スポーツ本の広場
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このページは兄が歴史コーナーで開いている「歴史本の広場」の盗作です。背景もそっちのをコピーして使用しています。私は読書量は兄ほど多くはありませんが、1回とりつかれると止められなくなる性質を持っています。
スポーツの明るい部分、暗い部分を描いた様々な本について、極簡単な書評をまとめたいと考えています。ただ、ジャンルはノンフィクションに限定します。スポーツマンガなどは一切取り扱いません。
「スポーツ伝説 10 甲子園の星たち 高校野球ヒーロー列伝」
発行1999年 ベースボールマガジン社
読んで字の如く、甲子園で活躍した選手達の話を書いたMOOKです。定価762円(税抜き)。
戦後の話が中心ですが、決勝でノーヒットノーランを記録し、太平洋戦争で戦死された嶋清一さんの話なども載っていて、高校野球も平和だからやれるんだな、とあらためて思い知らされます。
1章では「怪物と呼ばれた男達」と題して、松坂や江川、松井などの事が、2章では「きらめきのアイドル」として、原や坂本、荒木の話が紹介されています。途中で、漫画家、水島新司氏の、江川との思い出などを描いたコラムがあって、興味深いものがありました。3章では56人の「好投手」、4章では34人の「強打者」が紹介されていますが、去年の明徳のエース、寺本君が「打者」の方に載っていたのが面白い取り上げかたと言えました。5章では、強かったチームの話が載ってましたが、私の印象に残っているのはやはり1987年のPLでしょうね。選抜を見ただけでも負ける気がしない連中でした。立浪、片岡、野村、等々プロで大活躍してる選手が揃ってましたからね。
他に面白かった記事は「出身高校別プロ野球勢力図」。PLはさすが、現役だけで21人もいるとは、恐れ入りました。
「好奇心ブック43 熱中!甲子園 」
発行1999年 双葉社
こちらもMOOK。発行は双葉社ですが、編集は「全通企画」というプロダクションが行ったそうです。地方大会の開始前に発売されたので、本来その時紹介すべきでしたが、遅くなりました。定価933円(税抜き)。
甲子園や、地方大会の名勝負を、紹介している辺りは普通ですが、面白かったのはそんな中に混じったインタビューやコラム。PL学園元監督、中村順二氏や、都立城東高校、有馬信夫監督などの話(この後甲子園に行くと思って取材したかどうかは知りませんが)は、様々な立場での、指導者のことがよくわかります。
コラムでは、まず元記者、石川優至氏がいわゆる野球留学について、「タレントで人気があるから、と言う理由で早稲田に入ってる人もいるくらいだから、野球だって立派な受験科目だ。もともと練習環境など、不公平な面の多い高校野球だし、第一義務教育でない高校なのだから、どういう進学をしようが本人の自由なのだから、妙な正義感で高校野球を歪めるべきではない」という擁護論を展開しています。
コピーライター、清藤耕一氏は、「坊主頭でないと甲子園へ行けない?」と言う文を書き、そのなかで、丸刈りがなぜ行われているか、という課題から、野球を教育の一環として捉える、指導者、文部省の思惑と言ったものについて言及しています。つまり、「余暇を楽しむ為にあるはずのスポーツが、日本では教育の一環である『体育』に組み込まれ、苦しむものになってしまっている。」ということです。そして最近そうした苦しさが緩和されつつある傾向を評価されています。
このMOOKの特徴は、高校野球のすばらしさだけでなく、ある種の「暗部」にも突っ込んだことにあるでしょう。これからの高校野球、そこから見えてくる日本全体のあり方について、改めて考えさせられます。
「長野オリンピック騒動記」
相川俊英 著
発行1998年 草思社
著者の相川さんという人は外国人問題や地方行政などを専門に扱っている、フリージャーナリストです。この本も外国人関連も多少出てきますが、地方行政ネタの話で、厳密には「スポーツ本」とは言え無いかもしれません。題名を見れば分かりますが、長野オリンピックの招致と準備に関連したドタバタを描いた本であります。定価1600円(税抜き)
相川氏の主張を一言で言えば長野オリンピックとは、「地域振興を図る長野県とゼネコン、西武グループ、それに地元の強大なマスコミ、信濃毎日新聞が作り上げた巨大な陰謀であった」と言うことになるのだと思います。とにかくやると決まったら地域の根回しが行われ、疑問者や反対者はあの手この手で押しつぶす、密室で決められた事がいつの間にか「県民の総意」としてまかり通ってしまったと言います。そういったことを相川氏は元県議の今井寿一郎氏や反対運動を指導した江沢正雄、紀子夫妻などへの取材を通して明らかにしています。
地元の根回しに気を取られて計画はおざなりにされていたと言います。開催計画書は提出期限2ヶ月前になってもサッパリできておらず、突貫作業。開催の決め手になった「選手等の費用丸抱え」という提案も財政の裏付けは全くなく、ずるずる内容が後退していったそうな。費用はドカドカ膨らみ地方自治体は借金だらけ。ツケは県民の税金に回さざるを得ないのだとか。
IOC委員は金を取りまくり招致する側は接待攻勢で大わらわ。著者はあとがきで「長野オリンピックは私達日本人に、肥大化、金権化し、マーケティング最優先というオリンピックの実態を明らかにした」と述べています。
この本で相川氏は官主導でお上意識が根強く、一つのことに右へ倣えとなる日本社会の実態、いざ実行したときの「官」の無能さ、腐敗したIOCの実態など、現代日本の欠陥と世界スポーツ界全体の病理を克明に描き出しています。もっともそれでもいざやると盛り上がってしまうのがスポーツの不思議な所なんですよねえ…。(12月28日 K・E・N)
「ドキュメント 横浜VSPL学園」
アサヒグラフ特別取材班 著
発行1998年 朝日新聞社
1998年8月20日。横浜とPL、延長17回に及ぶ死闘はNHKスペシャルになり、ついには1冊の本にまでなってしまいました。定価1300円(税抜き)私は延長になる辺りから観ていたんですが、11回、16回と1点づつを取り合い、「いつまでやってるんだ」と思いました。横浜の春夏連覇を語る上で抜かすことのできない試合です。
NHKスペシャルでで見たものとそう変わりはないんですが、興味深かったのは横浜高校・小倉部長を紹介したエピソードでしょうか。高校野球の指導をするために、あちこちで水道関係の仕事をやりながら、コーチや監督をやり、監督ができないため、迷いながらも横浜に行ったのだとか、徹底したデータ主義でチームを引っ張ってきたといいます。
もう一人挙げるならPLの上重投手でしょう。ひたすら明るく、試合後も笑っていたとか、17回にエラーをした選手があやまっていると「ホームラン打たれたのはオレで、お前は関係ない」と言って慰め、あとがきを書いた人も、「なんて優しい言葉でしょう」と讃えています。
この本を見れば分かりますが、甲子園はまさに情報戦。舞台裏で様々な駆け引きが行われています。(PLの平石がキャッチャーの構えで球種を読んでいたのは余りにも有名ですが)そんな事を考えながら試合を見ると、違った意味で興味が湧いてきます。
「ボクの落第野球人生」
小林 至 著
発行1994年 日本放送出版協会
「小林至」と言う著者名を見てピンと来る人は今どのくらい、いるでしょうねえ。東京大学からロッテに入って話題になり、わずか2年でクビになったピッチャーなんですが…。これはその小林氏が自分の野球人生を振り返って「東京スポーツ」に連載した手記をNHK出版が本にした物です。定価1000円(税込み)。
全部で3部構成、プロローグでロッテを解雇され野球人生が終わったときの話が書かれ、最初に高校の野球部でプレーしたエピソードと、浪人して東大を目指した話が描かれています。とにかく野球が好きで、「設備が良く、レギュラーになって野球が出来るから」という無茶な理由で国立大学を目指したんだそうな。勉強嫌いで現役の時はボロボロ。良い講師に付くために当時の共通一次の成績を水増しして、文字通りハッタリで河合塾の東大コースにはいる、(そこまでやるか?と正直思いました)それから早く野球をやるために漫画もプロ野球にも目をくれず勉強勉強…。東大に受かったときは勉強しなくて済むことにホッとしたそうな(笑)。
次にエースとして大活躍(?)した東大野球部時代。チームは4年間1勝しか出来ず70連敗という偉大な記録をうち立てた時期でしたが、他の部員が次々辞めていく中で必死で続け、(その為留年したそうですが)エースとして神宮のマウンドに立ったそのころは著者の野球人生の中で最も輝いていた時期だったと言います。老朽化してネズミがウヨウヨする寮や、やたらと浪人しまくった人などユニークな部員達の話など笑っちゃう話しも多いのですが、設備も良く、上下間に差別などもなく、ここには良い思い出が多いんだそうです。
そして親の猛反対を押し切ってのプロ入り。(ロッテは話題性で取った面が強く、指名の挨拶でも「取りたくて取ったんじゃない」とハッキリ言われたそうな)でもそこで著者はプロ野球という世界の暗部を目の当たりにしたと言います。まずひたすら根性論でろくな知識もないコーチ達。なんでも練習でも怪我の危険があるにもかかわらずスパイクを履かされ、筋力トレーニングをすると、「野球のボールは145グラム。だから重い物を持ち上げられても無意味だ」と大まじめに注意されたそうな。さらにはそうした無能な監督、コーチを現役時代の実績だけで採用し、成績不振なら彼らのクビだけすげ替えて、責任をとろうともしない経営者達についてもぼろくそに書いています。著者自身は元々実力がありませんでしたが、有望な選手が実力を発揮できないまま、引退に追い込まれるのを見て彼らが可哀想だと感じたそうです。
著者は2年間のプロ生活で自分の限界を思い知ったと言います。そして解雇通告。引退後は野球が好きだからこそ、それを売名に使ったと思われたくない、として解説者などの誘いを断って、野球と全く関係ない第二の人生を歩みだしてるんだそうです。
この本を読んで感じたのは、野球界、特にプロ野球という世界がいかに世間の常識から外れた世界であるか、と言う点に尽きると思います。著者はなまじエリートでないだけに、一般的な常識で物を見られたのだといえます。同時に本当に野球が好きだった著者のスポーツに対するひたむきさにスーパープレーヤーの活躍とまた違った感動を覚えました。(10月12日 K・E・N)
「スポーツ伝説@ 大逆転 血湧き肉踊る、33の逆転劇!」
発行1998年 ベースボールマガジン社
こちらはベースボールマガジン社が最近発売したMOOKであります。定価762円(税抜き)。
読んで字の如くスポーツ界の「大逆転」を扱った内容です。プロ野球を扱った辺りは巨人の逆転勝ちが多く描かれ、アンチ巨人、アンチヴェルディの私は見出しを見ただけで腹が立ってくるのですが、他は今年の甲子園、横浜が6点差を覆した明徳義塾戦、あるいは神戸製鋼が終了寸前に逆転した91年の社会人ラグビー決勝(テレビで見てましたが、漫画みたい、と思いました)、ルイスとパウエルがしのぎを削った91年世界陸上の走り高跳び…。などなど筋書きがないのに有るときよりも劇的なスポーツの醍醐味を描き出してくれます。感想は余りないんですが、この本の内容自体がスーパースターが演出するスポーツの魅力そのものだと言い切ってしまいましょう!(10月12日 K・E・N)
「箱根駅伝を10倍面白く見る本」
日本テレビ駅伝プロジェクトチーム 著
講談社インターナショナル 編
発行1994年 講談社
大正9年以来、1998年現在78年に渡って続く東京箱根駅伝。毎年テレビ中継する日本テレビが、テレビ放送する上でのエピソードなどを中心にその歴史を描いています。(定価1300円)
T章とU章で箱根駅伝の概略紹介、V、W章で歴史やエピソード、X、Y章でテレビ中継にまつわるエピソードが紹介されています。U章のコースとその戦術ガイドもなかなかですが、何といってもW章のエピソードが見物でしょう。60回記念の増枠にかけて東大が出場したときの話、就職した後箱根への夢を断ち難く夜間部に入って出場した人の話など、「箱根」にかけた人々のドラマが熱く語られています。踏切に阻まれて優勝を逃したチームや棄権したチームの話なども何か心に残るものがあります。
前回は神奈川大の圧勝でしたが次はどうなるか、そろそろ予選会のシーズンですが、どこが出るのか。去年もタッチの差で出場を逃したチームがいましたけどね。(8月11日 K・E・N)
「現代スポーツ批判 ースポーツ報道最前線からのレポート」
大野 晃 著
発行1996年 大修館書店
こちらは毎日新聞のスポーツ記者である著者が、スポーツ界とスポーツマスコミ界の「暗部」をえぐり出した力作。元は月刊誌「体育科教育」(大修館書店)の連載記事で、加筆、修正して単行本にしたものです。定価は1648円(税込み)なんですが、私は去年専門学校の講義で著者の講演を聴いて感銘を受け、その場でこの本が値引き販売されたため(1500円)それッてんで購入した次第です。
とにかくメディアに対する批判が凄い。大体私が聞いた講演の第一声が「スポーツを知るならメディアを見るな」でしたからね。スポーツ界の勝利至上主義蔓延、プロ野球界の巨人偏重やオリンピックのプロ化といったスポーツ界の商業主義化を批判しつつ、同様の状態に陥ってスポーツ界への健全な批判精神を欠くマスコミを批判した本でもあるんですね。
著者は記者になった当初はスポーツ界をフェアな明るい世界と期待していたといいます。ところがなった1978年にいきなり「江川事件」が起こり、強烈なショックを受けました。そしてスポーツの現場がアンフェアで生臭いものであることを知ったと言います。そして「フェアを前提とするスポーツの世界で、政治的、経済的、社会的アンフェアが大手を振る日本の現実を直視することから(記者生活が)出発したことは、真実を追究するジャーナリストとして、幸運だったと思っている」(あとがきより引用)と述べています。
同時に自分がえらい国になったように錯覚し、アジアを軽視する日本の政界とスポーツ界や、政治から自立できないスポーツ界の体質とそれを批判できずに流行や商業主義に流されるマスコミの体質を、モスクワオリンピックのボイコットや名古屋オリンピックの招致失敗などを例に挙げています。そういえば最近もW杯が韓国との共催に決まったとき、「負けた」とか「国辱だから返上しろ」とか寝ぼけたこといってる人達がいましたけどね。
この本を読んで私が感じたのは、目先の利益のみを追求したときの人間の醜さであり、少しの成功にのぼせ上がり、理性的な思考を停止してしまう日本人の体質でした。そして私は何よりもスポーツ報道という現場で働く人から、こういった話を聞けたことに驚くと共に、救いを感じました。(8月11日 K・E・N)