平成12年(ネ)第3368号 損害賠償請求控訴事件
控訴人   海  野  祥  子
被控訴人  株 式 会 社 互 恵 会  
控訴人第2準備書面 平成13年5月18日

大阪高等裁判所第9民事部  御 中  

 

第1 被控訴人の平成13年5月10日付け準備書面について

裁判官は、前回の公判期日において、被控訴人に対し、控訴人の 提出した鑑定申出書添付の鑑定事項に対する医学的な反論、ないし、U医師による私的鑑定意見書(甲42)に対する医学的な反論を求められた。  

 しかしながら、被控訴人の上記準備書面のほとんどが、医療的知見と全く関係のない、控訴人、控訴人代理人、さらにはU医師に対する個人攻撃である。

 一般人たる控訴人が、肉親を理不尽と感じる医療により失った ショックから、インターネット上のホームページ上にやや辛辣な表現を用いてしまったことにはまだ一定限度での理解も得られるであろうが (もっとも、当初はともかく、控訴人代理人は、訴訟が進行した段階で は、控訴人に表現を控えるように言っているし、現に控訴人はそうしている。)、上記準備書面 を、法律専門家であり、尊敬されるべき先輩弁護士が記されているということについては、情けない思いを禁じ得ない。

 控訴人としては、かかる医療知見とは全く関係のない個人攻撃に 対する部分については、再反論を行うことなく、上記準備書面中の一部 の医療的な反論と思われる部分についてのみ必要な限りで反論を試みたい。  

1 上記準備書面は、控訴人に対する個人的攻撃に続き、「基本的に 発想を異にするU医師が癌の終末医療の特殊性やそのあり方について 発言する資格も能力もないことは、原判決も指摘する甲第23、24号 証のI意見書の場合と同然である。」と意味不明な論理を展開した後、ようやくその6頁で、ようやく甲42号証の意見書について意見を 述べ始められている(もっとも、実際の反論は、さらにその7頁の最終 2行目からであり、実質的には8頁に入ってからである)。  

そこでは、(2)検査について、として、要するに、乳癌は消化器系の癌疾患と異なり、検査は、控訴人ないし控訴人提出の医師による私的鑑定意見書に主張するほどには必要ない、とする。    

しかしながら、本件における被告藤村による検査の不備は、乳癌 が消化器系の癌疾患ではないから、ということでとうてい説明できる程度のものでないことは、今回の甲42号証のみならず、医療の原則から いっても明らかであることはすでに甲23・24号証(この意見書は、 I医師の1人の顕名であるが、複数の医師に十分相談されてのことである)でも指摘されていることである(さらに、甲43号証でも指摘されている)。

さらに、被控訴人は、本件における治療を、「緩和医療」と決めつけているが、縷々指摘してきたように、控訴人らは、被告病院(履行補助者ないし直接行為者は被告藤村)との間で、故淑子に対する「ター ミナルの緩和医療」を求めたのではないのであって(一時的に痛みを 取って、転院させることを希望していたのである。)、これを前提に検 査・治療義務を論ずることは全くの間違いである。    

ここにいたっては、控訴人側、被控訴人側の医師でなく、公平な 第三者たる医師の判断を仰ぎたい(それにより、いずれの医師の主張が 正当かは直ちに明らかになるであろう)。

なお、揚げ足取りは本意でないが、被控訴人代理人が、まさに代理人として、その書面 の内容を十分理解・咀嚼して主張されているかに かかわるので指摘させていただくと、被控訴人代理人は、本件提起後、 数年を経過した現時点においても、なお、ピシバニール(Picibanil) を、「ピンバニール」と表記されている(上記準備書面 9頁等に再々) が、この薬剤名の英文綴りからこうは発音されえないのであって、被控 訴人代理人は、本件におけるかかる重要な薬剤につき、その説明書等も 実際にみることなく、数少ない医療的な反論部分についても医師が書い た下書きを、咀嚼・検討されることなく丸写しされているのではない か、とも疑われる。  

2 上記準備書面10頁の(10)補液問題や、11頁の(11)ナトリウム 値の補正および検査について、主張をされている。

しかしながら、いわばそれぞれの措置のなされた時点では、甲4 2号証の私的鑑定意見書も指摘するように、控訴人らの意思に反し、被告藤村の手によって、故淑子は、控訴人らの望まない「終末医療・ター ミナル」に陥れられていたのであるから、上記の措置がその時点におい てかろうじて問題ないとされても意味はないのである。

甲42号証の私的鑑定意見書も明確に述べられているように、被告藤村の行為は、個々の場面 を取り上げれば問題を指摘しえない行為も含むが(もちろん、個々の行為の問題点も多数指摘されている)、すべ ての行為が、被控訴人らの望まないターミナルへと導かれている点にお いて、「非積極的な安楽死誘導行為」と評価されるべきものである。  

被控訴人(代理人)は、その、もっとも重要な点について、なんら有効な主張をされず、個別 的に見て、問題とされない可能性のある被告藤村の行為を近視眼的に述べているに過ぎない。

第2 今後の進行についての控訴人の意見

今回、被控訴人から、裁判所の求められる、有効な医療的な知見に基づく反論はほとんどなされなかったと言わざるを得ない。    

他方、当方からは、甲42号証に加え、さらに甲43号証の医学的な知見に基づく私的鑑定意見書を提出している。    

被控訴人はこれらに対しても、今後有効に反論されるとは思えない(本来なら、被控訴人からも、甲42号証に準じるレベルの意見書が 提出され、いずれが妥当であるかの鑑定をされるのが訴訟経済にも合致 するところであった)。    

そこで、控訴人としては、裁判所におかれましては、少なくとも、(一からの鑑定でなくとも)控訴人の提出している、甲42、甲4 3の医学的な私的鑑定意見書の内容の当否を、第三者的な立場から判断 する鑑定人の鑑定が実施されるべきである、と考える(または、少なく とも、両私的鑑定意見書の作成医師の尋問をなされるべきである)。  

                               以 上