ピシバニール病院側の言い分と
元・国際外科学会、世界会長のご指摘

病院側 控訴審 平成一三年五月一〇日

発熱の件について述べると、乙第2号証中の熱計表から明らかなように発熱は5月7日のピンバニール投与から1か月近くは38度台を上下する状態を繰り返し、6月4日に最後の貯留胸水800mlを抜去後は発熱も徐々に下降し最終的に落着くに至っている。

このことから判断しても38度を超える熱発はピンバニールによる胸膜癒着に対する効果的な薬効作用によるもので、癒着ができても後遺的にそれによる多少の炎症が暫くは残存し胸水の吸収熱と相まって微熱が残っているくらいのことは、数多くのピンバニール使用の経験例を待ち主治医として毎日亡淑子の状態を観察していた被控訴人医師においては十二分に分り切ったことで、それ以外に別個に感染症を疑うべき特段の徴候が無いにもかかわらず意見害の言う生化学検査や喀痰培養など全く不要にしてこれ亦過剰な話と言わねばならないのである。

元教授・元院長、各学会会長 私的鑑定意見書 2001年5月12日

(1)胸水液排出後、胸腔内に最初はシスプラチン20mlを注入、シスプラチンにより胸膜癒着が成功しないので、後ではピシバニールの注入が行われた。
速記録30〜42頁まで、これら抗癌剤使用について被告自身の考えを述べ、被告は肋膜癒着は成功したという考えである。
速記録123頁で原告代理人はピシバニール使用の後、発熱あり、「血液検査、尿検査などという検査は必要ないんですか」との質問に対し、被告は「必要ございません」と答えている。
U博士による私的意見書(以後、U意見書と記載)(5頁)によれば、「初期、胸水除去後にシスプラチンやピシバニールといった抗癌剤を使用した胸膜癒着法を実施した際には(発熱の長期継続がなければ)早々に転院指示をした可能性も考えられる。ところが予想外の発熱持続と杜撰管理と思われる対応から時期を逸した可能性が高いと考えられる」とした。
更に、U意見書7頁に「胸水除去を目的として胸腔内に注入する場合、血管内に投与するのと異なり、確かに副作用の発言は軽微であり『抗癌剤と強く意識しないで投与する』ことは癌臨床において通常理解しうる行為である。但し、これらの治療を行う前提として、被告藤村医師の検査不足、説明不足は否めない。即ち、シスプラチン及びピシバニールは両者とも厚生省に認可された抗悪性腫瘍剤に分類される医薬品であり、『抗癌剤でない』とする使用理由は全く妥当性を欠く判断である。
本人拒否のもと、これらを使用したことについては、本人に告知しない方針であったこともあり、家族などが少しでも良い改善を願い、担当医と相談の後に本人に偽り使用することは一般にありうる。
しかし本件では家族との具体的相談・説明はなく、同様カルテ記録にも残されておらず、この場合には該当しないと考える」としている。筆者も同感である。
(2)速記録122〜123頁にわたり、被告藤村が原告代理人に話した記載を見れば、胸水除去後、シスプラチンやピシバニール注入に対しては、極めて簡単に考えていることが明瞭である。
これに対しU意見書9頁にU氏は「ピシバニールによる発熱を考慮しても、1週間以上継続する発熱は著しい体力消耗を生じる。発熱によって生じる不具合を早期に発見し補助治療を行うためにも、今までなされた検査の再検や精密検査の実施は必須である。
これらのための検査は一般的な血液・生化学検査や喀痰の細菌検査、尿検査、レントゲン検査などであり採血に際する痛み以外には特記ない簡便な検査である。本件において、1週間以上も発熱が継続しているにかかわらず、被告藤村医師がこれらの検査を殆ど実施していない(従って適切な対応が全く出来ていない)のは患者の生命を預かる医師として著しく怠慢かつ遺憾に感じる」と記載している。筆者も全く同感である。