過去の雑記 98年8月

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8月11日
夜おきて本を読み、夜寝る。夜おきて飯を食い、しばらく本を読んだ後、夜寝る。人間的な生活とはこういう事を言うのだろう。


8月12日
昼頃、田中克(11)が家に来て、モン・コレ。田中は投下予算が一桁少ないので、デックのレアリティが非常に低い。実に健全なデックである。
二つ持ってきたうちの一つは、水系ユニットでまとめた高速進軍デック。「遠く遠く」「テレポート」を軸に相手状態が整わないうちに横付けし殴り込むというコンセプトはいいのだが、個々の戦闘レベルで勝ちきれないのが弱点か。スペル・アイテムが防御主体で攻撃力が足りないのがネック。戦略レベルでは合格だが、戦術レベルに難がある。
もう一つは土風のスペルデック。「ストーンブラスト」「クラック」「スリープ」などスペルの入れ方はなかなかのもんだけど、いかんせん決定力に欠ける。
どちらもそれなりに練ってはあるものの、超レアが無造作に出てくる僕の成り金デックに勝てるほどではないようだ。前者のデックなど、相手がスペル対策皆無、儀式対策皆無の相性のいいデックであったにもかかわらず、あと一歩で攻めきれなかった。戦略眼はそれなりなので、プレイ経験を積んで戦術を磨くことと、超レアをいかに実用に持っていくかが今後の課題ですね。

ゲーム終了後部室へ移動。今日も今日とて人がいる。いつ見ても神崎(13)と野呂(17)はいる気がすんだけどいつ帰ってるんだろう。
部室で、「あかほりさとるを全部読むのと宇宙大作戦を全部読むのはどっちがマシか」とか「C・J・チェリイを全部読むのとあかほりさとるを全部読むのはどっちがマシか」などという有意義な会話をわかす。しかし、最近の若者はあかほりさとる脚本を平気で見てられるんすね。ほとんど異次元の世界だなあ。

午後8時の新幹線で東京へ向かう。帰りの車中で「MILK SOFT 144号」と『怪獣文学大全』を読む。

「MILK SOFT」は前号の中尾(14)にもましてやる気(ノウハウ?)のない編集がポイント。内容は例によってレビューとイベントレポートしかないとはいえ、名大祭レポートの内容自体はそれなりなので文章の再チェックなども含めた編集をちゃんとやれば、少しは読ませる事のできるものになりそうなのに、あがってきた原稿をそのまま掲載しているだけなので、ただの読みづらい記事に終っている。
これは、編集が執筆者よりも立場が弱いという歪んだ構造が原因で、少なくとも8年以上にわたる問題なんだけどいっこうに改善されていないのだな。ここをなんとかしないと「MILK SOFT」の再生は難しいねえ。

『怪獣文学大全』はいまひとつの出来。福島正実の「マタンゴ」や、井上雅彦の「レッドキングの復讐」などはよくできているし、エッセイの類はそれなりに面白いんだけど、メインを張るべき「ガブラ」「マグラ!」などの怪獣小説がどうしようもないできなんで、全体としての評価が落ちてしまっている。柱になるちゃんとした怪獣小説が欲しかったところだ。
ただ、小松左京「日本漂流」は傑作。中身については、さすが小松左京という他はない。必読。


8月13日
なんだか一日中本を読んで過ごす。
『トンデモ一行知識の世界』は最近の唐沢兄では久々のヒット。相変わらず使いまわしのネタも非常に多いが、全体の数が多いのであまり気にならない。ただ、たまに賢しらにものをいうのは何とかならないか。冷笑家に説教されても腹が立つだけだって。

異形コレクション3巻『変身』はまあまあ。飛びぬけた傑作も見当たらないが、箸にも棒にもかからない愚作も見当たらない。中では斎藤肇の「異なる形」の着眼点が良かった。短編としての出来にはやや疑問符がつくが、テーマの消化の仕方はなかなかのもの。まあ、偶然他と重ならなかったからだけどね。


8月14日
今日も一日本を読む。
文学の冒険『ロマン』を読了。典型的なロシア文学をどうやってスプラッタに持っていくのかと思っていたら、まさかこれかい!という強引な展開。筒井かお前は。
いや、筒井でもこの方法はとれないに違いない。10数ページとかじゃなくて百数十ページにわたってああだもんなあ。とりあえず、ぶっ飛ぶことは間違い無いので、一読をお勧めする。驚くから。
ああ、この作家の他の本が無性に読みたいぞ。<海外文学セレクション>あたりで『ダッハウの一月』出ないかな。

さらに『巡礼たちが消えていく』も読了。「修道院の怪奇な事件」という帯に惹かれて読み始め、前半は確かにそのとおりだったのに、後半になると物語が神学の中に消えていってなんだかよくわからなくなってしまった。『修道士マロウの地図』といい、どうも修道院ものとは相性が悪いな。

できごころで買ってしまった『この文庫が好き!』のSF部門をチェック。100冊を選ぶに当って「この20年に日本で出版された」という限定はいいんだけど、それは「いまこの瞬間のSF」でもなんでもないんじゃあ。ベスターだの、C・スミスだの、シュミッツだの、エリスンだのなんて、少なくとも「いまこの瞬間」でだけは無いと思うんだけど、どうか。「いまこの瞬間」っていうのなら、御三家の愚にもつかない上下巻が漫然と並んでいるリスト(*)の方がよっぽど九〇年代SF出版の惨状を的確に表していると思うんだけど。
ここにあるのは、「そうある」ではなく「そうあって欲しかった」SFの現状ですよ。なんせ2割が絶版/品切れなんだもん。

*:もちろん、そんなリストに価値があると思っているわけではない。ただ、『ニューロマンサー』を最近のSFと言われると違和感があるだけだ。「最近のSFガイド」ではなく、「オールタイムベストの常連を除いたSFガイド」としてなら、この大森リストは十分に機能していると思う。

あとは、細かい点で気になったこと。ラッカーの『ソフトウェア』など変な本が品切れと書いてあるのはなぜだろう?少なくとも目録から落ちたことは一度もないんだけど。早川の真の在庫情報に従うとこうなるのかな?
また、モダン・スペースオペラの欄で百歩譲って『ロケットガール』は許すにしても『スターシップ』(新潮文庫)はひどくない?これは、なんぼなんでも短編集の欄にいれるべきでは。
他にも、これよりはマシな本が幾らでもあるんじゃあってのはあるけど、それはキリが無いので置くとして、あと一つだけ。
なんで<タルカス伝>は1巻の『いまだ生まれぬものの伝説』じゃなくて『炎の海より生まれしもの』なわけ?明らかに2巻が1巻より優れている<黒き流れ>や<ワイルド・カード>はともかく、<タルカス伝>は別に1・2巻に大きな差はないと思うんだけど。他は一応、これは2巻だよと触れているのに<タルカス>はノーチェックなのも謎。どんな意味があるんだろう。
ひょっとして大森望って2巻フェチ?
#だったら、『ウェットウェア』や『スペースマン』、
#『青海豹の魔法の日曜日』にすべきだよな。


8月15日
『ホログラム街の女』読了。久しぶりに床に叩き付ける本を読んでしまった。
センスの無いガジェットの使い方とか、連作中編という志の低い構成とか、ベタ甘のストーリー展開とか気に入らない点は山のようにあるが、何より気持ち悪いのはいらんことをグジグジと悩み続ける主人公。ハードボイルドだなんて言い張るんなら、そんなつまんねえことで悩んでんじゃねえよ。
「私立探偵が主人公の1人称小説ならハードボイルド」って言うふぬけた認識は何とかした方が良いんじゃないのか?少なくとも、この主人公に憧れる奴はいないと思うぞ。主人公に憧れることもできないハードボイルドなんて存在価値はないって。B級OVAのノヴェライズだと思えば許さんでもないという程度の出来なので、ハードボイルドとさえ書いてなければこんなに腹が立つことも無かったろうに。こういう小説のときはちゃんと「SFハードボイルド風」と書いて下さい。 > ハヤカワ
とりあえず、こんな馬鹿しか出てこない上にふぬけた小説はとっととこの世から無くなってしまえ。

夕方高田馬場に行って見る。ユタが休みだったので、いないかな?と思ったけど、8時ごろルノアールにいったらコミケ帰りの方々と合流できた。

参加者は、えーと、誰だっけ?中には珍しい方もいました。
とりあえず何はさて置き記しておくべきは、前回の例会報告で添野知生さんの奥さんを古田尚子さんと勘違いしていたこと。訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます。 > 小浜さん
#しかし結局名前を忘れているあたりいいかげんである。
また、昨日の『この文庫が好き!』に関する疑問もいくつか解決したので、メモしておく。
「品切れ作品がおかしいのでは?」という点については、品切れチェックは編集側が文庫の営業に電話をかける形で行われたので本当にその段階で切れていたかどうかはわからない、とのこと。
また、「2割が絶版」というのは、編集側から「手に入らない本は15冊程度」と言われていたからだそうな。北村薫の選択の絶版1割と比べると多いな、と思っていたんだけど、最初から基準が違ったんですね。
で、「<タルカス>で1巻じゃなくて2巻なのはなぜ?」というのは単に、『いまだ生まれぬ…』よりも『炎の海…』の方が好きだからなんだそうで。なんだ、本当に2巻フェチなんだ。 < 違う
『存在の書』の評価が多少割れていたのはさもありなんという感じで面白かったかな。僕の評価は、「『星の書』の続編としては役者不足だけど、<黒き流れ>の最終巻としてはあんなもん」ってとこかな。



8月16日
朝目を覚ますと夕だった。てなわけでコミケへ行って見る計画はあえなく破綻。まあ、縁が無かったということだろう。

昨日、忘れてしまった添野夫人の名前について深上さんに教えていただく。深上さん、ありがとうございます。この情報はぜひ次の機会に生かしますので。 > って、いつだよ。

昨日の『ホログラム街の女』罵倒について、一夜おいて冷静になって見ると多少言い過ぎた気がしてきたのでやや方針転換。僕がこの作品が大嫌いであるという事実は動かないが、「商品宣伝にハードボイルドという言葉を使っているから」って理由はあんまりっすね。なんといっても、ハードボイルドなんてほとんど読んでないんだし。ある作品を勝手にジャンル分けして、そのジャンルの(しかも勝手に決めた)ルールに従わないからといって断罪するのは不当な評価と言われても仕方が無い。
僕がこの作品を評価しないのは、登場人物が悪役も含めて非常に頭が悪いことと、頻出する未来社会描写がチャチに見えて仕方が無いこと、主人公の悩みのせせこましさと世界設定や話のオチの飛躍の仕方とがバランスが取れていないように思われることであって、ハードボイルド云々とは関係が無いというように訂正しておきます。
#もちろん、これをハードボイルドとは思えないという点は
#変わってないけどそれは作品それ自体の責任ではないし。

で、K・W・ジーター『ダーク・シーカー』も読了。実に軽いスリラーで読んでる間のストレスはほとんど無かった。ディックの後継者だの狂気がどうこうというあたりにこだわると引っかかるかもしれないけど、普通の文庫NVだと思えば何も問題ないんじゃ。ただ、SF者の魂は「娯楽で時間をつぶしてしまった」と言ってはいるけど。
ネット上のレビューの大勢同様、「何もこれを青背で出さんでも」という気はするけど、その声に「この程度をSFと呼べないようじゃ、ジャンルが衰退しているといわれてもしょうがなかろう」という気も。

先日、『この文庫が好き!』の大森リストに文句を言った手前、自分で100冊選んでみようと思ったが5分で挫折。「現代のリストはここ10年で作るべきだろう」と思って検討してみたものの、この10年のSFを文庫で100冊も読んでないのだな(笑)。人に文句を言うのは自分の実力が付いてからにしようというお話しでした。
でも、ラファティは『九百人』よりも『どろぼう熊』の方が好きかな。 < まだ言うか。

現代SF百選は諦めたのでかわりに星雲賞の投票をする。
去年は特に短編が不作で選ぶのにちょっと苦労。面倒なので、ほとんどノミネート作品から選んでしまった。まあ、「死に票は死んでも避けろ」という加沢さん(4)の教えを守る意味でもこの方がいいか。
海外長編は悩む気合も無くイアン・マクドナルド『火星夜想曲』。60点代半ばでの消去法による争いって感じでやや情けないんだけど他に有力な候補が無い。ジャンルの制限さえなければ『リトル、ビッグ』がダントツのトップなんだけどね。
海外短編はアレン・スティール「キャプテン・フューチャーの死」。選んでみると平年程度か?大爆笑するほどぶっ飛んだ作品を読めなかったのが心残り。
国内長編は神林長平『ライトジーンの遺産』。この程度の作品が賞を取ったら権威も何も無いよな、って気もするんだけど去年読んだ国内SF(5作読んだかどうかなのである)でトップなのも紛れも無い事実。まあ、1票くらい、他のちゃんと読んでいる人の票で補正されるでしょうきっと。
国内短編は田中啓文「脳光速」。実は藤田雅矢「計算の季節」の方が好きなんだけど、僅差ならノミネート作品を選ぶのが筋かな、と。
メディアは映画・TVともほとんど見てなかったので棄権。
コミックは竹本泉『アップルパラダイス』。非ノミネート作品だけに問題になるほどの票が集まるかどうかは疑問だけど、僕の中でダントツにSFだった作品はこれなんでしょうがない。
アートはやはり鶴田謙二。当人が仕事をしたかどうかは疑問だけどいっぱい出ましたからねえ、過去の作品のまとめなおしが。
ノンフィクションは『塵も積もれば』。ノミネートされていればソジャーナの着陸システムという線もあったんだけど。
てなわけで投票作品は決定。何部門で一致できるかが楽しみだな。ちなみに、僕はオールタイムベスト投票で投票作品が上位入賞したことがないんだが。さて、どうなりますか。


8月17日
J・P・ホーガン『星を継ぐもの』を読了。大量の科学用語をぶち込んで、これでもか、これでもかと謎を引っ張り出す展開は実にサイエンスフィクションしていてよかった。とんでもない嘘も幾つかあるし、オチ(大きな方ね)も見えてしまっていたので傑作とまでは思わなかったけど、それなりに楽しめる一作。ちゃんと中学の頃に読んでいればはまったかも。惜しいことをしましたね。
大きな方のオチについては、さすがに文句の一つも言いたくなるけど、小さい方はそれなりに伏線も張ってあって好感が持てる。何よりポジティブなラストが微笑ましくていいね。「SFってどんなの?」と聞かれたときに差し出すには最高かもしれない。

ただ、物語前半でダンチェッカー教授が敵役として描かれていたのが個人的には気に入らないところ。この話だったら、みんなハントよりはダンチェッカーに感情移入するよね?


8月18日
急に池央耿強化週間に決定したのでゼラズニイの『魔性の子』を読了。時代物風の訳文と、好みの設定のおかげで出だしは楽しめたのだが、中盤以降はまったく駄目。展開が御都合主義にすぎるし、何より主人公に魅力を全く感じない。両親(実際には血のつながりが無いが親子ともそれを知らない)に愛されて育ち、生まれ故郷たる魔法の世界に運ばれた後も、天賦の才で努力もせずに強力な魔法を使いこなし、会う人毎に仲間を増やす主人公なんて、何の魅力があるものか。対する敵役は、身勝手に魔法の世界に連れてこられ、持ち前の才能で便利な機械を作れば、村人に石持て追われ、もっと便利なもので村人の目を覚まさせようとすれば、家を焼かれ両親を殺され自身の目まで潰されて、恋人はどこの馬の骨とも知らぬ男と共に現れて自分を非難し、唯一の頼みの科学の力も主人公には全く通用しないという、まさに悲劇の塊。
これで主人公の方に感情移入するやつなんざあ、むこうでジャイアンツでも応援してろって感じだ。

まあ、それ以前に戦闘に迫力が全く無いのが駄目なんだけど。出来の悪いRPGファンタジーなので、シナリオ作りの参考にはなるかも。


8月19日
昨日に続いて続編の『外道の市』読了。あいかわらず主人公には感情移入できないが、今回は敵が主人公以上の実力を持つ魔法使いなので、多少は緊迫感のある戦闘を楽しめた。
とはいうものの、しょせんは絵物語。絵に表せないイメージを喚起するファンタジーとしての力には欠けている。この程度なら、もっと志の低いリン・カーターの方が100倍面白い。


8月20日
ヴォネガット『ホーカス・ポーカス』読了。この作家の長編を読むのは3作目だが、どれを読んでも変わりはないな。
警句満載でアイロニカルな文章といい、短文を連ねる歯切れのいい文体といい、短章を連ねる構成といい、まさに好みにぴったりなのに、どうも好きになれないのは、あまりにペシミスティックなその思想か。
人類への絶望っていっても、彼の場合は深い愛に裏打ちされた絶望で、例えばビアスあたりの一面的な冷笑とは次元が違うものだけど、それでもここまで徹底されると、さすがにひいてしまう。
とりあえず、もう少しは読んでみるが。

山本正之MLの情報によると「燃えよ!ドラゴンズ98」が発売されるらしい。「燃えドラ」は山本正之の中でも好きな曲だし、応援歌の中でも最高の曲だと思っているので非常に嬉しいことではある。問題は、僕が優勝を争う当の相手の横浜ファンであるということだ。


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