデタラメぶりが詳細に批判されていてなかなか面白いので、興味のある方は御一読を。
>録画で観た歴史映画
『ジャネット』『ジャンヌ』
2017年と2019年のフランス映画で、ブリュノ・デュモン監督が有名なジャンヌ・ダルクの生涯を映画化した2部作。ジャンヌ・ダルク映画は数多く、地元フランス映画だとカール・テオドア・ドライヤーの無声映画『裁かるゝジャンヌ』(1928年)、ロベール・ブレッソンの『ジャンヌ・ダルク裁判』(1962年)、ジャック・リヴェットの『ジャンヌ』2部作(1994年、短縮版『ジャンヌ 愛と自由の天使』『ジャンヌ 薔薇の十字架』、オリジナル完全版『ジャンヌ・ダルク/I 戦闘 II 牢獄』)、他国の映画ではヴィクター・フレミングの米国映画『ジャンヌ・ダーク』(1948年)、フランスのオラトリオ原作のロベルト・ロッセリーニのイタリア映画『火刑台上のジャンヌ・ダルク』(1954年)、フランス女優ジーン・セバーグが主演したオットー・プレミンジャーの米国映画『聖女ジャンヌ・ダーク』(1957年)、フランス人監督リュック・ベッソンの米国映画『ジャンヌ・ダルク』(1999年)など、たくさん作られてますが僕はこれがジャンヌ・ダルク映画初見。
第1部は神の声を聞いた少女ジャネット(後のジャンヌ)がフランスを救うために武器を取ることを決意し、オレルアンに向かうまでが描かれています。主演はロケ地周辺で見いだされたという当時8歳のリーズ・ルプラ・プリュドムで、成長した終盤はジャンヌ・ボワザンに交代。ほとんど内容を知らないまま観たんですが、なんとミュージカル映画でした。しかもその音楽がロック、ヘビメタ、ラップなどというかなりファンキーな作品で、ジャネットがヘビメタに合わせてヘドバンしたりします。その一方で原作が19世紀末から20世紀初頭の詩人シャルル・ペギーの劇作とのことで会話劇でもあり、台詞は神学的というか宗教的というか哲学的なのでなんだか前衛映画っぽくも見えます。全編ほぼ野外撮影で、舞台は何もない野原や川岸ばっかりだから予算は掛かってなさそう。歌い踊るジャネットの後ろで羊たちがずっとうろついたり草食ったりしてるのもなんかシュール。羊って人が大声で歌っても特に反応しないんですね。
第2部は戦争に参加したジャンヌがイングランド軍に捕えられ、異端審問にかけられて火刑に処されるまで。ジャンヌ役は第1部前半のリーズ・ルプラ・プリュドムに戻っています。まあ実際のジャンヌは20歳そこそこで死んでるんで、これまでの映画のジャンヌ役のほうが年を取りすぎではあるんですが。こちらはミュージカル仕立てではなく純粋に会話劇で、戦闘シーンは無く、その前後の野外での会話シーンのみ。そこでフランス軍内部にもジャンヌに対する懐疑があることが描かれます。メインはやはり異端審問で、こちらは本物の大聖堂で撮影されてますが、やっぱり予算は掛かってなさそう。火刑シーンはエピローグ的に遠景のロングショットで描かれてます。映画を観て思ったんですが、ジャンヌ・ダルクで重要なのは神の声を聞いたことと異端審問と処刑で、その間の戦闘とかは大して重要じゃないんですね。過去のジャンヌ映画でも異端審問と処刑のみを描いたものが多く、あくまでキリスト教的文脈の中で見る人物なんでしょう。この2部作もある意味いかにもフランス映画っぽく、ちょっととっつきにくいんですが、興味深くはある映画でした。
>藤原道長が出てくる映画・追記
ゲーム『刀剣乱舞』の実写映画第2作『映画刀剣乱舞 黎明』(2023年)に道長が登場するようです。といっても本編は現代で、道長が出てくるのはプロローグ部分のようですが。演じてるのは柄本明……って佑の親父かよ! 他に酒呑童子(演:中山咲月)、源頼光(演:津田寛治)、安倍晴明(演:竹財輝之助)が出てくるようですね。
>復刊タクテクス
最近更新された過去ログを読み返して気づいたんですが、ボードシミュレーションゲーム誌『タクテクス』が復刊されるという情報を自分で書き込んでおきながら(#11145)、その後すっかり忘れてた! 改めて調べると2022年3月に復刊第1号が出たようですが、2年近く経つ今も第2号が出る気配なしということで、やっぱりダメだったか。残念。
#11413
バラージ 2024/02/14 22:44
室町実写映画が作られるようです
垣根涼介の小説『室町無頼』が大泉洋主演で映画化されると発表されました。来年1月の公開だそうです。『室町無頼』は1462年の寛正の徳政一揆の張本(首領)である蓮田兵衛という人物が主人公だそうで、蓮田は室町時代の徳政一揆の張本として処刑された者のうちで名が知られる最初の人物とのこと。蓮田と腐れ縁を持つという設定の骨皮道賢役が堤真一だそうです。いやぁ、これは室町ブーム来るか?
>最近観た歴史関連映画
『身代わり忠臣蔵』
観てきました。忠臣蔵には全くと言っていいほど興味がないんですが、脇役で好きな女優の野波麻帆さんが出てるんでちょっと観てみようかなと思いまして(笑)。ろんたさんがコピペしてる公式サイトのあらすじは実際の内容とはちょっと違ってますね(公式サイトのあらすじが内容と違っててどうすんだとも思うけど)。以下にコピペする東映オフィシャルサイトのあらすじのほうが実際の内容に近いです。
「江戸城内で事件発生!嫌われ者の旗本、吉良上野介(ムロツヨシ)があろうことか城内で斬りつけられた。理由は、ずっと陰湿ないじめを受けていた赤穂藩藩主がついにブチ切れたため。斬った赤穂藩主は当然切腹。だが、実は切られた側も逃げた傷で瀕死の状態だった!? 逃げて死んだとなれば武士の恥、お家取り潰しの危機となり、両家とも大ピンチ!ここで吉良家家臣から出てきたのは、まさかの奇想天外な打開策!?殿にそっくりな弟・孝証(たかあき)(ムロツヨシ)を身代わりにして、幕府を騙し抜け! 一方切腹した赤穂藩の部下、大石内蔵助(永山瑛太)は、仇討の機会をうかがっているような、いないような・・・?」
身代わり当初は上野介は重傷で寝たきりで、生臭貧乏坊主・考証お得意の口八丁で幕府に逃げ傷ではないと申開きをさせるのが身代わりの目的。ところが柳沢吉保の追及を上手く言い逃れたと思ったら、上野介がそのままあの世行き。家臣は頃合いを見て病死したことにして養子に後を継がせるから……と懇願して考証に身代わりを続けてもらい……という展開でした。養子はそこで1回台詞に出てくるだけ(名前は出てこない)。ちなみに考証(実際の読みは「こうしょう」)は実在の上野介の末弟だそうですが、出家したことぐらいしかわからない人とのこと。
いや、面白かった。実は出来のほうにはそんなに期待してなかったんですが、いい意味で裏切られました。もともと小説家と脚本家を兼業してる原作者の土橋章宏が自ら脚本も書いているとのことで、映像の脚本というものをよくわかってるからかこの映画も脚本が非常によく出来ています。そしてその脚本を演出した河合勇人監督もまた非常に上手く、映画のテンポが抜群でしたね。そしてなんといっても主演のムロツヨシがすごい。コメディシーンからシリアスなシーンまで緩急自在に硬軟織り交ぜた幅の広い演技力を見せつけており、まさにムロツヨシ無双と言っていい状態。ほんとに感心しちゃいました。『勇者ヨシヒコ』のメレブからここまで来たかという感じで、俳優として絶頂期というか円熟期を迎えていると言っていいんではないでしょうか。脇を固める永山瑛太や川口春奈・林遣都などもみな好演で文句のつけようがありません。お目当ての野波さんは、ま、あんなもんだろうという役でしたが。あ、あとナレーションがずいぶん可愛い声の女の子だなと思ったら森七菜ちゃんでした。
もちろん定番の忠臣蔵とは全く異なる結構ぶっ飛んだところも多いコメディ時代劇ですが、もともと忠臣蔵が史劇というより時代劇で極端に言えば『水戸黄門』や『大岡越前』みたいなもんですからね。忠臣蔵ファンがどう思うかはわかりませんが、僕みたいに忠臣蔵にあまり興味のない人やそもそも忠臣蔵をあまり知らない、あるいは全く知らないという人でも問題なく楽しめる娯楽時代劇でした。
『ティル』
1955年に起こったエメット・ティル殺害事件を題材とした米国映画。エメット・ティル殺害事件とは、北部シカゴ出身のアフリカ系米国人(いわゆる黒人)である14歳の少年エメット・ティルが、初めて南部ミシシッピー州マネーの親戚の家に遊びに行った際、白人女性に向かって口笛を吹いたというささいな理由でその女性の夫たちに拉致誘拐され、凄惨なリンチを受けた上で殺害されて遺体が川に投げ捨てられた事件とのこと。映画はそのエメットの母親で、息子を殺された悲しみと怒りから立ち上がり南部をはじめとする米国社会に立ち向かったメイミー・ティルを主人公としており、マネーに赴き殺害犯たちの裁判に証人として出廷する彼女の戦いが描かれています。
メイミーは後にNAACP(全米黒人地位向上協会)などの公民権運動の活動家となったとのことで、この事件は同年のローザ・パークスによるバス・ボイコット事件や、若き日のキング牧師、本作にメイミーを支援するNAACPの人物として出てきた若き日のメドガー・エヴァースとその妻マイリーの活動などにも大きな影響を与えたとのこと。しかしその後も事態は一足飛びには改善されず、人種差別によるリンチ行為を連邦法に基づいたヘイトクライムとして定めるエメット・ティル反リンチ法が成立したのは実に一昨年のことだったそうです。
非常に丁寧に作られているよく出来た映画でしたが、少々中途半端なところで終わりとなってしまうのは惜しい。史実だから仕方がないんですが、映画としては終盤にもう一盛り上がり欲しかったところ。主演のメイミー役のダニエル・デッドワイラーやエメット役のジェイリン・ホールは好演。プロデューサーの1人でもあるウーピー・ゴールドバーグはメイミーの母(エメットの祖母)役で出演してるんですが、ずいぶん太ったな〜。もうすっかりおばあちゃんですね。考えてみれば『天使にラブソングを…』も30年前か。しかしこの映画、邦題が良くないよなあ。原題をカタカナにしただけの邦題ですが、こんなタイトルじゃ人目を引かないですよ。日本じゃ知名度の低い事件なんだし(僕も不勉強にして知らなかった)、もうちょっと邦題を考えたほうが良かったんでは? 僕もタイトル見ただけでスルーしてましたが、テレビのローカル情報番組で内容を知り、上映が終わりそうなんであわてて観に行ったんですよね。
>清少納言などが出てくる映像作品
『光る君へ』、ついにファーストサマー清少納言が登場。実際には清少納言と紫式部は会ったことがない可能性が高いようですが、ドラマとしては2人が顔を合わせたほうが面白いですもんね。とはいえ清少納言と紫式部が共演?した映像作品はやはり少なく、歴史映像名画座にある映画『千年の恋 ひかる源氏物語』と、1958年の単発ドラマ『女人連祷』(CBC、清少納言役:森孝子)ぐらいのようです。2人は出仕した時代が10年ほど違うし、属した陣営も違うんで絡めづらいんでしょう。
それ以外で清少納言が出てきた映像作品を探すと、イギリスのピーター・グリーナウェイ監督の映画『ピーター・グリーナウェイの枕草子』(1996年)がありました。グリーナウェイというと『ZOO』『建築家の腹』『数に溺れて』『コックと泥棒、その妻と愛人』『プロスペローの本』など独特のフェティシズムで表現された難解な作風で、80年代から90年代には一部に熱狂的支持を集めましたが僕はいずれも未見。『ピーター・グリーナウェイの枕草子』も『枕草子』がモチーフと言いつつ現代劇だし、あらすじを読むとどこが『枕草子』なんだかよくわかんないんだよな。一応、清少納言も登場するようで演じてるのは吉田日出子。80年代から90年代頃の吉田さんはちょっとおかしな女の人ばかり演じてたような印象があり、子供心になんだかちょっと怖かったですね(笑)。
それから『この世界の片隅に』の片渕須直監督がそれ以前の2009年に監督したアニメ映画『マイマイ新子と千年の魔法』にも主要人物として少女時代の清少納言が出てくるとのこと。ただしこちらも主な舞台は昭和30年代で、高樹のぶ子の幼少時代の自伝的小説『マイマイ新子』のアニメ化だそうです。清少納言役の声は森迫永依。また片渕監督が現在製作中のアニメ映画『つるばみ色のなぎ子たち』にも大人になった清少納言が出てくるとのことで、そちらは平安時代が舞台だそうです。
ついでに赤染衛門の出てきた映像作品は『光る君へ』の他には映画『紫式部』(1939年、清少納言役:雲井八重子)しかないみたい。やはり知名度の違いか。そういや『光る君へ』は残る1人のビッグネーム和泉式部の配役の発表がありませんね。もっと後から出てくるんだろうか?
>未見映画&ドラマ
『ビザと美徳』……1997年の米国の短編映画。ユダヤ人を救った杉原千畝を描いた映画で、アカデミー賞最優秀短編映画賞を受賞しました。日本ではVHSスルーでDVD化はされていません。
『ゴースト・オブ・ミシシッピー』……1996年の米国映画。1963年にメドガー・エヴァースを殺害して無罪放免となった白人至上主義者に対して、30年後にメドガーの妻マーリーからの依頼で再審に挑む地方検事を描いた作品。日本ではVHSスルーでDVD化もされていませんが、動画配信はされています。
『パンチョ・ビリャ:北のケンタウロス』……2023年のメキシコのテレビドラマ。パンチョ・ビリャの生涯を描いたドラマで、Disney+で配信中。
#11412
バラージ 2024/01/31 22:09
JFK再び
『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』を観ました。それにしてもやたら長いタイトルだなあ。『JFK』のオリバー・ストーン監督によるドキュメンタリー映画で、配信版は4時間もあり、それを劇場用に再編集したものとのこと。
『JFK』が日本公開されたのは1992年3月ですが(懐かしい)、世界的に大ヒットしたこの映画の影響でケネディ大統領暗殺事件に関する機密資料が大量に機密解除されて公開されることとなりました。しかし真相解明は遅々として進まず、結局はオズワルド単独犯という旧来の公式見解に流れが回帰することに不満を感じていたストーンが、公開された資料による新発見やその後の研究の進展も交えて今度はドキュメンタリー映画として製作したケネディ大統領暗殺事件映画です。
面白かった。さすがはオリバー・ストーン、劇映画ではなく社会派ドキュメンタリーでありながら娯楽映画としてもちゃんと面白いものになっています。社会性と娯楽性って両立されてるものは意外に多くないんですよね。日本だと昔の山本薩夫監督(『白い巨塔』など)が娯楽性を備えた社会派映画を撮ってましたが。インタビュー受けてる人かナレーションかストーン自身がとにかく2時間ずっとひっきりなしにしゃべってる映画で、休みどころがないんでずっと集中して字幕を観ていなければならないのがちょっと大変ですが、同時に面白くて目が離せないとも言えます。まぁ『JFK』と比べて大きく違うところがあるわけではないんでそこまでの驚きはないんですが、劇映画ではなくドキュメンタリー映画なので説得力は増してましたね。
>いやぁ、驚いた
桐島聡容疑者、今頃になってまさかの出現。事件自体の記憶は全くないんだけど、子供の頃から銭湯なんかに貼ってあった指名手配のポスターで見かけてたあの人が。あの顔写真、妙にインパクトが強くてよく覚えてるんだよな。もう捕まらないだろうと思ってたけど、死に際になって自分から名乗り出るとは、なんだか50年前の歴史がタイムトンネルを通って顔を見せたような。いろいろ考えさせられますねえ。
>アイをください
花山天皇(かざんてんのう)も最初に読んだ時、「はなやまてんのう?」とか思っちゃったんだよな。「かざんてんのう」って名前は名前でなんだか大噴火しちゃいそうだし(笑)。
それにしても『光る君へ』で演じてる本郷奏多くん、最近はどうもこういう変人役が多いような。ご本人も一時は異常なほどの潔癖症という変人キャラでバラエティに出てたし……と思ったら、同じ日曜日の連ドラ『アイのない恋人たち』では33年間彼女なしという正反対の役をやってたりなんかして。『光る君へ』も近年の大河ドラマでは面白い部類に入るけど、個人的には『アイの─』のほうがそれ以上に面白いドラマなんだよな。
>ドラマの劇場版
『風よ あらしよ 劇場版』……確か結構前から製作のニュースは出てたしドラマ自体もなかなか好評だったみたいなんで大河とは関係ないと思うんだけど、結局のところドラマの再編集短縮版だしわざわざ劇場公開する必要性があるとは思えないんだよなあ。実はここ数年、テレビドラマの劇場版がやたらめったら増えたと感じてたんですよね。そんなに視聴率が良かったとは思えないものまで劇場版が作られてる。まあ、そういうのはだいたいドラマの続編なんですが、歴史ものは続編作れないからそこが難しいところ。
#11411
ろんた 2024/01/30 00:01
アーミッシュの話
「栄耀映画なる回廊」で「刑事ジョン・ブック/目撃者」の「徒然草」を読みました。で、そのアーミッシュを取材した「町山智弘のアメリカの今を知るテレビ in asociation with CNN(アメ知る)」(BS朝日で現在は月一回放送、以前は週一)を思い出しました。どちらに書くか迷ったんですが、映画の話じゃないのでこちらにしました。
さて「アメ知る」は基本的に、映画評論家・町山智弘さんがアメリカのあちこちを取材する番組でして、アーミッシュの村を訪れたのを見たわけです。すると「刑事ジョン・ブック/目撃者」のイメージ通りだったり、全く違っていたりしました。というのも、アーミッシュの戒律は教区ごとに異なっていて、全会一致で変更できるから。ただし特定の教会はなく、住人の家の持ち回りで集会を行います。ですから、どれだけ現代文明を受け入れるかも教区ごとに異なっています。
一番驚いたのは、屋根の上に太陽光発電パネルが乗ってたことかなぁ。電力会社から買うのはNGだけど、発電するのは自給自足だからOKということらしい。その教区では照明なども、また馬車のヘッドライトや室内灯などもLEDだったりします。馬車の車輪にゴムを張っている教区もある。また一定期間、若者を外の世界に送り出したりする。その間は彼女と車で(馬車ではない)ドライブしたり、音楽に夢中になったり、普通の若者として暮らすけど、期間が終わると、アーミッシュとして暮らすか、外の世界で暮らすか選択するとのこと。あと、フリーマーケットとかやってるらしい。
ただ、相変わらず服にジッパーは無いし、非暴力だし、納屋は住民みんなで建てるのでありました。
末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)も「アメ知る」で見てイメージが変わりました。基本的に酒たばこコーヒーなどは禁止だけど、異教徒でそういうのを嗜む人は認めよう。同性愛や同性婚も、信徒でなければ認めようということになっている。ソルトレイクシティで、既にモルモン教徒の比率は50%程度。カフェも飲み屋も醸造所もある。それどころか、ゲイバーも紹介されていた。それというのもIT企業を誘致するためだとか。ユタの州議会は、ほとんどがモルモン教徒で共和党。恐ろしく保守的だけど、経済政策には積極的なんだとか。あと、モルモン教は啓示宗教だけど、キリスト教やイスラム教と違って新しい啓示がすぐ出てきて、しょっちゅう方針転換があるらしい。有名な一夫多妻が禁止された時は、あんまりにも急でついていけない信徒が多かったらしい。たくさんの奥さんを地下室に隠していた人もいたとか(笑)。
#11410
ろんた 2024/01/28 16:25
歴史映画の話
相変わらず「月刊 TV Navi」を買っとるわけですが、映画紹介コーナーに歴史物があったのでご紹介。
「カラーパープル」(2024/02/09〜)
"優しい母を亡くし横暴な父の言いなりとなったセリーは、父の決めた相手と結婚し、自由のない生活を送っていた。さらに、唯一の心の支えだった最愛の妹ネティとも生き別れてしまう。そんな中、セリーは自立した強い女性ソフィアと、歌手になる夢を叶えたシュグと出会う。彼女たちの生き方に心を動かされたセリーは、少しずつ自分を愛し未来を変えていこうとする。そして遂に、セリーは家を出る決意をし、運命が大きく動き出す──。"(公式サイトより)
1985年のスピルバーグ作品をミュージカル化してリメイク。原作があるんで、そちらから映画にしたのかと思ったら、映画をブロードウェーでミュージカル化したものの映画化。スピルバーグも製作に入ってるし。これ確か、女性映画のつもりで作ったら、黒人社会の男尊女卑がばっちり描かれて騒ぎになったんじゃなかったか? 今なら、そっちに焦点を当てても大丈夫ってことか。
・キャスト
セリー:ファンテイジア・バリーノ/シュグ・エイブリー:タラジ・P・ヘンソン/ソフィア:ダニエル・ブルックス/ミスター:コールマン・ドミンゴ/ハーポ:コーリー・ホーキンズ/スクイーク:ガブリエラ・ウィルソン "H.E.R."/ネティ:ハリー・ベイリー/
・スタッフ
製作:オプラ・ウィンフリー,スティーブン・スピルバーグ,スコット・サンダース,クインシー・ジョーンズ/監督:ブリッツ・バザウーレ/原作:アリス・ウォーカー/振付:ファティマ・ロビンソンー/音楽:クリス・バワーズ/配給:ワーナー・ブラザーズ映画/
「身代わり忠臣蔵」(2024/02/09〜)
"嫌われ者の殿・吉良上野介が江戸城内で斬られ、あの世行き! 斬った赤穂藩主は当然切腹。だが、殿を失った吉良家も幕府の謀略によって、お家存亡の危機に!! そんな一族の大ピンチを切り抜けるべく、上野介にそっくりな弟の坊主・孝証が身代わりとなって幕府をダマす、前代未聞の【身代わりミッション】に挑む! さらに、敵だったはずの赤穂藩家老・大石内蔵助と共謀して討ち入りを阻止するというまさかの事態に発展!? 幕府に吉良家に赤穂藩も入り乱れ、バレてはならない正体が…遂に!?"(公式サイトより)
「超高速!参勤交代」の土橋章宏が原作、脚本なので、パロディなのはわかっていたが、そう来たかという感じ。義周はいないことになってるし、上野介もかなり若いみたい、ムロツヨシが演じてるし。桔梗(川口春奈)が孝証(ムロツヨシ)を支えるマドンナだそうな。紹介記事では東映製作というのに驚いていたけど、「他社にばかり美味しい思いをさせるものか」って感じかな。実際、ほとんどパロディみたいなのも作ってるし。
・キャスト
吉良上野介,吉良孝証:ムロツヨシ/大石内蔵助:永山瑛太/桔梗:川口春奈/斎藤宮内:林遣都/徳川綱吉:北村一輝/柳沢吉保:柄本明/清水一学:寛一郎/堀部安兵衛:森崎ウィン/堀江半右衛門:本多力/原惣右衛門:星田英利/りく:野波麻帆/浅野内匠頭:尾上右近/高尾太夫:橋本マナミ/加藤太右衛門:板垣瑞生/片岡源五右衛門:廣瀬智紀/奥田孫太夫:濱津隆之/春凪:加藤小夏/岡野金右衛門:野村康太/間十次郎:入江甚儀/
・スタッフ
原作:土橋章宏「身代わり忠臣蔵」(幻冬舎文庫)/監督:河合勇人/脚本:土橋章宏/テーマ曲:東京スカパラダイスオーケストラ「The Last Ninja」(cutting edge,JUSTA RECORD)/配給:東映/
「風よあらしよ 劇場版」(2024/02/09〜)
"「女は、家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだあとは子に従うことが正しく美しいとされた大正時代──。男尊女卑の風潮が色濃い世の中に反旗を翻し、喝采した女性たちは社会に異を唱え始めた。福岡の片田舎で育った伊藤野枝は、貧しい家を支えるための結婚を蹴り上京。平塚らいてうの言葉に感銘を受け手紙を送ったところ、青鞜社に入ることに。青鞜社は当初、詩歌が中心の女流文学集団であったが、やがて伊藤野枝が中心になり婦人解放を唱える闘う集団となっていく。野枝の文才を見出した第一の夫、辻潤との別れ、生涯のパートナーとなる無政府主義の大杉栄との出会い、波乱万丈の人生をさらに開花させようとした矢先に関東大震災が起こり、理不尽な暴力が彼女を襲うこととなる──。"(公式サイトより)
2022年にNHKBS4K・8Kで放送されたドラマを劇場公開。上映時間(127分)からすると再編集版か? (ドラマは49分×3回だった模様) "朝ドラ「花子とアン」の柳川強×吉高(由里子)が強力タッグ!"と紹介されているけど、ついつい「光る君へ」のキャンペーンじゃないかと疑ってしまう(汗)。配信もされてるみたいだし。
・キャスト
伊藤野枝:吉高由里子/大杉栄:永山瑛太/平塚らいてう:松下奈緒/神近市子:美波/村木源次郎:玉置玲央/堀保子:山田真歩/朝加真由美/山下容莉枝/渡辺哲/栗田桃子/高畑こと美/金井勇太/芹澤興人/前原滉/池津祥子/甘粕正彦:音尾琢真/渡辺政太郎:石橋蓮司/辻潤:稲垣吾郎/
・スタッフ
演出:柳川強/原作:村山由佳『風よあらしよ(上)(下)』(集英社文庫)/脚本:矢島弘一/音楽:梶浦由記/制作統括:岡本幸江/
>『龍狼伝』(山原義人/月刊少年マガジンKC/講談社)
連載30年、発行部数1700万部ということで読み直し。『龍狼伝』が全37巻、『龍狼伝 中原繚乱編』が全17巻、『龍狼伝 王霸立国編』が既刊9巻、とさすがに膨大。これがデビュー作というのにあらためて驚く。ただ『王霸立国編』の8巻は、うっかり買い逃したら手に入らなくなってしまった。これ、講談社の経営方針かなぁ。紙の本は最低限しか刷らずにすぐ絶版。読みたい人は電子をどうぞという風になっている気がする。だから古本でも手に入らなくなっちゃってるんだよな。KADOKAWAも同じかな。
お話は、中学生の天地志狼と幼なじみの泉真澄が、修学旅行で中国に向かう機内で突然現れた龍にさらわれ、西暦207年の荊州に連れて行かれるところから始まる。曹仁軍と劉備軍の戦いの中に放り込まれたせいで、単福が死亡。志狼は三国志の知識があることから"竜の軍師"として劉備軍に加わる。やがて二人は天運の相に目覚め、破壊と混沌をもたらす破凰の相の持ち主・"仲達"と戦うことになる……わけですが、一応『三国志演義』に従っているのは『龍狼伝(18)』まで。赤壁の戦い以後、曹操をクーデターで追放した"仲達"は漢の丞相におさまり、今度は匈奴の内紛に乗じてその滅亡を画策する……というのが37巻まで。『中原繚乱編』では、曹操討伐の中で献帝を亡き者にしようとする"仲達"の陰謀が描かれる。そして『王霸立国編』では、志狼が自分の国を作ろうと動き出す。ということで、『正史』とも『演義』とも関係ないところまで話が進んでしまっているのでありました。もう、タイムスリップ物というより歴史改変物になってる。志狼の強さのインフレも凄いし、グノーシス派だのローマ教会の暗殺者集団とか出てきちゃって、収拾がつくのか心配(笑)。
#11409
バラージ 2024/01/22 15:49
火の鳥 ムーラン編
昔、赤染衛門(あかぞめ・えもん)を(あか・そめえもん)と読んで、「男みたいな名前だな」と思ってた時期が結構長くありました(笑)。
2020年のディズニー実写映画版『ムーラン』をディズニープラスで観ました。いや最近スマホを買い換えたらディズニープラス半年間無料キャンペーンをやってると言われまして。半年経ったら退会すればいいやと勧められるままに入会したんですが、これがまた観たい映画がほとんどない。よくよく考えりゃディズニー映画にあんまり興味ないんですよね(まあディズニープラスもディズニー映画ばっかりではないんですが)。いろいろ検索してようやく見つけた観たい映画がこれでした。コン・リーが出てるから観てみたかったんだよな。配信当初は高額な視聴料という情報でしたがタダで観れました。ちなみに僕はアニメ映画版『ムーラン』は観ていません。
まあまあ面白かったかな。さすがはハリウッド。雄大な風景とセット、CGも駆使した壮大な映像は見ごたえがありました。ただ、それをスマホの小さい画面で観るんで、そこがなんとも。やっぱり映画館のスクリーンで観るべき映画だったよなあ。逆にスマホで良かったのは言語を選べるところ。中国が舞台の時代劇で英語は個人的にはやっぱり変。本人の声が聞ける英語を選ぼうか迷ったんですが、リアリティ的に中国語(北京語)吹替の日本語字幕を選びました。映画館ではそれはできないからなあ。主演のリウ・イーフェイをはじめ、コン・リー、ドニー・イェン、ジェット・リー、ジェイソン・スコット・リーといった中華圏と中国系米国人俳優の超豪華キャストも素晴らしい。
お話の方は、ま、こんなもんかなといった感じ。攻めてくる敵は柔然ですが登場人物は悪ボスのボーリー・カーン(ジェイソン・スコット・リー)も含めてみんな架空ですし、中国側の皇帝(ジェット・リー)も個人名はなく、王朝名もありません。まあ英語なんだから「China(チャイナ)」なんだろうし(笑)。コン・リーにいたっては魔女役だし、なんで魔女がいるかの説明もないファンタジー。まぁ木蘭(ムーラン)は実在の人物ではなく伝承上の人物なんで史実どうこうとかはとりあえずどうでもよく、それなりの雰囲気さえ出てればそれでいいかと。なお、本作では主人公の守護神みたいな存在として不死鳥が出てきます。中国の不死鳥的存在といえば鳳凰ですが、本作では炎で自らを焼いて蘇るとか言われてるんで鳳凰ではなくあくまで不死鳥。おかげでほんのちょっとだけ手塚治虫の『火の鳥』チックな感じもしたりなんかして(笑)。
>どっこい生きてる
『光る君へ』で師貞親王(後の花山天皇)を演じている子役と、本役に変わった本郷奏多の怪演がちょっと話題になってるようですね。多分ドラマでも言及されてたはずですが、花山天皇は円融天皇の子供ではなく円融の兄の冷泉天皇の子で円融の甥です。父親の冷泉天皇は実はドラマ開始時点でも上皇としてまだ生きてました。
冷泉は村上天皇と藤原師輔の娘である中宮安子の子で、異母兄に広平親王(母は藤原南家の元方の娘で更衣の祐姫)がいましたが、母の身分の差から皇太子になりました。これにがっくりきた元方は病死したとのことで、後に述べる冷泉の異常行動も元方や祐姫の祟りだと『大鏡』にはあるそうです。映画版『陰陽師』はこのあたりが元ネタになってるらしく、同作に登場する敦平親王は冷泉の親王時代がモデルのようですね。冷泉は史実では憲平親王なんですが、映画版『陰陽師』では他にも村上天皇に該当する人物が「帝」、安子に該当する人物が「任子」になっていて、他は広平親王や祐姫も含めてみんな実名なのになんでこの3人だけ名前が変えられてるのかは不明。
やがて967年に村上が死去し冷泉は18歳で即位しますが、皇太子時代から病弱だった上に、足を怪我したにも関わらず一日中蹴鞠を続けたり、病気で寝ているのに大声で歌を歌うなど、精神的なものなのか知能的なものなのかわかりませんが非常に奇行が多く、村上の時には不設置だった関白に師輔の兄・実頼が就任しています(師輔は村上より前に死去しており、その子供たちはまだ若かったため)。しかし冷泉は到底皇位を長く維持できないと判断され、後継者選定が急務となります。皇太子(皇太弟)候補は冷泉の同母弟のうち年長の為平親王とその下の守平親王(後の円融天皇)。源高明が娘婿の為平を、藤原氏が守平をそれぞれ推し、高明が外戚になることを嫌う藤原氏の意見が通って守平が皇太弟となりました。さらに安和の変によって高明は失脚。一方で師輔の長男・伊尹は娘の懐子を、3男・兼家は娘の超子を女御として冷泉に入内させ、懐子が産んだのが後の花山天皇、超子が産んだのが後の三条天皇です。かくして冷泉はわずか2年で11歳の円融に譲位しますが、以後42年も上皇として過ごし、その間に円融、花山、円融の子の一条天皇に先立たれており、死去したのは1011年のことでした。とはいえ譲位後のくわしい動向は不明なのでドラマには出てこないだろうなあ。また三条を産んだ兼家の娘の超子も没年は982年なのでドラマ序盤にはまだぎりぎり生きてたはずですが、さすがに出てきませんでしたね。
>歴史関連映画&テレビドラマの話
そういえば今年4月にまたまた夢枕獏原作の映画『陰陽師0(ゼロ)』が公開されるとのこと。安倍晴明の若い頃の話で主演は山崎賢人、源博雅役が染谷将太、ヒロインの徽子女王役が奈緒という布陣。徽子女王で検索してみたら実在の人物なんですね。またえらくマイナーな人を持ち出してくるなあ。
それからBSテレ東で23日から、以前こちらで紹介したタイムスリップ韓国ドラマ『哲仁王后(チョルインワンフ) 俺がクイーン!?』の再放送が始まるようです。これはなかなか面白いドラマでした。
#11408
ろんた 2024/01/18 18:50
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!(15)』
まず語られるのは太田道灌暗殺の余波。諸勢力の反応は「これで扇谷の力は大幅に殺がれたか。修理太夫殿(扇谷定正)の愚かさだけは認めてやってもよい」という山内顕定の言葉に代表される。がっくり来たのは事実上、太田道灌が後ろ盾になっていた今川(小鹿)新五郎範満。そこで龍王丸の帰駿が本格的になるんだけど、本人が「す、駿河は、こここ、怖い!」と帰駿を拒んですったもんだ。かめ(龍王丸の姉)の縁談、ぬいの懐妊、出産(千代丸=後の氏綱)を経て、なんだか落ち着きがなくて頼りない龍王丸を担いで駿河へ。新五郎は労咳(?)。病状が重くなるにつれて守護職への執着を強める。新五郎派の国人らも既得権益を手放そうとはしない。そこで新九郎は、伊勢家得意の寝技で多数派工作。福島修理亮は新九郎を警戒して刺客を放つ。一方、室町殿は「余は間もなく余が替えの利かぬ大将軍たる証を立てるつもりだ」と何やら計画している模様。いや、六角征伐だろうけど。ということで室町殿の余命は二年。次巻ではいよいよ新五郎派との激突が語られるのか?
そういえば三浦道含が一コマだけ出てきた。この人、三浦義同(道寸)の父、太田資康(道潅の子)の舅。二人とも早雲に討たれるので、そこまで話を進めるのかも。以前のインタビューでは、堀越御所討ち入り(1話冒頭)で終わるという話だったけど。
>対馬が韓国の領土だという証拠?
「韓日文化研究所長のキム・ムンギル(金文吉)釜山外国語大学名誉教授は13日、『日本の対馬が韓国の領土だという証拠の古地図が新たに発見・入手した』と主張した。」とのこと(2024/01/17 KOREA WAVE)。確かに対馬と九州の間に国境線(?)がひかれてるんだけど、他に海上の国境線は引かれてない。ということで、限りなく怪しい(笑)。ちなみに、なぜか華北と満洲が赤と青に色分けされ、満州と朝鮮半島が同じ青色。対馬と千島列島と日本列島は同じ黄色。やっぱり、限りなく怪しい(笑)。
対馬が韓国領というのは、宗氏が朝鮮に朝貢していて冊封を受けていたのが根拠なんだろうけど、これ前近代のアジアの国際関係と近代の国際関係を混同した、国家主義者の妄言。その理屈だと、高麗も朝鮮も中国歴代王朝の属国になっちゃぞ。
>震災デマ
思いつき、思い込み、党派性でものを言う界隈から定期で出てくるのが「避難所でレイプが多発している。女性は一人でトイレに行くな」というデマ。災害時に警察の認知件数が跳ね上がったりしないんで、外国人窃盗団とか動物園から猛獣脱走と同レベル。事件がないわけではないし、暗がりに一人で行くと転んで怪我するからやめた方がいいのは確かだけど。そして反論されると暗数を持ち出すが、災害時に暗数が増える理由は説明できないんだな。挙句の果てに警察が隠蔽しているとか言い出す。この手の人たち、事実確認をしない、できないんで、それ以外の話でも眉に唾つけないと危ない。
>「光る君へ」
第一話しか見てなくて、第二話は録画しっぱなし(汗)。見ているとイライラしてくるんだけど、なぜなのか自分でも分からないという不思議なことになっております。脚本も演出も役者も演技も特に不満はないんだけどなぁ? 脚本は冒頭の為時と宣孝の会話がうまい、と思いましたね。あれで為時の世渡り下手が視聴者に説明臭くなく印象付けられた。子役もうまいんだけど、印象に残ったのは東宮(後の花山天皇)かな(笑)。最後の衝撃の展開は、本当に衝撃だったなぁ。だって国仲涼子さん、岸谷五朗さんと放送前日の番宣に出てたんだもの。あれも含めて伏線だったのか?
さて、ドラマ的なところ以外で不思議に思ったのは、為時が貧乏すぎるところ。殿上人の子弟の家庭教師ぐらいはしてたんじゃないか? そうすれば、兼家の登場に説得力が出る。そして雨漏りも直せないのに、女の所に通ってるのも摩訶不思議。まひろの疑問に激しく同意(笑)。ちやはが繕い物の賃仕事しているらしいのも「?」。あと妻子と同居してるの、説明があったかな。兼家は時姫(三石琴乃!)のところに通ってるみたいだけど(<朝議から戻って来ただけ?)。それこそ『源氏物語』でも葵の上と源氏は同居してないし、紫の上とは同居してるけど、これは誘拐同然に連れてきちゃったから。実家が太かったら殿に苦労はかけないのに、とちやはが言うけど、妻は実家(?)に住んでるはずだよな。あと「足で名前が書ける」のが自慢の三郎。学力が心配だ。そして、最後の衝撃の展開。あんなに血塗れだと血の穢れとかで大騒ぎになると思うんだけど。乗馬鞭で叩いて、叩いているうちに興奮して責め殺してしまうというほうが自然かな。でも、血塗れの方が視聴者の衝撃は大きいか。「七日関白」は流行り病のせいじゃなくて、ちやはにとり殺されたという展開もありかも。先祖には菅公に殺されたのもいるんだし。ああ、為時がもっと悪党だったら、兼家にそれとなくほのめかして除目で優遇してもらうんだけど、それができないのが為時なんだろうな。
ユースケの安倍晴明は、夢枕獏版ではなく肖像画よりですな。兼家や道長は『陰陽師』にもたびたび登場していると思う。そういえば、安和の変の鎮魂のために『源氏物語』が書かれた、というのが井沢元彦説だったなぁ。
もう一つ、三郎の付け人の恋人が野呂佳代だったのは気づかなかった。ああ、あの手をチャチャッと触れ合わせてから握り合うのもウマいと思いました。
#11407
バラージ 2024/01/16 21:52
世界で一番パパが好き
北陸の大地震、状況が明らかになるにつれ被害がかなりひどいものだということがわかってきましたね。特にひどいのが道路が寸断されているため孤立して支援の手が行き届いていない地域が相当多数あること。そこは阪神淡路や東日本の時よりもひどいのでは……。しかしこんな時でも被災地での窃盗や地震を利用したデマや詐欺が起こっているのは毎度のこととはいえ噴飯もの。ったくどうしようもねえやつらだな。
さて、『光る君へ』第2話、まひろ(紫式部)とお父さん(藤原為時)の仲が悪化してましたね。前回も書いた通り、実際の紫式部は父親に愛され、その強い影響下で育った「父の娘」だったと思われます。紫式部の婚期が遅かったことや、結婚相手の藤原宣孝が父親と同年代の男性だったことなども、「父の娘」にはよくあることだと河合隼雄氏は指摘してました(『紫マンダラ』)。
ところで僕は最近初めて知ったんですが、紫式部には同母兄弟の藤原惟規の他に同母姉もいたんですね。幼くして亡くなったと推測されているようで、そのためドラマには出てこないのかな。また父為時は紫式部らの母の死後に再婚したということも最近知りました。ただし嫁取婚ではなく妻問婚で同居はせず、為時は越前守となって越前国に下向する時も紫式部らは連れていったのに後妻とその子たち(ニ男一女)は同行していないとのこと。この人たちもドラマには出てこないのかな?
あとネットニュースで見たんですが、ある国文学者の人が、5男の藤原道長が三郎なのはおかしいのでは?と指摘してました。正室腹としては3男ですが、妾腹の異母兄が2人いるので道長は5男なんですよね。2人の異母兄のうち道綱はドラマにも出てきますし。また別のネットニュースでは、登場人物が藤原だらけで誰が誰だか覚えにくいという感想がX(twitter)にたくさん流れてたとのこと。そうなんですよね(笑)。僕も昔この時代の歴史を初めて読んだ時、みんな藤原だし名前も似てるし覚えにくい人たちだなぁと思った記憶があります。この時代がいまいち人気がない原因の1つにはそれもあるのかも。
>藤原氏の人々が出てくる映像作品
今年の大河『光る君へ』はこれまでで2番目に古い時代を舞台とした大河ドラマ。1番古い時代を舞台としてるのは平安前期の『風と雲と虹と』なわけですが、意外に2作の時代は離れていて間が開いてます。『風と─』には藤原忠平が出てきたようですが、『光る─』に出てきてる兼家は忠平の孫にあたります。しかし藤原氏は歴代兄弟の争いが激しく、直線的に忠平から兼家に至ったわけではないみたい。僕はこの時代にそんなにくわしくなかったんだけど、今回調べて知りました。そんなわけで(どんなわけだ?)忠平から兼家に至る歴代藤原氏の権力者たちが登場した映画やテレビドラマの話。
忠平の後を継いだのは長男の実頼ですが、村上天皇に入内した実頼の娘は皇子を産まず、ついに外戚にはなれませんでした。それに対して同じく入内した弟の師輔の娘が皇子(後の冷泉天皇・円融天皇ら)を産み、外戚となった師輔に権力は移ります。この師輔が兼家の父。師輔は歴史映像名画座にある映画『陰陽師』(演:矢島健一)と、2015年のテレ朝単発ドラマ『陰陽師』(演:志垣太郎)に登場しています。一方、実頼のほうは権力争いに負けたからってわけでもないんでしょうが登場作品はないようですね。実頼の息子の頼忠は『光る君へ』に登場しています。円融天皇も『光る君へ』に出てきてますね。師輔の死後に後を継いだのは長男の伊尹。伊尹の時代には源高明が失脚した安和の変が起きています。伊尹の登場作品は2015年テレ朝版『陰陽師』のみ(演:上杉祥三)。息子の義懐は『光る君へ』に登場しています。
伊尹も病死すると、その後継の座をめぐって激しく争ったのが犬猿の仲だった次弟の兼通と三弟の兼家。結局、後継となった兼通は兼家を徹底的に冷遇し、従兄弟の頼忠と結んで政治を行いました。やがて病に倒れた兼通は頼忠を後任として兼家を降格左遷しますが、頼忠には兼家と対立するつもりは無く、間もなく兼家は復権し、このあたりから『光る君へ』の時代に入っていきます。兼通は登場作品がやや多く、2001年のNHK連ドラ版『陰陽師』に数話登場した(演:平野稔)他、2003年の映画『陰陽師II』(演:斎藤歩)、2015年テレ朝版『陰陽師』(演:六平直政)に出てきています。息子の顕光は『光る君へ』に登場してますね。
一方、兼家は2001年NHK版『陰陽師』にレギュラー格として登場してる(演:石橋蓮司)他、映画『陰陽師』(演:石井愃一)、2015年テレ朝版『陰陽師』(演:川原和久)に登場。それにしてもこの辺の人たちが出てきた映画&ドラマってほんと『陰陽師』ばっかだな。『陰陽師』ブームが無かったらこの辺の人たちが出てくる映像作品は全然無かったってことですね。『陰陽師』以外の作品では室生犀星の小説『かげろうの日記遺文』が1963年と1965年の2度ドラマ化されていて、それに兼家が登場するようです(演じたのはそれぞれ仲谷昇と尾上梅幸)。『かげろうの日記遺文』は犀星が「生母への想いを『蜻蛉日記』の書き手・紫苑の上(史実では藤原道綱の母)や下賤の女・冴野に投影」した作品とのことで、道綱の母は『光る君へ』にも登場します。ちなみに『光る君へ』で兼家役の段田安則は、映画『千年の恋 ひかる源氏物語』では紫式部の弟の藤原惟規を演じているとのこと。年齢的にどうかという気もするけど、20年前の映画だし何より紫式部役が吉永小百合だからなあ。
兼家の息子で『光る君へ』の準主役の藤原道長にも触れときましょうか。道長は有名人だけあって登場作品が多いんですが、そのほとんどが紫式部絡みでして、前回紹介した映画『紫式部』『千年の恋 ひかる源氏物語』『源氏物語 千年の謎』、ドラマ『紫式部絵巻』、1965年版『源氏物語』(演:高橋幸治)、1991〜92年版『源氏物語』といったところ。それ以外では歴史映像名画座にも掲載されている映画『大江山酒天童子』にも登場してますが、そちらでは悪役まわりのようですね。その他にはやはり2015年テレ朝版『陰陽師』に登場(演:和田正人)。2015年版はヒロインの山本美月ちゃん目当てで観たんだけど、内容はあんまり覚えてないんですよね。なぜなら面白くなかったから。師輔・伊尹・兼通・兼家・道長と藤原一族総出演みたいな感じですが、兼家・道長父子しか記憶にないんだよな。確か兼家が呪いで下半身を消されてしまい、晴明になんとかしてくれと泣きつくみたいな話だったような。特撮で兼家の下半身が透明になってました。兼家を演じてたのは『相棒』の伊丹刑事こと川原和久(『BARレモンハート』のメガネさんでもある)でしたが、伊丹とは真逆の(そして『光る君へ』の兼家とも真逆の)情けないおじゃる公家でしたね。親父に付き添う道長はしっかりした切れ者みたいな感じでした。
#11406
バラージ 2024/01/08 15:35
内なる光
大河ドラマ『光る君へ』第1回を観ました。予想してたよりも面白かったです。子役2人の演技がとても良かったですね。平安中期の公家政権時代は個人的にそんなに好きな時代というわけではないんですが、やっぱりそういう歴史興味的な部分よりも単純な意味でのドラマとしての面白さのほうが重要ってことなんでしょう。紫式部の生涯なんてどうせほとんどわかんないんだし、朝ドラ的フィクション満載作でいいからあくまで物語としての面白さを追求していってほしい……と言いつつも、第1回の最後でかなり大きなフィクションが。やっぱりそういうのちょっと気になっちゃうんだよな(笑)。
紫式部の母親については『紫式部日記』にも家集『紫式部集』にも全く記されておらず、おそらく紫式部が幼い頃に死別したものと推測されているようです。もちろん藤原道兼に殺されたなんてことはありません(笑)。臨床心理学者の河合隼雄は『紫マンダラ』(文庫題『源氏物語と日本人』)で、紫式部は「父の娘」であり、そのような母親との縁の薄い女性は自立への道を歩みやすいことを指摘し、またそのことが彼女が作家としてあれほどの偉業を成し遂げた要因の1つだったとも言えるとしています。そういえば現代の文学者ですが村上春樹なんかも父親のことは本にまでしているけれど、母親のことについてはほとんど触れてないんだよな。
また河合は紫式部は「内向の人」であるとも指摘しており、彼女は自分の体験を外在する人たちとの関係として見るよりも、むしろ自分自身の内界の多様性として受け止めたと思われるとしています。書評家の三宅香帆も東洋経済オンラインの『明日の仕事に役立つ教養としての「名著」』で、同様に紫式部を「内向的」とした上で「自己肯定感が低く、プライドは高かったのではないか」「自虐的」ともしてましたね。でもそれじゃ1年ドラマの主人公としては動かしにくいんでしょう。『光る君へ』ではもう少し活発で社交的な女の子になってました。ま、これは仕方がないのかな。
それから吉田羊さんと道長の子役が見た目的に兄妹というより母子にしか見えない……(笑)。まあ、これも仕方ないし、次回からは本役に入るんで解消されるんでしょうが。あと紫式部が子供の頃から弟(兄とする説もある)より頭が良かったっていうお馴染みエピソードもちょっと描かれてましたが、1000年後になっても姉ちゃん(もしくは妹)よりも頭が悪かったって言われてるとは弟(または兄)も夢にも思わなかっただろうな(笑)。
そういや紫式部つながりか正月にNHKでドラマ『いいね!光源氏くん』が一挙再放送されてましたね。光源氏と頭中将が時空を超えて?現代にやってくるというファンタジー・ラブコメドラマです。本放送の時に家族が観てたんで付き合いで時々観てましたが、まあまあ面白いドラマでした。吉高さんつながりで『花子とアン』総集編も再放送されてたな。
>紫式部の出てくる映像作品
歴史映像名画座に掲載されているTBSスペシャルドラマドラマ『源氏物語』や映画『千年の恋 ひかる源氏物語』の他にも、紫式部が登場する映画やドラマは調べると過去にもそこそこあるようです。
まず最近の作品では映画『源氏物語 千年の謎』(2011年、監督:鶴橋康夫)。高山由紀子の小説『源氏物語 悲しみの皇子』(文庫化の際に映画と同じタイトルに改題)の映画化で、紫式部の物語と『源氏物語』とが並行して描かれるストーリーらしい。紫式部役は中谷美紀、光源氏役は生田斗真、藤原道長役が東山紀之、安倍晴明役が窪塚洋介。また戦前の1939年にも『紫式部』(監督:野淵昶)という映画が公開されているようです。あらすじはわかりませんが、日中開戦2年後、日米開戦2年前でもまだこういう映画が作れたんだ……と思いきや検閲で大幅にカットされたらしい。現在ソフト化もされておらず、多分フィルムが残ってないのかな。紫式部役は歌川絹枝で、その他の登場人物は和泉式部、倫子、赤染衛門、藤原道長、父藤原為時、夫藤原宣孝、娘賢子などとのこと。
テレビドラマもいくつかあって、まず1958年の単発ドラマ『女人連祷』(CBC)。テレビドラマデータベースによると「平安時代の宮廷を舞台に紫式部らの女人群像を描く。」とのこと。紫式部役は井川則子→山岡久乃。次いで1962年の単発ドラマ『紫式部絵巻』(TBS)。テレビドラマデータベースによると「源氏物語を完成させるため、長年の夢だった権力者藤原道長との恋をあきらめる紫式部を描く。」とのこと。紫式部役は香川京子、道長役は八代目・松本幸四郎(初代・松本白鸚)。そして1965年の連続ドラマ『源氏物語』(MBS)。タイトル通り『源氏物語』のドラマ化で、紫式部は最終回にのみ登場するようです。紫式部役は池内淳子。テレビドラマデータベースによると「1966年度アメリカ・エミー賞受賞作品。セットや衣装をすべて白と黒に統一するという異色の手法を用いた「市川源氏」。市川崑監督作品は3作のみ。ほかは演出指導。」とのこと。まあドラマ化作品はどれもテープが残ってないでしょうね。
>未見映画
『宇宙皇子(うつのみこ)』……1989年のアニメ映画。藤川桂介の歴史伝奇ファンタジー小説の最初の地上編のアニメ映画化で、役小角の弟子の宇宙皇子という架空の少年が主人公。壬申の乱後が舞台で藤原不比等が敵役らしい。後に続編の天上編も連続OVA化され、再編集された劇場版も先行公開されたとのこと。いずれもVHS化&LD化のみでDVD化はされていませんが、動画配信はされています。
『大佛開眼』……1952年の大映映画。奈良の大仏建立をめぐる物語を推進派と反対派の抗争を絡めて描いた作品。監督は衣笠貞之助、主演は長谷川一夫。VHS化のみでDVD化されていません。
『応天門の変』……2021年の映画。『ルパンの奇巌城』『正長の土一揆』の秋原北胤(秋原正俊)監督作品で、「伴大納言絵詞」が原作のコミカル時代劇とのこと。主演は源信役の柳沢慎吾と伴善男役の和泉元彌。一応DVD化されているようです(限定販売?)。
『恋や恋なすな恋』……1962年の東映映画。人形浄瑠璃の『芦屋道満大内鑑』と清元の『保名狂乱』を題材とした作品で、安倍保名(架空人物)の悲恋を描いた幻想恋愛譚。監督は内田吐夢、脚本は依田義賢、主演は大川橋蔵。歴史ものとは言い難いんですが、加茂保憲や芦屋道満の他、脇役として藤原忠平・仲平や小野好古が出てくるらしいんでご紹介。やはりVHS化のみでDVD化されていませんが、動画配信はされています。
『山椒大夫』……1954年の大映映画。説話「さんせう太夫」を基にした森鷗外の小説を溝口健二監督が映画化した作品で、ベネチア映画祭で銀獅子賞を獲得した溝口の代表作の1つ。これまた歴史ものではありませんが、関白藤原師実(頼通の子で忠実の祖父)が登場するんでご紹介。もちろんBlu-ray化&DVD化されています。
#11405
バラージ 2024/01/03 10:58
大変な年の始まりに……
いやぁ、元日から大変なことになりましたね。実は僕は元日から風邪をひいてしまいまして、ちょうど薬を飲んで寝てたとこから目を覚まして遅い昼食を取ってる時に地震でした。こっちでもまあまあ揺れましたね。
他にも飛行機事故は起こるわ、ウクライナでもガザでも戦争は続いてるわ、去年の年末にはトルコのエルドアン首相がイスラエルのネタニヤフ首相をヒトラーになぞらえてお前らだってクルド人を弾圧してるだろと言い返されるわ、香港警察がカナダに亡命した周庭さんを指名手配するわとろくでもないことばかりで先が思いやられますが、それでも事態は良くなると信じて前に進むしかないんでしょう。風邪もいまいち良くならないけど。
そんなこんなで今年もよろしくお願いします。
>平井加尾とお田鶴
皆さん、お答えをありがとうございました。うーん、結局Aの「司馬にとって『竜馬がゆく』は時代小説・伝奇小説から歴史小説への転換期だったため、執筆初期は伝奇小説のノリでフィクションを交えていた」が正解なのかな? ただ平井加尾が序盤のヒロインにしづらいにしても、加尾とは別にヒロインとしてお田鶴を出すとか、どうせフィクションなんだから大幅に脚色して加尾をヒロインにしちゃうとかいう選択肢もあったように思うんですよね。その辺は結局司馬の執筆方針というか趣味嗜好だったということなんだろうか?
確かに他の初期大河ドラマの原作小説でも『源義経』の「うつぼ」や『天と地と』の乃美など昔の歴史小説には架空ヒロインがよく出てたようですが、いずれも全くの架空人物で実在人物をモデルにした架空人物というのはあんまりいないような。まあ『赤穂浪士』も原作は堀田隼人という架空人物から見た忠臣蔵で、オリジナル作品『三姉妹』にいたっては架空ヒロイン三姉妹が主人公ですから、架空人物が狂言回しになることも珍しくもないのかもしれませんが……。
あと『竜馬がゆく』のドラマ化作品が原作通りにお田鶴が出てきて加尾が出てこないのは当然だと思いますが、『お〜い!竜馬』やTBS大型時代劇『坂本龍馬』までがそれを踏襲して加尾に相当する人物を別名の架空人物にしちゃうというのはやっぱりよくわからない。『竜馬がゆく』の熱狂的信者の武田鉄矢が原作の『お〜い!竜馬』はともかく(Wikipediaによると「連載当初は短編のつもりで描いていたため、ほぼフィクション」とのことだし)、『坂本龍馬』はまんま加尾をヒロインにしても良かったんじゃないかなあ? やっぱりよくわかんないなあ。
#11404
徹夜城(どうもアケオメが言いにくい元旦になったと思う管理人) 2024/01/01 22:47
地球の方は人間の暦など知ったこっちゃない
どうも…新年最初の書き込みなんですが、能登方面bでの大地震がいきなりあり(僕の地域でもユラユラしました)、大変な元旦になってしまいました。
>お加尾、お田鶴問題
僕も多感な時期に「竜馬がゆく」を読んでどっぷりはまったクチですが、あの小説の影響力があまりに大きく、以後の「竜馬(龍馬)もの」はその縛りからなかなか抜けられなくなった、というところもあります。この辺、フィクションを多分に含む吉川英治の「宮本武蔵」と似てますが、「竜馬がゆく」は途中から史実重視型というか、その後の斯波作品のスタイルへと変化していたために創作と史実のラインがより曖昧になってる気がします。
お田鶴さんと寝待の藤兵衛は前半で竜馬の情報源(一介の藩士がそんなに情報通になれるはずもない)として実に活躍しますが、特に藤兵衛については司馬も途中から「扱いにくい」と吐露してしまうほどでフェードアウトしてしまいます。こういう便利架空キャラは従来の時代小説にはよくいたもののようですが、「歴史」を語りだすと嘘っぽい存在になってしまったんでしょうね。ドラマでは終盤で殺されちゃうケースもありました。お田鶴さんもそうじゃなかったっけ。
「竜馬がゆく」の映像化作品では田鶴を出すのが自然ということで加尾を出さなくなるんですが、「龍馬伝」は明らかに司馬竜馬からの脱却を目指していたので加尾が出てきた、ということでしょう。まぁ僕はあのドラマは終盤鹿見てなかったりするんですが。
そういや確かに「風雲児たち」には加尾が出てきましたね。ファーストキッスの相手が本(日本外史だっけ?)になってしまうという(笑)。「風雲児たち」もいろいろ描いているうちに竜馬関係の描写に手が回らなくなってきてて、脱藩あたりの経緯が省略されたまま作者死去により終わってしまったのが残念でした。
#11403
ろんた 2023/12/31 16:54
『知泉源氏(4)』(紫式部,杉村喜光/新評論)
気がついたら出ていた『知泉源氏(4)』。奥付によると10月の末には出ていた模様。しかし、刊行予定だとこの年末には6巻まで出版し、第一期は刊行終了のはずだが……どうやら順調に遅れている模様(笑)。
第4巻は「第七帖 紅葉賀」(後半)、「第八帖 花宴」、「第九帖 葵」、「第十帖 賢木」(序盤)まで。源典侍(57歳!)を巡る頭の中将との恋のさや当て(笑)、朧月夜に手を出し、若紫が紫の上となり(<意味わかりますよね)、葵の上の懐妊、出産、怪死、六条御息所の伊勢下がりが語られる。紫の上との一件で源氏はロリコンの汚名を着せられるわけですが、古典をネタにしたジョークを真に受けてるんじゃねぇよ。葵の上と六条御息所の一件は平安貴族の精神世界みたいなものが垣間見える。しかし、物語として重要なのは朧月夜の一件だったりして。「やってもうたぁ〜〜〜〜」ということで、5巻以降、物語の舞台は「須磨」「明石」になるのであった。
>お田鶴様
お田鶴様は『竜馬がゆく』では序盤のヒロイン。土佐藩家老・福岡宮内の妹。坂本家は福岡家の預かり郷士。ということで、藩が才谷屋に借財を申し込む際は、福岡家が窓口になっていて、お田鶴様も竜馬の噂は聞いている。竜馬ももちろん、家中きっての容色だというお田鶴様のことは聞き知っている。剣術修行で江戸へ向かう竜馬は、阿波岡崎の浦で、上方見物方々、有馬で湯治するお田鶴様と出会う。その後、お田鶴様は内大臣・三条実万卿の侍女となり、安政の大獄の最中、奔走している様子がうかがえる。竜馬は土佐への帰国途次、実万卿の家臣・水原播磨介から密書を託され、お田鶴様と再会し……という展開になる。
ということで、加尾と重なるところが多々あり、モデルといってもいいかとは思います。しかし加尾は、妄想をたくましくしても初恋の相手ぐらいで、普通に考えれば同志の妹というだけ。ヒロインとするにはちょっと関係が淡すぎる。とはいえ、他に女っ気はない。ということで、お田鶴様を創造したんじゃないでしょうか。やっぱり青春ものには色恋が無いと(笑)。おそらく他のフィクションでも同様の事情かと。ちなみに、『竜馬がゆく』には寝待の藤兵衛という盗賊も出てくるんですけど、お田鶴様同様、中盤以降出てこなくなっちゃうのでありました。
そういえば『風雲児たち 幕末編』には加尾が登場しますな。
#11402
バラージ 2023/12/30 00:55
平井加尾とお田鶴
以前何かのついでにちょこっと書いたりしたものの、あまり皆さんの心に刺さらなかったのかスルーされてしまった疑問をもう1度今度はメインにして書いてみようと思います。
2010年の大河ドラマ『龍馬伝』の配役が発表された時に、ヒロイン役を平井加尾(演:広末涼子)→千葉佐那(演:貫地谷しほり)→楢崎龍(演:真木よう子)→お元(演:蒼井優)の4人がリレー形式で務めると聞いて、さほど龍馬にくわしくない僕は千葉さな子とお龍は有名だけどあとの2人は知らんなあと思ってたら、なんと平井加尾はこれが映像作品初登場だという紹介があって驚いた記憶があります(お元はそれ以前にも登場作があるとのこと)。坂本龍馬なんて過去に何度も映像化されてる有名人なのに、なんでそんな重要そうな人が未登場だったんだ?と不思議に思ったんですが、実は龍馬主人公作品で最も有名な司馬遼太郎の『竜馬がゆく』(僕は未読で映像化作品も全て未見)には平井加尾が登場せず、加尾をモデルとした「お田鶴」という架空人物が登場して加尾の役割を務めているとのこと(ただし加尾とお田鶴は設定がかなり異なるようです)。そのためテレビドラマ化作品にもお田鶴が登場し、平井加尾は出てこなかったわけですね。
歴史小説などの創作作品において架空人物を登場させることはよくあることですが、実在の人物を架空の人物に変えてしまうというのは比較的珍しい。別にダメなことではないんだけど、なぜ史実と変えたのかはちょっと気になるところ。しかし調べてみてもどうもそこのところが今一つはっきりしません。過去ログを見ても特にその話題に触れたものはないようですし、Wikipediaにも何も書かれてないんですよね。考えられる理由としては、@当時の研究では平井加尾の存在が確認されていなかった。A司馬にとって『竜馬がゆく』は時代小説・伝奇小説から歴史小説への転換期だったため、執筆初期は伝奇小説のノリでフィクションを交えていた。B平井加尾の遺族の意向。といったあたりでしょうか。そのうち@の可能性はまず無さそう。加尾の兄の平井収二郎は『竜馬がゆく』にも出てきてるようですし。となるとAかB、もしくはそれ以外の理由ということになりますが、判断材料に乏しいためどれも決め手に欠けるんですよね。
ちなみに司馬原作ではない1989年のTBS大型時代劇『坂本龍馬』でもやはり加尾をモデルにした秋尾(演:十朱幸代)という架空人物が登場し、加尾は出てこなかったようです(なお歴史映像名画座では「あきよ」と掲載されてますが、検索すると十朱さんの役名を「秋尾」としてるものも多く、大河ドラマ+時代劇登場人物配役事典では「平岩秋尾」としています)。また武田鉄矢・原作、小山ゆう・作画のマンガ『お〜い!竜馬』でもやはり加尾をモデルとした佐々木加代という架空人物が登場し、加尾は出てこないとのこと。ここまで徹底して出てこないと、Bの遺族の意向という可能性が高いのかなあ? でも兄貴の平井収二郎は『竜馬がゆく』にも『お〜い!竜馬』にも出てきてるようなんですよね。武田鉄矢は熱狂的な『竜馬がゆく』ファンなんで、そのあたりの設定もなぞったっていう可能性もありそうだし。ちなみに平井収二郎はドラマ『幕末青春グラフィティ 坂本竜馬』や映画『幕末青春グラフィティ Ronin 坂本竜馬』にも出てきたようです……ってどっちも武田鉄矢脚本かよ。前記『坂本龍馬』のみ「秋尾の兄」という役名で登場したみたいですね。うーん、やっぱり謎だなあ。
>歴史マンガ情報
坂口尚のマンガ『あっかんべェ一休』(全2巻)が来年1月19日にKADOKAWA青騎士コミックスから復刊されるとのお知らせが復刊ドットコムから来ました。僕は運良く古本を購入できたので改めて購入する予定はありませんが、面白いマンガなので興味のある方はぜひ! 俗物の悪役回りに描かれてる音阿弥はちょっと気の毒だけど(笑)。
>名画座訂正情報
『米百俵 小林虎三郎の天命』……出演者の「河原崎健」は「河原崎健三」が、長谷川明男の役名は「河井継之助」が、尾藤イサオの役名は「吉田松陰」がそれぞれ正しいです。
#11401
ろんた 2023/12/29 00:23
「風神の門」
バラージさんの書き込みに続いて、なぜかこの番組を紹介している「夕刊フジ」の記事を読んでしまいまして(正確にはクリスタルキングの歌う主題歌「時間差」の紹介)。そしたら「歴史映画コーナー」にもないみたいなのでご紹介。
OAはNHKの水曜ドラマ枠(20:00-20:50)で、1980/04/09から10/01まで(全23回)。原作:司馬遼太郎(『風神の門』『城塞』)、脚本:金子成人、音楽:池辺晋一郎、主題歌:クリスタルキング「時間差」(作詞:阿里そのみ/作曲:池辺晋一郎)。主なキャストは以下の通り。
霧隠才蔵:三浦浩一/お国:小野みゆき/真田幸村:竹脇無我/隠岐殿:多岐川裕美/獅子王院:磯部勉/青子:樋口可南子/猿飛佐助:渡辺篤史/俊岳(鳥居忠政):佐藤慶/板倉勝重:寺田農/三好晴海:団しん也/菊千代:小野ヤスシ/穴山小助:森川正太/茜丸:宮内真/オロチ:見城貴信/花小僧:中村幸路/モヤ助:新里健士/萩野:折原啓子/梅ヶ枝:亜湖/桂木:岡本茉利/耳次:峰のぼる/中井主馬:冷泉公裕/信乃:政岡愛子/鬼三:阿部希郎/隼:野口貴史/雑兵:梅津栄,刀原章光/欠伸女:十勝花子/座長:及川ヒロオ/市木治三郎:村上幹夫/人夫:金子正/川村将監:大阪憲/高沢平四郎:江藤三朗/侍:姿鐵太郎/少年:市山登,矢尾一樹,池田光隆/ほか
DVDが発売されたみたいだけど、現在は絶版? NHKアーカイブスでダイジェストが見られる。物語は、霧隠の異名を持つ伊賀の郷士・服部才蔵が、菊亭大納言晴季の娘・青子の名を騙る女と出会うことで、徳川と豊臣の暗闘に巻き込まれていくというもの。大筋で原作と同じなんだけど、三浦浩一が「誰?」ってぐらい若くて、ドラマは青春時代劇になっている模様。ヒロインも原作は隠岐殿だけど、ドラマはお国になっているらしい。戦が始まるあたりで『城塞』の要素を取り込んでいるのか。詳しくは、「風神の門の蛇」というサイトを参照してください。奇特な方もいるもんであります。
>永井豪・ダイナミックプロ『北条早雲/豪談後藤又兵衛』(このマンガがすごい!comics 宝島社 2017)
後藤又兵衛の話をされたので、家に転がっていたこいつを思い出してしまった。2005年にリイド社から出た『北条早雲』と1997年に中央公論社から出た『豪談後藤又兵衛』を合わせたコンビニ本。「北条早雲」はまだ旧来の説に従っていて応仁の乱の時、今出川殿の申次衆。諱も長氏。また、小笠原備前守の娘・冴子も登場するが、なぜか男装して山中才四郎となっている。北川殿は妹。ギミックとしては、鷹と視界を同調させる術を持っていたり、風魔小太郎が配下だったり。あと、三浦義意がほとんど化け物ですな(笑)。「豪談後藤又兵衛」は冷や奴氏(永井豪の分身)が語る講談のていで進行。それだけにハチャメチャ(もちろんわざとやっている)。又兵衛が秀吉のご落胤だったり、朝鮮でトラ退治したり。日本号を手に入れたのも、このトラ退治の際。ラストは大坂城への入場で、真田幸村もちょこっと登場。このシリーズ、「豪談 永井豪のサムライワールド」として真田幸村、猿飛佐助、武蔵坊弁慶なども描かれているらしい。
#11400
バラージ 2023/12/26 22:26
若いふたり
『どうする家康』関連ネタ、ちょっとだけ続き。大坂の陣のあたりを描いた大河ドラマで個人的に意外と印象に残ってるのが豊臣秀頼と千姫という若い夫婦を演じる役者たち。いつも若手の活きのいい男女優が演じるだけあって、つい注目しちゃうんですよね。今回の『どうする家康』では作間龍斗くんと「丸亀製麺!」の原菜乃華ちゃんでした。
子供の頃に最初に観た大河『おんな太閤記』では青春ドラマで生徒役の常連だった井上純一とアイドルの高見知佳でしたね。うーん懐かしい。井上純一はよく藤谷美和子と青春ドラマで共演してたなあ。『徳川家康』では今やお父さん役常連で映画監督でもある利重剛と少し後にプッツン女優(懐かしいなあ・笑)として名を馳せる石原真理子。これまた懐かしいですな(そういや藤谷さんも少し後にプッツン女優と呼ばれてた)。利重さんは実は同作の脚本の小山内美江子の息子だったと今頃知ってちょっとびっくり。ちなみにこの頃は秀頼役と千姫役の俳優が自分と最も歳の近い人たちという感じで、そういう意味で気になっちゃう存在だったんですよね。
『独眼竜政宗』では山下規介と伊藤麻衣子だったそうですがこれは記憶にないなあ。未見だった『春日局』では渡辺徹と野村真美だったとのこと。なお同作では千姫の子役時代の1人として当時13歳の小島聖が出てたようです。秀頼・千姫ともに子供の頃から登場することが多いため数人の子役を経て本役になることが多く、『葵 徳川三代』では尾上菊之助と大河内奈々子でしたが、千姫の子役時代の1人になんと当時16歳の今をときめく松本まりかがいたとのことで、いやぁ、そう思うとめちゃくちゃ昔のドラマだよなあ。20年以上前だからまぁ当然なんだけど。『武蔵』でも新晋一郎(知らん人だな)と橋本愛実だったとのことですが、橋本愛実が現在の橋本マナミで当時19歳。やっぱ20年前ってめちゃくちゃ昔ですよ。
『功名が辻』では石黒英雄と鶴彩未という子だったらしいけど、鶴彩未って子は8歳の子役だったらしく、いっしょに出てきてないのかな? でも大阪落城まで描かれるようなんだけど、そこには千姫が出てこないってこと? 『天地人』では中村倫也と川島海荷で、この頃からぐっと今に近くなってくる感じですかね。ところが『江』では太賀(現・仲野太賀)と忽那汐里なんですが、やはり千姫の子役時代に当時7歳の芦田愛菜ちゃん(淀殿の子役時代と二役とのこと)がいたと知ると、やっぱり10年前でも結構昔なんだな。『真田丸』では中川大志と永野芽郁で、『天地人』以後の人たちはみんな出世してますね。
>未見映画
『忠直卿行状記』……1960年の大映映画。菊池寛の同名小説の2度目の映画化で、主演は市川雷蔵。暴君と化した松平忠直の乱心を描いており、DVD化されています。なお最初の映画化である1930年版(片岡千恵蔵主演)はソフト化されておらず、フィルムが残っているかも不明。1958年と1960年にテレビドラマ化もされているようです(主演はそれぞれ仲代達矢と仲谷昇)。
『鉄火大名』……1961年の東映映画。市川右太衛門の大名シリーズ3作目とのことで、『乞食大将』以来2度目の後藤又兵衛を演じています。ビデオ化のみでDVD化されていませんが、U-NEXTで配信されているようです。
>大坂戦隊ゴレンジャー!
大坂の陣における大坂方の牢人五人衆。『どうする家康』では真田信繁しか出てこないかと思いきや、ちゃんと他の4人も出てきましたね。ま、信繁以外はほぼモブでしたが。ただ毛利勝永の名が「吉政」、後藤又兵衛の名が「基次」ではなく「正親」になっているのは珍しい。調べると勝永の名は同時代史料には見られず、吉政のみが見られるとのこと。後藤又兵衛のほうはくわしくはわかりませんでしたが、基次の他に正親という説もあるらしい。『真田丸』のおかげで真田幸村については信繁も多少浸透したようですが、後藤又兵衛の基次はもともとそんなに知られてないし、毛利勝永もそこまでの有名人でもないだけにかえって混乱しちゃいそう。
牢人五人衆が全員出てくる作品は実はそれほど多くなく、他には映画『真田幸村の謀略』と大河ドラマ『徳川家康』『葵 徳川三代』『真田丸』くらい。新大型時代劇『真田太平記』や映画『茶々 天涯の貴妃』『真田十勇士』ではいずれも明石全登だけがなぜか出てこないんですよね。幸村以外の4人は出てきた場合も『どう家』同様ほぼモブなことが多く、僕も『真田丸』以外ではさっぱり記憶にありません。ざっと見るとやはり幸村に次いで後藤又兵衛が出てきた作品が多く、前記『乞食大将』の映画化・ドラマ化や映画『鉄火大名』の他、映画『真田風雲録』や大河『独眼竜政宗』『春日局』『江』『軍師官兵衛』に出てきたようです。黒田家に仕えていたため『官兵衛』では出番が多かったみたいですね(演:塚本高史)。長宗我部盛親は『天地人』、毛利勝永は『江』に出てきたみたい。意外に出てきた作品が多いのが1人だけハブられ気味の明石全登。宇喜多秀家の家老だったため『関ヶ原』のドラマ化・映画化作品に出てきた他、なぜか映画『乞食大将』の1952年(1945年)版や大河『武蔵』(演:京本政樹)にも出てきたとのこと。
しかしなんといっても映像作品で目立つのはやはり真田幸村(信繁)。僕が映像作品で最初に幸村を見たのはやはり日テレドラマ『猿飛佐助』。幸村は準主人公に近い役で、演じていたのはアイドル川崎麻世でした。次が大河『徳川家康』で、若林豪が演じた幸村が僕の史実系のファーストイメージです。若林さんはそれ以前に『Gメン'75』でチラッと見たかな。Wikipediaによると当初の予定は沖雅也だったそうですが、沖が飛び降り自殺したため代役で若林になったとのこと。沖雅也といえば『太陽にほえろ!』のスコッチ刑事と『俺たちは天使だ!』だなぁ。なお幸村は大河ではそれ以前は『春の坂道』(演:島田正吾)でしか出てこなかったらしく、意外と出ていません。大坂の陣が舞台にならないと出ないからなんでしょう。次いで新大型時代劇『真田太平記』では二枚目の代表だった草刈正雄、大河『独眼竜政宗』ではなぜか再び若林豪が演じています。『春日局』では高橋悦史だったらしいけどこれは未見。
それからしばらく大河に幸村は登場せず、久しぶりの登場となったのが『葵 徳川三代』。演じたのは西郷輝彦で、この大河の大坂夏の陣が1番それっぽいかな。『家康』『どう家』では家康がかっこよく描かれすぎだし、『真太』はスケールがややしょぼく、『政宗』は端折り気味でしたからね。以後、『武蔵』(演:中村雅俊)、『天地人』(演:城田優)、『江』(演:浜田学)に出てきたようですが未見なのでよく知らず。主人公の『真田丸』(演:堺雅人)も肝心の大坂夏の陣が今一つだったような印象です。
映画では幸村は意外に主人公になっておらず、猿飛佐助や霧隠才蔵が主人公の映画に脇役として登場することが多い。『真田風雲録』(演:千秋実)、『忍びの者 霧隠才蔵』&『同 続・霧隠才蔵』(未見。演:城健三朗)、『真田十勇士』(演:加藤雅也)といったあたりで、他にも淀殿が主人公の『茶々 天涯の貴妃』(未見。演:黄川田将也)や架空人物主人公の『あずみ2 Death or Love』(演:永澤俊矢)など。幸村が主人公なのは『真田幸村の謀略』(演:松方弘樹)ぐらいですかね。
一方、幸村を討ち取った家康の孫(結城秀康の子)の松平忠直は『どう家』には登場せず。『春の坂道』『徳川家康』『真田太平記』『葵』『江』には出てたようですが、『真田丸』にも出てこなかったんだよな。主人公作品として前記の『忠直卿行状記』の映画化・ドラマ化作品がありますが、大坂の陣は描かれてないようですし。また徳川勢の先鋒を務め、決死の突撃の末に毛利勝永に討ち取られた本多忠朝は『真田太平記』にのみ登場。しかし同作では勝永ではなく幸村に討ち取られているらしく、勝永は幸村の足を引っ張る役回りにされたようでちょっと気の毒。実際には勝永は先鋒の忠朝だけでなく、二番手の小笠原秀政・忠脩父子も討ち取り本多勢と小笠原勢を潰滅させるなど幸村以上に活躍しています。
#11399
ろんた 2023/12/26 20:10
年末年始時代劇・歴史劇
視聴者年齢が高い(?)BSの12月は忠臣蔵三昧だったりするわけですが、BS松竹東急でやってた「大忠臣蔵」。ミフネのかと思ったら松本幸四郎(現白鸚)のテレ東新春ワイド時代劇版でした。なんと1時間ドラマで13本(笑)。かつてはこういうのを年末年始に放送していたものですが、今は昔。とりあえず、月刊誌の情報を箇条書き。
1「ホリデイ〜江戸の休日」(BS松竹東急 12/25 18:06-20:30)
2「三屋清左衛門残日録(1)〜(6)」(12/25,26 16:00-18:00,18:00-20:00 12/27,28 16:00-18:00)
3「田原坂」(BS松竹東急 12/26-29 18:06-20:00)
4「必殺仕事人」(テレビ朝日系 12/29 21:00-22:54)
5「大岡越前スペシャル〜大波乱!宿命の白洲」(NHK BS 12/29 19:30-21:00)
6「寛永風雲録」(BS日テレ 12/30 19:00-22:00)
7「樅ノ木は残った」(BS日テレ 12/31 19:00-21:00)
8「国盗り物語」(BSテレ東 01/03 11:00-21:00)
1と2は放送、終わったり始まったり(汗)。1は2023年の正月にテレ東で放送されたもの。「将軍になりたくない。魚屋になりたい」と家光が言い出して大騒ぎ。大久保彦左衛門が一計を案じて一心太助に預けると、町娘と恋仲になってしまう。さらに家光の命を狙う一団も現れて……という寛永オールスター総出演。原作は大映映画「江戸っ子祭」(脚本:小國英雄/監督:島耕二)。もちろん、この映画自体、あの不朽の名作の翻案。こちらのドラマではテレ東らしく、家の蔵から見つかった家光の絵を持って「なんでも鑑定団」に出演するエピソードがあったりする。なんだが、家光の絵が「ヘタウマの元祖」「妙に愛嬌がある」と人気なんだそうな。
2は藤沢周平原作。東北の小藩の用人・三屋清左衛門は、家督を息子に譲り隠居して悠々自適。ところが、親友の町奉行・佐伯熊太らから、種々の事件について相談され……という話。
3は1987年に日テレで放送された年末時代劇スペシャル。タイトルからして西南戦争の話かと思いきや、幕末維新の活躍から始まって西郷の生涯を描いているみたい。それだけに滅茶苦茶長い(笑)。西郷を演じた里見浩太朗は、増量したうえ肉襦袢を着込んでいるらしい。同じ日テレ放映、同じ里見浩太朗主演だけど6と7が放送されたのは年始(6が1991/01/02、7が1990/01/02)。前年年末の時代劇スペシャルに里見浩太朗の出演が無かったのでその代わり? 6は寛永御前試合に慶安の変を絡め、やはり講談世界のオールスター総出演の痛快時代劇。原作は柴田錬三郎の『徳川風雲録』。7は言わずと知れた山本周五郎原作。
4と5はともに東山紀之主演なのでシリーズ最終作となるのか。ちゃんと芝居ができる人だっただけどな。
8はテレ東新春ワイド時代劇版で放送されたもので、ストーリーは紹介するまでもないでしょう。斎藤道三が北大路欣也、信長が伊藤英明、光秀が渡部篤郎。ただ高島礼子(お万阿=油屋・奈良屋の主人 松波庄九郎=道三の京都妻)、菊川怜(濃姫)、鈴木杏樹(深芳野=土岐頼芸の愛妾 道三に下げ渡される)、酒井法子(お槙=明智光秀の妻)と女性陣がビミョーな印象(汗)。ちなみに大河では順に池内淳子、松坂慶子、三田佳子、中野良子が演じていた。
>「どうする家康」総集編
月刊誌には記載がなくて、やらないのかと思ってたんだけど、(番組は未定です)となっていた12/29の午後に放送されるらしい。
>「ラージャ」(印南航太)
「月刊ヤングマガジン」に掲載されていた、古代インドを舞台にした作品。「『私は必ず王に成る』──舞台は数多の国々がしのぎを削って争い合う動乱の古代インド。激動の時代に終止符を打つ"唯一王"を目指すのは、知略に長けつつも野心に満ちた隻眼の青年カウティリヤと、圧倒的カリスマ性と武威を誇り盗賊団を率いるチャンドラグプタ。満月の夜に出逢った二人の英雄はインド統一を目指す"王道"への第一歩を歩み始める──"王の器"を持つ男達の闘いを描く歴史ロマンが幕を上げる!!」(01/18発売単行本1巻の出版社・メーカーコメント)という話らしい。チャンドラグプタの方が古代インドを統一、カウティリヤはその宰相で『実利論』の著者。でも連載分のあらすじによると、なぜかカウティリヤの方が格上っぽい。カウティリヤがチャンドラグプタの器量を認めて担ぎ上げていくのか? そういえば「ポロス」の次の時代ですな。
>『矢柄頓兵衛戦場噺【時代小説コレクション|3】』(横溝正史/春陽文庫)
なあ、皆の者、よく聞けよ──。御年七十七歳、八十余名の子や孫たちに囲まれて幸せ一杯の旗本・矢柄頓兵衛は、若い頃から主君・徳川家康に従い戦場を駆け巡った歴戦の猛者。しかし時は寛永十一年、戦国時代はすでに遠い泰平の世……。武士が平和に馴れ堕落してゆく様を嘆いた頓兵衛翁は、毎月一回一門を集めて自らの体験を語り聞かせることとなった。初陣のこと、戦場のこと、結婚のこと……往時の様子や体験を、厳しくも時にユーモアを交えて生き生きと語り伝える頓兵衛翁。その語り口と人柄につい引き込まれ読み耽ってしまう傑作短編集!(カバー概要)
初陣から大坂夏の陣まで、家康の転機となった戦に必ず加わっていた、矢柄頓兵衛の懐旧譚。とはいえ、愛妻との馴れ初めや美女に気を許しての思わぬ失敗、女装して敵陣に潜入など武張った話ばかりではなく、楽しく読ませる。この辺、マチズモ嫌いの横溝の資質か。最後の「落城秘話」は秀頼の遺児の逸話が語られる。
>週末アニメ
最近、週末にやってる秋アニメ三本「葬送のフリーレン」「薬屋のひとりごと」「SPY×FAMILY」を楽しみにしてたりします。
歴史モノっぽいのは「薬屋のひとりごと」。花街にある薬屋の娘(?)・猫猫(マオマオ)は、さらわれて後宮に下働きとして売り飛ばされてしまう(花街には売れないと判断された模様)。折しも後宮では帝の御子が次々と亡くなり、呪いとの噂までたっていた。さらに二人の御子と妃も健康を害しており、薬物、毒物の知識を持つ猫猫は真相に気づく。そんな猫猫に目を付けた後宮の管理者・壬氏(宦官?)は……という話。その後、後宮で次々と起こる事件の解決に猫猫があたるわけですが、ネットの紹介記事には「中国の中世」となっているものがある。しかし、花街の裏通りには梅毒病みの夜鷹がいたり、愛煙家のキャラが登場したりするんで、少なくとも中世ではないわな(笑)。その一方で、せいと(成都? 四川省の?)から来た妃がなぜか紅毛碧眼だったり、宮廷の雰囲気が国際色豊かでなんとなく盛唐っぽい。ということで、中華風ファンタジーですな。纏足の習慣があるのに、舞踏が得意な妃とか出てきたりするし。あと、コミカルな場面でギャグっぽい作画をしてたのを「手抜きだ!」と言ってる連中がいるんだけど、この程度の演出が理解できなくてクール・ジャパンでよく生きてこれたな。
「葬送のフリーレン」は、勇者ヒンメルのパーティーに魔王が倒されて50年。そのパーティーの一員だった魔法使い・フリーレン(エルフ 千歳以上)が、ヒンメルの死に立ち会い人間を知ろうと旅に出る……という話(<かなり激しく省略)。この中世ヨーロッパ風ファンタジー世界にハンバーグが出て来たのが話題になってる。しかし、食の歴史から言うと、ドイツどころかイギリスも韃靼人も存在しないとハンバーグ・ステーキは存在しないんだな。タルタルステーキ(韃)>ハンブルク風ステーキ(独)>ハンバーガー(ハンバーグ)・ステーキ(英)だから。ああ、現在は愛煙家キャラも登場してるんで、新大陸もあるらしい。ファンタジー世界に現実と同じ歴史を想定してるんじゃねぇよ(笑)。
「SPY×FAMILY」は、60年代冷戦時代風の架空世界が舞台のスパイ+アクション+ホーム・コメディ。西側の敏腕スパイ・黄昏が、東側の政治家ドノバン・デズモンドと、同じ学校に子供を通わせる父として接触しようと疑似家族を形成する話。雰囲気は「007」に始まる60年代のスパイもの風。シーズン2は劇場版があるからか1クール。しばしのお休みでシーズン3が始まると期待しよう。
>本当は残酷な「サスケ」
狩人の子供たちが見様見真似で微塵隠の術をやって、バラバラに吹き飛ぶってのあった気がする。あと、なぜか時々思い出しては悲しい気持ちになるのが、退治されそうになった野犬の群れを、「幸せにお暮し」って無人島に連れてったら、そこがカラスの縄張りで……って話。思えば「忍者武芸帳」ではヒロイン格の明美が明智忍軍になます切りにされちゃってたなぁ。白土三平って残酷漫画家の代表格みたいにPTAに攻撃されてたし。
>「くノ一忍法帖」
あのシリーズ、18禁じゃなかったのかな? ともかく、『くノ一忍法帖』が原作なのは「I」のみ。他はみんな「くノ一忍法帖」と冠しているけど、原作は全部違っていますな。それでも、山田風太郎原作というだけ良心的なのかな。さすがに自分の原作じゃなかったら「くノ一忍法帖」の名前は使わさなかったかも。
>イスラエル対ハマス
イスラエルはパレスチナに対してオーバーキルなんだけど、それを批判すると故意に反ユダヤ主義と混同し、道徳的にマウントを取ってくるのがシオニズムの常。スピルバーグは「ミュンヘン」で報復殺人に苦悩する主人公を描いたけど、モサドがそんな甘っちょろいわけがない。(社会派気取るスピルバーグは常に甘ちゃん) 実際の事件では間違って無関係な人を殺してるんだけど、奴ら後悔も反省もしていない。CBSの「60minutes」でインタビューされてたけど「同じ状況ならまたやる」と平然と言っててインタビュアーがドン引きしてた。ただ今回、少々風向きが違ってきているのは、イスラエルを批判するユダヤ系アメリカ人(主に若者)が出てきたこと。またユダヤ教徒のうち、戒律を厳守する超正統派は伝統的に反シオニズムらしい。あと、イギリスが紳士面してコメント出しているのにもあきれる。誰のせいでこんなことになってると思ってんのかね。まあ、そのコメント出しているのがインド系だったりして。
>キックバック
形式犯という人(元自民党議員のヤメ検)もいたりするんだけど、問題は何に使ったのか? 柿沢未途議員の一件や河井夫妻の選挙違反事件から考えるに、陣中見舞いという名の買収をしていたんじゃないかと疑ってしまうんだけど。あと、安倍派の五人衆って人徳ないのかね。何かお触れを回すと片っ端から漏れちゃうって、パワハラがひどかったのかな。
>ミグ25
確か、核戦争時の電磁パルス対策で真空管を使っている、という話がまことしやかに流れてきていたなぁ。どうやらガセらしいけど。電磁パルスで回路に誘導電流が流れて、そのせいで半導体が壊れるんで真空管も壊れるみたい。現在の軍需品は対策が取られているらしいが、考えたら限定核戦争じゃなきゃ意味ないな。
#11398
バラージ 2023/12/21 22:28
有名人は有名人で難しい
『どうする家康』、最終回にも稲を演じる鳴海唯ちゃんがちょっとだけ登場。特に登場する必要のなさそうなシーンでしたが、やっぱり彼女がわずか3話の出演(忠勝との父娘喧嘩と真田嫁入りで2話、入城しようとした舅の昌幸を追い払うで1話)にも関わらず、結構話題になったからでしょうか? 来年はますますのご活躍を!
さて、『どうする家康』も最終回を迎えましたが、予想通りと言うべきか後半はかなりの駆け足状態に。全50話の『徳川家康』では48話が「大坂夏の陣」だったので、『どう家』は最終回に3話分を詰め込んだことになります。果たしてこれが当初からの予定なのか、それとも結果的にそうなったのかはわかりませんが、そういや『真田丸』なんかも関ヶ原がバッサリ飛ばされるなど、そのけがありましたっけ。『どう家』もやはり家康6男の松平忠輝が登場せず、その岳父である最後の戦国大名・伊達政宗も出てきませんでしたね。『徳川家康』では尾上辰之助が演じてて印象に残ったんだよな。他には大久保長安も出てこなかった。こちらは『徳川家康』では津川雅彦が演じており、津川は後に『独眼竜政宗』や『葵 徳川三代』では家康役に出世?しています。
『どう家』の出来は個人的には全体的に可もなく不可もなくといった感じかなぁ。毎年のごとく序盤で1回脱落し、ちょっと興味のあった大岡弥四郎事件からまた観始めて、これまた興味のあった信康・築山殿事件を経て、その後は時々観逃しつつも最後まで観ました。ま、あまり熱心に観てたわけではありませんが。それにしても、やっぱり家康は有名人だけあって何度も映画化やドラマ化されてるんで作品のオリジナリティを出すのが大変ですね。同じことをやっても観てるほうも作るほうもつまんないでしょうし。
ま、あまり映像化されない人もそれはそれで難しくて、だからこそなかなか映像化されないんでしょうけど。来年と再来年がどうなるかちょっと心配。頼むから藤原道長だの田沼意次だのが主人公みたくなっちゃわないでくれよ。
>悪役になりがちな女
『どうする家康』で茶々(淀殿)を演じた北川景子の怪演が話題になりましたね。北川さん、正直言って現代劇では時々大根だなと思うことがあるんですが、時代劇では好演なことが多い印象。歌舞伎や狂言など伝統芸能系にはそういう人がよくいるけれど、一般的な俳優ではちょっと珍しいような。
それはそうと淀殿も石田三成同様、作品によって善人になったり悪人になったりの差が激しい人ですが、三成と比べてもその立ち位置から悪役まわりになることが多い。徳川方が主人公の場合はもちろんですが、豊臣方が主人公でも秀吉の正室ねねとの対比で悪役まわりになることが多く、大坂の陣が描かれる場合も真田幸村ら牢人諸将に無理解な愚女として描かれることが多いため、結局どういう方向性の作品でも悪役まわりの立ち位置になってしまうというちょっと気の毒な人です。僕が子供の頃に観たNHK大河ドラマ『おんな太閤記』(演:池上季実子)、『徳川家康』(演:夏目雅子)、『独眼竜政宗』(演:樋口可南子)なんかでもそんな感じでした。もっともその前後に放送してた日テレドラマ『猿飛佐助』(演:左幸子)、新大型時代劇『真田太平記』(演:岡田茉莉子)、大河『春日局』(演:大空眞弓)では淀殿の記憶がないか、もしくはそもそも観てなかったのでどういう描写だったかわかりませんが。ちなみに年齢的には前3作の女優が3人とも20代だったのに対して、後3作では3人ともアラフィフです。淀殿は関ヶ原の頃がほぼ30歳で自害したのが40代半ばだから、アラフィフでもまぁぎりぎり許容範囲か。
90年代に入って、大河『秀吉』(演:松たか子)でもやはりやや悪役まわりだったようですが、演じた松は当時19歳という若さでした。このドラマは秀吉の死までは描かれなかったことや他の人物との年齢バランスもあったんでしょう。『葵 徳川三代』(演:小川真由美)では一転して、演じた小川が61歳という驚異的な高齢淀殿に。こちらは役者の貫禄を重視したのか、みんな史実より高齢だったからなあ。観てた時はあまり意識しなかったけど。このドラマでは悪役度が薄く、逆に主人公側の家康がちょっと悪役テイストだったような記憶です。00年代に入り、再びどちらかというと悪役まわりだったらしい『利家とまつ』(演:瀬戸朝香)ではまた女優年齢が20代後半に戻りましたが、『武蔵』(演:若尾文子)ではなんとついに70歳という最高齢に。てかなんで宮本武蔵ドラマに淀殿が? 『功名が辻』(演:永作博美)ではまたも悪役まわりだったようですが、女優年齢は30代前半と適齢。『天地人』(演:深田恭子)では女優年齢20代後半で、悪役度もまたまた薄めだったみたい。まあ深キョンに悪役は似合わないよね(笑)。
その前後の大河以外の映像化作品では、映画『茶々 天涯の貴妃』(演:和央ようか)でついに淀殿が主人公に。ちょっとトンデモ系作品のようですが、ネット記事で淀殿関連のおすすめ映画に挙げてるものがありました。女優年齢は適齢の39歳。テレ朝単発ドラマ『徳川家康と三人の女』(演:星野真里)、映画『GOEMON』(演:広末涼子)、テレ東長時間ドラマ『寧々 おんな太閤記』(演:吹石一恵)はいずれも女優年齢20代後半で、『GOEMON』は未見だけど、ドラマ2つは観ました。やはりどちらもやや悪役だったような。
大河に戻って10年代の『江』(演:宮沢りえ)では主人公の姉ということもあってさほど悪役ではなかった様子。女優年齢も30代後半と適齢。ちなみに子役時代が当時7歳の芦田愛菜ちゃんだったとのことで、つい最近のドラマと思ってたらいつの間にかそんなに月日が経っちゃってたんだ……となんだか頭がクラクラしてきちゃいますなあ(笑)。『軍師官兵衛』(演:二階堂ふみ)ではまたまた悪役まわりで、女優年齢は20歳と久々にすげえ若い。『真田丸』(演:竹内結子)はこの掲示板でも前に書いたように、それまでにない淀殿と真田信繁(幸村)の関係性の描かれ方が新鮮で、演じる竹内さんも好演。特に中盤はMVPをあげたいくらいでした。全く悪役ではなく、女優年齢も30代半ばと適齢。
昔の映画だと、まず『真田風雲録』(演:花柳小菊)。演じた花柳は42歳ですが、顔が1人だけ白塗りでキャラ的にも全くのオバサンなんだよな。悪役ではありませんが、昔のPTAオバサンとでも言いますか(笑)。まあ史実どうこうっていう映画じゃないから別にいいんですけど。『真田幸村の謀略』(演:高峰三枝子)の淀殿は全く覚えてないなあ。女優年齢はアラ還……ってだから歳とりすぎだってば。『真田十勇士』(演:大竹しのぶ)の淀殿はかなり変化球の設定というかストーリー展開でしたが、演じる大竹さんがこれまたアラ還だから史実的にだけでなくストーリー展開的にもちょっとなあ。あの展開ならもう少し若い人のほうが……。
>史点いろいろ(かなり関係ない、かつどうでもいい話も含む)
・ハマス
今回のハマスによる大規模奇襲攻撃(イスラエルや米国いわくテロ)はもちろん全面的に正当化はできないものの、もしそれが無かったらパレスチナ難民は変わらずひどい状況下に置かれたまま世界から忘れられていたと考えると全面的に否定もできないと思うんですよね(それに加えてハマスはガザ住民に選挙で第一党に選ばれた組織でもある)。安倍元首相殺害事件が殺人事件で当然肯定はできないけれど、それがなければ統一協会問題は今でも放置されたままだっただろうってのといっしょで、アンビバレントなジレンマを抱えるところです。そういう意味では無関心で問題を忘れてしまっていた我々の責任でもあると言えるのかもしれませんが……。なお日本の映画館では2015年のパレスチナ・フランス・カタール合作映画『ガザの美容室』や2019年のアイルランド・カナダ・ドイツ合作ドキュメンタリー映画『ガザ 素顔の日常』が緊急再上映中。ま、僕の地元ではやってませんが。
・ベレンコ中尉
ミグ25による北海道亡命事件は当然ながらリアルタイムでの記憶はなく(なにしろ子供だったので)、もう少し大人(高校生ぐらい?)になってから知りました。ちなみに村上春樹がエッセイ『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』で、当時北海道のストリップ劇場の看板に「ベレンコ中尉もこれでデレンコ」と書いてあったという記事を読んでつくづくくだらないと思ったけれどそんなくだらない記憶がなぜかいまだに頭に残っていてイヤになるということを書いてたんですが、それを読んだ僕もそのダジャレがいまだに頭に残ってるんだよなあ(笑)。困ったもんだ。
・ミグ25
昔ちょいミリタリー・ファンだった知識では、確かミグ25はミサイルだけでバルカン砲を装備してなかったんですよね。戦闘機同士の空中戦は意図されておらず、高高度での戦略核ミサイル(ICBM)の迎撃・撃墜を任務とする機体だったのではないかと推測されてたような。違ったかな? 戦闘機のスペック上の性能と実戦でとの違いで言えば、ベトナム戦争においてベトナム空軍が使用したソ連製の旧式機ミグ21が米空軍のF4との空中戦で互角以上の戦果を上げたという話もありました。
・中国の秘密結社
一昔前の香港の武侠映画やカンフー映画には時々秘密結社が出てきましたね。ツイ・ハーク監督、ジェット・リー主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズ2作目『天地大乱』には白蓮教団や孫文が登場しますが、白蓮教団も実在した宗教的秘密結社の1つで、映画には出てこないけど孫文も紅幇(ホンパン)という秘密結社に援助を受けていたらしい。青幇(チンパン)はギャング組織に変質していったことで有名で、その中心となったのが杜月笙。かの珍作日本映画『落陽』ではユン・ピョウが演じてました。
・華麗なる一族
血盟団事件で暗殺された三井財閥総帥・團琢磨の孫が作曲家の團伊玖磨、そしてそのまた孫が現在女優・タレントとして活動している團遥香。團さんいわく全然お嬢様じゃないそうなんですが、父親(建築家の團紀彦氏)からは「結婚するなら源頼朝みたいな男としろ」と言われてるとか。ハハハ。そんな男、今の日本にいるのかな?
・キッシンジャー
映画『ニクソン』や『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(原題:Dick)ではなんだかあんまりはっきりしない描かれ方だったような。まあ主人公じゃないから仕方ないかもしれないけど。『キッシンジャー&ニクソン』というTVムービーもVHS化されてましたが、そちらは未見。
>『乞食大将』追記
1959年〜60年に連続テレビドラマ化もされているようです。
#11397
リトバス少年 2023/12/18 21:50
大河ドラマの最終回
怖いもの見たさで「どうする家康」最終回観ましたが、前半の大坂のクライマックス、
大坂城落城と淀殿たちの最期が印象深かった分後半がファンタジーと喜劇っぽかった。
感想としてはウーンな最終回でしたね。家康の松潤が演技ビミョーだった分、北川景子や脇役陣が際立ってた印象です。
個人的にベストだった大河ドラマ最終回。
「太平記」
「黄金の日日」
「翔ぶが如く」
ですかねえ。
特に「太平記」は最終回でも主人公、足利尊氏に矢継ぎ早に決断を迫ったり痛めつけるような内容だったり、最後は救いを与え、と盛りだくさんでしたね。
今回の大河はやはりそういうのが足りなかったです( ^ω^)・・・
#11396
バラージ 2023/12/15 20:07
全員悪人
こりゃ久々の大疑獄ですねえ。リクルート事件を思い出すなあ。その前にもロッキード事件とかいろいろありましたが、僕のリアルタイムは初の疑獄事件はリクルート事件でした。ただ今回は安倍派の親分があの世に行っちゃってるからなあ。ま、安倍派だけの問題じゃないんでしょうけど、それにしても安倍さんも細田さんもいろんなろくでもないもんを置き土産にして逝っちゃいましたね。
北野武監督(以下たけし)の『首』を観ました。なかなか面白かったです。なんというか戦国時代版『アウトレイジ』みたいなもんですね。『アウトレイジ』観てないんですけど(笑)。てかよくR-15で済んだなあ。首チョンパ連発で、R18でもおかしくなかったような。戦国時代史劇で残酷描写も事実あったことだろうから別に良いと判断されたんだろうか?
史実的には1578年の荒木村重の謀反から1582年の山崎の合戦までが舞台で、大枠では史実通りの展開です。もっと史実なんて蹴っ飛ばせ系の映画かと思ってましたが、もちろん細かいところは完全に史実無視の部分もかなり多いものの、それなりには史実に則ってましたね。たけしは大河ドラマみたいなきれいごとではない全員悪人の裏切りと謀略満載の映画だとして、「戦国武将なんてみんな人殺しの悪い奴らですから」と笑い話的に言ってたようですが、なるほどこれは大河じゃ描けないような作品です。確かに戦国時代なんて殺伐とした社会で、戦国武将は人殺しなんてへっちゃらな日常茶飯事の人たちだったろうから、これはこれで史実に則ってると言えるのかも。武将たちの男色もかなり大きく取り上げられており、これも確かにテレビじゃ描きにくいでしょう。
役者たちの顔ぶれもまさに最高の面子と言って良く、全員がさすがの演技派ぶりでみんなほんと生き生きと楽しそうに演じてました。役者全員が必ずしも時代劇言葉ではなく現代語調を交えた台詞回しというかしゃべり方になってたのも良い意味で印象的でしたね。たけし(秀吉)と大森南朋(秀長)と浅野忠信(黒田官兵衛)のシーンは明らかにたけしがアドリブ飛ばしまくりのところがいっぱいあって面白かったです。合戦シーンももちろんCGも使ってるんでしょうがとにかくすげえ大規模でスケールがでかく、そこも大河ドラマというかテレビドラマとは比べ物にならない。弓矢とか忍者のアクションシーンもそうで、そこも良かった。史実的には信長配下の柴田勝家が出てこないのはちょっと違和感があったんですが、観てるうちに面白くてそんなのどうでもよくなっちゃいましたね。ちなみにたけしの原作小説では、木村祐一が演じていた曽呂利新左衛門が主人公っぽいらしい。
唯一の不満は予想通りですが、女性がほとんど出てこないこと。出てくる女性はモブばっかりで、唯一個性を持って出てくる女優が柴田理恵ですが、まあ役柄的にも正直僕の趣味としては……(笑)。やっぱりたけしは黒澤明やジョン・ウーといっしょというか、もしくは彼ら以上に女性を描くのが得意じゃないのかも。
>半蔵いろいろ
『サスケ』はテレビアニメしか観てないんですよね。かなり子供の頃で小学校中学年くらいだったのかな? 夕方にやってたような記憶があります。Wikipediaによると1968年から69年放送とのことなので当然その頃は観ておらず、僕が観たのは再放送だったんだな。そういやあの頃は『巨人の星』や『あしたのジョー』も再放送してました。当時は再放送とは知らなかったけど、すぐに『新・巨人の星』『あしたのジョー2』が始まって再放送だと知ったんだっけ。『あしたのジョー』は後に原作マンガも読んだけど、そういう経緯のせいでやはりアニメのイメージが強いんですよね。『巨人の星』もアニメしか観てないし。
『サスケ』に話を戻すと、アニメも時々観てたって程度なんで服部半蔵や霧隠才蔵・柳生父子は記憶なし。というか出てたことを今の今まで知らなかったし、主人公のサスケも猿飛佐助から名前をいただいただけだと思っておりました。Wikiによると「アニメ化の時点で原作は既に完結していたが、2部構成の原作のうち明るい作風である第1部のみでアニメは終了し、大猿大助とサスケがキリシタンの住む隠れ里に身を寄せて新しい家族を得るハッピーエンドで最終回となる」そうで、半蔵については「アニメでは無念(=半蔵)の正体は明かされず、サスケ親子と協力しキリシタンを幕府の手から脱出させて去る」とのことなので半蔵の記憶がなくて当然でした。アニメ『サスケ』は「明るい作風」だったとのことですが、僕のおぼろげな記憶ではそれでも時々殺伐とした描写があって、子供心にちょっと不安感を煽られるというかイヤな気持ちになりましたね。まあ原作が小学校中学年向きのマンガじゃないしな(笑)。
ちなみに柳生宗矩の第一印象は大河『徳川家康』で夏木陽介が演じた宗矩でした。大坂夏の陣で秀忠の本陣に豊臣方の大野治房軍が攻め込んできた時に剣術で斬って伏せてたシーンですね。
『くノ一忍法帖』は、1991年の実写オリジナルビデオは観ました。安っぽくてつまんなかったという記憶はあるものの内容は全く覚えておらず、服部半蔵も出てきたらしいんだけど全く記憶にありません。出演俳優を調べると葉山レイコが出てるんでお色気パートは彼女が担当したんだな。あとデビュー間もない水野美紀も出てたようで、彼女はアクション担当だったんでしょうね(デビュー当時の彼女はアクションのできる女優が売りでした)。主演は白島靖代で、彼女が演技担当か? この作品、意外にもヒットしたらしく、シリーズ化されて計8作も作られたらしい。
白黒実写ドラマ『忍者ハットリくん』は、『テレビ探偵団』とかの懐かしテレビ番組でチラッと観た記憶があります。他の出演者はみんな素顔なのにハットリくんだけマンガそのまんまのお面の顔ってのはどう見ても変すぎる。てか、なんかちょっと怖いよ! ハットリくんが居候する家の少年のお姉ちゃん役が中学生時代の松坂慶子というのはわりと有名な話……と思ったら続編の『忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ』というドラマだったらしい。2004年の香取慎吾主演実写映画『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』ってのもあったなあ。観てないけど。
>『武蔵』DVD
うちの近くのレンタル店でもレンタルされてます。新作でもないのになんで?とちょっと不思議でしたね。まあDVDとしては新作なんだけど、同じようにようやくDVD化された『琉球の風』や『吉宗』『時宗』はレンタルされてませんし。とはいえレンタル店に行った時に見てみると『武蔵』は借りられてることも意外にあるんで、それなりに観る人もいるんじゃないでしょうか。僕は観る気は全くありませんが(笑)。
新大型時代劇『宮本武蔵』は放送だけでなくDVDとしても旧作なんで今さらレンタル店に並ぶことはまずないでしょう。それにやっぱりちょっと年代が古すぎますよね。テレビドラマ、特にテープ撮影のドラマは映画やフィルム撮影のドラマに比べて古びてしまうのが早いように思いますし。マニアはDVDを購入してるだろうし、わざわざレンタルして観ようって人は少ないんじゃないでしょうか。BS放送についてもNHK-BSが統合されて再放送が大幅に減らされるようなんで望み薄かなあ。
>歴史ドラマ情報
BS日テレで8日から中国ドラマ『大秦帝国』(全51話)の放送が始まったようです。2008年のドラマなんですが、なんでまた今になってそんな古いドラマを?
一方、地上波では『パリピ孔明』が放送終了。開始が9月末からだったので終わるのも早めになりました。原作漫画がまだ連載中とのことで、続編に含みを持たせた終わり方でしたね。歴史ドラマではなく、歴史上の人物が現代に転生?タイムスリップ?するというドラマですが、なかなか出来の良い面白いドラマでした。
>名画座訂正情報
『乞食大将』……『虎の尾を踏む男達』などと同様に1945年に製作されたもののGHQの上映禁止命令により公開されず、1952年の解禁によってようやく公開された映画とのこと。
ちなみに僕は映画未見で大佛次郎の原作小説も未読なんですが、映画のあらすじを読んで「後藤又兵衛ってそんなエピソードあったっけ?」と疑問に思って調べたら、やっぱり8割がたフィクションのお話のようで……。逸話とか伝説でもなく映画(もしくは大佛の小説)の創作ですね。なお大佛の小説は1944年から1945年3月に新聞掲載されましたが用紙不足のため中断し、戦後になって雑誌掲載の形で1946年に完結して、1947年に書籍として出版されたとのことなので、映画は原作未完の段階で製作されたようです。そのため映画は大佛の原作ともちょっと違っているみたい。
#11395
ろんた 2023/12/08 00:24
『黄金バット』
本屋によったら『黄金バット 大正髑髏奇譚』(神楽坂淳(脚本),山根和俊(漫画),黄金バット企画・ADK(原作)/秋田書店チャンピオンREDコミックス)というのを見つけてわが目を疑う。しかも買ってしまう(笑)。「黄金バット」といえば、戦前の紙芝居の大ヒット作。戦後もマンガ、映画、アニメになっているが、かなり古い。どれぐらい古いかといえばアニメ「黄金バット」の後番組が「巨人の星」だったりするぐらい古い。それがなぜ、21世紀も1/4が過ぎようというのに新作が出るのか。まあ「チャンピオンRED」は名作のリメークを積極的にやっているからその一環なんだろうけど、なぜ「黄金バット」なのかは分からない。
時は大正二年。大日本帝国は世界大戦に参戦、青島を陥落させるが、帝都の市民の関心は貴金属店や銀行を襲う、残虐な強盗事件の続発にあった。その裏に帝都の治安を紊乱する陰謀を嗅ぎ付けた帝国陸軍は、笹倉士郎中尉と月城竜史少尉にアジトを急襲させるが、笹倉は頭部を撃ち抜かれ、月城は心臓をえぐり出される。しかし今わの際、黄金の蝙蝠を幻視した月城は黄金の髑髏の怪人と対峙する。邪神ナゾーと敵対するバットと名乗った怪人は「お前の選択肢は二つ……我を受け入れて生きるか、受け入れずに死ぬかだ」と迫る。こうして月城はバットを己の肉体に憑依させ、機械人形として蘇った笹倉と共にナゾーの配下である星船美月と戦いを続ける。だが陸軍の真意はバットを戦場に投入することにあり、一部にはナゾーと結託しようという一派もあった。
ということで、過去作とは全く違うお話。史実の裏でバットとナゾーの暗闘が続くのか、単に大正時代の雰囲気を取り込むだけなのか、今後の展開は分かりませんが、ナゾー一派が関東軍を乗っ取ったり、関東大震災を引き起こしたりする展開を希望。
>服部半蔵
ふと思ったんだけど、服部半蔵も柳生十兵衛も思い浮かぶビジュアルは千葉真一になっちゃってるなぁ。困ったもんだ(笑)。
白土三平の方は徹夜城さんが書いているので、風太郎忍法帖の方を。といっても、服部半蔵はかなり出演作が多いので困ってしまう。(奇特にも、全忍法帖のリストを作成している方がいるのです)
とりあえず第一作『甲賀忍法帖』(講談社文庫)。服部家は伊賀甲賀の忍者を統率する存在。平安時代からいがみ合ってきた甲賀卍谷と伊賀鍔隠れは支配下に入ることは拒むが、私闘禁制には従っている。しかし、竹千代(家光)と国千代(忠長)の後継者争いに決着をつけるべく、禁制が解かれ魔人同士の死闘が始まる。服部半蔵は見届け人的位置に。この半蔵は半蔵正就。しかし慶長19年の話なので本当は半蔵正重のはず。
第四作『くの一忍法帖』(講談社文庫)では冒頭に半蔵(源左衛門)正就が登場。大坂夏の陣に参戦(<史実)、落城寸前に忍び込む(<フィクション)。だが斬られて重傷を負い半蔵正重に"秀頼の子を孕んだ五人のくノ一が、千姫の侍女に紛れ込んでいる"と告げて絶命する(史実では行方不明)。半蔵正重は家康の命で伊賀鍔隠れの五人衆を呼び寄せ、くノ一らの命を狙う。千姫は家康や半蔵と敵対。事態は権力をめぐる男女の闘争の様相を呈する。映像化作品はあるけど、出てくるのがみんなセックス忍法なので18禁。以前、「くの一忍法帖 蛍火」というのがBSジャパン(現BSテレ東)で放送されたけど、原作は全く別なのであった。色々やらかしたベッキーが主演だったから、期待した向きもあったようだけど(笑)。
短編ながら主人公なのが「忍者服部半蔵」(講談社文庫『野ざらし忍法帖』所収)。半蔵正就が放逐され所領を減らされた服部家。現当主・半蔵正重は、内には鉄の掟を敷きつつ、外には大御所の寵臣・大久保長安の娘を娶るなど、所領回復を謀る。そんな半蔵正重の悩みの種は末弟・京八郎正広。父・半蔵正成の晩年の子で半蔵正重とも親子ほど年齢が違う。それゆえに甘やかされたのか、忍法修行もせず遊び歩くばかりか、忍法そのもの、忍者そのものに冷笑的なのだ。そんな末弟に半蔵正重は本格的な忍法修行を課す。拒めば斬る決意だ。すると京八郎は、馴染みの遊女・夕波と一緒になれれば、と言い出す。なんと半蔵正重はこれを承知した。しかも、自分との忍法勝負に勝てば夕波のくノ一修行(要するにセックス修行)を免除するという。だがその最中、大久保長安死去の報がもたらされ、京八郎は大御所に駿府城へ召される……。京八郎正広は実在しない。物語の結末も完全なフィクション。でも背筋が寒くなるぐらい怖い。
ちなみに「ハットリくん」には実写ドラマ(白黒)もあるのだった。ハットリくんはマンガそのままのマスクをかぶってて、脚本には井上ひさしが参加しているとのこと。『20世紀少年』のお面キャラは浦沢直樹のオマージュなのかな。
>権力と芸術の相克
あくまで創作のモチーフということで。「天正女合戦」の場合は、お吟に執着する秀吉が差し出すよう命ずるけど、利休が拒絶し、これがきっかけで関係が悪化することになってます。拒絶したのは、自身の美学が汚されると感じたから。前田利家も蒲生秀郷も差し出してるじゃないか、と説得されるんですけどね。
>宮本武蔵
以前、書いたかもしれませんが、先代も宮本武蔵を演じてます(関西テレビ制作/1975年)。武蔵にしては上品すぎる感じがしましたけど。
#11394
巨炎 2023/11/27 23:35
解禁されて誰が喜んだのだろう…?
大河ドラマ黒歴史「MUSASHI」のDVDがレンタルショップに並ぶようになりましたね…。
怖いモノ見たさ以外に需要があるのでしょうか?
どうせなら役所広司主演の水曜時代劇バージョンを並べるかBS再放送すればいいのに。
#11393
徹夜城(なんとか今週くらいは更新作業をしたい管理人) 2023/11/27 23:00
ハットリさんの歴史
歴史、というほどオーバーなものじゃありませんが、僕も「服部半蔵」についての雑談を。
僕は最初に読んだ漫画が、白土三平の「サスケ」だったもんで、まず服部半蔵というとこの漫画でのイメージが刷り込まれてます。ああ、この漫画で猿飛佐助も霧隠才蔵も、柳生宗矩も柳生十兵衛もこの漫画のイメージが今も影響大ですね。
読んでる方はご存じでしょうが、この漫画の後半、半蔵はかなりの悪役まわりで、このイメージを刷り込まれた僕はやがて「忍者ハットリくん」にえらくギャップを感じたものです(笑)。
「サスケ」は白土作品お約束の文字解説コマで半蔵について史実の説明もちょっとしておりまして、二代目半蔵が配下忍者たちのストライキにあって改易された、という話もこれで子供心に覚えてました(「ストライキ」という用語はそのまま使われてました)。「サスケ」後半で出てくる半蔵はその後の姿ということみたい。
はるかのちに「トリビアの泉」で半蔵改易の一件が紹介され、そこでは忍者たちがまさに「ストライキ」「労働争議」を起こしている様子がマンガで描かれ、「半蔵は忍者の敵だ!」と書かれたプラカードに爆笑した覚えがあります。
「ハットリくん」もそうですが、「影の軍団」とかでも半蔵は忍者代表キャラということで一人歩きしていってますね。その流れで「キル・ビル」でも出ちゃいましたし。
#11392
バラージ 2023/11/24 22:50
ニントモカントモ
相変わらず大暴れの杉田水脈議員。この人に比べたら、かつての稲田朋美議員なんてまだかわいいもんでした。杉田議員がどうしようもなく滅茶苦茶な人なのは映画『主戦場』を観たら誰でもわかることですが、そんな人に役職まで付ける自民党が理解不能。なんでこんなトンデモな人をそこまで推すのかわかりません。やっぱ故シンゾー首相のお気に入りだったから右寄りな人たちに向けて忖度しなきゃならないんだろうか?
『どう家』でちょっと前に、山田孝之演じる服部半蔵(正成)が1597年に死んだはずなのにナレ死(ナレーション死亡)ですらなく、その死に全く触れられなかったというのがちょっとだけ話題になってました。中村勘九郎演じる茶屋四郎次郎も2代目が同じ勘九郎で出てきたし、お市と茶々の母娘も北川景子の二役だったため、2代目半蔵(正就)も同じ山田で出てくるんじゃないかとの推測もあったようですが、今のところ出てくる気配はないですね。
実際の服部正成・正就父子は忍者ではなく普通の武将だったようですが、多くの映画やドラマでは正成とか正就という区別すらなく、あくまで「忍者・服部半蔵」として一種の架空人物みたいな感じ(猿飛佐助や霧隠才蔵みたいな)で出てくることが圧倒的に多く、むしろ正成や正就として出てくることのほうが少ない。正成・正就として出てくる場合でもあくまで基本は忍者・服部半蔵で、そこに史実の正成・正就の要素を付け足す程度のことが多く、今回もそんな感じでしたね。まあ個人的にも半蔵には忍者として出てきてほしいよなと思っちゃうんで、今回の描き方にも賛成なんですが(笑)。
僕が最初に何で服部半蔵を知ったのかはいまいち曖昧なんですが、子供の頃なのは確かで猿飛佐助や霧隠才蔵の強敵みたいな認識だったような記憶があります。まさにそういう描かれ方だったのが1980年の日テレドラマ『猿飛佐助』で、小池朝雄演じる半蔵は最終回で太川陽介演じる佐助と死闘を演じ、敗れて死んでいます。しかし佐助も半蔵によって失明し、そこへ豊臣攻めに向かったはずの西村晃演じる家康が現れ、大坂に向かってるのは自身の影武者だと語り……という展開でした。「見事だ佐助。だが日の本一の忍びはこの家康よ!」みたいな西村さんの台詞を覚えてますね。その後、西村さんは家康の孫も演じることになるのであった(笑)。同年には千葉真一主演の『服部半蔵 影の軍団』も放送開始されたようですが、地元には当時フジ系列局がなく僕は未見。あ、あと半蔵の子孫(?)が主人公のマンガ&アニメ『忍者ハットリくん』(藤子不二雄A)もあったな。ニンニン。
次に観た半蔵登場ドラマが大河『徳川家康』でしたが、樋浦勉演じる半蔵は史実通りの武将(正成)として登場し、当時の僕は「えっ!? 忍者じゃないの!?」とびっくりした記憶が。黒装束の下忍じゃないというのはさすがにわかってたけど、忍びを束ねる上忍か何かだと思ってたので。その後の大河では『功名が辻』(2006年、演:二橋進)と『真田丸』(2016年、演:浜谷健司)に登場したようですがどっちも未見か記憶なし。『真田丸』では父子2代を同じ役者が演じるパターンだったようです。それ以前だと『黄金の日日』(1978年、演:矢吹二朗)に出てきたらしいけどそっちも未見。
映画だと1963年の『真田風雲録』での原田甲子郎演じる半蔵が印象的。やはり最後は大坂落城後に生き残った主人公・佐助と半蔵の対決で、もう戦争は終わっちまったんだから俺たちが戦う意味ないだろ?と言う佐助に、半蔵は「戦争が終わって平和な世が来たら俺はもう用済みさ」みたいな台詞で一騎打ちを挑むという展開。1960年安保運動の挫折を投影した独特な陽気さとその裏にあるニヒリズムと諦念が胸を打つ作品で、時代考証なんて蹴っ飛ばせ系の映画ですが草原の向こうへ去っていく佐助を空撮した詩情あふれるラストも素晴らしい。なお一部に半蔵役を平幹二朗としているものがありますが、撮影に入るのが何らかの事情で遅れたらしいんで、おそらく当初は平が演じる予定だったのがスケジュールの都合で交代したものと思われます(エンドロールではちゃんと原田甲子郎となっている)。まあ、この映画の半蔵は全身黒装束で口元まで覆って目しか見えないんで、目と声だけじゃ誰だかわかんないのも確かなんですが(笑)。
また『続・忍びの者』『新・忍びの者』(いずれも1963年)で伊達三郎が演じた半蔵も記憶あり。釜茹でにされた主人公の石川五右衛門をひそかに助け出し、秀吉への復讐に燃える五右衛門を主君家康のために利用するという役どころでしたね。こちらでも『続〜』の半蔵役を天知茂としているものがあり、歴史映像名画座にもそう記載されてますが、やはり『新〜』と同じ伊達三郎とする情報が正しいようです。おそらくこちらも当初は天知の予定が伊達に変わったんではないかな。こっちも半蔵は全身黒装束ですが口元は確か出てたはず。なお僕は未見ですが主人公が霧隠才蔵に変わった『忍びの者 続・霧隠才蔵』(1964年)でも伊達が半蔵を演じたとのこと。
『真田幸村の謀略』(1979年、演:曽根晴美)、『あずみ2 Death or Love』(2005年、演:宍戸開)にも半蔵が出てきたようですが、いずれも観たけどいまいち記憶にありません。観てない映画だと『忍者武芸帖 百地三太夫』(1980年、演:夏木勲)、『伊賀忍法帖』(1982年、演:田中浩)、『梟の城』(1999年、演:根津甚八)、『GOEMON』(2009年、演:寺島進)なんかに半蔵が出てきたようですね。
>家康の息子たち
も1つ『どう家』ネタですが、関ヶ原にいたはずの家康4男の松平忠吉が出てこず、1607年の死去にも特に触れられなかったようですね。確か子供時代はチラッと出てきたはずなんだけど。また次男の結城秀康も同じく1607年に死去してますが、こちらも特に触れられず。1603年に病死した5男の武田信吉に至っては登場すらしませんでした。
ま、主人公の子供の描写が薄いってのは去年の『鎌倉殿の13人』でもそうだったしなあ。影の薄い信吉なんか『徳川家康』にも出てこなかったみたいだし。信吉が出てきた映像作品は『葵 徳川三代』が唯一のようです。忠吉も大河で登場したのは『家康』と『葵』のみ。忠吉は28歳の若さで病死しましたが、超高齢大河の『葵』では53歳の寺泉憲が演じておりました(笑)。21歳で病死した信吉を演じていたのも37歳の横堀悦夫という役者さんのようで。結城秀康はもう少し登場作品が多く、大河では『おんな太閤記』『家康』『独眼竜政宗』『葵』『江』に出てきたみたい。『政宗』ではアイドルの新田純一が演じてたらしいけど、全話観たはずなのに全然記憶にありません。同じく全話観た『おん太』『家康』も記憶にないなあ。記憶にあるのは『葵』の岡本富士太って俳優だけ。あまり観てなかった『江』では芸人の「まえけん」こと故・前田健が演じていたらしい。
二代将軍となった秀忠はさすがに登場作品が多く、僕が大河を観始めた以後だと、まず『おん太』だけどやはり記憶になし。次いで『家康』では勝野洋が演じ、新大型時代劇『真田太平記』では中村梅雀が演じてましたがちょっと極端なくらいアホなボンボンに描かれてましたね。『政宗』ではなぜか再び勝野洋。こんな短期間で同じ俳優が同じ人物を演じるのは大河では珍しいような。リアルタイムで観てた当時もちょっと不思議でしたね。観てなかった『春日局』では中村雅俊、『琉球の風』では岸谷五朗。そして実質的に主役だった『葵』では西田敏行が演じてました。これはほぼ全話観た。またも観てなかった『武蔵』では中村獅童、『功名が辻』では久方ぶりで再びの中村梅雀、『天地人』では中川晃教という知らない俳優、『江』では向井理、『真田丸』では星野源と、やはりほとんど有名俳優が演じてますね。『真田丸』の星野源はちょっと観たな。
6男の松平忠輝もこの分だと『どう家』には登場しないかな。『家康』では田中健、『政宗』では真田広之が演じてて、どっちもかなり印象に残ってるんですよね。『葵』も記憶にはあるんですが、俳優がよく知らない人で阪本浩之という俳優だったみたい。御三家で9男・10男の徳川義直・頼宣は『家康』『春日局』『葵』『功名が辻』に、11男の頼房は『家康』『葵』『功名が辻』に出てきたようですが、覚えてるのは『葵』だけ。俳優もほとんど知らない人でした。
>権力と芸術の相克
秀吉と利休とか、足利義教と世阿弥とかでよく使われるネタですが、個人的にはどうも今一つ納得しがたい。世阿弥流罪や利休切腹の原因が不明のためそういう見方も出てくるんでしょうが、いくら横暴な独裁者とはいえそんな理由でわざわざ遠流にしたり切腹までさせたりするとは考えがたいと思うんですよね。小説家や映画監督も芸術家なので権力者と芸術家の芸術観の対立という物語に惹かれるというかシンパシーを感じるんでしょうが、実際にはどちらの場合ももっと政治的な理由なんじゃないかなあ。
>名画座修正情報
『続・忍びの者』……上にも書いた通り、服部半蔵役は伊達三郎です。
#11391
ろんた 2023/11/23 07:25
『アイヴァンホー』(上)(下)(ウォルター・スコット/菊池武一訳/岩波文庫)
『大菩薩峠』はやはり、富士見時代小説文庫版とちくま文庫版でほぼ同じところで分割されているみたい。ただ(19)と(20)の間が節ひとつ分かぶっている。ということで問題なし! ほんとは読んでみないと分からないけど。ただ困ったことには、どこまで読んだか忘れてしまっているのであった(汗)。多分、映像化されているあたりまでは読んでると思うんだけどなぁ。千恵蔵御大の東映版と雷さまの大映版も見てるんだけど。後半、ユートピアが主題になるあたりは読んでない気がする。結局、(1)から読み直すしかない、と覚悟を決めつつあるのでありました。
ということで『アイヴァンホー』。
時は12世紀末。英国王リチャード獅子心王の十字軍出征中、留守を任された王弟ジョン(後の失地王)は王位簒奪を狙っていた。また、ノルマン人に征服されたサクソン人にも不穏な動きがあった。サクソン人貴族セドリックは、自らが後見人となっている美しいロウィーナ姫と、サクソン人貴族アセルスタンを結婚させ、サクソン人王朝復活を企んでいたのだ。二人はともに、アルフレッド大王の後裔なのだ。だが、幼馴染である息子ウィルフレッドとロウィーナ姫が愛し合っているのを知り激怒。勘当されたウィルフレッドは、放浪の末にリチャード獅子心王に仕え、騎士としてアイヴァンホー領を授けられる。そんな中、アイマー僧院長と御堂の騎士ギルベール、巡礼、ユダヤ人高利貸アイザックとその美しい娘レベッカらが、一夜の宿を求め期せずしてセドリックの館で顔を会わせることになる。そして間もなく、王弟ジョンが人気取りのために馬上槍試合を開き……という「武勇並びなき騎士アイヴァンホーとロウィーナ姫とのロマンスを中心に、黒衣の騎士や義賊ロビンフッドが縦横に活躍する痛快無比の歴史小説。たくみなプロット、美しい自然描写、広範囲な取材により全ヨーロッパ文学に大きな影響を与えたウォルター・スコット(1771-1832)の代表作である」(上巻表紙カバーより)
読み始めるとすぐ、19世紀の小説だなぁ、と思わせられる。風景描写が多く展開が遅いのです。(<これで『白鯨』を挫折した(汗))マンガの持ち込みだと、最初からキャラを前面に出せ、と編集さんに駄目出しされそう(笑)。まぁ、200年前の小説ですしね。アイヴァンホーの名が出てくるのが上巻の1/3あたり、実はあのキャラが主人公だったと読者に明かされるのが半分あたり。そして大怪我を負って退場、再登場は下巻に入ってから。以後は黒騎士とロビン・フッドの城攻めがあったりして飽きさせませんが。ストーリーを牽引するのはリチャード獅子心王と王弟ジョン、ノルマンとサクソン、キリスト教徒とユダヤ人(要するにユダヤ人差別)という対立軸。このうちノルマン対サクソンというのは大分誇張されているらしい。そもそもプランタジネット朝は女系ながらアルフレッド大王の子孫でもあるし、男系は絶えているらしい。まあ、英語が公に使われるようになる=両者の融合は、『カンタベリー物語』に見られるように14世紀らしいけど。ユダヤ人については、登場するキリスト教徒全員に濃淡はあれ差別感情があり、アイヴァンホーも例外ではない。アイザックはほとんど王弟ジョンのスポンサーともいうべき存在だけど、その卑屈なことといったらない。しまいにはジョンの家臣フロン・ド・ブーフに娘もろとも誘拐されて身代金をせしめられそうになる。だが、娘レベッカを御堂の騎士ギルベールに下げ渡すと聞かされぶちぎれる。さて、印象としてはこのレベッカがヒロイン。アイヴァンホーにひかれ、献身的に尽くすんだけど、ロウィーナ姫がいるしユダヤ人だからというんで踏み込めない。最後の姫との面談も読みどころ。一方、アイヴァンホーを敵視する御堂の騎士ギルベール、レベッカの魅力に負けてブーフと共謀してさらうんだけど、拒否られると強引にいけない。そのうえ狂信的な騎士団長に「僧侶である騎士を誘惑した魔女だ」とレベッカが火あぶりにされそうになる。助けるには彼女の身の証を立てるべく、槍試合に勝たなきゃならないけど、自分は騎士団側として選ばれ、レベッカ側として名乗り出てきたのがアイヴァンホー、というダブル・バインドに陥る。これを「純愛」と評する向きもあるようだけど、ストーカーの自業自得だろ(笑)。
初版が1964年と1974年だから無理もないけど、訳文は古い。いや、古いというより、分かりやすくするためか、「坊主」が「数珠」を持って「読経」するみたいに意訳していてかえって「?」。「牧師」という言葉も出てきてやっぱり「?」。「あほう」という役割が出てきて、「道化」かと思ったらその言葉は別に出てく来て「?」。騎士が「拙者は……でござる」と時代劇の侍言葉を使ってるのも慣れないうちは笑ってしまった。原文がその手の言葉遣いをしているのか。ちなみに「御堂の騎士団」というのはテンプル騎士団(聖堂騎士団)のこと。その辺も、今から見ると分かりにくい。
>『天正女合戦』(海音寺潮五郎/春陽文庫)
不世出の天下人・豊臣秀吉の寵愛する夫人たちの静かな対立──大坂城の大奥では、正室・北の政所、蒲生氏郷の妹・三条殿、前田利家の娘・加賀殿の一派と、後に淀君となる茶々殿という反目の構造が水面下で起きていた。茶人・千の宗易(後の利休)の娘・お吟は、大奥に出入りして茶の湯を教えているが、この美しい夫人たちの烈しい女の闘いの渦に否応なく巻き込まれてゆく……。第三回直木賞に輝いた表題作「天正女合戦」および「武道伝来記」、そして中国を舞台に人間の真相に迫る三話を収録した、海音寺潮五郎の傑作短編集!(表紙カバー裏より)
「天正女合戦」は、タイトルからして豊臣家版大奥かと思わせますが、ヒロインはお吟。佐々成政の黒百合伝説に始まって、しばらくは確かに大奥ものっぽいけど、秀吉がお吟に目をつけ利休切腹に収斂していく。最終的には権力と芸術の相克が主題となり、その後の現実世界のことをつい考えてしまう(初出は昭和11年)。「武道伝来記」は、父の汚名を雪ぐ息子の話だけど、単純な武士道賛美ではない。中国を舞台にした三作の初出は戦後。「蘭陵の夜叉姫」は、数奇な生涯を送った女が日本に転生して罰を受ける話。「鉄騎大江を渡る」は、離れ離れになった恋人を探し求め、男が東奔西走する話。厭戦気分が漂う。「天公将軍張角」は『三国志』の黄巾の乱でおなじみ、張角が主人公。太平道を始めたのは、もとはといえば一人の不思議な女を得るためだったという話。劉備、関羽、張飛もカメオ的に出演。
>『八ヶ嶽の魔神』(国枝史郎/講談社文庫コレクション大衆文学館)
時に天正年間、諏訪湖の畔に城を構えていた橘宗介は、許嫁・柵(しがらみ)と弟・夏彦の不義密通に激怒し、骨肉の争いが始まる。以来十四年、ついに宗介は夏彦を倒したものの、柵は夏彦の後を追って自害し、宗介はこの世のすべてを呪い八ケ嶽の山中に姿を消す。やがて天狗あるいは魔神となったと言われた宗介を慕い、山中に暮らす人々が現れる。これを山窩族と呼ぶ。一方、柵と夏彦の娘・久田姫は、城を出て母と同様、マリアとイエスを信仰して暮らすが、次第に人々が集い天主教に陰陽術を加味した独特の宗教集団を形成する。これを水狐族と呼んだ。両者が相克を繰り返すうちに時は移り、化政年間。行商人として山窩の部落に入り込んだ多四郎は、頭領・杉右衛門の娘・山吹を言葉巧みに連れ出したうえ、山窩族の信仰を集める宗介像の黄金造りの甲冑を盗み出す。山窩族が山を下り、甲冑を探し求める一方、捨てられた山吹は、多四郎の子・猪太郎(ししたろう)を産み落とす。この猪太郎が数奇な縁により、高遠藩士・鏡葉之助として山窩族と水狐族の闘争に関わっていく。
という話で代表作の一つ。表紙カバーのあらましでは何だか分からないので、要約しました。これでもかなり省略しています。勘違いしていましたが、三つの代表作のうち、これだけは最初から完結しています。また、主人公の遍歴を描いているので、展開は奔放ながら、何の話を読んでいるのか分からなくなる、ということはありません。まとまりが良く、闘争からの解脱がテーマなのがよく分かります。一番、普通の小説っぽいかも。それにしても、三角関係で物語を作るの好きだなぁ、国枝史郎。山吹にも許嫁がいたりするし。
>『逃げ上手の若君(13)』(松井優征/ジャンプコミックス)
前半は中先代の乱の敗戦処理。かなりえぐい描写が出るかと思いきや、「さらに戦いは続く」と感動的な大団円。最終回かと思った(笑)。後半は「インターミッション1336」と題して南北朝時代の始まり(楠木正成と北畠顕家により足利軍壊滅>九州で復活>湊川の戦>北朝樹立>後醍醐天皇吉野逃亡)が描かれる。駆け足なのは、時行が雲隠れして出てこないけど、ナレベースで終わらせるわけにもいかないからか。それにしても坊門清忠、いつどこで見ても憎たらしいな。フィクションらしいが。正成の死は自刃ではなく尊氏との一騎討。視界を潰され手足に首の骨を折られても復活する尊氏、やっぱ人間じゃない。あと、正行と正時の諱は時行からとったという新説が……(笑)。最後の「逃若党1337」で、時行は南朝へ帰順。長崎駿河四郎も登場。"天狗"の中身が仲間になるので、処刑から"天狗"を使って逃れるのかな?
帯には「累計200万部突破!!」「TVアニメ 2024年放送予定」とあり、時行のキービジュアルが掲載されてます。HPには雫のもあって、二人の壁紙がDLできる。
>「将軍 SHOGUN」
キャストが全部アフリカ系じゃないかと心配したりなんかして。おっ、ブラックソーンも白人だ(笑)。しかし、今見ると旧作もキャストが豪華だなぁ。見たくなってしまう。BSで旧作を放送しないかな、「特攻野郎Aチーム」とかやってるし。BOOK・OFFにはスペシャル・コレクターズ・エディション(初回限定生産)というDVDがあるけど。
>石田三成
ドラマにしても映画にしても原作は同じなので(司馬遼太郎『関ケ原』)、"正義を振り回して周りに煙たがられるんだけど理由が分からず、「俺が正しいのになぜ言うことを聞かぬ」とますます正義を振り回してますます周りに煙たがられる"という司馬の三成像が投影されていますね。正義派というより一種の偏執症。島左近とか大谷吉継は「そういうところだぞ」と突っ込みつつ、(あれさえ無ければいい奴なんだがなぁ)と三成に殉ずることになってしまう可哀そうな人たち(笑)。海音寺潮五郎になると「自信強烈で、感情的な人間」「強烈な愛憎心も、旺盛な党派心も、依怙ひいきも、この二つの性質の合するところから出る」「もう一つつけ加えれば、彼は頭の切れる優秀な文吏だったのだから、ドライで、執拗で、酷薄で、陰険なところもあったのではなかろうか」ということになる。(いずれも『武将列伝』「石田三成」) こっちの方がリアルだけど、フィクションの登場人物としては司馬の方が面白い。
ついでに映像作品じゃないけど、『信長を殺した男〜日輪のデマルカシオン〜』(明智憲三郎(原案),藤堂裕(画)/秋田書店 ヤングチャンピオンコミックス)にも三成が出てたんでご報告。『信長を殺した男〜本能寺の変 431年目の真実〜』の続編で、天下人・秀吉を描いている。どうも最後は、フィリピンをめぐってフェリペ二世と一触即発……ってところまでいくらしい。両者が相次いで亡くなったので世界戦争は起きなかったんだけど、これ、以前NHKでもやってたな。元ネタは宣教師の報告らしい。現在は朝鮮出兵。まだ序盤なので日本軍は連戦連勝。でもそろそろ亀甲船と李舜臣が出てきそう。で、秀吉の有名な構想が紹介されてるけど(天正20年5月16日付豊臣秀次宛豊臣秀吉朱印状 前田育徳会所蔵)、これが"朝鮮と明を平定したら、寧波に居を移してインドを切り取る"というもの。もう、頭おかしいとしか言いようがないんだけど、三成、素直に感動しちゃってて、こいつも頭おかしい。頑張れ、李舜臣! 応援しなくても頑張るだろうけど。
#11390
バラージ 2023/11/12 08:27
さらに訂正
大河ドラマ『軍師官兵衛』は、『江』と『真田丸』の間でしたね。重ね重ねすいません。
#11389
バラージ 2023/11/12 00:15
もひとつ訂正
映像作品の石田三成、映画『のぼうの城』と大河ドラマ『江』の間に大河『軍師官兵衛』もありましたね。演じてたのは田中圭でかなりの悪役回りだったようですが、やはり三成が出てきたあたりはすでに観てませんでした。
#11388
バラージ 2023/11/11 00:56
あれ?
文字化けしちゃった。なんか失敗したかな? 『真田太平記』で光成を演じたのは清水紘治ですが、三文字目(名前の一文字目)は糸偏に広みたいな字です。
#11387
バラージ 2023/11/11 00:45
稲?否、唯!なり
『どう家』、本多忠勝の娘で真田信幸の妻の稲を演じる鳴海唯ちゃんが再登場。やっぱ、この子いいわあ。この子を知れただけでもこのドラマ大収穫だな(笑)。ちなみに大河『徳川家康』には稲は登場せず、『真田太平記』では紺野美沙子、『真田丸』では吉田羊が演じていたとのこと。そっちは僕は観てないか、観てたとしても記憶にありません。
古川琴音ちゃん演じる千代も音尾琢真演じる鳥居元忠ともども壮絶な最期を遂げました。初登場した時にはこんな流転の人生を歩むキャラになるとは思いもしなかったなあ。
さて、いよいよ秀吉が死んで家康の天下取りフェイズに突入しましたが、このあたりからの家康はどう考えてもかなりの腹黒なんで、家康主人公作品ではかなり無理をして美化することになっちゃいます。『徳川家康』がまさにそうで、いくらなんでもというくらい強引に家康を正当化してました。ま、そもそも山岡荘八の原作が家康を平和志向の人物に描くという基本方針で書いてたとのことだから、ドラマの責任ってわけでもないんだろうけど。
家康と敵対する役回りの大物・石田三成も登場しましたが、この人も作品によって善人になったり悪人になったりとキャラがころころ変わる人物。今回は善人で家康との仲も当初は良好に描かれてましたが、家康も三成も善人だと関ヶ原に至る流れを描くのに工夫がいることになり、三成の誤解と茶々や毛利輝元など周囲の唆しで敵対に至るという流れだったでしょうか。
僕が初めて観た三成登場作品は大河ドラマ『おんな太閤記』で、三成を演じてたのは今回は前田利家を演じていた宅麻伸。細かい記憶はありませんが、Wikipediaによると主人公のねねに可愛がられる加藤清正や福島正則と敵対した三成は、対抗上淀君に接近するという流れだったらしく、やや悪役回りだったようです。ちなみに子役時代を演じてたのは坂上忍とのことだけど記憶になし。同年には加藤剛演じる三成が主人公(の1人)のTBSドラマ『関ヶ原』も放送されました。CMで「正義の三成か、謀略の家康か」みたいなキャッチコピーが流れてた記憶あり。本編は終盤の三成が捕縛されてるあたりからしか観てません。次いで『徳川家康』では鹿賀丈史が三成役。七将に襲撃された三成が家康邸に逃げ込み、保護してくれた家康の高潔さに打たれて涙を流しながら、それ故に家康を討たねば豊臣家は天下を失うと考えて家康討伐を決意するみたいなシーンの記憶あり。ドラマとしては感動的でしたが、さすがにいくらなんでも無理があるだろとも思いましたね。Wikiによるとやはりやや悪役回りだったようです。次が新大型時代劇『真田太平記』で三成役は清水綋治。関ヶ原の軍議で諸将から「治部は戦を知らぬ!」と罵られてたシーンの記憶あり。ただし悪役ではなかったような。『独眼竜政宗』では奥田瑛二が三成役。関ヶ原に出陣する三成が、樋口可南子演じる淀殿が差し出した手に頬ずりしてキスするというちょっと変態チックなシーンの記憶あり(笑)。確か奥田の発案で樋口さんもびっくりしたと何かで読んだような。Wikiによるとやはりやや悪役回りみたいですね。
『春日局』(演:伊武雅刀)は未見、『秀吉』(演:真田広之)は最終回だけチラッと観ました。Wikiを見てもどっちも悪役ではないのかな。てか秀吉が主人公なら三成が悪役なわけないか。久々に観た三成登場ドラマが『葵 徳川三代』。初回がいきなり関ヶ原で、その後さかのぼって秀吉死後から描かれていく展開でした。三成役は江守徹で正義派キャラ。むしろ主人公側の家康のほうがワルな感じでしたね。
21世紀に入ると個人的にはまた大河の三成をあまり見なくなります。三成が登場するのが後半のため、それ以前に脱落してることが多かったというのがその理由。Wikiを見る限りでは、『利家とまつ』(演:原田龍二)ではやや悪役、『功名が辻』(演:中村橋之助〈現・中村芝翫〉)ではどちらかといえば善人、『天地人』(演:小栗旬)でもどちらかといえば善人、『江』(演:萩原聖人)ではまたやや悪役と、相変わらず作品ごとの立ち位置によってキャラ変が激しい。またも久々に三成登場作品を観たのが映画『のぼうの城』。上地雄輔演じる三成は戦が致命的に下手くそながら根っからのいいやつといった感じでしたね。再び大河に戻り、山本耕史が三成を演じた『真田丸』でも正義派。ただし肝心の関ヶ原はばっさりカットされちゃいました。そして今年以前の最新の三成登場作品だったのが映画『関ヶ原』で、僕は未見ですが当然正義派でしょう。しかしそれよりも三成役が山本に続いて岡田准一というムキムキ肉体派路線のほうが気になる(笑)。三成にそんなイメージないんだけどなあ。
しかしこうやって見てくるとやっぱり三成主人公大河もいつかはありそう。まあ今年が家康なんでしばらくはないだろうけど、さすがに最近は大河もネタ枯れ気味だし、そう遠くはない時期にやりそうな気もしますね。
>『47RONIN』
僕は未見ですが、忠臣蔵をモチーフにしつつもかなりファンタジー要素(例えとかではなくて本当の意味でのファンタジー)が強い映画のようです。興行的にも失敗したようですが、なぜか2022年に続編映画『47RONIN ザ・ブレイド』が作られました。前作から300年後の現代のブダペストを舞台としたファンタジーアクションとのことで、もはや忠臣蔵とはほとんど関係ない作品のようです。米国ではNetflix配信、日本ではDVD&Blu-rayスルーですが、もちろん僕は未見。
#11386
徹夜城(しばらく更新が止まっててすいませんの管理人) 2023/11/07 10:23
「将軍」もリメイク
どhも、管理人のくせにかなり久々に書き込みます。
「史点」が7月以来止まっておりまして、最近のパレスチナ情勢など書いておきたいニュースネタはいっぱいあるんですが、とにかくここ数か月、多忙のため物書きをする余裕がなくって(汗)。アップしてないけど映画評とか南北朝列伝とかほかの記事をちょこちょこと書いてはいます。
で、最近知って「へえ」と思ったのは、あの「将軍」がリメイクされたということ。もう宣伝映像が出てましたが、ディズニープラスでの配信のようですね。最近は気になる映像作品、とくにドラマ系はネット配信ばかりになってますねぇ。
「将軍」はウイリアム=アダムス(三浦按針)をモデルにした日本史マニア西洋人の書いた創作戦国日本小説で、一応話は関ケ原の戦いの過程で、ちょうどいま「どうする家康」でやってるあたり。そういやあちらでもアダムス出てきましたね。
今度のリメイク版で家康にあたるキャラを演じるのは真田広之。この方ももう長いことアメリカに腰を据えて活動していて、アメリカで日本が舞台の作品には必ずといっていいほど出てる気がします。ハリウッド製忠臣蔵「48RONINS」では大石演じてましたし。いま「商銀」をやるとやはり真田さんってことになるのか。
真田広之が家康というのはどうも似合わない気もするんですが、一応過去に
TBS正月時代劇「織田信長」(渡辺謙主演)で演ってるんですよね。真田さんは尊氏と家康で幕府創設者二人を演じてるわけで、頼朝をやれば制覇ですが…まぁなさそうだなぁ。
#11385
バラージ 2023/11/04 17:15
古くて新しくて恐ろしい話の映画
1か月以上のお久しぶりです。最近書きたいような歴史ネタがあまりなくて、久々になりました。
その間もロシアとウクライナの戦争が続く中、今度はイスラエルとパレスチナが戦争状態に。当初のハマスの奇襲攻撃時は国際社会もイスラエル支持の声が多数派でしたが、イスラエルのガザへの無差別攻撃が熾烈をきわめて風向きが大きく変わりました。もともとイスラエルの建国時からの問題で、90年代にもイスラエル側が譲らなければ問題は解決しないと専門家からは指摘されてましたからね。ま、当然のことかと思わないでもありません。しかしそれでも欧米、特に米国はイスラエル支持一辺倒。そこは民主党でも共和党でも変わりないんだな。やれやれ。日本も米国のケツを追っかけてるだけでいいんですかね。
さて、以前紹介した映画『福田村事件』が地元でもようやく上映されたので早速観てきました。オウム真理教などのドキュメンタリー映画で著名な森達也監督の初の劇映画です。
福田村事件とは関東大震災の5日後に千葉県の福田村で、香川県から来た被差別部落出身の薬の行商団が朝鮮人と疑われ、15人のうち9人が地元の自警団らに虐殺された事件。震災後に朝鮮人が放火してるとか井戸に毒を入れたなどというデマが広がり数千人の朝鮮人が虐殺されましたが、朝鮮人ばかりでなく日本語(の関東弁)が流暢でないという理由で朝鮮人と疑われた中国人や他県人(日本人)も多数虐殺されており、福田村事件もその1つとのこと。
映画は事実を基礎としながらも史実そのままではなく、朝鮮帰りのモダンなリベラル夫婦や、夫がシベリア出兵で死んだ寡婦と密通する川の船頭、正義感に燃える地元新聞の女性記者など複数の架空人物を交えたフィクションを含む物語になっています。彼らを演じる井浦新、田中麗奈、東出昌大、コムアイ、木竜麻生がいずれも素晴らしく、他にも行商団リーダー役の永山瑛太、村長役の豊原功補、自警団長役の水道橋博士、新聞編集長役のピエール瀧、村民役の柄本明などインディーズ映画にも関わらずかなりの豪華キャスト。もともと荒井晴彦ら旧若松孝二組で福田村事件の企画を進めていたところに、同様に福田村事件の映画化を考えていた森監督が合流したらしく、若松組だった井浦新だけは当初から出演が決まっていたとのこと。次いで噂を聞き付けた東出昌大が森監督の作品なら何の役でも出たいと名乗りを上げ、永山瑛太もぜひ自分の出番を増やしてくれと申し込むなど、役者全員この企画に大いに乗り気だったそうです。当初は俳優が誰も出てくれないんじゃないかと危惧してたそうですが、みんな二つ返事で引き受けてくれたとのこと。オーディションにも多数の役者が殺到したそうです。そういや東出・木竜・井浦の3人は同じ時代が舞台で題材も近い『菊とギロチン』にも出てたな。
前半から中盤は福田村民と行商団それぞれの日常を描いており、福田村の牧歌的ながらも田舎特有の閉鎖的で嫌なところが性愛絡みも含めて描かれる一方で、行商団の人々も朝鮮人には差別的感情を持っている一面も描かれていて、単純で図式的な善悪二分論に陥ることを避けているのが良い。森監督は善良な被害者と凶悪な加害者というような描き方はしないようにして、ある異常な状況下では普通の人が普通の人を殺す恐ろしさを描きたかったとのこと。大地震が起こった後半は一気に映画が不穏な雰囲気に傾いていき、終盤目を覆うような虐殺が描かれます。その前半との落差が凄かった。女性記者が東京で目撃する朝鮮人虐殺や、社会主義者が虐殺された亀戸事件も描かれており、井浦演じるリベラル夫が朝鮮で目撃した三・一独立運動で朝鮮人が虐殺された堤岩里教会事件についても言及されています。僕も朝鮮人虐殺や甘粕事件、三・一独立運動は知ってましたが、福田村事件や亀戸事件や堤岩里教会事件については不勉強にして知りませんでした。
とにかく凄い映画でしたね。デマやフェイクニュース、ヘイトスピーチやヘイトクライムといった現代にも通じる問題が含まれた事件とスタッフ陣も考えていたそうですが、まさにその通りでしょう。単純に映画としての出来もすごく良い。こういう言い方をするのも何ですが、純粋に映画としてもとても面白かった。やはりこういう映画は作られなければならんでしょう。観客動員も予想以上に良かったようで、製作側もうれしい誤算だとのこと。僕の行った映画館も意外に客が多くてちょっとびっくりしました。
>その他の歴史関連映画&テレビドラマいろいろ
こないだの『世界ふしぎ発見』でのカザフスタン特集で、カザフスタン製史劇映画『女王トミュリス 史上最強の戦士』の映像が使われておりました。なかなかに壮大な騎馬軍団シーンでこりゃすごいと思ったわけですが、Twitterでも何人かそういう反応があったみたい。ま、そのシーンだけで映画自体が面白いかどうかまではわからないわけですが。
歴史映画といえばこないだ行った映画館で、北野武監督の『首』とリドリー・スコットの『ナポレオン』の予告編が流れてました。これまたどっちもなかなかに大規模な合戦シーンで、やっぱり映画は規模が違うなあと。個人的にはナポレオンにもリドリー・スコットにもあんまり興味なかったんですが、ちょっと観たくなっちゃいましたね。
それから映画板でもちょっと触れたけど、チャン・イーモウ監督の新作映画『満江紅(マンジャンホン)』が東京国際映画祭で上映。南宋の岳飛と秦檜の争いを背景とした作品のようですが、チャン・イーモウのことだから史劇ではなく時代劇なのでしょう。主要人物は全員架空人物で秦檜らはあくまで脇役のようですし。こう言っちゃ何ですが、本当の意味でクリエイティブな監督はガチガチの史劇とかはあんまり撮りたくないんじゃないかなあ。創作の余地がないと面白くないんじゃないかと思います。個人的にはとにかく早く観たい。
テレビドラマではNHKの男女逆転版『大奥』の成功に触発されたか、フジテレビもまたまた『大奥』を作ると発表。主人公は10代将軍家治の正室・五十宮倫子とのことでまたえらくマイナーな人が主人公ですが、もともとフジ『大奥』はフィクションてんこ盛りなんで誰が主人公でも作れそう(笑)。主演は小芝風花ちゃんとのこと。
そして『パリピ孔明』は相変わらず面白い。ちょいちょい三国志のマニアックな小ネタが入るんですが、ライブハウスのオーナー役の森山未來がかなりの三国志マニアらしく、アドリブを入れてるんだけどなかなかカットがかからないらしい(笑)。
>訂正
#11378でパク・ヘイルが主演した韓国映画を『別れぬ決心』と書きましたが、『別れる決心』の間違いでした。ハハハ、全然逆だった。ちなみに中国女優タン・ウェイとのダブル主演です。ま、観てないんですけど。タン・ウェイは確か韓国人監督と結婚したんですよね。
#11384
ろんた 2023/10/28 13:35
『新九郎、奔る』(14)
まずは新九郎の嫁とり話。お相手はぬい殿なわけですが、この「奥方は十八歳」という石立鉄男×岡崎友紀なタイトルが分かる人って、スピリッツ読者にいるんだろうか(笑)。とりあえず、ここではゆうきまさみのホーム・コメディ的アレンジが楽しい。しかし、応仁文明の乱が終わり、都鄙和睦が成っても幕府に揉め事の種は尽きない。御所様は猿楽師上がりの広沢尚正をBL的にご寵愛。奉行衆と奉公衆はもめ、山城国一揆勃発。伊豆では、寿王(双子の弟)に天龍寺香厳院入りの話が来る。御所に何かあった時の跡継ぎ候補ということで、「さすれば余は大御所として京に戻れる」と政知、獲らぬ狸のナントヤラで大喜び。一方、年相応(数え六歳)に無邪気な寿王に比べ、茶々丸(双子の兄、妾腹の子とされる)は順調に不気味悪く成長している模様。その辺を一コマで表現するゆうきまさみ、さすが。関東では新九郎の工作が功を奏したのか、太田道灌の孤立が深まり、ついに「当方滅亡」に。道潅の腹づもりでは、仮想敵を山内上杉として古河公方に接近。山内を追い落とした後、古河公方を料理して扇谷に関東を支配させる──ぐらいのことを考えていたんだろうけど、誰もこれを理解できなかったのが悲劇の発端。まあ、理解させようともしてなかったみたいだけど。さて、これで新九郎の仕事がやりやすくなった、ということで次巻は「龍王丸帰駿」。龍王丸自身は「す、駿河は、こここ、怖い!」とごねてるみたいだけど(笑)。
>『白暮のクロニクル』実写ドラマ化
『新九郎、奔る』(14)の帯、三谷幸喜のコメント「『大河ドラマ』を観ている気持ちで読んでます。」と一緒に「前作『白暮のクロニクル』実写ドラマ化決定」とあります。「主演:神山智洋(ジャニーズWEST)/WOWOWにて2034年放送・配信予定」とのこと。まんま書き写したんでグループ名はそのまま。不老不死(所定の手順を踏めば殺すことはできる)のオキナガが存在する社会を描く現代もの。ただオキナガは基本不老不死なので、主人公は沖縄戦の最中に"なりあがる(オキナガになること)"し、尊王攘夷運動で新選組だか新徴組だがに斬られて以来、反体制運動を続けてきたとか、日清戦争で戦友が死んだ時は悲しかったとか、応仁の乱の最中にオキナガになったとか、様々な形で日本史ネタが出てくる。メインキャラの一人は明らかに武内宿禰だし、入来神父ってのは多分ジーザース・クライスト・スーパースター。父親が大工だっていうし(笑)。ただ不安なのは、WOWOWのHPではオキナガ=吸血鬼という感じでドラマが紹介されているところ。これ原作では、オキナガを揶揄したり差別したりする言葉として設定されてるんだけどなぁ。HPの作成者がよく分かっていないのか、そう説明した方が分かりやすいからか、そういう形で改変されるのか?
>『かげろう絵図』(上)(下)(松本清張/文春文庫)
活字を読むためのリハビリで読み始める(笑)。大御所・徳川家斉最後の一年における大御所派と将軍派の権力闘争を描く、『天保図録』の前日譚(執筆順から言えばそちらが後日譚)。家斉が卒中風(脳梗塞?)で倒れ、余命いくばくもないとなれば大御所派の没落は火を見るよりも明らかなんだけど、彼らがそれを運命と受け入れるはずもない。ということで、ありえた暗闘を描いている。その点では歴史小説というより時代小説か。しかしまあ、さすがに松本清張で小説が上手。解説の島内景二氏によれば、タイトルは権力闘争を「陽炎」、その亡者どもを「蜻蛉」とするダブルミーニングになっているとのこと。確かに大御所派を追い落とした水野忠邦も、数年で同じ目に遭ってるからなぁ。
録画しっぱなしにしていたドラマも見ましたが、文庫本上下巻で1100ページほどのボリュームを実質二時間に収めるため、キャラクターを整理したり、死ぬはずの人物を最後まで生かしたりと苦労してる。最後、大御所派のラスボス中野石翁は、拝領した豪邸を自らの手で破却するんだけど、ドラマでは火をつけちゃってる。いやいや、それはまずいだろう(笑)。映画もあるんだけど、そちらは未見。
>『菊水江戸日記【時代小説コレクション2】』(横溝正史/春陽文庫)
執筆順から言えば『菊水兵談』の続編だけど、作中の時系列では安政年間〜上野戦争と完全に並行している。完全に一話完結形式になっていて、ミステリ色が強い。ライバルとして町奉行所与力・三枝伊織が登場、なんだかルパン三世対銭形警部みたいに(笑)。
>『剣樹抄 不動智の章』(冲方丁/文春文庫)
先に出版され、BS−Pの金曜時代劇でドラマ化された『剣樹抄』の続編というか、第二巻。完全な続きになっているので、『剣樹抄』を読んでいないと訳が分からない。カバー後ろの紹介によると……
幕府の隠密組織「拾人衆」の一員となった無宿の少年、六維了助。明暦の大火を引き起こした盗賊の「極楽組」を追う中で、父を殺した憎き男の正体が慕っていた光圀と知る。裏切られた思いで仇討ちに走る了助を、剣術家の柳生義仙が取り押さえ、二人は廻国修行の旅へ──。傑作時代エンターテインメント第二弾! 解説・吉澤智子
……となってます。補足すると、光圀は徳川光圀。まだ藩主になっていない。柳生義仙は"列堂義仙"。柳生宗矩の子で十兵衛光厳、宗冬の末弟。「剣術家」とされているし、『子連れ狼』の柳生"烈堂"のモデルだけど、史実では僧侶。芳徳寺(柳生家菩提寺)の第一世住持だという。本作では住持なのにフラフラ旅に出て宗冬をヤキモキさせていて、剣術家としても超一流。解説の吉澤智子氏はドラマの脚本家。なんかモヤモヤする形で終わってて、続編も予定されているみたい。でも、まだ刊行されてません。
ということで、現在『アイヴァンホー』(上)(下)(ウォルター・スコット/岩波文庫)に取りかかり中。講談社e-honで見ると、青い鳥文庫からも出てる(絶版)。小学上級からとのことだから、リライト版かな?
>「眠狂四郎円月殺法」
第七話(再放送だと八話)見ました。媚薬で狂わせた女剣士を抱っこして、ドタドタと狂四郎に斬りかかるのには"「剣鬼喇嘛仏」(山田風太郎)かよ"と突っ込んでしまいました。しかもその悪剣士が小林稔侍さん(笑)。女剣士役の藍とも子さんはこの頃、にっかつ作品に出演されてたみたい。ちなみに「メカゴジラの逆襲」のアレは特殊メイクだそうな。
#11383
巨炎 2023/10/16 00:37
敵は本能寺にあり
池波正太郎が脚本担当で明智光秀主人公作品あったんですね。
動機は単純に私怨ですが、既に登録されている作品のように主人公神格化されない方が真っ当かな?
>「眠狂四郎」
「円月殺法」は、ほぼ毎回、女優さんを脱がせていますが特に無茶苦茶だったのが第7話。
藍とも子の脱ぎっぷりは「メカゴジラの逆襲」の比ではなかった…。
しかし大風呂敷を広げた縦軸ドラマと主人公のかみ合わせがイマイチ。
1話完結短編に徹した「無頼空」の方がストーリーは纏まっている。
#11382
ろんた 2023/10/09 13:56
時代劇追記
うっかり忘れてたので追加です(汗)。
10/10(火)からBS12で長谷川一夫の銭形平次捕物控シリーズ(大映)が放送されます。「人肌蜘蛛」('56)「まだら蛇」('57)「女狐屋敷」('57)「八人の花嫁」('58)「鬼火燈篭」('58)「雪女の足跡」('58)「美人蜘蛛」('60)「美人鮫」('61)の八本。総天然色(笑)になった後半の作品。実はあと一本「夜のえんま帳 」('61)というカラー作品があるんだけど漏れてる。12月に放送されるのか? ミツマメと並び称された女学生キラー・長谷川一夫(林長次郎)をご堪能あれ。もうオジサンだけど。市川雷蔵、山本富士子、美空ひばり、八千草薫、香川京子、淡路恵子、船越英二、中村玉緒、水谷良重、三木のり平など脇も豪華。
#11381
ろんた 2023/10/08 11:48
『神州纐纈城』(国枝史郎/春陽文庫)
困ったことに、『神州纐纈城』を読み終えると活字を読む気が失せてしまう(汗)。それでも『ギリシア人の物語』(3)は買ってしまう。妙に薄いと思ったらVを分冊したとのこと。さらにブックオフオンラインを見ると、この間まで在庫が無かった大衆文学館の『神州纐纈城』『八ケ嶽の魔神』が注文可になっている。(しまった、ちょっと待っていれば三部作を大衆文学館で揃えられたのに)と妙なマニア心を抑えつつ『八ケ嶽の魔神』を注文。さらに悪いことに、『大菩薩峠』(中里介山/富士見書房時代小説文庫)が(14)までしかないことを思い出してしまう。何だか手に入りにくくなって、気づいたらちくま文庫から出て、(最初から買いなおすべきか否か)と迷っているうちに刊行が終わり、絶版になってしまった。ということで注文したんだけど、(16)と(19)だけが在庫なし。思い余ってちくま文庫の方の(16)と(19)を買ってしまう。同じ20分冊だから大丈夫。いや、大丈夫であれ! さらについでに『かげろう絵図』(上)(松本清張/文春文庫)も注文。(下)はなぜか在庫がないんで新刊を買うことにする。
ということで『神州纐纈城』(国枝史郎/春陽文庫)であります。
ある春の夜、散歩していた武田信玄家臣・土屋庄三郎は、布売りの老人から、燃え立つばかりの紅い布を買った。布を月光に照らして見えたものは、四歳の時に失踪した父・土屋庄八郎の名…。紅布に誘われて迷い込んだ富士の裾野で見た人間狩り集団、そのまとう経帷子の色が自分の紅布と同じ色と気付いた庄三郎は、そこからさらに怪異の世界に入り込んでいく。神秘的な教団、超人的な人々、本栖湖に浮かぶ水城「纐纈城」…。三島由紀夫がその文章の見事さや現代性、芸術性を賞賛した伝奇小説の傑作!(カバーより)
「纐纈城」というのは『宇治拾遺物語』の「慈覚大師纐纈城に入り給ふ事」から引っ張って来たらしく、本編中にも引用されている。それによると、入唐した慈覚大師(円仁)は、武宗の仏教弾圧により国外追放され、纐纈城に迷い込む。その城では、人を攫ってきて血を搾り取り、纐纈を染めて売りさばいていた。大師は御仏の加護により脱出、武宗崩御後に即位した宣宗の庇護下に仏法を学び帰国した……と言うことになっている。タイトルにある「神州」はもちろん日本の意味。つまり、纐纈城が日本にもあるということ。そこで作られた布になぜ失踪した父親の名が……というのがメインのストーリー。しかし、例によって奔放すぎる想像力によって本筋がしばしば見失われる(笑)。兄弟で一人の娘を取り合う(というより兄の横恋慕の)三角関係が二組も出てきたり、役ノ行者の教えを伝える富士教団が出て来たり。特に凄まじいのが奔馬性癩患。患者に接触しただけで伝染、即座に発症、これが甲府市内に蔓延する。言っておきますが、こんな病気はありません。そして、この作品も未完なのであった。
>キプチャク・ハンって誰だ?
「オルド 黄金の国の魔術師」のバラージさんの紹介、興味深く読ませてもらいました。
オルドはいわば遊牧宮廷。このオルドを握った者が、ウルスの実権を握るということになるみたい。だから、金帳=金のオルド=黄金の国と解釈できないこともない。しかし、神の奇跡を魔術と呼んではいかんだろう(笑)。
○○○○・ハン国というのは後世のヨーロッパの学者がつけた名前だということで、モンゴル史学者を中心に○○○○・ウルスと呼び変えられているようです。「ウルス」というモンゴル独特の概念を反映させるという意味もあるらしい。で、面白いのがキプチャク・ハン国(ジョチ・ウルス)。チャガタイ・ハン国(チャガタイ・ウルス)は始祖(チンギス・ハンの次子)の名、イル・ハン国(フレグ・ウルス)なら自称した称号。でもキプチャクというのは、トルコ系遊牧民のことでモンゴルと関係ないし、キプチャク・ハンという人物もいない。このキプチャク族の根拠地がバルハシ湖北岸から黒海北岸にいたる広大な草原(キプチャク大草原)で、オゴデイ・ハーンの征西からその後継者争いなどを通じてジョチ・ウルスに組み込まれ、キプチャク族も征服され同化する。つまり、被征服者の名が征服者につけられるという変なことに(笑)。キプチャク大草原にいるモンゴルの王様(ハン)という意味でルーシあたりで呼び習わされていたのかもしれない。あと、奴隷として売られたキプチャク族がアイユーブ朝を倒して新国家を建設(マムルーク朝)。これがモンゴル(後のフレグ・ウルス)を敗るという、因果はめぐる糸車な展開があったりする。そして、ジョチ・ウルスとマムルーク朝が同盟してフレグ・ウルスを圧迫したりなんかして。
ジョチ・ウルスのイスラム化は、ベルケ・ハン(ジョチの第四子/在位1257-66)が改宗したという記録はあるけど、事実としても個人的なものっぽい。本格的な改宗はウズベク・ハン(在位1313-41)の時代で、蘇我-物部の戦いみたいなすったもんだがあったみたい。で、この人がティニベク(在位1341-42)とジャニベク(在位1342-57)の父親。だから「オルド」の時代に祈祷師とか正教の主教に頼るのはおかしいんだけど、改宗したのがスーフィズム(イスラム神秘主義)だったので、その辺、融通が利いたみたい。
モスクワ公国が貧乏国っぽく描かれているのは、「タタールのくびき」の強調ですかね。実際はジョチ・ウルスとルーシの間に立って甘い汁吸ってたと思う。あと、次の世代には一時的とはいえ「タタールのくびき」から解放されるし(クリコヴォの戦い/1380年)。
>時代劇
BS松竹東急で「眠狂四郎円月殺法」が放送中。片岡孝夫(現・仁左衛門)主演。第一回冒頭。松尾嘉代さんがもろ肌脱ぎになって、大名屋敷の門前で切腹するって大騒ぎ。スタートダッシュの激しさに笑ってしまう。続編の「無頼控」も放送予定。
時代劇専門チャンネルでは、11/05に「河井継之助 駆け抜けた蒼龍」(主演:中村勘三郎)「素浪人罷り通る 涙に消えた三日極楽」(主演:三船敏郎)を無料放送。後者はシリーズの第五作目。
#11380
バラージ 2023/09/30 11:53
オルドっていったらやっぱり光栄の『蒼き狼と白き牝鹿』だよね〜……って映画かよ!
ついに『どう家』に登場のラスボス茶々(淀殿)役が母親のお市を演じていた北川景子さんでしたが、たぶん茶々は北川景子の二役だろとさんざん言われてたんでサプライズ感は無いかな(笑)。一方ですでにちょろっと登場してる真田信繁(幸村)役はよく知らん俳優なんですが……信繁はたいしてクローズアップされんということか? まあ、そんなことより本多忠勝の娘の稲を演じていた鳴海唯ちゃん、いい芝居するなあ。全然知らない子だったけど童顔に見えて25歳なんですね。デビューがやや遅かったようで(大学を中退してデビューしたらしい)芸歴は長くないようですが、お顔も可愛いし今後の注目株かも。
『オルド 黄金の国の魔術師』という2012年のロシア映画を観ました。前々からここでも何度か触れてたんですが、2013年にDVDスルーされてレンタル店に並んだ時からちょっと気になってた映画なんですよね。邦題の「オルド」を見て、オルドってひょっとしてゲーム『蒼き狼と白き牝鹿』のあのオルドか?と思い、手に取ったのが最初のきっかけ。裏のストーリーを読んでみたら、金帳汗国(劇中ではキプチャク・ハン国と呼称している。最近の呼称はジョチ・ウルスか?)が舞台と書いてあって、やっぱりモンゴル絡みか、キプチャク・ハン国が舞台なんて珍しーとちょっと興味がわいたんですが、レンタルして観ようとまでは……。
ちなみにパッケージデザインはもろ『ホビット』のパクリみたいだし、サブタイトルも「黄金の国の魔術師」だし、裏には「史劇ファンタジー超大作!!」なんてキャッチコピーまで書かれてるし、Amazonでも「歴史ファンタジー・アクション」とあるんだけど、ストーリーを読む限りではどう見てもファンタジー要素もアクション要素もなさそう。しかもやはり裏に「モスクワ国際映画祭3部門受賞」と書いてあって、娯楽ファンタジー映画がモスクワ映画祭で受賞するとは思えない。ファンタジーものに見せかけて売ろうとしたんだろうなと想像はつきました。その後まもなくコンビニなどで500円ぐらいで安売りされてて、それでもやっぱり売れねえんだろうなぁなどと思った記憶。先日ふと思い出して観てみようかなと思ったんですが、レンタル店ではとっくの昔に撤去されており、通販で他の買い物ついでに購入しました。意外と値崩れはしておらず、やはり500〜600円。まあこれ以上安くはならんか(笑)。
ストーリーは以下の通り。14世紀半ばのキプチャク・ハン国でティニベク・ハンを弟のジャニベクが暗殺し、ジャニベクが新たなハンとなる。やがて兄弟の母でジャニベクの資質を疑う皇太后タイドゥラが謎の失明をして、ジャニベクは祈祷師など様々な人物に治癒にあたらせるが効果はない。モスクワ公国の府主教アレクシイが奇跡を起こす力を持つと聞いたジャニベクは、モスクワ公太子イヴァン(後のモスクワ大公イヴァン2世)にアレクシイを差し出させ、皇太后を治癒できなければモスクワを焼き払うと脅迫する。自らが奇跡を起こせることを否定するアレクシイは、それでもモスクワを救うために治癒にのぞむが……といったストーリー。
予想通り娯楽エンタメ映画では全くなく、思ってた以上に文芸アート映画というか芸術映画でした。一昔前ならアート系のミニシアターで公開されてもおかしくないようなヨーロッパ映画ですね。聖アレクシイの受難と奇跡の伝説を材に取った作品で、脚本が昭和天皇を描いた『太陽』(未見)のユーリー・アラボフとのことですが、個人的にはそこまで難解という印象は受けませんでした。ただ時代状況などの歴史的な説明はほとんど無いので、あらかじめ多少は知っておかないとわかりにくいと感じるかもしれません。厳密には史実とは異なる部分もあるようですが、そもそもそういうのを求める映画ともちょっと違って、キプチャク・ハン国のハン位をめぐる相克とキリスト教主教アレクシイの受難を通して、没落を迎えた帝国の斜陽と神の存在への懐疑を描いた文芸映画と思ったほうが良さそうです。遠藤周作の『沈黙』に比する感想もありましたが、なるほど確かにちょっと似てるかも。
時代考証については門外漢なんではっきりしたことは言えないけど、少なくとも風俗描写などの雰囲気的にはかなり正確なんじゃないかという印象を受けました。ロシア側の「タタールのくびき」史観を指摘する感想もありましたし、ムスリム化していたとされるキプチャク・ハン国にしてはそういう描写もほとんどありませんでしたが、あくまで「モンゴル」としての側面を強調したかったんだろうし、そういう「モンゴル」の雰囲気は非常に上手く再現されてたように思います。一方のモスクワ公国はド田舎の貧乏国という感じで、こちらの描写もリアルに感じられましたね。そもそも全体的にリアリズム志向で、残酷描写も多少あったりするし、なんというかとにかく絵面が汚い。美男美女も出てこないし、きれいなところなんて一個もないと言ってもいいような(笑)。その一方ですげえ金かけてるなあと感心もしました。特にキプチャク・ハン国の首都サライの街の再現がすごい。文芸映画でこんなに金かけるんだと思いましたね。
まあとにかく個人的にはなかなか面白かったです。さすがモスクワ映画祭で受賞しただけのことはある。歴史ファンには意外な拾い物の1本と言ってもいいんじゃないかな。
ちなみに原題が「オルド(厳密には発音は「オルダ」らしいが)」で、キプチャク・ハン国が「黄金のオルド」と呼ばれ、「魔術師」とは奇跡を起こすとされるアレクシイのことと考えると、邦題は一応内容を外れない範囲で考えられたんだな。
>転生もの歴史?ドラマ
フジテレビで『パリピ孔明』というドラマが始まりました。五丈原で死んだ諸葛孔明がなぜか現代日本の東京・渋谷に若い頃の姿で転生し、出会った女性シンガーの卵のために彼女の軍師(マネージャー)として成功に導いていくというストーリー。原作マンガのタイトルは聞いたことあったけど特に興味はなかったんですが、実写ドラマのCMを偶然見てちょっと面白そうだったんで初回を観てみたらなかなか面白かったです。歴史上の人物が現代に来るパターンなので歴史度はあまり高くありませんが、まぁそれよりもドラマとしての面白さが個人的には優先です、はい。しかしまあ上白石萌歌に森山未來に菅原小春まで出てるって、それじゃ『いだてん』じゃねーか!って、あっちでは絡みは一切ありませんでしたが。あ、主演は向井理です。劉備役はディーン・フジオカ。
>なぜか今頃になってふと思い出した中国史映画&ドラマ話
その1 『王妃の紋章』
チャン・イーモウ監督による2006年の映画で、#10965で書いたように1934年に曹禺が書いた戯曲『雷雨』が原作なんですが、この『雷雨』は(当時の)現代劇でして、過去に何度も映画化・テレビドラマ化されている作品なんだそうです。イーモウはそれを五代十国時代の皇帝一族の話に翻案したわけですね。
ちなみにこの『雷雨』。『王妃の紋章』以外の映像化作品はいずれも日本で公開はされてないんですが、最初の映画化である1957年版の香港映画(当然現代劇)だけは部分的に観ることができます。実は子役時代のブルース・リーが出演しているため、リーの伝記ドキュメンタリー映画などでちょっとだけ流れたりするんですよね。僕もそういうのでほんの数秒だけ観たことがあります。
その2 伏皇后
後漢最後の皇帝献帝の皇后で、曹操から20年も前のことを蒸し返されて殺されちゃった悲劇の女性ですが、献帝影武者ドラマ『三国志 SECRET of THREE KINGDOMS』では準主人公として登場し、演技派美人女優のレジーナ・ワンが気高く美しく演じてたというのは以前書きました(#10971)。映画『曹操暗殺 三国志外伝』では台湾の伊能静が演じ、なぜか曹丕と密通してるという設定でしたね(#10960)。
では他の作品ではどうなのかというと、これが意外に出てこない。調べてみると90年代のドラマ『三国志演義』にも、2010年のドラマ『三国志 THREE KINGDOMS』にもなぜか伏皇后は出てこなかったみたいなんですよね。古典『三国志演義』には当然伏皇后は出てきて曹操による殺害も描かれてるんですが、なんでドラマ『三国志演義』『三国志 THREE KINGDOMS』では出さなかったんだろ? 2012年のドラマ『曹操』も赤壁前で終わるため伏皇后は出てこなかったようですが、曹操が死ぬまでを描いた1999年のドラマ『曹操』には伏皇后が出てきたようです。
>未見映画
『チャン・クイン』……2019年のベトナム映画で、日本では2020年に特集上映で公開されたようです。DVD化や配信はされていません。映画サイトなんかでは「歴史劇映画」と書かれてるんですが、予告編を観た限りでは史劇というよりコメディ時代劇に近いような……と思って調べたら、やはり主人公のチャン・クインは民間伝承や昔話に出てくる人みたい。後黎朝時代のグエン・クインという実在人物と同一視されてるらしく、一休さんみたいなもんなのかな?
>なんだかなあ
アイヌ民族への人権侵害が認定されたばかりの杉田水脈が環境部会長代理になり、細田博之は統一教会問題への説明責任を果たさぬまま辞任で逃げ、ウィシュマさんを殺したようなもんの名古屋入管を名古屋地検が再び不起訴で無罪放免に。自民党とその息のかかったようなやつらっていったいなんなんだ?
#11379
ろんた 2023/09/25 22:27
『天幕のジャードゥーガル』(3)
『アイヴァンホー』(上)(下)『南国太平記』(下)を受け取りに行ったついでに新刊本屋で見つけて購入。オゴタイ・カアンとトルイが金国征伐から凱旋。その途中でオゴタイが病に倒れ、身代わりになったかのようにトルイが急死する。この辺は史実。『元朝秘史』にも書いてある。(実は持ってたりして) マンガではその裏側を描いているわけですが……
・第一皇妃ボラクチンが病に伏しているのを、ファーティマは"鉱山のほこり"を服用しているためだと見抜き、手持ちのジャダ石を献じ、ボラクチンの健康を回復させる。("鉱山のほこり"は不老不死の妙薬の原料とされる鉱物。毒物だが、少量なら薬となる。ジャダ石は羊の体内から見つかる結石。モンゴルでは用いないが、ペルシャではベゾアール石と呼び毒消しに用いる)
・ボラクチンとも親しく口を聞けるようになったファーティマは、オゴタイ家とトルイ家の対立を煽ろうする。
・ボラクチンと第六皇妃ドレゲネが密談
・病に倒れる直前、オゴタイがドレゲネの天幕を訪ねる
・オゴタイの病の原因もまた"鉱山のほこり"。病床に侍すのを許されたファーティマは、残りのジャダ石を献上し病を癒す
・ボラクチンの"鉱山のほこり"が紛失、ドレゲネの天幕から"鉱山のほこり"が見つかったことで、ドレゲネにカアン暗殺の容疑がかかる。ドレゲネ行方不明。
・モンゴル伝統の巫術の儀式。オゴタイにとりついていた悪霊を封じた器の水を、トルイが飲み干して急死。
・トルイ亡き後、ボラクチンはトルイ家の勢力を削ごうと動き始める
……ということで、すべての事件の黒幕はボラクチンぽい。第四巻もこのボラクチンを中心に動いていくみたい。ドレゲネとトルイ家の運命やいかに。
>『金四郎の妻ですが』(3)
『天幕のジャードゥーガル』(3)と一緒に購入。金四郎とおけいの最初の事件(賭場胴元の殺人)の解決編。多分原作者が、だと思うんだけど、あまり時代劇に詳しくないみたい。一生懸命勉強しているんだろうけど、時々ぼろが出てしまう(汗)。真犯人をあぶりだすため賭場を開き、おけいを壺振りとして送り込むが、口上が「姓は堀田、名はけいと申します」。その後、金四郎が仁義を切る場面では、「姓は遠山、名は金四郎と申します」。いや、壺振りや遊び人に苗字があっちゃおかしいだろ。多分これ「姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」から来てるんじゃないか。寅さんは現代の話だから苗字を名乗ってるんだよ(笑)。あと同心は金が無くて大変って話が出てくるが、けっこう副収入(付け届けとか賄賂とか)があって裕福じゃないかな。でなければ小者を養えない。でも、この辺は設定の問題。さて次の事件は、堀田家からけいの侍女・彩がやってきて、金四郎は酒の勢いで王子に出す天ぷら屋に出資するって証文に爪印を押してしまう、という話。ここで面白いのは、天ぷらは屋台で食べる駄物という扱いになってるところ。
>『バットゥータ先生のグルメアンナイト』(1)(亀/ボニータ・コミックス)
『天幕のジャードゥーガル』(3)に入ってた折り込みチラシにあった作品。14世紀、アフリカとアジアの間、ダマスカス。「歯が丈夫」という理由で買われた奴隷リタは、地理学者のバットゥータ先生と共に予想外すぎる「命がけの三大陸周遊」をすることに……という話とのこと。バットゥータ先生はもちろんイヴン・バットゥータ。『諸都市の新奇さと旅の驚異に関する観察者たちへの贈り物』を原作に(?)グルメ漫画風に描いているみたい。ちなみに『諸都市の……』は、『大旅行記』として平凡社の東洋文庫から出ている(全訳)。さすがであります。それにしてもボニータ・コミックス、マイナーなところを攻めてくるなぁ。
>『逃げ上手の若君』(12)
もう少し鎌倉でゆったり、たっぷり、のんびりするのかと思いきや、早くも尊氏出撃。その中の人外のもののの正体も明らかに。新キャラは討ち死に場面も無しに姿を消すし、魅摩ちゃんといい尊氏といい、幻魔大戦みたいになってきた。ああ、相模川の戦いでは今川頼國が牛仮面ライダーとなって登場(笑)。この人、溺死すんじゃなかったか、と思ったら『難太平記』よりの展開。でも、再生怪人は弱いの法則(?)であっさり退場。さらにアイツが足利方に。相変わらず大きな流れが史実通りなので、この後トラウマ級の展開が待っている。それにしても、足利方というより尊氏が強すぎる。今後の展開どうすんだ。
>『天保図録』(1)〜(4)(松本清張/春陽文庫)
「松本清張が江戸・天保時代を活写する時代長編!」(帯より)。印象としては『わるいやつら』(松本清張/新潮文庫)。水野越前守忠邦(水越)、鳥居甲斐守耀蔵、後藤三右衛門、本庄茂平次らが動き回って人に迷惑をかけまくる話。水野忠邦は決断力があり行動力があるけれど、根本的にベクトルが明後日の方を向いている。倹約令というデフレ政策をやっているのに貨幣の改鋳というインフレ政策に手を染める。当然、物価は下がらない。これを、倹約令が守られていないからだ、とさらに厳しいものを出す。そして貨幣の改鋳。物価は下がらず……という悪循環。さらに将軍・家慶の日光参拝、印旛沼の開削工事など金のかかることをやって、また貨幣の改鋳。喜ぶのは倹約令の取り締まりをやってる鳥居耀蔵や本庄茂平次(<こいつは四人殺してる)、貨幣の改鋳で儲けている後藤三右衛門らぐらい。そして反水越も別に正義の味方というわけではなく、単に政治的反対派というだけ。正義の味方っぽいのは、飯田主水正、石川栄之助といった世を拗ねている旗本、御家人ぐらい。そして最後、飯田主水正は牢人や脱藩者に期待をかけ、物語は終わるのでした。『かげろう絵図』も読んでみるか。ああ、そう言えば大部前にドラマを録画したような。
>「木下恵介アワー おやじ太鼓」
少し前からBS松竹東急で放送している明朗ホームコメディ。詳細はwikiでご確認を(汗)。で、録画していたのをぼ〜っと見ていたら、多分第37回だと思うんですけど、主人公のおやじ鶴亀次郎(新藤栄太郎)が簡単に生い立ちを振り返るセリフがあって、シレッと「明治政府に弾圧されて父親が死んで……」と言ってるんですよ。我が耳を疑って何度か聞き返したんで間違いありません。おやじの息子娘らは大体10代後半から20代後半。となるとおやじは60歳ぐらい? OAが1967年なので生まれたのは1907年? で、父親はここから明治末年までに死んだことになる。この辺で大弾圧事件って、大逆事件しか思いつかないんだけど。明朗ホームコメディでそんなネタを放り込んでくるかなぁ。でも木下恵介だからなぁ。とモヤモヤ。
>「どうする家康」スケジュール
上が長くなったんで簡単にいきます。どうやら「秀吉天下統一」「家康関東移封」「文禄・慶長の役」「秀吉死ぬ」「三成佐和山蟄居」まで10月中にやるらしい。すげえ駆け足(笑)。っていうか関ケ原も大坂の陣もたっぷり一か月ずつ必要な気がするんだけど、そっちも駆け抜けるしかないですな。
#11378
バラージ 2023/09/21 23:44
またまた李舜臣映画
今年3月に日本公開された韓国映画『ハンサン 龍の出現』。速攻でDVD化(たぶん配信も)されてしまったようで2ヶ月前にはレンタル店に並んでましたが、今頃になってようやくレンタルして観賞したので感想を。
李舜臣(イ・スンシン)を主人公として慶長の役(丁酉倭乱)の鳴梁海戦を描いた『バトル・オーシャン 海上決戦』のキム・ハンミン監督が、時代をさかのぼり文禄の役(壬辰倭乱)の閑山島海戦を描いた史劇アクション映画。前回はダサダサな邦題で(笑)DVDスルーでしたが、今回は原題に忠実かつなかなかにカッコいい邦題で劇場公開されました。とはいえ僕の地方には来ませんでしたが。
主人公の李舜臣役は前作のチェ・ミンシクから、キム監督の『神弓 KAMIYUMI』でも主演し、本作と同時期に主演した『別れぬ決心』も話題となったパク・ヘイルに交代。また前作では大谷亮平が演じていた降倭(朝鮮側に投降した日本人)の俊沙(ジュンサ)役も韓国の俳優に交代しています。まあ大谷さん、日本に帰ってきちゃったしね。前作の敵ボスは来島通総というえらくマイナーな武将でしたが、今回の敵ボスも脇坂安治と前作ほどではないにしろ日本人にとってはそこそこのマイナー武将。大河ドラマにもそんなに出てこないし、歴史にくわしい人でも賤ヶ岳の七本槍ってのと関ヶ原で西軍から東軍へ裏切ったくらいしか知らんのではなかろうか。てか僕もそれぐらいしか知らなかったし。韓国ではわりと有名なのかドラマ『不滅の李舜臣』でも李舜臣最大の敵みたいな扱いだったとのことで、本作でもやたらワイルドにカッコよく描かれてましたね。一方でその分、加藤嘉明が引き立て役にされててちょっとかわいそう(笑)。朝鮮側でもお馴染みの元均(ウォン・ギュン)が李舜臣の足を引っ張る役回りですが、これはまあ当然か。
映画は全体的に前作よりは良い出来ですが、基本的な問題点も前作のままという感じ。まず海戦シーンはすごい。手に汗握る物凄いド迫力のアクションとなっていて、朝鮮水軍の亀甲船や日本水軍の鉄甲船を用いたバトルも凄まじく、この点ではまず文句なしの出来。なんと全てCG合成で作られたらしく、俳優たちは1度も海上に出ずブルーバックで演じたとのこと。ちょっと前に観た『300 帝国の進撃』みたいなもんか。また日本側の衣装やセットなどの考証も日本人から見ても全く違和感を感じさせないほどの素晴らしさ。この点でも前作よりパワーアップしています。唯一違和感を感じたのは日本人役も韓国俳優が演じてるため前作同様に全編日本語吹替仕様だったことで、日本側のシーンになるとテレビの地上波放送というか吹替声優の演技的になんだかアニメを観てるような気分になってしまい、俳優の地声の朝鮮側との雰囲気の落差がやや気になりました。まあ仕方ないんだけど。
最大の問題点は前作同様にストーリー性が希薄なこと。作戦立案と作戦会議と合戦のシーンが交互に出てくるだけで、あとはスパイ潜入エピソードがあるくらい。もう少し人間ドラマ的な部分を描いても良かったのでは? 主人公の李舜臣も含めて各人物像が掘り下げられていないので、今一つ物語に入り込めませんでしたね。またムサいおっさんばかりで女性がほとんどいないのもどうも……。前作がまさにそうで、それを反省してか今回は紅一点の女性キャラが少しだけ出てきますが、あの女の子ももうちょっとキャラをふくらませても良かったよなあ。それから冒頭で特に説明もなく物語が始まるので、歴史にくわしくない人は基本状況を把握するのに時間がかかると思いますし、史劇あるあるですが人物の見分けがつきにくいのも困り者。みんな同じような兜をかぶり同じような鎧を着てるんでサブキャラたちは誰が誰やらで若干混乱します。あと主人公の李舜臣が冷静沈着さを強調するためか表情に乏しく、終始仏頂面で無表情なのでキャラが立っていません。これも前作でもそうだったんだけど、おかげでパク・ヘイルも前作のチェ・ミンシクもなんだかちょっと大根状態のような……。むしろ敵の脇坂や前作の来島のほうがキャラ立ちしちゃってるんですよね。
まあ、いろいろ文句も述べましたが、つまらないというほどではありません。前作よりはだいぶマシな映画です。ただ手放しで褒められる映画でもないかなあ。やはり『神弓』には及ばない出来ですかね。ちなみにキム監督は三部作で李舜臣を描く構想らしく、最終作となる次回作が李舜臣が戦死した露梁海戦とのこと。そちらでも李舜臣役はまた別の俳優となるようです。
>その他の最近観た歴史映画
『42 世界を変えた男』
2013年の米国映画。黒人初の大リーガーであるジャッキー・ロビンソンの伝記映画で、劇場公開時にはなんだかんだで見逃しました。ロビンソンがブルックリン・ドジャース(現ロサンゼルス・ドジャース)に入団した1947年の1年間を描いていて、ロビンソンの事跡は大まかには知ってましたが映画はオーソドックスかつ丁寧に描かれていて、なかなか面白かったです。実話ものとはいえハリウッド映画だから脚色も入ってるんでしょうが、不自然に感じたところはありませんでしたね。観終わってから調べて知ったんですが、ロビンソンを入団させるドジャースのGMブランチ・リッキーを演じてたのハリソン・フォードだったとのことで。でも観てる間は全然わかんなかったなあ。やっぱフォードも役者なんですね。 ちなみに映画には出てきませんでしたが、リッキーに有望な黒人選手を探すよう依頼されてロビンソンを推薦したドジャースのスカウトが、かつての大打者ジョージ・シスラーだったとのこと。
>韓国歴史ドラマの話
家族が観たいとDVDを借りてきた韓国ドラマ『哲仁王后(チョルインワンフ)〜俺がクイーン!?』を付き合いでちょこちょこ観ております。女たらしな大統領官邸シェフの魂が、19世紀李氏朝鮮王哲宗の王妃・哲仁王后(チョルインワンフ)の肉体に入り込んでしまうというコメディ時代劇。どっかで聞いたことあるような話だな……と思ったら、中国ドラマ『太子妃 狂想曲〈ラプソディ〉』のリメイクとのこと。#11049にも書いたけど、そっちは架空時代の架空王朝を舞台としてたようですが、『哲仁王后』はそれを朝鮮末期の実在人物に変換してるようです。
僕はあくまで付き合いなんで観てない時もあり、ところどころ話が飛んでるんですが、観てると確かに面白い。主演女優のシン・ヘソンがいいんですよね。その他の俳優陣も好演で、ここまで上手く作ってあるともう史実なんてどうでもいいかな(笑)。別に思い入れのある時代でもないし。それにしてもこれ、日本でもリメイクできるんじゃないかなあと観てて思っちゃいましたね。
>豊臣家の人々
『どう家』、関ヶ原で敵となる石田三成が登場。演じるは松潤と仲良しの中村七之助ということで、『いだてん』に続き兄貴の勘九郎とも共演ですな。といっても共演シーンはまたも無いだろうけど。そういや今年は過去の大河で主演した松嶋菜々子・松山ケンイチ・岡田准一・中村勘九郎が助演で登場と、ずいぶん多いなあ。
さて、信長のターンが終わって秀吉のターンに入り、弟の秀長(演:佐藤隆太)、妻の寧々(和久井映見)、妹の旭(以前紹介済み)、母の仲(高畑淳子)と秀吉周辺の人物が続々登場してますね。個人的には秀吉周辺の人物というと初めて観た大河『おんな太閤記』のイメージが強いんだよなあ。主人公のねねは佐久間良子、なかは赤木春恵、秀長は中村雅俊が演じてました。それ以前の『太閤記』だと、ねねが藤村志保、なかが浪花千栄子(聞いたことあるような無いような)、秀長が富田浩太郎(知らんなあ)だったとのこと。逆にその後の『秀吉』では、おね(ねね)が沢口靖子、なかが市原悦子、秀長が高嶋政伸でした。『おんな太閤記』のテレ東リメイク『寧々 おんな太閤記』は、寧々(ねね)が仲間由紀恵、なかが十朱幸代、秀長が福士誠治でしたね。では『徳川家康』ではどうだったかというと、ねねが吉行和子、なかが鈴木光枝で、秀長は出てこなかったようです。全話観たはずだけど吉行さんが出てたのは記憶にないんだよな。鈴木さんは知らない女優ですが登場シーンは記憶にあります。
そういや甥の秀次が今のところ出てきてませんね。このままスルーするのかな? 『おんな太閤記』では広岡瞬が演じてましたが、『太閤記』では若き日の田村正和、『徳川家康』では氏家修(誰?)、『秀吉』では三国一夫(誰?)、『寧々 おんな太閤記』では濱田岳が演じてたとのこと。
>名画座修正情報ちょろっと追記
『バトルオーシャン 海上決戦』……厳密には「・」の入った「バトル・オーシャン 海上決戦」が正確な邦題です。
以下の作品はソフト化されてないか、ビデオ化のみでDVD化はされていませんが、各種動画配信サイトで配信はされているようです。ただ配信期間が終わると無くなってしまうケースもあるようですが……。
『紅顔の密使』『紅顔の若武者・織田信長』『桶狭間 OKEHAZAMA〜織田信長 覇王の誕生〜』『徳川家康(映画)』『お吟さま(1962年)』『かぶき者慶次』『江戸城大乱』『竜馬を斬った男』『足尾から来た女』『しかたなかったと言うてはいかんのです』『三国志&三国志II 天翔ける英雄たち』『水滸伝(1983年)』『パン・タデウシュ物語』
また以下の中華圏俳優はそれぞれ同一人物ですので記載を統一したほうがいいかと。
『墨攻』のウー=チーロン、『新忠烈図』の呉奇隆、徒然草の『墨攻』のニッキー=ウー。
『墨攻』『始皇帝暗殺』の王志文と、徒然草の『墨攻』のワン=チーウェン。
『ヘブン・アンド・アース 天地英雄』の王学圻と、『孫文の義士団』のワン=シュエチー(ワン=チェシーは誤り)。
『水滸伝』(2011年)の張函予と、『孫文の義士団』のチャン=ハンユー。
『岳飛伝 THE LAST HERO』の劉承俊と、『ラスト・ソルジャー』のユ=スンジュン(韓国人俳優です)。
『大明劫』『蒼穹の昴』の余少群と、『1911』のユイ=シャオチュン。
『ラストエンペラー』のウー=ジュンメイと、『宋家の三姉妹』のヴィヴィアン=ウー。
#11377
ろんた 2023/09/15 00:39
時代小説、伝奇小説
『菊水兵談』を買ったのをきっかけに、そっち方面に食指が伸びてしまい、まずいことになりつつあります(笑)。とりあえず『菊水兵談』の話。
>『菊水兵談【時代小説コレクション1】』(横溝正史/春陽文庫)
黒船来航に江戸幕府が揺れる最中、浦賀街道に飄然として姿を現した男がいた。菊水の紋所を身につけたその男の名は菊水兵馬という。開国から大政奉還へと大きく世の中が変動する幕末の動乱期を背景に、討幕運動の渦中に身を投じた兵馬が日本各地を駆け巡る。十万両に及ぶ江戸幕府の隠し財産の行方を軸に、好敵手となる豪商・山城屋糸平、人魚の肉を食べたと噂される妖艶なお万、兵馬に付き従う盗賊・かまいたちの小平、そして吉田松陰、桂小五郎、西郷隆盛ら実在の人物も入り乱れて展開する大河ロマン。横溝正史の時代小説コレクション第一弾。(表紙カバーより)
横溝の時代ものというと「人形左七」といった捕物帳だけど、こちらは趣向が違う。章がそれぞれ独立して、幕末維新の事件を背景に菊水兵馬の活躍を描くものと、五つの章を貫徹する十万両編の二部構成。前者が後者を挟み込んでいる。これなら二本書けたんじゃないかと思ったりして。十万両編は、万延の改鋳で浮いた十万両を小栗上野介が新式兵器の購入に使おうと画策、十万両を運ぶ山城屋糸平と、妨害しようとする菊水兵馬とが頭脳戦を繰り広げるというもの。小栗はまだそんなに偉くなかったと思うけど(笑)、こちらは探偵小説的趣向が楽しい。執筆当時(昭和16年)は探偵小説、壊滅してたし。
読了後、春陽文庫の刊行リストで『神州纐纈城』(国枝史郎)というのが目に入って、(これ持っているよなぁ)と思い出す。思いついた時に読んでおこうと本箱を漁るが出てこない。代わりに『蔦葛木曽桟』(上)(下)(国枝史郎)と『南国太平記』(上)(直木三十五)が出てくる。どうやら『神州纐纈城』を持っていたというのは偽記憶だったらしい(汗)。そして『南国太平記』は(上)を買って、(下)を買うのを忘れていた模様。ということで『蔦葛木曽桟』に取りかかる。
>『蔦葛木曽桟(つたかずらきそのかけはし)』(上)(下)(国枝史郎/講談社文庫コレクション大衆文学館)
時は室町の末。藪原の繁盛は木曽福島の馬市を凌ぐほど。藪原長者の抱妓(かかえこ)・鳰鳥(におどり)を。一目、顔だけでも拝みたいという者が引きも切らないのだ。しかも決して客と寝ないというのも、また評判を高めていた。そんな鳰鳥には秘めた大望があった。イスパニアの司僧であった父マドリドを斬殺した木曾の受領・木曽義明への復讐である。だが鳰鳥は、なんと義明に五百両で落籍(みうけ)されてしまう。夜ごと通ってきていた白髯の武士が義明だったのだ。それでも鳰鳥は同衾を拒み、義明は苛立ちを募らせる。一方、生き別れた兄・御嶽冠者もまた御嶽山中深く一党を率いて仇の隙をうかがっていた。兄妹の怨念が、怪盗石川五右衛門、忍術の百地三太夫、霧隠才蔵、幻術師のオースチンなど数多の妖士怪人を呼び集め、風雲まさに急を告げる。そして、陰謀渦巻く邸内に疲れた鳰鳥は城外へ脱出、人外の世界に迷いこみ不思議な体験をするのだが……。(色々参照して作成)
発端は鳰鳥と御嶽冠者の敵討ちの話。そこに次々と新キャラと新展開が上塗りされて(樹齢数千年の楠の精なんかも出てくる)、何の話を読んでいるのか分からなくなる。時々、鳰鳥や御嶽冠者が出てきて、ああっそうだった、と思い出す感じ? 国枝も混乱したのか、(前編終り)と唐突に終わっている。構想では、中編、後編と続き、ラストは南蛮寺建立とのことで、テーマは基督教的解脱としている。だが、そもそも「イスパニアの司僧」に妻子があっていいのか?(笑)(<野暮天)
国枝史郎の伝奇小説で傑作とされるのは、本作と『神州纐纈城』『八ヶ嶽の魔人』。特に『神州纐纈城』は、再刊されるや三島由紀夫に激賞され最高傑作とされる。しかしこの三作、ほぼ同時期に書かれていて、いずれも未完に終わっている。実は『蔦葛木曽桟』には完結編があって、最近の版では読み比べができるんだけど、こちらは評判が芳しくない。完結している他の作品もご同様。解説(末國善己)によると、伝奇小説はどれだけ波乱万丈の展開をしようが発端の敵討ち、宝探し、お家騒動などの解決に向かって収斂し閉じられていく。しかし、未完であれば物語は開かれたままで、読者も今後の展開を奔放な想像力に任せて楽しむことができる、ということらしい。だとすると伝奇小説って因果な文学形式だなぁ。
さて読了後、結局『神州纐纈城』と『天保図録』(1)〜(4)を買ってしまい、さらにブックオフのHPで『南国太平記』(下)(講談社文庫コレクション大衆文学館)を見つけたので『アイヴァンホー』(上)(下)(スコット/岩波文庫)と一緒に購入。そして『神州纐纈城』と一緒に買ってきた松本清張『天保図録』を読み始める。どうしましょう(汗)。
>時代劇追記
10/01にCSの時代劇チャンネルで無料放送がありまして、「燃えて、散る炎の剣士 沖田総司」(14:40-16:30)「素浪人罷り通る 去るも地獄 残るも地獄」(19:00-21:00) が対象。前者はトシちゃん主演の青春時代劇(1984年放映)。後者はもちろんミフネであります(1983年放映)。フジテレビ時代劇スペシャルで6本が制作されたうちの1本(4本目)で、後に番外編「魔境 殺生谷の秘密」もある。当時ミフネは60歳ぐらい? 多分、最後の用心棒or素浪人ものでしょう。(「鬼平犯科帳3 #5」「剣客商売2 #3」も無料だけど省略)
>Re:インド映画の火攻め、そして敵役としてのペルシア帝国
言い出しっぺがなんですが、キューブリックの「スパルタカス」でも火を使っていたのを思い出しました。丘陵に布陣するスパルタクス軍。そこに攻めかかるローマの討伐軍。だが重装歩兵が襲いかからんとしたその時、スパルタクスたちは足元の丸太に火をつけて蹴っ転がすのであった。悲鳴を上げて逃げ惑う重装歩兵たち。中には轢かれちゃう者もいたりして……。でもこれ、戦場自体に火をつけてるわけじゃないから違うな(汗)。
ペルシャが敵役ってのは、ヨーロッパ中心史観かなぁ、と思わないこともないけど、現代のイランが肯定的に描くわけにもいかないんだろうな。ジャーヒリーヤってやつ? それにあいつらゾロアスター教徒だし(笑) ああ『ビジャの女王』ならどうだろう。オッド姫の格好がムスリムっぽくないけど。で、「ポロス」ですけど、ペルシャが国境地帯で分裂インドと小競り合いを起こして、時にそれが大規模な軍事行動に発展するっていうのなら分かるんですよ。でも「ポロス」では、ダレイオス三世自身が出てきちゃうんです。しかも第一回冒頭から。(ずいぶん冷酷無残なオッサンだなぁ)と思ったらダレイオス三世だったりする。現代だと、中印国境の紛争地帯に習近平が張り付いてる感じ?(笑)
#11376
バラージ 2023/09/10 00:14
しつこくてすいません
オリバー・ストーン監督によるドキュメンタリー映画『JFK/新証言 知られざる陰謀 劇場版』が11月17日に日本公開されるとのこと。いくらオリバー・ストーンとはいえドキュメンタリー映画なので地元まで来んのか?とも思うんですが、来たらぜひ観てみたいところ。しかし『JFK』からもう30年以上なんだなあ。就活の帰りに着なれない就活スーツのまま観に行ったのを思い出します(笑)。
さて、歴史映像名画座の話がちょろっと出たので、年に1度くらい書いてる名画座の修正情報をまたまたまとめて書かせていただきます。今まで書いたのが全部落ちてて過去ログにもなってないので。
『卑弥呼』……DVDがキングレコードよりバラ売りもされるようになりました。
『火の鳥』(実写映画)……復刊ドットコムよりBlu-ray化されています(DVD化はされていません)。
『陰陽師』……主人公は安部清明ではなく安倍晴明です。
『源義経』(日テレ年末大型時代劇)……原作は大河ドラマと同じく村上元三です。
『GOJOE・五条霊戦記』……『五条霊戦記 GOJOE』が正確な邦題のようです。また平忠則役は岸井一徳ではなく岸部一徳です。
『北条時宗』……9月22日にNHKエンタープライズより完全版DVDが発売予定。
『鶴姫伝奇』……「興亡瀬戸内水軍」というサブタイトルが付いています。
『風雲児信長』……オリジナルの『織田信長』は104分で、戦後公開された『風雲児信長』は短縮版だそうです。
『濃姫(I・II)』……タイトルは1作目がただの『濃姫』、2作目が『濃姫II〜戦国の女たち』です。原案は山岡荘八の『織田信長』とのこと。
『戦国疾風伝 二人の軍師』……「〜秀吉に天下を獲らせた男たち〜」というサブタイトルが付いています。
『琉球の風』……NHKエンタープライズより完全版&総集編がDVD化されています。
『武蔵 MUSASHI』……NHKエンタープライズより完全版&総集編がDVD化されています。
『八代将軍吉宗』……NHKエンタープライズより完全版がDVD化されています。
『人斬り』……ポニーキャニオンよりBlu-ray&DVD化されています。
『勝海舟』……解説欄の文末の「事実上の「封印」状態が続く作品となった。」は、その下のメディア欄にある通り、今となっては実情に合わない文章になっているので改訂をお願いします。
『春の波涛』……解説欄の文末の「現在に至るまで一切ソフト化されていない。」は、その下のメディア欄にある通り、今となっては実情に合わない文章になっているので改訂をお願いします。
『小説吉田学校』……DVDは東宝から発売されています。
『孫子』……DVDはビデオメーカーではなくエースデュースエンタテインメントから発売されています。
『大漢風』……DVD邦題は『大漢風 項羽と劉邦』です。
『三国志 諸葛孔明』……DVDもVHS同様に全3巻です。またビデオメーカーではなくエースデュースエンタテインメントから発売されています。
『ザ・エンペラー 西蔵之王』……百度百科・中国語版Wikipediaではともに原題が「松賛干布」となっています。また百度百科では監督は普布次仁で脚本は李陽になっています(このあたりはどうもはっきりしないが)。
『火龍』……DVDはコニービデオではなくアット・エンタテインメントから発売されています。『西太后(完全版)DVD-BOX』での発売(『西太后 第一部』『西太后 第二部』『続・西太后』との4本セット)で、バラ売りはないようです(レンタルはバラでされている)。
『末代皇帝』……DVDはビデオメーカーではなくコニービデオから発売されています。
『孫文』……百度百科・中国語版Wikipediaともに150分となっており、某有名動画サイトにある動画も約150分でした。
『孫文の義士団』……李玉堂役はワン=チェシーではなくワン=シュエチーです。
『黄山伐』……映画祭「シネマコリア 2005」で『黄山ヶ原』の邦題で上映されたとのこと。「黄山ヶ原」と書いて「ファンサルボル」と読むらしく、HuluやAmazonprimeでも同邦題で日本語字幕付きで配信されています。
『ジンギスカン』(1965年の米国映画)……劇場公開邦題は「・」の入った『ジンギス・カン』だったようで、VHS化の際に「・」の抜けた『ジンギスカン』という邦題になったようです(DVD邦題もVHS邦題と同じ)。
『チンギス・ハーン』……本国公開年はモンゴル語版と英語版のWikipediaによると1990年のようです。
『マンドハイ』……モンゴル語版Wikipediaを見ると、オリジナルの上映時間は273分のようです(日本公開版は、ぴあによると174分)。
『ソドムとゴモラ』(1962年の映画)……株式会社アネックよりBlu-ray&DVD化されています。
『ピラミッド』……脚本のウィリアム=ホークナーは、正しくはウィリアム=フォークナー。有名な小説家のフォークナーです。
『トロイ』……196分のディレクターズ・カット版もBlu-ray&DVD化されています。
『La Battaglia di Maratona(マラトンの戦い)』……キネマ旬報の他にallcinemaにも『マラソンの戦い』という邦題で掲載されており、検索すると日本版のパンフレットやポスターもあるようなので日本でも公開されたんではないでしょうか?(これは自信がないけど)
『侵略者』……VHS邦題は『侵略王アッチラ』です。
『ニュールンベルグ裁判』……頭の「ニ」が削除されて「ュールンベルグ裁判」になってしまっています。
『無敵艦隊』……‎アイ・ヴィ・シーからもDVD化されています。ビデオ―メーカーは削除してください。
『REIGN/クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮』……オリジナルは全78話のようです。
『リベレイター』……「南米一の英雄 シモン・ボリバル」というサブタイトルが付いています。
『スターリングラード大攻防戦』……劇場公開邦題は『白銀の戦場 スターリングラード大攻防戦』で、『スターリングラード大攻防戦』はビデオ・DVDなどのソフト邦題です。
『ヨーロッパの解放』……正確には全5部作で、日本では第1部と第2部、第4部と第5部をそれぞれ1本にまとめて公開したようです。
>インド映画の火攻め、そして敵役としてのペルシア帝国
そういやインド大反乱(セポイの乱)の女傑ラクシュミー・バーイーを主人公としたインド映画『マニカルニカ ジャーンシーの女王』でも派手な火攻めシーンがありましたね。インド人はそういうのが好きなんかな? 史劇映画と見せかけて歌も躍りもある普通のヒンディー語娯楽映画という感じでしたし。
ペルシア帝国は映画とかドラマでは敵役として出てくることが多いんですよね。ペルシア戦争やアレキサンダー大王の映画ではもちろんですし、僕は未見ですがカザフスタン映画『女王トミュリス』でも敵役のようです。イラン政府はそのたびに文句を言ってるんですが、だったら国内で史劇映画を作る自由を与えろよなあ。
#11375
ろんた 2023/09/07 18:21
こうなる家康
本屋で『ギリシア人の物語1』を見かけ買ってしまう。まだ『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』が手つかずだけど。ところが、それから幾日もたたずに『ギリシア人の物語2』を見かけ、結局買ってしまう。折り込みチラシを見ると毎月刊行とのこと。しかし読み始めたのは、一緒に買った『菊水兵談【時代小説コレクション1】』(横溝正史/春陽文庫)だったりして(汗)。あっ、『天保図録』(松本清張)が出てるじゃないか、春陽文庫! 刊行分の山田風太郎は持ってるけど。
そして、皆さんご心配の「どうする家康」、9月分のスケジュールでございます。
09/03 (34)「豊臣の花嫁」
打倒・秀吉(ムロツヨシ)を誓ったはずの数正(松重豊)が豊臣方に出奔、家中に衝撃が走る。敵に手の内を知られたも同然となり、家康(松本潤)は追い詰められるが、そこに未曽有の大地震が発生。広範囲にわたり被害が甚大で、両軍とも戦どころではなくなってしまう。
09/10 放送休止(ラグビーWカップ中継のため)
09/17 (35)「欲望の怪物」
秀吉に天下を預けると決めた家康が上洛。秀吉の提案で、諸大名の前である芝居を打つ。さらに、豊臣一の切れ者と名高い石田三成(中村七之助)に興味を引かれる。
09/24 (36)「於愛日記」
真田昌幸(佐藤浩市)から人質を要求された家康は、忠勝(山田裕貴)の娘を、自身の養女にして嫁がせようとするのだが……。
なんだか、エピソードのタイトルと内容紹介があってない気がする。一週お休みのうえに、第36回が「於愛日記」ってことは、まだ小田原征伐(天正18(1590)年)までいかないってことだな。於愛は天正17(1589)年に死んでるらしいから。っていうか、小松姫って人質だったの? これは子供には見せられない(笑)。この調子だと、殺生関白とか文禄慶長の役とかはナレべース? 秀吉が死んだら関ケ原>大坂の陣>天ぷら食って死ぬ と三段跳び?
>時代劇、歴史劇
「華岡青洲の妻」の田中裕子は青洲の末の妹役でした。妹が乳癌になるエピソードがあるんで、勝手に女中だと思い込んでた。実は妹は二人いたのでした。そして嫁と姑が実験台になったという文献資料は無いって話もある。有吉佐和子、すげぇ嘘ついてたな!(笑) あまり詳しいことは書きませんが、新珠三千代さんが怖い。
ついでにもう一つ時代劇の話。水谷豊、岸部一徳、檀れい出演の「無用庵隠居修行7」が09/28 BS朝日 19:00-20:54に放送。併せて旧作が09/11,12,18,19,26,27にBS朝日 19:00-20:54で放送。こちらは明朗シニア時代劇なので安心して見られます。
そうそう、「ポロス」ですが(やはり詳しいことは書きませんけど)、なぜかダレイオス三世がインドにやたらちょっかいをかけてくるんですね。別にペルシャびいきじゃないけど「そんなことしてないで本国の守りを固めろ!」と思ってしまう。まぁ、インドで作ってるからしょうがないけど。で、ポロスとアレクサンドロス(同年同月同日の生まれ)が八回ぐらいまで出てこない(生まれてこない)。あと、合戦シーンでやたら戦場に火が放たれてるのが不思議。インド特有の演出? まさかインド人、火炎放射器を発明してないだろうな。
#11374
バラージ 2023/09/06 20:21
関東大震災に関する事件の映画
関東大震災から100年ということで各メディアでいろいろと震災について特集されてますが、震災後に起こった朝鮮人虐殺事件を取り上げてる番組が意外にも多いように感じます。災害のたびに起こるデマの問題と絡めて取り上げられてるようですね。
そんな中で森達也監督初の劇映画『福田村事件』が公開されましたが、僕の地元での公開は来月の終わり頃。福田村事件とは震災後に千葉県の福田村で、香川県から来た薬の行商団のうち9人が朝鮮人と疑われ地元の自警団に虐殺された事件とのこと。
関東大震災後の朝鮮人虐殺事件を描いた日本映画やドラマはほとんど無く、描いてるmのというと僕は未見ですが1960年の新東宝映画『大虐殺』ぐらいでしょうか(ただし主題はギロチン社事件)。僕が観た中では韓国映画『金子文子と朴烈(パクヨル)』が直接的に描いてましたが、日本映画では『道 白磁の人』『菊とギロチン』で間接的に触れられてたぐらい。朝鮮人と間違われて殺された事件についても、上記『福田村事件』の他にはドラマ『いだてん』で間接的に触れられてたぐらいかなぁ。
>『女医明妃伝』
ちょっと興味はあったんですけどね、やっぱ週5とか週4の放送は録画消化がきついよなぁとスルーしちゃいました。興味を持ったのは題材とか歴史よりも出演俳優でして、リウ・シーシー(映画『真夜中の五分前』『ブレイド・マスター』)、ウォレス・フォ(ドラマ『如懿伝』)、ホアン・シュエン(映画『ブラインド・マッサージ』『芳華 youth』、ドラマ『海上牧雲記』)が主演および準主演というところに、おっ、と思ったんですよね。ちなみに2016年のドラマで撮影は2014年だったらしく、今となってはちょっと古めのドラマかな。
主人公の譚允賢→杭允賢は、中国四大女医の1人の談允賢という人物と、7代皇帝・景泰帝の2代目皇后・杭皇后の2人をモデルにして組み合わせた架空の人物とのこと。杭皇后の没年は1456年で談允賢の生年は1464年なので同時代の人物では全くないんですが、まあ創作した架空人物だし史実うんぬんよりドラマの面白さ優先なんだから別にいいだろと思ったのかもしれませんね。ちなみに土木の変は、5代皇帝・宣徳帝の孫皇后(土木の変で捕らえられた6代皇帝・正統帝の母)を主人公としたタン・ウェイ主演の2019年のドラマ『大明皇妃』でも描かれているようです。
>ドラマや映画での家康の妻妾パート2
『どうする家康』、ひょっとして『真田丸』みたいに途中どこかでワープするのでは?(笑)
さて、ようやく秀吉の妹で家康の後妻となった朝日姫(旭姫)が登場(演じたのは山田真歩)。この人も、家康の後妻というだけでなく秀吉の妹のためもあって映像作品への登場が多い人物です。個人的には初めて観た大河『おんな太閤記』(1981年)での泉ピン子のイメージが強いんだよな。意外にもそれ以前の大河では『太閤記』(1965年)も含めて登場していないようですが、以後は『徳川家康』(1983年、岩本多代)、『独眼竜政宗』(1987年、野川由美子)、『秀吉』(1996年、細川直美)、『功名が辻』(2006年、松本明子)、『天地人』(2009年、平田敦子)、『江』(2011年、広岡由里子)、『真田丸』(2016年、清水ミチコ)と出てきています。しかしこうして見ると21世紀以降は、ピン子さんの影響か知らんけど(笑)どうも三枚目路線が多い。もちろん今回も三枚目路線でしたが、20世紀大河では『おんな太閤記』以外はそうでもなく、細川直美なんて国民的美少女なのになあ。もっとも個人的にはピン子さんの他には『徳川家康』の岩本さんしか記憶にありませんが。
大河以外のドラマや映画では、大河と同じ山岡荘八原作の『徳川家康』(1964年、テレ朝、角梨枝子)、大河と同じ吉川英治原作の『新書太閤記』(こっちでは出てきたのか。1973年、テレビ朝日、岡田可愛)、『関ヶ原』(なぜ関ヶ原に? 1981年、TBS、三戸部スヱ)、『徳川家康』(1988年、TBS、吉田日出子)、山岡原作の『徳川家康 戦国最後の勝利者』(1992年、テレ朝、小林幸子)、『豊臣秀吉天下を獲る!』(1995年、テレ東、安永亜衣)、『太閤記 天下を獲った男・秀吉』(2006年、テレ朝、大谷允保)、『徳川家康と三人の女』(2008年、テレ朝、若村麻由美)、『寧々 おんな太閤記』(2009年、テレ東、田畑智子)といったあたり。僕は21世紀以降の3作は観たんですが、こっちの21世紀以降はむしろ美女路線だな(笑)。
なお朝日姫の前夫については佐治日向守とする史料と副田吉成(副田甚兵衛)とする史料とがあるようで、そのためドラマによって前夫の設定が違っているようです。
そして家康晩年の側室として有名な阿茶局も配役が発表。演じるのは松本若菜さんとのこと。それ以前の大河では、『おんな太閤記』(1981年、篠ひろ子)、『徳川家康』(1983年、上村香子)、『春日局』(1989年、和田幾子)、『葵 徳川三代』(2000年、三林京子)、『武蔵』(2003年、泉晶子)、『江』(2011年、山野海)、『真田丸』(2016年、斉藤由貴)に出てきたらしいんですが、『葵』の三林さんしか記憶にないなあ。『おんな太閤記』も『徳川家康』も全話観たってのに。
その他のドラマや映画では、『真田幸村の謀略』(1979年、映画、亀井光代)、『関ヶ原』(1981年、TBS、京塚昌子)、『大奥』(1983年、フジテレビ、津島恵子)、『真田太平記』(1985年、NHK、三条美紀)、『大奥 第一章』(2004年、フジテレビ、宇津宮雅代)、『戦国自衛隊 関ヶ原の戦い』(2006年、日テレ、荻野目慶子)、『影武者徳川家康』(2014年、テレ東、朱花)、『関ヶ原』(2017年、映画、伊藤歩)といったあたり。『真田幸村の謀略』や『大奥 第一章』は観たけど、やっぱり阿茶局は全然覚えてないんですよね。2017年の映画『関ヶ原』ではえらく若すぎないか?と思ったら、初代の阿茶局は小牧・長久手の戦いで死亡しており、2代目の阿茶局という設定だったらしい。若い女優を登場させるためだろうか?
ついでに映画やドラマに出てきたその他の家康の側室たちにも触れときましょう。
まず五男の武田信吉を産んだ「おつま」は登場した作品がありません。まあ信吉がマイナーな人で大河『葵』にしか出てこなかったみたいだからなあ。
6男の松平忠輝と7男の松平松千代を産んだ茶阿局は、『徳川家康』(1983年、大河ドラマ、武原英子)、『影武者徳川家康』(1998年、テレ朝、深浦加奈子)、『葵』(2001年、大河ドラマ、五大路子)に登場しましたが、ペース的に考えて『どう家』には出てきませんかね。大河『徳川家康』に出てきた側室はここまでですが、『春日局』『葵』などにはそれ以後の家康後半生の側室たちが出てきています。
8男の平岩仙千代と9男の義直を産んだお亀は、『春日局』(1989年、大河ドラマ、朝比奈順子)、『葵』 (2000年、大河ドラマ、床嶋佳子)、『影武者徳川家康』 (2014年、テレ東、白須慶子)に登場。
10男の頼宣と11男の頼房を産んだお万は、『春日局』(1989年、大河ドラマ、佐藤真浪)、『影武者徳川家康』(1998年、テレ朝、石井亜可理)、『葵』(2000年、大河ドラマ、尾上紫)、『影武者徳川家康』(2014年、テレ東、葉月)に登場。
5女の市姫を産んだお梶は、『春日局』(1989年、大河ドラマ、東てる美)、『影武者徳川家康』(1998年、テレ朝、片平なぎさ)、『葵』(2000年、大河ドラマ、森口瑤子)、『影武者徳川家康』(2014年、テレ東、観月ありさ)に登場。
お夏は、『関ヶ原』(1981年、TBS、古手川祐子)、『葵』(2000年、大河ドラマ、松尾あぐり)、『影武者徳川家康』(2014年、テレ東、VANRI)に登場。
お六は、『風雲!真田幸村』(1989年、テレ東、林美里)、『葵』(2000年、大河ドラマ、菊池麻衣子)、『武蔵』(2003年、大河ドラマ、須藤温子)に登場しています。
#11373
徹夜城(夏場で忙しくてちとバテ気味の管理人) 2023/09/03 21:56
どう終わる家康
「どうする家康」、もう9月なんですけど秀吉に臣従を決意するところ。調べてみたら1982年の大河「徳川家康」では同時期に「太閤死す」でした。あちらのドラマも長大な原作を懸命に圧縮した展開で大忙しの感もありましたが、今年のはそれでもまだまだマイペース。年末までにちゃんと終わるのか、いや終わるんだけどどこまでやるのか。
ここんとこ石川数正の出奔が描かれてます。これは過去の家康ものドラマの見せどころの一つであるわけですが、TBS・東映製作の新春時代劇「徳川家康」(松方弘樹主演)では千葉真一演じる数正がいきなり関が原に現れ、なんだかよくわからん怒りとともに戦場に突入し戦死しちゃうというビックリな展開でした。東映時代劇ではまぁよくあったことですが(笑)、あれの前では大河に「子供に見せられない」とか言うのも空しい。
もう来年の紫式部大河に関心が強く向かっちゃってるなぁ。なんだかんだで次々と歴史人物(多くはこれまで映像で出てきてない)のキャストが次々発表されるとわくわくしちゃって。
あ、歴史映像名画座もいいかげん作業しないとなぁ(汗)
>華岡青洲の妻
ろんたさんもご紹介のこの昔のドラマ、BS日テレのサイトをチェックしてて偶然僕も知りました。録画が失敗してなければ近日中に見ます。
BS日テレのサイトをチェックしたのは、「新オスマン帝国外伝」のシーズン1の放送が終わり、次に何をやるのか確かめるためで。幸い韓国の現代劇だったので、録画消費地獄から一応一息つめるようになりました(笑)。前の「オスマン帝国」もインドの「ポロス」も見終わってないし、司馬懿ドラマもこれから見始める状況で。
で、中国の「女医明妃伝」は見終えたんですよ。見終えてから史実関係を調べましたが、主人公の女医には一応実在モデルがいるんですね(彼女いの書いた女性医学書がラストに出てくる)。だけどその主人公が明の皇帝兄弟二人と三角関係になっちゃったり、「土木の変」でモンゴルに皇帝ともども連れられて行っちゃうのは当然真っ赤なフィクション。
明代専攻(海方面だけど)僕としては「土木の変」を映像で見れたのは嬉しかったなぁ。あれより少し後の時代のモンゴル映画「マンドハイでは「エセン・ハンは明の皇帝を捕虜にして羊飼いをさせた」というセリフで言及されてました。
#11372
ろんた 2023/08/31 23:17
『ビジャの女王(4)』(森秀樹/SPコミックス)
西暦1258年、ペルシャ高原の小都市ビジャを、蒙古軍の支隊が包囲した────。蒙古軍2万に対するペルシャの小都市ビジャは、オッド姫の救援要請に駆けつけた、インド墨家・ブブの策でなんとか持ちこたえていた。父王の死、愚兄との決別を経て、オッドは王位を継ぐべく王の指輪を探す旅に。一方蒙古軍陣営では、大将ラジンが従姉妹のクトゥルン軍とにらみ合う。両陣営に「継承」の波乱が押し寄せていた。(カバーより)
4巻で語られるのは、継承問題の決着と墨者の「攻」。ビジャの側では、最終的に重臣たちはオッド姫を支持。ハマダン王も姫にだけ王位の象徴である指輪の隠し場所を教えていた。姫は墨者ブブだけを供に指輪探しの旅に出る。その間、ヤヴェはオッドの部屋に火を放ち警護の兵に切りかかるなど暴れまわった。この事態に大隊長ゾフィは、ヤヴェを殺害して自害する。そして、指輪を探し当てた姫は名実ともにビジャの女王となる。モンゴル側ではクトゥルンの策略によりラジンが捕らえられ、その参謀"名無し"は、ラジン軍二万の掌握を命じられる。報酬は、クトゥルンの四人目の婿候補となること。だが"名無し"は、婿候補三人の確執を利用してクトゥルン軍一万を殲滅し、ラジンを解放。捕らえられたクトゥルンは火あぶりに処せられる。一方、バクダートを陥落させたフレグ軍に異変が起きる。攻城部隊を構成する中国人全員が処刑されたのだ。これは墨者による情報操作の結果であった。そしてラジン軍に潜伏している墨者たちは、ヒツジの寄生虫の研究を進め……。
クトゥルンとラジンの戦いがあまりにもあっさり片付いてしまった印象。しかも「熱い!! 熱いよ──ッ!! 助けてェ!!」「火を消してェ!!」「助けてください!! 何でも言うことを聞きます!!」「ラジン様────ッ!!」「死にたくない!! 死ぬのはイヤだァ──ッ!!」と叫びながら死ぬってのは、せっかく二世代ほど後のクトゥルンを持ち出してきたのに、なんだかなぁ、と思ってしまった。その前に婿候補の一人バヤルのセリフで「クトゥルン様は魔性の女だ!」「あの身体を抱いた者はみな腑抜けになってしまう……」とあるので、捕らえたクトゥルンにラジンが篭絡されるとか、メチャメチャひどい目に遭わされたクトゥルンが復讐するとか、ビジャに逃げ込んでオッド姫と共闘するとか、色々使い様があった気がする。いや、まだ処刑されたのは影武者でした、ってのがあるか(笑)。
>『ジハード(I)〜(XI)(外伝)』(定金伸治/イラスト:山根和俊(I〜V),芝美奈子(VI〜)/ジャンプジェイブックス)
本箱から出てきたので、ちょっと読み始めたら読みふけってしまった。一言でいえば、これこそ「ありえないファンタジー」(笑)。著者曰く、架空度は『三国志』以上『西遊記』以下。
12世紀末。出生の秘密のゆえにコンスタンチノープルに幽閉されていたヴァレリウス・アンティアス(ヴァレリー)は、平素の言動から柔弱愚鈍とみなされ「白痴候」という有り難くないあだ名で呼ばれていた。だがそれは、日常においてその神算鬼謀や精妙な剣技を披露する機会が無いからであり、胸にはキリスト教世界とイスラム世界の共存という理想を抱いていた。折しも、アイユーブ朝を創始したサラーフ・アッディーン(サラディン)の台頭により、イスラム世界には結束の機運が高まっており、ヴァレリーは監視役であったラスカリスと共にサラディン軍に身を投じようとする。ちょうど、捕らえられたサラディンの義妹エルシード姫がコンスタンチノープルに送還されており、ヴァレリーらは姫の脱出を手助けし、サラディンにとりなしてもらう。もっとも、個人的武勇においても指揮官としての能力においてもイスラム世界に並ぶ者のない姫にとって、彼らの助けなど必要なかったのだが。ヒッティーンの戦いで圧勝したのち、サラディンはアッコン、ベイルート等パレスチナ諸都市を陥落させ、ついにイェルサレムを奪還する。その陰にはヴァレリーの智謀があり、ムスリムたちは彼を「アル・アーディル(公正)」と呼ぶようになる。だが、アッコンの守備を任されたエルシードに従い現地に赴いたヴァレリーの前に、リチャード獅子心王、フィリップ尊厳王率いる第三次十字軍が現れ……
……と、ここまでが第一作の半ばまで。ストーリーは、史実からつかず離れずでありながら波乱万丈で読ませるけど、若書きというか、カッコイイ言い回しをしようとして描写が回りくどい感じ。あと人物描写でやたら「天才」を使うのは控えたほうがいいかな(汗)。
架空部分について思いつくままに書くと、サラディンの弟であり第四代スルタンのアル・アーディルがフランク人ってところ(笑)。どうもエルシード姫と結婚させて、史実との辻褄を合わせようという構想があったみたい。ちなみにエルシード姫はヌールアッディーン(ザンギ朝。サラディンの主筋)の娘という設定。お話はリチャード獅子心王の撤退で終わるんで、ヴァレリーの即位はないけど。リチャードの妹としてアリエノールが出てくるけど、これリチャードのお母さん。後に称号だという言い訳が出てくるけど、この名前の方がかっこいいから? ヴァレリーと結婚してヤーファを共同統治するけど、これは講和交渉での軽口が元ネタだな。暗殺教団の一員としてアル・カーミルが出て来て、ヴァレリーの養子になるけど、史実のアル・カーミルはアル・アーディルの息子で第五代スルタン。イェルサレムをフリードリヒ二世に譲っちゃうんで評判が悪い。あと、暗殺教団は存在しなかったというのが現在の通説らしい。異端なんで山中に潜んでいたら、あることないこと噂され、それをオリエンタリズムが拾い上げて暗殺教団ってことになったらしい。本書では、ヴァレリーとエルシードによって滅ぼされる。他にもアイヴァンホー、ロビン・フッドと仲間たち、テムジンとかが登場。全二者はもちろん架空の人物。テムジンはまあ同時代人だけど。ちなみに兄弟げんかで家を追い出されたそうです(笑)。
のち集英社文庫に収録されるにあたって改稿されているらしい。その後、星海社文庫に収録。
>「華岡青洲の妻」
09/02 19:00-20:54、BS日テレで放送されるとこのこと。1980年作品で、妻は竹下景子、姑が新珠三千代、華岡青洲が江守徹、田中裕子は女中。脚本を原作者の有吉佐和子が担当。加恵は外科医・華岡家の於継に望まれ、青洲の嫁になった。 加恵と於継の仲は親密の度を増したが、青洲の麻酔薬実験を境に激しい対立を起こす。 二人は人体実験を争った。加恵は実験で盲目になるが、義母に勝ったことを喜んでいた……というお馴染みのお話だけど、wikiよると実験台になったのは嫁と姑だけでなく、親類一同だったという。まあ、二人だけじゃろくにデータが取れないから、言われてみれば当たり前だけど、有吉佐和子、すげぇ嘘ついてたな!(笑) だから歴史小説家などからは評判悪かったって言うんだけど、そこは誉めるところじゃないか?
#11371
バラージ 2023/08/19 20:34
今頃になって読んだ
高橋直樹『小説 平清盛』(潮出版社)を読了。出版は2011年11月で、翌年の大河ドラマ『平清盛』の便乗本というやつですね。大河を観る前に同じ話読んじゃうのもなってのと、文庫になったら買おうと思って読まないまま今頃になっちゃいました。結局、文庫にならなかったんだよな。去年やはり高橋氏の大河便乗小説『北条義時』を読んで、そういやこれ読んでなかったなと思い出して他の買い物ついでに古本を買っちゃいました。でも買ったまままた放置してようやく今頃になって読んだわけです。
00年代までは普通に歴史小説(&時代小説)を執筆してた高橋氏ですが、この『平清盛』以後は、源義朝・黒田官兵衛・真田幸村と後藤又兵衛・五代友厚・井伊直虎・西郷隆盛・北条義時とほとんどが大河(or朝ドラ)の便乗小説ばかりに。00年代以前の高橋氏の小説で僕が読んだのは短編集『鎌倉擾乱』、連作短編集『霊鬼頼朝』、長編『曾我兄弟の密命』(単行本タイトル『天皇の刺客』)でいずれも面白かった。一方、10年代以降の小説も中編『源氏の流儀』、長編『北条義時』を読んでますが、『源氏の流儀』はやはり便乗本だからかいまいちの出来だったし、『北条義時』もまあまあといった程度の出来でした。
うーん、この『平清盛』もいまいちだったかなぁ。物語は保元の乱の少し前から始まりますが、保元・平治の乱という清盛の花形とも言える部分はわりとあっさり終わってしまい、むしろ清盛が公家社会でのし上がっていくところから鹿ヶ谷の変や治承三年の政変に筆が割かれていて、やがて以仁王の乱から源平合戦の勃発、清盛の死までが描かれてます。清盛の生涯を描こうとすると到底1冊には収まらないので、エピソードや登場人物を取捨選択するのは当然ですが、どうも読んでてこのチョイスはどうなんだと思う部分が多い。清盛のわりと有名かつ重要なエピソードでも落とされてるものがあり、また取り上げられてるエピソードでも史実的というか歴史学的に首を捻るような描写・解釈があって今一つに感じます。それ以上に違和感があるのは登場人物のほうで、その取捨選択もやや疑問だし、特に重盛のキャラクターがなあ。重盛のイメージと違いすぎるんですよね。『北条義時』でも北条泰時のキャラクターに違和感がありましたが、本作の重盛と『北条義時』の泰時のキャラクターがまた似てるんですよねえ。主人公の長男(しかもどちらも実質的には庶長子)ってところもいっしょだし。また坂東で挙兵後の頼朝がまたもやたらかっこよく描かれてますが、さすがに頼朝びいきの僕もいささかかっこよすぎなんではないかとも思ったりして(笑)。
しかし何よりも強い違和感を感じたのは、妻の平時子が全く登場しないところ。名前は何度か出てきますが、本人は最後まで登場しません。『北条義時』でも義時の妻妾が全く出てこなくて違和感があったんですが、それでも義時の場合はまだいいでしょう。しかし清盛の生涯を描きながら時子が全く出てこないというのは違和感を通り越して不自然と言わざるを得ない。時子ばかりでなく女性の出番が異常に少なく、継母の池禅尼も出てこないし(なので頼朝の助命エピソードも無し)、清盛が手を付けた常盤(義朝の妾)も台詞でほんの少し言及される程度で、娘の徳子の出番もごくわずか。数少ない登場女性の建春門院(最初に出てきた時は小弁局と書かれてるため誰だかわからなかった)や八条院もあまり好意的に描かれておらず、存在も軽く扱われていて、やはり出番も少ない。唯一、後半に出てくる架空人物の高麗にルーツを持つ船大工の娘の女童(女児)が比較的重要キャラになってるんですが、これは女性というより子供だし、登場人物としてもちょっと行動があまりに非現実的でどうもなあ。前にも書きましたが高橋氏は女性を描くのが苦手なんじゃないかなあ。でもいくら苦手とはいえ清盛の生涯を描くなら時子はある程度出さなきゃならない人のはず。清盛の死の場面にさえ出てこないんだからあまりにも不自然なんですよね(まあ死の場面だけいきなり出てくるのも不自然だけど)。おかげで時子(や他の女性)を通した人間関係が軽視され、人物の関係性や立ち位置が事実と異なるものになってしまっているように感じました。
やっぱり頼まれ仕事の便乗小説だから自分の描きたい題材、自分に向いた題材を選んでるわけじゃないし、じっくり構想を練る時間も無くて、今一つな出来の小説になってしまったんじゃないかなあ。残念。
あ、そういや思い出したけど、他に去年買って読もうとした歴史小説に、篠綾子『義経と郷姫』(角川文庫)がありました。もともと2005年に出版された単行本を、17年も経ってからおそらく去年の大河便乗で文庫化したものです。義経の妻である河越重頼の娘を主人公とした小説で、創作作品では有名な静の影に隠れて損な役回りばかりさせられてる不遇な女性が主人公というところに興味を惹かれて買ったんですが、読んでみると僕にはあまりに少女マンガ的に感じられて途中でギブアップ。
>録画で観た歴史映画
『300〈スリーハンドレッド〉』
またまた近年の古代ギリシア&ローマ史劇映画を今頃になって観たシリーズ。CSで放送されたんで録画しました。原作者のフランク・ミラーは1962年の映画『スパルタ総攻撃』(僕は未見)を子供の頃に観てインスパイアされ原作マンガを描いたとのこと。
うーん、歴史映画っていうよりほとんど『北斗の拳』の世界だなぁ。映像表現的にはものすごく見ごたえがありますが、ストーリーとか方向性に関してはかなり問題ありかと。アケメネス朝ペルシア帝国はほとんど化け物軍団で、そりゃイラン政府は怒るだろと思うし、国王クセルクセス1世をはじめ黒人だらけなのも意味不明(クセルクセス役の俳優はブラジル人らしい)。歴史や地理にくわしくない人はペルシアってアフリカだと思ったんじゃなかろうか。米国的マッチョイズムが濃厚な作品で、やたら「自由と愛国」を唱えるところは9.11後だった当時の米国の風潮を感じさせるし、さりげなく同性愛者を揶揄する台詞があったりフリークス(奇形)は裏切り者か敵の化け物という差別的表現もなんだかナチズムの優性思想に通底するものすら感じました。裏切り者のエフィアルテスは実在の人物のようですが、史実では普通の人らしく、それをフリークスに造形するってどういう神経なんだろ? そのくせペルシアを女性蔑視だとして、王妃ゴルゴが前面に出てくるスパルタと対比させる作為も鼻につきます。意識的ではなく無意識的なのかもしれないけど。
CGアクションもすごいことはすごいんですが、300の兵で20万の敵と戦う(史実的には疑問があるが)のに狭い谷間で戦う以外は正面きった肉弾戦で作戦もくそもないってのはどうなんだろ? それでスパルタが最後以外は一方的に勝っちゃうってのもなんだか調子がよすぎる。ペルシア軍が馬鹿でかいサイや象で攻撃するところは激戦を期待させましたが(イランにサイや象がいるか?ってことは横に置くとして)、サイは槍一発でやられちゃうし、象にいたっては足滑らして崖から転落ってあまりに拍子抜け。うーん、僕には合わなかったなぁ。映像表現はほんとすごいし、単純な映画としてはつまんないってわけではないんですけどね。
『300〈スリーハンドレッド〉 帝国の進撃』
続けて録画した『300』の続編というか姉妹編。『300』の話と並行して起こったアルテミシオンの海戦から有名なサラミスの海戦までを描いており、回想的に『300』以前のマラトンの戦いも冒頭でちょっと描かれます。個人的には海戦ものが観たかったってことで実はこっちが本命でした。
前作で諸方面から怒られたからか、はたまた9.11から時間が経って大統領もブッシュ息子からオバマに変わったという米国社会の空気の変化によるものなのか、前作にあったような問題点はかなりマイルドになっており、ペルシア軍も普通の戦士集団になっています。ただその分(?)、史実的には前作よりもハチャメチャで、ほとんど『柳生一族の陰謀』とか『魔界転生』のノリ。マラトンの戦いでは戦場にいなかったはずの主人公テミストクレスがやはり戦場にはいないはずのダレイオス1世を討ち取っちゃうし、敵のボスキャラであるペルシア帝国海軍の女性総司令官アルテミシアも史実ではハリカルナッソスの女王とのことで設定が全然異なります。まあ『グラディエーター』や『トロイ』(神話だけど)だって程度の差こそあれ、そうだったからいいっちゃいいんだけど、父ダレイオス1世の後を継いだペルシア王クセルクセス1世(髪があるとアフリカ系ではなくブラジル人だとわかりますね。でもスキンヘッドだと映像のデフォルメ具合でやはり黒人に見える)の描写なんてなんだかダースベイダーみたいでした(そういやサブタイトルも似てる・笑)。中盤のテミストクレスとアルテミシアのエッチシーンもどう考えても余計で、別にいらなかったんではなかろうか? とはいえ全編CGの戦闘シーンは前作から引き続きものすごく、余計なマイナス点が少ない分こっちのほうが楽しめましたけどね。
#11370
ろんた 2023/08/16 00:21
積ん読リスト?
夏が暑すぎるせいか、太陽がまぶしいからか、岩波文庫をまとめ買いしてしまう。落ち着いて考えると、また積ん読が増える、とぼーぜん。それでも、三木清『構想力の論理』、トマス・アクィナス『精選 神学大全』、『英国古典推理小説集』とかも欲しかったけど、辛うじて踏みとどまったのでした。しかし、八月の新刊には知里幸惠『アイヌ神謡集』や安倍能成『岩波茂雄伝』があったりするのだった。
『最新世界周航記』(上)(下)(著:ダンピア/訳:平野敬一)
イギリス海賊ウィリアム・ダンピアの12年半に及ぶ航海の記録。カリブ海、南米、フィリピン、中国など世界の海を渡り歩き、敵船拿捕、都市襲撃といった私掠活動を重ねる。つねに危険と背中合わせの航海の様子と、寄港した土地の自然や風俗を、厳密な観察眼でつぶさに記す。17世紀末の海賊が残した驚くべき手記。(HPの内容紹介より 以下同)
『ダンピアのおいしい冒険(5)』(著:トマトスープ/イースト・プレス)が出ているのを見つけ、注文していたら出て来た。っていうか、マンガありきで重版がかかったみたい。太い帯にトマトスープさんのイラストと推薦文が載っている。岩波にしては商売っ気があってよろしい!(笑) 「地獄の黙示録」の時は『闇の奥』(コンラッド)を出していたのに……。(<しみじみ) パラパラと拾い読みしてみると、この『周航記』と『おいしい冒険』がちゃんとリンクしていて興味深い。『おいしい冒険』は6巻で終了とのことだけど、あのポルトガル人とかコックとか死んじゃうんだぁ。悲しい。
『開かれた社会とその敵 第2巻』(上)(著:カール・ポパー/訳:小河原誠)
アリストテレス、さらにはヘーゲルをプラトン以来の全体主義に連なる哲学として論難したうえで、本巻はいよいよ左の全体主義を生んだマルクス主義を俎上にのせる。階級なき社会の到来が差し迫っているという予言論証の方法論を徹底的に批判し、「未来への悪しき案内人」マルクスに対する指弾が続けられる。
第1巻(上)(下)で終わりだと勘違いして買い、積んだままになっている本の続き。第1巻は上にあるようにプラトンへの論難だけど、わたしは『国家』『饗宴』どころか『ソクラテスの弁明』も読んでいないのであった(汗)。さらにヘーゲルは……。まあ、カール・ポパーは『歴史主義の貧困』(中央公論社)を「夏休みに読みなさい」と買わされた覚えがあって(これは読んでいる)、そっちでもプラトンの形而上学からマルクスの唯物史観までを、反証可能性がなく非科学的、と論難している(主敵はマルクス)。でも既に『経済学批判』の序言(いわゆる「唯物史観の公式」)を読んでいたので<本人が研究の「導きの糸」って言ってるんだから、科学的じゃなくてもいいんじゃね? 自然科学の根っこにある自然哲学だって形而上学だろ>と思ったのでした。もっとも老エンゲルスは唯物史観を歴史の発展法則として語り、スターリン主義者どもはほとんど予言扱いしているので、ポパーの批判も分かるんですけどね。
『イギリス国制論』(上)(下)(著:バジョット/訳:遠山隆淑)
ジャーナリストのウォルター・バジョット(1826-77)がイギリスの議会政治の動きを分析し、議院内閣制のしくみを描き出した古典的名著。イギリス国制を、国民の崇敬の念をかき立てる「尊厳的部分」と、実際に統治をおこなう「実効的部分」にわけ、それぞれの機能を斬新な視点から考察する。上巻では、内閣、君主、貴族院、庶民院を扱う。全2冊。
ジャーナリストのウォルター・バジョット(1826-77)がイギリスの議会政治の動きを分析した古典的名著。選挙権のさらなる拡大が迫っていた当時、政治をいかに安定的に動かしていけるかが課題であった。下巻では、政権交代や議院内閣制の成立条件を扱うほか、第二版の序文を収録。現代の民主政治を考えるうえでも注目すべき考察が展開される。
バジョットは『ロンバート街』を持っていて(「読んでいて」ではない!)、それでフラフラ買ってしまった。『ロンバート街』は宇野弘蔵訳ってのが面白くて買ったんだけど、なぜか新刊として出ている。新字新カナへの改版だろうか? わたしが持ってるのは旧字旧カナで活版印刷(笑)。
『俺の自叙伝』(著:大泉黒石)
ロシア人を父に持ち、若くしてロシア、ヨーロッパを彷徨いトルストイの謦咳に接した。革命から逃れて日本に帰国、その後、東京の下層社会で極貧生活を送りながら旺盛な執筆活動を始める。才能を妬まれ虚言の作家と貶められ、文壇から追放された大正期のコスモポリタン作家が、生まれからデビューまで、数奇な人生を綴る。
四方田犬彦による評伝(『大泉黒石 わが故郷は世界文学』)が岩波から出たことからの刊行? しかし、表紙カバーのポートレイトを見れば、大泉黒石を知らなくてもどこかで見た覚えがあるんじゃなかろうか。そして四方田の評伝の表紙に使われている写真! (おっ……大泉晃!?) そう、黒石は大泉晃(1925-98)の父であり、まるで遺伝の見本のようにそっくりなのでした。これが購入の動機だったりして。まぁ大泉晃も奇矯なところのある人(ロリコンを公言したり、自分のウ○コで家庭菜園やってたり)だったけど、この子にしてこの父あり?
『政治的なものの概念』(著:カール・シュミット/訳:権左武志)
政治的なものの本質を「味方と敵の区別」に見出したカール・シュミット(1888-1985)の代表作。一九三二年版と三三年版を全訳し、各版での修正箇所を示すことで、初出論文である二七年版からの変化をたどれるように編集。さらに六三年版の序文や補遺等も収録した。行き届いた訳文と解説によって、「第三帝国の桂冠法学者」の知的軌跡が浮かび上がる。
抑えとかなきゃな、と思いながらもなかなか読めないカール・シュミット。『現代議会主義の精神史的状況 他一篇』というのも読めないまま。そんなに長くもないんだけどなぁ。そう言えば『わが闘争』も放り出したまんまだな。
>難「どうする家康」
なんか毎週、「あそこが史実と違う。ここが史実と違う。デタラメだ」とやっているみたいで、今回は「秀吉がお市に惚れていたなんてデタラメだ」とやってます。いいかげん、ドラマはフィクションであって歴史そのままではないってことを悟ってもらいたい(笑)。突っ込みはいいけど、それでドラマを全否定しちゃダメだろ。っていうか、ほとんどクレーマー?
>Re:労働と読書の歴史
某大学の某理事長じゃないけど「言葉足らず」でしたかね。ということで、もうちょっと詳述。重複はご勘弁。
・司馬を「サラリーマン」「通勤電車」「文庫」とからめて70年代で取り上げてるけど、「サラリーマン」に「通勤電車」で「文庫」が読まれたのは司馬だけじゃない。そもそも司馬のデビューは59年で代表作の多くが60年代に発表されている。だから司馬を取り上げるなら、松本清張と一緒にサラリーマン(ホワイトカラー)の支持を得た作家として60年代にとりげるべき。さらにそのせいで、文庫のペーパーバック化という大きな動きを見逃している。
・出版社(講談社? 文春?)で若手が文庫刊行の企画を出したら、上層部に拒否されたエピソードが出て来るが、ここでも文庫のペーパーバック化という流れを捕らえ損なっている。上層部のイメージにあるのは、おそらく岩波文庫。パラフィン紙のカバーに色分けされた帯。収録されているのは古典。新潮や角川も右へ倣え。これに対して若手がイメージしているのはペーパーバックで、自社刊行物の再利用。端的には横溝正史を刊行しだしてからの(角川春樹が主導権を握った)角川文庫。ただ、角川春樹の証言は要検証。
・海音寺の引退宣言(69年)を文芸の敗北宣言と受け取るのは、一面ではその通り。とすれば、テレビの文芸に対する勝利がそれ以前(60年代)にあったはずなのに、テレビが娯楽の中心となったのを70年代としているのは不可解。70年代初めに明らかになった映画の斜陽化(大映の倒産、日活の「にっかつ」化)も、60年代にテレビが娯楽の中心となった傍証になる。
・50-60年代の作家として源氏鶏太をあげているのは慧眼。しかし、同時代の作家である司馬や松本清張を無視したことで、後者が死後四半世紀を経ても読み続けられているのに、前者が忘れられた作家になっていることには思い至らないようだ。ここに注目すると60年代と70年代以降の相違が浮かんでくるように思う。
・テレビの「土8戦争」をサラリーマンと関連づけているのは疑問。その最終的な勝利者は「全員集合」だから。サラリーマンと関連づけるなら、平日の「11PM」、土曜日なら「土曜ワイド劇場」。これは一家に一台時代のテレビが、番組枠販売の関係でレーティングしていたから。平日は7時台が子供、8時台は家族向け、9〜10時台は女性向け、11時台以降が男性向け。残業して帰宅、風呂、飯等が終わってくつろげるのがそれぐらいの時間。土曜日は日曜日が休みということで子供が夜更かし、サラリーマンは仕事を早めに切り上げるので、時間が前後する。だから同じ時間帯でも、「土ワイ」は男性向けの傾向が強く、「火サス」は女性向けの傾向が強い。ああ、「土ワイ」は77年からというので時代がずれてるというなら、東映制作のアクション物(「キー・ハンター」とか 土曜10時〜)でもいいかもしれない。
>「100分de名著『覇王の家』」
(おっかしぃなぁ、わたしの読みと違うぞ)ということが二回までで多数(全四回)。解説の安部龍太郎氏が完全にミスキャスト。純粋に司馬の家康観や小説を検討するんじゃなくて、自分の家康観をぶち込んでくるんで変なことになってる。で、それが司馬の家康観とかと水と油。司馬の描く家康って自分の家のことしか考えてないんだけど、安部氏は、日本の国を良くするために生きた、と考えてる。(山岡荘八の先祖返り?) ということで、珍しく全部見る気力が萎えかけております。
#11369
バラージ 2023/08/07 20:27
紫式部というより源氏物語なんだけどやっぱり紫式部
臨床心理学者である故・河合隼雄氏の『源氏物語と日本人 紫マンダラ』(岩波現代文庫。単行本タイトル『紫マンダラ 源氏物語の構図』小学館。後に上記タイトルに改題して講談社+α文庫)を読了。河合氏の著作は一時ハマって読みまくったんですが、本書については『源氏物語』をそもそも読んでないしなぁとずっと手控えてきたんですよね(現代文は大得意だったけど古文は苦手でして)。しかし本屋でたまたま新版を発見し、そういや来年の大河ドラマは紫式部だなと思って、これを機会にと買ってしまいました。
いやぁ、やっぱり面白かった。あくまで『源氏物語』についての本であって、紫式部については最小限にしか触れてないんで来年の大河の参考にはあまり役立たないんですが(笑)、河合氏の文章は中身のつまったものでありながらスラスラと読めちゃいますね。『源氏物語』は「光源氏の物語」ではなく「紫式部の物語」だというのがその主張の骨子でして、紫式部という女性が自らの分身たちとも言える内面の女性像を、狂言回し的な光源氏を中心にマンダラ的に配列していった物語と位置付け、紫式部という女性の自己実現の物語であるとしています。
僕自身は『源氏物語』を全く読んでないんでその主張の当否を判断することは留保しますが、本書を読んでいる限りでは河合氏の論には非常に説得力が感じられ、何より書物として読みごたえがあって非常に面白かったですね。
>ドラマや映画での信長の妻妾
『どう家』本能寺回後に、今回の大河では濃姫が出てこないため信長の孤独がより強調される描き方になっていたという記事がありました。確かに信長の孤独を強調する狙いもあったのかもしれないけど、どっちかっていうと脚本の古沢さんは信長と濃姫の関係については映画『レジェンド&バタフライ』で描いちゃったからという理由のほうが大きいような気がする、というのは以前にも書きました。
ま、それはそれとして、ドラマや映画における濃姫などの信長の妻妾たちについてざっと書いてみようかなと。といっても濃姫なんかは築山殿同様に腐るほど出ているんで、基本的にNHK大河ドラマを中心に濃姫以外の妻妾が出てきたものに着目して見ていきたいと思います。
まず僕が初めてちゃんと観た大河ドラマの『おんな太閤記』(1981年)ですが、藤岡弘演じる信長の記憶はあっても濃姫とか妻妾の記憶はないなあと思ったら、どうやら信長の妻妾は全く出てこなかったらしい。どうりで記憶にないはずです。でもあんなに、ねねや秀吉の親戚一族がたくさん出てきたのに、信長の妻妾は全く出てこなかったってのはなんか意外。まあ、ねねや秀吉と濃姫他の信長妻妾はそれほど関係性がないとはいえそれでもね。そういえばこのドラマで信長だった藤岡が今年は親父の信秀だったんだな。次に『徳川家康』(1983年)。実は信長の妻妾が1番たくさん登場した大河は意外にもこの作品だったりします。個人的にも藤真利子演じる濃姫が本能寺で派手な立ち回りをして斬り死にするシーンが面白くてとても印象に残ってるんですが、他にも生駒吉乃(信忠・信雄・五徳の母。役名はお類。演じたのは小田切かおる)、坂氏(信孝の母。役名は深雪。深山由侑子)、五男勝長(津田源三郎)の母(役名は源三郎の母。青木万里子)が登場したとのこと。記憶に全然ないんですけどね。なんで『家康』にこんなに信長の妻妾が出てきたのかよくわかりませんが、同じ山岡荘八原作の1964年のテレ朝版『徳川家康』でも濃姫(小林千登勢→磯野千鳥)と吉乃(役名は「るい」。平松淑美)が出てきたようなので、原作からしてそうなのかもしれません。やはり山岡原作の『織田信長』(1994年、テレ東単発)にも濃姫(涼風真世)、吉乃(役名はお類。草野由紀子)、坂氏(役名は深雪。吉野真弓)が出てきたようです。
じゃあそれ以前の信長主人公大河『国盗り物語』(1973年)ではどうだったのかというと、こちらでは濃姫(松坂慶子)しか出てこなかったみたい。まあ前半の主人公が斎藤道三なので、道三の娘の濃姫がクローズアップされるのは当然かもしれませんが、それにしても後半の主人公は信長なのにちょっと意外な気もします。さらにそれ以前の『太閤記』(1965年)、以後の『武田信玄』(1988年)でも出てきたのはやはり濃姫だけだったようですね(前者では稲野和子、後者では麻生祐未)。ちなみに『太閤記』では名前が「濃」と書いて「こい」という読み方だったらしい。なぜ?
90年代に入って、またまた信長主人公大河の『信長』(1992年)。本編はほとんど観てませんが、濃姫が帰蝶(菊池桃子)という名だったのが印象的。僕はこの作品で初めてその名を知りましたね。他に吉乃(役名は「しの」。高木美保)、お鍋(八男信吉の母。役名は「なべ」。若村麻由美)が登場したとのことで、この頃から濃姫以外の側室がクローズアップされてくる印象。さらに『秀吉』(1996年)になるとなんと濃姫が出てこなかったらしい。側室の吉乃(斉藤慶子)とお鍋(櫻井公美)しか出てこないんだそうで、この時期の大河以外のドラマでも『天下を獲った男 豊臣秀吉』(1993年、TBS単発。濃姫役が、かたせ梨乃、吉乃役が鷲尾いさ子)、『豊臣秀吉天下を獲る!』(1995年、テレ東単発。濃姫役が森口瑤子、吉乃(役名は生野)役が高島礼子)、『織田信長 天下を取ったバカ』(1998年、TBS単発。濃姫役が中谷美紀、吉乃役が麻生祐未)と、濃姫と吉乃の両者が出てくるものが多い。この頃に特に吉乃がクローズアップされたのは一世を風靡した『武功夜話』の影響なのかも。この傾向は『利家とまつ』(2002年)まで続き、やはり濃姫(石堂夏央)も出てきたものの、吉乃(森口瑤子)のほうが出番も多く目立ってた印象でした。また『織田信長』(1989年、TBS単発)では濃姫(名取裕子)と坂氏(役名は阿茶。野村真美)というちょっと珍しい取り合わせだったようです。さらにちょっと変わり種では加藤廣の小説が原作の『信長の棺』(2006年、テレ朝単発)に、お鍋(役名は興雲院。浅野ゆう子)のみが登場したらしい。まあ、これは時代が限定的な作品ですからね。ちなみに濃姫がいない『秀吉』ではお鍋が本能寺で死ぬらしいんだけど、史実のお鍋は江戸時代まで生きてるようですね。でもまあ濃姫が大立ち回りするのだって完全に創作なんだしな(笑)。
この流れが変化するのは『功名が辻』(2006年)あたりから。信長の妻妾は帰蝶=濃姫(和久井映見)のみが登場し、本能寺で大立ち回りするという先祖返り状態に。これは原作が昔のだからというのもあるかもしれませんが、でも山岡のほうがもっと昔だしなあ。なお帰蝶と明智光秀がお互いに淡い恋心を抱いているという設定もあったらしいですね。『軍師官兵衛』(2014年)でも同様に濃姫(内田有紀)が本能寺で大立ち回りして斬り死にし、『麒麟がくる』(2020年)でも帰蝶(川口春奈)のみが登場。この頃の民放ドラマでも『女信長』(2013年、フジ単発。小雪)、『信長のシェフ』(2014年、テレ朝。斉藤由貴)、『信長協奏曲(コンチェルト)』(2014年&2016年映画、フジ。柴咲コウ)、『桶狭間』(2021年、フジ単発。広瀬すず)と、濃姫(帰蝶)ばかりが登場するようになります。このあたりの理由としては『武功夜話』の信憑性に疑義が示されるようになったということもあるかもしれませんが、それ以上にそもそも吉乃は1566年というかなり早い段階(信長が足利義昭を奉じて上洛するよりも前)で亡くなってしまうため、物語のヒロインとするのが難しかったという作劇上の問題が大きいような気がします。
『利まつ』以後で吉乃が出てきたドラマには『濃姫II 戦国の女たち』(2013年、テレ朝)がありますが、主人公の濃姫(観月ありさ)に対して、吉乃(白須慶子)は役名が「茶筅丸の母」(茶筅丸は信雄の幼名)という固有名詞ではないものなのでチョイ役だったんでしょう。ちなみにこの『濃姫』は山岡荘八の『織田信長』が原案とのこと。そしてもう1つが今年の映画で古沢脚本の『レジェンド&バタフライ』(2023年)。もちろん濃姫=帰蝶(綾瀬はるか)はダブル主人公の1人ですが、吉乃(見上愛)も登場したようです。
個人的には史実云々は別として、90〜00年代前半に濃姫以外の信長妻妾がクローズアップされた流れは物語に幅を持たせるという意味ではよかったんじゃないかなあと思います。濃姫だけだとやっぱりどうしてもワンパターンに陥っちゃいますし、そもそも濃姫だって史実なんてほとんどわかんない人ですしね。
>清洲会議
ドラマに対する史実からの批判はともかくとして、清洲会議を「信長は跡目を信忠に譲ってたんだから、三法師が跡を継ぐのは決まっていた」とする説については、Wikipediaを見たところ歴史学者の柴裕之氏が唱えているようですので、全く妥当性のないものというわけでもないようですよ。柴氏は、「会議で問題になったのは三法師が成人するまで「名代」を設置するか否かで、信雄と信孝の対立の焦点もそこにあった」としているとのこと。ちなみに柴氏は『どう家』の時代考証の1人でもあります。
>労働と読書の歴史
うーん、こういう年代区切りの話題については、あくまで“時代の流れ”が重視されるんであって、くっきりと「ここまでは60年代、ここからは70年代」と杓子定規に考えるべきではないと思うんですよね。1969年の海音寺潮五郎引退宣言については、第5回は「1950〜60年代」にまたがっているので、むしろ第6回の「1970年代」に近い出来事ですし、何よりもあくまで話題の関連性で触れられてることなので、それを60年代の出来事だと突っ込むのは少々揚げ足取りに感じられます。また、あくまで連載の主題は「労働と読書」ですので、テレビの土曜ワイド劇場は「労働と読書」にはそれほど関係がないでしょう(横溝正史も同様)。「おじさん」が見る(読む)ものと、「労働者(サラリーマン)」が見る(読む)ものとではベクトルが異なるはずです。なぜならサラリーマンには、おじさんではない若いサラリーマンもいるのだから。第1回の冒頭に挙げられてる映画『花束みたいな恋をした』の主人公カップルも若者であって、「おじさん」ではありません。なお松本清張については第5回(1950〜60年代)と第6回(1970年代)でほんの少しではありますが触れられています。ただまあ、このあたりも当時のベストセラーを網羅的に触れていく連載ではないんで別にいいんではないでしょうか。
>名画座DVD化情報
やはりと言うべきかNHK大河ドラマ『北条時宗』も完全版DVDが9月22日に発売されるそうです。これであとは『峠の群像』だけとなりました。
#11368
ろんた 2023/08/03 23:27
「どう家」スケジュール
先の書き込みはいささか不正確でした。「月刊TVnavi」9月号によるとこんな感じ。
(29)「伊賀を越えろ!」(07/30)
信長が死亡したというしらせが駆け巡る中、光秀の命令で、家康は、浪人から村人まであらゆる者から命をつけ狙われることに。
(30)「新たなる覇者」(08/06)
本多正信のおかげで無事、浜松へ戻った家康。一方秀吉は、織田家の実権を握ろうとしていた。
(31)「史上最大の決戦」(08/13)
お市を死に追いやった秀吉に、家康は激怒。打倒秀吉の意志を固める。だが勢いに乗る秀吉は、信長の次男・信雄を安土城から追放する。
(32)「小牧長久手の激闘」(08/20)
家康は秀吉10万の大軍に対し前進し、小牧山城に兵を集結。康政は秀吉の悪口を書き連ねた立札をばらまくが…。
(33)「裏切り者」(08/27)
(33)は「解説」がありませんが、まあ石川数正出奔で間違いないので、9月で家康臣従、秀吉天下統一、9-10月が秀吉政権のごたごた、10-11月が関ヶ原、11-12月が大坂の陣ってところでしょうか。確かにかなり駆け足になりそうな気がする。特に関ケ原と大坂の陣の間。ワープがあって、急に老け込んだりして。最後は、死の床でお迎えに来るのが瀬名だと思ったら、第六天魔王と化した信長でした。ってところで「どぉ〜すりゃええんじゃぁ〜っ」でthe end?(<お笑いにしてどうする)
>自分が大人になったら忘れちゃう
これ、「昔はよかったなぁ」病なんじゃないですかね。以前、「全員集合」のDVDが発売された頃、「ドリフは良かったけど今のお笑いは……」って話が出てて、(ドリフ好きがそう言うこというか?)とあきれた覚えがあります。目上の人間(長さん)にメチャメチャ酷いコトしたり、土曜の八時にストリップの真似したり、童話の替え歌で「子供が間違えて覚えたらどうする!」って怒られたり……その他諸々やらかして良識派の顰蹙を買いまくってたのに。「食べ物を粗末にするな」ってのもドリフへの苦情の定番だったなぁ。ちなみにやっぱり神格化されている(?)欽ちゃんだって、大河「天と地と」の裏番組で、女性タレントを脱がして世間の顰蹙を買っていたぞ(笑)。「や〜きゅう〜、す〜るなら」ってやってたのは二郎さんだけど。
ただ「史実と違う」の人は、史実と違う>ダメだダメだダメだ と言いたいんでしょう。でもこの人、史実と解釈とフィクションがゴッチャになっているみたい。わたしも「どう家」には違和感は感じるけど、それは解釈やフィクションに関する部分。それから「史実と違う」の人についてる「歴史評論家」という肩書きが摩訶不思議。評論家全盛期の70年代でもそんな人いなかったと思うけど。と思ったら、またまた「『どう家』はデタラメ」って話をしている人がいて、誰かと思ったら「俺は大学教授なんだぞぉ〜」の人だった。なんでも信長は跡目を信忠に譲ってたんだから、三法師が跡を継ぐのは決まっていたとのこと。いや、筋目はそうだけど、子供が当主じゃ困るってんで清洲会議でもめたんじゃないの? 相変わらず「ボクの作った最強の歴史」の世界に生きちゃってるなぁ。
ああ、上の人とは関係ないけど、「清洲城の周りにあんな山はない」って批判には笑った。そりゃまあ、濃尾平野の真ん中のはずだからなぁ。あと初登場時の清洲城にみんな秦の阿房宮を連想していたのも面白かった。実はわたしもご同様。びびった元康にはそう見えた、と解釈しておこう。
>1970年代の労働と読書
なんだか60年代と70年代がゴチャゴチャになっている感じがしました。司馬がベストセラー作家になったのは60年代で代表作も多くが60年代に発表されている。文庫について言えば、70年代は文庫のペーパーバック化の時代。そこでクローズアップされるべきは角川文庫と横溝正史でしょう。これが「教養」なるものに深刻な打撃を与えるわけですよ。テレビが娯楽の中心になったのは60年代後半。70年代に入るとすぐに大映が潰れ日活が潰れかけ、残り三社もアップアップ。海音寺潮五郎の引退宣言もギリ60年代。土曜8時がクローズアップされてるけど、それは土曜日だけ子供に夜更かしが許されてたから。サラリーマンとの絡みで論ずるなら「土曜ワイド劇場」。この番組がおじさんをターゲットにしていたのは明らか。最近「混浴露天風呂温泉連続殺人」を土日にやってるけど(笑)。あとお風呂に入ってる女性が必ず襲われる「美女シリーズ」(江戸川乱歩原作)とか。かの名言「10時またぎはオッパイッ!」が生まれたのも二時間ドラマから。この辺、火サスと比べると明らか。そして二時間ドラマの原作として再び注目された松本清張は?
>森村誠一
「森村誠一の『人間の証明』は『砂の器』のパクリ」というのを見かけました。いや、それを言うなら『砂の器』じゃなくて『ゼロの焦点』だろうと思いますがね。犯人像も犯行動機もそっくり同じなんだから。ただ、パクリと言えないのは、「母と子」「占領軍と日本人」というテーマを付け加えているから。そのせいで不自然なところが出ちゃってるけど。米兵の子供って日本に置き去りにされてる場合が多いのに。あと棟居の親の仇があの人ってのは偶然がすぎる。
追記
「100分de名著」(Eテレ)で『覇王の家』を取り上げるそう。これも「どう家」の番宣か? でもこの小説、人質生活の後は三方原の戦いに飛び、築山殿と信康処断の後は甲州攻めで伊賀越え、そして小牧長久手の後は大坂夏の陣後に飛んで死んじゃうんだな。抜けてるところは、他の小説で書いちゃってるからだろうけど。ひょっとして、こういう家康像はもう古い、とやるのかな。「どう家」は「史実と違う」って人が多いのか?
#11367
バラージ 2023/07/29 22:46
神話映画
2003年の米国のTVムービー『トロイ ザ・ウォーズ』(原題『Helen of Troy』)を観ました。映画『トロイ』の出来が不満だったんでこっちもDVDレンタルで観てみようとしたんですが、近所のレンタル店ではとっくに撤去されてて、次に近い大きめのレンタル店で借りて観賞。テレビのミニ・シリーズらしく3時間近い長さの作品で、『トロイ』の1年前に作られており日本でも『トロイ』公開と同時期に便乗的にDVD化された作品です。
うん、こっちのほうがずっと面白い。そりゃスケールは映画のほうがずっとでかいですけど、こっちもTVムービーとしては十分に大きなスケールだし(大河ドラマなんかとはえらい違いだ)、映画として公開しても遜色のないレベル。何よりストーリー展開がよく練られています。もちろん神話そのままじゃ現代人の感覚的に変なところもあるし、何より3時間に収めなきゃならないんでいろいろと改変されてるところも多いんですが、『トロイ』よりは(そしておそらくは『トロイのヘレン』『大城砦』よりも)原典に比較的忠実です。
原題にもなってるヘレン(ヘレネ)とパリスの生い立ちから物語が始まっていて、この2人がトロイア戦争の原因になるからやっぱり彼らを主人公にしたほうが話の流れがすっきりするんですよね(アキレスは有名だけど戦争全体での立ち位置はやや脇役的だし)。運命の子パリスが生まれてすぐに捨てられて、羊飼いに拾われ育てられるところから物語は始まり、ヘラ・アテナ・アフロディーテの3女神から最も美しい者を選ぶパリスの審判とか、テセウスによるヘレンの誘拐などのエピソードも描かれ、戦争が始まるのは映画が半分も過ぎてから。しかし個人的にはこの前半が面白く、テセウスのエピソードなんて、へぇー、これもやるんだ、と興味深く観ちゃいましたし、カサンドラの予言もちゃんと描かれてて満足。
神様の出番はパリスの審判のとこだけで、あとはパリスと神様の絡みもほとんど描かれないし、カサンドラやアキレスも神様との関係は語られませんが(神の世界と人間の世界を両方描いてくのは複雑になりすぎて難しいんでしょう)、神々の存在が前提となっている世界観なので、映画『トロイ』のような無理がない。風が吹かずギリシャ艦隊が出航できないため、アガメムノンが娘を女神アルテミスに生贄として捧げるというエピソードなんかもちゃんと出てきます。全編通してヘレンは美しく、パリスはかっこよく、ヘレンの夫プリアモスも悪人じゃないのが特徴で、その分アガメムノンがすっげえ悪役。アキレスやオデュッセウスは『トロイ』に比べて脇役扱いで、エピソードもだいぶカットされてますが(こちらのアキレスは映画『ワイルド・スピード』に出てきそうなスキンヘッドでムキムキマッチョの筋肉戦士)、もともと原典が三国志並みに複雑で膨大なんで仕方がない。
出演俳優も知らん人ばっかりですが、有名人だらけの『トロイ』に見劣りしない好演で、特に主演の傾国の美女ヘレン役のシエンナ・ギロリー(『バイオハザード』に出てた人らしい)は無垢で無邪気ゆえの魔性っぷりを非常に上手く演じておりとても良かったです。面白かった。
>労働と読書の歴史
以前紹介しましたが、東洋経済オンラインで『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』を連載してる書評家の三宅香帆さん。『源氏物語』『紫式部日記』『更級日記』についての話が面白く、文章力のある人だなと思ったんですが、ネタが中世文学から別のものに移ったらなんとなく読まなくなってしまいました。
しかし先日スマホに流れてきたおすすめ記事に三宅さんの執筆記事がありまして、読んでみたらやっぱりこれが滅法面白い。集英社新書プラスで連載されている『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という記事で、「第1回 労働と読書は両立しない?」「第2回 明治時代の読書と労働―自己啓発書誕生の時代」「第3回 大正時代の読書と労働―「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級」「第4回 昭和戦前・戦中の読書と労働―本が安くなるとみんな本が読める」「第5回 1950〜60年代の読書と労働―「サラリーマン特化本」のベストセラー化」「第6回 1970年代の労働と読書―司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマンたち」といったラインナップ。今後80年代以降の話も続いていくんでしょう。おすすめに挙がってきたのは最新の第6回でして、それが面白かったんで最初から読んでみたわけです。第1回の冒頭が映画『花束みたいな恋をした』の1シーンなのも印象的で、ちょっと『花束みたいな恋をした』を観たくなっちゃいましたね(話題になった映画なのでもちろん存在は知っている)。
それにしても改めて見たら三宅さんは1994年生まれとのことで、まだ20代なのか。すげえな……。
>追悼・森村誠一
常石敬一さんに続いて『悪魔の飽食』の森村誠一さんも……。これも共時性なのか。ま、森村さんはそれ以前にまず推理小説家としての知名度のほうが高いでしょうけどね。『人間の証明』『野生の証明』が映画化されて大ヒットしましたし。90年代には『平家物語』も書いてたな。ご冥福をお祈りします。
>「どう家」は史実と違うから子供に見せられない
いや、そんな心配しなくとも、もともと大河ドラマを観る子供なんて少ないでしょう(笑)。大河の視聴者の70%以上は50代以上らしいですし。逆に大人が子供に見せたがる番組なんて当の子供は見たがらないですよ。昔からさんざん言われてきたことなのに自分が大人になったら忘れちゃうんすかねえ。まあ、おっさんメディアのプレジデントオンラインだから仕方がないのかもしれないけど、じじいの繰り言だよなあ。小学生の頃から大河観てた自分が言うのも何だけど。
『どう家』の本能寺の変は家康主犯説(光秀冤罪説?)と見せかけて、結局は普通に光秀単独犯になったようで。実は家康主犯説・黒幕説・共犯説にすると、家康がなんであんなに苦労して伊賀越えしなきゃならなかったのかとか、なんで光秀が家康も仲間だと言ったり助力を求めたりしなかったのかとかの説明が難しくなっちゃうんでしょうね。歴史学的にも指摘されてることですが、物語としてもそのあたりが上手く説明できないと観てて疑問に感じちゃいますし。映画『続・忍びの者』は家康共犯説、大河『秀吉』は家康唆し説、『直虎』は家康も知っていた説でしたが、いずれも家康が主人公ではないためそのあたりはスルーすることができたんでしょう。
それはそうと『どう家』で気になるのは、7月後半にもなってようやく本能寺が終わるなんて物語展開がちょっと遅くないか?ということ。調べてみると1983年大河『徳川家康』では24話で本能寺だったのに対して『どう家』では28話と、4話(1ヶ月)も遅れてます。幼少期をほとんどすっ飛ばして初回が桶狭間(『徳川家康』では第8話)だったのに、いつの間にそんなに遅れちゃったんだ? 『徳川家康』では27話で小牧長久手なのに、『どう家』の小牧長久手が8月末だとしたら最後まで物語を消化できるのか?
#11366
ろんた 2023/07/28 00:59
書評より
新聞の書評欄に歴史物がどっと放出されてたので紹介……と思ったら、呉座氏の『極楽征夷大将軍』の書評が出てる。まあ、地方紙なんで通信社から配信されたものを記事にしてるんでしょうけど、地元紙の仕事が遅いのか。ということで『極楽征夷大将軍』は省略しますが、他のも見たことあったらご容赦。
ちなみに芥川・直木賞でe-honの予約ランキング三位まで独占。もう本が出てるはずなのに、と思ったら次回入荷分の予約だった。つまり東販に在庫が無いってこと?
・『バレエの世界史』(海野敏/中公新書/評者:桂真菜=演劇評論家)
バレエの歴史を世界史に絡めて語る本。大抵のヨーロッパの芸術同様、ルネサンスに端を発し、王侯貴族のものだったのがブルジョアのものになっていく。バレエの場合は踊るのも観客も王侯貴族。しかし、17世紀フランスの花形ダンサーがルイ14世というのは驚き。ダビンチが装置を担当したり、デカルトが台本を書いたりしたこともあった。18世紀は異国趣味。当然、背景にあるのは大航海時代に始まるヨーロッパの膨張。そして19世紀では「エトワール」(ドガ)が取り上げられる。この絵画、主題はバレリーナなのに、袖から舞台を眺めてるオッサンが描かれている。山田五郎のyoutubeでは「これ、誰だ?」というのが解説されてたけど、要するに功成り名を遂げたブルジョアで、よく言えばパトロン、悪く言えば妾に囲ってるヒヒジジイ。バレエ興行はそのようなものとしてあり、ブルジョアがそれを支えるだけの資力を手にしたというわけ。ただ、ネットの一部にあるバレリーナ=売春婦というのは言い過ぎかな。20世紀には民族主義の勃興と関係あるんだろうけど、ディアギレフ、ニジンスキーなどロシア・バレエがヨーロッパを席巻。そして20世紀後半はアメリカの時代……のはずなんだけど、バレエでは影薄い気がする。ミュージカルのせい?
・『風配図』(皆川博子/河出書房新社/評者:栩木伸明=アイルランド文学者)
1930年、ソウル生まれ(93歳!)の直木賞作家の最新作。時代は12世紀半ば、ハンザ同盟結成前夜。主な舞台はバルト海最大のゴットランド島、西の港町リューベックと東のノヴゴロド共和国をつなぐ交通の要衝。主人公は島の農場主の娘・ヘルガ。難破船の生存者の権利を守るために決闘裁判の代闘士を買って出て勝利。これで男社会から排除されたのを機縁に、商人としての経験を積み、外国語を習得、交易網の拡大に貢献しようとするが、差別的障壁の数々に苦しめられる……なんだかメチャメチャ面白そう、という感想しか出てこないんですけど。「ぼくたち読者はノヴゴロドの市内を歩く。……(中略)……12世紀のノヴゴロドが描かれた小説なんて他にあっただろうか、とふと思う。書き手の周到な準備と構想力に強靭な共感力が加わった結果、輪郭が濃い街路と人々の暮らしが読者の目の前に現出している。」「終盤にさしかかる頃には、ヘルガを苦しめた性差別、結婚、技能習得、仕事などをめぐる不自由が人ごととは思えなくなる。小説家の問いかけは射程の長い灯台の光のように、現代まで届いていたと気づかされるのだ。」と評者も「読め、読め、読むんだぁ!」と薦めております(笑)。ちなみにゴットランド島は「魔女の宅急便」のモデルで、アニメまんまの街があるらしい。
・『厳島』(武内涼/新潮社/評者:清原康正=文芸評論家)
「厳島」だけではピンと来なくても、戦国時代なら「厳島の戦い」。ということで、大寧寺の変のドサクサで(?)安芸・備後を切り取った毛利元就軍4,000と陶晴賢軍28,000の戦いを、毛利元就の調略と情報収集、奇襲、陶軍重臣・弘中隆兼の義を貫く姿勢を通して描く。厳島の戦いは、厳島に引っ張り込まれた陶晴賢軍が、毛利元就軍に奇襲されて殲滅されるわけだけど、この元就の策を見抜いていたのが弘中隆兼。陶晴賢に諫言して入れられず、臆病者と誹られるよりは死を選ぶ、と厳島に入った人物。「登場人物一人一人の戦国乱世を生きる姿、言動は、それだけで短編の主人公になりえるエネルギーと魅力を発散している。これだけの数の登場人物からそれぞれの人間ドラマを仕立てていく粘り腰と、作者のこれまでの作品とは違った重厚な文体に瞠目させられる。」とのこと。
・『堀田仁助 蝦夷地を測った津和野藩士』(神英雄/山陰中央新報社)
こちらは「地方の本」というコーナーで取り上げられていたもの。堀田仁助は幕府天文方として航路開拓を行い、1799年に西洋技術を駆使して北日本の地図を作った人。伊能忠敬が日本全図の測量を開始するのが翌1800年で、伊能にも影響を与えた。著者は島根地理学会会長。現地踏査ののち、地元紙(山陰中央新報)に連載、加筆したもの。写真多数。
>「どう家」
え〜〜〜っ、余計なこと書いて、ちゃんと見てないのがばれてしまいました(汗)。これから石川数正出奔とかあるけど(9月ぐらい? 小牧長久手が8月末らしい)、あのドラマって「どうすればええんじゃぁ〜〜〜っ!」と泣きわめく、うぶなねんねの松平元康が、戦国乱世にもまれにもまれ、三國連太郎と悪だくみする森繁久彌になる話なんだな、きっと(TBSドラマ「関が原」参照)。
そう言えば"「どう家」は史実と違うから子供に見せられない"という趣旨の記事がプレジデントオンラインに出ていたけど、そんなに違ってるかなぁ? 解釈がオーソドックスじゃないだけだと思うけど。
>キンカン頭
「引用」というのはわたしの印象に過ぎませんけど、三谷幸喜ならやりそうな感じ? でも家康が光秀のボヤキを止めようとするのと、信長が光秀を「キンカン頭」とののしるのは『国盗り物語』のオリジナル……かなぁ? 『祖父物語』『川角太閤記』にはそんな描写無いような。ネットでは光秀=キンカン頭を司馬の創作とする人もいるけど、これは眉唾。『武将列伝』(海音寺潮五郎)の「明智光秀」で引用されてる『義残後覚』に出てるし、「豊臣秀吉」では海音寺自身が光秀のあだ名の話をしているから。(『武将列伝』の方が『国盗り物語』より初出が古い) あと『国盗り物語』の信長、光秀との初お目見えの場で……
頭の薄い男だ>キンカンに似ている>あの頭に触りたい(ウズウズ)
……とか考えてて、いかにも信長(笑)。さすがに、もう大人なんで触らないけど。ただ、濃姫に「頭が薄い」とか言ってご機嫌を損ねてる。
#11365
バラージ 2023/07/21 22:07
あ…ああ!あれは伝説の蛇行剣!!(基ネタわかる人おらんだろ)
いやあ、蛇行剣の発見、ものすごいニュースですね。『報道特集』でも特集しててちょっとびっくり。あの番組が社会的な事件じゃなく文化的なニュースで特集組むとは珍しい。
>731部隊
731部隊の職員表が発見されたという、こちらも重要な発見。ニュース検索したら731部隊研究で著名な常石敬一氏が4月24日に亡くなられてたとのことで、これも一種の共時性か。ご冥福をお祈りします。
>ドラマや映画での家康の妻妾
『どうする家康』には今のところ家康の妻妾として、松平信康と亀姫を産んだ正室の瀬名(築山殿、演じたのは有村架純)、督姫を産んだ側室のお葉(西郡局、北香那)、結城秀康を産んだ側室のお万(松井玲奈)、秀忠と松平忠吉を産んだ側室の於愛の方(西郷局、広瀬アリス)が登場しています。ちなみに1983年の『徳川家康』ではその他に、継室で秀吉の妹の朝日姫、側室の阿茶局、松平忠輝を産んだ側室の茶阿局が出てきた模様。そのうち朝日姫は『どう家』にも登場予定で、逆に『徳川家康』では西郡局(実名は不詳で『どう家』での「お葉」は創作)は出てこなかったようです。家康の妻妾は20人以上いるようなので到底全員出してられないってことで、どうしてもドラマなどの創作作品では大幅にリストラされちゃうのは仕方のないところ。
では『どう家』に出てきた家康の妻妾たちは他の作品にはどれくらい出てきたのか? やはり圧倒的に多いのが築山殿で、以前にも書いた通りNHK大河ドラマでは『徳川家康』(1983年、池上季実子)、『信長』(1992年、島村佳江)、『秀吉』(1996年、石川真希)、『利家とまつ』(2002年、つちだりか)、『江』(2011年、麻乃佳世)、『おんな城主直虎』(2017年、子役→菜々緒)、『麒麟がくる』(2020年、小野ゆり子)に登場しています。といっても演じてる女優でわかるのは池上さんと菜々緒さんくらいかなあ(小野さんもなんとなくわかるような気がする)。その他の歴史映像名画座収録作品だと、映画『反逆児』(1961年、杉村春子)、単発ドラマ『徳川家康』(1988年、十朱幸代)、単発『徳川家康 戦国最後の勝利者』(1992年、真野響子)。こちらは全然観てないけど女優は全員わかる(笑)。未収録作品では大河と同じ山岡荘八原作の連ドラ『徳川家康』(1964年、NET〈現・テレ朝〉、扇千景)、『竹千代と母』(1970年、日テレ、松本めぐみ、役名は鶴姫)、映画『反逆児』と同じ大佛次郎原作の単発『築山殿始末』(1966年、フジ、山田五十鈴)。また僕が観たやつではテレ朝の単発『徳川家康と三人の女』(2008年、高島礼子)がありました。他にもまだありますが多すぎるんで割愛。
逆に西郡局はほとんど登場しておらず、『どう家』の他には大河『葵 徳川三代』(2000年、岩本多代)だけ。ちなみに調べたら岩本さんは83年の大河『徳川家康』では朝日姫を演じてました。
残るお万とお愛(西郷局)では意外にもお万のほうが登場作品が多く、山岡原作連ドラ『徳川家康』(1964年、光本幸子→青山京子)、クレージーキャッツの喜劇映画『ホラ吹き太閤記』(1964年、藤山陽子)、大河『徳川家康』(1983年、東てる美)、単発『徳川家康』(1988年、かたせ梨乃)、単発『徳川家康 戦国最後の勝利者』(1992年、河合奈保子)、大河『葵 徳川三代』(2000年、長内美那子)に登場。さらには朝日放送の単発ドラマで杉本苑子原作の『戦国うらばなし 長勝院の萩 家康父子に愛された女』(1983年、若尾文子)という主人公ドラマまであったりします。これだけ登場作品が多いのはやっぱり築山殿にいじめられたというエピソードがあるからか? なお『ホラ吹き太閤記』では草笛光子、『長勝院の萩』では川口敦子がそれぞれ築山殿を演じています。それにしても『戦国最後の勝利者』では河合奈保子だったのね。92年ならもうアイドル卒業後か。
一方、お愛(西郷局)は2代将軍秀忠を産んだにも関わらず意外なほど登場作品が少ない。『どう家』の他には、山岡原作連ドラ『徳川家康』(1964年、中原ひとみ→藤野節子)、単発『戦国うらばなし 長勝院の萩 家康父子に愛された女』(1983年、亀井光代)、大河『徳川家康』(1983年、竹下景子)ぐらいしかありません。ヒロイン役にうってつけのような気がするんだけど、早くに亡くなったからってのもあるのかも。1983年大河の竹下景子さんは記憶にあるんですが、もっと序盤に出てきた家康憧れのお姉さん的存在じゃなかったっけ?と思って調べたら、竹下さんは吉良御前(亀姫)という役と2役だったらしい。この吉良御前、『どう家』で関水渚ちゃんが演じてたお田鶴と同一人物とのこと。山岡荘八の『徳川家康』では、お田鶴(亀姫)は鵜殿長持または小笠原鎮実の娘とされる史実とは異なり、吉良義安の娘の吉良御前という設定らしく、徳川家康の初恋の相手として描かれているそうです。そしてその吉良御前とお愛が瓜二つという設定だったみたい。同じ原作の1964年NET版でも中原ひとみがお愛と2役で演じてるそうです。また同じ原作の『竹千代と母』(1970年、日テレ、小橋玲子、役名は亀姫)はタイトルを見てもわかるように家康の少年期のみを連ドラ化したようで亀姫のみが登場し、お愛は登場しません。やはり同じ原作の『徳川家康 戦国最後の勝利者』(1992年)には吉良御前(亀姫)もお愛も登場しないようですが、時間の都合上カットされたんだろうか?
>築山殿追記
お万が家康の子を身籠ったことに嫉妬した築山殿が、お万を裸で浜松城内の木に縛り付けて折檻したという逸話は『柳営婦女伝叢』にあるそうですが、『柳営婦女伝叢』はかなり信頼性の低い史料で、当時築山殿は岡崎城にいたことからこの逸話もおそらく創作だろうとされているようです。まあ現代の我々が読んでも今で言う週刊誌レベルのネタですよね。ご近所スキャンダルかよっていう(笑)。その前に家康の子を身籠った西郡局はなんで折檻されなかったんだって話にもなっちゃいますし。そう考えるとこれまでのドラマに西郡局が全然出てこなかったのは、お万の折檻エピソードと整合性が取れなくなっちゃうからなのかな? 山岡荘八の小説でもお万への折檻は描かれ、西郡局は登場しないようですし。
築山殿がお万の妊娠を許さず浜松城から退去させたのは、築山殿の承諾無しに妊娠した(家康が妊娠させた)ためだと現在では推測されています。近年の研究では戦国時代における本妻の権限は非常に強く、奥向きを全て取り仕切っていたと考えられているとのこと。なお当時は江戸時代のような正室・側室に基づいた一夫一妻多妾ではなく、一夫多妻多妾で「本妻」「別妻」「妾」に分類され、築山殿・朝日姫が本妻、西郡局や西郷局(お愛)は別妻、お万は妾とされているそうです(淀殿なども秀吉の側室ではなく、北政所寧々と共に本妻だったとするのが通説になりつつあるようです)。『どう家』では折檻エピを逆手に取って(?)、お万を妖艶でしたたかな女性として描き、妊娠したことが岡崎の瀬名に知られ怒った瀬名が浜松に来ることを知ると侍女仲間に自身を木に縛らせ、瀬名に折檻を請い赦しを得るという展開だったようです(僕はその辺りは観てなかった)。
信康の不行状については、大岡弥四郎事件の翌年の1576年頃から見られ始めるらしく、大岡事件に築山殿が深く関与したことが発覚し、両親の仲が決定的に破綻したことが影響したのではないかとの推測があるようです。要するに信康は両親の夫婦関係の悪さが原因でグレちゃったわけですね。信康と五徳の不和が見られ始めるのは翌1577年頃からとのことで、原因としては2人目の子供も娘だったため(次女熊姫の誕生が1577年)とする説の他に、『松平記』にあるような信康の残虐行為(祭りで踊りの下手な民を射殺した、鷹狩りの際に出会った僧を縄で馬につなぎ引きずり殺したなど)に耐えられなかったとする推測や、『岡崎東泉記』に記されている信康が築山殿に楊枝を取るよう五徳に言ったが政治的地位が上の五徳が無視したため信康が激怒したという些細な理由によるものなどの説があるようです。
信康の罪をすべて認めてしまった酒井忠次に対する批判は大久保彦左衛門の『三河物語』に記されてますが、これについては前記の通り彦左衛門の曲筆で、実際には『安土日記』(『信長公記』で最も古態を保った版本)や『当代記』にあるように家康が忠次を信長のもとに派遣して信康処断の許可を求めたのが事実と考えられます。なお『松平記』では大久保忠世も忠次と共に派遣されたとあり、彦左衛門は兄の忠世も関わったことを隠蔽したという見解もあるみたい。また『信長公記』は新しい版本になるほど信康事件の記述が矮小化されていき、最終的には記述そのものが無くなってしまうとのことで、著者の太田牛一が豊臣政権から徳川政権に移り変わるにしたがって徐々に忖度するようになったんだろうと考えられているようです。
>本能寺の変
『国盗り物語』は未読でドラマ化作品もいずれも未見なので、『真田丸』に影響を与えたかどうかは何とも言えないんですが、信長が光秀を殴打したエピソードは江戸時代の軍記物『祖父物語』『川角太閤記』にある非常にメジャーな逸話なので、『国盗り』のオリジナルではありませんよね。まぁ、いずれも二次史料で、現在ではかなり信憑性の低い逸話とされているようですが。
『どう家』では信長と光秀が家康暗殺を計画し、饗応の食事に毒を入れてたんだけど、家康側もそれを知っていて実際には臭くもないのに鯉が生臭いと言い張って食べようとせず、毒殺計画が見破られたと悟った光秀は無理強いして食わせようとするも、信長は生臭い鯉を出した光秀の不始末ということにして光秀を殴打したうえで毒の入った食事を下げさせ証拠を隠滅したという展開になってたように思います。この家康暗殺計画、以前も書きましたが『おんな城主直虎』でも描かれてました(#10716)。そっちでは冷酷な信長に嫌気が差した光秀がひそかに家康を訪ね、信長を討つ決意を語るという展開でしたね。家康暗殺計画は一応全く根拠のない話というわけでもなく、『本城惣右衛門覚書』『老人雑話』、フロイスの『日本史』などに当時信長が家康を暗殺するという風説(噂)があったという記述があるとのこと。まぁただの根拠のない噂でしょうが、実際に信長の家康暗殺計画があったとする説も一部にはあるらしい。とはいえ歴史家より作家が好む説で、史実というより物語のネタだよなあ。
>史劇ネタバレ
昔そのネタについて書いた記憶があります。確か「マゲ女(=時代劇ファンの女性)」について書いた時だったような……と思って探したらやっぱりそうでした(#9986)。僕はその話を聞いた時に、なるほどなあ、と思っちゃいましたね。目から鱗というか。確かに言われてみれば、これから小説の映画化やドラマ化を観ようとしてる原作読んでない人に、原作読んだ人がストーリーを語っちゃうみたいなもんかもしれないなと。歴史好きってそのあたりのことに思い至らないんですよね。
>『極楽征夷大将軍』
直木賞まで取っちゃいましたか。そりゃすごい。ニュース的には芥川賞を取った先天性の難病で身体に障害のある市川沙央さんの扱いの方が圧倒的に大きく、直木賞のお二人(垣根涼介さんと永井紗耶子さん)には気づきませんでした。申し訳ない。それにしても尊氏小説うらやましい。頼朝小説もほとんどないんですよね。
#11364
徹夜城(気が付いたら直木賞受賞作を読んでいた管理人) 2023/07/20 23:48
「極楽征夷大将軍」
こちらでも言及されたし、昨日直木賞受賞が決まっちゃったしで、書いておきましょうかね。
先日新聞書評で存在を知って「そりゃ面白そう」と買ってチビチビ読み進めていた垣根涼介著「極楽征夷大将軍」が直木賞ということで、驚くやら嬉しいやら。南北朝ネタがこう続くと、もう一度やりませんかねぇ、大河ドラマ。
こも「極楽征夷大将軍」は足利尊氏を主人公とする南北朝歴史小説。数少ない南北朝小説、しかも時代の主役ともいえる足利尊氏が主役のものはその知名度の割に多くはありません。吉川英治「私本太平記」とか杉本苑子「風の群像」あたりが比較的知られてますかね。ほかにちょこちょことあるんですが、その辺は「南北朝列伝」でも紹介してますんで。
数があまり多くないのは一つには尊氏というのが実にとらえにくいキャラだからではと思っています。名家の御曹司で割と苦労はしてないし、野心家とか優れた政治家とかそういうわけでもなく、名将のようでいてそうでもなく、世捨て人願望を繰り返すなど奇人変人な言動も多い。
「極楽征夷大将軍」はそのタイトルにある「極楽」というのが周囲が尊氏につけてるあだ名でありまして、いわば「能天気」かつ「どこかピントがずれてる」という感じ。感情的になって動くところはあるんだけど、「お人よし」と言っても差し支えない。この小説の成功の秘密はこうした尊氏像を、弟の直義(前半では「高国」になってるのも初めてかな)と師直の視点で描いていること。尊氏自身が何を考えてるかわからない、直義や師直からみると「阿呆」としか見えない行動も多いけど、どこか不思議な魅力がある、というのをうまく描き出せていると思います。
直義と師直は半分バカにしてるようにも見えるんですが、そんな尊氏に会った赤松円心や楠木正成その他の武将らがその「素」の彼に魅了されてしまう、というパターンがコントのように繰り返される。この辺、司馬遼太郎の「項羽と劉邦」の劉邦像にも似ているような、と思いつつ読んでます。
新田義貞が割と名将(戦巧者)扱いですね。まぁ正成からは批判されますけど。あと、尊氏・直義兄弟があくまで側室の産んだ庶子で、本来は足利家督を継げるような立場ではなかったというのが序盤強調されてましてこれは最近の学術的な尊氏像の反映なのでしょう。
ああ、あとそりゃそうだと思いつつ、後醍醐がかなりヒドイ奴(笑)。
#11363
ろんた 2023/07/18 22:20
『まいまいつぶろ』(村木嵐/幻冬社)
マンガの話ばかりしてましたが、活字の本も読んでるわけでして、『ローマ人の物語』以後の塩野七生を文庫本でまとめ買いして読んでいました。現在、残すは『皇帝フリードリヒ二世の生涯』のみ。時間がかかったのは『十字軍物語』の(2)と(3)のせい。(2)は帯に「サラディン登場」とあるのに、7〜8割は読み進めないと出てこず挫折しかかった。(3)はなぜか本が行方不明になったりして、こちらも挫折しかかったのでした。あと塩野七生さん、サラディンより獅子心王びいきっぽいなぁ。まあ、十字軍の物語だからそれでいいと言えばいいんだけど。
で、タイトルは「週刊現代」(2023/07/01-07)の書評欄(「日本一の書評」)で見かけた歴史小説。(評者:東えりか)
八代将軍・徳川吉宗は頭を痛めていた。嫡子・長福丸のことだ。片手片足が不自由で、歩きながら小便を漏らすことすらある。通った後が濡れているというので「まいまいつぶろ(カタツムリ)」と陰口を叩く者までいる。発話も不明瞭で誰も話を理解できない。そのせいか酷い癇癪持ちで、怒り出すと手がつけられない。長福丸を廃嫡し利発な弟・小次郎丸を世継ぎに、という者も跡を絶たない。だが、吉宗のもとに朗報がもたらされる。大岡忠相の遠縁にあたる兵庫なる者が、長福丸の言葉を本人も驚くほど正確に聞き取れるというのだ。早速、吉宗は兵庫を長福丸の小姓に取り立てる。すると兵庫のサポートを得た長福丸は、英邁な資質を開花させ……というお話。
長福丸はもちろん九代将軍・家重、兵庫は大岡忠光。吉宗や大岡忠相を取り上げた作品は掃いて捨てるほどあるけど、こちらは珍しい。男女逆転の『大奥』には登場してたけど。書評にある症状を見ると、脳卒中(脳出血とか脳梗塞とか)の後遺症っぽいけど、これに相当する障害があったんだろうか? 「格別の生まれには格別の運命があるものだ。運命ばかりは、途中で投げ出すことができない。ホーキング博士を彷彿とさせる家重の頭脳と、それを最大限に生かす忠光の忠義に心が震えた。」と、評者がかなり入れ込んでいる様子。あと、日経新聞の書評で縄田一男氏が「この一巻は、本年度の歴史・時代小説界において、最も心震える人間記録の一つであろう。"あろう"と記したのはまだ半年残っているからで、しかしながら私はこの作品を凌(しの)ぐ傑作はそうそう出るまいと考えている。」と激賞しております。
>『私はスカーレット(上)(下)』(林真理子/小学館)
同じ雑誌の広告で見かけた本。"世紀のベストセラー『風と共に去りぬ』を林真理子が蘇らせた!""南北戦争期のアメリカ南部を舞台に、わがまま娘スカーレット・オハラが持ち前の生命力で激動を生き抜く、エンタメ一代記。"とあるので、リライトでしょうか。しかし原作は「一代記」じゃなかった気がするぞ。バトラー船長と別れるところまでしか書いてないから。わたし、林真理子さんは苦手というか食わず嫌いなんでアレですけど、"あらためて読んだら、本当に面白い! 今まで読んだ自分のゲラのなかで最も興奮した。──著者"と自画自賛が広告に出ちゃってるのはなんだかなぁ。普通、文壇の人脈使ってコメント出してもらうんじゃないのか?(汗) あと、amazonで見ると、(1)〜(4)と(上)(下)があって全六冊になっているのが摩訶不思議……と思ったら、(1)〜(4)は小学館文庫で(上)(下)はハードカバーっぽい。ということは内容は全く同じはずで、間違って六冊買っちゃう人出るんじゃないか。購入しようという方は要注意。ちなみにe-honでは"全六冊"表記はない。そして、文庫本の方が先に出版されているのも不思議であります。
>ありえないファンタジー
「どう家」はこの評価が定着しそうですな。わたしも「東日本女の平和構想」(?)にはポカーンでしたけど、大河ドラマに掃いて捨てるほど出てくる「民草の幸せのために戦乱の世を終わらせ泰平の世を開くのじゃ!」という戦国武将も十分「ありえないファンタジー」だと思いますがね。まあ、ファンタジーをガンガン突っ込んでも大筋で史実にあってれば「歴史ドラマ」ってことでいいと思います。まさに「この物語は史実を基にしたフィクションである」(「オスマン帝国外伝 〜愛と欲望のハレム〜」より)ということで。三方ヶ原で家康が死ぬと思った人も多いらしいし、世の中には「関が原で東軍が勝つからさぁ」って話をしたら「ネタバレするなぁ!」と怒り出す人もいるみたいだし(ラジオでそんな投書があった)。
>築山殿と『覇王の家』(司馬遼太郎/新潮社)
バラージさんの書き込みを読んでいるうちに気になって、当該箇所を読み返してしまいました。『覇王の家』は1970年初出なんで、現在の通説とは違うところもありますが、基本的に築山殿という特異なキャラクターが巻き起こす性格悲劇として描いているのが印象的。
・築山殿は家康より十歳年上で「元康」を精神的肉体的に支配していた
・今川家からの独立とともに、家康個人も築山殿の支配から逃れる
・岡崎城に移ってからは徳川家の正室として生きるべきだったが、それができずに「駿河衆」という派閥を形成してしまう。結果、「三河衆」の中で孤立。数々の悪評が三河衆に創作され、記録されてしまう
・夫婦仲についても政治が絡み、単に「殿は冷たい」というだけの話が「今川の恩を忘れたか」ということになり、家康も敬して遠ざけるということになる。この不満がお万の方への折檻として暴発する。そして家康は浜松へ移ってしまう
・こうした状況をさらに悪化させたのが徳姫の輿入れ。「駿河衆」「三河衆」に加え「尾張衆」という派閥が形成されるが、築山殿は織田家が背後にいる「尾張衆」に対抗できず憎悪を募らせる
・徳姫の子が二人とも女だったのを口実に、築山殿は信康に側室をあてがい夫婦仲を悪化させる
・信康は英邁な資質を感じさせるが奇矯な行動が多く、老臣らから孤立していた。言わば生まれながらの主君である信康も、老臣らを軽んじる言動が多かった
・そんな中、築山殿の武田側への内通が発覚する。これは陰謀というより妄想に近く、三河衆からすれば騒ぐのも馬鹿馬鹿しいものだったが、伝わったのが尾張衆だったために事件化される。なぜ尾張衆に伝わったかといえば、駿河衆も尾張衆も三河の婢を使っていたから。婢に筒抜けの陰謀ってなんだよ(笑)
・徳姫はまず夫・信康や舅・家康に相談すべきだった(そうすれば笑い飛ばされて終わりだったろう)が、夫婦仲が冷え切っていたことから父・信長に書簡で伝えてしまう。信長は別件で織田家を訪ねていた酒井忠次に問い質すが、忠次は書簡の内容をすべて認めてしまう。これは信康の代になれば家の存続が危ないとの危惧から
なんでしょう、どこかで歯車のかみ合わせが狂って、それが暴走したような印象。凡庸な自分の子らに比べて信康が優秀だから、という話はちょっと触れられてますが、信長の「動機」とはされてません。むしろ信長は徳川家の離反を恐れて穏便に済ませようとしている感じだけど、酒井忠次が認めてしまったので放っておけなくなる。ここでも酒井忠次がしっかり弁明すれば事件化しなかったろう。
>「真田丸」の光秀折檻
本筋とは関係ないですけど(汗)、あのシーンって「国盗り物語」からの引用じゃないですかね。甲斐信濃平定を祝う席で気が緩んだのか、光秀(近藤正臣)が「我らも苦労した甲斐がありました」とつぶやくと、家康(寺尾聰)の警告も間に合わず、聞きつけた信長(高橋英樹)が「己が何の苦労をした」「苦労したのはこの俺だ」と叫びながら駆け寄って「きんかんあたまぁ〜〜〜っ」(ガッツンガッツン)とやるという。あのドラマの光秀って、叡山焼き討ちのシーンでは田んぼに突き転がされるし、朝倉義景と浅井長政の髑髏酒宴の場面でも折檻されてるんだよな。
そういえば「どう家」でも折檻されてたな、光秀。生魚ネタをアレンジしてたけど。生臭かったのは琵琶湖の淡水魚(鯉?)だったから? 徳川家の面々は駿河湾、遠州灘、浜名湖、三河湾の新鮮な魚介類をたらふく食ってるのに、それを忘れてた光秀の失策でありましょう(笑)。
#11362
バラージ 2023/07/17 23:05
近年の信長・秀吉イメージ
今年のウィンブルドン男子シングルス、20歳の世界ランク1位カルロス・アルカラスがレジェンド中のレジェンド36歳の王者ノバク・ジョコビッチを破って初優勝(四大大会では去年の全米以来2度目の優勝)。いや〜、すごい試合でした。ウィンブルドンでロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ジョコビッチ、アンディ・マレーのBIG4以外の選手が優勝するのは、フェデラーと同世代の2002年レイトン・ヒューイット以来21年ぶりのこと。フェデラーが引退し、ナダルも来年の全仏で引退予定。マレーはランキングを落としながらも現役を続けてますが、これも時代の変わり目なのかな。奇しくも車いすテニスの男子シングルスでも世界ランク1位17歳の小田凱人が全仏に続き初優勝。国枝慎吾が去った後の車いすテニス男子に君臨し始めてます。こうして歴史は紡がれていくのでしょう。
さて、徹夜城さんが『どうする家康』で最初から信長・秀吉が悪者っぽいのを近年の傾向かと仰ってましたが、僕は特にそんな印象──信長・秀吉がワルっぽく描かれるのが近年の傾向という印象──を持ってなかったので少々意外に感じました。まあ、それだけ僕が信長・秀吉・家康が出てくる近年の作品を観てないってのもあるんですが(笑)、映画『レジェンド&バタフライ』(2023年、信長=木村拓哉、秀吉=音尾琢真、家康=斎藤工)のように観ていなくても信長が(たぶん秀吉も)ワルには描かれてないだろうなと察せられるような例もありますしね。
てなわけで10年代以降の映画・ドラマで信長・秀吉がどんな感じに描かれてるかをちょっと調べてみました。なお史実系の作品ばかりでなく完全創作系の作品も含めてますが、一般人(視聴者)のイメージを考える上ではそういう作品も考えるべきだと思うので含めてあります。まずNHK大河ドラマですが、信長・秀吉が登場したのは『江』(2011年、信長=豊川悦司、秀吉=岸谷五朗、家康=北大路欣也)、『軍師官兵衛』(2014年、信長=江口洋介、秀吉=竹中直人、家康=寺尾聰)、『真田丸』(2016年、信長=吉田鋼太郎、秀吉=小日向文世、家康=内野聖陽)、『おんな城主 直虎』(2017年、信長=市川海老蔵、家康=阿部サダヲ)、『麒麟がくる』(2020年、信長=染谷将太、秀吉=佐々木蔵之介、家康=風間俊介)というラインナップ。このうち『江』と『官兵衛』はあまり観てなくて、『麒麟』も信長登場前にリタイア。『真田丸』は初回が本能寺で信長は(光秀も)ゲストキャラ的な登場。信長が光秀を足蹴にする定番シーンがありましたが、出番がわずかだし本筋の話でもないんであえて定番にしたんでしょう。秀吉についてはその暗部もかなりじっくり描いてましたが、事実上の天下人になってからの登場でしたからね。『直虎』は前回書いた通り信長は築山殿・信康事件との絡みで登場し、物語も家康サイドの話なので悪役回り。ただ海老蔵演じる信長は暴君というよりも何考えてんのかわかんない不気味さのほうが先に立ち、今一つ性格付けがはっきりしなかった印象です。
ではそれ以外の映画やドラマではどうか。映画『のぼうの城』(2012年、秀吉=市村正親)の秀吉はワルではありませんでした。映画『清須会議』(2013年、信長=篠井英介、秀吉=大泉洋)は未見ですが、秀吉はちょっとワルな感じだったのかな。マンガ原作のタイムスリップドラマ『信長のシェフ』(2013〜14年、信長=及川光博、秀吉=ガレッジセール・ゴリ、家康=カンニング竹山)の信長・秀吉(&家康)はいずれもワルではなく、ワルっぽかったのは光秀(稲垣吾郎)。やはりマンガ原作のタイムスリップドラマ&映画の『信長協奏曲(コンチェルト)』(2014〜16年、信長=小栗旬、秀吉=山田孝之、家康=濱田岳)も未見ですが、現代のヤンキー高校生(小栗2役)がタイムスリップし、実は気弱な青年だった本物の信長に頼まれて入れ替わるという話。本物の信長は失踪した後、光秀となって舞い戻り主人公をサポート。秀吉がワルで本能寺の変を仕掛けるという設定だったようです。タイムスリップ映画『本能寺ホテル』(2017年、信長=堤真一、秀吉=永野宗典)も未見ですが、本能寺の変直前にタイムスリップした主人公の女性(綾瀬はるか)が信長を救うために奔走するという話なので信長はやはりワルではないでしょう。映画『3人の信長』(2019年、信長=TAKAHIRO・市原隼人・岡田義徳)も完全なフィクション作品。金ヶ崎の戦いから敗走中の信長が今川軍の残党に3人も捕まるが、3人はいずれも自分こそが本物だと主張するというコメディで、善人とか悪人という軸の話ではないようです。これまたマンガ原作のタイムスリップ映画『ブレイブ 群青戦記』(2021年、信長=松山ケンイチ、木下藤吉郎=池田純矢、松平元康=三浦春馬)も未見で、三浦春馬の死後に公開された映画の1本。スポーツ強豪高校の生徒が学校ごと桶狭間の戦い直前にタイムスリップし元康とともに信長と戦うことになるという話で、信長は主人公たちの敵だからワルの可能性もあるのかな? 映画『信虎』(2021年、信長=渡辺裕之)は良くも悪くも一般的な信長像でしたかね。ドラマ『新・信長公記 クラスメイトは戦国武将』(2022年、信長=King & Prince・永瀬廉、秀吉=なにわ男子・西畑大吾、家康=小澤征悦)もマンガ原作で、未来の日本で戦国武将のクローン高校生がヤンキー高校のテッペンを巡って争うというぶっ飛んだストーリー。おそらくはあえて定番のイメージとはずらしており、信長は喧嘩は強いがテッペンは目指さない穏やかな性格、秀吉はお調子者で頭脳派だが喧嘩は弱く、家康は喧嘩最強のラスボス級と言った感じでした。
というわけで信長・秀吉がワルな作品ももちろんあるものの、ワルではない作品もそれなりにあって、結局のところ作品によるという感じ。主人公との関係性や物語中での立ち位置によるということになりそうです。
>書評
徹夜城さんがTwitter(リアルタイム検索で見た)で触れてた垣根涼介の小説『極楽征夷大将軍』の書評が地元地方紙に載ってました。書評を書いてたのは呉座勇一で、かなり高く評価してましたね。
#11361
バラージ 2023/07/14 21:44
信忠の野望
Yahoo!のリアルタイム検索でTwitterアカウントのIDで検索すれば当該アカウントのツイートが表示されることがようやくわかりました。アナログ人間なもんでね。しかしめんどくさいなぁ……。
一昔前に築山殿・信康事件について、信長が自分の嫡子信忠より信康のほうが優れているので織田家の将来を危惧し、武田家への内通疑惑を好都合として信康を殺すよう家康に命令したという説がありました。最初にその説を知った時には、んなアホな、いくらなんでも無理があるだろと思ったんですが、これは中世史学の権威だった高柳光寿が1962年の著書で唱えた説とのこと。ただしこの説はほとんど推測で成り立っており史料的根拠に欠けるらしく、前回書いた通り築山殿・信康の処分は信長の命令ではなく家康の意向だったことが明らかになっているため現在では全く否定されています。
信康より2歳年上の信忠は、信康が死ぬ4年前の1575年頃にはすでに信長から独立した別動隊を任されるようになっており、1576年には信長から織田家の家督を譲られて(信長の後見を前提としながらも)美濃・尾張2国の支配を任されたうえに、1577年頃からは信長に代わって総帥として諸将の指揮を執るようになっていたとのことで、信康が家康から岡崎城主とされたものの文書をほとんど発給していない名目上の城主で、なおかつ家康の与力としてしか従軍していないことを考えると信忠のほうが遥かに優秀だった。むしろ「行状が悪く、家臣が苦労した」と言われる信康のほうが凡庸な人物だったというのが近年の評価のようです。
そんな信忠ですが、信長とほとんど同時になおかつ別の場所で死んでしまったこともあってか、ドラマや映画ではどうも印象が薄い。僕がそんなに観ていないからというのもありますが、信忠がドラマや映画に出てきた記憶があまりないんですよね。大河ドラマで信忠が出てきたのが、『国盗り物語』(1973年・演じたのは松原守)、『徳川家康』(1983年・子役→森篤夫)、『春日局』(1989年・草見潤平)、『信長』(1992年・子役×3→東根作寿英)、『秀吉』(1996年・子役→西川忠志)、『利家とまつ』(2002年・日野誠二)、『功名が辻』(2006年・今市直之)、『江』(2011年・谷田歩)、『軍師官兵衛』(2014年・中村倫也)、『真田丸』(2016年・玉置玲央)、『麒麟がくる』(2020年・子役×2→井上瑞稀)。さすがに『国盗り〜』や『信長』には出てきたみたいですが、初期の『太閤記』(1965年)には出てこなかったんですね。信長人気で本能寺が2ヶ月も先送りされたってえのに。僕が初めて全話観た『おんな太閤記』(1981年)にも出てこなかったのか。確かに信長の切腹シーンや秀吉が清洲会議で三法師を抱っこしてるシーンの記憶はありますが、信忠の記憶は全くない(信雄や信孝は出てきたみたいだけど)。ま、信忠が出てきた『徳川家康』も全話観たはずなのに信忠の記憶は全くないんですけどね。そもそも演じてる俳優のほとんどが知らん人ばっかりなんだよなあ。わかるのは西川忠志(きよし師匠の息子。ちなみに信雄役は弟の西川弘志だったらしい・笑)、中村倫也(当時はまだブレイク前だったはず)、玉置玲央(初回が本能寺だったけどやはり信忠の記憶なし)くらい。それでもWikipediaを見る限り、10年代以降の作品ではそれなりに出番もあったようではあるんですが。
では、それ以外のドラマや映画における信忠登場作品はというと、歴史映像名画座収録作品では、映画『続・忍びの者』(1963年、千石泰三)、連ドラ『おんな風林火山』(1986年、子役→松村雄基)、単発ドラマ『国盗り物語』(2005年、芹沢秀明)、映画『清須会議』(2013年、中村勘九郎)といったあたり。そうか! 『おんな風林火山』では主役(もしくは準主役)だったんだ。でも第1話だけ観た記憶があるんだけど内容はほとんど覚えてないんだよな。『続・忍びの者』も観たけど信忠の記憶は全く無し。名画座未収録作品では、連ドラ『徳川家康』(1964年、竹田公彦)、単発ドラマ『天下を獲った男 豊臣秀吉』(1993年、子役→野村宏伸)、単発ドラマ『織田信長』(1994年、斉藤隆治)、単発ドラマ『敵は本能寺にあり』(2007年、植栗芳樹)、単発ドラマ『信長燃ゆ』(2016年、早乙女太一)。うーん、どれも観てない。ちなみに役者でわかるのは松村雄基、野村宏伸、中村勘九郎、早乙女太一。『レジェンド&バタフライ』や『どうする家康』にも信忠は出てこないようだし、たけし監督の『首』にいたっては最初の前提から信忠のことなんててんで無視しちゃってる設定なんだよなあ(笑)。
>録画やDVDで観た歴史関連映画
『チェルノブイリ1986』
去年公開されたロシア映画。タイトルからわかるように、1986年にソ連で起きたチェルノブイリ原発事故を描いた映画で、水蒸気爆発を防ぐために高温の水中のバルブを開いた消防士とその妻子らを主人公としていますが、基本的に登場人物と細かなストーリーは全て架空と最初に断りが出てました。それでも原発事故の恐怖は存分に描かれていて、なかなかよく出来た映画でしたね。ちょっと美談っぽいところのある映画ではありますが、悲劇性や体制批判の要素も含まれてましたし。チェルノブイリ原発事故というと僕の高校時代。当時も大変なことだとは思いましたが、何しろ高校生だったからなあ。それにしてもまさかそれから25年後に福島で同じようなことが起こるとは当時は思いもよらなかったですね。当たり前だけど。
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
去年公開された米国映画。本国では2020〜21年のコロナ下で公開が見送られ、配信のみになったとのこと。黒人女性ジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイの後半生を描いた作品で、連邦麻薬局の標的にされた1947年から、1959年に44歳で世を去るまでを描いています。南部の黒人リンチを歌い、大衆に大きな影響を与えたヒット曲「奇妙な果実(Strange fruit)」をホリデイに歌わせないために麻薬局が麻薬所持で別件逮捕するという筋立てなんですが、麻薬局が麻薬を取り締まるのは当たり前の話で「奇妙な果実」を歌わせないためというのはちょっと無理がないか?と思ったら、やはり原作であるヨハン・ハリのノンフィクション『麻薬と人間 100年の物語』には事実関係が誤っているとの批判があるようです。それを抜きにしても物語がやや散漫で焦点を絞りきれてない感があり、悪くはないがもう1つといったところ。ホリデイを演じる、これが演技初挑戦というR&B歌手のアンドラ・デイはなかなか良かったんですが。
#11360
バラージ 2023/07/08 20:16
ドラマはドラマだ
村上春樹の『街とその不確かな壁』を読了しまして、深い感動に包まれている今日この頃です。アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も面白かったし、余は満足じゃ。
さて、『どうする家康』の築山殿・信康事件、またえらく豪快というか破天荒というか途方もない創作をぶちこんできましたねえ。視聴者からも賛否両論のようですが、僕もいくらなんでもと思う一方で、大河ドラマ(に限らず歴史もの全般ですが)はその時その時で派手なフィクションぶちかましてきたからなあとも思わないでもなかったりして。『花の乱』なんてもっとすごかったですしね。
『どう家』での瀬名(築山殿)の東国大同盟構想というフィクションは置いとくとして、築山殿・信康事件についての近年の研究の進展についてちょこっと書いてこうかな。#11314でも書きましたが、一般的には家康は信長の命令で仕方なく築山殿を殺し信康を切腹させたというのが通説として流布しており、今回の『どう家』でも基本的にはその線で描かれてました(まぁ家康が主人公で瀬名も信康もいい人で夫婦仲も父子仲も良好ということにするとそうせざるを得ないし、逆に信長が絵に描いたような暴君なら絶対そうなるだろうなというのは予想できたところではありますが)。しかし以前も書いたように、この説は現在ではほとんど否定されてるんですよね。
信長の命令説は『三河物語』によるもので、その後の徳川系史料もそれを踏襲しているそうですが他の多くの史料の記述とは矛盾しており、『三河物語』の著者の大久保彦左衛門は信康や家康をかばうあまり信長や五徳や酒井忠次に責任を押し付けたと近年では考えられています。『安土日記』(『信長公記』で最も古態を保った版本)や『当代記』といった比較的信頼性の高い史料によると、1579年7月に家康は信長のもとに忠次を使者として送り、「信康は日頃から家康の命令に背き、信長をも軽んじ、家臣以下に非道なことを行っている」と報告しています。信長は「それほど父や臣下に見限られているようではやむを得まい」として「家康存分次第(家康の思う通りにして良い)」と返事をしたとのこと。ここから近年では家康が信康の廃嫡・処断について、信康の舅で自らの事実上の主君である信長に事前に報告して了解を求めたと考えられています。
90年代に通説への疑問の先鞭をつけた典厩五郎氏は、家康の浜松家臣団と信康の岡崎家臣団に対立があり、岡崎家臣団による家康追放・信康擁立のクーデター計画があったとする説を唱え、00年代になって谷口克広氏がその説を支持し、より深く考察していました。また典厩氏は信康や築山殿の不行状や乱行についても家康の行為を正当化するために築山殿や信康を貶めようとした曲筆だとしていましたね。
10年代に入るとさらに研究が進展し、#11347で触れたように大岡弥四郎事件に築山殿が関与していたことが、より信頼性の高い史料の記述から明らかとなり、一旦は否定された武田通謀説が再びクローズアップされます。また信康の不行状や五徳との不和、家康と築山殿の不仲も、比較的信頼性の高い『家忠日記』『松平記』『当代記』『岡崎東泉記』『石川正西聞見集』といった史料にも記されていることから、ある程度は事実と見なされているようです。柴裕之氏(『どう家』の時代考証でもある)は徳川家中の動揺を抑えるために大岡弥四郎事件は最小限の処分で終わったため、その後も築山殿・信康や岡崎家臣団は武田氏に通謀し続けていたとしており、本多隆成氏は信康事件において処分された岡崎家臣団がいないことから、家康も岡崎家臣団の武田氏への通謀を警戒して善後策を講じたはずで、その後も武田氏に通謀し続けていたのは築山殿だとしています。黒田基樹氏は五徳による父信長への書状で大岡弥四郎事件における築山殿の武田氏への通謀が発覚し、信長への忖度から家康は築山殿・信康を処断したとしており、平山優氏(『どう家』の時代考証)は発覚の後に築山殿・信康は三河衆への多数派工作を行い武田氏に支援を求めてクーデターを決行しようとしたとしており、基本線では諸氏一致しているものの細かい部分で意見が分かれた状況。なお築山殿の最期については殺害と自害の両説があり、黒田氏は最も同時代に近い史料の『石川正西聞見記』で移送中に自害としていることから、家康は処刑や自害命令ではなく終生幽閉とする意向だったが築山殿はそのような恥辱に耐えられず自害したとしています。
さてドラマのほうの話ですが、『どう家』脚本の古沢良太氏は同じ時代を舞台とした今年公開の映画『レジェンド&バタフライ』の脚本も書いてます。僕は結局見逃しましたが、そっちは信長主人公だから『どう家』のような暴君信長ではないはず。各人物像は『レジェバタ』と『どう家』ではかなり異なるものと思われます(なにしろ『レジェバタ』じゃ光秀が宮沢氷魚くんですからね・笑)。確か古沢さんはインタビューか何かでもともと歴史にはそれほど興味がなかったと言ってた記憶があり、おそらく脚本を書くに際しても歴史の側からではなく物語の側から考えているはず。だから同じ話、前にあった話をもう1回やっても面白くないと、同じ人物を作品によって全く違うキャラクターにしたり、過去の作品にあったような築山殿悪女説も採用していないんではないかと思われます。歴史は物語の素材・材料ぐらいに考えて、かなり自由に創作してるんじゃないかなあ。
自由な創作は当然だしそれがどうこうというわけではなく、ドラマや映画全般の話として築山殿・信康事件が描かれると必ず信長の命令で家康は仕方なく……という展開になっちゃうのがなんとも。上記の通り近年の研究では家康自身の意向で妻子を処分したというのが通説になりつつありますが、家康が主人公もしくは主人公側の人物となるとその線では描きにくいのも当然ではあるとは思います。1983年の『徳川家康』は築山殿悪女説と書きましたが処分自体は信長の命令で、他の山岡荘八原作ものも多分そうでしょう。大佛次郎の新作歌舞伎『築山殿始末』が原作の1961年の映画『反逆児』も築山殿悪女・信長の命令・信康被害者のパターンのようです。僕が観た2008年のテレ朝単発ドラマ『徳川家康と三人の女』では築山殿が善人の信長命令説。2017年の『おんな城主 直虎』でも同様のパターンで、こっちが最近の傾向か。
では信長側が主人公の作品ではどうかというと、1992年の大河『信長』はやはり信長の命令パターン。それまでの通説に疑問が出されたのは90年代半ば頃からなので、まだそれ以前の作品なんですね。96年の大河『秀吉』もやはり信長の命令パターンだったようです。じゃあ00年代以後ならどうかというと、『利家とまつ』『江』『麒麟がくる』といったあたりもやはり信長命令説だったようで、家康意向説の作品がないんだよな。てなわけでもし今後信長主人公大河が作られるなら、築山殿・信康事件についてはぜひ信長命令説ではなく家康意向説の描写にしてはどうでしょうかね。
話変わって、方々で話題ですがtwitterがログインしないと見れなくなってしまいました。でも俺twitterやってないんだよな。今回の書き込みをするにあたって桐野作人氏のtwitterを見ようとして、ああ、そうか、twitter見れないんだと改めて思い出し、Yahoo!のリアルタイムでそれっぽい検索ワードで探したんだけど、検索ワードがヒットするかしないかは一か八かだし、すっけえ遡らなきゃならないから超面倒。ったくイーロン・マスク、ろくなことしねえな。
>史点
これ、結構多くの中国史ファンが連想したみたいですが、ワグネルが囚人を動員して戦力にしてると聞いて、秦末の章邯かよと思っちゃいましたね。本宮ひろ志のマンガ『赤龍王』で知った人物で、陳舜臣の『中国の歴史』や『小説 十八史略』にも出てきましたが、紀元前200年頃から今に至るまでずっとそういうのってあるんだな。まぁ章邯の場合は国内の反乱軍平定が目的なんでワグネルとはだいぶ違いますが。
前にも書きましたが、僕はロシア・ウクライナ戦争はソ連のアフガニスタン侵攻やベトナム戦争同様に、最終的には侵攻側の撤退で終わるもののそれまで10年は続くんではないかと思っています。あまり愉快な推測ではありませんが。
#11359
ろんた 2023/06/26 18:13
安倍神像神社と乾坤通宝
「安倍神像神社」と聞いて「なんじゃ、そりゃあ?」と思った方、安心してください、私も思いました(笑)。
この神社、吉水神社(奈良県吉野)の名誉宮司・佐藤素心氏が長野県で建立に動いているもので、先ごろ(06/25)上棟祭が行われたとのこと。祭神は天照大神とそれ以前にいた17神、そして「安倍晋三大人命」(あべしんぞううしのみこと)。神社名が変換ミスみたいなんで、遺族の許可とか無しにやってるのかと思ったら、昭恵さんには了解してもらったらしい。名前の由来は、安倍さんの銅像(神像)をご神体にするから。佐藤氏のブログを見ると、「神社」という言葉から想像するより規模が小さくて、祠の大きいのという感じ。ただ鳥居や柱が白樺なのが目を引く。近くに白樺の林でもあるのか、別名、白樺神社。なぜ長野県かといえば、ご本人の移住先らしい。宗教法人には……なってないんだろうなぁ。
ただ「なんじゃ、そりゃあ?」と思った後、「佐藤素心」という名前を見て「ああ、なるほどなるほど」と納得してしまったのでありました。氏は、口の悪い人からは「電波系ウヨ」などと言われている人。まあ、その政治思想は別にしても、めちゃめちゃに思い込みが激しい。わたしがこの方の名を目にしたのは、『南朝迷路』(高橋克彦/文春文庫)を原作にした二時間ドラマ「塔馬教授の天才推理 隠岐島の黄金伝説殺人事件」(フジ系)がBSで放送された時。この作品、幻の乾坤通宝をめぐって連続殺人が起こるというストーリーで、氏も本人役で出演されています。それでブログにたどり着いたわけですが、この方、乾坤通宝は実在する、一枚数千万円から一億円の価値がある、と主張していたのでありました。さらに「『乾坤通宝(けんこんつうほう)』の黄金伝説の謎」と書いてるんで、金貨だと思い込んじゃってるみたい。いやぁ「××通宝」だったら銅銭だと思うんだけど。また、伝説としながらも「……後醍醐天皇が懐良(かねなが)親王や宗良親王など各皇子に軍資金として持たせて、各地に下向させたそうです。」としている。いや、軍資金なら砂金とか金の延べ棒にしたと思うよ。ちなみに吉水神社には、乾坤通宝をかたどった金運のお守りがあるそうです(500円)。もちろん乾坤通宝(当たり前だけど模造)は金ぴか。
そうそう、ドラマのOPでぴかぴかの乾坤通宝がCGで出てきたんで、(うわぁ、真に受けちゃってるよ)と思ったんだけど、ドラマの終盤、ちらっと出てきたやつは緑青が浮いてたんで安心したのでありました。
>バラージさん
『転生したらスライムだった件』はアニメを見てましたね。持ち上げすぎだとは思うんですけど「小説で国家をやる」(筒井康隆)な感じがあって面白く見ました。遡ると多分、ガルシア・マルケスまで行くかも? 主人公が反則的に無双なのは、エンタメだから許しちゃう。さすがに小説やコミックスは追いかけられませんが、すごくたくさん出てるから。
歴史世界への転生が「なろう系」の変形というのはその通りだと思いますけど、もう一つ、SFのタイプスリップ物からの流れもありそうな。こちらには『アーサー王宮廷の(コネチカット・)ヤンキー』(マーク・トウェイン)以来の伝統があるし。日本で最も有名なのは『戦国自衛隊』(半村良)かな。あと、「転生」だとタイム・パラドックスとか「歴史は我々に何をさせようとしているのか」とか考えなくてもいいし(笑)。
>「金四郎の妻ですが」
結局、本屋で見かけたんで買ってしまった(汗)。印象に残った点とか疑問点を少々書き出してみます。
・金さんの住まいは浅草諏訪町、大川端の船宿「舟八」の二階。諏訪町は雷門から蔵前の間に実在。
・金さんの桜吹雪は時代劇的にがっつり彫られている。右肩口に髑髏。
・桜吹雪を入れ墨と言っているのはNGじゃなかろうか。ああいうのは「彫り物」じゃなかったか。
・金さんが蛮書和解御用の訳した「ショメール」を読んでいる。ショメールは実は著者名。フランスの家庭百科でオランダ語からの重訳か。
・けい、武家娘として登場する場合は髷を結っているが、町人の場合は髪を下ろしている。
・けいが父からもらった当座の生活費が二百両。この当時だと一千万円ぐらい?
・金さんは自称遊び人。博打が弱い(笑)。生計は、町人からのよろず悩み事相談で立てている模様。
・陸尺屋敷に岡場所があるのは史実らしい。ルビは「りくしゃく」だけど正しくは「ろくしゃく」。陸尺は行列の駕籠を担ぐなどの下働き。陸尺屋敷とは彼らを支配する陸尺方が拝領した地所。拝領地は長屋を作って店賃を取る権利が認められていた。町人の住宅対策兼御家人の窮乏対策か。でも、そんなところで岡場所やって怒られなかったんだろうか(笑)。
・岡場所のお姉さんが外を出歩いているのはどうなんだろう?
・岡場所のお姉さんの風俗が、なんか吉原っぽい。もっとお手軽感があったんじゃないだろうか。岡場所の内部も同様。
・「銭湯」って言ってるけど、湯屋じゃなかろうか。しかも、混浴じゃなくて、半蒸し風呂でもないみたい。
・奉行所の同心が小者を連れているのは考証としては正しいのかな。ただ、御用聞きの親分も出てくる。
・火盗改めが泥棒の盗み金を没収して経費にあてる話が出てくる。この人たち、現代でいうとMPだから役料に経費が含まれちゃってるのかな。それでは足りないということか。奉行所は民警だから経費は別立て?
時代劇的な遊びは気にならないけど、史実を取り込もうとすると「?」となって調べて文句を言ってしまうのは……読み手が悪いんだな、きっと。作品は面白いです。やっぱ、BS時代劇でやろう!
#11358
バラージ 2023/06/21 13:16
またまた源平映画
『新・平家物語 義仲をめぐる三人の女』
DVD化されてないんですが、観てない源平映画を観ちまおうってことでまたもネットでVHSレンタル。木曽義仲を主人公として礪波山の戦い(倶利伽羅峠の戦い)直前から義仲の最期までを描いた作品ですが、義仲が主人公の映画やドラマは珍しく、多分この映画くらいなのでは? まず、これは映画の内容ではなく保存状況の問題ですが、フィルムが全編黄色く変色してしまっており非常に見にくい。最初、ずっと夕焼けのシーンなのかと思ってしまったほどです。これじゃこのままDVD化するのは確かにちょっとなあ。かといってリマスターするほどの作品でもないし。
内容については去年再放送された『人形劇 平家物語』を観たんで大まかなあらすじはわかっちゃってるんですが、2時間の映画に収めるためなどもあってかちょこちょこ変えてあります。まずタイトルを見てもわかるように、義仲をめぐる女は巴、葵、山吹、冬姫の4人だったはずが2時間の映画に4人のヒロインは多すぎるってことか葵がカットされて3人に。女が1人減ったせいもあるかもしれないけど、昼メロみたいにドロドロだった人形劇に比べるとこちらの女性関係はえらく薄味というかあっさりとした描写に終始しており、女たちもバラバラに義仲に接触するので女の争いもほとんどありません。人形劇のドロドロ昼メロ展開に辟易したんで個人的にはこっちのほうがいいんですが、タイトルになってるわりには女たちの話が中心という感じではないんですよね。義仲役も何しろ長谷川一夫なんで端正で折り目正しく、純朴ながらひたすら紳士的だし、田舎者と言ってるわりには全然木曽の山猿っぽくなくて少々ミスキャストです。ストーリーも上映時間か予算の関係上かいろいろと端折っており、礪波山の戦いと篠原の戦いは礪波山に一本化して斎藤実盛のエピソードもそちらで処理されてます。『源平盛衰記』が基ネタの火牛戦術は実写では難しかったようで、『平家物語』にあるような夜襲で平家軍を打ち破ってました。上洛後、後白河法皇の命令で西海の平家討伐に向かう話もなく、義仲は京都に居っぱなし。終盤はかなりのオリジナル展開で、女性への狼藉を義仲に叱責された楯親忠がなぜか後白河方に寝返っちゃうし、太夫坊覚明が動向の怪しい源行家を切り殺して、頼朝と戦うなという諫言を残し自害しちゃうなど、かなりのビックリ展開。義仲の最期も定番とはだいぶ違います。そういや覚明役の大河内傳次郎、この映画でははっきり台詞をしゃべってたなあ。『虎の尾を踏む男たち』では何言ってるかほとんどわかんなかったのに。
全体としては義仲の半生を通り一遍に描いてみましたという感じの、題材や俳優に興味がない人には取り立てて観るべきところのない凡作。昔の映画にありがちな芝居や編集の間をたっぷり取ったもったりとしたペースの映画でちょっと疲れます。合戦シーンやチャンバラもいまいちで、退屈するほどではないけれど面白いわけでもないといった可もなく不可もなくの凡作でしたね。
『新・平家物語 静と義経』
『新・平家』映画化の3作目。こっちはVHS化されなかったんだけどなぜか激安DVD化はされてるんで、ネット通販で他の買い物ついでに購入しました。やはり画質は良くありませんが『義仲〜』よりはマシかと。
一ノ谷の戦い後の義経京都駐留中から、西海に出陣して平家を滅ぼすも頼朝との対立により都落ちし、逃亡中に義経と別れた静御前が捕らえられて頼朝らの前で舞を舞うまでの話。タイトルも静が先だしクレジットも静役の淡島千景のほうが先なんでどっちかっていうと静が主人公の話なのかと思いきや、わりと終盤手前まで普通に義経主人公といった感じ。逃亡中に静が義経と別れ、義経が物語から退場したあたりからようやく静主人公という感じになります。まあ原作もありますし、静中心に話を展開するのは難しかったんでしょう。ただ僕の苦手な典型的判官贔屓展開なことに変わりはなく、なんだかな〜と思いながら観ました。それにしても『新・平家』映画は3作とも主人公がくよくよ悩んでばっかりだな。『義仲〜』でうっかり殺されちゃった行家(笑)ももちろん再登場。『義仲〜』でもこちらでもずっと足を引きずってますが、吉川の原作ではそういう設定なのかな? 画作りは『義仲〜』よりも良く、奥行きのある壮大な時代劇という感じではあります。屋島の戦いも時代劇海戦としては今じゃ考えられないような物量ですがシーン自体は短く、しかも屋島で平家は滅亡しちゃうんだよな。逆に義経が都落ちしてからがやたら長く、正直ちょっと退屈。監督の島耕二はキャリアを見てもあまりこういう合戦チャンバラ映画は撮っておらず、そういうのには興味がなかったのかもしれません。音楽の使い方とかもどことなく文芸作っぽい雰囲気が感じられましたね。僕がこの人の監督作で観たのは戦前の『風の又三郎』だけで、そっちはなかなか面白かったです。俳優たち、特に男優陣も良くない。義経役の菅原謙二がパッとしませんし、頼朝役の上原謙も線が細く弱々しすぎ。主演の淡島も今一つです。やっぱりこっちも凡作かなぁ。
さて、これで源平映画も観れるのは一通り観ちゃいましたかね。個人的には東映時代劇映画(『富士に立つ若武者』『源九郎義経』『曽我兄弟 富士の夜襲』)が単純な娯楽映画的で1番楽しめたかな。
>追悼 平岩弓枝
小説家・脚本家の平岩弓枝さんが亡くなられましたね。91歳とはこれまた御長命で。永井路子さんといい、やはり女性のほうが長寿なのかな。平岩さんの代表作といえば『御宿かわせみ』シリーズと『はやぶさ新八御用帳』シリーズですが、時代小説ばかりではなく現代小説も数多く書いてましたね。といっても僕が読んだのは、鎌倉2代将軍頼家の時代を背景に頼朝の御落胤(架空人物)を主人公とした伝奇小説『かまくら三国志』と、足利義満を主人公とした歴史小説『獅子の座』ぐらい(脚本作品も僕が観たのは多分NHK大河ドラマ『新・平家物語』(の総集編)だけ)。『獅子の座』はいまいちでしたが、『かまくら三国志』はなかなか面白かったです。やっぱり平岩さんは架空人物主人公のほうが本領だったのかな。ご冥福をお祈りします。
>異世界転生
あ〜、ろんたさんの挙げておられるマンガのうち2作は完全に今流行りのいわゆる異世界転生ものですね(「なろう系」とも呼ばれてるようです)。僕も全然くわしくないんですが、『転生したらスライムだった件』というライトノベルが大ヒットしてその存在を知りました。特に興味がなくてもその頃からその手の作品が時々目に入ってくるんですよ。転生するのはだいたいファンタジー世界のようですが、それを過去の歴史世界にしたのが変化球というか、あまりに作られ過ぎてブームも飽和状態になってきたのかも。下火になる前兆かもしれませんね。まあ、どうでもいいけど(笑)。
#11357
ろんた 2023/06/17 07:05
またマンガの話かよ!
──とセルフ・ツッコミを入れつつも、見つけちゃったんだから仕方がない、と開き直ってたりして(汗)。しかし、歴史マンガや時代マンガが掲載されているということは、若い衆が時代物や歴史物が嫌い、というのは眉唾かな。やっぱり、時代劇が地上波から消えたのは制作費の問題か。ということでご紹介。今回は「月刊少年チャンピオン」。
・「斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!」(原作:巽未頼 宝島社/漫画:田村ゆうき/キャラクター原案:マキムラシュンスケ)
タイトルだけで全部わかっちゃう気がしますね。第6回ネット小説大賞受賞作のコミカライズ。ブラック病院で倒れた医師(37)が目覚めると、そこは戦国時代。しかも、マムシの道三(まだ利正)の息子・斎藤義龍になっていた。もうブラックに生きるのは嫌だ、とホワイトに長生きすべく歴史を改変する話。しかし斎藤義龍はまだ少年で、信長は全然出てこない。そして、道三の国盗りが親子二代になってる。私が読んだ連載回は天文5(1536)年。美濃では土岐政頼が追放され、頼芸が守護に。大内義隆が九州探題の渋川氏(これ『逃げ若』の渋川の子孫だな)を滅ぼし大友氏と合戦したりとイケイケ。真宗の内部抗争や天文法華の乱の顛末が語られ、松平清康が殺され(森山崩れ)、今川家は義元が家督を継ぐかどうかでもめてたり(こんなことばっかりしてるな、今川)と、各地の情勢もしっかり語られる。ただ、戦国時代の少年の中身が現代の医者(37)になってるんで、だんだん周囲の不審が強くなってる模様。「狐憑き」を疑われ、正体がはっきりしたら殺す、とか道三(まだ利正)に言われちゃってる。あと作中の地図、遠江の隣が相模になってんぞ!(笑) 単行本は2巻まで。3巻は7月発売。
・「金四郎の妻ですが」(原作:神楽坂淳 祥伝社文庫/漫画:迫ミサキ/協力:河合敦)
こちらは時代劇。直参旗本四千石・堀田一定の姫・けいは、嫁に行け、と父から切り出される。あまりにも唐突なので事情を聞くと、相手は長崎奉行・遠山景晋の長男・金四郎。父はこの金四郎を買っているようだが、継承問題のゴタゴタを避け江戸市中で遊び人として暮らしているという。金四郎は町人なのか武士なのか、自分は町人の妻になるのか、と混乱するけいに父は、押しかけ女房となって金四郎を武家社会に連れ戻せ、と申し渡す。ためらうけいだったが、これは勝負だ、と持ち前の負けん気を煽られて引き受けてしまう。読本でしか江戸の町を知らないけいは戸惑うばかり。そんな中、やっと出会った金四郎は、意外にも江戸市民に慕われ頼りにされており、厄介な相談事をされることもしばしば。その中には、大事件に発展するものもあり……。ということで「遠山の金さん EPゼロ」といったところですね。金四郎の妻が出てくるというと西郷輝彦と松坂慶子の「江戸を斬る」(TBS)があるけど、前にも書いたようにこちらは徳川斉昭の娘。しかも史実では斉昭より金四郎の方が年上なので、まったくのフィクション(笑)。それに対して、金四郎の妻が堀田一定の娘・けいというのは史実らしく、どうも文化6(1809)年から文化11(1814)年の話ということになりそう。妻女の名前が残っているのは珍しいなぁ。まあ、時代劇を考証しても仕方ないけど(笑)。NHKのBS時代劇でやっても面白いかも。単行本は2巻まで。原作小説は3巻まで。
さらに、あらすじ書くのに秋田書店のHPに行ってみたら、こんなのもありました。他にもamazonとかには同工異曲のマンガ多数。流行ってるのか?
・「織田家の長男に生まれました 〜戦国時代に転生したけど、死にたくないので改革を起こします〜」(原作:大沼田伊勢彦 宝島社/漫画:逸見兎歌/原作キャラクター:平沢下戸)
21世紀の日本から戦国時代に転生してしまった主人公。成長するにしたがって、自分が"尾張の虎"こと織田信秀の長男だと気づく。俺って織田信長? と早合点するが、実は母が側室なので嫡男になれなかった、地味な織田五郎三郎信広だった。やがて迎えた初陣で安祥城を陥落させるなど武功を上げ、海道一の弓取りの異名を持つ大大名・今川義元との「第一次小豆坂の戦い」が始まる! 信広はさらなる武功を立て織田家に貢献できるのか!? 尾張・三河での戦いの混乱の中、信広は意外なところで意外な人と縁ができて……!? 秋田書店のWEBマガジン「マンガクロス」で連載。原作はネット小説大賞受賞作。信広は伊勢長島一向一揆との戦いで討ち死にするんで、とりあえずそれを回避するのが目標? 現在は対松平・今川の最前線にいるんで──松平との争いを長引かせ体力を削る>後ろ盾として出てくる今川の体力も削る>今川との同盟を武田と北条が回避>桶狭間がなくなる>信長の尾張統一や美濃攻略に余裕ができる──あたりを考えている模様。でもこれだと、武田信玄が駿河に出てきちゃいそうだし、北条に抑えてもらうにしても、上杉謙信vs.北条が始まるんじゃないかと心配している。なんだか、風が吹けば桶屋が儲かるっぽい(笑)。単行本は2巻まで。
>バラージさん
そうか! 英語で検索するのか!!(<カタカナで検索してたバカ(汗)) 近藤華さんについては、子供っぽすぎるとは思ってたんですけどね。それでも14歳には見えなかった。
で、予告編ですが、youtubeに1分半版と2分版がアップされてました。1分半版は字幕なしですが、2分版は英語字幕付き。それによりますと、ラスボスはフビライではなくて、次期皇帝の座を狙う息子みたい。しかし、正室の子、四人のうちの誰かは分からない。っていうか、息子四人のうち三人は早世してて、残る一人は生没年不詳。次の皇帝は孫なんだよな。クトゥルンに殺されてそういうことになった、という話なのかな? それにしても、やっぱり話がよく分からない。
>ワシワシさん
はじめまして。
”築山殿悪評価は江戸時代に発生した。それは戦国時代まで女性が政治に参加し影響を与えたことを、否定することから来る”
う〜ん、ポリコレ勢好みの説ですなぁ(汗)。確かに「雌鶏が時を告げると世が乱れる」なんて話もあるし(出典は何だったかな)、古事記では、天の御柱を回ったイザナミが「ああ、なんていい男だろ」と先に声をかけたからヒルコが生まれたことになってたりして、男尊女卑の考えがあるのは確か。でもあの事件って、はっきりしてるのは家康が正室(築山殿)と嫡子(信康)を処断したことぐらいで、そのほかは推測が多い。しかも江戸時代だと家康は無謬でなければならないので、悪いのは処断された側ということになる。そして次に損な役回りをさせられるのが信長と徳姫。ということで、あまり女性差別は関係なく、淀君が悪く言われるのも同じ理由じゃないかと。今年の大河も最初の方で家康と瀬名がラブラブだったので、信長が大悪人になるぞ、と思ってたらその通りに(笑)。
政子は嫉妬深いと言われるけど、承久の乱の大演説や静御前をかばったのは批判されてないし、日野富子はほかに責任を負わせる人がいなかったんじゃないか(笑)。それに、色々口出ししてたに違いないのに全然悪く言われない人いますよね。北政所。言わずと知れた秀吉の糟糠の妻。加藤清正、福島正則の母親代わりで黒田長政も一時養育していた。勘気を被った清正の赦免にも口をきいてやっていて、武断派への影響力は絶大。「うちの宿六は、長浜のお城を拝領してから女漁りばかりしています。叱ってやってください」とか信長に手紙を出して秀吉を青ざめさせている。秀吉の方も「愛してるのはお前だけだって、ホント」みたいな手紙出している。その趣旨は「名護屋に淀殿を送り出してくれ」だけど。家康も北政所には丁重に接してる。まあ、淀君がボロカスに言われる分、持ち上げられているのかもしれませんが。
#11356
徹夜城(かなり前のCGIのソースを眺めるのが面倒な管理人) 2023/06/16 12:34
時差が生じてます(笑)
うーん、なんでしょうねぇ。先日のメンテナンスでいろいろ変わったのは分かってるんですが(アップロードの方式も変更しましたし)、このサイトで使ってる同じ伝言板CGIが全部時刻がちょうど9時間ずれてます。つまりロンドンのグリニッジ標準時になってるわけですな。さて、どうすると治るんだか。
#11355
バラージ 2023/06/15 13:24
あれ?
書き込み時間の表示がおかしくなってないですか?
昨夜から今日にかけてサーバーがメンテナンス中だったのと関係があるんですかね?
#11354
バラージ 2023/06/15 13:05
信康の名字
いやはや……まだ何とも言えませんが、漏れ伝わってくるニュース情報を見ると、こんなこと言うのもなんですが映画『フルメタル・ジャケット』を連想してしまう……。
さて、『どうする家康』では家康の長男(嫡男)信康の姓が松平で松平信康となっています。実は史料通りなんですが、なぜ姓が父と違うのか? 家康が松平から徳川に改姓したのに嫡男の信康は改姓しなかったのか?という疑問があり、家康の徳川改姓が信康の元服以前であることから、信康も生前は徳川姓の徳川信康だったが後に江戸幕府が徳川姓を将軍家と御三家・御三卿に限り、それ以外の親藩大名は松平姓としたため信康も死後に松平姓に格下げされたのではないかと推測する見方もあったようです。しかし近年、織田信長が家臣の佐久間信盛に宛てた天正3年(1575年)6月28日付書状という一次史料の中で娘婿の信康を「松平三郎」と呼んでいることが明らかになり、家康が徳川姓に改称した後も信康は松平姓のままだったことが判明しました。
実はそのような例は他にも見られ、後北条氏においても2代氏綱が伊勢から北条に改姓した際、嫡男氏康を含めた子弟はしばらく改姓せず伊勢姓のままだったそうです。これは一族庶流の力が強く当主の嫡宗権が確立していない場合に当主のみを屹立させる狙いや、新たな姓が家臣や領民、周辺勢力に浸透し一般性を獲得するまでクッションを置いたなどの解釈がされているようです。
ちなみに『どう家』以前の映画やドラマなどでは信康は徳川信康とされることが圧倒的に多く、大河ドラマ『徳川家康』やTBS大型時代劇『徳川家康』から2017年の『おんな城主 直虎』といった近年の作品までことごとく徳川信康です。これは歴史研究云々というよりも、物語的に父子で名字が違うと現代人の感覚では不自然に感じるし、かといっていちいち理由を説明するのもめんどくさいってことなんでしょう。そんな中、珍しく松平信康としてるのはテレ朝大型時代劇『徳川家康 戦国最後の勝利者』。大河と同じ山岡荘八原作ですが、原作ではどうなっているのかはいまいちよくわからず。また大佛次郎の新作歌舞伎(戯曲)『築山殿始末』を映画化した『反逆児』では三郎信康、テレビドラマ化した『築山殿始末』では岡崎三郎信康と通称を使用しており、おそらくは原作でも松平か徳川かははっきりさせていないようです。
>ワシワシさん
はじめまして。よろしくお願いします。
ご指摘のNHKの番組を僕は観ていないので、はっきりとしたことは言えないんですが、「築山殿悪評価は江戸時代に発生した」のは事実だとしても、「それは戦国時代まで女性が政治に参加し影響を与えたことを否定することから来る」「政治に積極的に参加してたことへの反動的評価」という番組の説については、個人的に全面的には賛成しかねるところがあります。そのような面もあった可能性は否定できませんが、同じように「政治に参加し影響を与えた」女性でも家康の側室の阿茶局や家光の乳母の春日局は悪評価されていませんし、むしろ高く評価されていますからね。築山殿や淀殿が江戸時代に悪評価されたのは単純に家康や徳川家に敵対した人物だったからでしょう。彼女たちの行為も現代の我々から見れば家康とどっちかが悪とか言えるような性質のものではありませんが、徳川政権から見れば家康に敵対した彼女たちは紛うことなき悪のはず。よって彼女たちが江戸時代に悪評価されたのは当然のことと言えると思います。
北条政子や日野富子にも同様のことが言え、江戸時代に儒学の普及の影響から批判されるようになったことも事実でしょうが、そもそも鎌倉時代や室町時代には彼女たちを批判することは政権批判につながりますから憚られたでしょう。鎌倉幕府や室町幕府に忖度する必要が無くなった江戸時代だからこそ自由に彼女たちを批判できるようになったと見ることもできるわけで、それを単純に「政治に積極的に参加してたことへの反動的評価」のみに帰する見解には少々疑問を感じざるを得ません。もちろん政子や富子が優れたところのある人物だったこと自体は否定しませんが、欠点もまた数多くあった人物だったと個人的には思っています。
なお巴御前は『平家物語』などの物語類にしか名が見えない人物なので実在したかは微妙ですが、女武者として活躍した坂額御前という人物が鎌倉幕府の歴史書『吾妻鏡』に出てくるので、そのような女武者が実在したことは確かなようです。
>名画座修正情報の訂正
『大城砦』および『La leggenda di Enea(アイネアスの伝説)』の解説……「『大城砦』の原題は直訳すると「トロイア戦争」ではなく「トロイの木馬」のようです」と書きましたが誤りでした。直訳すると「トロイの木馬」となるのは英語題で、イタリア語原題は「トロイア戦争」で正しかったようです。どうもすいません。
#11353
徹夜城(最初に全編見た大河が徳川家康だった管理人) 2023/06/15 12:48
今年の信長・秀吉と家康
今年の大河の話ですが、あるいは最近のこの時代を扱う作品の傾向というべきかもしれません。
>ワシワシさん
どうもはじめまして。
肩書のところに書いたように僕は最初に全編きっちり見た大河ドラマがその1983年の「徳川家康」だったんで、この作品でいろいろ刷り込まれたことはあります。まぁ当時でも、特に終盤部分で家康擁護というより美化が強引だなと思ったものですが。
築山殿と信康の事件は過去にも多くの「家康もの」で扱われてきましたが、大河「家康」は山岡荘八の原作のせいもあって築山殿悪女観がとくに顕著だったように思います。
先日、改めてその「徳川家康」の第一回冒頭部分を見直したんですが、原作にある文章なんでしょうか、「信長・秀吉・家康の三人は史上まれな友情で結ばれ天下統一平和招来という共通の目的のためにウンヌン」というナレーションがあるんですが、今年の大河はもうそんなこと笑い飛ばすような描写ばかりで。
信長はアブない感じではあるけどカッコよく、秀吉は前半はいいやつだけど後半はひどいやつ、というのが長らく定番だったんですが、今年の大河は家康視点ということもありますが信長・秀吉が序盤からえらくイヤなやつで。これもまた近年の傾向なのかなぁと思いつつ、北野映画の「首」も気になっているところです。
#11352
ワシワシ 2023/06/12 20:24
築山殿の評価
はじめまして。
>1983年版『徳川家康』の築山殿はいわゆる典型的な悪女説だった
→ワタクシが見たり読んだりしたのも、概ねそんな感じだったと思います。
しかし先週土曜のNHKで『どうする家康』後押し番組内では
”築山殿悪評価は江戸時代に発生した。それは戦国時代まで女性が政治に参加し影響を与えたことを、否定することから来る”
ぽい説明がありました。政治に積極的に参加してたことへの反動的評価かと。
北条政子や淀君、日野富子(これは微妙?)など振り返ってみると、ああ確かにそうかも。
鎌倉期前では、”巴御前が男性武士同様に戦ってた”なんてのを思い出すと、
「オトコらしく、オンナらしくあれ」の決めつけが強くなかったのだなあ、なんて感じます。
そして令和になってようやく、その決めつけが緩くなってきたのかも。
#11351
バラージ 2023/06/09 00:09
名前入れ忘れました。
#11350
2023/06/09 00:09
ローカライズCM
『女戦士クトゥルン』のAmazonの紹介文は適当に読み流してましたが、確かに「ヒロインは【資生堂150thアニバーサリー】CMに大抜擢された」とありますね。これ多分モンゴル版CMなんじゃないのかなと思って調べてみました。Wikipediaの「クトルン」の英語版に映画についての言及があり(モンゴル語版にはないようです)、主演女優ツェドー・ムンフバットのアルファベット表記も「Tsedoo Munkhbat」と載っていたので、「Tsedoo Munkhbat shiseido」で検索してみたらビンゴ。やはりモンゴル版の資生堂のCMでした。海外展開してる企業はその国でローカライズ版のCMを流してますからね。ムンフバットって人、本業はモデルなんじゃないのかな? なんとなくモデル顔だし。
ちなみに日本版のCMの最後に出てきたのは近藤華って子なんではないかと。調べたら15歳とのことで、てことは去年のCMの段階では14歳か(ひえ〜)。
また、英語題の「Princess Khutulun」で検索するとNetflixMovies.comってサイトに別バージョン?の予告編がありました。でも字幕がなくてモンゴル語だからなんだかいまいちよくわかりませんが。
#11349
ろんた 2023/06/08 21:54
「ビッグコミックオリジナル」
「バネが来た SPRING HAS COME」(ゆうきまさみ)目当てで「ビッグコミックオリジナル」(11号 06/05号)を購入。主人公は老境に入りつつあるベテラン推理作家、独身。人気シリーズ(次作で80冊目)を抱えていて仕事は順調だが、生活の中で心が弾むということがない。そんな日常が、「ヒューム」というパートナーロボットを試用したのをきっかけに変化を見せ……という話。パートナロボットとは作中の表現によると「自走式の喋るパソコン」だけど、なんだかシリやアレクサの進化形っぽい。主人公は70歳らしく、近未来の作者のイメージが投影されてるみたい。もっとも、80冊も続く人気シリーズと聞くと赤川次郎も連想してしまう。あちらの人気シリーズをあわせると80冊じゃきかないけど。タイトルは<バネ=心が弾む=ヒューム>と<バネ=SPRING=春>をかけているのでした。
で、他の連載を見るとなんと「釣りバカ日誌」「黄昏流星群」「三丁目の夕日」が続いていたり、柴門ふみの連載があったり、「昭和天皇物語」が掲載されていたりと色々驚かされる。そして「セシルの女王」「卑弥呼ヒミコ」と歴史ものが二本掲載されていたのでご紹介。(<こっちが本題)
・「セシルの女王」(こざき亜衣)
16世紀イングランド。傍若無人な王ヘンリー8世が君臨する城に登ったウィリアム・セシルは王妃アン・ブーリンと出会い、彼女の産む子に仕えることを決める。だが、生まれたのは王女でありエリザベスと名づけられた。その後、アンは不貞の冤罪で処刑され、ウィリアムは、いつかエリザベスを女王にするというアンとの約束を果たすことを誓う。3年半後、19歳になったウィリアムはロンドンを訪れ、己の誓いを本人に伝えるが、庶子となり継承権を失った彼女は複雑に受け止める。そんな中、王が4番目の妃アン・オブ・クレーフェを迎えるが床入れに失敗。王の信頼を失ったトマス・クロムウェルの処刑が決まる。王妃たち一行はエリザベスの居城を訪れ……。
あれ? どこかで聞いたことあるな、と思ったら『新九郎、奔る』の帯折り返しに広告があった。エリザベスはもちろんエリザベス1世。ウィリアム・セシルはその寵臣。11号掲載分では、後に同じ寵臣としてセシルと対立することになるロバート・ダドリーも登場、幼い二人が心を通わせる場面あり。ヘンリー8世の愛人キャサリン・ハワードも11号掲載分に登場し、妃の座をアン・オブ・クレーフェ(<これ、英語読みとドイツ語読みが混ざってるような……)に譲られる。しかし、「(王妃の地位は)いいものではありませんよ。あなたが思うほど、」と後の処刑が暗示される。あとエリザベス、目つきが異様に悪くて全然可愛くない(笑)。4巻まで刊行中。
・「卑弥呼ヒミコ」(作:リチャード・ウー/画:中村真理子)
弥生時代後期、倭国大乱の世を生きる日向(ヒムカ)出身の少女ヤノハは、筑紫島(ツクシノシマ=九州)の祭儀王・日見子(ヒミコ)の第一候補モモソを殺害し、結果的に日見子として祭り上げられる。筑紫島最強の暈国(クマノクニ)の探り女アカメもヤノハに心酔し、その影として働く。権謀術数に長けたヤノハは、暈国に対抗すべく山社国(ヤマトノクニ)を建国、紆余曲折の末、那(ナ)、伊都(イト)、末盧(マツロ)、穂波(ホミ)、都萬(トマ)と同盟を結び、暈国と勢力の均衡状態を作り出すことで筑紫島全体の平和を実現する。だが、豊秋津島(トヨアキツシマ=本州)から持ち込まれた疫病が流行、筑紫島は混乱状態に陥る。ヤノハはアカメに疫病への対処法を学ばせ、田油津日女(タブラツヒメ)として舞と謡の形で広めさせる。だが、モモソを殺したヤノハを深く恨む元祈祷師ヒルメは、近臣として潜り込ませていたナツハにヤノハを犯させる。ヤノハは妊娠してしまうが、ナツハは生き別れとなった弟であった。極秘に男児を出産したヤノハは、ヤエトと名づけナツハに託す。すると、倭国統一を目論む豊秋津島の日下国(ヒノモトノクニ)のフトニ王が侵攻してくる。ヤノハは連合軍を結成し、わずか七百の兵で一万の日下軍を打ち破る。そんな中、田油津日女として暈に渡ったアカメは、鞠智彦に捕らえられてしまう。そのアカメを、何故かナツハが救い出し……!?
なんか、ゴチャゴチャしたあらすじですが、これでもいろいろ省略してます。邪馬台国版国盗り物語という印象。北九州説をとりつつ、神武東征伝説を取り込んでいくのか、日下国に併合されるのか。11号掲載分では、アカメをナツハが救い出した理由や鞠智彦の狙いが明らかに。要するに「親魏倭王」になろうとしているんですね、鞠智彦。そこで大陸へのルートを確保すべく、那国の津(博多港?)を狙い、山社と友好関係にあるはずの津島国(ツシマノクニ)のアビル王を調略している。折しも、アビル王は山社を訪れ、ヤノハと会見中。現在、単行本は13巻まで。
>『逃げ上手の若君』(11)
馬仮面こと今川範満が討ち死に、改造人間・長尾影忠重傷、マッドな科学者・上杉憲顕、ショタ・斯波孫二郎、雑草食い・吉良満義は鎌倉へ後退。捕えていた天狗は傀儡で中身は美少女。足利直義、鎌倉は防御に弱いと見切って出撃、武蔵国井出沢で時行軍と激突。しかし三浦時明の裏切りで敗走。護良親王は討たれ、時行鎌倉入り。
読んでる時は盛り上がるんだけど、後から考えると笑えてしまう、子供(時行)に口喧嘩を仕掛けて負けちゃう足利直義。鎌倉が防御に弱いってのは、解説の本郷和人先生も賛成みたいだけど、単に海から攻められたらお終いってことじゃないのかな? 考えたら鎌倉に港無いし。実朝の船がみっともないことになったのも海が遠浅のせい? この後は後醍醐天皇と足利尊氏の反目、時行軍の敗北が描かれるのか。あと、帯にアニメのキャストが二人発表されてますね。北条時行:結城あさき 諏訪頼重:中村悠一とのこと。
>「女戦士クトゥルン」
確かに「この物語は史実に基にしたフィクションである」(「オスマン帝国外伝 〜愛と欲望のハレム〜」より)ということでいいと思いますけど、【ストーリー】を見ていて、「あれ? あれあれ?」となってしまいました(汗)。わたしも、前に書きましたが、ガトリング砲をぶっ放す時代劇も好みだったりします。あと予告編ですが、あれだけではどんなお話なのかイマイチ分かりませんね。仲間でフビライを暗殺して経典を取り戻すというのなら、その辺をハッキリ見せないと。なんだろ、あの忍者軍団。経典ってのはあの「卍」がついてたヤツかな? だとすればチベット仏教? もう一つ、「鷲」と「鷹」なら、どっちかでよくない?(笑) 鷹匠みたいのは予告編に出て来たけど。
そしてamazonによりますと
ヒロインは【資生堂150thアニバーサリー】CMに大抜擢された美しきモンゴルのミューズ!!
とありますが、CMのどこに出てたんだろ。最後に出て来た人かな?
#11348
バラージ 2023/06/07 22:00
史点の枕
>ワル利休
僕はほとんど未見ですが大河ドラマ『秀吉』では、千利休が信長に疎まれたため光秀に本能寺の情報を流した描写があるとのこと。
また桂文枝(個人的には今だに三枝のイメージが強い)が演じた利休もワルっぽいイメージだったような。何の作品だっけ?と思って調べると『真田丸』で、あれは初回が本能寺の変だから利休は無関係でした。
#11347
バラージ 2023/06/02 20:04
久々に観た
今年の大河『どうする家康』も途中でリタイア状態でしたが、先週は個人的に興味があった大岡弥四郎事件が描かれるってことで久々に観てみました。
大岡弥四郎は『三河物語』およびその影響を受けた徳川系史料では大賀弥四郎の名で登場する人物ですが、『岡崎東泉記』などでは大岡弥四郎となっており、近年ではそちらが正しいとする説が有力となっているようです。『三河物語』は事件の性格や真相などから意図的に弥四郎の姓を改竄したと見られているようで、本屋に並んでる近年の家康関連歴史本でもほぼ大岡弥四郎と記述されています。そんなわけで、以前の大河『徳川家康』やテレ朝の『徳川家康 戦国最後の勝利者』などでは大賀弥四郎だったのが、今回の『どう家』で初めて大岡弥四郎として登場することになりました。
この大岡弥四郎事件はドラマでも描かれた通り、1575年に岡崎町奉行の弥四郎や松平新右衛門、家老の石川春重、同じく家老鳥居氏家臣の小谷甚左衛門をはじめとする信康の家臣らが武田勝頼と内通して、岡崎城を武田方とする謀叛事件を企てていたことが発覚し、処刑・追討されたり自害したりした事件です。
『三河物語』によると、弥四郎らは家康が岡崎城に来たと偽って呼びかけて開門させ、そこへ武田軍が東三河から岡崎へ侵攻して城を占領し信康を自害させる。また岡崎在留の諸士の妻子を人質に取って徳川家臣団を服属させれば、家康やその家臣らは所領を落ち延びるだろうから、これを待ち伏せて討ち取るという内容の書状を勝頼に送り、その同意を取り付けたとのこと。ドラマでも概ねではそれに沿った物語になってましたね。弥四郎の謀反の理由については「余りの栄華に奢ったか」と推測するだけで、はっきりとは書いていないそうです。
しかし近年の研究では『三河物語』は徳川家や家康に都合の悪いことを憚って隠しているとの見解が主流。『岡崎東泉記』『石川正西聞見集』によると、1575年頃には甲斐の口寄せ巫女(神仏の意思を語る巫女)が岡崎領に大勢来ており、勝頼はそのような巫女たちを懐柔して築山殿に取り入らせたとのこと。その巫女たちは築山殿の下女から奥上揩ノまで達し、ついに築山殿にお目見えするまでになったそうで、その巫女に「五徳(信長の娘で信康の妻)を勝頼の味方にすれば、築山殿が勝頼の妻、信康が勝頼の嫡男として天下を譲り受ける」という託宣を述べさせ、さらに築山殿の屋敷に出入りしていた西慶という唐人医を謀反計画に巻き込んで、弥四郎らを大将分として勝頼から所領を与える判物が出されたとあるそうです。
大岡弥四郎事件に築山殿(や信康)が関わったことは『三河物語』には書かれていませんが、前記の通り徳川家に不都合な事実を隠蔽したものと考えられているようです。さらに口寄せ巫女や唐人医の誘いだけで信康の家老や町奉行が謀叛を企てるとは考えがたいことから、謀反計画の中心にいたのは築山殿だったと推測されています。当時はドラマでも描かれていたように武田家の猛攻で徳川家が劣勢に陥っており、築山殿は徳川滅亡を恐れて、長らく別居し疎遠だった夫家康を見捨て、息子信康のために武田家に内通したと推測されているようです。当時17歳だった信康は自発的に父への謀反を考えるのは難しかったのではないかとのこと。また、あくまで織田家の庇護下で武田家と敵対する家康と浜松家臣団に不満を持っていた岡崎家臣団も、信康と築山殿を擁して武田家と和睦しようと考え、築山殿や岡崎家臣団は武田家の庇護下で徳川家を存続しようと考えていたと推測されているようです。
しかし一味に加わっていた山田八蔵の密告により謀反は発覚。弥四郎は鋸引き、妻子は磔刑で処刑され、春重と新右衛門は自害、甚左衛門は討ち取られています。ただし何らかの理由で築山殿と信康は不問に付されており、やがてこれが1579年の築山殿・信康事件へとつながっていきます。
ドラマでは事件が終わった後に、三河一向一揆の中にもいた千代という巫女が瀬名(築山殿)のもとを訪れてましたが、上記『岡崎東泉記』の口寄せ巫女が基ネタなんでしょう。正体は武田家の間者(くノ一)のようで、いろいろ検索したら桐野作人氏がTwitterで武田の歩き巫女を束ねた伝説上のくノ一である望月千代女がモデルだろうと指摘してましたね。てか作人さん、Twitterやってたんだ。 もっとも『どう家』の瀬名はあくまで善人設定なんで、全てを見透かした上で自分のほうから千代を招き入れたようでしたし、八蔵が弥四郎らを裏切って密告したのも、いい人の瀬名を裏切る良心の呵責みたいな描かれ方でした。
では1983年の大河『徳川家康』ではどういう描かれ方だったかというと、全話観たはずなのにそのあたりは全く覚えてない(笑)。Wikipediaなどによると、大賀弥四郎はなんと築山殿と不義密通していたという設定だったようで、山岡荘八の原作もそいう設定のようです。築山殿と不義密通したとされるのは一般的には減敬(または滅敬)という唐人医(『三河後風土記』による。『岡崎東泉記』では上記の通り「西慶」)ですが、築山殿が弥四郎とも密通したというのは山岡の創作でしょう。同作では減敬はもともと武田の間者という設定のようで、そこから弥四郎と築山殿も武田家に内通するという展開になり、築山殿は弥四郎が処刑された後もその遺志を実現しようと武田に味方して、家康を討ち取らんとする執念を燃やしていたという設定らしい。1983年版『徳川家康』の築山殿はいわゆる典型的な悪女説だった記憶ですが、全体的には意外にも『どう家』より1983年版のほうが近年の説に近い展開です。もちろん近年の説も悪女説ではなく、築山殿の行動は当時一般的に見られたことであり一理あるものだとして悪女説を否定してるんですが、それだと家康のほうを悪く描かなきゃならないんで家康主人公ドラマ的には都合が悪いんでしょう。個人的には1983年版で池上季実子が演じた築山殿は非常に印象に残っています。1981年の『おんな太閤記』では池上さんは淀君を演じており、その流れで悪女役が続いたのかも。
>映画『女戦士クトゥルン』
僕も販売サイトでストーリーは読んでましたが、「史劇っぽい」ってのは架空人物しか出てこない時代劇やファンタジーものではないって程度の意味でして。「ウルフ」「ホーク」「イーグル」「ベア」はおそらく「幼い頃から共に育った忠実な臣下」で、もとはモンゴル語で「狼」「鷹」「鷲」「熊」なんだろうけど、モンゴル語を音写しても意味がわからないってことなんでしょうね。でも英語じゃ雰囲気狂うよなあ。漢字じゃダメだったんだろうか? それじゃ中国っぽくなっちゃうってこと?
予告編については、邦題に「予告編」と付けて検索したところApple TVってサイトに予告編があって、観ることができました。しかし、うーん、正直言ってアクションとか映像表現がちょっと、いや、だいぶビミョー……。個人的には歴史<映画なので、映画としてつまんなそーだと、役者や監督目当てでもない限り観る意欲がかなり減退してしまいます。どうしようかなぁ。
#11346
ろんた 2023/05/31 00:35
クトゥルンについて
#11322でクトゥルンにはちょっと触れてるので一言。
「女戦士クトゥルン モンゴル帝国の美しき末裔」はレンタルと同時に販売もするみたいで、通販サイトに掲載されてますね。作品データも各サイト共通。とりあえずAmazonから引っ張ると……
【ストーリー】
モンゴルの大地を駆ける、美しき豪傑/時は13世紀後半、チンギス・ハンが築き上げたモンゴル帝国。/帝位継承をめぐる争いが続く中、フビライ・ハンに対抗して中央アジアに独立した国を築き上げたハイドゥという王族がいた。/その王女クトゥルンは武勇に優れ、兄弟たちにも引けを取らない勇猛さを持ち合わせていた。/王族間の対立が激化する中、最大勢力フビライ軍の陰謀によりハイドゥが殺害され、一族に伝わる神聖な教典が奪われた。/父亡き後の後継をめぐって私欲に走る兄弟たちを横目に、クトゥルンは幼い頃から共に育った忠実な臣下5人と共に/父の仇と奪われた教典の奪還を誓い、大挙するフビライ軍に攻め込んでいく!!
【キャスト】
クトゥルン:ツェドー・ムンフバット/アバタイ:バドラク・バトトグトク/ウルフ:ウムラフダン・オユンビレグ/ホーク:アルタントゥル・アルタンジャルガル/イーグル:トゥムルトグトク・ダバーク―/ベア:レントセンバト・バトクヒシグ/ノムガン:ムンクトゥムル・ドンドフ/
【スタッフ】
監督:S・バーサンジャルガル/監督・脚本:シュウダツェツェグ・バータスレン/脚本:ボルドクウヤグ・ダムディンスレン/撮影:バット・イレードゥイ・ガンクウヤグ/
まず大事なことを言いますと、ハイドゥが死んだのが1301年、フビライが死んだのが1294年。フビライ軍がハイドゥを殺すとかありえない(笑)。元が殺したって意味かとも思ったけど、まだ変なところがある。トルイ(チンギス・ハンの末子)の子孫によるハーン位独占に、ハイドゥ(チンギス・ハンの第三子オゴタイの子孫)が挑戦したのは事実だけど、元に攻め込んで負けちゃってるんで陰謀で殺されたとかもあり得ない。当時のモンゴルの宗教はシャーマニズム? チベット仏教? イスラムはまだ入ってきてないはず。ということで「一族に伝わる神聖な教典」も意味不明。役名に「ウルフ」「ホーク」「イーグル」「ベア」とあるのも不思議。ということで、この物語は史実をもとにしているがフィクションもりもりのアクション時代劇ではないかと。amazonではクトゥルンが登場する作品として「マルコ・ポーロ」(Netflix配信)、「トゥーランドット」、「ビジャの女王」が紹介されてるけど、「トゥーランドット」と「ビジャの女王」はキャラのモチーフというかモデルになってるだけだよなぁ。
>ザヒ・ハワス
歴史を扱う番組ならそう驚かなかったんですがね(笑)。それにしてもザヒ・ハワス、観光大使みたいになってるな。
#11345
バラージ 2023/05/27 21:56
21世紀のモンゴル歴史映画
先日近所のレンタルビデオに出かけたら、アジア映画のコーナーで近日レンタルのPOPに『女戦士クトゥルン モンゴル帝国の美しき末裔』という作品が。この手の映画はあったら一応チェックするんですが、裏を見るとなんと製作国がモンゴル。珍しー、中華圏発で韓国や東南アジアでも一時流行ったワイヤーアクション武侠映画が遅れてモンゴルにも及んだのかな?と思ってストーリーを読んでみたら、フビライと敵対したハイドゥの娘クトゥルンが主人公云々とあって、調べてみると実在の人物でした。Wikipediaには「クトルン」の名前で項目が立ってて、映画についていろいろ検索するとモンゴルの日本語新聞?では『クトルン皇女』のタイトルで紹介されております。2021年の作品で、あくまで史劇っぽいですね。
これはちょっと面白そうかもと思ってレンタルして観てみようかなと思うんですが、レンタル開始日が6月2日で1週間レンタルになってから借りようと思ってるので、観るのは当分先のことになりそう。あとちょっと気になるのはネットに予告編がないこと。普通は販売会社のサイトにあるもんですが。あれば映画の雰囲気とか多少はわかるんですけどねえ。
>ザヒ・ハワス
先々週の『世界ふしぎ発見!』のクレオパトラの回にも出てきてましたよ。めっちゃタイムリーだな(ごく一部の人には)と思っちゃいました。ちなみにミステリーハンターはアルピニスト野口健の娘の野口絵子ちゃん。でも個人的にはその前のモン・サン・ミシェルの回の出水麻衣アナや、先週のマルタ騎士団の回の北村優衣ちゃんや、今週のブータンの回の眞嶋優ちゃんのほうが好みだったりなんかして。
>名画座DVD化情報
NHK大河ドラマ『琉球の風』『武蔵 MUSASHI』の完全版&総集編に続いて、『八代将軍吉宗』の完全版DVDも発売されるとのこと。7月14日発売予定だそうです。これは残る完全版DVD未発売作品の『峠の群像』『北条時宗』も発売されるのか?
>名画座修正情報
『大城砦』および『La leggenda di Enea(アイネアスの伝説)』の解説……『大城砦』の原題は直訳すると「トロイア戦争」ではなく「トロイの木馬」のようです。
#11344
ろんた 2023/05/27 00:43
『山賊王』大人買い
さて、実は読んでいなかった『山賊王』をふと思い立って大人買い、全13巻通読。一言でいえば、六人の星型の痣を持つ英雄が鎌倉幕府を滅ぼす話。星形の痣は五行の星とその中心をあらわし、ちょっと八犬伝っぽい。あとカラス天狗が出てくるのは太平記からの引用ですな。とても面白く読めたんだけど、『逃げ若』の後だからか、オーソドックスというか地味な印象になってしまった(笑)。あと、史実を追うのが面白くなったのか、伝奇的な設定が生かし切れていない印象。主人公が特別な存在であることを印象付けるダマスカス刀(本編にはこの表記はないと思うけど、なぜかあらすじにはこうある)、カラス天狗など、中盤以降、ほとんど登場しなくなっちゃう。カラス天狗は『太平記』では確か、崇徳上皇が天狗になっててその手下ということだったかと思うけど、この手の設定を全部結び付けていければもっと楽しめたかも。
あと、なぜか最初の頃はお色気描写が多かったなぁ。北条高時が裸の娘さんにあ〜んなことしてたり、娘狩りをしてる地頭が出てきたり。お色気担当(?)のナツメもいたけど、やはり中盤以降出てこなくなっちゃった。
>『新九郎、奔る!』(8)(9)(10)
ついでにさぼってた(?)こちらの話も。この三冊は、いわば、新九郎の歴史へのデビュー戦。(8)では今川義忠が表紙を飾るという快挙を達成(笑)。伊勢貞親、山名宗全、細川勝元が相次いで世を去り、さしもの応仁文明の乱も終結に向かう中、龍王丸誕生祝ということで駿河に下向、小鹿(今川)新五郎範満、堀越公方・足利政知、扇谷上杉家宰・太田道灌などと接触。そして今川義忠討ち死にとともにお家騒動にかかわっていくという次第。今川義忠、遠江守護・斯波義廉が西軍なのをいいことに攻め込んだら、東軍に寝返った甲斐敏光が守護代になってて東軍同士で戦うことになり大御所は激怒。これがお家騒動の原因だけど、(実力で攻め取れば幕府はいい顔しないだろうけどどうこうする実力はなし、後で関東に出兵してご機嫌とっとけばいいだろ)ぐらいのことは考えていたのかな。ここで問題になるのが新九郎の年齢。従来説だと同い年の太田道灌と丁々発止のやり取りがあるはずが、実は二回り下でした説をとっている本作では、道潅の掌で転がされてしまう。ただ幸いなことに道潅も今川家の安定を第一に考えているので、龍王丸側にもそう悪くない決着を迎えることができた。しかし、十年辛抱しなさい、と新五郎を諭す道潅が、その十年後にはいなくなっちゃうのは諸行無常。ところが、約定通り駿府の館を明け渡し山西に移ると刺客が襲ってくる。山西の武士たちも血の気が多くてすぐ合戦をしたがる。そこで伊都、亀、龍王丸は、家督相続の運動をするということで京都に移る。しかし、大御所様(義政)ににらまれている新九郎は無位無官無職の三冠王のまま。御所様(義尚)から申次衆にする、と言われても辞退せざるを得ない。この義政−義尚の権限移譲がうまくいかずに、龍王丸の家督相続にまで影響が出る。
>『新九郎、奔る!』(11)(12)(13)
この三冊のテーマは「都鄙和睦」「龍王丸家督相続」「三冠王返上」ですかね。応仁の乱も終結、「都鄙和睦」へ。都鄙は幕府と古河公方のこと。この関東の騒乱、ゴチャゴチャのグチャグチャで要約できない(笑)。結局、太田道灌の台頭と堀越公方・足利政知を伊豆国守護にしただけに終わった感じ? 一方、関東の騒乱、細川政元拉致、大御所、御台所、御所の家族喧嘩などで龍王丸の家督相続は遅々として進まず。伊勢一門では得意の寝技を仕掛けて運動。道潅の動きを抑えるため、道潅謀反とか(扇谷)上杉定正謀反とか噂を流したり、偽の譲り状作ったり、新九郎も伊勢一門の家風に染まっていく(笑)。まあ、決定的だったのは新五郎を担いでる国人が、先々代でもあったお家騒動で普広院様(足利義教)の決定に最後まで逆らっていた連中だ、と大御所が気づいたこと。お灸をすえてやれ、という気持ちになって、龍王丸に家督を継がせる一方、守護職継承は待て、ということに。さらに新五郎の代行を龍王丸元服までの七年と区切ることに成功。そして大御所が御所様への権限委譲を進めたことで、新九郎も申次衆に! 色々と実入りが期待でき、分一徳政令を利用したりとかの経済的苦境からも脱出、そしていよいよ嫁とりへ。嫁は「あまちゃづる〜」でしょうね。もう一つ、いよいよ茶々丸が誕生。だが双子の兄。妾の子ということにされる。どうやら弟の方が足利義澄となる模様。そうすると実母と実の弟を殺したことになっちゃうな。
この13巻まで読んで、やっと太田道灌のキャラデザインが、なぜエルキュール・ポワロ(デビッド・スーシェ)なのかわかってきた。本作の太田道灌って、多分日本史に何人いるかって傑物なんだけど、己を頼むところが強すぎて、それがダダ洩れになっている。だから登場するたびに(そういうところだぞ)と周囲の人間に心の中で、あるいは面と向かって突っ込まれている。でも意に介さないところが太田道灌。そして新九郎との別れ際にも、言わなくていいことを言ってしまっている。これに対してエルキュール・ポワロも、ごくごく自然に「灰色の脳細胞」とか「しかし、ポワロは騙されません!」とか、自分は頭がいいことを口にする。我々は読者だったり観客だったり視聴者だったりするんで、そう気にならないんだけど、自分がジャップ警部やヘイスティングズ大尉だったらたまったもんじゃない。ということで太田道灌=エルキュール・ポワロなのではなかろうか。そして、道潅が消されちゃうのはその辺が原因じゃないかな。
>ザヒ・ハワス
「イッテQ」をぼーっと見てたら、ザヒ・ハワスが出て来てひっくり返る。「イモト三年ぶりの海外ロケ、エジプトで4300年前の石棺開封」という感じで、ちょうど来ていた「イッテQ」ロケ隊にザヒ・ハワス側から持ち掛けたらしい。経費のほとんど持っていかれたらしく、他のロケが安上がりで済まされていた。本来なら目玉になるはずの三大ピラミッドのライトアップも、撮影すると70万円ぐらい取られるらしく、ミニチュアで再現。残念ながらミイラは白骨化していたが、イモトはザヒ・ハワスの次に中を見せてもらい、「エジプトの宣伝をしないと、お前の家にミイラが行くぞ」と脅されていた。ザヒ・ハワス、なかなかのユーモア感覚の持ち主(笑)。
>ハンガリー首相の演説の話。
なんでも「混血の国は望まない」とオルバン・ヴィクトル首相が演説して、「まさにナチスの物言い」と側近が辞任したとか。いや、ナチス以前にこっちはポカーンだよ! ハンガリー人(マジャル人)がそんなこと言っちゃだめだろ!! フン族の国だからHungaryっていうんじゃないのか? まあフン族というのは俗説としても、もともとモンゴロイドなのは確実で、その後コーカソイドが混ざって紅毛碧眼っぽくなってるだけじゃん。オルバンが姓でヴィクトルが名前だしな。誰も突っ込まないのが不思議。
#11343
バラージ 2023/05/21 11:36
その後の鎌倉史・延長戦 最後のおまけ
おまけの鎌倉史最終回。摂家将軍の終焉と親王将軍の誕生まで。
北条時頼とその支持勢力は1246年の宮騒動と翌1247年の宝治合戦で鎌倉から親九条家勢力を一掃しましたが、残った幼将軍九条頼嗣のことは盛り立てようとしたようです。頼嗣がかつての父頼経同様に京に送還されるのは1252年のことで、もし時頼が当初から頼嗣送還と親王将軍擁立の意志を持っていたのなら宝治合戦直後にそのような措置を取っていたはず。以上のことからも宮騒動や宝治合戦を過大に時頼側の陰謀と考えるべきではないでしょう。
頼嗣が将軍を廃され京に送還された事情については史料が乏しく今一つはっきりしないんですが、『吾妻鏡』によるとまず1251年12月5日に得宗被官の諏訪盛重邸の周辺で騒ぎが起こり、夜中に武士たちが具足などを付けて時頼邸の門前に集まってきたが、何もなかったので引き上げた。時頼は人々に制止を加えたが、騒動のもととなった噂にはいろいろあったようだとあります。こうして事態は一旦沈静化しますが、22日には再び鎌倉中が理由もなく騒動となり謀反を起こした者がいるとの噂が乱れ飛んで幕府と時頼邸の警備が厳重になっています。26日午後にもまた騒動となり、佐々木氏信と武藤景頼が僧の了行・矢作常氏・長久連らを謀反の企てありとして捕縛。盛重が訊問し反逆がことごとく露見したとのこと。それによって鎌倉中がさらに大騒動となり多くの御家人が集まってきます。翌27日には謀反人たちが誅殺または配流され、近国の御家人が雲霞のごとく集まってきましたが、全員帰国するようにとの命令が下っています。南北朝末期成立の『鎌倉大日記』にも同日に了行が誅殺されたとあるとのこと。また鎌倉末期成立の『鎌倉年代記裏書』(『北条九代記』とも)によると、この事件に関連して京では頼嗣の祖父である九条道家の一族の多くが僧俗の別なく後嵯峨上皇の勅勘を蒙り、道家と不仲だった次男二条良実の父子だけがそれを免れたということです。南北朝時代成立の『保暦間記』では翌1252年3月20日に頼嗣が上洛の途についたことに触れた部分で、了行を訊問したところ前将軍頼経が京で世を乱そうとしていることがわかったため、その一族が勅勘を蒙り頼嗣も上洛させられたと記されているそうです。
九条家が勅勘を蒙ったという京の同時代史料はないようで、『吾妻鏡』も含めていずれも事件よりかなり後になってから関東で成立した史料のためどこまで信頼できるかは疑わしいんですが、そもそもこの事件についての京の同時代史料がほとんどないためこれらを基に考察するしかないようです。了行・常氏・久連はいずれも宮騒動と宝治合戦で没落した三浦氏・千葉氏・九条家などの関係者で、それが北条政権の疑心を呼び、北条氏に配慮する後嵯峨が自身にとっても潜在的敵対勢力だった九条家に対して過剰に反応したとの見方もあるようですね。
なお『吾妻鏡』では、事件に先立つ同月2日に足利泰氏が所領の下総国でひそかに出家したことを記しています。かねてからの念願で、ひたすら修行したいと思っていたからだとのことで、7日に泰氏は将軍の許しを得ないまま自由出家した罪を自ら申し出、下総国の所領を没収されています。泰氏は時頼の縁者(死んだ妻が時頼の妹で嫡男頼氏を産んでいる)でもあり、幕府の宿老である父の義氏は盛んに嘆いたが、人によって法を曲げるわけにはいかないのでそのような沙汰に及んだとあります。これについても了行らの謀反事件との関連を疑う見方があるようですが、詳細や実否は不明と言わざるを得ません。大河ドラマ『北条時宗』では泰氏は陰謀家として描かれ謀反と関連した事件とされてましたが、泰氏の所領は頼氏に引き継がれ父義氏も何ら処罰を受けてないので無関係な事件である可能性もあります。なお『時宗』に義氏は出てきませんでした。
明けて翌1252年正月の将軍頼嗣に対する椀飯(饗応の儀式)や儀式始めは特に何事もなく行われましたが、その一方で8日には京で後嵯峨の第1皇子が11歳で元服。後の宗尊親王です。後嵯峨寵愛の子でしたが母の身分が低いため異母弟の後深草天皇誕生後は皇位継承の可能性はほぼ無く、南北朝時代成立の『増鏡』によると後嵯峨はせめて将軍にしたいと思っていたとあります。この元服については将軍就任を前提としたものですでに時頼・重時らは水面下で頼嗣の更迭を決定しており、宗尊の東下および将軍就任を後嵯峨に要請していたと推測する説もあります。実際、翌2月20日には二階堂行方と武藤景頼が幕府の使者として上洛の途につきますが、これは時頼・重時が頼嗣の執権・連署を辞すことと宗尊の下向を申請するためで、これは時頼と重時のみで決められ他の者は誰も知らなかったとあります。
一方、鎌倉後期成立の『五代帝王物語』『百錬抄』によると翌21日に京で九条道家が死去。死因や状況は不明で、一時は朝廷の権力を一手に握った者の寂しい最期でした。『吾妻鏡』では27日に訃報が届き、それを受けて時頼・重時らが集まったとのこと。道家の死について噂があり、武家の策謀によるものだと言われていたからだそうです。これをもって道家の死を幕府(の意を受けた六波羅探題)によるものとする推測もありますが、さすがにそれは穿ち過ぎた見方なんじゃないかなあ?
話が戻り『百錬抄』によると30日に幕府の使者が入京し、宗尊を征夷大将軍として下向してもらうよう要請してきたとしています。また『吾妻鏡』3月5日条には六波羅探題からの使者が鎌倉に来て、行方・景頼の奏聞を受けて院御所では親王下向について1日から会議が行われたが、3歳の宮(後の亀山天皇)と13歳の宮(宗尊)のどちらを求めるかと聞かれたので指示を仰ぎたいと言ってきたとあります。時頼・重時らが群議をして13歳の宮の下向を要請することに決定し、使者は帰洛したとのこと。しかし前記2月20日条の記述では最初から宗尊の下向と指定しており矛盾しているし、京都側の記録である『百錬抄』2月30日条でも前記の通り幕府は宗尊を将軍として下向するよう要請してきたとあります。そもそもそのような重要なことを事前に決めていなかったとは考えがたく、『吾妻鏡』のこの部分は創作もしくはなんらかの誤りが挿入されたものでしょう。その後トントン拍子に話は進み、宗尊は18日に親王宣下され、19日に関東下向。4月1日に鎌倉入りしており、『百錬抄』によると同日に京で征夷大将軍宣下がされたとあります。
なお前月の3月21日には頼嗣が御所を出て、北条(佐介)時盛邸に移っており、4月3日には宗尊と入れ替わるように弟や母と共に上洛(実質は京都送還)の途についています(『鎌倉年代記』『保暦間記』では3月20日に上洛としてますが、時盛邸への移動を上洛開始と解釈したんでしょうか)。父頼経が同じように上洛した際には『吾妻鏡』にその行程がくわしく記されてましたが、頼嗣の上洛は行程はおろか入京した日すら記されていません。宗尊の東下の行程や鎌倉入り後の儀式などがくわしく記されている陰に隠れてひっそりとといった感じ。『鎌倉年代記』『百錬抄』には4月18日に入京したとあり、伴の者はわずか20人だったとのこと。
以後の頼経・頼嗣の動静はほとんどわからず、『百錬抄』によると4年後の1256年8月10日(『吾妻鏡』『鎌倉年代記』では11日)に頼経が痢病(赤痢)で、9月25日(『吾妻鏡』では24日)に頼嗣が赤班瘡(はしか)でそれぞれ病死しています。公家の吉田経俊は頼経について日記『経俊卿記』に、将軍として長年関東に住んだが上洛後は人望を失い早世したと記しているとのこと。これまた頼経・頼嗣の死を幕府の策謀と推測する向きも一部にはあるようですがやっぱりそれは穿ち過ぎかと。ちなみに『時宗』では時頼ら幕府の刺客によって2人同時に殺されちゃってましたが、実際には上記の通り1ヶ月半ほどの時間差があります。なお、この年は疫病が大流行して死者が続出しており、時頼や宗尊・後深草なども罹患し、時頼は11月22日に長時に執権を譲り23日には出家しています。
また後嵯峨の勅勘を蒙った九条家のうち道家4男の一条実経は1263年に左大臣に還任され、1265年に関白に再任されてようやく復権を果たしました。道家嫡孫の九条忠家に至っては後嵯峨法皇死後の1273年になってようやっと関白に就任して復権しています。すでに摂関の資格を失った人と見なされていた忠家の関白就任には公家たちから強い反発が起こったとのこと。
時頼・重時らが頼嗣を追放し、宗尊を新たな将軍に迎えた理由は今一つ判然としませんが、了行らの謀反事件と関係があることは間違いないでしょう。頼嗣が将軍でいる限り九条家やその与党勢力による介入や策謀の根を断ち切るのは難しいと判断したのかもしれません。そこで頼嗣に代えて親幕的な後嵯峨上皇の皇子を将軍に迎えることによって東西の融和と安定をもたらそうとしたものと思われます。九条家の将軍を続けても頼朝の血は薄まっていく一方で摂家将軍を続けるメリットはほとんどなく、またもともと幕府は実朝暗殺後に後鳥羽上皇の皇子を将軍に迎えようとして拒否され次善策として九条家より将軍を迎えたという経緯があり、待望の親王将軍だったと言えるでしょう。ここから鎌倉時代はまた新たなフェイズに入っていきます。
てなわけで今度こそキリのいいところで鎌倉話も改めておしまい。ま、また何かネタを思いついたら書くかもしれませんが。
>観てた映画&未見映画
『赤西蠣太』……伊丹万作監督による1936年の映画。伊達騒動を背景とした作品で、主演の片岡千恵蔵が主人公の赤西蠣太と悪役の原田甲斐を2役で演じているとのこと。原作は志賀直哉の短編小説だそうです。確か大学時代に地方局で深夜に放送してたのを観たような記憶がありますが、映像の状態が悪くザーザー雑音が入っていまいちよくわからなかったような。ビデオ化のみでDVD化されていませんが、Amazonprimeで『赤西蛎太』のタイトルで配信されているようです。
『危し!伊達六十二万石』……1957年の映画。DVDタイトルは『危うし!伊達六十二万石』。上記『赤西蠣太』同様に旧来の伊達騒動もののストーリーで、主演の嵐寛寿郎が悪役の原田甲斐を演じています。後に山本周五郎の『樅ノ木は残った』で原田忠臣説が描かれましたが、近年の研究では否定されているようなので別の見方の作品も名画座にあったほうがいいんではないかと。
『伊達騒動 風雲六十二万石』……1959年の映画。原作は沙羅双樹という人で、主演の大友柳太朗が原田甲斐を演じています。こちらは原田忠臣説の話らしく、『樅ノ木〜』といい、この頃の流行りだったんだろうか? ソフト化はされていませんがU-NEXTで配信されているようです。
『青葉城の鬼』……1962年の映画で『樅ノ木〜』の最初の映像化。監督は三隅研次で主演は長谷川一夫。VHS化のみでDVD化や配信はされていません。
#11342
バラージ 2023/05/15 21:56
その後の鎌倉史・延長戦 おまけの付録
大河『北条時宗』のお話に突入したという理由から宮騒動でおしまいにした鎌倉史ですが、歴史話的には宮騒動の延長戦とも言うべき宝治合戦、そして摂家将軍の終焉あたりまでが区切り的にはちょうどいいってことで少しだけ追記。『時宗』の初回を思い出しながらと思いつつ某動画サイトを試しに検索してみたら、宝治合戦のくだりだけを抜粋した動画があったんで思わず見返しちゃいました。なので基本的にその動画を前提に史実話を補足していきます。
1246年の宮騒動で前将軍の九条頼経が京に送還され、頼経の父道家が関東申次を更迭されて失脚したことは前回触れました。『吾妻鏡』や葉室定嗣の日記『葉黄記』によると同年12月に道家・頼経は鎌倉に何らかの使者を派遣したようですが時頼は当たり障りのない返答をしており、おそらく道家・頼経は復権を望んで時頼と何らかの交渉を行おうとしたものの時頼ら幕府は相手にしなかったと思われます。『時宗』では京の頼経が光村と示し会わせて挙兵を企んだような描かれ方でしたが、どうも道家・頼経は宝治合戦に直接的には関係してなかった可能性が高いようですね。なお道家は『時宗』には登場していません。
このような事態に大きな不満を抱いていたのが三浦泰村の弟で頼経側近だった光村です。光村が頼経をもう1度鎌倉に迎えたいと言っていたことも前回触れました。もともと三浦氏と北条氏の関係は緊密で三浦義村は娘の矢部禅尼を泰時に嫁がせ、その矢部禅尼が時氏を産んでいます。また義村の次男泰村は泰時の偏諱を受けた上に義時(または泰時)の猶子となっており、さらに泰時の娘を妻に迎えています。しかし矢部禅尼は1212年以前に泰時と離縁しており、時氏も泰村の妻(泰時の娘)も1230年に病死。泰村は後妻として泰時の妹を迎えますがやはり1236年に早世しており、北条得宗家と三浦氏の姻戚関係は薄くなってました(次の後妻となったのは公家の故源通親の娘)。それに代わって得宗家の外戚となっていたのが安達氏です。時氏の妻となって経時・時頼を産んだのが安達景盛の娘の松下禅尼で、景盛は経時・時頼の外祖父でした。しかし安達氏は三浦氏より家格が低く、経時・時頼の外戚となっても三浦氏より序列は下に置かれたままで、これに強い不満を持ったのが景盛です。出家した景盛は幕府の要請で高野山にいたまま幕政に参加していたようですが、1247年4月になると鎌倉に来て連日時頼邸を訪れ何事かを話し合っていたとあります。また三浦氏の下風に付いたままの息子義景と孫泰盛を激しく叱責したとのこと。景盛は時頼に三浦氏討伐を強く進言していたと思われますが、時頼には迷いがあり政治的解決を模索していたものと思われます。ちなみに『時宗』では景盛もまた登場していません。5月6日、時頼は泰村の次男駒石丸を自らの養子にするという約束を結び北条と三浦の和解への道筋が付けられました。そんな中、前月から病に臥せっていた時頼の妹で将軍九条頼嗣の正室檜皮姫が13日に18歳で死去。時頼は檜皮姫の喪に服すために泰村邸に移り、翌14日には檜皮姫の葬儀が行われています。
ところがここから事態は一気に破局へとなだれ込んでいくことに。某動画サイトにあった『時宗』初回編集動画はこのあたりから始まってました。21日には鶴岡八幡宮の前に泰村を近日中に誅伐せよとの命令が下ったという高札が立てられ、26日には逐電した土方義政が神社に奉納したという、泰村の反逆に加わらないことを誓う願文の存在を時頼が知っています。27日には泰村邸にいた時頼が邸内に多くの人が集まりながら自分の前には姿を見せないことや夜になると鎧を着る音が聞こえることなどから、それまで信用していなかった三浦氏謀反の進言が事実かもしれないと疑いを抱いて密かに自邸へと帰宅。それを知った泰村は大いに驚き、理由のわからぬまま謝罪の使者を送ったとのこと。28日には三浦氏反逆の噂が広がって鎌倉の街は騒然とし、光村が合戦の準備を進めているとの噂を確かめるため時頼が泰村に使者を送ったところやはりその気配があるとの報告を受け、6月1日に再び泰村邸に遣わした使者に対して泰村は弁明するも使者は邸内に多数の武器鎧があるのを発見。2日には近国の御家人が続々と集まり時頼邸を固め、その中には時頼の父時氏の異父弟(母が泰時の前室の矢部禅尼)である佐原兄弟とその異母兄たちもいました。彼らの父の故盛連は泰村の従兄弟でしたが、母の縁から外甥の時頼に付いたと思われます。なお矢部禅尼は『13人』には初の名で登場してましたが、やはり『時宗』には息子たち共々登場していません。3日には泰村邸の庭にこの度の騒動で泰村が討たれるという落書が立てられ、泰村はそれを壊させた上で時頼に自分は野心など全くないと申し入れたところ、時頼から疑いは持っていないとの返事があったとのこと。『葉黄記』6月6日条には重時の子の長時が前月に檜皮姫の件で鎌倉に下向したところ不審なことがあり、その子細を父に報せた。飛脚が3日に鎌倉を発ち今日着いたが重時は子細を明らかにせず、ただ用心すべきことになっているとしか言わなかったとあります。4日になっても両陣営に諸国から武士たちが続々と集まり一触即発の事態となってきたため、幕府は双方に鎌倉から退去するよう命令を出しましたが、常陸国に帰ろうとした泰村の妹婿関政泰は道中で泰村が追討されるだろうとある人から聞き鎌倉に舞い戻ります。深夜に泰村の妹である毛利季光の妻が泰村邸を訪れ、この度の騒動で兄上が攻められるだろうとの話を聞きました。かくなる上は勝たねばなりません。夫も味方するでしょうし、たとえ迷ったとしても私が説き伏せ必ず味方させますと言ったとのこと。季光の娘は時頼の妻となっており、季光にとって時頼は娘婿、泰村は義兄という関係にありました。
そして5日。早朝からすでに鎌倉は騒動となっており、時頼は夜明け前から万年馬入道を泰村邸に遣わし郎従たちの騒ぎを鎮めるよう命令。次いで平盛綱に書状を持たせて三浦を討伐する考えは決してないと誓約した上で和議を申し込みます。泰村は喜んで承諾の返答をし、盛綱が帰還すると泰村の妻は湯漬を持ってきましたが、泰村は湯漬を一口食べた途端に吐いてしまったとのこと。一方時頼が泰村に和議の使者を出したことを知った景盛は、すでに甲冑をまとった義景・泰盛に向かって、このままでは安達は子々孫々三浦の下風のままとなる。運を天にまかせ雌雄を決すべきだと命じ、泰盛が先頭に立って出陣。盛綱が時頼邸に戻る前に泰村邸に攻め寄せ、驚いた泰村も応戦します。時頼邸に戻った盛綱は、三浦氏は戦の準備をしてましたがご命令に従って和平を進めていたところ、泰盛が攻撃を始めてしまったため和平のしようがなくなりましたと報告。そこで時頼は北条実時に将軍御所を守らせ、弟の時定を大将軍として軍勢を率いさせて三浦氏攻撃に向かわせ、三浦氏も応戦して全面的な合戦に突入することになります。ちなみに『時宗』では北条政村・実時・義景が和睦を模索する時頼をよそに三浦討伐を話し合うシーンがありましたが、史実では政村・実時が宝治合戦でどう動いたかはほとんど不明。実時は前記の通り合戦が始まってから時頼の命で将軍御所の守りに就いたことがわかるのみで、政村にいたっては名前が全く出てこず何をしていたかわかりません。また『時宗』での泰盛は時頼の側で説得にあたってましたが、実際には上記の通り祖父の命で安達軍の先頭に立っていました。そして攻撃軍の総大将となった時定は『時宗』にはなぜか全く登場していません。後の元寇では九州まで下向したようなんですけどね。
午前10時頃に季光は甲冑をまとい軍勢を率いて将軍御所に向かおうとしますが、泰村の妹である妻が鎧の袖をつかみ、「泰村を見捨てて時頼方に参じるのが武士のすることでしょうか? かねてからの約束と違うではありませんか。後の世に恥を伝えることになります」と言うと季光は翻心して泰村方に向かいました。万年馬入道が騎馬のまま時頼邸に参じて、時頼の舅である季光が三浦方に付いたことを報告してこれは大事だと告げると、時頼は正午頃に将軍御所に参じた上でさらなる方策を練っています。ちょうどその頃、風が北から南へと方角が変わったため北条方は泰村邸の南隣の家屋に火を放ち、煙に燻し出された泰村らは頼朝の墓所法華堂に逃れました。弟の光村は要害の地の永福寺に立て籠っており、泰村にここは堅固な城郭だからここで共に戦いましょうと呼びかけましたが、泰村はいかに鉄壁の城郭だろうと最早逃れることはできない。いっしょに頼朝公の御影の御前で最期を迎えたいから早くここに来るようにと伝え、光村は仕方なく法華堂に向かっています。こうして泰村・光村ら三浦一族と季光・政泰ら三浦方の御家人たちが法華堂の頼朝の絵像の御前に列し、往時を語り合ったり最期の述懐に及んだりする中、熱心な念仏宗徒だった季光が念仏を唱え、皆にも唱和を促して光村がそれに応じたとのこと。法華堂に攻め寄せた時頼方は寺門に攻め込み、守る三浦方との激戦は1時間半から2時間弱に及びましたが三浦方は矢も尽き、その間に泰村ら主だった者だけで276人、全部では500人以上が自害を遂げています。法華堂にいて逃げ遅れた法師が天井に隠れてその様子を目撃しており8日にその証言が取られていて、それによると光村は頼経公の時代に道家殿下の内々のご命令通りに企てを行えば武家の権を執らせると言ってきたのに、泰村殿が躊躇していたため愛児と永遠の別れをすることになったばかりか、当家滅亡になるとは後悔するにあまりあると言って、小刀で自らの顔を削り、まだ私の顔とわかるか?と周囲に問うてさらに顔を削り、その流血で頼朝の御影が汚れたとのこと。さらには法華堂に火を放ち我々の死体を燃やすべきだと主張。それに対して泰村が頼朝公の御影を血で汚すのも法華堂に火を放つのも不忠の極みだと止めたため火災にならずに済んだそうです。泰村は数代の功があれば子孫も罪を減じられる。まして三浦一族は義明以来4代で、また北条氏の外戚として内外のことを補佐してきたのに1度の讒言で誅戮の恥辱に会おうとは憤懣やる方ない。だが父義村は他家を多く滅ぼしてきたことを思えば因果応報かもしれない。もはや冥途に旅立つ今となっては北条殿を恨むべきではないと言って号泣したとのこと。幕府は法華堂から光村の死体を発見できておらず、この法師の証言でその理由が判明したとあります。光村は自分の顔を小刀で削り取ってわからなくしたんですね。そんな凄惨な場面をお茶の間にはお届けできないってことで『時宗』では光村も普通に自害してただけでした。なお光村の妻は後鳥羽上皇の北面の武士の医王左衛門尉能茂法師の娘で、当世無双の美人だったそうです。相思相愛で光村は別れがたく、出陣前にお互いの小袖を交換し着用していたとのこと。
5日夕方には幕府は六波羅探題重時に使者を送り、泰村・光村らが挙兵し合戦となったが皆討ち取った。季光も三浦方に付いたがやはり討ち取ったと朝廷に報告し、西国御家人にも通達せよとの命令が出されています。6日に幕府は泰村の妹婿の千葉秀胤(宮騒動で本国の上総国に追放されていた)を討つよう、一族の大須賀胤氏と東胤行に命令し、翌7日に攻められた秀胤は館に火を放って自害。こうして宝治合戦は終結しています。翌7月には早くも重時が鎌倉に下ってきて連署に就任。時頼は季光の娘を離縁して、重時の娘の葛西殿を後妻に迎えています。『時宗』では季光の娘が戦後に重時の養女となって時頼に嫁ぎ時宗を産んだという設定でしたが、放送時に出版された歴史本ですでに史実は上記の通りだと指摘されていた記憶があります。また三浦本宗家は滅亡しましたが、庶流の佐原家のうち時頼に味方した矢部禅尼の息子たち(およびその異母兄たち)は生き残り、五男(矢部禅尼の息子としては次男)の盛時が三浦氏を相続しています。
宝治合戦については時頼は最初から和睦するつもりなどなく、全て三浦氏を滅ぼすための謀略だったとする説もあります。しかし21歳の若い時頼(『時宗』の渡辺謙より映画『禅』の藤原竜也がイメージに近い)がそこまでの謀略を企んでいたとは考えにくい。時頼が檜皮姫の喪に服すため泰村邸に滞在していた5月13日から27日までの間も泰村への挑発は行われており、泰村邸滞在中に決裂したら時頼自身が危険にさらされることを考えれば、この挑発は安達氏によるもので時頼は本気で和平を模索していたと考えられます。ただし時頼が三浦氏の挙兵を疑って泰村邸をひそかに抜け出した27日以降は時頼も三浦追討への決意を徐々に固めていった可能性が高い。北条と三浦の和平が成立したのに安達が勝手に三浦を攻撃して時頼もそれに引きずられて合戦に突入したとしているのはあまりにも不自然です。それでは三浦氏ではなく安達氏が時頼の命に背いたことになってしまう。おそらくこのあたりは結果的に三浦氏を罠にはめるようなことになってしまった時頼をかばうための曲筆が施されている可能性が高いでしょう。実際には時頼も泰村も和睦一辺倒ではなく和戦両用の構えを取っていたものと思われます。それぞれ相手の陣営に光村や景盛のような好戦派がいることを知っていたため、自分が和睦を志しても向こうが攻めてくるかもしれず軍備を整えていたはずで、戦闘が数時間に渡り、攻めた北条・安達軍が苦戦しているのは三浦方も合戦の態勢が十分に整っていたからだと思われます。ただ三浦氏にとって弱点だったのは将軍頼嗣を時頼方に囲われていたこと。時頼を攻撃すれば将軍に対する謀反と喧伝されかねず、泰村が最後まで逡巡したのは彼の優柔不断さもあるでしょうがそういう理由もあったかと思われます。そう考えるとやはり光村の言っていた通り大殿頼経が鎌倉にいた宮騒動の時に決断しておくべきだったかもしれません。
うーむ、やっぱり長くなってしまった。てなわけで摂家将軍の終焉と親王将軍の誕生については最終回としてまた次回。そっちはあんまり長くならないでしょう。
>ヤーレンコーラン
中国ドラマ『コウラン伝 始皇帝の母』がBS12で放送開始されたようです。字幕版で全62話の完全版バージョンのようです。
#11341
バラージ 2023/05/12 22:46
できるかな?
歴史とは関係ありませんが、NHK教育テレビ(現Eテレ)でかつて放送してた教育番組『できるかな』にレギュラー出演していた“のっぽさん”こと高見のっぽさんが亡くなられましたね。小学生の時の夏休みとかに観てたなあ。子供の頃に大好きな番組でした。まあ、これも教育番組史ってことで、ご冥福をお祈りします。
>録画で観た歴史関連映画
『トロイ』
僕はギリシア神話も結構好きなんですが、この映画は神話要素を抜いた史劇風の作品として作られてると聞いて今一つ食指が動きませんでした。しかしまあ『ベン・ハー』や『スパルタカス』みたいな古代史劇映画はわりと好きなのにそのわりには観てきてないなということで、これまた年始にテレビ放送されたのを録画して今頃ようやく観てみることに。なお後にディレクターズカット版のBlu-ray&DVDも出たようですが、僕が観たのは通常版。
感想としては、うーん、やっぱり神話要素を抜いちゃうと気の抜けた炭酸みたいに味気ない。黄金の林檎をめぐる3女神の争いとか、アキレスは全身無敵だけど踵だけが弱点とか、絶対に的中する予言を信じてもらえないカサンドラとか、僕の好きなエピソードが当然ながら全部ばっさりカットされちゃってる。カサンドラなんて神話要素がないと説明しづらいからか登場すらしないし。またカサンドラ以外の予言エピソードもほぼなし。神話要素がなくても予言の話は入れられそうなもんですが。3女神の争いがないから物語の始まりもえらく唐突でほとんどいきなり戦争が始まってるし、アキレスやヘクトルが神など信じない無神論者みたいになっちゃってるのもなあ。神様が存在するのが当然の前提となってる神話から飛躍しすぎで、あまりに現代的すぎるような。それでいてやはり神話要素がないと説明しづらいにも関わらずトロイの木馬は入れざるを得なかったようで、でも説明しづらいからかずいぶんあっさりとした描写になってましたね。僕も昔トロイの木馬の話を最初に知った時は、トロイの連中はなんでこんないかにも怪しげなもんを、わーい神様の贈り物だーとか言って城内に引き入れたんだ?とか、なんでギリシア軍も城内に伏兵を浸入させる計略にこんな突飛なもん使うんだ?とか不思議に思った記憶があります。あとこれは予想できてたことだけど、ブラピ演じるアキレスが主人公だからアキレスが最後のほうまで死にません。それにしてもブラピはブラピでしかないな、アキレスではなく(笑)。
映画としても『アレキサンダー』の後に観ちゃうとどうも……。意図したものなのかもしれませんが1950〜60年代の大作映画っぽい作風で、悪く言うとちょっと古臭い。ものすごい金をかけた大作でありながら、なんとなくB級感もあって悪く言うとちょっと安っぽい。このあたりはオリバー・ストーンとヴォルフガング・ペーターゼンの力量の差なんだろうか?
『グラディエーター』
これもちょっと前にWOWOWで放送されたんで録画観賞。こちらもディレクターズカット版があるようですが、僕が観たのは通常版です。古代ギリシア&ローマ史劇映画ブームの火付け役となった作品とのことですが、主人公は架空人物なんで史劇というより時代劇かな。『ローマ帝国の滅亡』(未見)の実質的リメイクらしいけど、ストーリーラインはなんとなく『ベン・ハー』にも似てるし、剣闘士の話というところは『スパルタカス』っぽくて、いろんなのが混ざってる感じですね。面白いことは面白かったんですが、リドリー・スコット監督の持ち味なのかペースがゆったりとしてて、『アレキサンダー』『トロイ』より短いはずなのになんだか長く感じました。あと皇帝コンモドゥスが強くもないくせに最後に主人公と剣闘で闘おうとする展開はちょっと不自然な気がしましたね。史実のコンモドゥスは実際に闘技場で剣闘士や猛獣と闘ったという異常に強い人だったらしいんで、そういう設定にしたほうが良かったんではないかなあ?
観終わってから調べたら史実的にはかなりめちゃくちゃな作品のようで、史実のマルクス・アウレリウス・アントニヌスは病死で、もちろん暗殺なんてされてないし、コンモドゥスのことを溺愛してたらしく共和制に戻そうと考えてもいなかったようです。ルッシラは自らの野心のために弟を暗殺して夫を皇帝にしようとした悪女で、暗殺失敗後に島流しにされて死んでいるし、12年在位したコンモドゥスは暗殺未遂後も10年生きており、それ以前はわりと無難な治世だったようですが、その後は他人を信用しなくなって粛清を繰り返し徐々に暴君化していったようです。最期は粛清しようとした愛妾と重臣たちに逆に暗殺されたとのことで、ここまで史実と違うとほとんど『柳生一族の陰謀』のノリに近いような。なんでも20年以上経った今頃になって続編が始動するらしいんですが、あんなに史実とかけ離れてどう軌道修正するんだろ?
さて、あとは『300』シリーズと『ポンペイ』を観れば近年の古代ギリシア&ローマ史劇映画はあらかた観たことになるんですが、どっかで放送しないかなあ。
>名画座情報
『ザ・エンペラー 西蔵之王』……日本の映画サイトでは原題が「西蔵之王」となってますが、百度百科・中国語版Wikipediaではともに原題が「松賛干布」となっています。また百度百科では監督は普布次仁で脚本は李陽になっています。日本公開時のポスターやVHSパッケージでは名画座にあるように監督・脚本共に「ヨン・カツ・ヤオ」となっており、香港影庫HKMDBというサイトではDirectorsがYang Chi-YaoとLeung Siu-Wah、ScreenwritersがLi YangとMingma Tseringとなっていたため、以前はそちらをもとに監督のヨン=カツ=ヤオは楊吉友ではないかと紹介しましたが、百度やWikiのほうが信頼性は高いかもしれません。おそらくこの映画も日本公開に際しては中国からの直輸入ではなく香港経由で輸入されたんではないでしょうか。
『孫文』……確か以前に僕がオリジナルは170分ではないかと書いたと思うんですが、改めて現在また調べたら百度百科・中国語版Wikipediaともに150分となっており、某有名動画サイトにある動画も約150分でした。どうもすいません。
『トロイ』……上記の通り196分のディレクターズ・カット版もBlu-ray&DVD化されています。
『La Battaglia di Maratona(マラトンの戦い)』……キネマ旬報の他にallcinemaにも『マラソンの戦い』という邦題で掲載されており、検索すると日本版のパンフレットやポスターもあるようなので日本でも公開されたんではないでしょうか? それともポスターやパンフレットまで作られながら何らかの事情で公開中止になったんでしょうか?
>未見映画
『ユリシーズ』……1954年のイタリア映画。トロイア戦争の後日譚とも言うべきホメロスの『オデュッセイア』の映画化で、NHK-BSで何度か放送されてたんだけど、その度に録画を忘れてたり裏番組とかぶったりで見逃しております。神話要素がきちんと入っている映画のようで、歴史映画か?と言われちゃうとあれですが、それを言ったらトロイア戦争だって神話の話なんだし。なお、『トロイのヘレン』『大城砦』でもオデッセウスの名前はユリシーズのようです(『トロイ』のみオデュッセウス)。
『トロイの秘宝を追え!』……2007年のドイツのTVムービー。DVDパッケージのデザインが思いっきりインディ・ジョーンズのパクリで背景にはトロイの木馬まであるんだけど、実際にはシュリーマンがトロイの遺跡を発掘するまでの地味で真面目な伝記ドラマらしい(笑)。
#11340
ろんた 2023/05/10 22:48
変換ミス
大抵は意味が通じないんで、ミスしてるって分かるし脳内で復元できる。だから指摘したり訂正したりしないでOKだと思うんだけど、これは始末の悪いことにそれなりに意味が通じちゃってるんで訂正しときます。
×:政治家たる芸能人の歴史
○:政治語る芸能人の歴史
他にも二点ばかり修正点を見つけたので、こっちはついでに。
×:コラム(細谷正充・文芸評論家)で取り上げられていた時代歴史小説が二篇をご紹介。
○:続けてコラム(細谷正充・文芸評論家)で取り上げられていた時代歴史小説二篇をご紹介。
×:紗倉まなさんの短編集「ごっこ」が紹介されてました。
○:紗倉まなさんの短編集『ごっこ』が紹介されてました。
#11339
ろんた 2023/05/09 23:37
書評から
新聞の書評ページに歴史物が多かったんでご紹介
・『読むワイドショー』(パオロ・マッツァリーノ/ちくま新書)
書評は「政治家たる芸能人の歴史」(プチ鹿島=時事芸人)となっていますが、権力とメディアの現代史という印象。NHKの「クローズアップ現代」で国谷キャスターが菅官房長官を問い詰めて降板させられたというのは記憶に新しいけど、大昔からそういう話があったことが紹介されている。占領下、「日曜娯楽版」(NHKラジオ)という人気番組があった。過激な風刺ネタが中心だったが、主権回復後に終了。(理由は、主権が回復したからでしょうなぁ) その後継番組で風刺色を薄めた「ユーモア劇場」が始まるが、造船疑獄の発覚でリスナーの投稿が過激化、1954年に終了。後に両番組の制作に深く関わった三木鶏郎が当時のNHK会長に確認したところ、「ユーモア劇場」終了は佐藤栄作(当時の自由党幹事長)の圧力によるものだったと認めたらしい。評者は安倍晋三との縁を語っているけど、わたしは新聞以外のメディアが大嫌いだった"栄ちゃん"らしさを感じるとともに、その小心さが恐くなった。この辺、安倍晋三と似ている気がする。兄貴の方はさすが妖怪で「声なき声が聞こえる」とか嘯いてたんだったかな? 他に「ロッキード事件をウヤムヤにしないで追及してほしい」と森光子が三木武夫(当時首相)に注文した話など。
・『江戸のキャリアウーマン』(柳谷慶子/吉川弘文館歴史文化ライブラリー)
「キャリアウーマン」って死語じゃないか、と思っちゃったんだけど、大名屋敷で働く「奥女中」のこと。武士をサラリーマンのアナロジーで語るようなものか。彼女らの昇進、給与システム、老後の処遇などが語られているらしい。ただ評者(牛窪恵=マーケティングライター)は「武士以上に実力社会で、才覚次第でかなり上の職位にまで出世可能だった……」としているけど、その後の「地道にキャリアを積み上げ、健康を保って勤続年数を延ばすことで、場合によると自ら家を興すことさえできたという。」というところから見ると、年功序列のように思えるのだが。あと、江戸後期は長寿化が進行し、親の扶養や介護が社会問題化したというのはちょっと面白い。
・『文豪、社長になる』(門井慶喜/文芸春秋)
見たら内容が分かる、という意味で秀逸なタイトル。そう、菊池寛のことですね。今日、彼のことを文豪と考えている人がどれだけいるか分からないけど。一高の同期で同じ「新思潮」の同人だったが、先に世に出たのは芥川。なにせ夏目漱石に見出されたんだから。しかし、芥川の誘いで大阪毎日新聞に入社し、『真珠夫人』が大ヒット。(これ、あの昼ドラの原作だよなぁ) そして講演で訪れた大阪で、編集者・植村宗一と知り合う。これが後の直木三十五。川端康成ら新人(笑)の活躍の場として「文芸春秋」を創刊。巻頭随筆が芥川、直木が借金で首が回らなくなると、返済のために文壇ゴシップを書かせる。といった具合にプロデューサー(「文壇のボス」ともいう)としての手腕を発揮し、「文芸春秋」を総合雑誌として成功させる。評者(末國善己=文芸評論家)は触れてないけど、確か対談、鼎談、座談会という形式を発明したのも菊池寛じゃなかったか。とまあ、ここまでは光の部分だけど、負の側面となると「菊池は国家や戦争から距離を置いていたが、戦争に協力すべきという編集者、作家、読者は予想以上に多く、『文芸春秋』は戦時色に染まっていく。」と周囲のせいにしているらしい。「公職追放など晩年には悲劇もあった菊池だが……」に至っては贔屓の引き倒しではないか……と思ったら文芸春秋の本だったんですね。納得(笑)。
コラム(細谷正充・文芸評論家)で取り上げられていた時代歴史小説が二篇をご紹介。
・『朝星夜星』(朝井まかて/PHP研究所)
主人公は長崎丸山の傾城屋で働く女中・ゆき。大柄で力持ちだが料理下手。阿蘭陀料理人・丈吉に見初められて夫婦に。維新後、西洋料理専門店を開業。その後、大阪でホテルを併設した「自由亭」を経営し、支店も増えていく。しかし、夫婦の問題、嫁姑問題、店の経営問題などが次から次へと持ち上がり苦労が絶えない。さらに五代友厚、陸奥宗光、後藤象二郎、岩崎弥太郎などが自由亭と関わる。え〜〜っ、朝ドラ?(笑) でも、面白そう。
・『たらしの城』(佐々木功/光文社)
「たらし」は木下藤吉郎のこと。となると「城」は墨俣の一夜城。現地(?)では立派な天守閣まで建っているようですが、実在すら疑われている。ということで、常に考え、思いついたことは即実行、人には開けっぴろげな好意を示し、何事にも赤心であたる木下藤吉郎が、木曽川筋の勢力を束ねる蜂須賀小六たちを巻き込んで、「洲の俣(墨俣)」に砦を築く、徹底的なエンタメ作品。「ある人物を通説より早く主人公と絡ませる」というけど、竹中半兵衛?
・追記
紗倉まなさんの短編集「ごっこ」が紹介されてました。
>蔦重
蘭学者と関係が深いのは須原屋市兵衛でした。同時代人ではあるけど、どこでこんがらがったのか? 『風雲児たち』に出て来た瓶底メガネの本屋を蔦重と思い込んだのかな。多分、アレ須原屋市兵衛。しかし、蔦重視点から見ると定信は悪玉ではないかなぁ。あと、wikiとか定信を持ち上げすぎじゃない?
#11338
バラージ 2023/05/04 23:35
ああ、すいません(笑)
蔦屋が後援した文化人連中が化政文化として習った人たちだったんでつい勘違いしちゃいました。確かに蔦屋が活動した時期は寛政年間だったようですね。
映画『写楽』でも松平定信は必ずしも悪役には描かれていませんでしたが(手鎖処分が解けたところから始まってたので田沼は登場しない)、近年では享保の改革→田沼政治→寛政の改革は連続性のほうが強調されてるようですね。そういう意味では山本周五郎『栄花物語』や『風雲児たち』の描き方はすでに古くなっているようです。あんまりこの辺はくわしくないんですが。
#11337
ろんた 2023/05/04 22:16
杉村善光『知泉源氏』(新評論/1〜3以下続巻)
「田中角栄が日本列島を改造して高速道路や新幹線を作った。最大の功績は日中国交正常化」みたいな話がクイズ番組から流れてくる。なんだか雑すぎ。プロデューサーが変な本読んで洗脳されてるんだろうか。これって、もう偽史だろう(笑)。
それはさておき『知泉源氏』。『源氏物語』の「初の完全漫画化」ということで現在三巻まで刊行。『源氏物語』の漫画化といえば『あさきゆめみし』(大和和紀)だけど、いろいろアレンジされてますからね。葵上のデレが分からなくて悩んだり、六条御息所に癒しを求めるんだけど(なんか違う)と思ったり(この人もツンデレ)、空蝉(人妻)を口説こうとしてうまくいかずに義理の娘(軒端荻)の方といたしちゃったり、夕顔を物の怪に取り殺されたり、女児(若紫)を誘拐同然に(父の同意なし)自邸に住まわせたり、藤壺中宮とチョメチョメで後の冷泉帝が生まれたり……と色々てんこ盛り。いや、原典通りではあるのですが(笑)。一応刊行予定が発表されているのは、第1期《青春編》全6巻で2023年末に完結(第十六帖・関屋まで)。本居宣長の二次創作(?)「手枕」も漫画化するという。
著者は雑学系ライター、漫画家、ラジオパーソナリティー、作詞家。"知泉"はウェブ上での名前。"雑学系ライター"というと、呉智英とか'80年代に既に雑学の流行を「知識ころがし」と批判しているけど(曰く「グルグル回ってるだけで、根本にさかのぼらない」)、この人はさかのぼって色々批判しているので(ビー玉=B玉説とか銀ブラ=銀座の喫茶ブラジルでコーヒーを飲む説とか)、まあ信用していい気がする。
そしてこれ、学習漫画だったりするのでした。原稿を持って色々と出版社を回っていたようで、おそらくは来年の大河関連で出版にこぎつけたと思うんだけど、売れてほしいなぁ。近所の本屋では見かけず、例によってe-honで買ってるんで。
>クレオパトラ
クレオパトラに関しては「ドキュメンタリーなら定説でやれ、諸説を紹介するならその後」というのに尽きますね。ただ、これってそのやり口にフィクションの問題と通じるものがあって、俗に言う「他人のふんどしで相撲を取る」なんですよ。古典や名作、人気作に、無理矢理黒人設定をねじ込んでフリーライドしている。それが今回、史実に対してだったから盛大に自爆したわけだけど、多分それも分かってない。そして批判に対して「差別だ」と反論にもならない反論しかできない。あまりにも理論武装が貧弱。おそらく自分たちが正義だと思ってるからだろうけど。
要するに、既存の作品を使わずに新しい「神話」を紡ぎだせば、誰も文句は言わないんだけど、なぜかそれが分からんのですよ、あの人たち。黒人女王の話が見たければ、実在の女王を取り上げればいい。ぶんか社の人、翻訳して「ジンガ女王」(佐々木彩乃)の原稿、送ってやればいいのに(笑)。
>蔦屋重三郎
え〜〜っ、蔦重って田沼時代から寛政改革期の人では?(汗) 化政期のは二代目? 店自体は明治時代まで続いてたみたいだけど。となると、田沼意次が善玉、松平定信が悪玉? 虚実を織り交ぜて蘭学者らとの関係を描いたりして……。あれ? これって「天下御免」と『風雲児たち』を混ぜたような話になっちゃわない?(笑)
#11336
バラージ 2023/05/03 23:13
僕も
蔦屋重三郎は大学時代に観た映画『写楽』で初めて知りました。へぇー、こんな人いたんだと思いましたね。今回改めて調べてみると蔦屋は48歳の若さで死んでいるらしく、実はフランキー堺(当時60代半ば)では歳を取りすぎだったんですね。フランキーが故川島雄三監督と約束した30年越しの企画だっただけに、ようやく実現できた時には歳を取りすぎちゃってたってことなんでしょう。化政文化の芸術家連中の版元ってことで他の芸術家映画にも登場してるようで、『歌麿をめぐる五人の女』『歌麿 夢と知りせば』『北斎漫画』といった映画にも出てくるらしく、最近では一昨年公開された映画『HOKUSAI』で阿部寛が演じていたとのこと。今回は横浜流星ってことで、吉沢亮の渋沢栄一同様にえらくイケメンになっちゃったな(笑)。
文化文政時代も大河では空白期間だったんですが、この辺りは政治家を主人公にしても政策話ばっかりになって今一つ面白くなさそうだっただけに、なるほどね、こういう方向性で来ましたかという感じ。その辺は来年の藤原道長じゃ今一つ面白くなりそうにないから紫式部ってのといっしょで。ただ、どっちも基ネタの量が少ない(紫式部なんかは『紫式部日記』ぐらいしかなさそう)だけに、大量にフィクションをぶちこむことになるんではないでしょうか。そうなってくるとやっぱりNHK時代劇、もしくは朝ドラに近いテイストになりそうな気もします。予算的には紫式部のほうは新たにセットや衣装を作らなければならなそうだからそこそこ予算もいるでしょうが(それ以前のNHK平安ものだと稲垣吾郎版『陰陽師』あたりまでさかのぼることに。鎌倉以降の公家でも代用できるだろうけど、『13人』の朝廷側はほんとショボかったからなぁ)、文化文政期でしかも町人層なら普通の時代劇からいくらでも流用できそう。まぁ、それだけNHKも予算が厳しくなってるのかも。それと人気の戦国・幕末もやり尽くして、大河もさすがにネタ枯れになってきたかなと思ったりもしますね。あ、ちなみに『どう家』は僕はちょっと前にもう脱落しております。
>録画で観た歴史映画
『アレキサンダー』
オリバー・ストーン監督の映画は90年代半ばくらいまでは熱心に観てたんですが、『天と地』『ニクソン』が明らかに失敗作だったのと、その後の作品が社会派要素のない純粋なサスペンス(『Uターン』)やアメフト(『エニイ・ギブン・サンデー』)などあまり興味のないジャンルだったこともあり、21世紀に入ったあたりからは徐々に興味を失って観なくなってしまいました。この映画もその頃の1本です。その後、久々に観たストーン監督作が『ウォール街』の20年以上ぶりの続編『ウォール・ストリート』で、次の『スノーデン』も劇場では見逃したもののテレビ放送を録画して観たことから、他の作品も落穂拾い的に観ていくかなと思い直して、『ブッシュ』『ワールド・トレード・センター』もDVDやテレビ録画で観賞。そしてこの映画もテレビ放送されたんで今回初観賞と相成りました。
今回観終わってから調べて初めて知ったんですが、この映画、評判が悪かったんですね。でも僕はそんなに悪くないと思いました。むしろ結構面白かったです。まあ傑作というほどではないけれど、よくできた佳作と言っていいんではないかなあ。個人的には『始皇帝暗殺』よりは上で、『ブレイブハート』と同じくらいには面白かったかなと。
アレキサンダー大王については通りいっぺんにしか知らなかったけど、映画はいかにもオリバー・ストーンという感じ。親(特に父親)との確執という筋立ては『プラトーン』や『ウォール街』の頃からストーンが好んで取り上げていたもので、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』や『ブッシュ』なんかでも重要な要素を占めてましたし、連戦連勝で先へ先へと進み自らの理想を推し進めていくことでかえって孤独になっていくという主人公の姿も印象深い。映像のスケールの大きさも特筆もので、もちろんCGも使ってるんだろうけど、いやはや凄まじい規模だなと圧倒されました。またもう1つ特筆すべきこととしては、移動の距離感というものが上手く表現されていたところ。マケドニアからペルシア、さらには険しい山脈を越えてインドへと、場所を移動するごとに移り変わる過酷な自然の風景を映し出すことによって、アレキサンダーとその軍団ってほんとにすげえ遠いところまで行った(来た)んだなあと感じさせてくれます。そりゃあんな遠いところまで連れてこられたら国に帰りたくなるよなと。そういう距離の移動感(や年月の経過感)が適当な映画やドラマって結構あるんですよね。
戦闘シーンもこれまた凄まじく、ガウガメラの戦いは様式美もわずかに残しつつリアリティー溢れる大規模軍隊のまさに“戦争”を描き、最後のほうのインド戦は明らかにベトナム戦争を意識した凄惨な血みどろの戦いで泥沼な地獄の戦場を描き出してました。象さん軍団は間違いなくCGが含まれてるでしょうが、あんなのと戦うなんてとんでもない恐怖だよなと、古代であっても現代と何ら変わりのない「戦場の恐怖と狂気」を見せて、戦争なんて栄光だの名誉ではなく実態はあんなもんだよと感じさせてくれる作家はそうはいないでしょう。その辺はいかにもベトナムの戦場を経験したストーンならではといったところ。前記の故郷から遠いところでの戦争に連れてこられ、国に帰りたいってのもベトナム戦争に通じるところがあります。
役者陣では主演のコリン・ファレルって、『ドアーズ』でジム・モリソンを演じた頃のヴァル・キルマーになんとなく似てるなと観てる間ずっと思ってたら、父親のフィリッポス2世を演じてたのがちょうどヴァル・キルマーだった(笑)。観てる間は全然わかりませんでしたが、意識してキャスティングしたんだろうか?
まあ、とにかく久々に観た西洋古代史劇映画として満足させていただきました。
#11335
2023/04/30 21:22
再来年の大河はツタヤ協賛?
>再来年の大河
そろそろ公表かな、と思っていたら公表されましたね。来年の紫式部にも驚きましたが、再来年は蔦屋重三郎ときたんでさらに驚き。まぁ「またか」というネタが続いてウンザリしてた時期もありますから、こういう傾向自体は歓迎。視聴率的には難しそうだなぁとは思いますが。
武将とか政治家ばっかりでなく、芸術家とか主役の大河があってもいいじゃん、とは以前から言ってたんですが、「蔦重」はそういう芸術家たちを売り出す出版社の社長あるいは編集者あるいはプロデューサーですよね。ここは意表を突かれましたが、うまくやればなかなか面白くなるかも。
蔦重といえば、映画「写楽」(ツタヤ協賛)の実質的主役のようなポジションでフランキー堺が演じていたのが印象深い(そもそもこの映画の企画自体がフランキーさんによるもの)。僕はこの映画で初めて彼を知ったのですが、写楽、歌麿、北斎、一九、馬琴、京伝などなどみんな彼のところに出入りしててビックリしたもので、その意味でも彼を主役にするというのは面白い観点だと。風紀取り締まりで手鎖刑など弾圧も受けてるから今日的観点からも興味深い展開は描けそうです。
しかしまぁ、確かに来年と再来年の大河は合戦シーンはないから予算的には楽(?)かも。文化文政期の江戸時代というのも大河では初めてと思いますし、スペクタクルな場面いっさいなしというのもたまにはいいかと。
>新・オスマン帝国外伝
これねぇ、放送開始前日に確認しましたよ。まだ「前作」だって見終えてない(あと90話くらいか)のに放送始まっちゃって、録画溜め中。HDDレコーダーの残量との戦いが再開され、いろいろ毎日のように見ては消していかなきゃならくて。
しかし邦題のほう、前作も「外伝」なんてとんでもないスレイマン治世一代記でしたからそこはなんとかなんなかったかなぁ。
#11334
バラージ 2023/04/27 22:05
2年連続で文化人大河
再来年(2025年)のNHK大河ドラマが横浜流星主演で蔦谷重三郎が主人公の『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜』と発表されました。いやまた来年の紫式部に続けて大河では初めての時代を舞台とした映像作品としてはややマイナーな題材を持ってきましたねえ。脚本は今年、男女逆転『大奥』が大河をしのぐ話題となっている森下佳子とのことなんだけど、以前『おんな城主 直虎』の脚本もやってたのか。それにしてもこの時代で文化人主人公だと史劇というよりNHK時代劇っぽくなっちゃいそう。まあ予算はかからんでしょうが。
>続報
僕もその後に気付いたんですが、ろんたさんの仰る通り中央日報以外にも複数のメディアが報じた黒人クレオパトラの記事の邦訳がネットに上がってるようですね。それらの記事を読むと若干ニュアンスの違いがあり、ザヒ・ハワスが「クレオパトラは金髪女性だった」と言ったと記しているメディアは中央日報以外にはありません。おそらくアラビア語→英語→韓国語→日本語と何重にも翻訳を繰り返した過程で誤訳が生じた可能性が高いようです。中央日報の記事はタイトルから「「金髪クレオパトラがなぜ黒人に?」 Netflixのドキュメンタリーに歴史歪曲論争」と「金髪」の言葉が入っており、韓国語に翻訳された時に誤訳が生じたのではないかと思われます。
BBCの記事も出ており(「アフリカ系演じるクレオパトラにエジプトから批判の声 米ネットフリックスのドラマ」)、そちらでは「これは完全なフェイクだ。クレオパトラはギリシャ人だった。つまり黒人ではなく、明るい肌の色だった」となっています。またジェイダ・ピンケット・スミスの発言は、「黒人の女王の物語を見たり聞いたりすることはあまりないので、私にとっても、娘にとっても、そして私のコミュニティーにとっても、こうした物語を知ることは本当に重要だった。そういう話はごまんとあるのだから!」となっており、ピンケット・スミスについては英語だけにこちらのほうがより正確だと思われます。
それにしても同記事にある、エジプトの弁護士がネットフリックスのサービスをエジプトで遮断するのに「必要な法的措置」を取るよう検察当局に申し立てたってのは、いくらなんでもやりすぎの気が。ネットフリックスが「アフリカ系中心の考え方を広めようとしている。(中略)そこにはエジプト人のアイデンティティーをゆがめ、消すためのスローガンや文章が含まれている」と語ったらしいけど、さすがにネットフリックスはそこまで考えてないでしょう。反外国感情の行き過ぎのように思いますね。
ARAB NEWS JAPANのザヒ・ハワスによる詳細な批判の寄稿も読みましたが、基本的にはもちろんまっとうな批判ではあるものの、「アフリカの古代人は、(エジプトのファラオ文明と=筆者注)同じようにナイル川の恵みと、より良い気候に恵まれていたものの、何も残さなかった。」というあたりはやや反発を呼びそうな発言な気も。なんとなくこの辺りは北部のアラブ・アフリカと中南部のブラック・アフリカの感情的対立に起因してるような気がしないでもありません。また皮肉なのか真面目になのかわかりにくいんですが、「私はピンケット・スミスに、その業績と物語が十分に劇的で、それを伝えるのに政治的な動機による装飾を必要としない女性について教える機会があれば幸いに思う。」というのもどうも。ピンケット・スミスにとって重要なのはBBCの記事にもあるようにあくまで「黒人の女王の物語」だったはずで、黒人女性でなければ意味も関心もなかったはず。
一方でVOGUEでは同作の監督でペルシャ人としてイランで生まれたイギリス系米国人のティナ・ガラヴィによるコメントが掲載されています(「「アフリカン・クイーンズ: クレオパトラ」監督、黒人俳優起用への反発にコメント」)。ただ、こちらの反論では問題提起と議論がすれ違っている感じで、あまり有効な反論になっていません。
1番冷静な視点から慎重に各方面に配慮しつつ書かれたように感じられる説得力のある記事はARAB NEWS JAPANの編集長ファイサル・J・アッバスによるコラム記事ですかね(「クレオパトラ女王はリトル・マーメイドとは違う」)。アッバスの言う通り、この作品の問題点はドキュメンタリードラマとして作られてることでしょう。あくまでフィクション作品ならイエス・キリストがジーンズを履いてロック・ミュージックを歌っても問題ありませんが、ドキュドラマでは非常に問題があるということになります。
>未見歴史映画
『SOS北極… 赤いテント』……1969年のソ連・イタリア合作映画。DVD邦題は『SOS北極 レッド・テント』。イタリアの飛行技術者ノビレとノルウェーの極地探検家アムンセンが1926年に初の飛行機による北極点通過を成功させた後に仲違いしたところから、1928年にノビレが2度目の飛行機による北極点通過を目指しながら遭難し、救助に向かったアムンセンも遭難した事件を描いた70oの大作。実際に北極ロケを敢行したとのこと。ノビレ役はピーター・フィンチ、アムンセン役はショーン・コネリー。ソ連版と国際版があるとのことで、日本で公開およびDVD化されたのはソ連版だそうです。
#11333
ろんた 2023/04/26 20:25
クレオパトラの肌の色2
ザヒ・ハワス氏の批判が日本語で読めるようになってました(「クレオパトラは黒人ではなかった ─ ここにその事実を示す」ARAB NEWS JAPAN)。黒人でない証拠は、これまでに発見されたありとあらゆる彫像、顔と名前が刻印された硬貨、絵画。そして、黒人であるという証拠は何一つない。最後のパラグラフが強烈。
Netflixがこの新シリーズを純粋なドラマではなく、ドキュメンタリードラマに分類したのは残念なことだ。なぜなら、古代エジプトについて知っている人なら、誰一人としてこの作品を真剣に見ることはできないからだ。
あと、わたしのクレオパトラ観が塩野七生史観に毒されていた(?)みたいで反省(汗)。
>「犬神家の一族」前半
このドラマ、全部大竹しのぶに持ってかれちゃってるなぁ。ああ、やはり事件の発生は昭和22年ということになっているみたい。奉納手形に昭和18年とあって、出征から4年間ってセリフがあったから。でも、佐兵衛翁の死が08/01ってことになってるんで、そうなると旧民法と新民法の経過措置期間中で……。ええ〜〜っ、素直にドラマを楽しもうと思います(汗)。
>バラージさん
上の記事には「金髪」の話はありませんでした。要約者のキーボードが滑ったんだろうか? で、実写版「リトル・マーメイド」(やっぱディズニー制作?)。六人のお姉さんの設定が流れてきたけど、人種が様々。つまりお父さん、七つの海に愛人がいたらしい(笑)。それともウルトラ兄弟みたいに血の繋がりはないのだろうか? 「人魚に人種があるのかよ!」という野暮なツッコミは無しにしますが、これならアリエルは赤毛のままで、お姉さんを一人一人ピックアップして第七部まで作った方がおいしかったんじゃなかろうか。ディズニー、ビッグビジネスを逃したな(笑)。
市川版「犬神家」の坂口良子さんだと、わたしは
「食べなさい、食べなさい」
「食べてる暇がありません!」
かなぁ。(記憶で書いてるんで言い回しとか違ってるかも) 「三毛猫ホームズ」シリーズ(石立鉄男版)も良かったけど。
#11332
バラージ 2023/04/21 22:12
ナディア・コマネチは北野ブルーの夢を見るか?(特に意味はない)
北野武(ビートたけし)監督の映画だと僕は『その男、凶暴につき』『3―4X10月』をテレビで、『ソナチネ』『キッズ・リターン』『HANA-BI』を映画館で、『座頭市』をまたテレビで観ました。テレビで観た3作はテレビでたまたまやってたのを観始めたやつで、最初から観たのかは覚えていませんが最後までは観ましたね。特に面白かったのは『キッズ・リターン』かな。
『首』は配役を見ると、秀吉を演じるたけし本人だけがえらく年寄りで、年齢バランスがおかしいように感じたんですが、最初は監督だけやるつもりがスタッフからやっぱ出なきゃまずいだろと言われて出ることになったとのことで、たけし本人も「なんでこんなじじいが秀吉をやるんだと年齢関係が全然なのですが」と笑いを交えて言ってたようですね。まあ年齢設定で言ったら『LEGEND & BUTTERFLY』(結局見逃した)でも宮沢氷魚が明智光秀という異様に若い配役だったみたいだしなあ。そういやたけしは昔、晩年の墜ちていく秀吉を演じてみたいと言ってた記憶があります。他に配役でちょっと面白かったのは弥助役の副島淳。副島くん、『世界ふしぎ発見』でも弥助のコスプレしてたことがあったんだよな。
NHK大河ドラマでも確かに登場人物みんなワルみたいな作品もたま〜にありますが、テレビということもあって北野映画に比べればかなりマイルドと言ってよく、たけし監督にしてみれば生ぬるいってことなのかもしれません。すでに公式サイトがあり、そこに載っているあらすじを読むと、なるほどこれは大河じゃ出来なさそう。秀吉黒幕説どころではなく、かなり大胆なフィクションをぶちこんだ史実なんて蹴っ飛ばせ系のストーリーですね。大河は一応大枠では史実に沿った展開となるので、さすがにここまでぶっ飛んだものにはなりにくい。ここまでぶっ飛んだのっていうと『花の乱』くらいか? あとはドラマというより原作からですが、『樅の木は残った』とか。まぁ三英傑関連は山ほど作られてるんで、これくらいのフィクション満載作があってもいいでしょう。
ただ北野監督、映画自体は面白いことは面白いんだけれども、黒澤やジョン・ウーなんかといっしょで女性を描くのはあんまり得意じゃない気がするんだよなあ。観た映画でも女性はあんまり印象に残ってないし、『首』も発表されたキャストに女性が一切いない。そこが個人的趣味からはちょっと外れてるんですよね。
>クレオパトラ
エルフや人魚姫なら黒人にしてもかまいませんが(むしろエルフなんかは、『指輪物語』ではないんだけど、ダークエルフ=悪エルフを肌の黒いエルフにしちゃうのは問題では?と昔から思ってた)、実在の人物であるクレオパトラを、ましてやドラマではなくドキュメンタリーで黒人にしちゃうのは問題ですよね。なんつーかジェイダ・ピンケット・スミスの言ってることって昔のネイション・オブ・イスラム(ブラック・ムスリム)の主張そのまんまのような。旦那がこないだ問題起こしたばっかりだっていうのになあ。
ただ一方でエジプト観光・考古省元長官の「クレオパトラは金髪女性だった」ってのも??? 白人だったのは確かとしても、金髪だったというのは何か根拠でもあるんでしょうか? 現代のギリシャ人も金髪ではなく黒髪の人のほうが圧倒的に多いような気がするんですが? もっと北のセルビアとかラテン系のイタリアやスペインなんかも金髪は少なく、フランスなんかも金髪よりはブルネットなんかのほうが多い気がするんだけどなあ。ロシア人やドイツ・北欧なんかは金髪が多数派のイメージですが。
あと、このニュースを伝えてるのが韓国メディアってのもちょい不思議。欧米メディアでも伝えてるのかもしれないけど、邦訳版はないんだよな。
そういや全く関係ないけど、70年代のブラックスプロイテーション映画に『ダイナマイト諜報機関 クレオパトラ危機突破』という作品がありました。原題が『Cleopatra Jones(クレオパトラ・ジョーンズ)』で、それが女性主人公の名前。主演はタマラ・ドブソン。現代アクションもので歴史とは全く関係ないんだけれども、ただなんとなく思い出したんで(笑)。ちなみに僕は未見です。
>『犬神家の一族』
市川崑監督の1976年版映画しか観ていません(原作も未読)。やっぱり子供の頃にテレビで観たあのビジュアルは強烈でした。石坂浩二が坂口良子の作った朝食で1番美味しかったのは生卵と言って、坂口良子がプッとふくれるところが面白かった記憶あり。
#11331
ろんた 2023/04/20 00:00
クレオパトラの肌の色は?
なんだかNetflixで配信予定のドキュメンタリー「クイーン・クレオパトラ」で、クレオパトラがアフリカ系ということになっていて大騒ぎに。まあ、かねてから「ロード・オブ・ザ・リング」の新作でエルフを黒人にして騒ぎになったり、ユニバーサルが実写化する「リトル・マーメイド」で主人公アリエルを黒人にして騒ぎになったりしてたわけですが、今回は「ドキュメンタリー」なんで歴史歪曲などと言われたりしている。
一応、BBCが2009年に制作した「Cleopatra: Portrait of a Killer」で取り上げた説が根拠らしい。トルコのエフェソス遺跡の墓地からクレオパトラの妹アルシノエの骨が発見され、オーストリア科学アカデミーのヒルケ・テュアー博士らが最先端の顔面復元技術などを駆使して人骨を分析、アルシノエの母親がアフリカ人だと判明したというんだけど、シロ−トが考えても、その骨がクレオパトラの妹だと確定できるのか疑問。文字史料でも出て来たんだろうか。「最先端の顔面復元技術などを駆使して」ってのもなんか怪しい(笑)。
よく知られているようにプトレマイオス朝はヘレニズム国家でギリシャ系。しかも近親婚を繰り返していたから、アフリカ系が入り込む余地がない。側室の子が王ないし王妃になることはあっても、その親は有力者のはずで、それがアフリカ系というのはいかがなものか。どうも「諸説あります」の「諸説」っぽい。
しかしプロデューサーのジェイダ・ピンケット・スミスは「私たちは黒人女王に対する話を見聞きすることができない。だが、世の中には多くの黒人女王がいた」と主張していて、「こんな説もありますよ」という紹介程度の話じゃなく、「こっちが正解!」というスタンスらしい。そして当然ながら、これにギリシャとエジプトが激怒。エジプト観光・考古省元長官ザヒ・ハワスは「『クイーン・クレオパトラ』は完全にでたらめだ。フィロパトル(クレオパトラ)は黒人女性ではなく金髪女性だった。最近になって米国と南米の黒人が『エジプト文明は黒人から始まった』という主張をしている」と言っている。これってポリコレが言う「文化盗用」ってことじゃなかろうか。
どうせなら、実在がはっきりしているコンゴ女王ンジンガ・ムバンデを取り上げれば良かったのに。クレオパトラより百倍かっこいいぞ。
>「新・オスマン帝国外伝 〜影の女帝キョセム〜 シーズン1」
「オスマン帝国外伝 シーズン4」のBS日テレでの放送が終わりましたけど、翌日からこれ(↑)が始まります。「史実をベースに『オスマン帝国で最も強力な女性』と評された影の女帝キョセムの盛衰をドラマティックに描いたジェットコースタードラマシリーズ!」とのことで、全84話らしい。シーズン2もあり、同じく84話。チャンネル銀河で放送済み。
>北野武「首」
最近は「本能寺の変」って聞いただけでお腹いっぱい。(『国盗り物語』読んで寝よ)って気持ちになってしまいます。原作(北野武)や映画の紹介を読むと……信長の頭がおかしくなって、光秀も秀吉も、もうついていけない、死んでくれないかな、いっそ殺しちゃおうか、と思い始める。信長の信頼厚いがゆえに悶々とする光秀。だが秀吉は光秀に殺させてうまく立ち回ろうと動き始める。そんな中、家康殺害計画を信長から打ち明けられる光秀。本能寺の茶会におびき寄せるというのだが、光秀は千載一遇の機会だと気づく。その背後に秀吉の陰謀が……という感じか。なんだかゴチャゴチャしているかも。あと「構想三十年」「黒澤明絶賛」とか聞くと、嫌な予感しかしない(笑)。まぁ、たけし監督のブランド力で海外(特にヨーロッパ)には売れると思うけど。
>集英社『学習漫画 日本の歴史』
思えば、逸話というか小ネタというかは、大体このシリーズで知ったような気がします。そういうところが漫画的表現と親和性があったというか。為朝の矢で三人串刺しになって吹っ飛ぶとか(笑)。「鉢の木」とかもこれで知ったなぁ。ただこのシリーズ、各巻で視点が違ってるというか、前巻で北条氏偉い的なこと描いてるのに、南北朝編になったらアホな高時のせいで滅びました、になったり、南北朝を合一した立派な義満が、次では傲岸不遜になってたり、通して読むと戸惑うことがありました。
あと、今では考えられませんけど、当時(1967年)は日本の歴史を漫画で扱うことに、「とんでもない、歴史を茶化すのもはなはだしい」との声もあがったとか。(最新版『学習まんが 日本の歴史』が実は”社会人の勉強”に最適すぎた) そして、創業90周年企画で描かれた現行版の表紙カバーがぶっ飛びすぎてる。
#11330
徹夜城(北野映画は「座頭市」しか見てない管理人) 2023/04/17 11:07
北野武監督で本能寺
先日、いきなり「完成記者会見」で発表されましたが、北野武監督の新作がなんと歴史もの。本能寺の変をテーマにした「首」という作品で、西島秀俊の光秀、加瀬亮の信長、たけしの秀吉といった顔ぶれでやるそうで。記者会見の発言からすると本能寺の変は秀吉黒幕説の方向なのかな。
記者会見でたけし監督、「NHKの大河ではやらないような」みんなワルの裏切り、謀略満載の作品、としてましたけど、昨年の「鎌倉殿」がそうでしたし、「太平記」ほかドロドロの作品はそこそこあるわけで…定番の信長秀吉家康を扱うものではスイーツなものも目立ったかもしれませんがね。
出演者の発言を聞く限りでも「みんなワル」「男だらけの愛憎劇」といった内容のようで、歴史ものといっても「アウトレイジ」な感じなのかも。と書きつつ「アウトレイジ」は未見でして。
>ろんたさん
僕もあの集英社版の漫画日本の歴史で歴史基礎教養を得たクチです。小学校や私立の図書館にバラバラでおいてありましてね。戦国時代ネタはたいていあれで覚えた気がしてますが、あとから考えると史実性より講談的通俗説が多かったような。
「マンガで南北朝!」でも触れてますが、南北朝時代のくだりではこっちが詳しいせいもあるんでしょうがいろいろと間違いが多い。特に観応の擾乱で尊氏と直義があっさり仲直りして一緒に南朝に反撃するという展開は謎。
#11329
ろんた 2023/04/16 23:35
ドラマ「犬神家の一族」放送間近
NHK-BSPで2023/04/22,29に1時間半ずつ3時間放送。たっぷり時間があるということで、兵隊服の男をスキーで追っかける金田一が見られるかな? これまで映像化されたことはないんだけど。ちなみに金田一は洋行帰りなんでスキーもゴルフも得意。あと、湖面から足がにょっきりなキービジュアルは、初めて原作通りになっている。現場に行ったら湖面が凍結してたんで、撮影班一同驚愕。
一応、歴史ネタをぶち込むと、事件はいつ起こったのか問題があります。原作では昭和2X年とぼかしているけど、色んな設定からすると昭和24年なのは確実。でも市川崑は昭和22年に変更し、これを踏襲するドラマが多い。どうしてかといえば、新憲法や新民法が施行されているとマズイから。遺言状の効力が限定的になって、遺留分が認められたり、遺言状の無効が申し立てできたりするんで、遺産相続をめぐる殺人事件が起こりにくい(笑)。ただ旧民法下だと、野々宮珠世が犯人に命を狙われる意味が分からない。遺言状には珠世が死んだら、孫(男子)三人に1/5ずつ、息子(青沼静馬)に2/5を分けることになってて、犯人はそれを知っているはずなのに。ただ新民法下だと、遺言状の無効に反対しそうな珠世を殺しちゃうというのはアリかな。
あと、かねてから疑問に思ってるんですが、どうして佐清はビルマ戦線なんてやばいところに連れてかれちゃったんでしょう? 犬神佐兵衛は信州財界を牛耳ってるんだから、軍部と太い太いパイプがあるに違いない。ならば可愛い孫の三人ぐらい、内地のお気楽な任地にねじ込むぐらい訳ないと思うんだけど。実際、佐武と佐智は早くに復員していて、兵隊時代は苦労してないみたい。ひょっとして、佐兵衛翁は珠世を狙っていて、珠世とラブラブな佐清を戦死させようとしてたんじゃないか──とドロドロなことを考えてしまうのでありました。
それから現代史でいうと、この後GHQが乗り込んできて犬神財閥は解体されちゃいますね。犬神家、大変だなぁ。
>『逃げ上手の若君』
うっかりしてましたけど、6巻を見直すと将来の盟友ということで諏訪頼継が出て来たり、三十三間堂の端から端まで矢を射通したという北畠顕家の噂が出てます。当然、中先代の乱以後の伏線でしょうから、少なくとも作者は描くつもりじゃないでしょうか。あと、マンガは鎧や刀剣などは3Dモデルを外注しているらしいので、アニメも何とかなるでしょう。デジタル、バンサイ!
そして『新九郎、奔る(13)』を読んでたら(マンガばっかり読んでるな)、新九郎の嫁になるぬいの実家が小笠原。つまりあの目玉の子孫。そしてもちろん、関東編には上杉も長尾も出てくるわけで、歴史は続いているのだなぁ、と変な感慨にふけったりして。でも、ゆうき先生も言ってたけど、"関東管領・扇谷定正"(<「新八犬伝」)は実在しないのでありました(笑)。
>『ゲームの歴史』
3巻まで出てますね。確認しました。(orz) う〜〜む、人のこと「思いつきや思い込みから出発してる」とか言って、自分が確認を怠るとは……。まぁ、心に棚を作ることにします(汗)。
で、わたしの岩崎夏海体験は幸いにして(?)、漫画アクションの記事(4段組で3ページ)だけなんですが、『ゲームの歴史』の内容については(そうだろうなぁ〜)と納得するばかり。あの記事も同じ構造で、独断から始まって、「ぼくのかんがえたさいきょうのけいえいがく」みたいなものに当てはめていくんだけど、眉に唾つけないと読めないんですよ。
それにしても「関係者の主観が入ると正確にならない」はすごいなぁ。歴史という以前に、ノンフィクションとかルポルタージュとかについて何も知らない、としか言いようがないですね。だからこそ、できるだけ多くの証言を集めなきゃならないのに。
あと、絶版回収は仕方がないと思います。自分の知ってる範囲で、ということで間違いを指摘しているブログがあったんですが、1ページに何個という頻度で間違いが出て来て、まだ1巻分も終わってないのに、そのブログ、10ページ以上になっちゃってるんですよ。このレベルになると、さすがに出版し続けるわけにはイカンでしょう。あと、こうしたサブカル系の話は、うっかり読んだ人が本気にして偽史ができちゃう可能性もあるし。編集者がナントカできなかったのか、という声もあったやに聞いてますが、いや、著者より詳しい編集者なんていないだろ(笑)。
で、集英社の『学習漫画日本の歴史』がなんですって? (<実はあの本で日本史の基礎教養を得た(笑))
>「幻之介世直し帖」
う〜ん、12話以降、派手な衣装で斬りまくってますね。桃太郎っぽくなってる。むしろ、サポートメンバー全員が仮面の義賊"はやぶさ"で、最後にアキラが出て来て悪を斬るって方が受け入れられやすかったんじゃないかな。いっそ、赤いギターを持たせればよかったかも(笑) あと、松井一代さんが出ていて、ちょっと笑ってしまいました。
>バラージさん
ジャンプはたいぶホワイト(?)になってきたんじゃないですかね。『鬼滅の刃』とか、あと二、三年続けるんじゃないかと思ってたら、作者の構想通りに終わらせてるし。『花の慶次』は好評のうちに終了した印象ですが、その後の『影武者徳川家康』は打ち切りでしたね。月刊の方で『SAKON』という、島左近を主人公にアレンジしてリメイクしましたけど。あとジャンプの歴史物というと『るろ劔』? こっちも夏アニメになるみたい。で、『逃げ若』。時行は雌伏と蜂起を繰り返すのでけっこう引き延ばしに対応できるかも(笑)。その雌伏の間に人気が落ちなければ、ですけど。多分、黒曜石の鏃を使うのが伏線になっていて、最大延伸は尊氏討伐でしょう。四半世紀ぐらい先だけど。
#11328
バラージ 2023/04/15 12:36
ジャンプ漫画の終わり方
『逃げ上手の若君』、僕は初回だけ読んだ後すっかり忘れちゃってましたが(ジャンプはとっくの昔に卒業したし、最近はめっきりマンガを読まなくなってしまった)、そんな人気作になってたんですねえ。アニメ化までされちゃうとは。
今はどうだか知らないけど、僕が読んでた頃(80〜90年代)の週刊少年ジャンプは人気がある限り連載を続けさせ、人気が無くなったら(もしくは最初から無かったら)即打ち切りという、アンケート至上主義と言われるシステムでした。『逃げ上手』開始当初は当然ながらもっぱら後者の打ち切りの心配ばかりでしたが、それだけ人気になってくると前者──人気がある限り連載を続けさせられるというほうの心配が。というのも歴史ものというか実話ものって架空の物語と違って終わりがある程度決まってるんで、ジャンプの人気至上主義では終わらせ方が難しいんですよね。今までのジャンプ歴史マンガはだいたい人気低迷で打ち切りのパターンだったんで、そっちの心配ばっかりで逆の心配はしたことなかったけど(ある程度続いたのは『花の慶次』ぐらいか? これも終盤はかなり人気落ちてたみたいだけど。てか終盤読んでなかったんでちゃんと終われたのかもよくわからん)、大人気なら本来北条時行が退場すべきところまで話が行っても終わらせてもらえない可能性も。『ドラゴンボール』なんて延々終わらせてもらえなかったもんなあ。『逃げ上手』も途中から物語が異様にスローペースになっちゃったり、何らかの方法で室町・戦国・安土桃山・江戸・明治と延々話が続いちゃったりして(笑)。ま、そこまで人気が続くかわからんし、余計な心配という気もしますが。
>岩崎夏海氏
件のニュースはちらっと読んだんですが、『ゲームの歴史』は読んでないし、そもそもそこまで関心は……といったところ。ただ岩崎夏海って名前は聞いたことあって、『もしドラ』(=もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)の作者ですよね? まぁ、そっちも読んでないんだけど、実写映画だけはDVDで観ました。
岩崎氏は峯岸みなみをモデルに主人公を描いたらしいんだけど、映画では諸事情で主人公は前田敦子に。峯岸さんは後輩役を演じてますが、こちらのモデルは渡辺麻友だったらしい。確かに映画を観ると主人公のキャラクターは前田あっちゃんよりも峯岸みぃちゃんに合ってたように感じたし、後輩もやはりみぃちゃんよりまゆゆのイメージでした。でもまぁ、あっちゃんが主演になるのは仕方がない。ただそれよりも問題なのはストーリーがあまりに都合よく調子良すぎるというか、そんな上手くいくかよって思っちゃうところ。って歴史全然関係ねーな(笑)。
>『信虎』追記
映画公開にあたっては著名人から推薦コメントが寄せられ公式サイトにも掲載されることが多々ありますが、『信虎』公式サイトにも当然ながら推薦コメントが掲載されてます。コメントを寄せてるのは、三谷幸喜、手塚眞、宇田川幸洋、小和田哲男、伊東潤、平山優、笠谷和比古といった面々で、宮下玄覇氏は古美術鑑定家・茶道研究家・歴史研究家として美術考証や時代考証の仕事をしてるそうですからいろいろと付き合いがあって断りきれなかったんでしょう(手塚氏・宇田川氏あたりは金子修介監督に頼まれたのかも)。ちょっと変わってるのは映画関係者が3人(三谷、手塚、宇田川)なのに対して、歴史関係者が4人(小和田、伊東、平山、笠谷)もいること。平山氏は近年武田家研究で活躍されてる歴史学者ですが、『信虎』の武田家考証・字幕・ナレーション協力も担当しています。映画に直接関わっている人が推薦コメントするのもどうなんだという気もしますが、ま、あの映画を褒めるのは大変そうだけど皆がんばって褒めておりました(笑)。
#11327
巨炎 2023/04/13 13:11
来週から
BS松竹の必殺枠は「仕掛人」がスタート!万歳〜。
BS朝日の枠は「うらごろし」を一回やった以外は非主水系ばかりで
昨年の50周年でも放映しなかたのが感激モノ。
>「幻之介世直し帖」
「変身忍者嵐」などの特撮ヒーロー時代劇じみて浮いていたため後半に入り普通に戦うようになりましたな。
(あと、戦闘キャラが主役一人なのにサポートキャラが多すぎる)
「桃太郎侍」は能面と決め台詞による立ち回りが馬鹿ウケして長寿番組化したのとは対照的。
#11326
徹夜城(逃げ若はまだ二巻までしか読んでない管理人) 2023/04/11 21:53
逃げ若とかゲーム史とか
>逃げ上手の若君
いやいや、実のところ、連載発表意時はびっくりして期待はしつつも「いつまでもつかな」「よく編集者が通したな」と思ったりしておりましたが、さすがは「暗殺教室」の作者、しっかりジャンプにおける人気作に仕立て上げ、とうとうアニメ化という運びに。南北朝マニアとしては、これまで数々の討ち死に企画を見てきただけに大いに喜んでいるところです。最近当サイトの南北朝列伝にも微妙に来客が増えてますしね(もっとも「逃げ若の登場人物と同姓同名の人を探ってしまってるような)。
「逃げ若」そのものについては一段落するまで待とうかなという気もあり、単行本の二巻までしかチェックしてません。そこまででもどういう方向でやろうとしてるかは若r多様な気もしました。
同時代を扱った少年漫画としては「山賊王」という成功前例はあるわけで、「逃げ若」にもいくつか共通した「少年漫画的ギミック」を見出せます。青年誌だとそのへんの「遊び」度合が難しいようで討ち死にが相次いでる感じです。
アニメで南北朝というのは、素人的には作画が大変なのでは、とか思っちゃうのですが…たしかに中先代の乱あたりまでになるかな。いま連載のほうがその辺らしいですね。
>「ゲームの歴史」騒動
実は僕、市内の図書館にあったんで三巻まで読んでます。だからひとまず予定通り刊行はされたはず。僕自身は二巻までまず読んで、もう終わりかなと思ってたら三巻も並んでいた、という感じでした。
さらっと流して読んだせいもあるのか、そんなに炎上することになるとは予想してませんでした。内容的にはビジネス本よりはずっと児童向きという印象で、そのためにわかりやすく話をまとめてしまってる感じがありましたね。こうすれば成功する、失敗する、という事例を並べているわけですが、僕の感想は「価値観の押し付けっぽい」というところでした。
歴史本として批判された点は、関係者に取材もせず、歴史学でいう「一次資料」にあたらずに自分の主観でまとめている、というものがありました。著者自身は「関係者の主観が入ると正確にならない」とかいうう趣旨の反論をしてたように思いますが、史学科出の人なんかはそれはダメだろ、と言ってましたね。
あと、炎上が始まった時点でどなたかが擁護のつもりなのか「学習漫画日本の歴史に間違いがあると難癖つけるようなもの」とか言っちゃって余計に炎上したところもありました。学習漫画にもそりゃピンキリありますが、近年作られてるものは史実考証などかなりしっかりしてるのをご存じないな、と。まぁ大昔の集英社の学習漫画日本の歴史はいろいろ間違いが多かったんですが(その代わり娯楽性は結構高かった)。
ゲーム史にある程度首を突っ込んでる僕の感想としては、ビジネス本の側面もあるせいなんでしょうが、ゲームそのものの評価より成功失敗で論断しがちなところが気になりましたねぇ。メジャーなところばかりで歴史を追ってて、PCエンジンなんてろくすっぽ触れられてなかったところはPCエンジニアとしては許しがたいと(笑)。
最後に、炎上したとはいえ回収絶版という対応はどうなんでしょうねぇ。世の中、それこそ間違いだらけの本はいっぱい出てるわけで、騒ぎになったからひっこめますという態度はいかがんばものか、とも。
#11325
ろんた 2023/04/09 14:17
『逃げ上手の若君』
アニメ化決定、150万部突破、10巻発売ということで1巻から読み直し。つっ、疲れた……。ストーリーは史実に沿ってはいるものの、キャラが良く言えば濃い、悪く言えば奇人変人大集合(笑)。最初読んだ時驚いたのは、市河助房が実在していたこと。第一巻では名前も出てなくて雑魚キャラっぽかったのに。いや、実際はあんな地獄耳(?)ではなかったと思うけど。あと、関東庇番。実在人物なのは間違いないんだけど、マッドサイエンティストだったり、痛鎧着てたり、バットマン仮面(+ガッツ剣)や馬仮面って元ネタあるの? 国司の乗っていた、移動要塞というか木造人力戦車は割と好きだったけど。
アニメは放送日が公表されてないんで、多分、放送が一年後、間に半年休止を挟んで二クールって感じだろうから、中先代の乱までですかね。それ以後は原作がどこまで続くか次第だけど。
原作の展開は、中先代の乱までか、その後も描いて龍ノ口の処刑で終わるのか、それとも……というところだけど、まあ、処刑は風間玄蕃の幻術を使えば何とかなりそうな気がする。その後は足利尊氏の中の人外のものを退治する話になるのか。この人外のもの、鎌倉出陣では姿を見せず、六波羅探題滅亡で高氏の言動がおかしくなっているので、後醍醐天皇に植え付けられた気がするなぁ。時行のことを全然覚えていなかったのも傍証になるかな。その後、どんどん力をつけていて、中先代の乱以後、後醍醐の制御が利かなくなって南北朝時代になっちゃうのかな。最後は、父祖の地、伊豆に移り住んで末裔が後北条氏に嫁ぎ、『新九郎、奔る』につながる……ってのはダメかな。
>『ゲームの歴史』
関係各所から苦情が殺到。全三巻のはずが、一巻で講談社が販売中止、回収に追い込まれたとのこと。当事者が全員現役バリバリなうえに全然インタビューとかしていなかったらしい。「ああ、大変だなぁ」という感想しかなかったんだけど、著者の一人が岩崎夏海氏ということで色々お察し(汗)。(もう一人はライターらしい) この人、漫画アクションで同誌のヒット漫画を取り上げる記事を書いてたんだけど、ルパン三世はたいしてヒットしてなかった、とか書いちゃってるんですよねぇ。連載が二年しか続いてないって言うんだけど、当時はマンガ連載が十年、二十年も続く時代じゃないのに。(『子連れ狼』で連載期間は五年半) 大体ヒット作でなかったら、連載中にアニメ化の企画が立ち上がるわけないだろ(笑)。(第一シリーズの放送は連載終了後) で、こういう思いつきや思い込みから出発してるんで以後すべてがヨタ記事になっているという「惨状」を目の当たりにしてしまったのです。この調子だと、以後、過去のやらかしがいろいろ発掘されちゃうんじゃないか?
#11324
バラージ 2023/04/08 23:22
今頃になって鎌倉史訂正
宮騒動直前の1246年2月から3月に大殿九条頼経が二所詣を行った際に同行したメンバーの中に北条経時・時頼の弟時定がおり、経時らにスパイとして送り込まれたのではないかと推測しましたが、頼経に同行した北条時定は時房の六男(経時の祖父泰時の従弟)である同姓同名の北条時定でした。どうもすいません。同じ時代に同じ名前の人が2人いて紛らわしいんだよなあ。時房六男の時定は頼経の近習で、宮騒動で鎌倉より追放された頼経を京に送り届ける責任者も務めたとのこと。なお二所詣の同行メンバーには早世した時房の次男時村の子で、時房の養子となった時隆もいたようです。
#11323
バラージ 2023/04/03 23:08
最近観た歴史映画などの話
>DVDで観た歴史映画
『信虎』
一昨年公開されたけど地元には来なかった映画です。去年の年末にDVD化されたんだけど今頃になってようやくレンタルして観ました。かつて武田信玄に追放された父の信虎が、信玄病死後に京から甲斐へ舞い戻ろうとするも信玄の後を継いだ勝頼に信濃で留められ、孫の勝頼の人となりを見て武田家滅亡は避けられぬと悟り武田家存続のためにあらゆる手を使っていく……みたいなお話。
いや〜、こりゃひどい。久々の駄作です。あまりの退屈さに数回に分けてようやく見通しました。最初にこの映画の製作を知った時(#10900)に金子修介監督とあって、金子監督が歴史ものを?と思ったら、古美術鑑定家・茶道研究家・歴史研究家の宮下玄覇って人が企画・製作総指揮・プロデューサー・共同監督・脚本・美術・装飾・編集・時代考証・キャスティングを兼ねているというワンマン映画。その時点でこりゃ怪しいなとは思ったんですが、宮下って人は映画なんかで美術考証や時代考証の仕事をしてるらしく、金子監督が頼まれ仕事で演出だけしたのかなと思って観てみたわけです。
まずその宮下氏の脚本がひどい。『甲陽軍鑑』を原作にして忠実に再現したらしいんですが、状況や経緯を登場人物にいちいち台詞で全部説明させていくため、まるで人物の会話で映画が進んでいくようにすら感じられます。また、どう考えても本筋とは関係ない余計なエピソードが頻出するのも困りもの。それまでの流れと関係ない人がいきなり出てきて、それまでの流れと関係ないエピソードが描かれてなんだなんだと思ったら、その人の出番はそれきりで後の展開や本筋に何ら関係しないというのがちょくちょくある。信虎の若い時の回想もちょくちょく挟まれるんだけどこれもあまり本筋と関係なく、話の流れを滞らせてるとしか思えない。登場人物も多すぎて、1・2シーンしか出番がないような人物がやたらと多いし、個性を持って描かれてないんで後まで覚えていられない。これが遺作となった隆大介(信虎の家臣・土屋伝助役)とか、この後にも出演作が公開されたらしいんで遺作ではないけど……の渡辺裕之(織田信長役)とか、信玄の弟の逍遙軒役(1シーンだけの信玄と2役)の永島敏行とか、『天と地と』以来の上杉謙信役の榎木孝明とか、金子監督との縁で出演したのか日伝上人役の蛍雪次朗とか、そのあたりの人たちはさすがにわかるんですが、永島以外は出番僅少で友情出演レベルでしかないんだよな。主演の寺田農も曲者俳優として個人的には好きなんですが、映画の出来が出来なんでどうもいまいち冴えない。
細かい歴史考証へのこだわりだけは異常なほど強いんだけど、谷村美月ら女性陣が顔白塗りで眉毛無しのお歯黒なのはテンション下がるし(最後の最後でようやく素顔に近い状態で出てくる)、女性が複数出てくると誰が誰やらわからない。わずかにある合戦(というより戦闘)シーンもリアリティ重視のようで映画的迫力には全くもって欠ける。いや、映画に大事なことってそういうところじゃないだろう……。また美術品などをじっくり見せたいと思いすぎたのか、これまた余計な絵面が多い。台詞回しも妙に間延びしていて、編集も下手だからいちいち変な“間”が出来ている。以上全部の理由でとにかく冗長かつテンポが悪い。おかげで135分という長さになってるんですが、無駄なシーンや長台詞や編集の間や余計な人物を省けば100分くらいになるはずなんだよな。つまんないくせになげーんだよ。それと『甲陽軍鑑』にあるのか知りませんが、信虎が仏道修行の末に呪力を身に付け、他人の前に手をかざしウンバラなんたらオンソワカみたいなことを心で唱えるとその人物の心を操れちゃうってのもなんとも……。しかもその演出が死ぬほどチープだし。途中で信虎の家臣が唐突に熊に殺されちゃうのもそんなシーンいるか? しかも熊が着ぐるみなの丸わかり(笑)。
うーん、とてもじゃないけど金子監督が演出してるとは思えない。名前貸しとまでは言わないけど、せいぜいアドバイザーとか部分的に監督しただけで、実質的には宮下って人が共同監督ではなくメインの監督だったんではなかろうか? だいたい金子修介レベルが監督するんなら、素人の共同監督なんていらないわけだし。逆ならまだわかるけど。まあ僕も監督が金子修介じゃなきゃ観なかったからなあ。こりゃ地元まで来ないはずですよ。てか地元に来なくて良かった。レンタルなら映画館よりはダメージ少ないし。
ちなみにプロローグとして、武田氏の家臣の血を引く柳沢吉保が幼い息子に信虎の話を聞かせるという外枠があるんですが、息子くんが父親の話のあまりの長さにうたた寝しちゃうという描写があって、それ、観てる俺ら観客の気持ちだぜ、と思ってしまった(笑)。もしや作ってる側もそれを自覚して、あんなシーン入れたんじゃあるまいな? いや、もし自覚してるんだったら短く面白くする努力のほうをしろよ(笑)。
>録画で観た歴史映画
『折れた矢』
NHK-BSで正月に放送してた1950年の米国の西部劇映画。19世紀後半のアパッチ族の実在の首長コチーズと友情を築いた白人トム・ジェフォーズの実話を基にしたフィクション小説の映画化とのこと。確か僕の大学時代に『ダンス・ウィズ・ウルブズ』が公開された時、それ以前にアメリカ先住民(インディアン)に公平な視点から描かれた映画として紹介されてた記憶があります。
なかなか面白かったですね。冒頭でジェフォーズ自身の語りという形で断っているように先住民も英語を話しているし、先住民役も白人の俳優が演じてますが、大まかには史実に基づいているようです。なんといってもコチーズの人格者ぶりが素晴らしい。ジェフォーズと先住民娘の恋愛はおそらくフィクションでしょうが、これも物語に深みを与えてました。有名なジェロニモも出てきますが、先住民と米国の和平に反対してコチーズらの集団から離脱し、戦いを継続するという少々悪役まわりな役どころ。ただ先住民を憎む白人側の悪役がそれ以上に悪辣で、白人側の差別感情を余すところなく描いています。最後はアパッチ族と合衆国の和平が成立したところで一応のめでたしとなってました。
>またまた『三国志 大いなる飛翔』の謎
先日とある理由で、かの『三国志 大いなる飛翔』を検索して、Wikipediaをたまたま見てみたら、いつの間にやら中国語版Wikipediaにも記事が立ってました。以前この映画の謎を追求したのを思い出し、調べてみると4年以上前のことでしたね(#10792)。時はあまりに早く流れる。
中国語版Wikipediaではタイトル(原題)は『三国志:関公』(の簡体字)となっています。そこで簡体字で検索してみると百度百科にも同じタイトルで記事が立ってました。百度のほうが説明がくわしく、翻訳機能を使って読んでみると、もともとは『関公』(簡体字)というタイトルだったんだけど同名のテレビドラマと区別するためと、そもそも関羽が映画の半分以下にしか出てこないため、再公開(リバイバル上映かソフト化?)の際にタイトルに「三国志」と追加されたんだとか。また、もともと上下集(前後編)二部作で、上集(前編)は五関で六将を斬った関羽が劉備と再会するまで、下集(後編)は周瑜の死までとのこと。上映時間は中国語版Wikipedia・百度百科ともに187分となっています。どちらも一般人が執筆できるサイトなので本当のことなのかどうかはっきりしないんですが、一応の参考にはなるかと。なお日本のサイトではallcinemaおよびそれを引用したYahoo!映画、filmarksでは『三国志/大いなる飛翔』、KINENOTEおよびそれを引用したMovie Walker、映画.comでは『三国志 第一部 大いなる飛翔』となっています。
#11322
ろんた 2023/04/01 14:54
『ビジャの女王』(森秀樹/SPコミックス/1〜3巻以下続巻)
結局、買ってしまった(笑)。あらすじを再編集して再掲
西暦1258年、ペルシャ高原の小都市ビジャを、ラジン率いる蒙古軍の支隊が包囲した。世界の半分を制圧した最強騎兵は支隊とはいえ総数2万、対するビジャの人口はわずか5千人。陥落は誰の目にも明らかだった。そんな中、ハマダン王の子オッド姫の救援要請に、伝説の集団「インド墨家・ブブ」が駆け付ける。始皇帝に弾圧され滅んだかに思われた墨家だが、インドのアメダバで命脈を保っていたのだ。オッド姫はその策によりなんとか猛攻を凌ぐが、若き宰相ジファルは思惑が外れ歯がみする。ラジンの側近となって己の力でハーンとし、さらにはモンゴル帝国を乗っ取る……という野望を抱いていたのだ。一方でペルシャの首都バグダードはラジンの父フレグの征西軍本隊12万によって陥落し、療養していたハマダン王は捕虜となり亡くなる。国法によると後継者は嫡男ヤヴェ。だがこの男、粗暴で小狡く、他国の王子を殺害した廉で王に幽閉されていた。だが、ビジャは存亡の危機にある。女であり妾腹でありながら、そのカリスマ性でビジャを守ってきたオッド姫に、大臣たちの大勢は支持を表明する。だが、野心を隠し持つジファルは国法の遵守を主張した。そんな中、ラジン軍にモンケ・ハーンの娘クトゥルン率いる別働隊1万が近づいていた。クトゥルンは女でありながらハーンの座を狙っており、既に実の兄弟を何人も亡き者にしている。そんな彼女の目的は……。
という話なんですけど、かなりフィクションの度合いが強いみたい。ビジャという都市は現代のイランにあり、ペルシャ絨毯の産地らしい。しかし、姫の名は左右の瞳の色が違う=odd-eyed(英)から名付けられているみたいなので多分フィクション。ラジンもフレグの息子たちの中に名前がないし、キャラデザインがアンドレ・ザ・ジャイアント(笑)。最後に登場するクトゥルンもモンケの娘の中には名前がない。キャラデザインは平たい顔族(笑)。ただ、カイドゥ(オゴタイの孫)に同名の娘がいるんで、それがモデルかも。この人、日本でいうと巴御前みたいな感じ? 可憐な美少女ながらメチャメチャモンゴル相撲が強くて、「自分より強い男じゃないと結婚しない」と言ったとか。これ、女丈夫の常套句ですな。『東方見聞録』に記述があり古くからヨーロッパには知られていて、「トゥーランドット」のモデルになったとか。ということでこの作品、フィクション部分が多い割に、思い切った描写が少ない気がします。墨家も火薬とかバンバン使ってミサイル飛ばしちゃってもいいんじゃないか(笑)。もっとも、生物兵器を使いそうな気配はありますけど。絵柄は大分変化していて、小島剛夕と池上遼一の間ぐらいの感じ。あくまで個人的感想ですけど、オッドもクトゥルンも美少女設定なのに「萌え」ないのには困ったもんだ。
>「奥さまは魔女」S8
S8の冒頭、ダーリンとサマンサが休暇でヨーロッパ旅行する話。最初はロンドン。トラブルに巻き込まれたサマンサがヘンリー八世の時代に飛ばされてしまう。当然、女癖の悪いことでは人類史上最凶のヘンリー八世に目をつけられて、肉を手づかみでムシャムシャやる横でリュートを弾かされたりして、貞操の危機(笑)。まあ、飽きたら首チョンパなんで命の危機でもあるわけですが。偉人が魔法の失敗やなんかで現代に現れる、というのは定番の展開な気がするけど、サマンサが飛ばされちゃうってのは珍しいかも。そのほか、ピサの斜塔を傾けたのがベビーシッターのエスメラルダ(魔女)だったとか、その後、何話かがヨーロッパネタ。
>トンデモ時代劇
「賞金稼ぎ」「無宿侍」というのが放送されていました。「幻之介世直し帖」は放送中。
「賞金稼ぎ」(BS松竹東急)は主演・若山富三郎。「子連れ狼」シリーズ以前に主演した映画のドラマ化。若山先生は、寺子屋(給食つき)の運営資金のために賞金稼ぎをしている設定。華麗な殺陣が見どころ……と言いたいけど、袴じゃなくてベルボトム姿(?)でリボルバーやライフルをバンバンぶっ放す。悪役たちも全員ライフルで武装していて、村人たちを皆殺し。しまいには若山先生、悪人から分捕ったガトリング砲をバリバリバリッと撃ちまくる。一応、設定は天保年間らしいけど。紹介には「西部劇風」とあったようだけど、むしろマカロニウェスタン。黒沢の「用心棒」から生まれ、世界中で人気になったのが逆輸入された感じかな。もっとも、トンデモ時代劇というのはもっと古くからあって、水戸黄門御一行様vsゴリラというのもあるらしい(笑)。
「無宿侍」(BSフジ)は天知茂主演のハードボイルド抜け忍もので、「カムイ外伝」的。五社英雄が一枚噛んでるんでお察し下さい。そもそも忍者って侍なのか?(笑) その後番組が「幻之介世直し帖」で小林旭主演。大目付・乾十左衛門の嫡男・幻之介が"はやぶさ"と名乗って夜な夜な巨悪を討つ話。昼は遊び人としてのらくらというのはお約束。しかしこの"はやぶさ"、バットマンみたいな仮面をかぶってる。主人公が仮面って、他には「赤影」ぐらいしか思いつかない(笑)。その辺、「桃太郎侍」の後番組だけに視聴者に受け入れられなかったみたいで半年で終了。
#11321
バラージ 2023/03/19 22:53
その後の鎌倉史・完結編 To be continued
義時死後の鎌倉史。最終回は時頼執権就任直後の宮騒動。名越光時の乱または寛元の政変とも言うようです。
前回も書いた通り、1246年2月22日、執権経時の病状悪化を見越してか大殿九条頼経は特別な願いを持って伊豆山神社と箱根神社への二所詣の精進潔斎(酒や肉を断ち心身を清めること)を始め、28日から3月3日まで名越光時・藤原定員・狩野為佐・三浦光村ら側近を引き連れて二所詣を行います。3月15日には光時が兄弟たちと共に父朝時の遺言として信濃国善光寺で法要を執行。おそらくはいずれも得宗家打倒の密謀が陰で練られていたものと思われます。また後述するように精進潔斎は実は経時調伏の祈祷だった可能性もあります。21日には経時が重態となり、23日に経時邸で「深秘の御沙汰」と呼ばれる秘密会議が行われて、19歳の弟時頼に執権を継承することが決定。閏4月1日に経時は死去しました。
そして経時死去からわずか17日後の18日から20日にかけて鎌倉に甲冑を着た武士が続々と集まってきて騒動となります(鎌倉の政変はなぜかこのパターンが多い)。これがいわゆる宮騒動の始まり。騒動は一旦収まったものの、5月22日には安達義景邸およびその近辺から騒ぎが広まり、24日には騒ぎが拡大して鎌倉の住民が家財道具を運び出す事態となって、時頼は各地に武士を派遣して鎌倉を封鎖する事実上の戒厳令を布きました。頼経側近の狩野為佐は将軍御所に向かおうとしますが、時頼の命で警戒中の武士は時頼のもとに行くなら引き留めないが御所に行く者は通せないと言ったとのこと。やがて光時が反逆を企んだことが発覚したという噂が巷に乱れ飛びます。『保暦間記』には、光時は頼経の近習として覚え愛でたく、驕った心を持って「我は義時が孫なり。時頼は義時が曾孫なり」として執権になろうとし、頼経も光時に心を寄せていたと記しています。『保暦間記』のことだからどこまで信用できるかわかりませんが、経時の弟である時頼は得宗家でも庶流であり、光時にすれば血筋としては自分も遜色ないとの思いがあったのかもしれません。
翌25日になっても騒ぎは収まらず、時頼邸は厳重な警備を布いていました。そこへ頼経の使者として藤原定員が訪れますが、得宗被官の諏訪盛重と尾藤景氏に追い返されています。光時は御所にいましたが家臣に呼び戻され退出。そのまま自邸には戻らず出家して髻を時頼に送り降伏の意を表明します。時頼を追討することを一味同心して連署した起請文が書かれたが、その張本は名越家だとの噂があったためだとのこと。次弟時章・三弟時長・五弟時兼らは前もって野心のないことを時頼に申し入れていたので不問に付されたとあります。おそらく彼らは兄たちのクーデター計画を無謀だと考え、時頼に内通したんでしょう。前記の定員も事件に連座して出家し、息子の定範もその縁座として処分され、さらに光時の四弟時幸も病のため出家したとされています。
26日には時頼邸で「内々御沙汰の事」があり、北条政村・北条(金沢)実時・安達義景が参加。実時は泰時の甥、時氏の従弟、経時とは同年齢で、泰時は経時と実時に助け合うよう常々言っていたとのこと。6月1日には時幸が死去(後述するように実は自害)。この頃になると京にも騒動の噂が届いています。6日には三浦泰村の六弟家村がひそかに時頼邸を訪れ、何事かを話し合ってます。おそらく泰村から異心なきことを誓い、恭順の意が示されたものと思われます。得宗協調派の泰村が反得宗派の四弟光村を説得するのに時間がかかったんでしょう。なお京の公家の葉室定嗣の日記『葉黄記』によると、この日に関東の飛脚が到来し、頼経の御所が警固されて近習の定員が召し籠められ、光時は出家して伊豆国に配流され、時幸は自害。千葉秀胤は本国に追放され、その他の降伏した者も召し籠められたとあります。この記述から時幸の死が実は自害だったことがわかります。おそらく時幸は名越兄弟の中でも最も強硬派で、そのために詰め腹を切らされたか、もしくは反抗の意味を込めて自害したのかもしれません。なお筆者の定嗣は後嵯峨上皇に近い立場の公家とのこと。
一方、『吾妻鏡』によると7日に後藤基綱・狩野為佐・千葉秀胤・三善康持が評定衆を罷免され、康持は問注所執事も罷免されたとしています。いずれも頼経派と目された面々ですが、秀胤以外はいずれも数年後に引付衆として幕政に復帰しているので関与の程度は軽いと見なされたのかもしれません。なお『百錬抄』の6月8日条には、関東で騒動の噂があり、明日飛脚が上洛する。頼経が反逆したとのことだとあり、近衛兼経の日記『岡屋関白記』の6月9日条には、関東で事件があった。頼経が陰謀を企み、武士たちに命じて時頼を討とうとし、調伏の祈祷などを行ったことが発覚して騒動となっている。定員を召し捕らえて拷問したところ全てを白状した。頼経は幽閉されたという。使者を通さないので、京の人々は事実がわからず、頼経の父道家は恐れおののいているらしいとあるとのこと。なお以前書いた通り兼経は道家の娘婿で、道家に近い立場の人物です。一方で翌10日の『葉黄記』には道家が恐怖しているとの噂があったので、人に尋ねてみたのだが別段変わったことはなかった。全て天狗の所為だろうかなどと記されてますが、決して天狗の所為なんかではなかったことがやがて明らかになります。鎌倉では10日にまたも時頼邸にて「深秘の沙汰」が行われ、政村・実時・義景に加えて泰村も異心がないことを示すために参加したとあり、また得宗被官の盛重・景氏もこの時には加わっています。13日には光時が所領没収の上で伊豆国に配流され、千葉秀胤が領国の上総国に追放されたとあります。ただし前記の通り『葉黄記』では6日に入京した幕府の飛脚が光時配流と秀胤追放を報告しており、『吾妻鏡』の記事に何らかの錯誤があるのか、もしくは6日以前に処罰は決定していたけれど執行は13日になったのかもしれません。
『葉黄記』によると14日には幕府の使者として義景の子の安達泰盛が上洛し、頼経が来月11日に上洛すると通告してきたとのこと。上洛とは要するに鎌倉より追放されるということです。『岡屋関白記』6月15日条には改めて騒動について記した中で、頼経が調伏で経時を呪い殺したとの噂を記しており、そのためか道家は26日および翌7月16日に自分が六条宮(後鳥羽の皇子の雅成親王、または順徳の皇子の忠成王の両説がある)を皇位に就けようとしたという疑惑を否定する願文を春日大社に納めています。道家は土御門系の後嵯峨上皇および後深草天皇と姻戚関係を持っておらず、自らに近い後鳥羽・順徳系皇子を擁立しようとしたという疑いをかけられていたと思われ、また後述するようにおそらくそれは事実だったものと推測されています。頼経は幕府の通告通り7月11日に鎌倉を発ち、28日に入京して隠れるように道家邸に入っています。さらに8月27日、六波羅探題重時は葉室定嗣(『葉黄記』の筆者)を呼び出し、院御所では世間の騒ぎについて何事かと心配されているようなので、関東の時頼から送られてきた書状を内々にお見せしようと披露しています。定嗣は重時の了解を取って後嵯峨にもその書状の概略を知らせており、それによると宮騒動について説明した上で朝廷にも徳政を要求し、さらに関東申次の人事については追って知らせると書かれていました。果たして10月13日には時頼の使者が上洛して、関東申次を道家から西園寺実氏に代えることを朝廷に要求。頼経の父である大殿道家は更迭されて完全に失脚し、以後関東申次は西園寺家の世襲となります。翌1247年には道家が寵愛する四男の一条実経も摂政を罷免され、道家と不仲な次男の二条良実が摂政に再任されました。同年に起こった宝治合戦で三浦氏が滅亡した際に光村は、大殿頼経の時に道家からの内々の命で決起すれば執権にすると約束してきたのに、泰村殿が猶予したためこんなことになってしまったと言っており、宮騒動に道家が関係していたのは間違いないでしょう。こうして九条家の勢力は退潮し、後嵯峨院政がようやく軌道に乗ることになりました。
なお伊豆国江間郷に配流された名越光時は15年後の1262年に僧の叡尊が鎌倉で時頼・実時に授戒した際に、光時もまた鎌倉で菩薩戒を授けられたとのことなので、この頃には許されていた可能性があります。また金沢文庫本『斉民要術』の紙背文書には越訴奉行の実時にあてた光時の書状があるそうで、実時が越訴頭人となったのは1264年です。没年は『系図纂要』には1300年とあるようですが、これには疑問があるみたい。子孫は名越家の嫡流から外れ江間家を称したとのこと。
こうして宮騒動は合戦にまで至らず政変として終わったんですが、対立の火種は残り続けました。京に送還された頼経に扈従した武士の1人である光村は8月1日の帰還の段になっても頼経の御簾の前に残って涙を流して別れを惜しみ、退出してきた後も周囲の人々に向かって、なんとか今一度鎌倉にお迎えしたいと思っていると言ったとのこと。また9月1日には時頼が泰村に、重時を鎌倉に呼び寄せて自分の相談相手とすることを打診しますが、泰村はこれに反対。幕府内での自身の地位が低下することを恐れたと推測されています。こうした北条氏に対する対抗勢力としての三浦氏の存在が翌年の宝治合戦につながっていきます。
その宝治合戦あたりからは大河ドラマ『北条時宗』で描かれてるということで、鎌倉史の話もこれにて打ち止め。自分で始めたこととはいえ、うーん、長かった(笑)。泰時以降の時代って実はそこまでくわしくないんだよな。だらだらと続けちゃってどうもすいませんでした。
#11320
バラージ 2023/03/16 22:45
DVD化情報
今まで全くソフト化されていなかった大河ドラマ『琉球の風』と『武蔵 MUSASHI』がDVD化されるそうです。『琉球の風』は完全版・総集編ともに4月21日発売、『武蔵 MUSASHI』は完全版・総集編ともに5月26日発売とのこと。これで80年代以降の大河で完全版のDVD化がされてないのは『峠の群像』『八代将軍吉宗』『北条時宗』だけということに。
>配信開始映画
『主戦場』、いつの間にかAmazonprimeやU-NEXT、Rakten TVでも配信がされてたんですね。『i 新聞記者ドキュメント』(Amazonprime、Rakten TV、クランクイン!ビデオ、DMM TVで配信)、『シチズンフォー スノーデンの暴露』(Amazonprime、U-NEXT、Rakten TVで配信)ともどもお勧めの社会派ドキュメンタリー映画です。
#11319
バラージ 2023/03/12 21:50
その後の鎌倉史 ワンポイントリリーフ
義時死後の鎌倉史。今回は影の薄い4代執権経時の時代。
1242年6月、3代執権北条泰時が死去。時政はもちろん、義時にも実際に執権になったかについては議論があり、泰時が事実上の初代執権とも言われています。庶流から北条宗家を継ぎ、その不安定な立場から合議政治の確立や御成敗式目の制定などの施策によって源氏将軍断絶後という難しい局面を乗りきった名執権として讃えられています。
後を継いだのは嫡孫の経時でまだ19歳の若さでした。なお経時の生年は没年と没年齢から逆算して1224年と考えられますが、『吾妻鏡』には経時誕生の記述がありません。1224年は曾祖父義時が死去した年ですが、そのため経時の誕生が義時の生前か死後かは不明。誕生の記録がないということは経時はおそらく誕生時点では嫡流ではなく、誕生が義時生前なら泰時が義時の嫡男ではなかったということになりますし、死後なら時氏が泰時の嫡男ではなかったということになるんでしょう。弟の時頼の誕生記事は1227年にあるので前者の可能性が高いと思われます。
前に書いた通り泰時がいよいよ危ないという段になって不仲だった次弟の朝時が出家させられ、また六波羅探題北方である三弟の重時が鎌倉下向を命じられる一方で、南方である従兄弟の時盛(時房の庶長子)も勝手に下向して失脚しています。鎌倉と京の交通が遮断されて将軍九条頼経の父道家の使者も京に追い返され、将軍御所が厳重に警備されるなど鎌倉が不穏な情勢になっているとの噂が京に伝わっており、政権に何らかの動揺や混乱が起こっていた可能性もありますが、なんとか大事に至らず終わったようです。
しかし19歳の新執権経時に対して将軍頼経は25歳になっており、執権と将軍の年齢差が逆転。頼経の周囲には名越光時(朝時の嫡男)や三浦光村(義村の四男で泰村の弟)など反得宗的な側近が近侍するようになっており、経時自身も頼経を烏帽子親として元服し偏諱も受けているなど、将軍を執権の制御下に置くことが難しい局面に入っていたと言えます。このような不安定な政権としての船出だったにも関わらず連署は置かれませんでした。泰時も1240年の時房死後は連署を置かずに単独で執権を務めてますが、すでに60歳近かった泰時にはそれまで政権運営の経験があり問題なかったんでしょう。しかし若干19歳で経験もない経時が連署を置かなかったのは、おそらく重時や政村などを連署にすると光時が自身の連署就任を主張して紛糾する恐れがあったからだと思われます。こうして重時は引き続き六波羅探題を務め、政村ら一族と評定衆が執権経時を補佐する体制となりました。
それでも経時は政務に精力的に取り組み、1243年には幕府の訴訟における手続きの遅滞を避けるため判決文の将軍御覧を廃するなど、幕府裁判における執権の主導的役割を大きくしているとのこと。そんな中、1244年4月には頼経が6歳で元服したばかりの嫡男頼嗣に将軍職を譲っています。これについては経時らの圧力で譲らされたものだとする説と、制約の多い将軍職を退いて自由に政務に関わるために頼経が自発的に譲ったとする説があるようです。どちらにしろ頼経はその後も鎌倉に留まり、「大殿」として頼嗣を後見する立場に立って引き続きその勢力を保っていて、経時はそれに対抗するために1245年7月に同母妹(母は安達景盛の娘の松下禅尼)で16歳の檜皮姫を頼嗣の正室とすることで将軍外戚の座を獲得。北条氏が将軍の外戚となるのは10年以上ぶりのことでした。
一方、京では1243年6月に西園寺公経の娘の中宮[女吉]子が後嵯峨天皇の皇子の久仁親王を出産し、生後わずか2ヶ月で立太子されています。権勢を極めた公経は1244年8月に死去。莫大な荘園や宋との交易による収入で奢侈を極めたものの、一部の公家からは幕府に追従する奸臣と見なされていたようです。公経の死によって、押さえつけられていた九条道家が復権。道家は公経の遺言だと称して関東申次の職を継いでいます。1246年1月には公経が関白とした不仲な次男の二条良実を辞任させ、寵愛する四男の一条実経を関白に就かせて、これまた「大殿」として朝政を壟断します。一方、後嵯峨天皇は同月に久仁親王に譲位。後深草天皇です。上皇となった後嵯峨は院政を開始しますが、もともと朝廷内に権力基盤を持っていなかったため実権は道家に握られたままでした。
再び鎌倉。経時は1245年頃から体調を崩しがちになっていましたが、9月には一時意識不明の状態となり鎌倉中が大騒ぎとなっています。同月には経時の妻(宇都宮泰綱の娘)もわずか15歳で病死しており、また将軍頼嗣や妻の檜皮姫、大殿頼経の継室(持明院家行の娘?)も病がちになるなど、政権がまたも不安定な状態になってきました。その後、経時は一時回復するものの、翌1246年3月21日には重態となり生前に死後の冥福を祈る「逆修」が行われ、23日には経時邸で「深秘の御沙汰」と呼ばれる秘密会議が行われて次弟で19歳の時頼に執権職を譲ることを表明。もはや回復の見込みはない上に経時の2人の息子はまだ幼かったため(6歳と3歳でいずれも妾の子)政務が滞りかねないからだとされています。経時は4月19日には出家、閏4月1日に死去。享年23歳。ちなみに高橋克彦による大河『北条時宗』の原作『時宗』はチラッとだけ立ち読みしたけど、経時による時頼後継指名の場面から始まってた記憶。
なお、時頼の執権継承を事実上の簒奪のように疑う見方も一部にはあるようですが、さすがにそれは穿ち過ぎかと。後に時頼自身が幼い嫡男時宗が成長するまでの中継ぎとして長時(重時の嫡男で、時頼の妻の兄)に執権を託し、時頼・長時死後は政村が中継ぎしたように、将軍を輔弼する執権という地位は天皇を輔弼する摂関同様に年少では就任できない役職だったと思われます。幼少の執権が誕生するのは時宗死後の嫡男貞時からで、執権や将軍という地位がその頃には形骸化していたんでしょう。なお経時の2人の子はいずれも出家してそれぞれ隆政・頼助と名乗り、隆政は1263年に23歳で死去。頼助は従弟の執権時宗の時代に重用され鶴岡八幡宮の別当となり、1296年に53歳で死去しています。
一方、反得宗側の動きですが、経時生前の1946年2月22日には大殿頼経が伊豆山神社と箱根神社への二所詣のための精進潔斎(酒や肉を断ち心身を清めること)を始め、7日間に渡って精進のための屋内参籠を行っています。参籠は「殊なる御願」のためとのこと。28日には頼経が二所詣に出発し、3月3日に帰還。同行したのは光時や光村の他に狩野為佐・藤原定員など頼経側近のメンバーがほとんどですが、そこに経時・時頼の弟の北条時定が加わっているのが興味深い。時定はその後一貫して兄たちと行動を共にしており、あるいは経時らにスパイとして送り込まれたのかもしれません。また13日には光時兄弟が父朝時(前年4月に死去)の遺言により信濃国善光寺で法要を行っています。これらは二所詣や法要にかこつけて得宗家打倒の密謀が練られていた可能性が高いようで、頼経の「殊なる御願」とはおそらく得宗家打倒のことだと思われます。
前記の通り一時回復した経時は1246年正月の椀飯(饗応の儀式)を務めてますが、おそらくは誰の目にも病状が芳しくないのが明らかで、頼経や光時らは経時の命は長くないと見てクーデターの計画を立てたんでしょう。しかしその動きはスパイとして潜入した時定や、名越兄弟の内通者などから筒抜けだったものと思われます。
こうして閏4月1日の経時の死が、宮騒動と呼ばれる激震へと直結していきます。
#11318
バラージ 2023/03/09 22:08
世界サブカルチャー史
ぐわ、『世界サブカルチャー史 欲望の系譜』シーズン3の日本60〜90年代編、放送されてるんだ。第1回、見逃した。ていうか2月にはシーズン2のヨーロッパ60〜90年代編やってたのね。再放送してくれんかな。
>捏造か?
高市大臣、挑発に乗って「捏造じゃなかったら大臣も議員も辞める」みたいな啖呵切っちゃって追いつめられるって、シンゾー元首相と同じことやってんな。やっぱり親分に似るんでしょうか? てか捏造だとか内容が不正確だって言うんなら、具体的にどこがどう不正確なのか説明してほしい。漠然と不正確って言うんではなく。まぁ、シンゾー氏は死去していて礒崎とかいうチンケな元首相秘書官は落選してることから高市大臣が標的になったんだろうけど、そもそもシンゾー元首相が生きていれば追及されてたのはシンゾー氏だったはず。そう考えるとやっぱり殺すべきじゃなかったんだよなあ。報道を政権の統制下に置こうというような大問題なんだし。
#11317
バラージ 2023/03/05 19:58
鎌倉史追記
順徳は後嵯峨即位後の1242年9月に配流先の佐渡で死去。公家の平経高の日記『平戸記』の10月には、帰京への思いから食を絶ったためとの噂が記されているとのこと。
#11316
バラージ 2023/03/05 12:12
文字化けだらけ(笑)
いやぁ、すいません。昔の女性の名前は普通は使われない漢字が多いんですよね。
九条道家の妻(西園寺公経の娘)の名前は「(手偏に侖)子」で読みは「りんし」、後堀河天皇に入内した道家の娘の名前は「(立尊」子)で読みは「しゅんし」、後嵯峨天皇に入内した公経の孫娘(実氏の娘)の名前は「(女吉)子」で読みは「きつし」です。
#11315
バラージ 2023/03/05 11:53
その後の鎌倉史 またまたその頃朝廷は
義時死後の鎌倉史、今回は義時死後ではなく承久の乱後の朝廷の動きをまとめて。
1219年の承久の乱によって、後鳥羽・土御門・順徳の3上皇が配流され、践祚していた懐成親王(仲恭天皇)は即位しないまま廃位されました。代わって幕府が擁立したのが後鳥羽の同母兄である行助法親王(守貞親王)の3男で10歳の茂仁王。幕府は後鳥羽の系統を皇統から排除するために行助=守貞の息子のうちまだ出家していなかった茂仁に白羽の矢を立て(兄2人はすでに出家していた)、立太子を経ずに践祚・即位させました。後堀河天皇です。後堀河の践祚には三浦義村の尽力が大きかったとのこと。また当時すでに社会的・政治的システムとして定着していた院政を維持するため、その前日に父の守貞に太上天皇(太上法皇)の尊号が贈られ、治天の君として院政を行わせることにしています。守貞は後高倉上皇(または後高倉院、後高倉法皇)と呼ばれ、皇位に付かずに上皇となった史上ただ1人の人物です。平家都落ちの際に異母兄である安徳天皇の皇太子格として平家に連れ去られましたが、壇ノ浦で祖母平時子に抱かれ海に沈んだ安徳とは異なり助かって帰京しています。同母弟の後鳥羽がすでに即位していたため後白河法皇の姉の上西門院に養育され、1212年には出家していました。ちなみに映像作品では大河『義経』にのみ登場してますが、これは東映ハチャメチャ時代劇みたいな展開のためみたい(笑)。
後高倉は院政開始からわずか2年後の1223年に死去。北条義時よりも1年早い死です。結局は後堀河の親政となりましたが、まだ12歳の後堀河はもちろん、突然治天の君となった後高倉にしても政務など行えるはずもなく、朝廷の実権を握ったのは頼朝の妹(夫は一条能保)の娘の一条全子を妻としていた親幕派公卿の西園寺公経でした。公経は後鳥羽の挙兵を幕府に急報して拘禁され、一時は命の危険さえありましたが、そのために乱後は幕府の支持を受け、同年に内大臣、翌1220年には太政大臣へと進み、さらに1221年には従一位に叙されています。同年に太政大臣は辞したものの、引き続き朝幕間の折衝にあたる重要な役割を果たしており、それが後に関東申次という正式な役職となっていきます。
また承久の乱の時の摂政は公経の娘婿の九条道家(兼実の孫。母が頼朝の妹の娘で全子の姉妹。公経の娘である妻の掄子は従姉妹)で、鎌倉殿三寅の父でもありましたが、姉の立子が順徳の中宮となり仲恭を産んでいて、仲恭の践祚に伴いその外戚として関白の近衛家実を退けて摂政とされるなど後鳥羽とも密接なつながりを持っていました。乱には積極的に関わらなかったものの(近衛家・九条家などの摂関家を含む伝統的貴族層は後鳥羽の無謀な挙兵には反対で、後鳥羽に従った公家は彼に取り立てられた新興の院近臣がほとんどだった)、そのような後鳥羽・順徳・仲恭との近さが問題視されて幕府の要求によって摂政を罷免され、家実が摂政に再任されています。しかし1225年に三寅が元服して頼経と名乗り、翌1226年に征夷大将軍に就任すると、その父である道家も徐々に復権し、1228年には岳父である公経の後援や将軍頼経を擁する幕府の支持もあって、再び家実に代わって関白に再任されました。道家は娘の竴子を後堀河に入内させて中宮とし、岳父公経との協調関係の中で政権を運営していくことになります。1231年には竴子が後堀河の皇子を出産。道家は同年のうちに皇太子とし、翌年には幕府の反対を押しきって後堀河に譲位させ、わずか2歳(満年齢では1歳)で践祚・即位させました。四条天皇です。こうして天皇の外祖父にして将軍の父となった道家は息子の教実を摂政とし、自らは「大殿」として権勢を振るいます。1234年に後堀河上皇が23歳で死去すると自らに近い後鳥羽法皇と順徳上皇の還京を図りますが、これは幕府の拒否にあい断念。教実が1235年に26歳で早世すると再び自らが摂政となり、近衛家から不満が出ると家実の子の兼経に娘の仁子を娶らせ、娘婿となった兼経に1237年に摂政を譲ります。そして1238年には息子の将軍頼経が執権泰時・連署時房らの御家人に擁せられて上洛。東西の融和を演出しようという泰時らの思惑が、道家・公経ら朝廷の思惑とも合致したものと思われます。1241年には孫娘(教実の娘)の彦子を四条に入内させ、次代の外戚の座も確保しました。
こうして道家の権勢は絶頂期を迎えましたが、その運命は徐々に暗転していきます。翌1242年1月9日、四条がわずか12歳で急死。死因は『百練抄』『五代帝王物語』によると、イタズラで近習や女房を転ばせようと御所の廊下に滑石の粉を撒いたところ誤って自分が転倒したためという、笑えるような笑えないような洒落にならないものだったとのこと。後高倉の系統はここに断絶し、再び後鳥羽の系統から天皇を出さざるを得ないことになります。候補は2人、土御門の皇子の邦仁王と、順徳の皇子の忠成王。2人とも20歳を過ぎていたにも関わらず出家も元服もしておらず、後高倉の皇子が後堀河以外全て出家しており後堀河の皇子も四条以外いないことから後高倉系統の断絶を懸念して(もしくは皇位継承の望みを抱いて)周辺が出家させていなかったとする推測もあるようです。
道家が支持したのは忠成でした。道家と忠成の間に縁戚関係はありませんが(忠成の母は藤原清季の娘)、前記の通り忠成の父順徳の中宮が道家の姉立子でそのため忠成を支持したと思われ、道家の岳父公経をはじめ忠成を支持する公家も多かったようです。それに対して邦仁を支持したのは姉の承明門院源在子が土御門の母だった土御門定通(源通親の庶子。通親の嫡男は久我通光)。邦仁は承明門院に養育されていたのに対して、忠成は順徳の母の修明門院藤原重子が養育していました。朝廷内の意見が分かれた結果、定通と道家はそれぞれ幕府の裁定を求めて使者を送ります。定通の妻は執権泰時の異母妹の竹殿(母は姫の前)で、承久の乱で後鳥羽方に与して行方知れずとなった大江親広と離縁した後に定通と再婚してました。在京する六波羅探題の重時も竹殿の同母兄弟です。一方で幕府の将軍頼経は道家の子で、やはり道家も幕府との縁に期待したものと思われます。朝廷内では忠成支持派が優勢だったようですが、泰時ら幕府の回答は邦仁の践祚支持でした。もし忠成が践祚した場合、かつて道家が策したように佐渡でまだ存命だった父の順徳を還京させる動きが起きる可能性があり、承久の乱で父後鳥羽に積極的に協力した順徳が治天の君として院政を行うことにもなりかねず、幕府としてはそのような事態だけは避けねばなりませんでした。一方、邦仁の父土御門は父後鳥羽の討幕に与せず消極的な態度に終始し、乱後に自ら望んで土佐(後に阿波)に配流されたものの1231年にすでに亡くなってました(後鳥羽も1239年に配流先の隠岐で死去)。こうして四条死去から11日間の天皇空位を経て、20日に邦仁は親王宣下され即日践祚。後嵯峨天皇です。
道家の岳父である関東申次の公経は幕府の意向を知るやすぐさま身を翻して後嵯峨に接近し自らの庇護下で践祚させると、3月の即位後には道家の娘婿の関白兼経を辞任させて、道家とは不仲で公経に養育された道家の次男の二条良実を関白とし、さらに6月には孫娘(嫡男実氏の娘)の姞子を後嵯峨に入内させて8月には中宮とするなど、幕府の威を背景に娘婿の道家を退け朝廷を単独で制圧する勢いを築きました。対照的に情勢を見誤った道家の権勢は退潮に向かっていきます。
なお、自らの利益のために幕府や北条氏との縁戚・姻戚を求めた公家は公経や道家・定通ばかりではありませんでした。近藤成一氏によると以下のような例があります(『鎌倉幕府と朝廷』岩波新書、『執権 北条義時』知的生きかた文庫)。
まず以前も触れましたが、1219年に公家の一条実雅と結婚し1男1女を産んだ義時と伊賀の方の娘は1224年の伊賀氏事件で実雅が配流されると離縁したようで、藤原定家の日記『明月記』によると翌1225年11月には実雅の旧妻が公家の唐橋通時と再婚するために近日入京するとの伝聞情報が記されているとのこと。おそらく7月に政子が死去し、伊賀一族が続々復権していた動きに連動していたものだと思われます。その後、どういう経緯か通時は鎌倉に居住したらしく、1231年に朝廷に不出仕との理由で除籍され、1233年に鎌倉で死去。次の除目で蔵人頭に補せられると姉妹が使者を送ったが到着前に死んだそうです。祖父の源雅通が内大臣、父の通資が権大納言まで上ったのに、通時は泰時の妹婿で三浦義村の推挙も受けながら50歳過ぎても公卿に到達しなかったのは不運だと定家は記しているとのこと。しかし通資は雅通の庶子(通親の庶弟)で、通時自身も通資の庶子でしたから、庶流ゆえに出世が覚束なかったのかもしれません。なお通時が鎌倉に住んだということは、その妻で実雅旧妻でもある義時と伊賀の方の娘もまた鎌倉に帰還していたことになります。
また同じく『明月記』によると1227年に実雅旧妻の妹が西園寺実有(公経の庶子)の新妻として迎えられたとあります。その前年にはおそらくそれと関係して新妻の母も入京していたとあり、「実雅の妻の妹」と表現されていることから同母妹と考えられ、よってその母親は伊賀の方だと近藤氏は推測しています。実雅旧妻の妹を妻に望む公家は大勢いたらしく競望になったとのことで、大炊御門家嗣などはそのために妻である坊門忠信の娘を離縁したらしい。忠信は承久の乱に後鳥羽側近として参画したため没落していたことから、その娘である妻を切り捨てたんでしょうが、ひでえ話だな、おい。堀河具実もまた実雅旧妻の妹を妻にと望んでいたとのことですが、それらの中から執権泰時が婚姻相手を実有と決めたんだそうです。やはり政子死後には伊賀氏は完全に復権していたと言っていいでしょう。
#11314
バラージ 2023/02/23 22:06
香港スタント盛衰史
『カンフースタントマン 龍虎武師』という香港・中国合作のドキュメンタリー映画を観ました。
1970〜90年代に隆盛を極めた香港カンフー映画&肉体アクション映画を支えたスタントマンたちの証言を通じて、現在に至るまでの香港カンフー&アクション映画の盛衰を描いた作品。超絶危険アクションに挑んだスタントマンたちのインタビューとそのような映画のアーカイブ映像やメイキング、NGシーンを通して、香港映画が最も繁栄した時代の映画製作の裏側がサモ・ハン、ブルース・リャン、ユエン・ウーピン、ドニー・イェン、ツイ・ハーク、エリック・ツァン、アンドリュー・ラウなどのレジェンドたちの口から語られていきます。マースやユン・ワーなど香港映画ファンには嬉し懐かしいマニアックな面々も出てきますが、ジャッキー・チェンはインタビュー無しでアーカイブ映像のみ。インタビューも撮影はされたらしいんですが権利関係の問題(特に米国の)でカットされたとのこと。ユン・ピョウやジェット・リーのインタビューもありませんがそちらの理由は不明。なお監督は中国本土の人です。
なかなか面白かったですね。ちょうど僕の世代ドンピシャなんでなんとも懐かしかったです。ブルース・リーに始まってジャッキー、サモらに至る流れで、え!? あの映画のあのアクション、スタントマンがやってたのか!みたいな驚きや、うっわー、あの映画のあのシーン懐かしー、みたいな郷愁の連発でした。とはいえ、あの頃は香港映画のとんでもない超絶アクションにただただ興奮し熱狂し楽しんでただけでしたが、今になって製作の裏側も含めて観ると良くも悪くも狂気の沙汰というか、少なくとも正気の沙汰ではないですね(笑)。はっきり言ってめちゃくちゃ。人が何人か死んでいてもおかしくない、というか実際に死んだスタントマンや半身不随とか再起不能になったスタントマンもいたとインタビューで証言されてました。
そして映画はそこから21世紀に入ってからの急速な香港カンフー&アクション映画の衰退が語られ、やたら哀愁を帯びた切ない展開になっていきます。CGの発達により命がけスタントの需要が少なくなり、そもそもアクション映画が少なくなって、スタントマンの成り手もいなくなり後継者不足という寂しい話が、今や皆おじいちゃんになったアクション&スタント・レジェンドたちの口から語られます。対照的に中国本土のスタントマン界は大隆盛ということですが、結局これは香港人が裕福になったってことなんでしょうね。インタビューでもレジェンド・スタントマンたちが貧乏で勉強も嫌いで小卒だったからスタントマンになるしかなかったみたいなことを言ってる人が多いんですが、香港全体が裕福になって教育水準も上がればわざわざ命の危険を伴うスタントマンをやろうなんて若い人はよほどの酔狂しかいなくなるのが当然です。昔ほどの高収入でもなくなってるらしいんで、そうなるとますますねえ。一方の中国は、上海や北京などは東京をしのぐ大都会ですが、田舎は超絶貧困という超格差社会ですから、まだまだスタントマンに身を投じる若者も多いんでしょう。
それにしてもマースやユン・ワーや他の何人かのレジェンド・スタントマンが言ってましたが、スタントマンは40歳過ぎたら体力的にキツいから若いうちに貯金しとかなきゃならなかったんだけど(当時の月給は平均的サラリーマンの50倍だったそうです)、ギャラが入ったらすぐにみんな酒や博打(競馬とか)に使っちゃって残ってないんだそうです。なんかそういうところ、日本の昔のプロレスラーと言ってることがいっしょのような。ハハハ。
>新作歴史映画
李舜臣を主人公として閑山島海戦を描いた『ハンサン 龍の出現』という韓国映画が3月に公開されるようです。監督は『神弓 KAMIYUMI』『バトル・オーシャン 海上決戦』のキム・ハンミンで、主演は『神弓』や現在公開中の話題作『別れる決心』でも主演しているパク・ヘイル。今回の映画では脇坂安治がライバル的立ち位置のようです。予告編を観るとまたもとんでもないCGのすごさで、キム・ハンミン監督、『神弓』は面白かったけど『バトル・オーシャン』はいまいちでしたが、果たして今回はどうでしょうか? でも地元には来る気配なしなんだよな。またもDVD視聴になりそう。
>大河ドラマ
んー、『どうする家康』、ちょっと飽きてきちゃったかなあ。いや、つまらなくはないんですけどね。まあまあ面白いことは面白いんですが、なんとなくね、去年1年ずっと時代劇(史劇)を観ちゃってるからか、やっぱり気持ちが現代劇のターンに入っちゃってるんだよな。今面白く観てるドラマは『リバーサルオーケストラ』と『しょうもない僕らの恋愛論』でして。
そういや『どう家』を観た人の感想だったかネット記事の指摘だったかで寿桂尼が出てきてないというのがあって、そう言われてみればと気づいたんですが、人間関係が複雑化するのを避けるためなのかな? あくまで話の中心は徳川家ですし。濃姫も出てきてませんが、古沢良太さん、そっちは『レジェンド&バタフライ』で描いたからいいやってことでしょうか(笑)。逆に『レジェ&バタ』にはお市の方が出てこないらしい。『レジェ&バタ』、ちょっと興味はあったんだけど3時間近い長さと知って、他にもっと観たい映画もあるしなあと回避しております。
『どう家』でちょっとだけ気になってるというか、まぁ無理だろうなとあきらめてるのがずっと後に描かれるであろう信康切腹事件の描写。一般的に家康は信長の命令で仕方なく築山殿を殺し、信康を切腹させたというのが通説として流布してますが、この説は現在ではほとんど否定されています。築山殿殺害と信康切腹の理由については諸説分かれているようですが、信長の強制ではなく家康自身の意志で行われたとする見方では一致してるんですよね。しかし家康が主人公なら悪者にはできないだろうし、ここまでの家康・瀬名(築山殿)・信長の人物描写を見る限りではおそらく旧来の通説で行くんでしょう。実は新説で事件を描いたドラマや映画ってまだないはず。
ちなみに通説への疑問を最初に提示したのは小説家の典厩五郎。1998年に出版された『家康、封印された過去』(PHPビジネスライブラリー)がそれでして、僕はたまたま図書館で手に取って読んだら面白いし説得力もあって感心したんだよな。旧題は『徳川家康秘聞 消された後継者』だったらしく世界文化社から1994年に出版されていたらしい。まぁ小説家らしく扇情的な文章で歴史考証的にはかなり強引なところもあるんだけど、通説に対する批判はそれなりに筋道立っていて説得力があったんですよね。しかしビジネス系新書レーベルから出てる小説家の本ということで歴史学界からはほとんど無視されていたようです。
同書では家康家臣の松平家忠による日記が引用されてたんですが、その後これまた偶然に別の図書館で歴史学者の盛本昌広による『松平家忠日記』(角川選書、1999年)を見つけて読んだら、信康切腹事件について盛本氏もやはり同じような知見を示してました。ただし典厩氏の本については時期的な問題か、それとも小説家の本なので読んでないか存在を知らなかったのか全く触れていません。こちらは2022年に角川ソフィア文庫から『家康家臣の戦と日常』と改題されて出版されているようです。
典厩氏の本を初めて学術書で取り上げたのは在野の歴史家である谷口克広。2007年の『信長と消えた家臣たち』(中公新書)がそれで、典厩氏の主張を肯定的に取り上げ、さらに事件を深く考察しています。事件の研究が深められ通説を否定した諸説が次々出てきたのはそれ以後のこと。しかし改めて調べたら谷口氏、一昨年に亡くなっていたのか……。在野の歴史家として多大な業績を残された方でした。ご冥福をお祈りします。
来年の『光る君へ』も第2弾出演者発表が行われましたが、清少納言がファーストサマーウイカで、安倍晴明がユースケ・サンタマリアってまたも斜め上の配役だな。ちょっと不安。
#11313
ろんた 2023/02/21 00:16
『天幕のジャードゥーガル』2巻
先頃、紙の本で1巻を買った話をしたばかりですが、『帰って来たどらン猫3(上)』(はるき悦巳/双葉文庫)を買いに行ったら平積みにされていたので、『黄泉のツガイ』(荒川弘/ガンガンコミックス)と一緒に購入。
まず冒頭、「ファーティマがモンゴルへ来て8年が経った1229年──」とNAが入っててズッコケる(笑)。いや前巻の最後で、三年経ちました、ってやったばかりですから。これはチンギス・カンが亡くなって2年後。後継者を決定するクリルタイが舞台。そして指名されたのは、第三皇子・オゴタイ。末子相続の習慣からいえば、そしてこの二年間に国政をみていた実績からいえば、後継者は第四皇子・トルイのはずだが、これがチンギス・カンの遺言だった。トルイも兄弟の結束が何より大事と納得している。最もトルイには、チンギス・カンの遺産のほとんどが、その軍事力を含め譲られている。つまりモンゴルは、権威と実力の担い手が分裂したわけで、その危険性に気づいているのは、トルイの第一妃・ソルコクタニ、オゴタイ・カアンの第一皇后・ボラクチン、そしてファティマ。そこでソルコクタニはファティマに、第二皇子・チャガタイの動向を探るべく密偵となるよう命じる。だが、羊解体で見つけた結石が縁となり、オゴタイ・カアンの第六皇后・ドレゲネに仕えるようになる。そして、互いの身の上を知った二人はいわば同志となって帝国に仇なそうと決意する。一方、モンゴル帝国は金国征服に向けて動き出し……。
次巻予告には"生まれたての帝国を「支配者」と認めつつある世界。世界がまだ見ぬ、皇帝の視野。ファーティマは動き出す──"とあり、金国の滅亡とともに、「法の支配」実現のためオゴタイ・カアンを担ぐ第二皇子・チャガタイ、商業ネットワークの形成による繁栄を考えているオゴタイ・カアン、なんだか戦争バカっぽい第四皇子・トルイの複雑な関係が語られるんじゃないですかね? この三人、わたしの第一印象とは大分違って来ちゃってますけど。そして火に油を注ごうとするに違いないドレゲネとファティマ(笑)。
ちょっと調べると、この辺、陰謀の臭いがプンプンするわけで、本編ではスルーしている第一皇子・ジュチの死も怪しいといえば怪しい。また皇子らが直接遺言を聞いたことにしているけど、史実ではチンギス・カンの死には子どもたちの誰も立ち会っておらず、遺言はチャガタイとオゴタイのでっち上げの可能性がある(主犯はチャガタイっぽい)。そしてトルイは金国征討の直後にあっけなく死んでしまって、あまりにもチャガタイとオゴタイに都合がよすぎるんだけど、その二人も相次いで死んでいて怪しいったらありゃしない。ということで『天幕のジャードゥーガル』、目が離せません。
追記1:常識かもしれないけど、カンの上に立つのがカアン。王と皇帝って感じ? 最終的にモンゴル帝国は分裂したとされることもあるけど、大元ウルスの長は「カアン」、その他の国家の長は「カン」と明確に使い分けられていて、帝国自体は健在と考えた方がいいとか。本編ではオゴタイが即位と同時に使い始めたことになっているけど、史料的には使い始めの時期は不明とか。
追記2:なんだか、また同時代(?)を扱ったコミックスを見つけてしまいました。『ビジャの女王』(森秀樹/SPコミックス/1〜3巻以下続巻)。
西暦1258年、ペルシャ高原の小都市ビジャを、ラジン率いる蒙古軍の支隊が包囲した。世界の半分を制圧した最強騎兵は支隊とはいえ総数2万、対するビジャの人口はわずか5千人。陥落は誰の目にも明らかだった。そんな中、ハマダン王の子オッド姫の救援要請に、伝説の集団「インド墨家・ブブ」が駆け付ける。その策によりなんとか猛攻を凌ぐが、一方でペルシャの首都バグダードはラジンの父フレグの征西軍本隊12万によって陥落し、首都で捕虜となったハマダン王も死去する。そして、蒙古軍とビジャ双方で、同時に後継者争いが勃発するのだった……。(Amazon各巻紹介より作成)
なんだろ、知らないうちにモンゴルがブームになっているのか。ちなみにラジンの父フレグはクビライの弟、時のカアンは長兄モンケ。三人はトルイとソルコクタニの息子。そして後継者争いが勃発するのは、モンケ・カアンが南宋攻略戦の最中に死んじゃうからかな? 確かこの時、アッバース朝のカリフが袋に詰められて馬に踏み殺されるはず。あと、森秀樹さんといえば『墨攻』だけど、なんだ「インド墨家」って? まずい、読みたくなってきた(笑)。
>セイラム魔女裁判
考えたら元寇も"歴史のロマン"ってことになっちゃってますねぇ(笑)。まあ、現セーラムは事件が起こった場所じゃないそうで(隣村)、そのせいか、町のシンボルマークが箒に乗った魔女だったりするみたい。
#11312
バラージ 2023/02/20 23:25
さらに訂正
貞暁の死を「竹御所に先立つこと5年前」と書きましたが、「3年前」の誤りでしたね。すいません。
#11311
バラージ 2023/02/20 21:33
文字化け
文字化けした部分の竹御所の名前は「女偏に美」で[女美]子、読みは「よしこ」です。
#11310
バラージ 2023/02/20 21:29
その後の鎌倉史 影を慕いて
義時死後の鎌倉史、今回は源氏将軍断絶後の征夷大将軍と、頼朝の子孫たちの話。
1225年7月、尼将軍とも呼ばれた北条政子が死去しました。『吾妻鏡』では前漢の呂后(劉邦の妻)に例えられてますが、なんとも言い得て妙。もちろん『吾妻鏡』は称賛の意図でそう記してるんですが、呂后っていうと現代の中国史ファンにはおっかない未亡人婆さんのイメージですからねえ。政子が伊賀氏事件において無茶なゴリ押しで伊賀氏を冤罪に陥れても泰時や時房・義村らが最後まで抵抗し切れなかったのは、政子の苛烈な性格をよく知っていたからというのもあるでしょうが、それだけではなく実朝亡き後は政子が頼朝の由緒を最も体現した人物だったからでしょう。頼朝との血縁の薄い幼児の鎌倉殿三寅では御家人の結集点としての権威に不安があり、政子の面子をつぶしてその権威に傷を付けるのは幕府の存立基盤を危うくする恐れも考えられ、そのために憚られたんではないでしょうか。
その政子が世を去ったことを契機としてだと思われますが、同年12月に三寅はわずか6歳で元服し、九条頼経(藤原頼経とも)と名乗ります。『明月記』によると京では父の九条道家の指示で名前が検討され、師嗣・道良・道嗣などが候補として挙げられていたそうですが、それらを退けて「頼経」に決まったのは幕府が「頼朝」の後継者であることを明示しようとしたものだと推測されているようです。次いで翌1226年1月に頼経は征夷大将軍に就任しますが、『明月記』によると将軍宣下要請のため上洛した幕府の使者は頼経の源氏への改姓を求めて藤原氏の氏社の春日大社に赴き、神判によってその可否を問うことを関白の近衛家実に伝えているそうです。しかし春日大明神の神意は「改姓は否」で、幕府は頼経の源氏改姓を断念せざるを得ませんでした。摂関家出身の頼経とその子頼嗣の2代を摂家将軍と言います。
しかし北条氏をはじめとする幕府は頼経を頼朝の由緒につなげようとすることをあきらめませんでした。1230年12月、頼経のもとへ頼家の娘の竹御所(名は鞠子または媄子とされる)が室として嫁ぎます。竹御所の母は『尊卑分脈』には源義仲の娘とありますが、竹御所の墓が比企一族の菩提寺である妙音寺にあるので実際には若狭局(比企能員の娘)ではないかとする説もあるようです。竹御所は頼家の男子がことごとく殺された後も政子に可愛がられ、頻繁に同行してる様子が『吾妻鏡』からうかがえますし、1216年には叔父である将軍実朝の妻(坊門信清の娘)の猶子ともなっています。女性とはいえ頼朝の血を引く最後の子孫であり、頼経との間に産まれる男子に将軍を継がせることによって、将軍に流れる頼朝の血を少しでも濃くしようという執権泰時ら幕府首脳の考えだったと思われます。頼経が13歳、竹御所が28歳というえらくいびつな夫婦ですが、まあ政略結婚ですし当時としては珍しくなかったんでしょう。
4年後の1234年、竹御所はついに幕府待望の頼経の子供を身ごもります。ところが7月に男子を死産したうえに竹御所自身も難産によって同日に死亡するという、幕府にとって最悪の結末を迎えてしまいました。享年32歳。竹御所の死によって頼朝の血脈は断絶することになります。泰時ら幕府首脳の衝撃も大きく、おおいに落胆したことでしょう。『明月記』によると六波羅探題の重時らも皆鎌倉に下り京に武士がほとんどいなくなったため、凶徒(犯罪者)にとっては時を得たようなものだと藤原定家は批判的に記しています。泰時が死んだ時も似たようなことがあったような。鎌倉武士はしょっちゅう動揺して大騒ぎするなあ。なお定家は頼朝の子孫が断絶したのは平家の子孫を嬰児に至るまで皆殺しにした報いだとも記しているとのこと。こうして北条氏ら幕府首脳は摂家将軍の源氏化を断念せざるを得なくなりました。
竹御所に先立つこと5年前の1231年2月には頼朝の落胤である僧の貞暁が高野山で死去しています。享年46歳。貞暁は1192年に上洛して仁和寺の隆暁(頼朝の妹婿一条能保の養子)のもとで出家し、道法法親王に灌頂を受け、後に行勝に学ぶために仁和寺より世俗から遠い高野山に移りました。訃報を記した際の『明月記』によると20年も高野山に籠っていたとのことなので、高野山に移ったのは1211年頃ということになります。
なお1719年に成立した『高野春秋』(高野山の編年史。『高野春秋編年輯録』とも)では、貞暁が高野山に移ったのを1208年3月として理由を北条義時に命を狙われたためとしており、また1700年頃成立の『伝燈広録』(真言宗高僧の伝記をまとめたもの)では同年10月に政子が時房を伴って高野山を訪れ、貞暁に還俗して将軍になる意志を問うたところ貞暁は片眼を潰して拒否の意志を伝えたとあるとのこと。いずれもはるかに下った江戸時代の史料なので信憑性はありませんが、後者の『伝燈広録』の記述は事実ではないにしても興味深いものがあります。『吾妻鏡』によると実際に政子は1208年10月から12月に時房を伴って熊野詣でをしているんですが、以前書いた通りこの年の2月に実朝が疱瘡に罹患しており回復まで2ヶ月もかかる重症でした。政子の熊野詣でもそれに関連したものだと思われますが、もしこの時点で実朝にもしものことがあった場合、後継者をどうしたのかというのは興味深いところなんですよね。後鳥羽上皇の皇子を後継者に迎えるアイデアが出たのはそれより10年も後のことで、この時点でそのような発想に至ったとは思われません。おそらく北条氏と血のつながりのない貞暁ではなく、血のつながりのある頼家の遺児たち(公暁・栄実・禅暁)から選ばれたことでしょうが、創作にしても絶妙なネタを放り込むなあと思いまして。
なお、かつて貞暁とその母の大進局を迫害し鎌倉から追い出した政子も晩年には貞暁に帰依したとのことで、貞暁に源氏一族の菩提を弔わせるべく援助・出資を行い、貞暁は1223年に源氏三代の将軍の菩提を弔うため高野山に寂静院を建立し、阿弥陀堂と五輪塔を設営して追善を行なっているそうです。貞暁が没した時、出家した母の大進局は摂津国でまだ存命で、息子に先立たれたことを深く悲しんだと『明月記』に記されています。
さて、竹御所の死によって頼朝の血筋は断絶し、将軍に頼朝の由緒をつなげる目論見は放棄されましたが、鎌倉後期の親王将軍の時代に突如として源氏将軍が一時的に復活したことがあります。
それは7代将軍惟康親王の時代。一般的には「惟康親王」として知られますが、実は親王将軍だったのは最後の2年間だけで、1266年に父宗尊親王の将軍解任と京都送還に伴ってわずか3歳で征夷大将軍に就任した当初は「惟康王」。これは親王の子(天皇の孫)は一般的に王までしかなれなかったからですが、1270年に7歳で元服すると源氏賜姓を受けて臣籍降下し「源惟康」と名乗ります。これは当時の北条時宗政権が蒙古襲来という未曾有の国家的危機に直面し、かつて頼朝のもとで源平合戦を勝ち抜いたという吉例を再現しようとしたものだと考えられているようです。しかし時宗が没し、安達泰盛が滅ぼされて平頼綱が権力を握ると、頼綱も当初はその方針を継承したものの1287年には惟康の親王宣下を朝廷に要請。ようやく「惟康親王」の誕生となります。俗人の孫王の親王宣下は史上初だったとのこと。そして1289年には惟康は将軍を罷免されて京都に送還されました。つまり惟康が将軍だった期間のほとんどは実は源惟康という源氏将軍だったことになります。
幕府が危機に陥ったことで幕府草創の象徴である「頼朝の記憶」が呼び起こされたわけですが、鎌倉後期にはそのような「頼朝の権威上昇」が起こっていたとする説については以前#11047で触れました。しかしいくら源氏になったところで惟康は頼朝との血のつながりがほとんどなく(母方の祖母九条仁子が道家の娘で、ほんのわずかながら頼朝の同母妹の血を引いてはいるが)、将軍としての活動もほとんど伝えられていませんから、実質的にはあまり意味がなかったんではないでしょうか。幕府も結局、源氏将軍路線を再び放棄して親王将軍に戻してますし。それでも頼朝に由緒を求める武士たちの心理は、時を超えて室町から織豊、江戸時代にまで続いていくことになるようです。
>史点
・レオパルドU
僕がちょいミリタリー・ファンだった中高生時代から西ドイツの主力戦車だったんですが、いまだにドイツ軍の主力戦車なんですねえ。米軍のM1エイブラムスとかイギリス軍のチャレンジャーなんかも同様にあのころから今に至るまで主力戦車のままなんだなあ。まあ細かい改良とかは少しずつ施されてるんだろうけど。
そういややっぱりあの頃に『キン肉マン』に出てきたレオパルドンという超人はレオパルドUもしくはその前のレオパルドTから考案された超人(確か読者募集超人だったはず)でしたが、最短の早さで秒殺された超人としてよくネタにされてました。しかしそのようにネタにされたゆえか、現在『週プレ』で連載されてる『キン肉マン』に再登場し、意外な活躍をしてましたね。
・気球に乗って
米国当局も最初に撃墜したもの以外は中国軍のものではなかったと認める事態になって、何ともグダグダな展開に。アラスカで撃墜されたのはどうも米国の気球愛好家団体が打ち上げたものだったらしく、数千円の気球を数千万円のミサイルで撃墜した、とんだ無駄遣いだと批判されてるとかなんとか。中国は中国で台湾だか海南島だかの近海で米軍の気球を撃墜したとか言ってるけど、米軍はわざわざ気球飛ばさんでも偵察機とかで偵察できるんでは? 日本でも気球を撃墜できるように法解釈を変更するようなことを言ってますが、撃墜は性能的・技術的に難しいと現場からは懸念の声が出てるとのこと。さて、この問題いったいどういうところに着地するんでしょうか(気球だけに)。
・韓国映画のベトナム戦争
韓国でベトナム戦争を主題とした反戦映画が出てきたのは90年代で、『ホワイト・バッジ』が日本でも話題になりました。米国で『プラトーン』を皮切りとして80年代に次々ベトナム戦争反省映画が作られたのと軌を一にしています。
#11309
バラージ 2023/02/15 21:29
改革開放の影とゆがみ
『シャドウプレイ 完全版』という中国映画を観ました。こちらと映画板とどっちに書こうか迷ったんだけど、一応中国現代史に関連した映画なんでこっちに書き込ませていただきます。といっても基本的にフィクションの話だし、直近の現代史なので歴史というより“時代”の映画なんだろうけど。
監督は『ふたりの人魚』『パープル・バタフライ』『天安門、恋人たち』『ブラインド・マッサージ』などのロウ・イエ。日本では中国本国において2019年に公開された当局の検閲でカットされたバージョンが2020年の映画祭で上映され、同年に劇場公開されるはずがコロナで公開未定となり、今年になってカット部分を復活させた完全版が公開されるという紆余曲折を経た映画です。製作されたのは2016〜17年とのことですが、検閲をめぐっての激しい攻防が長引いたようで本国でも2019年まで公開が遅れたようです(なお、その製作過程や検閲との攻防を描いたドキュメンタリー映画『夢の裏側 ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』も同時公開されたようですが地元には来ずそちらは未見)。
ストーリーは以下の通り。2013年、広州市の再開発地区である「城中村(都会の中の村)」で立ち退き賠償をめぐって暴動が起き、その最中に開発責任者の官僚がビルの屋上から謎の転落死を遂げる。事故か他殺か、事件を追う若い刑事は官僚とその妻、2人の古くからの知り合いの不動産会社社長の過去を洗ううちに、2006年に社長のビジネスパートナーの台湾人女性が失踪した事件に行き当たる。それらの事件の遠因は3人の出会った1989年から続く改革開放時代の長い因縁だった……。
実話をヒントにした映画だそうですが、あくまでヒントであって実話映画ではなくフィクションの映画です。ただし現実の30年に渡る中国社会を映し出した物語で、広州・台湾・香港にまたがる話となっています。この30年の中国社会の変化は日本社会の60年の変化に匹敵すると、『チィファの手紙』を監督した岩井俊二も言ってましたが、確かに凄まじい経済発展を遂げて猛スピードで日本を抜き去り、今ではその背中さえ見えなくなった中国の30年間の改革開放と経済発展のひずみと闇、光と影を描き出した群像劇の力作でなかなか面白かったですね。
ロウ・イエ監督の映画は非常に暗い作風が特徴で、特に『天安門〜』が印象に残ってますが、そちらが1989年の青春の挫折感を描いているのに対して、こちらはその年から始まる改革開放の波に乗って社会主義市場経済の発展に狂奔した末に道を踏み外した人々を描いています。この映画も明るい映画ではもちろんないんですが、静的な映画ではなくアクション描写もある動的な犯罪サスペンスなのでそこまで暗くは感じません。ただ時系列が頻繁に前後する上に映像がやや暗く、手持ちカメラのぶれた映像も多用されるので内容がややわかりにくいかもしれません。
現代史、特に現在に極めて近い隣接した時代を描くには、実際の事件をそのまま描く“歴史映画”よりも、こういうフィクションで時代をあぶり出すような映画のほうが適しているんじゃないかなぁとも思いますね。
>録画で観た歴史映画
『マイ・バック・ページ』
2011年の日本映画。調べると5月の公開だったんですね。公開してた記憶はあるんですが時期までは覚えてませんでした。震災の2ヶ月後だったんだな。
評論家の川本三郎による1968〜72年の『週刊朝日』『朝日ジャーナル』記者だった時代の回想録が原作で、映画は全員仮名にした上で1969年から72年の学生運動が破綻していく時代を川本自身が関わった朝霞自衛官殺害事件を中心に描いています。監督は『リンダリンダリンダ』『もらとりあむタマ子』などの山下敦弘、主演の川本をモデルとした人物役が妻夫木聡で、活動家を名乗る事件の犯人・青年Kをモデルとした人物役が松山ケンイチです。
うーん、映画としてはよく出来てると思うんだけど、なんというか映画内に漂うこの時代というか学生運動特有のヌメっとしてネットリとした湿り気や粘り気のある空気感に個人的には終始違和感を感じて仕方ありませんでしたね。学生運動の漠然とした理想には共感しつつも、そういうベタベタした空気感とか集団性・組織性には、僕はどうも違和感を感じてしまいます。心理学者の河合隼雄が村上春樹との対談『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(岩波書店)で、「学生運動のころに、ぼくがよく学生を冷やかしていたのは、きみたちは新しいことをしているように見えるけれども、体質がものすごく古い、グループのつくり方がものすごく古い、ということですね」と言っていたのが、映画で映像として観ると非常によくわかります。松山ケンイチがこれの1年前に主演した、やはり同じ時代が舞台の『ノルウェイの森』の主人公の、学生運動に共感しつつも距離をとった態度(これは原作者の村上自身の当時の態度でもあった)のほうに僕は親近感を感じますねえ。
映画自体はかなりの豪華キャストで、先輩記者役が古舘寛治とか、東大全共闘議長役(モデルは山本義隆)が長塚圭史とか、京大全共闘議長役(モデルは滝田修)が山内圭哉とか配役がいちいち絶妙。ただ、ヒロイン役が忽那汐里(モデルは保倉幸恵)と石橋杏奈ってのはちょっと時代を感じました。エンドロールには岸井ゆきのの名前もあったんですが、どこに出てたかよくわかんないとことかもね。ま、10年前の映画だからなあ。ともかく役者はみなハマり役で好演。妻夫木と忽那は数年後にホウ・シャオシェン監督の台湾映画『黒衣の刺客』でも共演してましたね。
フィクションとおぼしき部分も多く、主人公とウサギ売りの男のエピソードや活動家側の私生活なんかは明らかにフィクションが混ぜられてる(もしくは全面的にフィクション)と思われます。歴史映画ではあるもののどちらかと言えば青春映画の要素が大きいのは、川本の青春時代の回想録が原作なんだから当然と言えば当然で、そこは個人的には好評価です。
>セイラム魔女裁判
Wikipediaの「セイラム魔女裁判」を読むと、有名なアーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』以外にも関連作品って結構あるんですねえ。しかも結構柔らかめのやつが。映画『ファンタスティック・ビースト』シリーズにも出てきてるようです。
>追悼・永井路子
まだ存命だったことは確か一昨年あたりに知って、長寿だなぁと驚いた記憶があります。去年の大河関連で文庫『北条政子』の新装版が書店に並んでましたね。大河だと『毛利元就』でも原作に使われてました。僕が読んだのは確か連作短編集『炎環』と短編「執念の家譜」、小説ではなく歴史評伝の『つわものの賦』ぐらい。杉本苑子との歴史対談本も一部読んだ記憶があるんですが、北条義時が好きという話題で盛り上がってた記憶があります。個人的には永井さんの史観や人物評価にちょっと違和感がありまして、義時や三浦義村を高く評価しすぎに思いますね。ご冥福をお祈りします。
#11308
ろんた 2023/02/14 00:22
「奥さまは魔女」
『歴史小説論』(大岡昇平)を発掘(?)して再読、感想をまとめようとしてまとまらず、年は明けるは、建国記念の日になっちゃうは(汗)。ということで生存確認代わりに軽いネタ。
BS松竹東急という放送局が昨年の春に開局して、古い松竹制作のドラマとかを流してるんですが、ラインナップには古い海外ドラマもあって、シチュエーションコメディの傑作「奥さまは魔女」も放送されてます。で、シーズン7の録画を見ていたら、サマンサに「魔女の集会に出なさい」というお知らせが来る話でした。去年までそんなの来てなかったのに、と差出人を見たらエンドラ(サマンサの母/魔女)。呼び出して話を聞くと、なんと議長になったとのこと。それでサマンサを出席させようとしたのか、とよせばいいのにダーリンがからんでいって、ガマガエルにされてしまう。このドラマ、魔法はかけた本人でないと解けないことになっているので、サマンサにできるのは、バスタブに水を張ってダーリンを泳がせることぐらい(笑)。結局、集会に出るということで許してもらうんですが、バスタブに浸かったままだったので、ダーリンはスーツ姿でずぶ濡れになってしまうのでした。(<ここで不覚にも大笑いしてしまった)
で、問題は集会が開かれる場所。これがサレム(現代の表記ではセーラム)だったりするのでした。なんだかシャレになってない気がしますけど、パトカーの側面にもセーラムって書いてあるんで間違いないです。まあ、もう何百年も経ってたんで大丈夫だったのかな? 以後、セーラム編が続くし。そういえば、エリザベス・モンゴメリー……じゃなかった、サマンサの銅像が現地には建っているとか。これはニコール・キッドマンのリメイク時に建てられたらしいですけど、当時は反対の声があったらしい。町おこしの役には立ってるのかな?
>『天幕のジャードゥーガル』
結局、紙の本を買ってしまいました。偉いもんで本屋に「このマンガがすごい」コーナーができていて積まれていたのでありました。もっとも収録されているのは7話まで。5話までをネットで読んでいたので、新しく読んだのは2話分だったりする。それでもトゥースが舞台だと背景が細密画っぽかったり、チンギス・カンの息子たちが、鷹揚なジュチ、小狡そうなチャガタイ、ホエホエなオゴタイ、おそらくチンギス・ハンに最も似ているであろうトルイと描き分けられているのが確認できました。
そして6話と7話では、天幕の明かりとりが日時計になっていることに気づくファティマの知性が描かれる反面、ソルコクタニ(トルイ妃)の知的好奇心が巡り巡って奥様を殺したことが分かり、ファティマは憎悪を抱きます。でも、自分の知性とソルコクタニの知的好奇心が同根だとは気づいていない。また、ファティマことステラが『原論』略奪に抵抗しなければ奥様は殺されなかったんだよなぁ。そして三年後。ファティマはすっかり侍女っぽくなってますが、クビライが登場すると日本人としては平静でいられない(笑)。さらにチンギス・カンが登場(馬上の後ろ姿のみ。オーラが、オーラが!!)。と、ここで人が変に大きいことに気づく……じゃなかった、馬が小さい! そして四肢が妙に太い! モンゴル馬を描いている!? すげぇぜ、トマトスープ氏!
さて、次巻予告によると「──巨星チンギス・カン堕つ。次代の皇帝は誰? そして下された密命。」ということで、四兄弟の後継者争いが描かれるようです。モンゴルは末子相続なので、順当ならトルイがすべてを相続するはずなのですが……。
ついでに同じ作者の『ダンピアのおいしい冒険』(イースト・プレス/1〜4巻/以下続巻)を購入したことをご報告。博物学者として名を残したウィリアム・ダンピア(1651〜1715)が私掠船に乗っていた頃のお話。海洋冒険飯漫画と謳ってるけど、ここでも「知」というものが裏テーマになっている。
>人魚のミイラ
いやぁ〜、別にいいじゃないか、なんでもはっきりすればいいってもんじゃないだろう……というのが感想。そりゃあ、人魚実在の可能性があるなら調べるのもいいでしょうが、そんなこと信じてる人いないでしょ。だったら「伝・人魚木乃伊」でいいじゃないですか。しかし、まったくの作り物だったというのは面白かった。てっきり猿と鮭の合成だと思ってたから。ああ、「護良親王の首」も「伝・護良親王御首級」でいいと思うけどなぁ。しかし、こういうの見ると昔の人も参拝客増やそうと一所懸命だったんですねぇ。現代の「パワー・スポット」と同じようなもんか(笑)。
>謎の飛行物体
米軍に撃墜された飛行物体。ニュースで見た時、ついつい「風船爆弾」が思い浮かんで、脳内で「お〜、こいは〜、ふ〜せんばく〜だ〜ん」とヘビーローテーションしてしまった(汗)。その後、カナダが円筒形の飛行物体を撃墜したと発表すると、("ら〜ま"だ、"ら〜ま"だ)と『宇宙のランデブー』(A.C.クラーク)な発想をしてしまう。しかし、こいつら飛行方法が不明とのことで「気球」とは呼ばないとか。まあ、中国が「民間の気象観測気球」と下手な言い訳しているから、宇宙から来たわけじゃないとは思うけど。専門家が「気球」を偵察に使う利点を解説していたが、必要なところにピンポイントで飛んでくわけじゃないからどうなんだろう? 「民間の気象観測気球」が下手な言い訳なのは、その民間企業が出てこないことと、気象観測用の気球なら必要な高さで破裂しパラシュートで軟着陸するはずで、偏西風にのるはずないから。じゃなかったら、定点観測にならないもの。「イッテQ」では干物を作るのに使ってたな(笑)。
そしたら、次は八角形だそうで……。何考えてんだ、うちゅう……あっ、イヤイヤイヤ(笑)。
#11307
徹夜城(雪の降る町を眺める管理人) 2023/02/10 10:48
大河ドラマドラマ
また少し間が空いた話題になりますが、僕も先週土曜放送の「大河ドラマが生まれた日」および翌日放送の「花の生涯カラー版」を見ました。
「大河ドラマが生まれた日」の方は、書籍でその辺の事情を読んだことがありまして、おおむね知ってる話ではありました。主人公になってるNHKスタッフは恐らく後にミスター大河と呼ばれる演出家・大原誠をモデルにしてるように思えます。佐田啓二宅に何度も押しかけ、かなりのお酒を消費してしまったことなど大筋事実のようです(笑)。それを命じる上司役に佐田さんの息子である中井貴一さん、というのもニクいところで(佐田さん役という手もあったんだろうけど、年齢的に無理かな)。
クライマックスの桜田門外の変の撮影に京都の「東映城」を借りたというのも有名な話ですが、ドラマの撮影に使われたのは茨城県内の「ワープステーション江戸」だと思わエ増す。あの江戸城前のセットは「葵・徳川三代」以来大河ドラマには何度も登場してますし、変わったところでっは映画「郡上一揆」の老中への直訴シーンもあそこで撮られています。
もともとは撮影もできるテーマパークとしてオープンしたんですが最近はNHKが実質独占借り上げ撮影現場となってるようですね。
「花の生涯」は第一作だけ保存されていて以前にも画質向上版が放送されたことのあると思い魔sが僕は今回初めてその全編を鑑賞しました。カラー化といっても元映像のこともありそうくっきりというわけでもなく、またそれだけにそう違和感なくやってる印象でした。
もともと白黒で放送・上映する前提で作った作品をカラー化することについては議論もあって、一時古い映画のカラー化が流行ったけどすぐ下火になったこともあります。ただ、カラーで放送されたけど録画機の方が白黒だったケースが大河「樅の木は残った」。総集編はカラーで存在しますが、ほぼ全話の録画は「ご当地」の町役場だったかに白黒ビデオで録画されているそうで、これなんかは今度の技術でカラー化できるんじゃないかと。
>永井路子さんの訃報。
昨日、歴史作家の永井路子さんの訃報が流れました。失礼ながらまだご存命だったかと驚いてしまったり。97歳だったそうで。
「草燃える」の原作者ということで昨年の「鎌倉殿の13人」で何かと引き合いに出されてました。源実朝暗殺の黒幕に三浦義村を想定したのは永井さんで、当時歴史学界でも結構支持・注目があったそうで、小説家の説がアカデミズムで取り入れられたケースに挙げられるようです。呉座勇一さんの解説でそれを知りましたが現在は否定的意見が多いみたいですね。
僕自身は永井さんの小説は実は一作も読んでないんですが、杉本苑子さんとの歴史対談本がなかなか面白かった。特に南北朝時代のくだりを興味深く読んだ覚えがあります。
>変わった遺物
「人魚のミイラ」からの連想ですが、少し前に山梨県の某神社に保管されているという「護良親王の首」がニュースになってました。「首」はドクロのまわりにいろいろつけて生首っぽくしてる結構不気味なものでして、なんでそんなものがそこに、という経緯も一応伝承はあるようです。
ただネット上で知ったことですが、どうもこの「首」、以前テレビか何かで紹介され調査されてるようでして、それによると江戸時代以降のものらしい。確かに人骨がベースになってはいるようで、江戸時代の一揆の義民か何かがそういう処理をされ、いつしか護良親王にされちゃった(江戸後期になるほど南朝人気があがりますしね)というあたりではないかと。
#11306
バラージ 2023/02/08 21:55
書き忘れ
時房の長男時盛の子孫は佐介流、4男朝直の子孫は大仏流とそれぞれ呼ばれますが、前記のような経緯もあって大仏流が優遇され、佐介流からは有力な人物は出ていません。
#11305
バラージ 2023/02/08 18:20
その後の鎌倉史 華麗なる一族
義時死後の鎌倉史、今回は泰時の子供たちと時房の子供たち、および三浦氏の一族の話。
前回書いた通り泰時は息子たちに先立たれ、孫の経時に家督と執権を継承させなければならなくなっています。泰時の継室である安保実員の娘が産んだ次男時実は、1227年に16歳の若さで家臣の高橋二郎に殺されています。同じ時に同僚も3人殺されたとのことで、高橋はすぐに捕らえられ斬刑にされました。高橋が時実らを殺した理由は不明ですが、その後も高橋家は断絶せずに泰時の弟重時の家臣となって存続しているとのことなので情状酌量の余地があったと推測されているようです。
長男の時氏は父泰時に従って承久の乱に出陣し、宇治川の戦いでは泰時の命で決死の渡河作戦を行っています。乱後は鎌倉に戻ったようで、祖父義時の死により鎌倉に戻ってきた六波羅探題の泰時と時房が伊賀氏事件の最中に軍営御後見(執権・連署)に任じられると、2人と入れ代わりで後継の六波羅探題北方として、南方に任じられた時房の長男時盛とともに上洛したことは以前書きました。以後6年に渡り探題職を務めましたが、1230年2月に重時が後任の六波羅探題北方に決まり、3月には重時が上洛。重時の入京と入れ代わる形で時氏は鎌倉に下り、4月に鎌倉入りしています。ところが『吾妻鏡』によると鎌倉入りして日も経たぬうちに時氏は病に倒れたとあり、『六波羅守護次第』では鎌倉へ下向中に宮路山(愛知県豊川市)で発病したと記されているとのこと。『明月記』によると6月にはもはや回復の見込みがないことが京にも伝えられており、同月に28歳で死去しています。同年には三浦泰村に嫁いだ泰時の娘も、出産した子供がまもなく死んだ上に自らも産後の肥立ちの悪さから25歳で死去しており、泰時は続けざまに子供に先立たれています。
ところで時氏と時実のどちらが泰時の嫡男だったのかは『吾妻鏡』などには特にはっきりと書かれていないように思うんですよね。時氏のほうが兄で、また結果的に時氏の子孫が得宗家を継いだので時氏が嫡男のように見られてますが、時氏の母の矢部禅尼は三浦義村という有力御家人の娘とはいえあくまで離縁した前室ですし、一方で時実の母は安保実員というさほど有力ではない御家人の娘ですが現室ですから、どちらが嫡男と考えられていたのかは微妙なところ。当時は嫡流が地元(鎌倉)で活動し庶流が京の朝廷に出仕するというのが一般的だったらしいというのは何度か触れましたが(北条時政と時定、比企能員と朝宗、北条義時と時房、三浦義村と胤義など)、泰時にしても承久の乱に出陣したからという理由はあるものの時房と共に六波羅探題として京に駐留し続けたのはやはりその時点では嫡男ではなかったからとも考えられます。そう考えると時実の生前は一貫して六波羅探題として在京していた時氏は庶長子として扱われていたという可能性もあり得るとも思います。また時氏の妻の松下禅尼は安達景盛の娘なのに対して、時実の妻は北条(名越)朝時の娘とのことなので、時実のほうが格上の人物の娘を妻にしています。朝時の娘ということは時実の従姉妹なんですが、泰時は朝時との関係改善のために2人を婚姻させたのかもしれません。まあ結局改善はしなかったんだけど。
続いて時房の息子たち。『13人』ばかりでなくほとんどのフィクション作品で触れられていませんが(なにしろ完全な脇道エピソードなんで)、時房家でもなにやらいろいろとゴタゴタがあったようです。
まず実朝暗殺の翌年、承久の乱の前年に当たる1220年に時房の次男時村と3男資時が突然出家しています。理由は不明で人々は怪しんだと『吾妻鏡』にはあり、兄弟間の家督争いに敗れた、または実朝暗殺のショックで仏門に入る決心を固めたなど諸説あるようですが、いずれも推測で決め手はありません。坂井孝一氏は時村の名前に「村」が入っていることから烏帽子親が三浦義村の可能性があるとして、時村が義村を後ろ楯に頼んで何らかの危険な行動、例えば反義時の行動に走り、出家せざるを得ない状況に追い込まれた可能性もあるとしていますが(『承久の乱』中公新書)、さすがにそれはちょっと穿ち過ぎなんじゃないかなあ。時房の庶子に過ぎない時村・資時にとって義時は敵とするにはあまりに大きすぎ、義村にしても彼らを支援するとは思えません。あくまで時房家内部のゴタゴタの可能性が高いように思われます。
長男時盛は前記の通り義時の死によって鎌倉に帰ってきた父時房と入れ代わりで六波羅探題南方として上洛してますが、この人もいろいろと騒ぎを起こしています(なお時房が連署に就任したのは一般的に伊賀氏事件の最中に政子によって泰時とともに軍営御後見とされた時とされてますが、政子の死後に泰時によって連署とされたとする説もあるようです)。1240年1月に時房が死ぬと時盛は2月に鎌倉に帰還。4月には時房の遺領分配が行われ、7月9日に帰京しています。時盛はそのまま鎌倉で出仕することを願い出たものの許しが出ず、泰時は5日に出立するよう何度も申し渡したにも関わらず時盛は日付が良くないからと延期を申し出ていたとあります。さらにその2年後の1242年に泰時の病状が重くなり、5月6日に将軍九条頼経より出家の許しを得ると(9日に出家)六波羅探題北方の重時は急ぎ鎌倉下向を命じられ、13日に朝廷の制止を振り切って鎌倉に向かいました。この時、時盛もいっしょに下向するという噂を聞いた『平戸記』の著者の平経高は京を守護する者がいなくなると不審がってますが、結局2人そろって鎌倉に下向しています。6月15日に泰時が死去すると、7月10日に重時は京に帰ってきますが、時盛は6月に鎌倉で出家してしまい京には戻らず、以後六波羅探題は重時1人で務めることになっています。
この年の『吾妻鏡』が欠落してることもあって今一つ事情がはっきりしないんですが、時房の4男朝直の母が時房室である足立遠元の娘なのに対して時盛の母は不明で、朝直は名前に「朝」が入っていることから将軍実朝の偏諱を受けた可能性もあり、時盛はもともと庶長子だったと考えられます(六波羅探題として京に上ったのも庶子だったからだと思われますし、当初それに難色を示したのも穿った見方をすれば内心それに不満だったからかもしれません)。おそらく時盛は父の死後に嫡流の変更を図って泰時の権威にすがろうとしたのだと思われ、それに対して泰時は時房の死後に時房家の家督継承に介入することを拒否し、あまりにしつこかった時盛は最終的に失脚したという可能性が高いように思われます。
さて時房の後を継いだ朝直ですが、この人もちょっとした騒ぎを起こしています。朝直は伊賀氏事件で処分された伊賀光宗(義時の妻である伊賀の方の兄)の娘を妻としてたんですが、藤原定家の『明月記』によると1226年に泰時の娘と婚姻する話が持ち上がったとのこと。協力体制を築いた泰時と時房がお互いの家の関係を深めようとしたのでしょう。しかし朝直はよほどの愛妻家だったのか光宗の娘との離縁を拒み、両親の時房夫妻が説得する事態となっています。光宗は1225年に許されて幕政に復帰してるので彼の了解も得ていたと思われますが、それでも朝直は離縁を拒み続けて騒動となり、離縁を悲しむあまり出家の支度を始める始末だったとのこと。しかし『吾妻鏡』には1231年に朝直の妻である泰時の娘が男子を産んだという記事があるので、結局朝直は両親や泰時に説き伏せられたようです。
最後に北条氏に次ぐ有力御家人だった三浦氏の一族について。
三浦義村は元娘婿である執権泰時を時房とともに支える役回りを務めており、それ以前の承久の乱の戦後処理においても積極的に活動したのは在京経験のない泰時ではなく、在京経験のある時房と義村だったことが指摘されています。義村は廃位した懐成親王(仲恭天皇)に代わる後堀河天皇の擁立にも強く関わったことが、賀茂社の神官である賀茂経久の『賀茂旧記』に記されているとのこと。義村は1225年の大江広元や政子の死後に泰時が設置した評定衆にも加えられており、将軍九条頼経にも近侍するようになって、泰時・時房に次ぐ地位に置かれていたようです。1239年12月に死去し、翌1240年1月に時房も死ぬと、京の人々は1239年3月に死んだ後鳥羽上皇の祟りではないかと噂したとのこと。でも実際には2人とも爺さんだったんだから別に不思議ではないんだよなあ。なお三浦氏については高橋秀樹氏の研究(『三浦一族の中世』吉川弘文館 など)がくわしいんですが、個人的には義村を少々高く評価しすぎてるように感じますね。
その義村の後を継いだのは後に宝治合戦で滅亡した泰村なんですが、実は泰村は次男でして、義村の長男は朝村という人物です。朝村は『吾妻鏡』への登場も少ないんですが、実朝の右大臣拝賀式が初見。以前も書きましたが父の義村は何らかの理由で参列しておらず、代わりに嫡男の朝村が参列したものと思われます。なお朝村も名前に「朝」が入っていることから実朝の偏諱を受けた可能性があります。承久の乱には父義村と弟泰村が出陣し朝村は出陣していませんが、おそらく義村は合戦でもしものことがあった場合を考えて嫡男の朝村を鎌倉に残したんでしょう。朝村の最終所見は1237年6月とのことで、翌1238年には泰村が評定衆になっているのでおそらくその間に死去したものと思われます。朝村には氏村・朝氏・員村などの息子がいたようですが、嫡流が弟泰村に移ったのは義村が若い氏村らでは当主は務まらないと判断したのかもしれません。氏村らはいずれも叔父の泰村に従い宝治合戦で自害しています。
泰村は烏帽子親である泰時の偏諱を受けてますが、その時点では北条氏の当主は義時で、泰時は嫡男ですらなく庶長子だった可能性が高いことは以前触れました。泰村もまたこの時点では庶子であり、烏帽子親と偏諱は北条氏と三浦氏歴代の密接な関係によるものと思われます。また泰村が泰時の娘を妻としていたことも前記の通りですが、1230年にその妻が死去した時点でも泰村はまだ庶子だったということになります。
>ちょっと面白ニュース
岡山県浅口市の寺院である円珠院に伝わる「人魚のミイラ」をCT検査などで分析した結果、造形物であることがわかったというニュースを読みました。研究者や民俗学の専門家で構成するチームが昨年2月から分析を進めていたそうで、放射性炭素による年代測定では19世紀後半に作られたとみられるとのこと。へえ〜、そんな科学的分析してたんだ。いや、結論は分析なんてしなくても皆もうわかってたと思いますけどね(笑)。でも寺のほうもよく科学的分析を許可したなあ。チームによると人魚のミイラは江戸時代以降に数多く作製されたとみられ、円珠院を含めて少なくとも10数体が確認されているとのこと。
#11304
巨炎 2023/02/05 15:10
本日、「花の生涯」カラー版放送
昨晩の大河ドラマ(正確には「花の生涯」)リメイクドラマ観ました。
中井貴一が主人公達に佐田啓二を引っ張ってこさせる展開は確信犯ですね。
「パパが活躍する時代劇をテレビで観たい」とお前が頼めよ(笑。
後、WOWOWで一昨年公開された河井継之助が主人公の「峠」劇場版が放送されました。 https://touge-movie.com/
#11303
バラージ 2023/02/02 23:47
時の流れに身をまかせ
テレビ情報誌『週刊ザテレビジョン』が休刊というニュース。それに関連して元『テレビブロス』ライター&編集者で現在はネットニュース編集者の中川淳一郎という人へのネット・インタビュー記事がありました。それを読んで知ったんですが、『テレビブロス』も2020年に、『NHKウィークリー ステラ』も2022年3月に休刊してたんですね。そういや最近見かけないと思ってたんだ。『週刊ザテレビジョン』と並ぶもう一方の雄『週刊TVガイド』はまだ出版されてるようですが、こちらもコンビニでは最近見かけないような……。まあ、こういうのも時代の流れなんでしょうね。そういや僕もテレビ情報誌なんてここ10年ほどとんと読んでませんしねえ。
90年代によく買ってた映像ソフト情報誌『ビデオでーた』もその後『ビデオ&DVDでーた』、さらに『DVD&ビデオでーた』と誌名が変わったあたりまでは読んでたけど、その後どうなったのかなと思ったら『DVDでーた』→『DVD&ブルーレイでーた』と誌名が変わり、現在は『DVD&動画配信でーた』になってるらしい。いやあ、時代ですな。
90年前後に読んでた映画情報誌『ロードショー』もとっくの昔(2008年)に廃刊したし、『スクリーン』のほうはまだ出てるのかな?
#11302
徹夜城(時節柄いろいろと忙しい管理人) 2023/01/29 19:14
昨日のブラタモリ
昨日の「ブラタモリ」は栃木県足利市。僕も一度旅したことがある町で、「旅行で南北朝!」コーナーでその旅について書いてもいます。足利氏と言えば鑁阿寺(おお、一発変換)と足利学校が名物ですが、やっぱりそこを回ってましたね。
番組の最初に出たのが「足利尊氏銅像」。これ、建設時に「尊氏は足利には一度も来てない」との主張から反対意見もあったそうですが、結局建てられたもの。足利は戦前には尊氏が逆賊扱いされたこともあってかなり風当たりが強かったようですが(尊氏出身地と考えられてましたしね)、その辺も含めて複雑な感情があるような、と思ったものです。
まぁ一応「一族のルーツの地」には違いないですし、鑁阿寺はかつての足利館、鑁阿寺自体が尊氏の父・貞氏の創建で(建物は当時のままのため国宝に指定)尊氏も一度くらいは来たことがあるんじゃないかなぁ、とは思います。
大河「太平記」ではロケ地にした事情もあり、作中で尊氏が足利にいる描写もありましたが、生まれは鎌倉とされ、少年時代にちょっと行ってた、くらいの扱い。貞氏の葬儀を鑁阿寺であげる展開もありました。
尊氏が実は足利との縁は薄かった、というのは大河ドラマ作るころには通説化してたようですが、それ以前の創作物っではたいてい足利で生まれ育った設定になっていて、「私本太平記」「新太平記」「新田義貞」といった小説でもそうなってました。ひとつにはライバルとなる義貞がすぐ隣の地域にいるので絡む話を作りやすい、ということもあったでしょう。小学館の学習漫画でも尊氏が「領地の下野から出陣」と口にしてましたっけ。
「ブラタモリ」に話を戻すと、足利学校が戦国時代に占いを学ぶ場だったこと、ヨーロッパの地図にも「坂東の大学」と書かれる(確かザビエルが手紙でそう書いているのが原因)ことなど、ここを紹介する際にはたいてい出てくる話をやってましたね。「論語」など儒教教育が行われたってんででかい孔子像も建ってました。今も子供たちに昔風に音読させたりしてたんじゃなかったかな。
大河ドラマロケ地になった名残である「太平記館」というお土産屋もNHKなんだし紹介してもよかったんじゃないかなぁ、ってまだあるのかな。真田広之着用の大鎧が飾ってありましたが。
#11301
バラージ 2023/01/27 21:06
その後の鎌倉史 エデンの東
義時死後の鎌倉史、今回は泰時とその弟たちのその後の話。
泰時と次弟朝時の不仲については以前から触れてますが、特に朝時の側がもともとは庶長子だった異母兄泰時の執権就任と家督継承に強く反発したようです。『吾妻鏡』には義時の四十九日仏事は1224年7月30日に行われたと記されているのに対し、以前書いた通り『湛睿説草』には朝時が施主となった義時の四十九日仏事が2日後の閏7月2日に行われたと記されており、朝時は幕府の公的な四十九日仏事とは別に自らが施主となった四十九日仏事を行っていたことになります。閏7月2日はちょうど伊賀氏事件で三寅を伴って泰時邸に入った政子によって宿老連中が召集され、伊賀一族と一条実雅の処分が決められた時期(1日〜3日)に当たり、そんな中で朝時は自らが主宰する義時の四十九日仏事を行っていることから、泰時の嫡流継承に反抗して自分こそが義時の嫡流だとアピールする狙いがあったのかもしれません。なお『吾妻鏡』は仏事の主体を一貫して記していませんが、葬儀が18日で初七日が19日、二七日が26日でその日に泰時が鎌倉入りしてることから、ここまでは泰時が施主ではあり得ません。後家の伊賀の方とする説と鎌倉殿後見の政子とする説があるということは以前書きました。以後、三七日が7月4日、四七日が11日、五七日が16日、六七日が23日で、四十九日が30日となりますがいずれも施主は不明です。なお1年後の除服(喪明け)も、泰時が1225年5月12日に弟の重時・政村・実義・有時と共に行っているのに対して、朝時のみは前日の11日に単独で行っています。朝時の同母弟の重時や伊賀の方の息子の政村・実義も泰時に従っており、朝時の孤立ぶりがうかがえますね。
また『吾妻鏡』によると、1231年9月27日に朝時邸に賊が入った時に泰時が評定の席を飛び出してすぐに駆け付けたことに朝時が感激し、子孫に至るまで兄泰時流への忠誠を誓い敵対しないという起請文を書いて1通を鶴岡別当坊に預け、もう1通を子孫がそれを忘れぬよう家の文書として保管したという逸話を載せてますが、いかにも泰時顕彰話っぽい。実際には朝時の子孫の名越家は1246年の宮騒動と1272年の二月騒動で泰時の子孫の得宗家に敵対しています。あるいは『吾妻鏡』編纂時点では得宗家に恭順していた名越家の側が作り出した神話なのかもしれませんが。なお、この起請文のエピソードについては朝時がそれ以前は泰時に対して相対的独自性を持っていたことの逆証明だとする見解もあるようです。朝時はその後も1236年9月には評定衆に嫌々ながら加わったものの、『関東評定伝』によるとすぐに辞退しているとのことで、泰時の麾下になりたくないとの思いがあったと思われます(朝時は武人肌で政務には向いてなかったとする推測もある)。
泰時は1242年6月15日に死去してますが、京の公家の平経高の日記『平戸記』には、泰時が5月10日(『鎌倉年代記』裏書では9日)に病状悪化に伴って出家すると朝時も1日遅れて11日に出家したとの情報が京に伝えられ、世間は兄弟が日頃疎遠だったのに大変不審だと驚いていると記されてるとのこと(『吾妻鏡』は同年の記事が欠落)。泰時と朝時の不仲は京でも知れ渡っていたことがわかります。泰時の弟でこの時に出家したのは朝時のみで、『平戸記』によると当時鎌倉が不穏な情勢になっていることが京に伝えられ、また幕府は京と鎌倉の交通を遮断して将軍御所を厳重に警護しているとも伝えられていることから、泰時に反抗的な朝時が野心を警戒されて泰時やその周辺から出家を迫られたとする説もあるようです。泰時は1227年に次男時実を家臣による殺害で、1230年に長男時氏を病で失っており、時氏の長男でわずか18歳の嫡孫経時に家督と執権を継承させなければならず、政権が不安定化していたことも関係していたと思われます。
なお伊賀氏事件直後の1224年9月5日には泰時が兄弟姉妹に遺領分配を行ってますが、事前に内覧した政子が嫡男である泰時の配分が少ないのではないかと疑問を呈したところ、泰時は自分が執権を継承したので所領は弟たちに多く分配すると答えて政子が感涙に及んだと『吾妻鏡』には記されてます。例によっての泰時顕彰記事ですが、実際には政子の強引な裁定で泰時が執権と家督を継ぐことになってしまったため、弟たちに遺領を多く分配しなければ特に朝時が納得しないと考えたんでしょう。政子も朝時が独自に四十九日仏事を行ったのを知っていたはずで、さすがにいくら能天気だったとしても感涙したりはしないはず。
1225年7月11日には政子が死去しますが、それに関連して2020年に新たに発見された藤原定家の日記『明月記』断簡の1225年7月1日条には、泰時が危篤状態の続く政子にあなたが逝去したら私は遁世しますと言ったところ、天下を鎮守することが恩に報いることになるのですと政子が泰時の出家を諌めたという噂を定家が聞いたことが記されているそうです。山本みなみ氏は泰時がどれほど政子を頼りにしていたかがうかがえるとしてますが(『史伝 北条義時』小学館)、あくまで噂に過ぎず事実かどうかは不確定であるということを前提とした上で、むしろもともとは嫡男ではなかったのに政子の暴走で強引に執権にさせられた泰時が自責の念に苦しんでいたと解釈すべきなんではないかと思われます。そう考えると政子の返答はそれを知ってか知らずか、相変わらずずいぶん見当違いのように感じられますね。
さて、思わず家督と執権の座に付いてしまった泰時は、母が系譜もわからないほど身分が低くて外戚の助力が全く期待できない上に、後妻の父の安保実員も必ずしも有力御家人ではない安保氏のしかも庶流に過ぎず、自身を支える勢力が甚だしく弱体だったためもあってか、前記の通り弟たちへの遺領配分を多くして彼らを支持勢力とし政権運営の支えとしようとしたものと思われます。それでも朝時が反抗的だったことで弱気になり、政子が死んだら出家すると弱音を吐いたのかもしれません。次弟朝時は最後まで泰時に反抗的だったようですが、泰時の期待に応えたのが朝時の同母弟である三弟重時と、伊賀の方所生の五弟政村でした。
2人とも兄泰時およびその子孫の得宗家をよく支え、重時は泰時の孫の5代執権時頼の時代に連署となり、重時隠居後は政村が連署となって、さらに得宗時頼と6代執権長時(重時の嫡男)が相次いで死ぬと、時頼の嫡男である若い時宗までのつなぎとして政村が7代執権になりました。日蓮は重時を「いみしかりし人(立派な人物)」と評したとのことで、また政村も温厚な文化人として京の公家からも好意的に見られ、公家の吉田経長は日記『吉続記』に「東方の遺老」と書いて政村の死を惜しんだそうです。重時の子孫は極楽寺流と呼ばれ、中でも執権となった嫡男長時の子孫は赤橋家として得宗家に次ぐ高い家格を持つことになります。政村の子孫は政村流とされ、やはり嫡流は得宗家・赤橋家に次ぐ高い家格だったとのこと。
泰時の残る2人の弟・六弟実義(実泰)と四弟有時についても触れときましょう。実義は伊賀の方の息子で政村の同母弟ですが、伊賀氏事件にどう関係したのか、またはしなかったのかは不明。泰時の家督継承後まもなく泰時の偏倚を受けて実泰と改名したと思われます。実泰も泰時に重用されますが、1234年に27歳の若さで出家し、わずか11歳の嫡男実時が後を継いでいます。『吾妻鏡』にはくわしい事情は書かれていませんが、『明月記』によると実泰は誤って腹を突き切って度々気絶し狂気の自害かと噂されたとのこと。誤って切腹するわけはないので、精神的におかしくなったか何かで自殺未遂したんでしょう。1263年に56歳で死去してるとのことなので、やはり肉体的な病気ではなく精神的な問題だったと思われます。後を継いだ実時は金沢文庫の創設者として著名で子孫は金沢流と呼ばれ、やはり得宗家・赤橋家・政村流に次ぐ家格とされたようです。
有時は4男ですが母が妾(側室)だったためと、後室腹の5男政村・6男実泰の元服が異様に早かったことからおそらく元服が後回しとされたと思われ、通称も政村・実泰の四郎・五郎に対して有時は六郎です。1241年に評定衆になるも同年のうちに辞任を申請しており、その時は却下されたものの結局泰時死後の1243年には病を理由に44歳で引退しています。ところが死去は1270年の71歳の時で、どうもこのあたりの事情は不透明。子孫は伊具流と呼ばれましたが、出自の低さからか有力な人物は出ていません。
Sat Nov 30 15:58:01 2024
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