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11月21日
昨日の訂正などに関して二題。

一つめ。とりあえず、ラファティ主催の松崎さんから、EQMM'71/6の目次イメージが当該サイトにあることを教えていただく。これは完全にこちらの確認ミス。ご指摘ありがとうございました。
これで初出誌については確認できたので、邦訳分の原題としては完全解決といえる。次の課題は作品集収録時のタイトル変更があるかどうかだけど、これはとりあえず、ラファティの調査を待とう。< それは手抜きではないのか?

二つめ。京フェスの思い出から発掘したネタについて、古沢嘉通さんから情報を戴いた。「現実創造」のある登場人物の名前が、中上訳と中村訳で異なっている点についてだが、現時点で最新のテキストと思われるAn Ornament to his Profession (NESFA Press,1998)所収の版では中村訳で用いられている名が使われているとか。9日の同色フォント部で書いたとおり、翻訳の段階で中上訳のように改変することは想定し難いので、ほぼ間違いなく、翻訳に用いたテキストのバージョン違いが原因なのだろう。バージョン違いという可能性に思い至らず不用意な推測を書いたことで不満を覚えた方がいらっしゃれば心からお詫びする。作者の改変だとすれば、いつの時点で改変がなされたのか、なぜ改変したのかなど、新たな疑問は発生するが、とりあえず今は置くことにしよう。
古沢さん、ありがとうございました。

恩田陸『月の裏側』(幻冬舎)をいまさら読了。過去読んだ恩田陸作品(『六番目の小夜子』『光の帝国』『三月は深き紅の淵を』『ロミオとロミオは永遠に』)の中ではもっともよくまとまっている。ただ、まとまりすぎた印象があるのも確か。上記三作が破綻を抱えながらも持っていた「魔法の一瞬」に欠けるような気がする(『ロミロミ』にもあるといえばあるから上記四作でもいいか)。印象深いシーンは少なくないのだが、印象深いだけに終わっている、というのは過大な期待を抱きすぎていたのか。
怪奇物としての出来は十分に及第点。「かれら」が次第に正体を明かしていく一連のシーンは、さすがという他はない。静謐な水郷の街という設定を最大限利用し、静かな恐怖を描き出している。
SFとしてはやや論理性に欠ける憾みがあるが、まあ許容範囲内。年度ベストはともかく、個人の5位、総合の7-10位なら入っても不思議は無い佳作。

そういやデュアルの新刊を二冊買った。中井紀夫は一部で話題になっているようだが、東野司は目にしなかったのでとりあえず言及しておこう。なんと、あの<ミルキーピア>の後継シリーズで、秀人や鳴琳もゲスト出演するらしいぞ(未読)。

11月22日
「現実創造」のバージョン違いの件で別の方からさらに情報を戴いた。Berkley Books版(1969年刊) The Rose所収の "The New Reality"も、中村訳同様Adamとなっているとのこと。
Internet Speculative Fiction DataBase検索結果Index to Science Fiction Anthologies and Collections著者別作品リスト、ハーネスの項、およびThe Locus Index to Science Fiction (1984-1998)同項から"The New Reality"の収録書をまとめると、
  1. Thrilling Wonder Stories, December 1950(初出誌), 1950
  2. Best SF Stories 1951, Everett F. Bleiler編, 1951
  3. The Rose, Compact版, pb, 1966
  4. The Rose, Sidgwick版, hc, 1966
  5. The Shape of Things, Damon Knight編, 1967
  6. The Rose, Berkley版, pb, 1969
  7. As Tomorrow Becomes Today, Charles W. Sullivan編, 1974
  8. Alpha 8, Robert Silverberg編, 1977
  9. The Last Man on Earth, Isaac Asimov他編, 1982
  10. The Great SF Stories 12 (1950), Isaac Asimov他編, 1984
  11. The Golden Years of SF 6, Isaac Asimov他編, 1988
  12. An Ornament to His Profession, NESFA Press, 1998
となる。最初期の単行本版と(おそらく)最新の版の双方がAdam表記であることを考えると、Adam表記の方が作者の意図に近いと判断すべきか。こうなると気になってくるのは中上訳が準拠した版(初出誌版か?)でアドリアンとなっていたのは何故か。作者の当初の判断なのか、編集の裁量か。これを調べるとなると、どこから手をつけていいんだかわからないなあ。

なお、原典としたテキストの差による翻訳の違いという例は他にもあるようだ。考えてみれば当たり前の話なのにそこに考えが至らなかったのは、翻訳作品を原書と結び付けず、それ自体完結するものとして読んできた所為だろう。いまさら、そんなことに気づくなんて情けない。ああ、でもそうなると二つの翻訳の優劣を論じるためには、それぞれが原典として用いたテキストも考慮に入れる必要があるのか。難しい。

唐沢なをき『カスミ伝△』1巻(講談社ZKC)読了。唐沢なをきはやはり唐沢なをきだった。直接彩色の表紙と、孔空きの表紙カバーを組み合せた一発ネタから始まり、ありもの素材の際限無い使用、連想法の練習のようなアイデアの羅列、これでもかこれでもかという引用の嵐、身も蓋もないパロディ。実験マンガという外に表現の仕様の無いマンガを、少年マンガ誌で連載し、それをギャグマンガとして成立させる技量は絶賛に値する。
ただ、実験という性質上、ネタの優劣の差が激しいのは仕方の無いところ。つまらない回は本当につまらない。これが連載できているのは、読者の唐沢にたいする信頼故だろう。
この巻も当然優劣の差が激しい。中では、漫画は裏表のある紙に印刷されているという事実を突き詰めた第10話「納涼百物語」、忍者漫画のパロディを忍者漫画でやってしまうという第14話「追悼 杉浦茂先生」が優れていた。

植芝理一『ディスコミュニケーション 精霊編』3巻(アフタヌーンKC)も読了。3巻に渡る精霊編の最終巻であり、計17巻にも及ぶ戸川と松笛の物語の最終巻でもある。偉大なるトリックスター松笛が、クールなヒロイン塔子に主人公の座を譲るための物語だからか最後まで松笛は活躍しなかった。連載開始当初からの松笛ファンとしては残念だが、これも時の流れというものだろう。もちろん、その反動で三島姉妹は大活躍。特に前2巻、要所でしか登場しなかった塔子は、なにかがふっきれたかのような大暴れを見せる。君はもう少し黙っていた方がかっこいいのに。
今回のエピソード、曖昧な点を残すことなくきれいに解決したのはいいが、ちょっと饒舌にすぎるという印象を受けた。エンターテインメントを目指す副作用かもしれないがもう少しスマートに見せられなかったのか。前巻までに大きな隙が無かっただけにこの点は残念。
ともあれ、植芝に「無条件に面白い物語」が描けることはわかった。この力を、次作『夢使い』でどこまで見せてくれるか、楽しみだ。

近所のレンタルビデオ屋に寄る。美少女アニメの棚の中に「あずきちゃん」があったのは、どこまで深読みしてよいのだろう。

11月23日
大熊君達と「チャーリーズエンジェル」を見にいく。傑作。見終わった時点で全くストーリーが心に残らず、面白かったという印象だけが残っているというのは娯楽映画の王道というべきではないか。こんなに金をかけてこんなに安い映画を作れるなんて、ドリュー・バリモアおそるべし。かけらも貶すところのない、諸手を挙げて賞賛すべき映画なので、未見の方は是非。しかし、仕事を断る勇気も持てよ、キャメロン・ディアス。

11月24日
菅浩江『永遠の森 博物館惑星』(早川書房)読了。SFMで読んでいたときには、「丁寧に書かれているが地味」程度の印象しかなかったのだが、単行本で改めて読んでみて驚いた。こんなに緊密に構成されていたは。小惑星1個まるごと博物館という豪快な博物館を舞台に、司政官学芸員の田代が総務畑の中間管理職の悲哀を味わう話(ちょっと違う)。細かく張り巡らされた伏線がちゃんと後の作品で生きてくる。とても6年にもわたる長期の連作とは思えない凝り方だ。特に、画面に全く登場しないのに抜群の存在感を見せる田代の妻、美和子の使い方は秀逸。ベストを争うには線が細いが、ランキング上位は当然であろう佳作。

というあたりで時間切れになったので、SFマガジン読者賞の葉書を投函する。
海外掲載作のベストはもちろんイーガン「祈りの海」(1月)。同じイーガンの「闇の中へ」(5月)も良かったが、完成度で劣るのは否めない。他では、エリスン「プリティ・マギー・マネーアイズ」、ディッシュ「憂鬱の女神のもとに来たれ」(ともに2月)、ショーン・ウィリアムズ「バーナス鉱山全景図」(4月)、スラデック「月の消失に関する説明」(8月)あたりが優れていた/変だった。
国内掲載作のベストは難しいところ。散々迷った末に深堀骨「愛の陥穽」としたが、それもどうかという迷いはある。連載が終了していれば、川又千秋『火星帝国』、牧野修『傀儡后』のどちらかなのだが。
海外書籍ベスト5は、
  1. シモンズ『エンディミオンの覚醒』
  2. 中村融 編『影が行く』
  3. ダン&ドゾワ編『幻想の犬たち』
  4. マコーマック『隠し部屋を査察して』
  5. サラントニオ編<999>
重要な作品にいくつか読み落としがあるので苦し紛れの選択になっている。1位は、格の面でこれしかなかった。正直、『覚醒』がそこまで面白かったかと問われると返答に詰まるが、<ハイペリオン四部作>全体への票だと思えば自分を騙すことは可能な範囲。二位以下は、アンソロジーと作品集のみ。「本当に?」と真顔で聞かれると返答に詰まる本もある。
国内書籍ベスト5は、
  1. 池上永一『レキオス』
  2. 石黒達昌『人喰い病』
  3. 牧野修『忌まわしい匣』
  4. 菅浩江『永遠の森 博物館惑星』
  5. 恩田陸『月の裏側』
国内はほとんど読めていないので穴だらけである。すぐに思いつくだけでも、上遠野『ぼくらは虚空に夜を視る』、牧野『病の世紀』、森『西城秀樹のおかげです』、秋山『猫の地球儀』と、話題の作品が抜けまくり。それでも、上のベストはそれらしく仕上がっている様に見える。今年の国内SFがいかに豊作であったかという証明だな。実は4位だけが抜けた状態で、『永遠の森』を読みはじめたので、こうなっているが、3位と4位は入れ替えるべきかもしれない。

もう一つベストアンケートに答える必要があるのだが、そちらは棄権する予定。一読者としてならともかく、名前が出るかもしれないベストに投票するには、海外で10作、国内で20作ほど読み足らない。せっかくのチャンスだったのだが仕方があるまい。

11月25日
むちゃくちゃ久しぶりに中野君と会い、「太平記」をプレイ。僕は公家方を担当。前回は不注意で武家方に敗北したので、雪辱に燃えていたのである。結果は、公家方の勝利。序盤こそ劣勢に立たされたものの、イニシアの賽の目と調略の賽の目に助けられ、楠正成を敵中に孤立させながら、鎌倉、太宰府を落とした時点でゲーム終了となった。軽く、派手で、良いゲームだが、まだまだこれからというところで勝利条件が達成されてしまうのは珠に傷。もう少し勝利条件を厳しくした方が良さそう。

柏の本屋を渡り歩いてSFMの最新号を探す。ミステリマガジンは売っているのにSFMは無かった。とりあえず明日探しに行くか。

と思ったら京都でも同様の現象が発生している模様。思わず大熊君に電話で確認してみたら、横浜もそうらしい。さらに昨日時点で秋葉原にも入っていなかったのだとか。これは、月曜まで手に入らないということか、と思ったら船橋には入っているらしいのだった。平日にSFMを手に入れるのは至難だからなあ。状況次第では船橋まで買出しか?

船橋も店頭に並んでいるわけではないらしい。残念。

11月26日
夕方過ぎに神保町に出てフライング発売のSFMを購入。なんか卑怯なことをした気もするが、この機会を逃すと水曜、下手すると来週の土曜まで入手の機会が無く作業スケジュール的に問題があるから仕方が無いということにしておこう。

探し回っていた林譲治『侵略者の平和』の1巻はなんとか入手。しかし、森奈津子『西城秀樹のおかげです』は見つからず。そろそろ書影と版形を確認しようか。

秋山瑞人『猫の地球儀』(電撃文庫)読了。神保町からの帰りの電車内で、不覚にも涙ぐんでしまったり。見事な泣かせだね。
「ガリレオははた迷惑」というテーマをしっかりと描き、緊迫感のあるアクションシーンを描き切り、キャラの各々にちゃんと感情移入させた上で、容赦無く泣かせる。登場人物への愛を忘れず、登場人物への愛に溺れない完璧な距離の取り方だ。また、主人公を猫にしたあたりも絶妙。人間ではテーマが表に出過ぎる、他の動物では違和感が前に出る、ロボットでは感情移入に限界がある、この話なら主人公は猫しかいない。他にも、猫たちに追加された特殊能力や、ロボットの操縦法など、細かい選択が本当に巧い。もっと早くに読んでおくんだった。とりあえず『月の裏側』に換えて暫定5位決定。
ああ、とにかく、もう、ほんとに、登場人物たちが素晴らしすぎて、まだ感動が覚めやらない。日光・月光も良かったが、なんといっても震電だ。もう一挙手一投足すべてが可愛くてしかたがない。最後に目をぴかぴかさせるところなんて、あまりにも健気で涙が止まらなかったよ。いいぞ、震電。

11月27日
ふと携帯可能な電話器(携帯電話とPHSの総称ってなんだろう)を買おうと思い立ち、残業を予定より早めに切り上げ帰る。一時間半かけて柏にたどり着き、午後10時までやってるはずの店で「ケータイいっこください」と(まあ精神としては概ねこんな意味)言ってみたところ、「契約は7時半までです」と言われてしまった。いいんだ。どうせ僕なんて。僕にはモダンでハイカラなケータイなんてキカイは向いてないんだ。

11月28日
上遠野浩平『ぼくらは虚空に夜を視る』(徳間デュアル文庫)読了。なにはともあれ『天の光はすべて星』から引用したという事実だけで、絶賛されてしかるべきでしょう、ってのはさすがに失礼だな(以下、多分ネタバラシ含む)。

至極純粋に面白い。肉感の希薄な"現実世界"、冷たく冴えた宇宙戦、妙に整然として無機質な印象を与える世界設定、全てにわたって透明なプラスチックで遮られたような心地よい隔絶感を与えてくれる。そして、その隔絶間を超えた先に広がる星々への憧憬。乾いた、冷たい印象を与える話だけに、ラストの星々への想いが胸に響く。良い作品だと思う。

ただ例えばベストに推すかというと難しいところ。もうひとつ破天荒なら、もうひとつ稚気に溢れていたら、もうひとつ知的なら、もうひとつ気取っていたら、そんな気にもなったかもしれないが。このまとまりの良さは、ちょっと頑張って宣伝する気を失わせる。「人に聞かれたら「ああ。面白かったよ」と答える」、そんな感じ。

蛇足ながらもう一つ。全体に、「男の子文化小説」という印象がある。SFアニメの雰囲気が強いというか。女の子方面の評価はどんなもんなんだろう。
# 「活字倶楽部」でもチェックすればいいのか。

さらに蛇足。完全にネタバラシなんで同色フォント。悪意を持てば「クラスからは浮いている男の子が、実は戦闘の天才で、さまざまなタイプの女性に好意を持たれながら宇宙で戦闘を繰り返した果てに世界を救う話」と読むこともできる。完璧なまでに願望充足小説以外の何物でもないね。

11月29日
正真正銘の身辺雑記。

なんだか細々と忙しい(主に通勤時間)日々を送っているので床屋に行く暇がない。父譲りの髪の多さと、母譲りの髪の太さのおかげで、少し伸びてくると本当に鬱陶しくて仕方が無い。今は、ほっとくと左目が半分髪に埋まる状態になっている。気になる。ああ、床屋に行きたい。

でも、実は少しだけ、「島村ジョーみたい」と思っているというのは秘密だ。
# 客観的には、ただの陰険おたく顔になっているだけなので注意。

なんとなく気が大きくなっていたので本を大量に買った。たかだか文庫7冊、ソフトカバー1冊、マンガ1冊、雑誌2冊で1万円とは、いやな御時勢である。なんと1冊平均909円も……、そんなもんか。

最近栄養バランスが偏っている印象があったので、コンビニで惣菜を買って食べる。自炊が続くと、肉と油と塩(*)しか摂らなくなるんでどうもね。

*:ベーコンとバターと醤油を米かスパゲティと組み合せるのが、僕の調理という概念のすべてなのだ。

11月30日
小さな暇を見つけては、先日手に入れた玩具をいじって遊ぶ。くだらない機能が色々と隠されていて楽しい。自爆スイッチはどこだ自爆スイッチは。

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